mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆沈黙は是となる 初ムク

 

 

骸は一つの所には決して留まらない。

幾つものファミリーを壊滅させた骸はボンゴレに身を置いていても破壊的なその力故か恨まれ、疎まれ、畏怖されていた。

敵が多くあわよくばと狙われる事も多かった。

 

だから同じ所には居着かない。ボスである綱吉も骸の居場所は知らず連絡手段は携帯端末のみ。その携帯端末もころころ番号が変わる為、難儀しているが骸はどういう理屈なのか綱吉が連絡がしたいタイミングで連絡をくれるのだ。

だから連絡先が頻繫に変わっても居場所が分からなくても綱吉はそれで良かったし骸が無事だと信じていた。

だけどまるで猫のようにするりと居なくなっては現る骸が、ようやく一つの場所に留まるようになった。

 

「骸」

 

蜜をふんだんに詰めたような甘く柔らかい声音が睦言の最中のように大切にその名を呼ぶ。

見つめる琥珀の目は優しく、愛情が感じられた。

 

「骸」

「はい」

 

二度も甘い声に呼ばれた骸は返事を返す。

素っ気なく感じるが男はちゃんと分かっていたからそれに傷付く事はない。

 

「骸…綺麗だ」

 

余り日に当たる事がない白い頬を大きな手がそっと撫でる。

まるで割れ物でも扱ってるかのような手付きに骸は自分を膝に乗せる男、ジョットを見つめ返した。

 

「フフ…お前の眼はとても美しいな…」

 

長い睫毛が骸の眼の下に影を作り、伏せた瞼の上にジョットは唇を寄せる。

細い腰を抱いていた手を背中に移動させて体を更に密着させた。

 

ジョットの肩に頭を凭れさせて骸は広い背中に手を回し、抱き返した。

こういう時の骸は、とても静かでジョットの好きにさせてくれる。普段は何を考えているのか分からない笑みを常に浮かべているのに、ジョットの腕に収まっている骸は何も言わず、笑みも浮かべずただ静かにジョットが愛を紡ぐ言葉に耳を傾けているだけ。

普段を知ってる者からしたらその変わりように驚くだろうけどジョットは胸をくすぐられるようで嬉しかったのだ。

物静かな骸の姿が暗にジョットの前で取り繕う必要はないのだと、ここが安らげるのだと物語っていたからジョットはいつも溢れんばかりの愛を骸に注ぐ。

 

「骸、骸…俺の骸…」

 

背中に回していた手は冷やさないように細い肩を暖め、額に鼻先に、頬に幾つもの口付けくを落として好意を余すことなく示す。

骸は沈黙を保ったままだったがその目は気持ち良さそうに微睡んでいた。

 

ジョットの愛を一身に注がれている骸だが、二人の始まりは実は骸からだった。

現在の二人を見るとジョットが骸に愛を乞うたように誰もが思うだろう。しかし現在に到るまでの経由を、きっかけを作ったのは紛れもなく骸からだった。

 

ボンゴレをジョットと同じく若くして継いだ綱吉だったが沢山の困難を仲間と共に乗り越えたもののその困難は前線が主だって目立ち、政治的や内政での戦いは未だに未熟だった。

その為、綱吉はボンゴレを継承したが勉強中のため本部よりも各国を回って家庭教師のリボーンの指導の下で政治の事を学んでいた。

なので現在、綱吉が不在の代わりとしてジョットが本部を動かしていた。

 

全ての報告はジョットへと行くからボンゴレの幹部である骸もジョットと顔を会わせることはあった。

骸の得意としているのは暗殺と潜入だからか頻繁にという訳ではないが月に2回は報告書の義務提出と任務を言い渡す際に会って少し話していた。

 

顔を会わせて何カ月か経った頃、骸は執務室で一人仕事をしていたジョットの元へふらりと現れた。

その手には一般的な茶色の封筒があり、その中に報告書が入っている事が分かり任務は無事に完了したのだとジョットは安堵した。

安堵したのも束の間で普段なら笑みを浮かべている骸が何も喋らず沈黙したままジョットの前まで来ると封筒をデスクに置いた。

 

「骸?」

 

挨拶もない骸にジョットは違和感を感じ、訝しげに骸の名を呼んだ。

それでも骸は表情を動かす事なくデスクを回り込んでジョットに近付いた。

物言わぬ骸にジョットは医務室という文字が頭をよぎったが取り敢えず様子を見ようと骸の動向を観察した。

 

傍まで近付いた骸は、ジョットの肩に触れるとあろうことかキスをした。

顔が近付いた時ジョットは避けられた。だが骸が何をしたいのか分からなかったから避ける事なくキスをされた。

ジョットは驚愕に目を見開いた。

骸からそんな素振りはほんの少しも感じ取る事はなかったから疑問ばかりが頭を占めた。骸は触れるだけのキスをすると執務室に入った時とく変わらない表情でそのまま霧となって消えた。

 

「…何だったんだ?」

 

ジョットは困惑したが嫌悪はなかった。

それからだ、骸がジョットが一人でいる時にだけ静かなまま現れては触れるだけのキスをして消えるようになったのは。

最初は骸が何かしらの術に掛かったのかと思ったが感じた限りでは骸は何の術にも嵌っておらず骸自身の意思しか感じない。

キスされるだけで他には何もなく殺意も敵意もなかったのでジョットは骸の望む様に従った、だからかキスを交わすのも両手の数を超える時にはジョットは骸の事を女として見ていた。

 

「骸」

 

またしても沈黙を貫く骸はいつものようにキスだけ済まして消えようとした。

只、今回はジョットは引き留めるように骸の手を掴み、指を絡めるように繋げる。

留まる事になった骸はジョットを見つめる、その琥珀の眼が咎めているのではないと分かるとそのままジョットの膝に腰を下ろし額をジョットの肩口に甘えるように摺り寄せた。

 

子猫が親に甘えるかのようなその仕草に琥珀の眼が途端に甘くなった。

絡めていた指を解き、ジョットは骸を抱き締めた。そのままこめかみにキスをすれば伏せていた顔を骸は上げる。

お互いにジッと見つめ合うと磁石のように引き合い、一方的にではなく同じ意思の元でジョットと骸はキスを交わした。

 

それからは恋に、そして愛に変わるのは早かった。

いつから骸がジョットの事を好いていたのかは骸がまだ教えてくれないから分からないがジョットが骸に愛を紡ぐのにそう時間は掛からなかった。

一つの場所に留まらない骸がジョットの傍に気が付けば居るようになった。

 

「骸」

「…ジョット、」 

 

涼やかな声がジョットを求めていた。

求められる事がこんなにも歓喜に満ちるものなのだとジョットは骸が手を伸ばしてくれるまで知る事はなかった。

だから骸にも知ってほしくてジョットは過剰なまでに骸に愛を囁くのだ。

 

「愛してるよ、骸…手を伸ばしてくれてありがとう」

「クフフ…はい」

 

物言わなかった骸はジョットが愛を紡ぐ度に、花開くように柔らかく笑みを浮かべるようになったのだった。

 

 

 

続?