mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆初ムク

ー參話ー

 

 

 

 

『一緒に暮らそう』

 

 

そう言ったⅠ世だが、骸の気持ちを尊重して強制的にあさり組で暮らさせる事はしないという。

そうは言っても子供である骸に選択肢は殆どない。

ここで拒否した所で骸の行き着く先は保護施設になるだろう。

 

あさり組で引き取られるか、青少年保護施設で成人するまでお世話になるか…この二つの選択肢の内にどれを選ぶかなんて誰でも分かりきっているだろう。

 

だけど、骸はそれでも簡単には頷けない。

守るように優しく包んでくれるⅠ世の腕の中は心地良い。

骸は残念そうに目を伏せた。

 

「…無理、です」

「何故だ…?」

 

首を左右に振った骸にⅠ世は静かに問い掛ける。

受け入れてくれようとするⅠ世の気持ちは嬉しかった。骸はⅠ世のせっかくの気持ちを踏みにじるようで言い難そうに、しかしちゃんと話した。

 

「…人が、たくさんなのは嫌いです」

 

骸は片手の人数であれば平気だが、それ以上の人間と暮らすとなると無理だった。

今までは隔離された部屋で過ごしていたし実験の時も部屋にいるのは実験を行う者、それを補佐する者、そして実験内容を記録する者の三人しかいなかった。

だから骸はあさり組の大勢の人間の気配に始終慣れなくて疲れてしまっていた。

 

この屋敷に連れられた時は疲労で気付かなかったがふと目が覚めた時に感じた複数の人間の気配と見知らぬ場所に瞬時に警戒した。

Ⅰ世が直ぐに戻ってきたから良かったがもしあと数分で戻らなかったら骸は脱走してただろう。

人の気配に敏感な骸は、人の出入りが激しいあさり組では暮らせない。

それがⅠ世の誘いを断る理由だった。

 

理由を口にすれば骸はⅠ世から離れようと身動きした。

Ⅰ世の腕が緩めば骸はそのまま抜け出そうとしたがその瞬間、Ⅰ世の腕によってグッと引き寄せられるとまたしてもⅠ世の腕の中に逆戻りした。

 

「⁈」

「そんな事か、解決策はあるぞ」

 

驚く骸にⅠ世は安堵させるような笑みを浮かべた。

嫌われているから共に暮らせないと言われるんじゃないかと思って安心したよ、とⅠ世は吞気に言うが人間嫌いの骸がⅠ世と暮らせる解決策なんて、あると云うのだろうか。

骸はⅠ世の言う解決策が何なのか、考えもつかない。

するとⅠ世がなんの難しい事はないように、軽く言った。

 

「骸の為に離れを建てよう」

「は?」

 

思わず素っ頓狂な声が出る骸。

優しく微笑むⅠ世だけど言ってる事はかなり滅茶苦茶だ。

人と一緒に暮らせないだけで、ましてや自分の子供でも身内でもないのに骸一人の為だけに離れを建てようだなんて普通は思わない。

絶句する骸を腕にⅠ世は立ち上がって部屋を出る。

 

「そうと決まればGに頼みに行こうか」

 

既に決定事項みたいでⅠ世の足取りに迷いはない。

建てられるのは遅くても一ヶ月だが、その間は本家じゃ休まらないだろ?だからその間は俺とホテルでもガレッジにでも泊まろう。

出来たら骸に似合う服も買いたいし、綺麗な景色を見せてやりたい。

Ⅰ世は骸に楽しそうに話す。

 

「…何故、そこまで?」

 

理解出来ません、そう顔に書いてある骸にⅠ世は言う。

 

「ただ、お前に居て欲しいだけだ」

 

Ⅰ世の言葉に骸はもう、拒否する言葉を持たない。

骸自身を望む言葉に胸がキュッと痛くなって締め付けられた。

目の奥が熱くなり視界が揺らぐのに骸は自分が泣きそうになっている事に気付く。

絶望し泣いて叫んでも結局何も変わらないと知っていたから最後に泣いたのはいつだったか思い出せないのに…今、涙が零れてしまいそうでまだ涙を流せるのだと知った。

 

しかし、達観する事に慣れてしまった骸は今更泣く事に羞恥を覚える。

まだ子供だから泣いても問題はないけど骸は隠すようにⅠ世の首元に顔を埋めた。

 

そんな骸に気付きながらもⅠ世は何も言わずにゆっくり足を動かした。 

 

 

 

***

 

「G、今大丈夫か?」

「あ?どうしたⅠ世」

 

中庭で部下と話していたGの背中にⅠ世は声を掛けると部下に一言掛けて下がらせたGはⅠ世とⅠ世に抱き上げられた骸を振り返る。

Ⅰ世は骸に顔を向けるとGを紹介する。

 

「彼はGだ。骸を連れた時、傍に居たんだが覚えてるか?」

「…はい、一番最初に部屋に入ってきた人ですね」

「そうだ…ちゃんと覚えてんだな。Gだ、Ⅰ世と右腕だから今後もよく会う事になるだろ、まぁよろしくな」

 

Gにならい、骸も名を名乗って頷いた。

Ⅰ世の右腕ならこれからも顔を合わせるのだろう、自分の引き取りの手続きや離れを建てる話にも深く関わっていてⅠ世の信頼が厚いみたいだ。

 

軽く挨拶だけを交わしてGはⅠ世の要件を聞く。

Ⅰ世はニコリと、簡潔に言った。

 

「離れを建てようと思ってる。それと離れが出来るまでの間は骸とホテルに泊まろうと思ってるからそのつもりで動いてくれるか?」

「…あ"?」

 

ドスの利いた声がGから出た。

一般の人がそれを聞いたらビビって震え上がるのだろうが幼馴染であるⅠ世に慣れたもんで微笑み返すだけだった。

 

骸は先程同じ気持ちだったのでGの反応が当然の反応だと分かってるからこの二人は仲が良いのですね、と思うだけだった。

 

 

「…それまたいきなりの話だな」

「悪いな、G。仕事は電話からでも出来るしもしの場合はホテルから向かう。手配だけで良いから頼めるか?」

 

Ⅰ世が頼むとGは長い溜息を吐いた。

髪をぐしゃりとかき乱しギロッとⅠ世を睨み付ける。

 

「てめぇは一度言い出すと聞きやしねぇからな。しょうがねぇ、やってやる」

「ありがとう、G」

 

どうせソイツの為だろ?とGが骸を示すとⅠ世は微笑んだ。

了承を得ればⅠ世は、じゃあこのまま俺たちはホテルに向かうから何かあったら連絡をくれ。と身を翻す。

 

「ホテルは俺で用意する。運転手に場所を教えとくからお前らは必要なものだけ持っていけ」

「何から何まで助かるよ」

 

礼を言うⅠ世にシッシっと耳にスマホを当てながら追い払い仕草をするGにⅠ世は可笑しそうに笑う。

Ⅰ世のやる事に否を言わず多くを聞かないGに骸は不思議な感覚を覚える。

 

Ⅰ世は骸を抱えたまま自室に戻り、必要なものだけを持っていく。

必要なものと言ってもⅠ世は出先で何でも揃ってしまうから必要なのは連絡手段である携帯と財布だけだ。

骸に関しては何も所持品がないから何も持っていくものがない。

あっという間に準備を終えたからⅠ世は苦笑いする。

 

「ふふ、まるでシングルファーザーが夜逃げする気持ちだな」

「…僕は貴方の子供じゃないですけど」

 

携帯と財布を懐にしまい、Ⅰ世は準備を待っていてくれた骸をまた抱き上げる。

自分を子供に例えるⅠ世に骸は訂正するとⅠ世はニコリとこれからなるのだから何も間違っちゃいないよ、と返す。

 

「もの好きな人ですね…」

「そうか?」

 

俺は幸運だよ、骸に会えたのだから。と恥ずかし気もなく口にするⅠ世に骸はそうですか、と答えるしかなかった。

二人はそのままあさり組を出て表に止まってる車に乗り込む。

 

チラッとあさり組の屋敷を車の中から眺めると敷地が広く屋敷も大きかった。

なるほど。これなら確かに離れをひとつ建てても広さ的に何の問題もないのだろう。

骸は納得した。

 

運転席にいる部下が出します、と一言Ⅰ世に声を掛けてから車は発進した。

流れる景色を横目に見ながら骸は何故まだⅠ世に抱き上げられたままなのか考える。

後頭席は広いのにⅠ世は骸を隣に下ろす気配もなく膝に座らせてたまま外をゆったり眺めている。

骸はお喋り好きではないからⅠ世が何かと聞いてこないのは有り難いが…何故離さない。と疑問に思う。

 

Ⅰ世と会ってから自分の足で歩いたのはどれくらいだ?と骸は数時間前を振り返るが歩いた記憶がなかった。

自分の足で立ったりはした。お風呂に入った時は自分の足で浴室に入ったし数歩は移動したがあれは歩いたって数えて良いのだろうか。

浴室は広かったけど、精々が浴室だ。

 

その後はやはりⅠ世に抱き上げられて移動したから骸は自分の足で歩いてなかった。

振り返ってみると骸は眉間に皺を寄せた。

これは由々しき事態で、好ましくない。

 

骸の纏う空気が変わったのに気付いたⅠ世が外に向けてた視線を骸に向ける。

 

「どうかしたか骸」

「……僕は、一人で歩けますし一人で座れます」

 

骸が不満な表情でⅠ世を振り向き見上げればⅠ世はきょとんと目を瞬かせる。

その表情に骸は何故不思議そうな顔をするんですか…と目を細める。暗にさっさと下ろしてくださいと告げればⅠ世は離す所かギュッと骸を抱き締めた。

 

「……僕の話、聞いてましたか?別に逃げやしません」

「聞いてた」

 

聞いてたなら何故下ろしてくれないんですか、とⅠ世の言動に骸は不可解です。と零す。

もしかして逃げ出すとでも思われてたから一時も離さないのか?と思う骸だったがⅠ世は骸をぎゅうぎゅうっと抱き締めて声を潜める。

 

「…骸は今何歳だ?分かるか」

「?…11歳です」

「11歳か…」

 

骸は大人びているな。と言ったⅠ世に骸はその言葉の真意が分からない。

それが何だと云うのですか、と尋ねればⅠ世はまだ甘えて良い年頃だろ?と返した。

 

「甘える…?」

 

まるで初めて聞いた言葉かのように骸は目を見開く。

確かに、子どもは親に甘えるのも仕事だとどっかの本に書いてはあったが、それは一般的な家庭においての話だろう。

それは、今まで骸には関係のない言葉だった。

そしてこれからも関係ない言葉だと、頭の隅に追いやっていた言葉だ。

 

「…俺からしたら骸はまだまだ甘えてもいい子供だ」

 

戸惑う骸に優しくⅠ世はゆっくり甘えていこう。と抱き締める。

ずっと抱えているのは甘やかしているからなのだが骸は甘える方法を知らないのでⅠ世の行動に疑問を抱いた。

だからⅠ世がこれから少しずつ教えていくつもりで抱き締めたり、抱き上げたりしてるのだ。

こうやって先ずは甘えて良いんだ、と。

 

「こうやって抱き上げられるのは嫌いか?」

「…他の人でしたら、嫌だと思います…でも貴方なら平気です」

 

Ⅰ世の手は優しく暖かい。

会って間もないというのに、理解出来ない人だと思っていたのにⅠ世の傍にいると無条件で安心してしまう。

Ⅰ世の傍なら自分は安全なのだと思ってしまうのが不思議だった。

 

「俺なら平気なのか、嬉しいな」

 

でもいずれは他の人とも慣れるようにしょう、お前に任せたい子が居るんだ。と骸の告白にⅠ世は嬉しそうに微笑み骸の白く柔らかい頬を指の背で撫でる。

Ⅰ世の腕の中にいる事にもう疑問を抱かない骸はⅠ世の任せたい子、という言葉に貴方の子供ですか、と首を傾げる。

 

「俺の孫だ」

「お孫さん、ですか…その子を僕にどうしろと?」

「何も。ただ遊び相手になって欲しい」

 

大丈夫、心優しい子だよ。と孫の綱吉を思い浮かべてるのかⅠ世の表情は優しい。

骸は遊び相手…遊ぶということ自体した事がない僕が幼い子の遊び相手になる訳ないと思うんですけど。と聞くがⅠ世はそれでも大丈夫だと答える。

 

 

『一緒に暮らそう』

 

 

そう言ったⅠ世だが、骸の気持ちを尊重して強制的にあさり組で暮らさせる事はしないという。

そうは言っても子供である骸に選択肢は殆どない。

ここで拒否した所で骸の行き着く先は保護施設になるだろう。

 

あさり組で引き取られるか、青少年保護施設で成人するまでお世話になるか…この二つの選択肢の内にどれを選ぶかなんて誰でも分かりきっているだろう。

 

だけど、骸はそれでも簡単には頷けない。

守るように優しく包んでくれるⅠ世の腕の中は心地良い。

骸は残念そうに目を伏せた。

 

「…無理、です」

「何故だ…?」

 

首を左右に振った骸にⅠ世は静かに問い掛ける。

受け入れてくれようとするⅠ世の気持ちは嬉しかった。骸はⅠ世のせっかくの気持ちを踏みにじるようで言い難そうに、しかしちゃんと話した。

 

「…人が、たくさんなのは嫌いです」

 

骸は片手の人数であれば平気だが、それ以上の人間と暮らすとなると無理だった。

今までは隔離された部屋で過ごしていたし実験の時も部屋にいるのは実験を行う者、それを補佐する者、そして実験内容を記録する者の三人しかいなかった。

だから骸はあさり組の大勢の人間の気配に始終慣れなくて疲れてしまっていた。

 

この屋敷に連れられた時は疲労で気付かなかったがふと目が覚めた時に感じた複数の人間の気配と見知らぬ場所に瞬時に警戒した。

Ⅰ世が直ぐに戻ってきたから良かったがもしあと数分で戻らなかったら骸は脱走してただろう。

人の気配に敏感な骸は、人の出入りが激しいあさり組では暮らせない。

それがⅠ世の誘いを断る理由だった。

 

理由を口にすれば骸はⅠ世から離れようと身動きした。

Ⅰ世の腕が緩めば骸はそのまま抜け出そうとしたがその瞬間、Ⅰ世の腕によってグッと引き寄せられるとまたしてもⅠ世の腕の中に逆戻りした。

 

「⁈」

「そんな事か、解決策はあるぞ」

 

驚く骸にⅠ世は安堵させるような笑みを浮かべた。

嫌われているから共に暮らせないと言われるんじゃないかと思って安心したよ、とⅠ世は吞気に言うが人間嫌いの骸がⅠ世と暮らせる解決策なんて、あると云うのだろうか。

骸はⅠ世の言う解決策が何なのか、考えもつかない。

するとⅠ世がなんの難しい事はないように、軽く言った。

 

「骸の為に離れを建てよう」

「は?」

 

思わず素っ頓狂な声が出る骸。

優しく微笑むⅠ世だけど言ってる事はかなり滅茶苦茶だ。

人と一緒に暮らせないだけで、ましてや自分の子供でも身内でもないのに骸一人の為だけに離れを建てようだなんて普通は思わない。

絶句する骸を腕にⅠ世は立ち上がって部屋を出る。

 

「そうと決まればGに頼みに行こうか」

 

既に決定事項みたいでⅠ世の足取りに迷いはない。

建てられるのは遅くても一ヶ月だが、その間は本家じゃ休まらないだろ?だからその間は俺とホテルでもガレッジにでも泊まろう。

出来たら骸に似合う服も買いたいし、綺麗な景色を見せてやりたい。

Ⅰ世は骸に楽しそうに話す。

 

「…何故、そこまで?」

 

理解出来ません、そう顔に書いてある骸にⅠ世は言う。

 

「ただ、お前に居て欲しいだけだ」

 

Ⅰ世の言葉に骸はもう、拒否する言葉を持たない。

骸自身を望む言葉に胸がキュッと痛くなって締め付けられた。

目の奥が熱くなり視界が揺らぐのに骸は自分が泣きそうになっている事に気付く。

絶望し泣いて叫んでも結局何も変わらないと知っていたから最後に泣いたのはいつだったか思い出せないのに…今、涙が零れてしまいそうでまだ涙を流せるのだと知った。

 

しかし、達観する事に慣れてしまった骸は今更泣く事に羞恥を覚える。

まだ子供だから泣いても問題はないけど骸は隠すようにⅠ世の首元に顔を埋めた。

 

そんな骸に気付きながらもⅠ世は何も言わずにゆっくり足を動かした。 

 

 

 

***

 

「G、今大丈夫か?」

「あ?どうしたⅠ世」

 

中庭で部下と話していたGの背中にⅠ世は声を掛けると部下に一言掛けて下がらせたGはⅠ世とⅠ世に抱き上げられた骸を振り返る。

Ⅰ世は骸に顔を向けるとGを紹介する。

 

「彼はGだ。骸を連れた時、傍に居たんだが覚えてるか?」

「…はい、一番最初に部屋に入ってきた人ですね」

「そうだ…ちゃんと覚えてんだな。Gだ、Ⅰ世と右腕だから今後もよく会う事になるだろ、まぁよろしくな」

 

Gにならい、骸も名を名乗って頷いた。

Ⅰ世の右腕ならこれからも顔を合わせるのだろう、自分の引き取りの手続きや離れを建てる話にも深く関わっていてⅠ世の信頼が厚いみたいだ。

 

軽く挨拶だけを交わしてGはⅠ世の要件を聞く。

Ⅰ世はニコリと、簡潔に言った。

 

「離れを建てようと思ってる。それと離れが出来るまでの間は骸とホテルに泊まろうと思ってるからそのつもりで動いてくれるか?」

「…あ"?」

 

ドスの利いた声がGから出た。

一般の人がそれを聞いたらビビって震え上がるのだろうが幼馴染であるⅠ世に慣れたもんで微笑み返すだけだった。

 

骸は先程同じ気持ちだったのでGの反応が当然の反応だと分かってるからこの二人は仲が良いのですね、と思うだけだった。

 

 

「…それまたいきなりの話だな」

「悪いな、G。仕事は電話からでも出来るしもしの場合はホテルから向かう。手配だけで良いから頼めるか?」

 

Ⅰ世が頼むとGは長い溜息を吐いた。

髪をぐしゃりとかき乱しギロッとⅠ世を睨み付ける。

 

「てめぇは一度言い出すと聞きやしねぇからな。しょうがねぇ、やってやる」

「ありがとう、G」

 

どうせソイツの為だろ?とGが骸を示すとⅠ世は微笑んだ。

了承を得ればⅠ世は、じゃあこのまま俺たちはホテルに向かうから何かあったら連絡をくれ。と身を翻す。

 

「ホテルは俺で用意する。運転手に場所を教えとくからお前らは必要なものだけ持っていけ」

「何から何まで助かるよ」

 

礼を言うⅠ世にシッシっと耳にスマホを当てながら追い払い仕草をするGにⅠ世は可笑しそうに笑う。

Ⅰ世のやる事に否を言わず多くを聞かないGに骸は不思議な感覚を覚える。

 

Ⅰ世は骸を抱えたまま自室に戻り、必要なものだけを持っていく。

必要なものと言ってもⅠ世は出先で何でも揃ってしまうから必要なのは連絡手段である携帯と財布だけだ。

骸に関しては何も所持品がないから何も持っていくものがない。

あっという間に準備を終えたからⅠ世は苦笑いする。

 

「ふふ、まるでシングルファーザーが夜逃げする気持ちだな」

「…僕は貴方の子供じゃないですけど」

 

携帯と財布を懐にしまい、Ⅰ世は準備を待っていてくれた骸をまた抱き上げる。

自分を子供に例えるⅠ世に骸は訂正するとⅠ世はニコリとこれからなるのだから何も間違っちゃいないよ、と返す。

 

「もの好きな人ですね…」

「そうか?」

 

俺は幸運だよ、骸に会えたのだから。と恥ずかし気もなく口にするⅠ世に骸はそうですか、と答えるしかなかった。

二人はそのままあさり組を出て表に止まってる車に乗り込む。

 

チラッとあさり組の屋敷を車の中から眺めると敷地が広く屋敷も大きかった。

なるほど。これなら確かに離れをひとつ建てても広さ的に何の問題もないのだろう。

骸は納得した。

 

運転席にいる部下が出します、と一言Ⅰ世に声を掛けてから車は発進した。

流れる景色を横目に見ながら骸は何故まだⅠ世に抱き上げられたままなのか考える。

後頭席は広いのにⅠ世は骸を隣に下ろす気配もなく膝に座らせてたまま外をゆったり眺めている。

骸はお喋り好きではないからⅠ世が何かと聞いてこないのは有り難いが…何故離さない。と疑問に思う。

 

Ⅰ世と会ってから自分の足で歩いたのはどれくらいだ?と骸は数時間前を振り返るが歩いた記憶がなかった。

自分の足で立ったりはした。お風呂に入った時は自分の足で浴室に入ったし数歩は移動したがあれは歩いたって数えて良いのだろうか。

浴室は広かったけど、精々が浴室だ。

 

その後はやはりⅠ世に抱き上げられて移動したから骸は自分の足で歩いてなかった。

振り返ってみると骸は眉間に皺を寄せた。

これは由々しき事態で、好ましくない。

 

骸の纏う空気が変わったのに気付いたⅠ世が外に向けてた視線を骸に向ける。

 

「どうかしたか骸」

「……僕は、一人で歩けますし一人で座れます」

 

骸が不満な表情でⅠ世を振り向き見上げればⅠ世はきょとんと目を瞬かせる。

その表情に骸は何故不思議そうな顔をするんですか…と目を細める。暗にさっさと下ろしてくださいと告げればⅠ世は離す所かギュッと骸を抱き締めた。

 

「……僕の話、聞いてましたか?別に逃げやしません」

「聞いてた」

 

聞いてたなら何故下ろしてくれないんですか、とⅠ世の言動に骸は不可解です。と零す。

もしかして逃げ出すとでも思われてたから一時も離さないのか?と思う骸だったがⅠ世は骸をぎゅうぎゅうっと抱き締めて声を潜める。

 

「…骸は今何歳だ?分かるか」

「?…11歳です」

「11歳か…」

 

骸は大人びているな。と言ったⅠ世に骸はその言葉の真意が分からない。

それが何だと云うのですか、と尋ねればⅠ世はまだ甘えて良い年頃だろ?と返した。

 

「甘える…?」

 

まるで初めて聞いた言葉かのように骸は目を見開く。

確かに、子どもは親に甘えるのも仕事だとどっかの本に書いてはあったが、それは一般的な家庭においての話だろう。

それは、今まで骸には関係のない言葉だった。

そしてこれからも関係ない言葉だと、頭の隅に追いやっていた言葉だ。

 

「…俺からしたら骸はまだまだ甘えてもいい子供だ」

 

戸惑う骸に優しくⅠ世はゆっくり甘えていこう。と抱き締める。

ずっと抱えているのは甘やかしているからなのだが骸は甘える方法を知らないのでⅠ世の行動に疑問を抱いた。

だからⅠ世がこれから少しずつ教えていくつもりで抱き締めたり、抱き上げたりしてるのだ。

こうやって先ずは甘えて良いんだ、と。

 

「こうやって抱き上げられるのは嫌いか?」

「…他の人でしたら、嫌だと思います…でも貴方なら平気です」

 

Ⅰ世の手は優しく暖かい。

会って間もないというのに、理解出来ない人だと思っていたのにⅠ世の傍にいると無条件で安心してしまう。

Ⅰ世の傍なら自分は安全なのだと思ってしまうのが不思議だった。

 

「俺なら平気なのか、嬉しいな」

 

でもいずれは他の人とも慣れるようにしょう、お前に任せたい子が居るんだ。と骸の告白にⅠ世は嬉しそうに微笑み骸の白く柔らかい頬を指の背で撫でる。

Ⅰ世の腕の中にいる事にもう疑問を抱かない骸はⅠ世の任せたい子、という言葉に貴方の子供ですか、と首を傾げる。

 

「俺の孫だ」

「お孫さん、ですか…その子を僕にどうしろと?」

「何も。ただ遊び相手になって欲しい」

 

大丈夫、心優しい子だよ。と孫の綱吉を思い浮かべてるのかⅠ世の表情は優しい。

骸は遊び相手…遊ぶということ自体した事がない僕が幼い子の遊び相手になる訳ないと思うんですけど。と聞くがⅠ世はそれでも大丈夫だと答える。

 

「綱吉に会えるのはまだ数日後だろうな。屋敷に戻るのは離れが出来る一ヶ月後だからそれまでに行ける所には骸を連れていってやろう」

 

骸は頭の回転が良さそうだし、大人が分かる知識をもってるだろうな。

だから俺はまだ知らない知識と経験、それと一緒に体験をしょう。

綱吉は寂しがりやだからもしかしたら早めに会えるかもな、とⅠ世は笑う。

 

Ⅰ世と骸を乗せる車はホテルへ向かって人が賑わう賑やかな大通りを進んで行った。

 

 

 

 

「綱吉に会えるのはまだ数日後だろうな。屋敷に戻るのは離れが出来る一ヶ月後だからそれまでに行ける所には骸を連れていってやろう」

 

骸は頭の回転が良さそうだし、大人が分かる知識をもってるだろうな。

だから俺はまだ知らない知識と経験、それと一緒に体験をしょう。

綱吉は寂しがりやだからもしかしたら早めに会えるかもな、とⅠ世は笑う。

 

Ⅰ世と骸を乗せる車はホテルへ向かって人が賑わう賑やかな大通りを進んで行った。

 

 

 

 

◆初ムク

 

−弐話−

 

 

 


ほんの少し眠っただけだが、子供は直ぐに目を覚ました。
着替えを用意させてたⅠ世が自室に戻ると子供が身体を起しているのに気付いて直ぐに近寄る。

 

「起きたのか、まだ疲れてるだろうから寝てて良かったんだぞ」

 

子供の横に座り頭を優しく撫でれば子供は視線をⅠ世に向ける。
その目は真っ直ぐにⅠ世を見つめ、Ⅰ世すは子供の目が澄んでいる事に驚いた。

あの屋敷では部屋が暗くよく見てなかったが明るい自室では子供の澄んだ瞳の色がよく分かる。
親に利用されていたとしても子供の目は死んでおらず、凛としていた。

 

「…僕は何の為に連れてこられたのですか」
「!」

 

ハッキリとした声で子供が初めて声を発した。
思わずⅠ世は目を見開いたが直ぐに笑って返事を返す。

 

「ここはあさり組の屋敷。俺は既に引退した身だがここの当主でもある沢田家康だ。けど、ジョットが本名なんだ」

 

初めに名を名乗れば子供は首を傾げた。

 

「…貴方は、ぷりーもと呼ばれてましたけど」
「ふふ、それは記号みたいなものだよ。あさり組を創設したのは俺だからな。皆俺をⅠ世と呼ぶ」

 

何の問題もなく言葉を交わせることにⅠ世はホッとする。
酷い扱いを受けただろうにまるで何もなかったかのような至って普通に見える子供に、その強い精神力に驚かされるばかりだ。

 

「あぁ…被験番号みたいなものですか」

 

一瞬、Ⅰ世は固まってしまった。
平然と答えた子供を凝視してしまう。至って普通な訳がなかった。

 

「…それは、ちょっと違う。皆が俺をⅠ世と呼ぶ時は親しみを込めて呼んでいるんだ。被験番号だと親しみはない、そこには何の感情もないからだ」

 

子供の言葉をやんわりと否定しⅠ世は小さな手を包んだ。
今度は怯えず子供はⅠ世を見上げる。

 

「だから俺はお前の名前が知りたい。教えてくれるか?」
「…骸」

 

ぽつりと、小さな声で子供は返した。
小さくて聞き逃してしまう程だったがⅠ世はちゃんと拾い上げた。

 

「骸?それがお前の名前か…」

 

骸。

その名の意味を知らないⅠ世ではない。
だけど、たった一つの子供の名前を否定出来る訳がない。
Ⅰ世は子供、骸を見下ろしその名を大切に呼んで口にした。

 

「骸」
「…はい、六道骸です」

 

余り呼ばれ慣れてないのだろう、居心地悪そうに骸は視線を逸らしてしまった。

大人みたいにどこか達観した雰囲気をしてるかと思えば、子供らしからぬ表情を見せる骸にⅠ世は今まで
どんな扱いを受けていたのか窺い知る。
子供…いや、先ず人間という見方で接して貰えなかったのだろう。

 

思う所は多々あったが、起きてしまった事を今更考えても仕方ない 。
Ⅰ世は思考を切り替えて手に持っていた骸の為の着替え、浴衣を広 げて骸に見せた。

 

「今の服は少し汚れているから詳しい話の前にお風呂に入って着替えよう。浴衣でも大丈夫か?」

 

紫色の浴衣に蓮の花が散りばめられた柄を見て骸は頷いた。
骸が頷けばⅠ世はここに来る時と同様に手を伸ばすとひょいっと軽々と骸を抱き上げた。

人の温もりに接してなかった骸は困ったような表 情をする。

 

「…僕は、一人で歩けます」
「家の中は案外広い。自分で歩くよりも俺に抱えられて移動した方が楽だぞ」

 

遠慮なく俺を使ってくれ、と組の当主にあるまじき発言をするⅠ世。
幼いながらも組織の序列を理解している骸もそれはダメだと思いますけど…と内心思うが歩き出したⅠ世に口に出来なかった。

抱き上げられた事がない骸は手をどこに置けばいいのか分からず身体の横にぶら下げていたのだけどⅠ世が落ちないように手は首に回すんだと教えれば骸は手を回す…?と吃驚に目を開く。

 

戸惑う骸に一回立ち止まって、手を伸ばして良いんだと伝える。
急かさずに見守っていると手を回さない限りここでずっと待ってる だろう事を予想してしまい数秒くらい逡巡したのち、おずおずと骸は手を伸ばしてⅠ世の首元に腕を回した。

 

「うん、これで落ちる心配はないだろう?」 

 

微笑むⅠ世に骸は返す言葉がなかった。
抱き上げられた事がないから安全も危険も理解出来ない。
だけど、Ⅰ世がそう言うのならそうなのだろう。
骸は小さく頷くだけだった。

 

こんな風に優しくされた事はない。
訳が分からなくてどんな意図があるのか、罠なのかどうかも判断出来ない骸は顔に出さないが少なからず不安を覚えていたけど何故かⅠ世の 微笑む顔を
見ると大丈夫なのだと思えてしまう。

 

浴室に着くとⅠ世は骸を下ろしてお湯の出し方とかを軽く教える。
本当なら誰か女性に任せたいが生憎と女性の部下や知り合いが運悪く今は出張らってていないのだ。

 

「一人で大丈夫か…?」
「…大丈夫です」

 

口に出さなかったが「一人で歩けない子供じゃありません」と骸の表情が物語っていた。

それに気付いてるⅠ世だけど骸が思ってるよりも骸 の身体は瘦せて弱っているのだ。
何かの拍子で倒れてしまいそうでⅠ世は心配するが過度な心配は骸を傷つかねない。

 

「扉の前で待ってるからゆっくりと入っておいで。分からない事があれば声を掛けて良いから」

 

浴室の中へと背中を押せば骸は従った。
暫くすると水の流れる音がして問題なくシャワーを浴びてるようだ。

取り敢えず何かあった時に早く対処出来るようにⅠ世は扉に背を預けて待つ。
すると向こう側から気配を感じるとGがⅠ世の所まで来た。どうやら後始末の指示出しが終わったらしい。


「G」
「Ⅰ世。あのガキは?」
「お風呂に入ってるよ。俺は門番だ」

 

Gは顔をしかめた。
組の当主が何が門番だ、とでも言うようにGはⅠ世を見返す。
しかしⅠ世は至って真面目なようで可笑しな事でも言ったか?と不思議そうに首を傾げる。

 

こういう奴だった…とGは最早諦めた。
早々に切り替えたGは要件を伝える。

 

エスネの件だが…まだ詳しい事は分からねぇ。だが残党も居ないようだし子供が被害を受ける心配はない。生き残りあのガキだけだ 」
「そうか…報告ありがとう。更に被害が出る前に見付けて良かったよ、骸の事も万が一の場合の時に追われる心配はないな」
「骸?」

 

初めて聞く名前にGが反応する。
まだ言ってなかったとⅠ世も頷いて骸と会話した事を教えた。

 

六道骸。それがあの子の名前なんだそうだ。幼いのに強い精神力を持っている子だったよ」
「喋れたのか…あんな所に居たにも関わらず凄いな」

 

あぁ、俺も初めて声を聞いた時は驚いたよ。とⅠ世は笑みを浮かべる。
感嘆する二人だったけど、直ぐに会話が途切れる。

Gがぽつりと零す。

 

「六道、骸か…六道輪廻の事だろうな」
「そうだろうな…骸といのも、死に輪廻転生を意味をする。エストラが実験していたのは輪廻転生の事に関することなのかもしれん」
「だとしてもアイツはもう居ねぇ。あの長屋の始末も指示したしもうその研究が世に出る事はねぇから安心しろ」

 

実験の内容がどうであれ、もうその研究を統率する者はいない。
子供が犠牲になることをあさり組は見過さないし許さない。そうだろう?とGがⅠ世の意思を確認すれば、Ⅰ世は頷いた。

 

Ⅰ世が真剣な表情で頷けばGはふっと笑みを浮かべる。
弱い者の味方であれ、そんな思想を掲げて出来たのがあさり組だ。
その意思はⅠ世が一番強い。だからたくさんの人間がⅠ世の下に就きたいと後を絶たない。

もう引退したのにな…。

 

報告だけ言いに来た、とGは仕事に戻るのに背を向けて行ってしまった。
その背を見送ったⅠ世はまた壁に背を預けようとした所に丁度浴室の扉が内側から軽くノックされた。

 

「骸?浴び終わったのか」

 

声を掛けると返事が返ってきた。
中に入って良いか聞くと是と返り、扉を開けて中に入ったⅠ世は骸がバスタオルに包まれたままの姿なのに目を瞬かせる。

そして浴衣の着方が分からないのだと直ぐに察した。

 

「少しはさっぱりしただろ。おいで、浴衣を着せてあげよう」

 

手招くと骸は自分の為に用意された浴衣を腕に抱えながらⅠ世の所まで行った。
浴衣を受け取り広げて骸の背後に回ると腕から袖を通させる。

そのまま前に移動し、前を合わせると骸にバスタオルを外すように言えば骸は紐を通す穴から器用に手を入れてタオルを落として外した。

Ⅰ世はタオルを横に除けてあっという間に浴衣を着付ける。普段着が和装だから浴衣や着物の着付けは生活の一部となっており、構図さえ分かれば女性の着付けも出来る。

 

今回は浴衣で骸は子供だから帯は柔らかい布製のもので軽く結んだだけのものだ。

 

「終わったぞ。良く似合っている」

「ありがとうございます…」

 

浴衣に身を包んだ己を見下ろして珍しそうに目を瞬かせる骸にⅠ世 は微笑む。
腕を軽く上げて袖を揺らす姿は年相応で微笑ましい。
興味を持ってる所に水を差すようで申し訳なく思うがⅠ世はしゃが んだまま骸に手を伸ばす。

 

「おいで骸。湯冷めする前に部屋に戻ろう」
「…一人で、」
「駄目だ、おいで」

 

一人で歩けます、と首を左右に振り断ろうとした骸を遮ってⅠ世は 手を伸ばしたまま待つ。
遮られて骸は困惑した表情を見せる。


何故そこまで抱き上げようとするのか分からなかった。
歩けない子供じゃあるまいし一体何だと言うのか。

Ⅰ世の行動が理 解できず不可解な事に骸は黙ってしまい動けなくなる。
骸は親に愛情を注いで貰えなかったから知らないだけで、ただⅠ世 は骸を甘やかしてるだけだ。

 

「…嫌か?」

 

Ⅰ世が微動だにしない骸に眉を下げて寂しそうにした。
何でそんな悲しそうにするのか分からなかった骸だけど、Ⅰ世に抱 き上げられるのは嫌ではない事はハッキリしていたから戸惑いつつ もⅠ世の腕の中に自ら飛び込んだ。

 

「…いや、とかではないです…」

 

さっき教えられたようにⅠ世の首に腕を回して骸はポツリと零した 。
頑張って行動に移し、拒否してる訳ではないと意思表示を示す骸に Ⅰ世は参ってしまう。
会って数時間だけど既に愛おしくて仕方なかった。

 

「そうか…ありがとう骸」

 

感謝されるような事は何もないですけど…?と首を傾げた骸はそれ でもただ頷いた。
Ⅰ世は骸を左腕に座らせすくい上げるように持ち上げれば肩と首元 に腕を回して骸は安定する姿勢を取った。
まだちょっと恐る恐るっていう感じではあったが自ら安定な姿勢を 取るのに慣れて来たかな?と思うⅠ世。

 

「お腹は空いてないか?」
「大丈夫です…」

 

俺に遠慮してないか?と抱き上げてる事で視線が近くなった骸のオ ッドアイを見つめれば余り食べないんです、 と遠慮してる訳じゃないと骸は返す。
こんなに軽いのに食べないのは身体に悪い、本当に倒れてしまうぞ とⅠ世は心配する。

 

戻る道すがら骸が食べられる軽いものを部下に頼んでから自室に着 く。
寝室の隣にある広間に骸を下ろしローテーブルの前にある座椅子に 座るよう言えば骸はちょこんと腰を下ろした。
そしてⅠ世は向かい側にある座布団を引っ張り骸の隣に座った。
骸がⅠ世を見上げるとⅠ世はニコリと微笑む。

 

「それでは今後の話をしょうか」
「…はい」

 

本当ならGも同席させるつもりだったが骸の事を考えてⅠ世は断っ た。
どうやら骸は人と接するのが苦手らしく避けるのだ。骸の為に食事 を頼んだ際も部下が近付いた瞬間に顔を背けた。
人が怖い訳ではないようだが好奇心のある視線が嫌いみたいだ。
二人だけの広間でⅠ世は骸と向き合う。

 

「俺は骸を引取りたいと思っててな…既に手続きをお願いしてある 」
「僕を、ですか…」
「あぁ、一緒に暮らそう骸」


Ⅰ世は真っ直ぐ骸を見つめて話した。
骸はⅠ世の自分を見つめる優しい眼差しからそっと視線を反らす。

 

理解が出来ないーーー…。 

 

理解出来ないもの程、恐ろしいものない。
両親と呼べる者が何故あんな狂気的な事をしたのかは許されないが 理解は出来た。


人は脆い。何かに縋っていないと一人では立ち上がれない者が殆どだ。
両親は死に怯え、死後人間はどこへ逝ってしまうのか知りたがった。

 

天国というものが存在するなら良い。
だけど地獄という場所が本当に存在するのなら殆どの人間はいずれ 地獄に落ちる。
生まれて死ぬまで一つも罪を犯さない人間はごく一部だけだ。


両親は天国じゃなく間違いなく地獄の炎に焼かれる。

それを分かっ ている両親は地獄の炎に焼かれるのに怯えて地獄への切符をどうにか無効にしょうと 子供を使い、実験を繰り返し行い地獄の存在を確実にするのと同時に地獄を覗いた子 供を生贄に地獄逝きを帳消しにしょうとしていた。

 

ただの人間が地獄を覗ける訳もなく度重なる実験で子供たちは次か ら次へと死んで逝った。
骸も地獄を覗かせる為だけに産まれた子だった。
知識を与えられても愛情を与えられず、本当なら既に病んでしまっ ていても可笑しくなかったが骸は聡かった。

だから心の弱い人間はこうやって縋るし かないのだと理解して、ただ繰り返される実験を受け入れた。
エスネの人間は骸や他の子供たちをモルモットのように扱った。


逃げ出す子もいたが直ぐに捕まり立て続けに実験台にされそのまま 息絶える、そんな残虐な行為の中で育ってしまった骸は優しさなど、知らなかった。

 

柔らかい笑顔を向けられた事もなかった。
だから自分に微笑み掛けるⅠ世が本当は恐ろしいものだった。

エスネの人間も笑みを浮かべていたがそれは狂気的で何をどう考え ているのか骸には分かっていた。
我と欲望に満ちた笑顔の裏は酷く醜くて醜悪な臭いがこびりつく。


逆にそっちの方が単純で分かりやすかった。

青い目をえぐり取られ て代わりに埋め込まれた「六」の文字が浮かぶ紅い眼になってから色んなものがこの 目には見えた。


人間の悪の部分である欲や感情が見えるようになってしまったのだ 。

こんな目になってしまってから両親やその部下たちの悪に満ちた感 情を見る度に嫌悪感で吐きそうだった。

こんな両親の間に産まれてしまった自分が気 持ち悪かった。
骸は、両親があさり組に裁かれて当然だと…そう思っていた。

 

後は自分を警察なり施設になどに放り込むかと思えばまさか引き取 る話になった事に骸は驚く。
こんな醜悪な血が流れる自分を好んで引き取ろうとするなんてⅠ世 の頭は思っていたよりもどこか可笑しいのかもしれない。

それかただのお人好し…そうに違いないだろう。

 

「……」
「骸」

 

何も言わなくなった骸にⅠ世は呼びかける。
そして俯く骸の肩を抱くと小さな体をそのまま引き寄せた。

 

「…お前に誰の血が流れようと俺には関係ない。ただお前にここに 居て欲しい」

 

驚いて固まる骸を膝に乗せて後ろから包むように抱き締めると幼い 骸の体はすっぽりとⅠ世の腕の中に収まった。
固まる骸だったけどⅠ世の言葉にバッと顔を上げてⅠ世を仰ぐ。

 

「……何故、」
「ふふ…俺には超直感がある。なんとなく分かるよ」

 

だから骸が気にしてる事も、分かる。
分かっているからこそ、そんな事は俺には何の問題もないし気にし なくて良い。


ただここで、一緒に暮らそう。

そうⅠ世は骸を抱き締めたまま伝える。

 

 

 

 

 

◆初ムク

−壱話−

 

 

 

いつもは耳に痛いくらいの静寂に包まれた殺風景な景色の部屋が真っ赤に染まっていた。

どこに視線を向けても視界が赤で占められチカチカと目が痛んだ。


壁に背を預けて座っていた体制から立ち上がると瘦せた小さな身体が傾いてふらついた。
寸でのところで踏ん張り倒れずに済めば子供は部屋の外に続く扉に視線を移す。

 

この部屋は静寂に包まれていたが外は騒然としていた。
男の怒鳴る音、硝子や金食器が割れる音、発砲音…この部屋と違って外はたくさんの音で溢れていた。

 

赤と青の異なる色の瞳をもつ子供はこの部屋に向かって来る複数の足音に気付きながらもその場に留まった。
逃げた所で行く当てもない、子供が一人で生きていける訳もなく聡い子供は流されるしかないと達観していた。


子供を守る親はここにはいなかった。

居たけれど、母親はこの部屋を真っ赤に染めては片隅で動かなくなった。

父親は部屋の外だったが、もうダメなのだろう。
子供は自分が一人残されたのだと理解する。


「Ⅰ世、後はここだ」

 

部屋の扉の前で足音が止まり、男の声が聞こえた。
ドアノブが回され部屋の扉が開くと外の光が薄暗い部屋に差し込み真っ赤に染まった部屋の悲惨な光景が露わになる。

 

「こりゃあ…また派手に死んだな」

 

入ってきた一人の男、赤い髪をした顔の右側に刺青を彫った方が部屋の惨状を見て呆れたように零し、顔をしかめた。
すると赤い髪の男の後ろにいたもう一人の青年が前に出て部屋の惨状を見るよりも早く、ただ突っ立っていた子供に近付き床が汚れているにも関わらず膝を付いた。

 

「おい、Ⅰ世!」
「G、子供だ」
「…ったく、お前は…」

 

赤い髪の男、Gは仕方なさそうに溜息をつき淡い金髪の青年、Ⅰ世の背中の前に立った。

いつでも守れるようにだ。

 

Ⅰ世はそんな心配性なGに小さく笑みを浮かべ、何事にも全く興味なさそうに空虚を見つめる子供に顔を向ける。
部屋は真っ赤に染まっており、母親と呼ばれる者は動かないが子供には傷はなかった。

 

傷はなかった…けれど子供は随分と貧弱だった。
余り食べてないのか身体はやせ細っていて触れただけで崩れてしまいそうだった。

けれど一番に目を引いたのが異なる色の瞳だった。
左目は深い海の色を連想させ、右目は血の紅い色に「六」の文字が浮かび上がっていた。


自然に出るものじゃないと、一目で分かった。

左目の周りに薄っすらと手術跡が残っており、Ⅰ世とGは子供が実験に使われたのだと察した。


「…エストラが人を使った実験をしているという話は
本当だったな。まさか自分の娘まで実験台にするとは思わなかったが…どうかしてるぜ…」
「あぁ…こんな小さな子まで犠牲にするなんて許さない…」

 

Ⅰ世は無表情に見つめ返す子供を痛ましげに見つめ、手を伸ばした。
子供は不思議そうに目を瞬かせるとⅠ世の手が優しく頬に触れた事に目を見開いた。

 

「……、」

 

優しく撫でられた事がない子供は暖かい掌の温もりに戸惑い視線を揺らした。
小さく反応を返した事に気付いたⅠ世が子供を見つめれば無表情だった子供が不安そうに逃げたそうにしている。


優しくされた事がなく戸惑っているのだと分かったⅠ世はグッと込上がる感情を抑えて子供に対し微笑む。

 

「大丈夫、俺と行こう」
「……、」 

 

戸惑う子供に肩に掛けていた上着を羽織らせてⅠ世は
子供を優しく抱き上げた。
黙って見ていたGが先導して扉を開き、Ⅰ世は一人残された子供を連れてその部屋を出て後にしたのだった。

子供を連れたⅠ世とGは早々にこの場所から切り上げる。
子供が居たのは普通の長屋の一軒家だった。

一見、ただの家に見えるが近所の人から余り良い噂はなく、不気味な家だと囁かれていた。


それが先日、子供の悲鳴が何回も聞こえた、という連絡があった。
本来なら警察に任せるべきなのだろうけどこの長屋はただの一軒家ではなくエスネという暴力団関係者管理しているのだ。

ただの警察では手は出せないからと街の取り締まりを担うあさり組の一世代の頭だったⅠ世が真相を確かめるべく、ここに訪れた。

 

そして通報があった通り、この一軒家では子供を使った実験が行われていたみたいだった。
一体何の実験かはこれから調べてみないと分からないが実験台となってしまった他の子供たちは既に息がなく手遅れだった。

地下の実験室で無造作に放置された子供らの遺体が15人ほど居りどの子も身元が確認出来ない事からどこからか違法な方法で攫った子だろうと推測されるが、一人だけ別室にいたオッドアイの子供だけがエストラの一人娘だと分かったのは部屋に向かう途中で捕まえたエスネの統率者エストラが狂喜に瞳孔を開き喜々と娘はやはり特別なのだと喚き叫んでいたからだ。

生きている子供はこの子しか居らず、自ずとこの子が娘なのだと分かった。

 

後始末を部下に任せて屋敷を出る途中まで子供は今まで住んでいた屋敷をⅠ世の腕の中で静かに眺めていたが屋敷の壁は血で汚れていたり、エストラの部下が倒れ伏していたりと子供に見せてはいけない光景が広がっていたからⅠ世は子供の頭をそっと自分の首元まで導いた。


子供は大人しく従って顔をⅠ世の首元に埋めて目を閉じるけれど、 Ⅰ世はまだ子供の声を聞いていない事に気付いていた。

 

まだ子供なのにどこか達観している異なる色の目を見てⅠ世は自分の孫を頭に思い浮かべる。

あの子なら奪われたこの子の感情を取り戻してくれるだろうか…。

 

Ⅰ世は腕の中の子供を守るように抱き締めた。

 

 

 

 


**

 

Ⅰ世とGは表に止まってた車に乗ると車は直ぐに出発した。
助手席に座ったGがバックミラー越しに後部座席のⅠ世に視線を送る。

 

「そのガキ、どうすんだ?」
「…俺が引き取ろうと思っている」
「はぁ?何言ってんだお前」


疲れたのかいつの間にか眠ってしまった子供を見下ろしGの問い掛けにⅠ世は子供と対面した時から考えていた事を伝える。


するとやはりGはいい顔をしなかった。

怪訝な顔でⅠ世を睨み付ける。

 

「お前、まさか可哀想なガキがいたら何人も引き取るつもりじゃないだろうな?」

 

やめとけ、そりゃあただの偽善者だ。と遠慮なく切り捨てるGに運転してる部下が上司にそんな事言って良いんですか?!と戦慄いてる事を二人は知る由もない。

 

Ⅰ世はGを一瞥してまた子供に視線を戻す。

 

「そんなつもりはないさ。もし助けた身寄りのない子供を引き取っ ていたら今の家じゃ既に狭いだろうな」

 

Ⅰ世は暗に引き取るのはこの子で最初で最後だと伝えればGは尚更何でその子供なんだと理解出来ないことに口を閉ざす。

黙ってしまったGにⅠ世は口を開いた。

 

「…俺の超直感が’この子を手放すな’と云ってるんだ」

 

視線が合った瞬間にⅠ世は確信した。
この子供は自分に大きな影響を与えてくれる事を。

そして孫の綱吉にも良い影響を与えてくれること直感したのだ。

 

「!…お前の超直感なら、何も問題ねぇな」

 

顔をしかめていたGは超直感と聞くな否や半反対だったのを是と翻した。
Ⅰ世の生まれ持った超直感は一回も外れたことはなくその直感を周りは信じていた。


Gもその一人だ、だからⅠ世の超直感が告げるのであれば子供を引き取る事に異議を唱えるつもりはない。

Gが思うのは親友として、右腕としてⅠ世に危険が
及ばないかどうかだけだ。

 

「ありがとう、G」
「フッ…好きにすりゃいいさ、いつものようにな」

 

屋敷に帰ったらGは子供を引き取る手続きを直ぐ手配してくれるの だろう。
本当に良い親友をもったよ、と感謝するⅠ世は嬉しそうに笑みを浮かべた。


腕の中の子供はやはり栄養失調なのか段々とぐったりしている。

そしてよくよく見たら目の周りだけでなく身体の至る所に縫い目があった。

 

「…娘なのに酷い事をするな…」

 

痛々しい姿に狂気的な笑い声を上げてたエストラを
思い出してⅠ世は子供の頬を撫でるとこの子を必ず守ると固く誓った。 

 

数時間も走れば車は屋敷へと戻った。
門の横に車が停止すれば外にいる部下が後部座席のドアを開けてくれた。
礼を言ってⅠ世は眠る子供を起こさないように注意しながら車を出る。


Gは先に車から出ていて引き取りの手配を部下に指示していた。

自室に移動する間、ボスの戻りに挨拶しにくる部下がたくさん居たがⅠ世の腕の中に眠る子供を見つけると皆がキョトンとして言葉を失っていた。
それでも気付かない奴もいたがそれに対しⅠ世は笑顔で黙らせたのだった。


屋敷の奥の部屋、Ⅰ世の自室に着くと指示した通りに布団が敷いてあった、部下の仕事が早くていつも感心してしまう。
布団に子供をゆっくりと寝かせて布団を肩まで掛けてやればⅠ世はやっと一息入れる。

 

この子が…ここで暮らせるようになれたら良い。
早く声を聴いてみたい。
その声で名前を教えて、たくさん呼んであげたい…。

 

眠る子供の頬に掛かる髪を耳に掛けてやりながらⅠ世は柔らかい眼差しで見下ろし、そう思った 。

 

 

 

◆初ムク

 
   場所は浅利組・離れ。

 


「おや…ジョット。どうしました?」


骸は学校からの帰り、自分の部屋に戻るとそこにはジョットが待っていた。

日が落ちた後ならまだしも、今はまだ夕方。 
相談役として重鎮されてる彼は本家に居ると想定していたからか、日中にジョットが離れに訪れるのは珍しく思えた。

骸は不思議そうに首を傾げてスクールバックを机に置くとジョットの傍まで寄って隣に座った。

 

「何か急ぎのご要件が?」

「いや、急ぎの要件はないよ」

 

肩に凭れる骸の腰を引き寄せてジョットは骸の問い掛けに首を振り、柔らかく微笑む。

ならば一体どうしたんです?と尚も不思議そうな顔をする骸にジョットは顔を寄せて口を開いた。


「…さっき仕事を終わらせて戻る時に車の中で骸を見掛けた。隣に居たのは…羽馬組の息子か?」

 

問い掛けられて骸は目を見開いた。


ジョットは優しく微笑んでいる。

けれど言いようのない威圧感が漂っており骸は汗が滲むのを感じ怒らせる事は何もしていない筈…そう今日の行動を返りみて考えながら骸は頷いた。


「えぇ…羽馬組のディーノです。何度か会合で彼の父と挨拶に来てらっしゃいますが覚えてますか?」

「あぁ、覚えているよ」

 

ジョットは一度挨拶した者の顔は忘れない。
羽馬組とは何度も挨拶しているから既に旧知の仲なのだが、ジョットが何を聞きたいのか骸はいまいち掴めないでいた。


「…そのディーノがどうかしました?」

 

顔を寄せたジョットに反射で背を反らしてた骸は腰を抱き寄せられているから後ろに倒れる心配はないのだが心元なく不安定な姿勢からジョットの背中に腕を回して自分から身を寄せた。

 

傍から見たら抱き合ってるようにしか見えず、かなり密着しているが二人はその事には気にもとめず視線を交わして見つめ合う。

 

「…仲が良さそうだったな」

 

異なる色のオッドアイが大きく見開かれる。

それだけで聡い骸は察してしまった。察して、驚く。

 

まさか。

 

「…ディーノとはXANXUSとスクアーロを通して時折一緒に居るだけです。貴方が思っているような事はありませんよ」

 

嫉妬…。

愛しい男が同年代の男と居るのを見掛けただけで嫉妬してくれた。骸はそれだけで胸がキュンと締め付けられて表情が綻ぶ。

自分はジョットしか見ていないというのに、何を心配しているんです?

 

「ふふ、お前は俺を大人しい男だと思っているのか?好いた女が男と居れば俺だって少しは焦るさ」

 

先程まで滲ませていた威圧感がサッと消え、ジョットはいつものように物腰の柔らかい笑顔を浮かべた。

その表情を見て骸はジョットが少しだけ怒っていた事を知り、くすぐったい気持ちになる。

 

「おやおや…僕は貴方ほどの激しい男は知りませんよ?ずっと、惹かれてやまないのもジョットだけですもの」

 

クフフ、と笑みを零して骸はジョットの頬に指を滑らせるとそっと撫で軽く唇を触れさせた。

離れようとすればジョットが追い掛けて今度は深く唇を合わせる。

 

「んっ…」

「骸…」

 

ゾクリとするジョットの甘い声に骸は体の奥から火種が燃える錯覚が見えた。

自分からその先を求めて骸は両手を伸ばしジョットの首に回して引き寄せた。

 

 

 

END

◆宿虎SS

 

悠仁はただ、見てるしか出来なかった。


いつもなら反射のように体が動くのに今は体の力が抜かれたようにピクリとも動かすことが億劫な程、体が思うようにいかない。

その原因は目の前に佇む一人の男によってもたらされた。

 

両面宿儺。


史上最強の呪いの王に君臨した男だ。

宿儺の視線がつい、と合わさる。
ビクリと体が小さく跳ね上がって震えた。 

 

違う。

 

何で俺は怖がってんだ?

 

そんな筈ない…俺は宿儺なんか怖くない。


そう思う程、体が震えた。
己の体が震えて宿儺の視線から外れたいと萎縮する。
宿儺がスッと足を踏み出して近づいて来た。
ビクッ!とまた肩が跳ね上がり、ガタガタ震える。

 

違う…

 

震えたくないのに、本能的に体が宿儺の存在に恐怖している。

 

「ぁ…っ、や…だ」

 

蒼褪めて等々足に力が入らなくなり、悠仁はその場に崩れた。
座り込みそうになった時、直ぐ傍まで近付いていた宿儺が悠仁を背中を支えた。

 

「拒むか、小僧」
「う…っ…」

 

紅い眼を見たくなくて悠仁は宿儺の胸元に顔を埋めて隠した。
頑なな悠仁に宿儺は眼を細めて笑みを浮かべる。

 

「今更拒んでも既に遅い」

 

言い含ませるように言えば悠仁はイヤイヤと首を左右に振る。
だけど宿儺の腕の中から逃れる事は、出来なかった。


End

◆紅森♀設定(炎炎ノ消防隊)

◆現パロ

新門紅丸×日下部森羅♀


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家がご近所で小さな時から二人は面識があった。(引っ越してきた森羅)
ヒカゲとヒナタの面倒を見ていた事もあり、子供の相手は
苦手じゃない紅丸は森羅の面倒を見ていたこともある。
そして5歳の差がある二人。

紅丸(18)
森羅(13)

 

紅丸は古武術を営む道場(裏では893という噂)の跡取り息子で親は既に他界。
本当の息子じゃないが紅丸の強さ故に引き取られて今に至る。
幼い頃から紅丸が鍛錬する姿を眺めていた森羅は紅丸に憧れる
ようになり、いつの間にか紅丸の事が異性として意識して好きになる。

家の人たちが結婚し、その披露宴で紅丸も結婚するの?と
問いかける。


すると、まぁ…いつかはするだろうな。と返す紅丸。
じゃあその時は俺が結婚してあげる‼と笑顔で言う森羅。

何で上から目線なんだよ…と呆れる紅丸に森羅は紅丸兄ちゃんは強いけど、そんな紅丸兄ちゃんをヒーローの俺が助けるんだ!だって最強だってたまには疲れるでしょう?だから紅丸兄ちゃんが大好きな俺が結婚して癒してあげるの!と伝える。

 

生意気なことを言いやがる…と笑う紅丸だけど「なら森羅は俺の嫁さんだな」と森羅の頭を撫でてやった。
紅丸兄ちゃんのお嫁さん…!!と森羅は目をキラキラと輝かせた。
そしてその日からお嫁さんを意識するようになり、家事とかも率先してやるようになった。

オシャレにも目覚め服とかにも気を遣うようになると周りから
好きな男でも出来たのか?とからかわれると、紅丸兄ちゃんの
お嫁さんだから当然!と何故か得意気にどや顔で返す。

 

それを聞いてざわつく周り。紅…⁈と確認されるも紅丸は否定もせずまぁ…そういう事だ。と固定した。
その時に瞬く間に”森羅は紅丸の嫁”という話が広がった。

 

まだ森羅は子供だけど紅丸は一度交わした約束は違えるな、と教えられていたから森羅が大きくなってもまだ望むならと結婚をすることを前提にしている。

周りには公認となったしこの際、森羅の両親にも挨拶しに海外へ赴き、森羅が知らぬ内に親公認で婚約していた。

この時、紅丸はまだ恋愛感情よりも妹として接してる所があった。

 

 

まだ続きます

◆僕の初恋の人(ボンゴレⅠ世×骸♀)


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軽~い設定です。(※ロリショタ+捏造)

 

六道 骸♀(12才)
隣に住んでいる綱吉(5才)の面倒を見てくれるお姉ちゃんで綱吉のお祖父ちゃんであるジョット(沢田家康 30代)に想いを寄せている。

沢田 綱吉(5才)
甘え坊で天使みたいに可愛らしい笑顔で周りを癒してくれる。まるで大空のよう。隣に住む骸が大好きでいつも遊んでくれる。

沢田 家康(ジョット)
沢田家の大黒柱だけど既に隠居してる。綱吉のお祖父ちゃんで実は過去に骸を助けた人でその時から好意を寄せられるようになった。30代くらい…?周りからよく年齢詐欺って言われている。ヤのつく家業。

 

 

 

 

 

 

毎朝6時になると骸には欠かせない仕事をする為に向かう所がある。

年期が入り木材の匂いが鼻を擽るけども綺麗に保たれている長い廊下を歩き一番奥にある和室へと辿り着く。

他の部屋よりも襖に描かれている絵や和紙の造りからしてその出来は一目瞭然で格別だと分かる。

 

そっと襖を開けると部屋の中央には布団が敷かれていて上下にゆっくり膨らんでる。まだ眠っているようだ。

骸は笑みを零してそっと近付いて膝を付いた。

 

「家康さん、朝ですよ」

 

優しく揺さぶると布団の中からんー…と唸る様なくぐもった声が聞こえ、腕がもそっと出てきた。

どうやら起きてくれたようなので骸は手を引こうとして失敗した。

 

「ひゃっ?!」

 

出てきた手は離れていく骸の手を掴んでそのまま引っ張ったのだ。抵抗もしなかったから骸は引かれるがままに体を前に倒して布団の上へとダイブしてしまった。

顔を上げると琥珀色の瞳が骸を見つめていた。

 

「おはようございます、家康さん。いきなり引っ張るなんて吃驚するじゃないですか」

「あぁ、おはよう骸。離れていくのが惜しくてな。それと俺の事はどう呼べと…?」

「…ジョット」

 

じっと見つめられて骸はこの沢田家の前当主であった沢田家康、基ジョットが望むように名前を呼んだ。

するとジョットは満足そうに、それで良い。と目を細めて笑みを浮かべた。

 

そのまま身を起こすと骸はジョットの膝に乗るような体勢になり降りようとしたがその前に小さな体を抱き締められて叶わなかった。

 

「ちょっ、と…!ジョット、離して下さい」

「何故?」

「何故って…これじゃあ起きれないですよ」

 

愛している貴方にこんな事されたら僕の心臓が持たないです。

胸がドキドキと高鳴り、それをバレないようにするのが大変だ。顔は取り繕えるが心臓までは制御出来ないのだ。

骸は両手でジョットの胸板を押し返して突っぱねてみるが大人と子供、男と女では力の差は歴然でビクともしなかった。

 

「…嫌か?」

「んんっ!」

 

そんな悲しそうな顔をするなんて狡いです…!!

骸はジョットを心から愛している。だからそんな人の悲しい表情が見たい訳じゃないので己のちっぽけな羞恥心などさっさと捨て去る。

 

「嫌な筈ないです…乙女心を察して下さい」

 

ぶすくれた感じで言いながら骸は両腕を伸ばして自分からジョットの首に腕を回し、くっ付いた。

なるほど、乙女心か。覚えおこう、とジョットは納得して頷き骸をぎゅっと抱きしめた。

 

骸のひと仕事である。