mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆初ムク

 

宵の口が更けた夜。

 

ボンゴレ本部の奥にあるジョットの寝室の前に人影があった。辺りに人はなく、人影は霧のように消えたかと思うと扉が開かれる事なく部屋の中へと入っていた。

中央にあるベッドにはジョットが休んでおり、規則正しく胸が上下に動いている。

 

人影は足音を一切立てる事なくベッドに近付き、ジョットの様子を見る。

深く眠っていて、起きる気配がないと分かるとそっとベッドに乗り上がってジョットに手を伸ばす。

後もう少しで触れそうになった途端、眠っていた筈のジョットが目を覚まし伸ばされた手を掴んで体を反転させて相手に圧し掛かるようにベッドに押し倒した。

 

「…っ、」

「……骸…?」

 

ジョットは寝室に侵入してきた相手を確認すれば驚きに目を見開く。

侵入してきたのは甥の綱吉の霧の守護者、六道骸だったのだ。骸は両手をジョットの片手に頭上で拘束されて身動きが出来なかった。

 

「…クフフ、気配は絶ってた筈なんですがね」

 

申し開きする事なく骸は笑みを浮かべてジョットを見上げた。

拘束する手をそのままにジョットは疑問に思っている骸の呟きに答えた。

 

「気配は消されていた、超直感だ」

「なるほど。…綱吉君といい、本当に厄介な力ですね」

 

気付かれた理由を知り、骸は溜息を吐いた。

 

「骸、これは何の真似だ」

「クフフフ、見ての通りなんですがね」

「……」

 

ジョットは口を噤んだ。拘束してる骸の姿を見下ろして確認すると、骸の格好からして夜襲を仕掛けた訳ではないと察する。過去に綱吉を乗っ取ろうとした事もある骸だが今は綱吉の霧の守護者として任務は完璧にこなしており、今更寝首をかくような骸ではない。

マフィアを根絶やしにする目的を捨てた訳じゃないが綱吉があの性格なままな限り、骸が綱吉の為に力を貸してくれる事をジョットは疑っていない。

 

だからジョットを殺す為に骸が来たとは思っていなかった。骸の格好は、薄っすら透けた紫のネグリジェだった。

透けた布の奥に下着に覆われた豊満な膨らみと下肢が目に入りジョットは目を細めた。

 

「夜這い、しに来ました」

 

口を噤んだジョットの代わりに答え合わせするかのように骸は言った。

攻撃するつもりがないと分かればジョットは拘束していた骸の腕を解放した。ついでに骸の上から身をどかせば骸は起き上がってジョットと向かい合わせになる。

ジョットは苦笑いして骸を見つめる。

 

「何故なんだ?」

「貴方の子供を産もうと考えたんです」

 

突拍子もない話にジョットは一瞬だけ息が止まる。ジョットが驚いている事に気付いていながら骸はそのまま話を続けた。

 

「貴方の子供を産めば腐りきった老人たちの悔しがる顔が見れそうですし、五月蠅いハエが辺りを飛ぶ事もない。僕も仕事がやりやくなりそうですからね…綱吉君が跡を継ぐのは当分先ですし、僕の為に貴方の子供を産むつもりでした」

 

貴方が起きてしまったので失敗してしまいましたが、と肩を竦める骸。

何も言わないジョットに骸は微笑むと足を床に下ろしベッドから立ち上がる。ジョットの目がその背中を追う。肩越しに振り返って帰ると告げた。

 

「貴方は起きてしまいましたし大人しく帰ります」

 

完全に気配を消しており、ジョット程の手練れでさえも気付かないほど骸の隠密能力はスバ抜けていたが超直感によって阻まれた骸は二度と訪れる事はないのだとジョットは確信した。

 

扉に向かっていた骸の腕を掴み、ジョットは再び骸をベッドに押し倒していた。

細い体が柔らかなベッドに抑え込まれて今度は骸が驚きにオッドアイを見開いた。

 

「Ⅰ世…?」

「ここまで来てくれた女を何もせず帰すのは礼儀として失礼だろ?」

 

骸の手を取り、指先に口付けるとジョットは熱の籠った目で見下ろした。

礼儀と言ったがジョットは相手が誰であれ、何もせずに帰えした。ただ骸だけが例外なのだがそれを今言うつもりはなかった。

 

皆まで言わずとも骸は察した。

ニヤリと笑みを浮かべると足を上げ、ジョットの腰に巻き付けてグッと引き寄せる。至近距離から琥珀の瞳を見つめる。

 

「それはつまり、了承したと捉えて良いのですね?」

「あぁ」

 

頷いたジョットに骸は優悦な表情で笑った。その表情を真正面から食らったジョットはドクンと動悸が大きく高鳴った。

 

「クフフフ…男を、産んで差し上げます…」

「…男でも女でも構わない、お前との子なら」

「んっ」

 

利害の一致から始めるにしてはジョットと骸のお互いを見つめる目は熱が籠っていた。

それに気付かない程二人は鈍くはない、しかし互いに指摘することなく建前で言った子作りをする為に衣服を脱ぎ去り、肌を撫でては言葉無き愛をぶつけるように息もつかぬ口付けを交わした。

 

 

 

 

翌日、朝日が昇る時間帯にジョットと骸は寝室に備え付けてあるシャワールームから出て来た。

数時間前の情事の跡を洗い流す為に入った筈なのにシャワールームから出て来た骸はのぼせたように頬を赤くして上手く立てないのかジョットに支えられており、中で何を行われたか察せられる。

 

「骸、抱き上げるぞ」

「ン、はい…」

 

自分の足で歩こうと頑張っていた骸だが今にも倒れそうで見てるだけじゃ我慢出来なかったジョットは抱き上げて運ぶ事にして一応断りを入れた。

このままじゃ転ぶ事になると踏んだ骸は頷いてジョットの首に腕を回した。腕が回ったのを確認すると抱き上げてベッドまで向かった。

 

「…そう言えば、着替えはあるのか?」

 

昨夜の情事の残るシーツを剝いで新たなシーツに替えたベッドに骸を下ろした後、傍らに落ちてあるネグリジェを見てジョットは問いかけた。

 

「心配ありません、幻術でどうにもなります」

 

ニコリと笑って骸は答えた。着替えは持ってないようだった。

ジョットは困ったように笑って自分のシャツを骸の肩に羽織らせた。骸の実力なら何があっても見破られる訳がないと分かっているが些か心配で気休め程度だがシャツがあるのとないのでは全く違うだろう。

 

「心配になるから着ててくれ」

「クフフ、部屋に戻るだけでも全く問題ないんですが…」

「俺の心の問題だ」

 

なら仕方ないですね、と骸は体に巻いていたタオルを外し、ネグリジェの上からジョットのシャツを羽織った。丁度お尻が隠れるまでの長さだが如何せん見えそうで見えないのが男を妙な気分にさせる。

幻術で覆い隠すと分かってもジョットは誰にも見せたくない気持ちだった。

 

「……夜までここで過ごさないか?」

 

思わずそう口走っていた。

きょんとん、と幼い表情を見せる骸にジョットは年甲斐もなく子供じみたことを口にした自覚があってバツの悪そうな顔で視線を逸らした。

 

「クフフ、今日一日中ずっと子作りですか?大変魅力的なお誘いですが綱吉君から仕事を言い渡されましてね…」

 

残念ながらそのお誘いは後日にでも、と骸は珍しいジョットの表情が見れて嬉しそうに膝の上に乗り上げると頬にキスをした。

 

「…はぁ、部屋まで送るよ」

「そう残念がらないで、僕も残念なんですから」

「明日、一緒にディナーでもどうだろうか?」

「えぇ、喜んで」

 

骸にキスしてジョットは部屋まで送る為にシャツとスラックスを着て骸をエスコートしながら寝室を出た。

廊下を移動してると突き当りの部屋から数人の話声が聞こえた。

まだ目覚めるには早い時間だが夜勤で警護の任に就いてる者たちだろうか?とジョットは思ったが仕事を放棄して何やっているんだろうか、と勘が働く。

そのまま話声が聞こえる部屋に近付くと何の話か、聞こえて来た。

 

「Ⅰ世にも困ったものだ」

「そうだな、早く何とかせんと…」

「跡継ぎを早々に決めんとな、甥の子を跡継ぎにするなんてとんでもない」

「そうだそうだ、Ⅰ世の血を受け継いでおらんと…私に娘がいるのだがこれまた美しいのだが…」

「それなら私の孫も…」

「いやいや、ここは少し年上の女をだな、」

 

部屋の中では各地の領地を任している老人たちが上辺だけの笑みを浮かべてⅠ世の後釜になろうととしている話をしていた。気配を消してそれを聞いた骸は嫌悪に視線を鋭くさせた。ジョットの肩に寄り掛かり、耳元で囁く。

 

「老人どもは本部であんな話をするなんて、どうぞ疑って下さいと言ってるようなものですね」

「…こんな時間だろうと誰が聞いてるか、分からないのにな」

「クフフ、まさか袖にしょうとしている本人が聞いているとは思わないでしょうねぇ…」

 

これだから権力にしか魅入られない者は嫌なのだ。Ⅰ世の為と謳いながら己の身内を道具として使い、実権を握ろうとする。民の為ならば良いがここにいる狸たちは保身のため贅沢がしたいが為だけの理由なのだ。

骸は蔑んだ目で身内を売り込もうと盛り上がっている男たちを睨んだ。

 

「…ボンゴレは大きくなり過ぎた、警察でさえ手出し出来ない程に。だからボンゴレを欲する者が多いんだ」

ボンゴレに対抗しょうと、違法な手段を取る者も増えましたしね。どこで誰が繋がっているのか、根が深そうですよ」

 

ジョットは愁いた表情をすると骸の肩を掴み抱き寄せてその場を離れる。盛り上がる男たちは最後まで二人に気付く事はなかった。

 

「貴方の子供を早く身籠ると良いですね」

「そればかりは、運次第だな」

「おや、僕は運任せにしませんよ。望むものは自分の手で掴み取ります、だから頑張って下さいねⅠ世」

 

骸のその言葉にジョットは優しい表情で笑いながら頷いた。