mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆創作SS

 

私には5つ上の兄がいる。

 

母の再婚相手が連れて来た一人息子で、私たちに血の繋がりはない。

まだ私が4つだった頃に両親たちが再婚して引き合わされた私と兄は、私が物心付いてない事もありただ遊んでくれるお兄ちゃんが出来た事に喜んだ。

 

今なら複雑な事情だと分かるが既に何十年も共に暮らして来た兄は私にとってただの兄だった。血の繋がりはないけど義父も本当の娘みたいに可愛がってくれるしお母さんも兄を息子みたいに接してて幸せそうに笑っている。

兄も私をとても大切にしてくれるし、家族に不満なんて何一つなかった。

 

「海琴」

 

放課後、下校時間で帰ろうとした所で門の前に立つ兄が私の名を呼んだ。

それまでスマホツイッターをスクロールして見てた私は兄の声で顔を上げるとスマホを早々にスクールバッグに仕舞った。

 

「遙兄、また迎えに来たの?」

 

小走りで兄の所に向かえば片手を差し出されて迷うことなく掴めば優しい笑みを浮かべた兄はそのまま握って歩き出した。

 

「最近、暗くなるの早いから心配なんだよ」

「ふーん…明るくても迎えに来るくせに」

「駄目だったのか?」

 

窺うように聞いてくる兄に私は少しだけ呆れた。

ここで駄目だって言ってもどうせ兄は迎えに来てくれるのだから拒否するだけ無駄だと私は経験から知っている。

別にもう子供じゃないし、心配してくれるのは嬉しいけど兄はどこか行き過ぎているきらいがある。

 

「駄目じゃない。けど遙兄も友達とかいっぱい居るじゃん。そっちに行かなくて良いの?毎日私の迎えに来なくても寄り道せずちゃんと真っ直ぐ帰るよ」

 

大切にしてくれるのは嬉しいけど、私が理由で周りから付き合いが悪いとか関係がこじれたり悪化するのだけは勘弁して欲しい。別に我儘で迎えに来て欲しいって言った訳じゃないんだから。

 

「あぁ、それなら大丈夫だろ。海琴が一番の最優先だってアイツらには言ってあるから何も言わないよ、だから俺の事は気にするな。好きで迎えに来てるから」

 

一番の最優先。当たり前のように口にする兄に私は思わず兄の顔を見上げるけど兄は真っ直ぐに前を向いていた。

 

「…そっか。ならもう良いよ、ありがとう遙兄。大好き」

 

無理してる訳じゃないなら文句を言うつもりはない。好きでやっているのなら好きにさせる。だって兄が迎えに来てくれるのは嫌いじゃないし、とりとめのない会話をしながら帰る道すがらは凄く安心する。

 

繋いだ手はそのままに兄の肩に頭を凭れさせて大好きと伝えると兄は繋いだ手を一層強く握り返してきて嬉しそうに甘ったるい声で俺も愛してるよ、と返してくれた。…そこまで言ってないけど。

 

 

 

**

 

「海琴~!見たぞ昨日!男の人と手を繋いで帰ってたんだって?この、この~!隅に置けないな~!!」

 

翌日、教室に入るといつも気に掛けてくれる友達が入るなり絡んできた。

 

悪い子ではないけど、空気読めないし噂好きのミーハーな子だ。多分、男っていうと兄の事だろうけど。私がこれまで手を繋いだことがある異性なんて義父か兄しかいなから疑いようもない。

周りの女子も既に知っているのか、やたらとこっちを気にしているのが分かった。

 

「私のお兄ちゃんだよ、迎えに来てくれたの」

「お兄ちゃん?!あんなカッコイイ人が!?羨ましい~!手を繋いでたから恋人かと思っちゃった!そっか、お兄ちゃんか~」

 

勘違いだって分かってくれたなら良いけど、声大きいの何とかならないかな…。

まるで周りに言い聞かせてるみたいに言うから居心地悪く感じる。確かに兄は傍から見たら格好いいだろうけど、同級生に言い寄られる姿は見たくないし気持ち悪い。

 

「兄は私の事大好きだから、心配で仕方ないんだって」

 

まるで牽制するように、兄は私以外眼中にないと言外に言い含ませる。

すると目の前の友達はキョトンとした顔をするとお兄ちゃんシスコンかよ!と大声で笑い始めたのだ。ちょっとうるさくて私は早々に自分の机に向かった。

 

「…はぁ、朝から疲れた…」

 

ノートを机の下に入れてると視線を感じて視線の先を辿ればクラスの男子がこっちを見ていた。

 

「…なに?」

「お前、兄貴と一緒に風呂入ってるクチ?」

 

いきなり下世話な話に私は思いきり顔を顰めた。

何で男子って一言目に二言目に下世話な話ばかりするんだろう。本当に同い年なのか疑ってしまう程に頭が悪い。

 

「それ、アンタに関係ある?」

「お前兄貴と手を繋いでんだろ?なら風呂も一緒ってことじゃねーか!」

 

ニヤニヤしながら馬鹿にしたように言うけど、兄と仲が良くて恥ずかしい事なんて一つもない。家族なんだから当たり前の事だ。逆に私は軽蔑の眼差しでその男子を見る。

 

「変態。私のお風呂を想像してたの?ホント気持ち悪い…近寄らないで」

「なっ?!ち、違ぇし!!誰が想像するか、お前なんか!!バカかよ!」

 

女子はこういう性的な問題に団結力が高い。ここでこの男子が“変態”というレッテルが貼られた暁には学校生活をドブに捨てたようなもの。男子に馬鹿にされ、女子には軽蔑の眼差しで見下される。

 

私との会話が聞こえてた女子たちがひそひそしてるのを見るや否や男子は慌てて悪態をつきながら離れていく。

度胸もないくせに、からかおうとするからだ、どっちが馬鹿なんだか。

 

まぁ、遙兄と一緒にお風呂に入っているのは事実だけど。

 

 

◆真仁♀(モブばっかり喋ります)

SS

 

「くそっ…真田の奴に漫画取られちまった…!」

「あっははは!お前馬っ鹿じゃねーの!!何で学校に持って来たんだよ!そら没収されるわw」

「真田だもんな、漫画を見せたお前が悪い」

「何だよお前ら他人事みたいな顔しやがって」

「他人事だよ」

「他人事だし?」

「うわぁ~っムカつく!!楽しみにしていた新刊なんだぞ⁈そら気になって読みたくなるだろ!」

「まぁ気持ちは分かるがな、俺らに言っても真田は漫画を返してくれないぞ」

「放課後に反省文書いて返してくれるんだろ?じゃあ良いじゃんか」

「そうだけど!あ~もうっあんな固い奴、絶対彼女が出来ないね!モテないわ絶対!」

「いや、アイツ彼女通り越して嫁居るじゃん」

「いるな、しかもあの仁王」

「仁王おっかないけど美人で綺麗だよなぁ、良いな真田のやつ可愛い嫁がいて」

「え?あれってただの噂だろ?仁王が真田と付き合うとか全然意味わかんないんだけど」

「いんや、それ本当の話」

「はぁーっ?!マジで!?え、何でそう言い切れるんだよ?!」

「そうそう。だって俺この間の日曜日にデートしてる真田と仁王見掛けたしアレみて本当に付き合ってるんだなって確信したわ」

「あー俺も見掛けたわ。家族と水族館行った時にペンギンの所で二人を見たな」

「は…マジで?部活の奴らと一緒に行ったんじゃねーのか?仲良いじゃん、あそこ」

「部活の奴らを置いて手を繋ぐか?」

「しかも恋人繋ぎでな」

「あ、恋人繋ぎだった?俺が見た時は普通に握ってただけだけどめちゃくちゃ距離近かったな」

「あの真田がデートでしかも恋人繋ぎとか目を疑ったが普通にお似合いだったぞ。真田老けてるけど仁王が既に大人の美人顔負けだからな、余裕だったわ」

「分かるわ~。下手したら援交だ、って間違われるしマジで同い年かよって言いたいww」

「……」

「ん?どうした、黙って」

「お腹痛いのか?真田怒ると怖いもんな、親くらい怖いし」

「ちっがうわー!!何で真田には可愛い彼女がいて俺は女子に見向きもされねーの?!俺だってバスケ部だし?!優勝だってしたのに何でこの学校はテニス部が一番モテるんだよぉ~!」

「俺も野球部だし優勝経験ある」

「陸上部で同じく優勝経験あるわ」

「うわこの学校強者揃いかよ…急に冷めたわ」

「本当だ、俺たち優勝経験者ばっかだな」

「ならもうあれだ、見た目とかじゃねーの?」

「あ?喧嘩なら買うぞ?お?」

「何でだよwほら、女子って大人に憧れる年頃だしダンディーな真田が良かったんだろ」

「あー…なら納得したわ。許さんけど」

「誰もお前の許しは求めてないからな」

「モテない男の僻みって奴だな」

「うるせーわ!俺だって真田より可愛い彼女を作ってやる!!」

 

「あ」

「あーぁ…」

「あ?」

 

「プリッ」

「に…仁王?!」

「俺は何も言ってない」

「そいつが騒いでただけだ仁王、見逃してくれ」

「いつからそこに…⁉というかお前ら俺を見捨てんなや!!」

「悪いな、自分の身が一番可愛いんだ」

「卒業まで安心して過ごしたいんだ俺は」

「良いじゃろ、正直者には恩赦を与えんとのぅ」

「ハッ、ありがたき幸せ」

「恩赦に感謝を!!」

「うむ、くるしゅうないぞ」

「え?何、打ち合わせでもしたのか…?俺だけ除け者にされてる…?」

「ほんで?何の話だったんじゃ?」

「えっ⁈それ聞いちゃうのか?!」

「なんやったっけ、真田に漫画没収された腹いせに俺以上の彼女を作ってやる…じゃったかのぅ?」

「最初から聞いてんじゃねーか!!鬼!悪魔!」

「人が悪いな仁王~」

「人聞き悪いぜよ。大声で話しとるから聞こえたんじゃよ、自業自得じゃ」

「マジか。それはごめん、素直に謝るわ」

「最初から聞いてたならもう聞くわ、真田って彼氏としてどうよ?」

「お前…勇者だな、尊敬しないけど」

「勇敢だけど愚かだよな」

「気になるんだからしょうがねーだろ!もしかしたらモテるヒントがあるかもだし!!どうなんだよ、仁王!!」

「真田に聞けば良いじゃろ」

「聞けないからお前に聞いてんじゃん」

「それじゃな」

「分かったわ、お前がモテない理由」

「ないわー」

「はーッッ?!何だよ?!!!!」

 

終わり?

◆真仁♀(庭球)

まず初めに、今年初の投稿です。

久しぶり過ぎてホントごめんなさい🙏(_ _;)

呪術やら復活やら庭球などにツイステ…色々とハマってあっちこっち行ってますけど呪術は余りにも大手ジャンルになったので落ち着いた頃にまた描き始めたいと思っております。

(人が多いと逆に冷めるタイプなので…💦)

 

最近まではツイステでイベント参加してましたがイベント出てちょっと満足したので復活の初ムクと庭球の真仁を中心に日々悶えてます。

そんなこんなですが、これからも良かったらお付き合い頂けると嬉しいです。

2022.05.16

 

それでは、以下↓本文です。

 

オメガバース。設定とプロット。

真田弦一郎(α)×仁王雅治♀(Ω)

※⚠男女なのに部活分かれてないの?とか色々ツッコミどころあるでしょうけど無視して読んで頂けたら嬉しいです。

なんせご都合主義の妄想ですから…!!!

 

第2の性が判別して、立海中に上がって直ぐに運命の番が真田である事に気付く仁王。

でも真田は優れたαのくせに、とことん鈍感だった。

厳しく固い真田と違って仁王は猫のようにあちこちふらりと気ままな性格もあり、運命の番であろうと性格から気が合わないと何も言わず、近付かずに黙っていた。

 

練習をサボったりする仁王を叱ったりする真田。

こいつはホントにいい加減な奴だな、と呆れる真田とこのおっさんホントうるさいのぅ、と萎える仁王。(この時はまだ若い見た目の真田)

 

こんなおっさんが本当に運命の番なんか?と仁王は運命は残酷じゃな、と嘆くが心とは反対に体は真田が近くにいるだけで安心してしまう。

 

そんな正反対な二人でなにかと衝突するが、部活のある日…仁王はこれからヒートが来る予感がした。

これはマズイ、と慌てて抑制剤を飲み幸村に早退する事を告げる。

真田と違って幸村は融通が利くから快く了承してくれて仁王は真田が委員会で遅れてる間に帰ろうと先を急ぐ。

 

着替え終わって部室を開けた途端、真田がいた。

驚く仁王、抑制剤を飲んでても抑えきれない熱で真田の匂いに気付かなかった。

真田は帰り支度している仁王を訝し気に具合悪いのか?と気遣う。

仁王は真田を前に今直ぐに抱きしめて欲しいとせがむ本能に怯える。

 

気分悪いから、今日は帰る…と顔を伏せて言えばだからあれほど体調管理には気を付けろと言っただろうが、と溜息を吐く真田に無性に泣きそうになる。

 

分かっちょる!と言い返して真田を押し退け部室を出るがふらついた仁王を支えると今まで感じた事なかった香しい香に目を見開く。

仁王は触れた事なかった真田の熱に熱が上がってしまって呼吸が荒くなる。

これ以上は無様な姿を見せたくないと真田の手を振り解き、逃げるように去るけど真田は直ぐに仁王を追い掛けた。

 

何で、追い掛けて来るんじゃっ!涙目になりながら仁王は真田を怒る。

部活中といえど、まだ学内には生徒が残っており真田と仁王の姿に注目を集めてしまっている。

舌打ちした真田は仁王の手を掴み引っ張って前を歩く。

な、なんじゃ…?と戸惑う仁王に真田は家まで送る。どこだ?と仁王に聞く。

仁王は一人で帰れると頭を振るが真田が睨むように聞けば小さく答えた。

 

真田は分かった、と言い仁王の手を引きながら学校を出る。俯いている仁王には見えなかったが真田は幸村と蓮二に仁王を送る事をメールして抑制剤を飲んだ。

この時点で真田は仁王がΩである事に気付き、そして運命の番である事にも気付く。

周りの視線から遮るように仁王の肩を抱いて歩くのも、本能的に大事な番を奪われないようにする為であったりする。

 

学校から30分移動した所で仁王の家に着けば早々に中に入らせる。

玄関に上がった瞬間、仁王は崩れ落ちてしまうが真田が直ぐに抱き留めると力の入らなくなった仁王は熱い、と零す。

 

強烈なΩのフェロモンに真田はグッと奥歯を嚙み締めないと仁王を襲ってしまいそうになる。

家族は、と聞けばぼんやりしてる仁王は間を置いてから親は共働きで姉はアルバイトに弟は塾…と返す。

一人にするつもりはなかった真田は取り敢えず部屋に行け、家族が戻るまで何かあった時に困るから俺は玄関で待たせてもらうぞ、と言えば仁王は動けん、部屋まで連れてって…と真田を蕩けた目で見上げた。

 

抑制剤を飲んでいてもこれか、と真田は視線だけで仁王を射抜かんとする。

分かってて言っているのか、と真田は唸る。そんな真田にさぁ…と首を傾げて惚ける仁王。動けないのは本当だった。

Ωの本能がこのαを手に入れろと強く囁いてくるのだ。

 

真田は仁王を抱き上げて部屋は、と聞いて運んで上げた。

部屋に入ると仁王の匂いが満ちてて頭を思い切り殴られるような衝撃が襲うが真田は耐える。

ベットに仁王を下ろし直ぐに部屋を出ようとするが真田を引き留めるように仁王が裾を掴む。

 

小さな抵抗なのに己の番だと分かっているからか真田は抗えない。

顔を逸らしたまま、何だと問えばここにいてくんしゃい、と望む。

 

真田はお前は俺の性別を分かって言っているのか、と苦渋の声で言えば仁王は頑なにこちらを見ない真田に焦がれて涙声でそんなん、初めて会った時から分かっとる…。おれの、を内心で呟きαじゃろ…ほんで俺はΩじゃき…と。

 

それを分かっていながらここに居ろと?お前は馬鹿か、襲われたいのか!もしここに居るのが俺じゃなかったら既に襲われいるぞ!と怒る真田に仁王は胸を締め付けられる。

普段であればこんな些細な言葉に傷付く事はないのに、ヒートで情緒が不安定になってる今は真田の言葉にツキンと胸が痛み、涙がポロっと零れ落ちた。

 

運命の番に否定されたような気持ちになってひくっ、と震えると仁王が言い返さない事に不審に思った真田が振り返るとボロボロと涙を流す仁王に飛び上がらんばかりに焦る。

 

まだ番ってはいないが二人の中では既に番になっているから真田は大切な番を悲しませた、泣かせた、という事にうろたえてしまい、苦しいのも忘れて膝を着くと仁王の涙をそっと拭う。

 

真田の手にすがりつくように仁王は零した。

おんしだから、いて欲しいって言ったのに…と。それを聞いて真田は思わずベッドに仁王を押し倒す。

ギラついた視線に食われそうと…と仁王は恍惚と表情を緩ませて首筋を露にして徐に真田に差し出す。

この時点で仁王に理性はほとんど残っていなかった。

 

真田が無意識に身を屈めて項を鼻を摺り寄せると自分だけに感じる甘い香りが鼻につく。

ベロり、と項を舐めた途端、仁王から甘い声が上がり理性を失うどころか我に返った真田は本能を抑え込んで仁王をきつく抱き締めて溜息を思い切り吐いた。

汗が額を滑り落ちて仁王の項に堕落ちる。

 

抱きしめられて苦しい程だったが仁王はそれが嬉しかった。ただそれ以降何もしない真田がじれったくて身動きしょうにも真田が許してくれない。

 

真田、噛まんの?と問えば真田は噛むぞ、だが今じゃない。と答えた。

それに仁王はショックを受けて何でじゃぁ…とぐすぐすと泣いてしまう。

真田は抱きしめた仁王の首筋に鼻を埋めて、無責任で嚙むつもりはない。親御さんの了承を得てから噛むぞ。と決定事項として言う。

今が良い、と泣く仁王に今はこれで我慢しろ、と項を何度も舐めてマーキングする真田。

 

それだけで仁王は幸福感に包まれる。泣き疲れた所為か、仁王がウトウトし始める。

寝てて良いぞ、と優しく言えば仁王は真田にいつ噛んでくれんの…?と聞く。

真田は親御さんに許可を貰ってお前のヒートが来たら直ぐにでも嚙む。と迷いなく答えた。

 

…ホンに噛んでくれんの?

噛む。

俺の事、嫌いじゃないんか…?

誰がそんなこと言った。嫌いじゃない。

ホンマに?

本当だ。

…俺の事、気付かんかったくせに…

む…。

真田の鈍感…

それは、済まん…。だが今はちゃんと分かっている。

…プリッ

お前は俺の運命の番だ、大事にする。

…おん…

おやすみ、仁王。

 

眠った仁王から離れて真田は布団を掛けてあげると未開封のスポーツドリンクを机の上に置いて部屋を出て下に降りた。

そのままカバンを持って玄関前で立つと仁王の家族の帰りを待つ。

 

暫く待って先に帰って来たのは母親だった。

玄関前にいる真田に驚くが立海の制服と真田がきちんとお辞儀をした事で怪しむ事なくどうしたのかしら?と真田に駆け寄った。

真田は雅治さんのテニス部の副部長である真田弦一郎です、と先ず名乗った。

 

あらぁ、ご丁寧にありがとう。雅治の母です、と母親が答えれば真田ははい、と頷き次いで仁王がヒートになる寸前だったから家まで送った事と一人だったから誰かが帰ってくるまでここで待たせて貰っていた事を詫びる。

仁王の母はヒートになった事に驚き、心配そうにするが真田が抑制剤を飲んで今は眠っている筈です。と落ち着かせると母親はホッと安堵する。

 

母親はそこで真田の性別を気にする。不躾な質問になるけど良いかしら…?と伺うような顔に真田は大丈夫です、ご心配なのは分かっておりますので。僕はαです。

 

αである事に驚く母親に真田は雅治さんには何もしてないので安心して下さい、僕の家系は少々特殊な修行でΩのフェロモンに対し耐性あるので。と答えれば母親は慌ててごめんなさいね、と謝る。

いえ。と首を振る真田、ただ後日雅治さんとの事で大事な話がありますのでお時間ある時に伺ってもいいですか?と真田が聞くと母親は女の勘というか母親の勘で察する。

分かったわ、雅治に私たちの空いてる時間を連絡しときます。と頷くと宜しくお願いしますと真田は頭を下げて帰っていった。

 

仁王の母親は暫く真田の背中を見送って呆然と立ち尽くすが直ぐに仁王の様子を見に家に上がる。

 

部屋に行くと仁王は丁度起きたのか起き上がって母に真田は…?と問い掛けた。

さっき帰って行ったわ、体調は大丈夫?薬は?と聞くと怠いしちょっと熱っぽいだけじゃ…と返す。

 

母親は仁王の傍に行きベッド横に座ると仁王を見つめながら、さっき真田くんがね…アンタとの事で大事な話があるから時間がある日を教えて欲しいって言われたけど…直ぐに返事をする?と訊ねた。

 

それを聞いて仁王はさっきのは嘘じゃないのだと布団に顔を埋めた。そうしないと嬉しくて涙が溢れてしまいそうだった。

反発しあってもどんなに性格が合わなそうでも仁王は真田の事が好きになっていた。

あそこまで厳格に自分の信念を曲げない男は周りにいない。

あの男なら、大事にしてくれるんだろうな、それが自分であれば良いのに。とずっと思っていた。

 

仁王は顔を伏せたまま、母さん…いつ空いてるか教えてくんしゃい…と告げた。

それだけで母親は仁王が真田の事を好意的に感じている事が分かった。真田くん、凄くいい子そうよね、お母さんは応援してるわよ。と仁王の頭を撫でて部屋を出た。

今は調子良いだろうがまだヒートになったばかりなのだ、数日は部屋から出られないだろう。

仁王の母親はお父さんになんて説明しましょうか、と微笑みながら台所に入っていった。

 

 

3日間休み、土日を挟んで5日間の自宅休養していた仁王は月曜日には登校出来た。

朝練に参加すると周りから心配してくれる声に応えて真田を探す。

 

かなり色んな顔を見せてしまって気まずさはあるが時間が経つと更に近付き難くなるのは予想出来る。

さっさと済ませて心の準備をしておきたかった。

 

コートの方に向かうと真田は幸村と柳の3人で練習メニューを組んでるようだった。

今言ったら絶対に幸村と柳に突っ込まれる…タイミング悪いぜよ、と仁王は諦める事にした。

 

踵を返すとブン太が見えたからそこに向かおうとした時、背後から真田の声に呼び止められる。

振り返ると幸村たちから離れてこっちに歩いてくる真田に仁王は胸がドキドキした。

 

話を中断してまでわざわざこっちに向かって来てくれるのにキュンと胸が締め付けられた。

変な顔していないか、気にしながらも仁王は立ち止まったまま真田を待った。

 

もう大丈夫なのか?と聞いてくる真田に仁王は頷いて大丈夫だと告げた。

それは良かった、と真田が安堵するから仁王はもうどう反応すれば良いか訳分からなくなる。

 

この間まではいい加減な態度に怒られてたりしたしそんな真田を他の部員になりすまし、からかって欺いてたりしてたのに今ではどうだ、真田の言動や行動に一喜一憂している。

 

何も言わないまま真田を見上げていると何だ?と眉間に皺を寄せる顔に仁王は気を取り直した。

やっぱこの男、ちょっと老けとるのぅ…と失礼な事を思っていた。

 

両親の空いてる日を教えると真田は分かった、俺の両親には既に話してあるからこの日の近い内に伺うとしょう、と仁王が手に持ってたメモ用紙を貰ってポケットにしまった。

 

え、もう話したんか…?と驚く仁王に真田は当たり前だろう。と答える。

なんて言ったんじゃ…?と恐る恐る聞くとそれは言わないと駄目なのか?と顔を顰めてしまった。

仁王が大事なことナリ、と強く言うと何てことなく真田は番にしたい人がいるから挨拶したい、そして直ぐに番になりたいと言ったが。と答えた。

 

飾りけない言葉に思わず仁王は両手で顔を隠した。

おい?と真田の声が聞こえるけど仁王は返事する力がない。

あぁ、ほんにこの男は…っ!!と心臓が激しく騒いでいる。

仁王は顔を隠したまま親御さんはなんて…?と続きを促がせば両親は快く了承したぞ。まぁ俺の家系は一度決めたならば最後まで貫き通すのが家訓の一つだからな、反対はしない。

早く挨拶したいと母がソワソワしてるくらいだ。と笑った。

 

それを聞いて仁王は知らずの内に緊張していたのかホッとした。

ウチの母さんが、おまんのこと気に入っとるぜよ。と返すと真田は目を丸くしてそれは有り難いなと頷いた。

詳しい事はまた連絡する、そう真田が締めくくったので真田はまた幸村達の所に戻り、仁王は今度こそブン太の所へ向かった。

 

テニスに集中してその日の朝練は何事もなく終えた。

 

 

 

後日、書き足されます。

更新

2022.5.17

◆初ムク

 

ランボの誤発弾で過去に飛ばされる骸。その時代に骸はいない筈だったが魂の形が似ていた散る間際の蓮の花と入れ替わった。

 

骸が飛ばされたのは7~8世紀時代の辺りだった。

 

ボヴィーノファミリーが開発したあのバズーカは5分の間だけ入れ替わるというモノだったけど5分経っても骸は現代には戻れずに居た。

 

失敗作だったか、と骸は取り敢えず移動して落ち着きたいと辺りを散策するが、昔の時代だから治安が悪い。

貴族程でなはいにしろ、身なりの良い骸は視線を集めてしまう。

幻覚で周りの目を誤魔化せば良かった、と思うも時すでに遅し。

骸はごろつきに囲まれる。

 

目立つつもりはない骸は大人しく着いて行き、身包み全て寄越せ!と襲われるも難なく避けて逆に身包み剝いで返り討ちにした。

 

そこを哀れに思った街の住人が助けを呼んでくれたのか人が駆けつけて来た。

 

その姿が見て顔に出さないものの、骸は驚く。駆けつけて来た男は初代ボンゴレだったからだ。

どうやら骸はかなりの過去に飛ばされた模様だ。

 

骸は関わるべきではない、と判断してさっさとずらかろうとするも不審に思ったGに呼び留められる。

 

拒否する骸に益々怪しいと捕えられそうになる。

骸は力を駆使して相手すると幻術士が格闘をするなんて聞いた事がない、と驚かれる。

 

これも過去への干渉に入るんですかね?と骸は未来を変えない為にも早々に消えた方が良さそうだ、と姿を霧で隠そうとした瞬間にⅠ世に背後を取られた。

 

不覚…!と表情を歪ませた骸にⅠ世は手荒にするつもりはないから武器を下してくれ、と頼む。

先に攻撃を仕掛けてきたのはそちらでしょう、と睨めばⅠ世はG達に武器を下ろすように言う。

 

渋々武器を下せばⅠ世に促されて骸も武器を下した。背後は取られたが武器がなくても幻術を使えばこの場を切り抜ける事は可能だったから。

 

Ⅰ世は超直感で骸がどこか空気が違う事に気付いてこの時代の人間ではないだろう、問い掛けた。

骸は隠すだけ無駄だろうと、えぇ、そうですよ。と認めた。

 

ざわめく周りだがどこかの組織がそんなものを作ろうとしている噂を聞いたからか直ぐに収まった。

Ⅰ世は何故ここに?と問うと骸は誤った発弾に巻き込まれたんです、本来なら5分で戻る筈が、失敗作だったのか戻れない、と話すとⅠ世はじゃあ戻るその間は俺の所に来ると良い、と迎え入れると手を伸ばした。

 

勿論Gたちは得体の知れない者を招き入れるな!と首を振って拒否するがⅠ世は頑なだった。

路頭に迷うよりは有難く利用するのが良いだろう、と骸は僕はこの時代の事を知る気もありませんし未来を変える気もないので何も話せませんよ、それでも?とⅠ世を見つめるとⅠ世は分かっている、ただ困っている人がいたら助けるのが当然のことだろう?と答えた。

 

別に困ってませんけど。と骸は言うがⅠ世は行こう、と骸の手を掴んだ。

こうして骸は現代に戻るまでⅠ世の元に暮らす事となった。

 

 

この時代に来て骸は既に1ヶ月が経過していた。

そろそろ本格的にこれは可笑しい、と骸も思うが出来る事は何もないのでただⅠ世の元でのんびりしてるだけだ。

 

Ⅰ世は忙しい身でありながらも毎日骸の元まで足を運んだ。

僕の事は気にしなくて良い、と言ってもⅠ世は聞く耳持たず骸を構うのだ。

だからⅠ世にだけ骸が警戒を解くのも難しくなかった。

それというのもやはりあの沢田綱吉の祖先、人の懐にするりと何の警戒もなく入って来るのだ。

調子が狂うが沢田綱吉と違ってⅠ世は甘い面だけじゃなく厳しい面もあったのが骸は好感が持てた。

 

ただの客人に随分なもてなし様に骸は疑問に首を傾げるがこれといって問題はないから好きにさせている。

だから骸は陰でⅠ世の愛人、と言われていた。

 

しかしいつまで経っても戻る様子がないので骸は何もせず過ごしているのが苦痛になってきた。

 

この時代は何かと不便で現代より科学技術がまだ劣っている。ゲームや携帯、そういうモノがまだ未発達なので平たく言えば暇なのだ。

いい加減何かしたい、とⅠ世の仕事を手伝うようになり、前線にも出たいと直談判した。

却下された。

 

しかし身体が訛ると訴えればⅠ世が共に行くならと、許可は出た。

本当は許可なんかどうでもいいが一応面倒見てくれる訳なので伺う骸。

 

前線で大活躍する骸。

なんせ遠距離攻撃も接近戦も得意なので。

適度に満足したら骸は当てられた部屋でくつろいでどこに居ても自由気ままにしていた。

 

Ⅰ世はそんな骸から目が離せないようで時間がある時は部屋に訪れては話をしたりトランプで遊んだり外に連れ出しては色んな所に一緒に出掛けた。

 

それはまるで恋をしてるようだとGは言った。GはⅠ世に骸は違う時代の人間だ、距離は置いた方が良いと忠告する。

いつか消える女を追い掛けるな、と釘を刺せばⅠ世は悲しそうな顔を見せた。

 

Ⅰ世は骸の部屋に来た。

そんなⅠ世に骸は何かあったのだと察する。

Ⅰ世はまだ若いから聡い骸は人の感情を敏感に感じ取れる。人を欺く為にも必要な手腕だから。

 

どうしたんですか?と骸が訊ねればⅠ世はお前が戻る前に本当の名を聞きたい、と骸に願った。

骸は驚いた。Ⅰ世も感じていたのだ、骸がそろそろ元の時代に帰るのを。

 

骸もここ最近、胸の辺りがざわざわしていた。術士の直感でこれは現代に戻る予感なのだと、分かった。

そう知った時、骸はやっと戻れる安堵と、寂しさを感じた。

 

骸もⅠ世に惹かれてしまったのだ。

生きる時が余りにも遠くて違うって分かってても次第に惹かれてしまっていた。

だから帰ったらもう二度と逢えないのだと、悲しかった。

 

骸は首を振った。

何が起こるか、分かりませんから僕の名前は知らなくて良い、と告げる。

骸はタイムパラドックスを避ける為にⅠ世達に”クロウ”と名乗っていたのだ。

 

どうしても駄目か、と再度問われ骸は困ったように笑ってⅠ世に口付けた。

僕の名前は覚えなくて良い、ですが僕の温もりは覚えていて良いですよ…と身体を開く。

Ⅰ世は骸を強く抱いた、ここに引き留めるかのように。

激しく交わりながら骸はⅠ世に全部中に出すように求めた、骸もⅠ世を忘れたくなかったから。

Ⅰ世は骸が望むまま全部骸の中に注ぎ込んだ。

 

愛し合いながら骸はⅠ世に囁く。

僕は過去に生きた記憶を持っています、輪廻を幾度も渡っているんです…ですからもし貴方が輪廻を巡り僕の時代に貴方の魂が在るのなら…僕を強く求めるのなら…探して。

そしたら僕の本当の名を教えます、とⅠ世にキスした。

 

Ⅰ世はその話を聞いて、ならお前と巡り逢う為に俺はお前の事を強く求めるよ、お前の時代に居る俺が思い出して見つけ出せるように、と決意を強くした。

 

現代にあるⅠ世の魂は曾孫である綱吉がもつボンゴレ指輪に在った。

他の守護者たちの魂も指輪にあるがシモンファミリーとの事件が遭った時に壊され、新しく生まれ変わったボンゴレギアでⅠ世達の魂は薄れていた。

既に10代目と守護者たちの意思によって力となっていたからだ。

 

だから骸はⅠ世の魂がボンゴレ指輪から解放された時に輪廻転生し、生まれ代わると思った。

そしたら再び出会えると希望を持って帰るのだ。

 

骸はⅠ世の気持ちを信じてみる。

僕は僕がいる時代に戻っても貴方を忘れる事なんて出来ません、だから僕が誰かに攫われる前に見付けて下さいね?と骸は微笑む。

口ではそう言ったが骸はⅠ世以外、誰とも結ばれる気もないし例えⅠ世が元の時代で現れなかったとしても

また輪廻を廻ってⅠ世を待つつもりだ。

待つのは飽きるだろうから自分から探しに行くのも手だった。

 

Ⅰ世は頷いて必ず見つけ出して迎えに行く。と応えた。

素性も得体も知れない女を求めるなんて…貴方も物好きな人ですねぇ。と骸は表情を綻ばせた。

 

名前も素性も知らなくてもお前という人間は知ったつもりだよ。

だから惚れるには何も問題なかったさ。俺の直感がお前なんだと言ってる。とⅠ世は優しい表情で骸の髪を撫でた。

 

間もなく時間だ、と骸がⅠ世を見つめて待っていますよ。と口にした瞬間に骸はボフンっと煙に包まれて消えた。

 

僅かに目を見開いたⅠ世はしかし直ぐに戻ったのだと感じて愛した女がもう居ないのだと、顔を伏せた。

 

 

 

現代に戻った骸。

煙の向こうから綱吉の安堵した声が聞こえた。半年振りに聞く声にほんの少し感傷深くなる。

 

煙が消えれば視界が晴れて綱吉とその肩に乗るリボーンを目に映す。

二人は骸の服がドレスに変わっているのに気付いてどうしたのだと問う。

骸がひらりと舞う服を纏うのを初めて見たし服が異なっていたから過去で何があったのか、首を傾げる。

 

骸は二人が聞きたいことを聞き流して僕が入れ替わった時間は?何と入れ替わりました?と問い返す。

綱吉はえ?入れ替わった時間は5分だったけど、本来なら未来の骸と入れ替わる筈なのに誰も居なかったから心配したんだよ!何もなくて良かったよ、と綱吉は苦笑いしたが骸は成程、ここでは5分しか経ってないけれど過去だと時間がかなり進んでいたらしい…5分で半年も経過するとは、なかなかの技術だが効果を知らなかった辺りはまぐれで出来たのだろう。

 

下手したら戻れなかったかもしれない事を考えると危険な橋を渡らせられたものだ。

 

骸は踵を返して疲れたので帰ります。

今回の事はそちらの落ち度なので僕が貴方方に報告する義務はありません、詮索はしないで下さい、と骸はそのまま黒曜ランドへと帰った。

 

それから2年が経った。

骸はボンゴレ霧の守護者として仕事をこなし、マフィアになりたくないと愚図る綱吉をリボーンが背中を蹴飛ばしていくのを遠くで眺めながら日常生活を送っていた。

 

そんなある日、黒曜ランドで広間として使ってる部屋に皆でくつろいでいると骸は突然吐き気に襲われてのどをこみ上げてくるのに口を覆った。

 

急変した骸に賑やかだった広間に緊張感が走り皆が骸に駆け寄って心配した。

骸は身体に違和感を覚えるが取り敢えず不安そうにする部下たちを安心させる為にいつものように微笑んだ。

 

骸は時折吐気に顔色を悪くさせながら黒曜ランドを出た。

皆は買い出しに出かけているから誰も居らず静かだった。

急変した身体に骸はある事に思い至り確認する為に都内にある高級ホテルまで訪れたのだ。

 

ロビーに入るとそこには前以って連絡した相手、スクアーロが待っていた。

近付くとスクアーロは僅かに顔色が優れない骸に気付き大丈夫かぁ?と骸をエスコートした。

骸はバレる程顔色が良くないのか、と改めて思いながら大丈夫です、と頷いた。

 

スクアーロに着いて行きながら最上階まで行けばヴァリアーが泊まる部屋まで案内されて中に通された。

XANXUSがいる部屋に入るとザンザスは骸の身体の異変に気付き鋭い目付きでその腹はどこのドカスの仕業だ、と凄んだ。

 

骸はザンザスの言葉にやっぱり、と笑った。

僕は妊娠しているのですね、と自覚した途端重く感じるようになった薄い腹を撫でて骸は呟いた。

骸の言葉に驚くスクアーロ達。骸は確信がもてるまでボンゴレに情報を流出させたくなかったから医師の腕をもつルッスーリアに診てもらう為にザンザスの元に来たのだ。

 

ルッスーリアに診てもらう間もなくザンザスには分かってしまったようだが。

取り敢えず念の為と骸はルッスーリアに診てもらった。結果は妊娠4週間だった。

 

あれから2年は経っているのに今更何故?と骸は疑問を浮かべる。

しかし不思議に思うもののⅠ世との子供がこの中に存在している、愛し合ったという証がここに。と骸は嬉しくて優しい笑みを浮かべていた。

それを見てルッスーリアは少なくとも骸は子供を受け入れている事が分かった。

 

検査を終えて骸とルッスーリアはザンザスたちが待つ部屋に戻る。

待っていたスクアーロ達に妊娠4週間目よ、報告すれば骸の腕を掴み座ってろ身体を冷やすな、今温かいレモンティー淹れてやる、俺は毛布持ってくる!と甲斐甲斐しく世話をする。

 

身体に気を遣ってくれるヴァリアーの面々に骸はくすぐったそうに微笑む。

ザンザスは骸が嬉しそうな事から同意の上である事を知りただ骸を見返す。

 

ザンザスの視線を受け止めながら骸は心配してくれたのですか?と笑う。

フン、と鼻で笑えば骸は心配ご無用ですよ、ちゃんと同意の上ですから。僕がただでやられる訳がないとこのアルコバレーノならご存じでは?と腹を冷やさないようにと赤ん坊特有の高体温を利用して骸の膝に座るマーモンを示せばマーモンは悔しいけど、そうだねと頷いた。

 

ザンザスが相手はボンゴレか?と聞けば骸はまぁ、そうですね…と答えを濁す。

ザンザスが先を促すように組んだ腕を指でトントンと叩く。

ちょっと有り得ない話になってしまうので纏まるまで待って貰えると助かります、近い内にちゃんと話しますので。と切り出せばザンザスは頷いた。

 

綱吉たちの事はガキ臭くて好かん、と言うザンザスだが骸の事だけは気に入ってるヴァリアー達。

どっちかと言うと骸の性質はヴァリアーの方に向いているから仲は良い。

ザンザスの存在に震える綱吉たちと違って骸はザンザスを恐れたりしないし同等の立場でモノも言えるのだ。

 

ベルフェゴールがマーモンを抱き上げて骸の隣に座ればお腹触っていい?と聞くので骸はまだ動きませんよ、と言いながらも許可をした。

 

ベルは骸のお腹を触ってここに赤ん坊がいるの?しししっ変な感じ!と笑い声をあげる。

大きくなって蹴るようになったらまた触らせてよ、と笑うベルに骸は良いですよと頷いた。

 

スクアーロたちと楽しく談笑をしてから骸はヴァリアーが泊まるホテルを後にした。

 

お腹を撫でながら黒曜ランドに戻る道すがら骸は今になってⅠ世との種が芽吹いた理由を考える。

 

骸は可能性を一つ思い浮かべた。

この時代にあるⅠ世の魂が目覚めたという可能性だ。

あの時たった5分でⅠ世がいた時代は半年も経っていた。だから今から数えればⅠ世は当の前に息を引き取っている事になる。

 

それまで骸は普段通りに過ごしていたが初代の魂は輪廻転生し、この時代に生まれていたのだろう。

だけど切っ掛けがないからずっと眠ったままで、最近の出来事で目覚めた。という仮説を骸は考えた。

 

甘かった綱吉もここ最近ボスである自覚を持ちつつある。

血を争うのは嫌だと言っているが守る為ならと前線に出るのも惜しまなくなったがボスが易々と前に出るなと怒られている。

初代の意思…魂はボンゴレ指輪から解放されていると、骸の勘が告げる。

だとしても妊娠は今じゃなくても良いのに、と骸は思う。

戻って来た時にちょっとだけ初代の子を身籠ったんじゃないか、と期待したのだが一年過ぎれば諦めてしまった。

まさか本当に身籠っていたとは思わなかったが凄く嬉しい骸。

 

化け物と言われた自分が人並の幸せを味わえるとは思ってない、幸せを掴むのにこの手を血に染め上げすぎた。

後悔も改める気もない、それが六道骸という人間だしそういう生き方しか知らないからこのまま突き進むつもりだ。今更甘っちょろい生き方なんてしたくもない。

それでも好いた男の子供を望むくらいの幸せは願っていた。

そしてその願いはこうして今お腹の中で少しずつ大きく成長している。

今隣に父親がいれば更に満足なのに、一体どこにいるのだろうか。

産まれて来る前に見付けて欲しいものだ、骸は少女のように頬を染めて微笑んだ。

 

 

ヴァリアーの所まで行ったあの日から骸宛てにヴァリアーの面々から贈り物がひっきりなしに届いた。

どれも身体に良い食品ばかりで事情をまだ知らない犬たちは首を傾げて目を点にさせていた。

直ぐにでも犬たちに言っても良かったがサプライズで言うつもりだ。

 

妊娠発覚から三週間、その日は突然やってきた。

子供の世話はなんとなく出来るが赤子となると全く話が違う。

本屋に行って少し調べに外出すると後ろから声をかけられた。

 

どこか聞き覚えのある、その声に心臓が一つ跳ねる。

まさか、と思いつつ後ろを振り返るとそこには想像していた通りあの時と違って少し歳を重ねた、しかし若い男が骸を見つめていた。

 

初代だ。

骸は目を見開く。姿形がそのままだった。

男は立ち尽くす骸の目の前までやってきて、愛した女と巡り合う為に強く求めてきた。攫われる前に迎えに来たのだが間に合っただろうか?と別れる前に約束した事を問う男に骸は頷いて間に合いましたよ、笑った。

男は安堵の笑みを浮かべて骸の手を優しくすくうの握り締め、名前を教えてくれるか?と乞うた。

骸はあの時に教えられなかった名前を口にして初代に手を伸ばしてその腕の中に飛び込んだ。

 

骸の名を口にしながら初代はやっと、捕まえた。と骸を強く抱き締めた。

 

 

End

 

 

 

 

 

 

 

◆ボンゴレ探偵事務所(初ムク)

設定

 

 

 

ジョット(30)

ボンゴレ探偵事務所の社長。

数年前は世間を騒がせた名推理の探偵だったが直ぐに引退して事務所を立ち上げ、若い子達に事件の解決を任せている。

困った時には直ぐにサポートしてくれるので尊敬されている。

かなり優れた超直感を持っている。

綱吉達の様子を見る為に一度現場に来てみればそこで怪盗としての骸を見掛ける。

綱吉達のいい刺激になるだろうと捕らえず初めはただ身のこなしが良いとしか思ってなかったが事件後に街の通りを歩いていたら骸と連れ違う。

ジョットの超直感で骸があの怪盗だと気付く。

骸の後ろを追う嬉しそうな子供たちとそんな子供を見下ろす骸の表情に何となく宝石を盗む経緯を察して調べる。

骸達の経歴は見付からなかったがどこの施設で育ったかだけ見つけてその施設が後ろ暗い噂がある事が分かり、骸たちが施設から逃亡している事を知る。

気になって骸たちを遠くで眺めていると子供たちに好かれて慕われる骸に心惹かれるようになる。

 

 

骸(16)

その昔施設で育った見目麗しい怪盗69(シックスナイン)。

貧しい施設で育ったから自分を慕っている子達を守るのに宝石を盗んで食べさせていた。

頭が切れて運動能力も高かったから宝石を盗っても捕まらずいつの間にか怪盗としての名が着き世間を賑わした。

施設の人間からは世間を賑わす怪盗が骸である事を勘付かれた為施設から子供たちを連れて逃げ出し宝石を盗みながらそれを逃亡生活用にして追ってから身を隠している。

世間を賑わしているからそろそろ次の街に移ろうかと最後の仕事をした時にジョットに捕まる。

今までジョットの下で働く綱吉たちに何度も邂逅してきたがジョットとは会った事がなかった。

なのに骸の罠を見つけ出し骸を捕らえて見せたジョットに骸は驚く。いきなりキスされた事にも驚き抵抗も忘れてしまい好きにされる。

骸を気に入ったジョットが骸の経歴をもみ消し、子供たちを保護する代わりにボンゴレ探偵事務所で働く事を条件とされた。

 

骸は自分の能力が重宝される事を自覚していてそれを施設の人間が狙っている事を知っているのでボンゴレ探偵事務所に留まれば必ず危険が迫ってきますよと、ジョットに警告するがジョットはそんな事は分かっている。向かって来るなら迎い撃つ、お前たちを守るよ必ずな。とジョットは骸を自分の懐に迎えた。

 

最初はやはり警戒するが次第にジョットに裏がないと分かると骸は物好きな人ですね、とジョットに凭れるように心を許した。

 

ボンゴレ探偵事務所に住処を移してから数週間。

骸は皆が寝静まった夜更けにいつものように足音を消して外へと出た。

勿論逃げる為ではなくただ散歩したかったからだ。

骸は一人ぶらりと散歩するのが趣味だった。ここ暫くは散歩出来なかったから子供の安全に気を使わなずに好きに出歩けると気の向くまま歩く。

だけどふと後ろに気配を感じて振り向くとジョットがいた。

何で貴方がいるんですか?と呆れた表情をすれば骸が出掛けるのを見掛けて護衛も兼ねて着いてきた、と悪びれる事なく言うジョットに骸は苦笑いする。

 

僕はか弱い女性じゃないので護衛も監視も必要ありませんよ、と言うがジョットは監視はしてないが万が一の事があるからお前を一人にしたくない、と一緒に着いて行って良いか?と尋ねた。

ただの散歩です、構いませんよ。とジョットに腕に掴まるように手を引かれて骸は身

 

を寄せて頷いた。

 

気が済んで二人は事務所に帰るとジョットはそのまま骸を自室に連れて行く。

骸も手を引かれるまま素直にジョットの後を着いて行き二人は寝室へと消えた。

 

 

部屋に入ると骸は手を引かれるままにジョットの後を追う。

ジョットが部屋の中央に置かれたベットに腰を下ろす。骸はジョットの視線に促されるまま近付くと腰をジョットの膝に下ろして見つめ合う。

 

 

 

 

 

◆初ムク

ー伍話ー

 

 

 

 

 

恋を自覚した骸だったけど、ハッキリとまだ認めてなかった。

聡いけれど自分でもまだこれが恋なのか、もしかしてただの憧れなのかもしれないと

感じて答えに確信を持てずにいた。

確信するには骸は外の世界を知らな過ぎる。

取り分け答えを急ぐ必要もないからと骸は胸を締め付ける痛みの答えを先延ばしした。

 

そして、今日は骸とジョットの孫との初対面である。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か?骸」

 

ホテルのロビーに置かれたソファーに座り、Gに連れて来られるという孫の綱吉を待ちながらジョットは隣に座る骸を案じた。

まだ幼いとは言え、人と接するのが苦手の骸に綱吉を会わせるのは時期早々ではないのか、ジョットは心配だった。

いずれにしてもいつかは会う事になるだろうけど、思ったよりもその機会が早くてGから聞いた綱吉が寂しがってぐずっていると聞いた時はどうしたものかと悩んだジョットだった。

 

電話を耳に当てたまま思い悩むジョットに気付いた骸がどうしたんです?と尋ねた時にジョットは隠す事なく綱吉が会いたいとぐずっているから少しだけでも会っていいか?と聞いた。

そう聞いた時に骸は不思議そうに「貴方のお孫さんなんでしょう?僕に聞かずとも会いに行ってあげて下さい」と首を傾げた。

 

骸のその口ぶりは僕の事は気にせずどうぞいってらっしゃい、とでも言ってるようでジョットは骸に「…言っておくが、骸を一人置いて行きはしないからな?」と念を押すと骸は目を見開き驚いた様子を見せた。

驚く骸にジョットはやはり自分も会うという事を考えていなかったのか、と苦笑いをする。

 

 

「…俺がお前を一人置いて綱吉に会う訳ないだろう。会うとすれば骸も一緒にだ。だから聞いた」

「そ、うだったんですね…それは、失礼しました」

「いや、俺も言葉が足らなかったな、済まない」

 

骸が気まずそうに目を反らして謝るのにジョットは自分に非があると首を振った。

そして改めて骸に尋ねた。

 

「綱吉を招こうと思うんだが、綱吉と会ってくれるか?」

「…えぇ、大丈夫だと思います」

 

頷いた骸にジョットはお礼を口にしてから返答を待っていてくれたGに連れて来て欲しいと頼んだのだ。

そして冒頭に戻る。

 

案ずるジョットに骸は笑みを見せた。

ここ数日で骸は笑みを見せる事が多くなった。それに関してはジョットも非常に喜ばしいと思ったがその骸の笑みには種類が二つあるのに思う所はあった。

 

一つはジョットに見せる笑みと、もう一つが外向きようの笑みだ。

 

数日の間でジョットの傍にいる骸は嫌でも人の注目を浴びてしまうのだと理解して、ジョットの隣に無愛想な子供がいると後ろ指を刺されないかと思案して子供ながら外向きように笑みを作って浮かべるようになったのだ。

幸いな事はこの数日骸の傍にいてずっと見てきたジョットには骸の笑顔の区別が付くことだ。

 

まだ子供なんだから出来ればそんな外向き用の笑顔なんて浮かべて欲しくなかったけれど骸がジョットを想っての事だと言うので何も言えなかった。

後ろ指刺されようが何とも思わないジョットだが骸はこれもまた僕には必要な事なんです、とジョットにだけ見せる笑みを浮かべるからジョットは好きにしなさい、と骸の頭を撫でるだけだ。

 

「大丈夫です、僕より下の子なんですよね?」

「あぁ、骸が今11歳だから綱吉とは5歳差かな。6歳だよ」

「6歳…クフフ、幼いですね」

 

小さく笑みを零す骸にジョットも微笑む。

和やかな空気が二人の間に流れたが何かに気付いたジョットが出入口の方に視線を向けた。

骸は彼の孫が到着したのだと察してソファーから立ち上がる。

 

子供と云えどもジョットの孫で将来のあさり組を仕切るかもしれないのだ、こちらから出迎えないと失礼だろうという考えから骸は立ち上がったまでの事だったがそんな骸の思考に気付いているジョットはそこまで気負う事はないと骸の頬を指の背で優しく撫でる。

 

頬を撫でるジョットの手に目を細める骸はだったが出入口の方で「お祖父ちゃんー!!」というはしゃいだ子供特有の高い声で周りの存在を思い出す。

ジョットと骸が声の方に視線を向けるとそこには数日振りに会うGとその腕に抱えられた男の子供が大きく手を振っていた。

 

「綱吉!」

 

ジョットがしゃがみ両手を広げるとGに抱えられた子供はGの腕から降りてそのまま一直線にジョットの懐に飛びついた。

飛び付いた子供をふらつかずに受け止めたジョットはそのまま立ち上がって抱き上げた。

 

 

「見ない間に大きくなったか?綱吉」

「お祖父ちゃん!!」

 

淡いブロンドのジョットとは違い、甘栗色の髪色と飴色の瞳を持つ子供がジョットの孫である綱吉だった。

綱吉はジョットに抱き着いて会えて嬉しそうにはしゃいでいる。

骸は綱吉を見て、内心驚いていた。血縁者といっても親子じゃないのに二人は似ていた。髪や瞳の色が違ってても顔立ちが似ていて親子か年の離れた兄弟に見える。

 

「あれ…?」

「あぁ、紹介しょう綱吉」

 

ジョットに夢中だった綱吉が傍らに立つ骸に気付き首を傾げた。

するとジョットは綱吉を下ろすと骸と向い合せる。骸は綱吉がじっと自分を見ているのにニコリと微笑み掛けるとスカートの裾を摘まんで軽く広げ綺麗な礼儀を示した。

 

「初めまして、六道骸です」

 

ふわりとしたその礼儀作法は綱吉にとってまるで絵本から出てきたお姫様で綱吉は大きな目をキラキラと輝かせると今度は骸にバッと飛び付いた。

 

「お姫様だ!!」

「え」

 

きゃーと喜色の声ではしゃぐ綱吉を何とか受け止めながら骸は困惑の声を漏らしジョットに助けを求めるように見上げた。

困惑した表情を見せる骸にジョットは微笑ましそうに笑みを浮かべて骸に抱き着く綱吉の頭を撫でる。

 

「骸はお前のお姉ちゃんになるんだぞ、綱吉」

「お姉ちゃん?!本当に?!」

「あぁ」

 

ツナにお姉ちゃんが出来るんだ!嬉しい!と満面の笑みで喜びを露わにする綱吉に骸はどう反応したら良いのか分からず固まる。

自分よりも下の子と接した事がないから対応に困る。

ここまで喜ばれるのも驚いたのに、ジョットのお姉ちゃん発言にも綱吉は受け入れているようで骸は尚更困惑する。

 

初めて会うのにここまで喜びますか…?

 

「骸姉ちゃんの目、凄くきれいだね」

「あ、りがとうございます…」

 

綱吉の純粋な賛辞に骸は微笑んだ。

紅い右目は実験体の時に埋め込まれたもので骸自身は余り好きじゃないが綱吉はそんな事を知らない。ただ一見して綺麗なのだと素直に思ったのだろう。

穢れを知らない目をしていて骸には綱吉がひどく眩しく見えた。

 

「ツナ一人っ子だから骸姉ちゃんがおれの姉ちゃんになってくれたらすごく嬉しい」

 

にぱっと笑顔で言う綱吉に骸は心が温かくなる。

ジョットのように、綱吉も人の心を知らず知らず癒す子だった。まごう事無くジョットの孫ですね、と骸は納得した。

 

「二人とも、取り敢えず部屋に行こうか」

 

子供二人のやり取りを見守っていたジョットは何の問題もないようだと判断して二人を促がした。

Gはまだ仕事が残っているようでジョットに軽く挨拶し骸の頭をポンっと撫でてホテルを後にした。

ホテルを出るGを見送ってジョット達は部屋に戻る。

綱吉はジョットの手を握ってもう片方の手を骸と繋いでご満悦だ。興味津々の綱吉は骸にあれこれと尋ねるのだが骸はきちんと受け答えしててジョットは思いの外、骸は面倒見が良いのだと新たなに知るのだった。

 

部屋に戻ってからは遅めの昼食を3人で食べてから綱吉を中心に遊んだりとのんびりと過ごした。

綱吉は骸の事がいたく気に入ったのか紅茶を入れる骸の後ろを着いて行ったりソファーに座った骸の隣にぴたりとくっついて丸で親の後を追うカルガモの子のようだった。

 

骸は何をそんなに気に入ったのか始終不思議そうに首を傾げていたけれど綱吉を邪険にしたりせずに子供相手にも丁寧に接した。

ジョットはそんな二人の微笑ましい光景を時折会話に参加しながら眺める。

 

けれど時間というものはあっという間に過ぎるもので綱吉が帰る時間になるとさっきまで笑っていた綱吉は大泣きで帰りたくないと駄々を捏ねた。

 

「やだぁ~!!帰らないっ!」

 

これにはジョットは可愛いなぁと頬を緩ませているが骸は逆にあたふたする。実際にあたふたしてないが内心え?え?これはどうしたら良いんですか?とけっして離れようとしない綱吉に骸はジョットに助けを求める。

 

「い、家康さん…」

「うん?」

「この子泣き止みませんけど…」

 

骸が宥めるように背中をそっと撫でるが綱吉は骸の胸に顔を埋めていやいやしている。

大声を上げて泣くものだから次第にしゃっくりが出てきて息が心配になり困った表情で見上げてくる骸にジョットは慣れたように笑みを返した。

 

「任せてくれ」

 

そう言うジョットに骸はホッとした表情を見せた。

泣いている綱吉の背中をポンポンと優しく叩いてジョットは綱吉に呼び掛ける。

 

「綱吉、じぃじの話を聞いてくれるか?」

「うえぇん~っ!ひくっお祖父ちゃん、か、帰りたくない~っ!ひくっ」

「ははは、こんなに泣く綱吉は久々に見たな」

 

まだ一緒に居たいと目元を赤くさせて訴えるのにジョットは綱吉に抱き着かれて離れない骸も共に膝に乗せて抱えた。

まさか自分毎とは思わず骸は目を見開いて驚き、慌ててジョットを見て僕は関係ないですよね?と無言のまま目で訴えたが微笑み掛けられただけで下ろしてはくれなかった。

 

腑に落ちなかったが綱吉を無理矢理剥がすのも可哀想で骸は大人しくジョットの膝に落ち着くのだった。

 

「綱吉、泣く必要はない。あと数日には骸と一緒に帰るから今日はGと帰ろうな?」

「うっ…うっ…今日は、ダメなの…?」

「今日はまだ無理なんだ。家で工事をしてるの知ってるか?」

「うん…家帰るとすごい音、してる…」

「そうだ。あれはな、骸の家を作ってるんだよ」

「骸姉ちゃんの家…?」

 

家を作ってる、と聞いて骸の胸から綱吉は顔を上げた。

泣いた事で目元が赤くなってしまい、その痛々しい姿に骸は可哀想に思えてくる。

触れないように気を付けながらまだ濡れてる所をハンカチで拭いてやると綱吉はあり

がとうとお礼を言ってジョットに話の続きをせがむ。

 

「家には家族がいっぱい居るだろ。でも綱吉のお母さんのように女の人が少ないから

骸の為に新しい家を作っている。だからまだ帰れないんだよ」

「…ツナと一緒じゃダメ?」

 

うるうると涙を今にもまた零しそうにしながらもちゃんと話を聞こうとする綱吉の頭をジョットは褒めるように優しく撫でる。

 

「今は良いかもしれないが大きくなると、そうは言ってられないからなぁ」

「うぇっ…ダメなんだ…」

 

零れ落ちそうだった涙がとうとう流れ落ちた。

骸はまたハンカチで涙を拭って背中を撫でてやるとジョットは言い聞かせるように口を開いた。

 

「綱吉、これはお前への仕事だ」

 

仕事?今にも声を上げて泣きそうだった綱吉がきょとんと、目を瞬かせた。

骸もこんな小さな子に仕事ですか?と意味が分からないとジョットを振り返る。

 

「綱吉が骸の家を出来上がるまで見張ってなさい、骸が家に帰れるように」

「…ツナが、家を守るの?」

「そうだ」

 

大好きなお祖父ちゃんから仕事を言い渡されてうるうるしていた綱吉の目が段々とキラキラ輝いた。

子供は大人からお願いされると不思議な事にやる気スイッチが入るのだ、ジョットはそれを狙ったのだろう。狙い通り綱吉はやり気になり駄々を捏ねてたのがウソみたいにG兄ちゃんはまだ?と早速帰って工事を見守りそうな気迫だ。

 

「ツナ、骸姉ちゃんが帰ってこられるようにしっかり家を守るよ!だから骸姉ちゃん

安心してお祖父ちゃんと待っててね」

 

やる気MAXの綱吉が骸にそう言うと変わり身の早さに呆気にとられるが骸はなんとか頷いた。

 

「よろしくお願いします…?」

「うん!任せて!」

「頼もしいな綱吉。家が出来たらGの携帯でも借りると良い。連絡して俺たちを元気に出迎えてくれ」

 

追加の言いつけにも綱吉は元気よく頷いて返事をした。

こうして綱吉は笑顔で迎えに来たGと共にあさり組の屋敷へと帰って行った。

ホテルの玄関前で遠ざかっていく車の中では後ろの窓ガラスに張り付いた綱吉が手を振っている。それに手を振り返しながら骸はチラっとジョットを見上げた。

 

「…あの子、本当に出来上がるまで見張りそうな感じでしたけど、あんな事言って大丈夫なんですか」

「ふふ、綱吉ならやるだろうな。でもGがいるから大丈夫だろう」

 

それにGの報告から既にもう半分は出来上がっていると言っていたしな。本当に見張ってたとしても数日だけだからそこまで心配する必要はないよ。とジョットは骸の頭を撫でた。

 

「…なら、良いです」

「今日は綱吉に付き合ってくれてありがとう、骸」

「…ただ話の相手をしただけですよ」

 

礼を言われる程の事をした覚えはないので礼は不必要です。と返す骸にジョットは笑う。

子供は話を聞いてくれるだけで嬉しいし綱吉の周りの大人たちは忙しく、付きっきりで綱吉の遊び相手にはなれないし話も聞いてあげられないのが多い。

だから、綱吉には骸のような人が必要だと思ったのだ。

 

ジョットはやはり、綱吉は骸に任せようと決める。

 

 

「骸、散歩しょうか」

「…今から?」

「都合悪いか」

 

手を差し出すジョットに骸は小さく笑った。

綱吉が言ったようにまるでお姫様のような扱いですね、と思う骸だったがこんな扱いを受けた事がないからこそばゆい気持ちなだけだ。

差し出された手に骸は手を乗せて首を左右に振った。

 

「…いえ、喜んで」

「良かった。では行こうか」

 

乗せられた手を腕に移動させてジョットは骸をエスコートしてその場を後にした。

 

 

 

 

 

◆初ムク

ー肆話ー

 

 

 


どこか甘く、少し焦げた香ばしい匂いが鼻を擽る。
羽毛布団の温もりにまだ身を任せたかったが骸はゆったりした微睡みから少しずつ目を覚ました。
そして真っ先に目に飛び込んできたのが起き抜けには少し眩し過ぎるブロンドだった。

「……、」

ブロンドの持ち主はジョットだった。
骸は一瞬何でここにいるのか、考えてしまったが直ぐにそういえば骸の為に離れを建てるとういジョットと建つのを待っている間はホテルに寝泊まりしてるのを思い出す。

ホテルに泊まったのは今日で10日目だった。
五つ星のホテルと聞いたがホテルに泊まったことすらない骸には一つ星や五つ星の違いが分からない。
部屋は広々としてて至る所に調度品が飾ってあり、ピカピカに磨かれた窓やシャンデリアが光に反射して目に痛い。
和室の広間2つ程ある部屋はジョットと二人で使うには広すぎると思っていたがこの部屋を取ったのはGらしくて部屋を見たジョットも苦笑いしていた。

「…眩しい…」
「カーテンを閉めるか?」
「!」

ぽつりと零した声に返事が返ってきて骸は驚く。
完全に眠っているとばかり思っていたから油断をしてしまった。
気配に敏感な骸でも気付かなかった。目を閉じていたジョットが瞼を押し上げてその目を開き…骸を見つめた。

「おはよう、骸」
「…おはようございます」

この部屋にはベットは一つしかない。
一つといってもそのベットはキングサイズというものらしく骸とジョットが離れて眠ってもまだまだ人が寝転べそうな程だ。
骸はソファーで眠っても何の問題もなく部屋に置かれたソファーも大きいから骸には丁度良いベットに思えたのだがジョットが勿論許さず一緒に眠る事となったのだ。

人の気配に最初の一夜は中々落ち着けず慣れなくて居心地悪かったけれどジョットが背中をリズム良く撫でて寝かしつけてしまうと思いがけず骸はストンと眠りについた。
それからジョットは夜必ず骸の背中を撫でで寝かしつけるようになった。
昨夜も、骸は背中を撫でられて眠りに落ちた。

「よく眠れたか?」
「えぇ…おかげさまで」
「それは良かった」

それじゃあ朝食にしょう、と身を起こしたジョットが顔に掛かる前髪を後ろに撫でつけながら骸を振り返る。
骸も身を起こし、先ほど鼻を擽ったのは朝食に出されたトーストの匂いだったらしいと納得した。
ホテルの従業員がドアの前にでも置いて行ったのだろう。ジョットはガウンのままテーブルに向かいソファーに腰を下ろした。

ジョットが身に着けてるガウンはダークグレーの光沢のある一枚なのだが端整なジョットに恐ろしく似合っていてだらしなく感じさせない。
細身なのにガウンの合わせから覗く胸板は厚く健康的な色で女性を虜にしてしまうこと間違いなしと云えるだろう。

骸は五つ星ホテルといえども子供用のガウンは常備しておらず合うサイズがないからとジョットの白いワイシャツを寝間着代わりとしていた。
部下に頼んで買えばいい話だったが骸が自分の為だけに無駄使いするなと気にしたからジョットのワイシャツで妥協したのだ。
まだ子供の骸にはジョットのワイシャツは大きくて膝まで隠れて最早ワンピースとなっているけれど気にしないのか骸は意に介さなかった。

「おいで骸」

チョコレートのジャムを塗ったトーストを片手にジョットが骸を手招く。
骸は裸足でとことこジョットの傍まで行くとちょこんと隣に座ってトーストを受け取った。

ぶらりと街の中を散策してた時に休憩で寄ったカフェの一押しのデザートメニューを頼んだ時、出てきたのがチョコレートパフェだった。
その時に初めてチョコレートを食べた骸はかなり気に入ったのか目をキラキラとさせて味わって食べていたものだった。
その様子を見たジョットは嬉しそうに骸はチョコレートが好きなんだな、とホテルに帰る道すがら有名店の一粒お札一枚もするチョコレートを20個入りで二箱も購入してしまった。
Gがその場に居たら何やってるんだお前は、とジョットを嗜めていただろうに残念ながらジョットを止められるGは居なかった。

食が細い骸は食べる事を得意としないけどチョコレートならば進んで食べてくれるのでジョットはおやつとかちょっとつまむ程度に食べたい時にチョコで作られたものを頼んでは骸に食べさせてあげた。
そうすると骸は食べてくれるのでジョットは内心一安心している。

トーストを口に運ぶ骸を横目に見ながらジョットも自分の朝食を食べて今日は骸をどこに連れて行こうか、考える。

今日は快晴だ、海を散歩するのも良いだろう。

 

 


***

風が髪を靡かせザザァ…と波が沖に打ち寄せて引く海の音が骸の視線を奪わせた。
どこまで続くのか分からないほど広大な海の広さと、青空に転写して青くキラキラと太陽の光で照り付ける海は初めて見る光景だった。 

本の写真でなら見たことがあるから海という知識は知っていた。
けれど、写真とは比べ物にならないほど、目の前の本物の海は美しく綺麗だった。

ノースリーブの白いカッターシャツに黒のホットパンツ姿の骸は波と砂浜の内際を歩きながら海を眺める。その後ろをグレーの七分丈の長袖とラフなジーンズ姿のジョットが自分と骸の靴を持ちながら続いた。
どうやら海も気に召してくれたようだと、ジョットは安堵に微笑む。

「海というものは…広いのですね」
「初めてか」
「写真でなら見たことありますが…本物は初めてです」
「そうか。本物を見た感想はどうだ?」

隣に並び骸の手を握って歩けば骸は一度ジョットを一瞥するも何も言わず海に視線を戻して口を開いた。

「綺麗です…でも、」

一度口を閉じて骸はジョットを見上げた。

「海は僕なんかあっという間に飲み込んでしまうんでしょうね」
「骸…」


それはどういう意味で言ったのか、ジョットには計り知れなかった。
ただの単純な感想だけかもしれない。或いは……考えてジョットはその思考を止めた。
考えただけ無駄であるし、もしそうだとしても易々と見過ごすつもりもないのだからジョットは海を見つめる骸の脇に手を差し込むとそのまま抱き上げた。

「…もし骸が飲み込まれそうになったとしても俺が必ず助けるよ」
「貴方が…?」
「あぁ。俺が骸を引っ張って連れて帰る」

海はこんなにも広いですよ?場所によっては海の中は暗い、そんな中から僕を探すのですか。と問う骸にジョットは迷う事なくそうだと頷いた。
躊躇しないジョットに骸は困ったように笑みを浮かべた。

「貴方を必要とする人は多いのですから…自分を大事にしてください」

共にいる数日でジョットが如何にたくさんの人から求められているのか、骸は見ていた。
3時間置きにジョットに助言を求める電話が鳴り、外を歩けばジョットに声を掛ける者もいた。
どこを歩いてもジョットの顔は知られていてこの男がどれだけ凄い人なのか、骸は身に染みた。
だから骸を助ける為だけに危険を犯すのは人の上に立つ人間であるジョットはしてはならないだろう。
諭すような骸の声にジョットは目を見開く。

「既に隠居してると言ってましたけど貴方はあさり組にまだ必要とされる人です」

だから、関係のない子供のためにそんな事をしてはいけない。
そうジョットに言った骸の表情は優しかった。子供とは思えないその発言にジョットは一瞬言葉を飲み込む。
それでもジョットは意識せずとも言葉にしていた。

「お前はもう俺の大事な家族なんだ。だから危険を承知で骸を守るのが…俺の役目だ」

自分を蚊帳の外みたいに関係のない子供とか、二度とそんな事言わないでくれ。
骸を抱き上げたまま後頭部に手を回しグッと引き寄せて抱き締めればジョットは切なそうに骸に懇願した。

キツイ程に抱き締められて骸は何気ない自分の言葉でジョットを傷付けたのだと気付いた。
ただ命を簡単に投げるなと伝えたかっただけなのに、人に伝えるのはこんなに難しいのか。と骸は何故ジョットが傷付いたのか、まだよく分かってなかった。
だけどジョットを悲しませたかった訳じゃないから骸は頷いた。

「ごめんなさい…もう言いませんから」

戸惑いながらもジョットの背中に腕を回して宥めるように撫でた。
恐る恐るだが骸の慰めてくれる行動にジョットは小さく笑みを零した。この子はこんなにも優しいのに…自分に対しては無頓着なのが悲しかった。
死にたがってる訳じゃないのは分かっているが何か起きてもただ仕方がない、と抗う事無く諦めているように感じた。育った環境がそうさせてしまったのだろう…まだこんな子供なのに悟ったように己を顧みないのがジョットは悲しかった。

「骸…今はまだ分からなくて良い。だけどお前が消えたら俺は凄く悲しい」
「…」
「一緒にいてそんな経ってないのにこんな事言われるのを不思議に思うかもしれないが俺はもう骸が大事なんだよ。だからお前がいないと悲しいって事を覚えててくれ」

言い聞かせるジョットに骸はただはいと答えた。
理由はまだ理解出来なくても僕が消えたらこの人が悲しむ、今はそれだけ覚えていれば良いのだと骸は頷いた。

潮風が二人の髪をそっと優しく撫でて揺らしていく。
暫く骸を抱き締めていたジョットは徐に砂浜から上がると腰を掛けられる段差に骸を座らせた。
そのまま膝を着き持っていたハンカチで砂に汚れた足を綺麗に拭くとずっとジョットが持っていたサンダルを骸に履かせる。
容姿が整っている二人のその様子はまるで童話の王子様がお姫様の為に靴を履かせるワンシーンを連想させる光景で海に遊びに来ていた地元や観光客の視線を釘付けにした。

「砂が残ってたりするか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

ジョットも軽く自分の足を拭き靴を履くと骸に手を差し出した。
差し出された手に骸は手を重ねて段差から立ち上がってジョットの隣に立つ。そのまま重ねた手は握られて促されるまま足を動かしたジョットに骸も歩き出した。

「まだ時間はある、取り敢えず昼食事にしょう」
「はい」

遠ざかっていく海を尻目に骸は繋がれた手を見たら胸が急にキュッと締め付けられた。
目を瞬かせて今感じたこの感覚は一体何だろうか、と不思議に思う。

心臓が痛くなるのだけど、別にそれは不快感は抱かなかった。
だけど理由も分からないから骸は困惑する。もしかして病気なんでしょうか…?と思ってしまった。
知らないものは無知なままにしたくない骸は後で本を読もうと決めた。

「骸?」
「何でもないです」

考え込んでしまった骸にジョットが声を掛けると骸は我に返り、頭を振って何でもないと伝える。
首を傾げたジョットだけど骸が拙く笑い掛けると優しく微笑み返した。

 

 

 


謎の痛みについて考えていた骸だったが、その答えは案外早くに分かった。
ホテルで過ごしてた時、骸は本を片手に映画を鑑賞をしていた。ジョットも一緒に観ていたが1時間前に仕事の電話が入り別室でまだ電話をしていた。
ジョットを待っても良かったけれど気にせず観てて良いと言われ骸はそのまま映画観賞をしてたがその映画はファンタジーとラブストーリーを合わせたものだった。

その映画は人魚姫を主人公にした話で、主人公の人魚姫がある日人間と出会う。
その男は人間の姿をしていたが実は吸血鬼という骸が知ってる童話の人魚姫とはどこか違ったストーリーでその斬新さにについ目で追ってしまう。

主人公は吸血鬼の男と会っていく内に惹かれていった。男も人魚姫に心を奪われるけれど二人は超えられないものがあったのだ。
それは、二人の種族の違いだ。主人公は人魚であり海の中で生活してたが、反対に男は吸血鬼で海に入れるものの太陽を苦手として夜の闇で暮らす種族だった。
惹かれ合う二人だったけど種族の壁を越える事は不可能で想い合ってても共には生きられない事に苦悩する二人を描いていたのだ。

その中で主人公が男を想って胸がキュッと締め付けられて痛いの!これは一体何?と仲の良い親友に尋ねるシーンがあった。
胸の痛みに身に覚えがあった骸はじっと主人公のように答えを待った。

『それは…貴女は恋をしたのよ』

骸は首を傾げた。
恋?と骸と同じように映画の主人公も驚いたように目を見開いていた。
だけど骸と違って主人公は嬉しそうに笑っていた。そう、私はあの人が愛しいんだわ、だから胸が痛くて切ないのね。あの人を考えるだけで嬉しくても悲しくても胸がキュッと締め付けられるの…これが恋というものなのね。と恋というものを自覚する主人公に親友は頷いた。

骸は確かに主人公のようにジョットの事を考えるだけで胸がキュッと痛んだ。
だけど、それは恋なのかどうか骸には判断出来なかった。

映画の主人公は恋を自覚したけれど種族の違いに悩まされて涙していた。
あの人の傍に居たいのだと、離れたくないのだと親友に胸の内を話していた。
映画はそこで終わってしまい、骸はこれがシリーズものなのだと気付き続きはと探してみた所、どうやらまだ上映されて間もないみたいで続編の公開は未定だとエンドロールの後の予告編が流れる。

他の作品の予告編が流れるのをなんとなく眺めて骸は主人公とその親友の会話を思い出す。

『あの人が笑った顔が好きなの…ずっとその笑顔を傍で見ていたいわ』

ジョットの笑った表情は優しく骸も好きだった。
骸がちゃんと食べて、普通に話して、分からない事があれば聞くだけでジョットは嬉しそうに笑った。

『私が怪我した時にあの人が悲しそうに泣いてくれたの。そんな顔をさせたくなかったけど私の為に泣いてくれたあの人がもっと好きになった』

悲しい表情をするジョットが骸は苦手だった。
骸が己をないがしろにする言葉を吐くとジョットは悲しそうな表情をして骸の頭を撫でた。その表情を見たら胸が痛くて笑って欲しいと思った。

『あの人を愛してるから一緒に生きていたいわ』

…愛してるかどうかは分からないが、ジョットの元で生きていたいとは思っている。
骸を人間として扱った人がいないから今まで普通の生活というものが分からまくて何かと戸惑っているとジョットは全て一から丁寧に分かりやすく教えてくれた。
骸を一人の人間として大事にしてくれているのが分かっているから骸は今更昔の生活に戻りたいとは思わないしジョット以外の人の所には行きたくなかった。

主人公と似た感情に骸は思い悩む。
もしこれが恋だとしてもジョットはあさり組のボスで骸との歳もかなり離れている。
確かに優しい男だけど…まだ間もないのに好きになりますか?それに僕に好意という感情があるのかどうかも怪しいのに…と胸の痛みだけじゃなく別の悩みが出てきた骸は顔を歪ませた。

頭が痛くなった骸が気を紛らそうと頭を振っていたその時、電話が終わったのかジョットが別室から戻ってきた。

「ふふ、どうした?骸」

携帯をテーブルに置き隣に座ったジョットは膝を抱えて呻っていた骸の頭を撫でて笑う。
その笑った顔に骸の胸はまた締め付けられてトクン…と高鳴る。 

そして骸は認めて、納得した。


確かに、これは恋ですねーー…。