◆視えてる仁王と安全地帯真田の話
幼い頃から、仁王はこの世に留まるいわゆる霊的なモノが視えた。
ソレは至るところに存在していてこの世への未練故かあわよくば生者を死へと引きずり込もうとする。
ソレが視えて怯えた時、祖母に泣きつけば祖母から自分が視えやすい体質で非常に引き寄せやすいのだと言われた。
それからはソレを無視して生活してきたがそれでも視えてしまう分、当てられて体調を崩しやすかった。
ソレが視える生活に慣れた頃にテニスにハマり、夢中になっている時はソレたちを気にする事はなかった。
中学に上がるとテニス部に所属し遊ぶ暇がないくらいに練習していく中でソレらを引き寄せない体質の男を見つけた。
真田弦一郎。1年生にして名を知られる強者だ。
ソレらはどうやら真田の熱苦しい程の気迫に近付けないらしく、真田の周りは非自然なほどにソレらが遠巻きにしている。
あそこなら、息がしやすいかもしれない。と漠然とした思いが浮かんできた。
しかしレギュラーでもない仁王が真田と自然に話をする事は出来ないからただ思うだけで行動には移さなかった。
相変わらず体調は直ぐに崩してしまうしで散々だけど表には出さず、テニスを楽しんで周りをよく観察してその技を自分の物にしていく。
後期になると3年生は部活から受験の勉強に移行した。部活を仕切るのも次の部長である2年生だ。それから新たなレギュラーの選抜も始まり1年では幸村、真田、柳、仁王と決まり他は2年の名が連なった。
レギュラーになった事で真田との接点が出来た。
思った以上に真田の傍は安全だった。真田と居ると具合は悪くならないしソレが視界に入る事もない。ソレを認識してから生まれて初めての事だった。
それ以来、真田と同じ空間に居る間はとても息がしやすかった。けれど真田と離れるとソレは途端にこっちまで来て存在を気付かせようとする。
家には祖母が神社から貰って来てくれたお札があるから休めるもののやはり真田の傍程じゃない。仁王が唯一安らげる場所は家と真田がいる部活動の空間だけだった。
上手く生活していたがある時期になるとソレらが頻繁に動き出す。
日中にも関わらず身動き出来ないほどの至近距離に空気が淀んで見えて息が詰まった。
フラつき、思わず壁に寄り掛かればソレが追い掛けて囲むように覆った。これは本格的にマズイな、と意識が混濁した時に真田の声が聞こえた。
目が覚めると保健室にいた。
意識がなくなる直前に真田の声を聴いた気がしたのじゃが、と身を起こせばパサっと自分のではないブレザーが落ちた。
それは男物で、内側を確認すれば真田と書いてある。どうやらあの声は幻聴ではなかったみたいだ。
真田が長らく着用してるのもあってか線香の香りが仄かに匂った。気付けばソレは一つも見当たらなかった。
それからの仁王は早かった。真田の私物を御守り代わりにすればソレは近寄ってこないのだと気付いた。
視えることは伏せて真田の物を持っていれば体調が悪くならないから部活にもこれまで以上に身が入る、と言えば真田は疑うこともなく躊躇する事もなく私物を貸してくれた。
最初は小物のハンカチが多かったけれどそれは不定期で真田が持つものだからか効力が弱かった。真田にそう言えば真田は考える素振りを見せてじゃあこれならどうだ?とネクタイをその場で解いて渡してくれた。
それはほぼ毎日真田が身に着けていたものだから効果は抜群だった。
ネクタイを借りる代わりに仁王は自分のネクタイを真田に渡した。図らずもまるでカップルみたいにお互いのものを交換する事になったが普通の生活を送るためだ。
それに意識を失った時、余りにも酷い顔をしていたからなのか真田が気に掛けて来るようになった。具合が悪いと知るや否や直ぐに上着を脱いで肩に掛けて安静にしてろ、と甲斐甲斐しく世話を焼いてくる。
まさかここまで気に掛けてくれるとは思わず呆気に取られてしまう。でも真田が気に掛けてくれる時は本当に危うく感じた時なのでとても助かってしまうのだ。
真田のカーディガン、ネクタイ、リストバンドを借りて過ごし体調が悪くなって机に突っ伏せば何で分かったか不明だけどわざわざ真田が保健室まで運んでくれた。
最初の頃は周囲に色々言われるのが面倒で真田のものを借りている事を隠していたが2年に上がれば隠すのも面倒になり、カーディガンなど堂々と着るようになった。身に合わないカーディガンは見るからに男物だから噂好きの女子たちは誰のだと聞かれるけどその度にお守りじゃ、としれっと返す。
ただぐったりすると真田が直ぐ駆け付けて来るから言わずとも周囲は身に着けてるものが真田のだと察しているようだった。
ここまで来ると流石にもうただの優しい世話焼きのチームメイトの関係では到底収まらない。既に真田が居なくては普通の日常生活は送れないし真田も仁王という己が庇護しなければならないという存在に慣れてしまい今更何もなかったかのような関係を良しとしなかった。
自然と二人が付き合うようになるまでそう時間は掛からなかった。
寄り添う様に歩いた次には指を絡めるように繋いでいた。身を預けるように寄り掛かるのにも抵抗はなかったしもっと欲しいとも思うようになった。どっちかが告白した訳じゃないのにそうなるのが当たり前のように二人の間に交際を拒否する事なんてあ
りえなかった。
交際も始まった事なので仁王は真田に視えること、真田の傍に居るとソレが近寄って来ず息がしやすい事を告白すれば真田は真面目に聞いてくれて俺が守れてるようで良かったと安堵していた。
俺が傍に居る時は俺が守る、居ない時は俺の物を遠慮なく身にまとえと自ら進んで私物を差し出した。
お陰で仁王は46時中、今まで以上に安全に過ごす事が出来るようになった。一応そつなく一通りの事は出来る仁王だけど真田は案外面倒をみるのが好きみたいで甘えるのも得意な仁王は遠慮なく真田に甘えた。
正反対な二人だが交際は案外上手くいっている。
End