mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆初ムク

ー伍話ー

 

 

 

 

 

恋を自覚した骸だったけど、ハッキリとまだ認めてなかった。

聡いけれど自分でもまだこれが恋なのか、もしかしてただの憧れなのかもしれないと

感じて答えに確信を持てずにいた。

確信するには骸は外の世界を知らな過ぎる。

取り分け答えを急ぐ必要もないからと骸は胸を締め付ける痛みの答えを先延ばしした。

 

そして、今日は骸とジョットの孫との初対面である。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か?骸」

 

ホテルのロビーに置かれたソファーに座り、Gに連れて来られるという孫の綱吉を待ちながらジョットは隣に座る骸を案じた。

まだ幼いとは言え、人と接するのが苦手の骸に綱吉を会わせるのは時期早々ではないのか、ジョットは心配だった。

いずれにしてもいつかは会う事になるだろうけど、思ったよりもその機会が早くてGから聞いた綱吉が寂しがってぐずっていると聞いた時はどうしたものかと悩んだジョットだった。

 

電話を耳に当てたまま思い悩むジョットに気付いた骸がどうしたんです?と尋ねた時にジョットは隠す事なく綱吉が会いたいとぐずっているから少しだけでも会っていいか?と聞いた。

そう聞いた時に骸は不思議そうに「貴方のお孫さんなんでしょう?僕に聞かずとも会いに行ってあげて下さい」と首を傾げた。

 

骸のその口ぶりは僕の事は気にせずどうぞいってらっしゃい、とでも言ってるようでジョットは骸に「…言っておくが、骸を一人置いて行きはしないからな?」と念を押すと骸は目を見開き驚いた様子を見せた。

驚く骸にジョットはやはり自分も会うという事を考えていなかったのか、と苦笑いをする。

 

 

「…俺がお前を一人置いて綱吉に会う訳ないだろう。会うとすれば骸も一緒にだ。だから聞いた」

「そ、うだったんですね…それは、失礼しました」

「いや、俺も言葉が足らなかったな、済まない」

 

骸が気まずそうに目を反らして謝るのにジョットは自分に非があると首を振った。

そして改めて骸に尋ねた。

 

「綱吉を招こうと思うんだが、綱吉と会ってくれるか?」

「…えぇ、大丈夫だと思います」

 

頷いた骸にジョットはお礼を口にしてから返答を待っていてくれたGに連れて来て欲しいと頼んだのだ。

そして冒頭に戻る。

 

案ずるジョットに骸は笑みを見せた。

ここ数日で骸は笑みを見せる事が多くなった。それに関してはジョットも非常に喜ばしいと思ったがその骸の笑みには種類が二つあるのに思う所はあった。

 

一つはジョットに見せる笑みと、もう一つが外向きようの笑みだ。

 

数日の間でジョットの傍にいる骸は嫌でも人の注目を浴びてしまうのだと理解して、ジョットの隣に無愛想な子供がいると後ろ指を刺されないかと思案して子供ながら外向きように笑みを作って浮かべるようになったのだ。

幸いな事はこの数日骸の傍にいてずっと見てきたジョットには骸の笑顔の区別が付くことだ。

 

まだ子供なんだから出来ればそんな外向き用の笑顔なんて浮かべて欲しくなかったけれど骸がジョットを想っての事だと言うので何も言えなかった。

後ろ指刺されようが何とも思わないジョットだが骸はこれもまた僕には必要な事なんです、とジョットにだけ見せる笑みを浮かべるからジョットは好きにしなさい、と骸の頭を撫でるだけだ。

 

「大丈夫です、僕より下の子なんですよね?」

「あぁ、骸が今11歳だから綱吉とは5歳差かな。6歳だよ」

「6歳…クフフ、幼いですね」

 

小さく笑みを零す骸にジョットも微笑む。

和やかな空気が二人の間に流れたが何かに気付いたジョットが出入口の方に視線を向けた。

骸は彼の孫が到着したのだと察してソファーから立ち上がる。

 

子供と云えどもジョットの孫で将来のあさり組を仕切るかもしれないのだ、こちらから出迎えないと失礼だろうという考えから骸は立ち上がったまでの事だったがそんな骸の思考に気付いているジョットはそこまで気負う事はないと骸の頬を指の背で優しく撫でる。

 

頬を撫でるジョットの手に目を細める骸はだったが出入口の方で「お祖父ちゃんー!!」というはしゃいだ子供特有の高い声で周りの存在を思い出す。

ジョットと骸が声の方に視線を向けるとそこには数日振りに会うGとその腕に抱えられた男の子供が大きく手を振っていた。

 

「綱吉!」

 

ジョットがしゃがみ両手を広げるとGに抱えられた子供はGの腕から降りてそのまま一直線にジョットの懐に飛びついた。

飛び付いた子供をふらつかずに受け止めたジョットはそのまま立ち上がって抱き上げた。

 

 

「見ない間に大きくなったか?綱吉」

「お祖父ちゃん!!」

 

淡いブロンドのジョットとは違い、甘栗色の髪色と飴色の瞳を持つ子供がジョットの孫である綱吉だった。

綱吉はジョットに抱き着いて会えて嬉しそうにはしゃいでいる。

骸は綱吉を見て、内心驚いていた。血縁者といっても親子じゃないのに二人は似ていた。髪や瞳の色が違ってても顔立ちが似ていて親子か年の離れた兄弟に見える。

 

「あれ…?」

「あぁ、紹介しょう綱吉」

 

ジョットに夢中だった綱吉が傍らに立つ骸に気付き首を傾げた。

するとジョットは綱吉を下ろすと骸と向い合せる。骸は綱吉がじっと自分を見ているのにニコリと微笑み掛けるとスカートの裾を摘まんで軽く広げ綺麗な礼儀を示した。

 

「初めまして、六道骸です」

 

ふわりとしたその礼儀作法は綱吉にとってまるで絵本から出てきたお姫様で綱吉は大きな目をキラキラと輝かせると今度は骸にバッと飛び付いた。

 

「お姫様だ!!」

「え」

 

きゃーと喜色の声ではしゃぐ綱吉を何とか受け止めながら骸は困惑の声を漏らしジョットに助けを求めるように見上げた。

困惑した表情を見せる骸にジョットは微笑ましそうに笑みを浮かべて骸に抱き着く綱吉の頭を撫でる。

 

「骸はお前のお姉ちゃんになるんだぞ、綱吉」

「お姉ちゃん?!本当に?!」

「あぁ」

 

ツナにお姉ちゃんが出来るんだ!嬉しい!と満面の笑みで喜びを露わにする綱吉に骸はどう反応したら良いのか分からず固まる。

自分よりも下の子と接した事がないから対応に困る。

ここまで喜ばれるのも驚いたのに、ジョットのお姉ちゃん発言にも綱吉は受け入れているようで骸は尚更困惑する。

 

初めて会うのにここまで喜びますか…?

 

「骸姉ちゃんの目、凄くきれいだね」

「あ、りがとうございます…」

 

綱吉の純粋な賛辞に骸は微笑んだ。

紅い右目は実験体の時に埋め込まれたもので骸自身は余り好きじゃないが綱吉はそんな事を知らない。ただ一見して綺麗なのだと素直に思ったのだろう。

穢れを知らない目をしていて骸には綱吉がひどく眩しく見えた。

 

「ツナ一人っ子だから骸姉ちゃんがおれの姉ちゃんになってくれたらすごく嬉しい」

 

にぱっと笑顔で言う綱吉に骸は心が温かくなる。

ジョットのように、綱吉も人の心を知らず知らず癒す子だった。まごう事無くジョットの孫ですね、と骸は納得した。

 

「二人とも、取り敢えず部屋に行こうか」

 

子供二人のやり取りを見守っていたジョットは何の問題もないようだと判断して二人を促がした。

Gはまだ仕事が残っているようでジョットに軽く挨拶し骸の頭をポンっと撫でてホテルを後にした。

ホテルを出るGを見送ってジョット達は部屋に戻る。

綱吉はジョットの手を握ってもう片方の手を骸と繋いでご満悦だ。興味津々の綱吉は骸にあれこれと尋ねるのだが骸はきちんと受け答えしててジョットは思いの外、骸は面倒見が良いのだと新たなに知るのだった。

 

部屋に戻ってからは遅めの昼食を3人で食べてから綱吉を中心に遊んだりとのんびりと過ごした。

綱吉は骸の事がいたく気に入ったのか紅茶を入れる骸の後ろを着いて行ったりソファーに座った骸の隣にぴたりとくっついて丸で親の後を追うカルガモの子のようだった。

 

骸は何をそんなに気に入ったのか始終不思議そうに首を傾げていたけれど綱吉を邪険にしたりせずに子供相手にも丁寧に接した。

ジョットはそんな二人の微笑ましい光景を時折会話に参加しながら眺める。

 

けれど時間というものはあっという間に過ぎるもので綱吉が帰る時間になるとさっきまで笑っていた綱吉は大泣きで帰りたくないと駄々を捏ねた。

 

「やだぁ~!!帰らないっ!」

 

これにはジョットは可愛いなぁと頬を緩ませているが骸は逆にあたふたする。実際にあたふたしてないが内心え?え?これはどうしたら良いんですか?とけっして離れようとしない綱吉に骸はジョットに助けを求める。

 

「い、家康さん…」

「うん?」

「この子泣き止みませんけど…」

 

骸が宥めるように背中をそっと撫でるが綱吉は骸の胸に顔を埋めていやいやしている。

大声を上げて泣くものだから次第にしゃっくりが出てきて息が心配になり困った表情で見上げてくる骸にジョットは慣れたように笑みを返した。

 

「任せてくれ」

 

そう言うジョットに骸はホッとした表情を見せた。

泣いている綱吉の背中をポンポンと優しく叩いてジョットは綱吉に呼び掛ける。

 

「綱吉、じぃじの話を聞いてくれるか?」

「うえぇん~っ!ひくっお祖父ちゃん、か、帰りたくない~っ!ひくっ」

「ははは、こんなに泣く綱吉は久々に見たな」

 

まだ一緒に居たいと目元を赤くさせて訴えるのにジョットは綱吉に抱き着かれて離れない骸も共に膝に乗せて抱えた。

まさか自分毎とは思わず骸は目を見開いて驚き、慌ててジョットを見て僕は関係ないですよね?と無言のまま目で訴えたが微笑み掛けられただけで下ろしてはくれなかった。

 

腑に落ちなかったが綱吉を無理矢理剥がすのも可哀想で骸は大人しくジョットの膝に落ち着くのだった。

 

「綱吉、泣く必要はない。あと数日には骸と一緒に帰るから今日はGと帰ろうな?」

「うっ…うっ…今日は、ダメなの…?」

「今日はまだ無理なんだ。家で工事をしてるの知ってるか?」

「うん…家帰るとすごい音、してる…」

「そうだ。あれはな、骸の家を作ってるんだよ」

「骸姉ちゃんの家…?」

 

家を作ってる、と聞いて骸の胸から綱吉は顔を上げた。

泣いた事で目元が赤くなってしまい、その痛々しい姿に骸は可哀想に思えてくる。

触れないように気を付けながらまだ濡れてる所をハンカチで拭いてやると綱吉はあり

がとうとお礼を言ってジョットに話の続きをせがむ。

 

「家には家族がいっぱい居るだろ。でも綱吉のお母さんのように女の人が少ないから

骸の為に新しい家を作っている。だからまだ帰れないんだよ」

「…ツナと一緒じゃダメ?」

 

うるうると涙を今にもまた零しそうにしながらもちゃんと話を聞こうとする綱吉の頭をジョットは褒めるように優しく撫でる。

 

「今は良いかもしれないが大きくなると、そうは言ってられないからなぁ」

「うぇっ…ダメなんだ…」

 

零れ落ちそうだった涙がとうとう流れ落ちた。

骸はまたハンカチで涙を拭って背中を撫でてやるとジョットは言い聞かせるように口を開いた。

 

「綱吉、これはお前への仕事だ」

 

仕事?今にも声を上げて泣きそうだった綱吉がきょとんと、目を瞬かせた。

骸もこんな小さな子に仕事ですか?と意味が分からないとジョットを振り返る。

 

「綱吉が骸の家を出来上がるまで見張ってなさい、骸が家に帰れるように」

「…ツナが、家を守るの?」

「そうだ」

 

大好きなお祖父ちゃんから仕事を言い渡されてうるうるしていた綱吉の目が段々とキラキラ輝いた。

子供は大人からお願いされると不思議な事にやる気スイッチが入るのだ、ジョットはそれを狙ったのだろう。狙い通り綱吉はやり気になり駄々を捏ねてたのがウソみたいにG兄ちゃんはまだ?と早速帰って工事を見守りそうな気迫だ。

 

「ツナ、骸姉ちゃんが帰ってこられるようにしっかり家を守るよ!だから骸姉ちゃん

安心してお祖父ちゃんと待っててね」

 

やる気MAXの綱吉が骸にそう言うと変わり身の早さに呆気にとられるが骸はなんとか頷いた。

 

「よろしくお願いします…?」

「うん!任せて!」

「頼もしいな綱吉。家が出来たらGの携帯でも借りると良い。連絡して俺たちを元気に出迎えてくれ」

 

追加の言いつけにも綱吉は元気よく頷いて返事をした。

こうして綱吉は笑顔で迎えに来たGと共にあさり組の屋敷へと帰って行った。

ホテルの玄関前で遠ざかっていく車の中では後ろの窓ガラスに張り付いた綱吉が手を振っている。それに手を振り返しながら骸はチラっとジョットを見上げた。

 

「…あの子、本当に出来上がるまで見張りそうな感じでしたけど、あんな事言って大丈夫なんですか」

「ふふ、綱吉ならやるだろうな。でもGがいるから大丈夫だろう」

 

それにGの報告から既にもう半分は出来上がっていると言っていたしな。本当に見張ってたとしても数日だけだからそこまで心配する必要はないよ。とジョットは骸の頭を撫でた。

 

「…なら、良いです」

「今日は綱吉に付き合ってくれてありがとう、骸」

「…ただ話の相手をしただけですよ」

 

礼を言われる程の事をした覚えはないので礼は不必要です。と返す骸にジョットは笑う。

子供は話を聞いてくれるだけで嬉しいし綱吉の周りの大人たちは忙しく、付きっきりで綱吉の遊び相手にはなれないし話も聞いてあげられないのが多い。

だから、綱吉には骸のような人が必要だと思ったのだ。

 

ジョットはやはり、綱吉は骸に任せようと決める。

 

 

「骸、散歩しょうか」

「…今から?」

「都合悪いか」

 

手を差し出すジョットに骸は小さく笑った。

綱吉が言ったようにまるでお姫様のような扱いですね、と思う骸だったがこんな扱いを受けた事がないからこそばゆい気持ちなだけだ。

差し出された手に骸は手を乗せて首を左右に振った。

 

「…いえ、喜んで」

「良かった。では行こうか」

 

乗せられた手を腕に移動させてジョットは骸をエスコートしてその場を後にした。