mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆初ムク

ー參話ー

 

 

 

 

『一緒に暮らそう』

 

 

そう言ったⅠ世だが、骸の気持ちを尊重して強制的にあさり組で暮らさせる事はしないという。

そうは言っても子供である骸に選択肢は殆どない。

ここで拒否した所で骸の行き着く先は保護施設になるだろう。

 

あさり組で引き取られるか、青少年保護施設で成人するまでお世話になるか…この二つの選択肢の内にどれを選ぶかなんて誰でも分かりきっているだろう。

 

だけど、骸はそれでも簡単には頷けない。

守るように優しく包んでくれるⅠ世の腕の中は心地良い。

骸は残念そうに目を伏せた。

 

「…無理、です」

「何故だ…?」

 

首を左右に振った骸にⅠ世は静かに問い掛ける。

受け入れてくれようとするⅠ世の気持ちは嬉しかった。骸はⅠ世のせっかくの気持ちを踏みにじるようで言い難そうに、しかしちゃんと話した。

 

「…人が、たくさんなのは嫌いです」

 

骸は片手の人数であれば平気だが、それ以上の人間と暮らすとなると無理だった。

今までは隔離された部屋で過ごしていたし実験の時も部屋にいるのは実験を行う者、それを補佐する者、そして実験内容を記録する者の三人しかいなかった。

だから骸はあさり組の大勢の人間の気配に始終慣れなくて疲れてしまっていた。

 

この屋敷に連れられた時は疲労で気付かなかったがふと目が覚めた時に感じた複数の人間の気配と見知らぬ場所に瞬時に警戒した。

Ⅰ世が直ぐに戻ってきたから良かったがもしあと数分で戻らなかったら骸は脱走してただろう。

人の気配に敏感な骸は、人の出入りが激しいあさり組では暮らせない。

それがⅠ世の誘いを断る理由だった。

 

理由を口にすれば骸はⅠ世から離れようと身動きした。

Ⅰ世の腕が緩めば骸はそのまま抜け出そうとしたがその瞬間、Ⅰ世の腕によってグッと引き寄せられるとまたしてもⅠ世の腕の中に逆戻りした。

 

「⁈」

「そんな事か、解決策はあるぞ」

 

驚く骸にⅠ世は安堵させるような笑みを浮かべた。

嫌われているから共に暮らせないと言われるんじゃないかと思って安心したよ、とⅠ世は吞気に言うが人間嫌いの骸がⅠ世と暮らせる解決策なんて、あると云うのだろうか。

骸はⅠ世の言う解決策が何なのか、考えもつかない。

するとⅠ世がなんの難しい事はないように、軽く言った。

 

「骸の為に離れを建てよう」

「は?」

 

思わず素っ頓狂な声が出る骸。

優しく微笑むⅠ世だけど言ってる事はかなり滅茶苦茶だ。

人と一緒に暮らせないだけで、ましてや自分の子供でも身内でもないのに骸一人の為だけに離れを建てようだなんて普通は思わない。

絶句する骸を腕にⅠ世は立ち上がって部屋を出る。

 

「そうと決まればGに頼みに行こうか」

 

既に決定事項みたいでⅠ世の足取りに迷いはない。

建てられるのは遅くても一ヶ月だが、その間は本家じゃ休まらないだろ?だからその間は俺とホテルでもガレッジにでも泊まろう。

出来たら骸に似合う服も買いたいし、綺麗な景色を見せてやりたい。

Ⅰ世は骸に楽しそうに話す。

 

「…何故、そこまで?」

 

理解出来ません、そう顔に書いてある骸にⅠ世は言う。

 

「ただ、お前に居て欲しいだけだ」

 

Ⅰ世の言葉に骸はもう、拒否する言葉を持たない。

骸自身を望む言葉に胸がキュッと痛くなって締め付けられた。

目の奥が熱くなり視界が揺らぐのに骸は自分が泣きそうになっている事に気付く。

絶望し泣いて叫んでも結局何も変わらないと知っていたから最後に泣いたのはいつだったか思い出せないのに…今、涙が零れてしまいそうでまだ涙を流せるのだと知った。

 

しかし、達観する事に慣れてしまった骸は今更泣く事に羞恥を覚える。

まだ子供だから泣いても問題はないけど骸は隠すようにⅠ世の首元に顔を埋めた。

 

そんな骸に気付きながらもⅠ世は何も言わずにゆっくり足を動かした。 

 

 

 

***

 

「G、今大丈夫か?」

「あ?どうしたⅠ世」

 

中庭で部下と話していたGの背中にⅠ世は声を掛けると部下に一言掛けて下がらせたGはⅠ世とⅠ世に抱き上げられた骸を振り返る。

Ⅰ世は骸に顔を向けるとGを紹介する。

 

「彼はGだ。骸を連れた時、傍に居たんだが覚えてるか?」

「…はい、一番最初に部屋に入ってきた人ですね」

「そうだ…ちゃんと覚えてんだな。Gだ、Ⅰ世と右腕だから今後もよく会う事になるだろ、まぁよろしくな」

 

Gにならい、骸も名を名乗って頷いた。

Ⅰ世の右腕ならこれからも顔を合わせるのだろう、自分の引き取りの手続きや離れを建てる話にも深く関わっていてⅠ世の信頼が厚いみたいだ。

 

軽く挨拶だけを交わしてGはⅠ世の要件を聞く。

Ⅰ世はニコリと、簡潔に言った。

 

「離れを建てようと思ってる。それと離れが出来るまでの間は骸とホテルに泊まろうと思ってるからそのつもりで動いてくれるか?」

「…あ"?」

 

ドスの利いた声がGから出た。

一般の人がそれを聞いたらビビって震え上がるのだろうが幼馴染であるⅠ世に慣れたもんで微笑み返すだけだった。

 

骸は先程同じ気持ちだったのでGの反応が当然の反応だと分かってるからこの二人は仲が良いのですね、と思うだけだった。

 

 

「…それまたいきなりの話だな」

「悪いな、G。仕事は電話からでも出来るしもしの場合はホテルから向かう。手配だけで良いから頼めるか?」

 

Ⅰ世が頼むとGは長い溜息を吐いた。

髪をぐしゃりとかき乱しギロッとⅠ世を睨み付ける。

 

「てめぇは一度言い出すと聞きやしねぇからな。しょうがねぇ、やってやる」

「ありがとう、G」

 

どうせソイツの為だろ?とGが骸を示すとⅠ世は微笑んだ。

了承を得ればⅠ世は、じゃあこのまま俺たちはホテルに向かうから何かあったら連絡をくれ。と身を翻す。

 

「ホテルは俺で用意する。運転手に場所を教えとくからお前らは必要なものだけ持っていけ」

「何から何まで助かるよ」

 

礼を言うⅠ世にシッシっと耳にスマホを当てながら追い払い仕草をするGにⅠ世は可笑しそうに笑う。

Ⅰ世のやる事に否を言わず多くを聞かないGに骸は不思議な感覚を覚える。

 

Ⅰ世は骸を抱えたまま自室に戻り、必要なものだけを持っていく。

必要なものと言ってもⅠ世は出先で何でも揃ってしまうから必要なのは連絡手段である携帯と財布だけだ。

骸に関しては何も所持品がないから何も持っていくものがない。

あっという間に準備を終えたからⅠ世は苦笑いする。

 

「ふふ、まるでシングルファーザーが夜逃げする気持ちだな」

「…僕は貴方の子供じゃないですけど」

 

携帯と財布を懐にしまい、Ⅰ世は準備を待っていてくれた骸をまた抱き上げる。

自分を子供に例えるⅠ世に骸は訂正するとⅠ世はニコリとこれからなるのだから何も間違っちゃいないよ、と返す。

 

「もの好きな人ですね…」

「そうか?」

 

俺は幸運だよ、骸に会えたのだから。と恥ずかし気もなく口にするⅠ世に骸はそうですか、と答えるしかなかった。

二人はそのままあさり組を出て表に止まってる車に乗り込む。

 

チラッとあさり組の屋敷を車の中から眺めると敷地が広く屋敷も大きかった。

なるほど。これなら確かに離れをひとつ建てても広さ的に何の問題もないのだろう。

骸は納得した。

 

運転席にいる部下が出します、と一言Ⅰ世に声を掛けてから車は発進した。

流れる景色を横目に見ながら骸は何故まだⅠ世に抱き上げられたままなのか考える。

後頭席は広いのにⅠ世は骸を隣に下ろす気配もなく膝に座らせてたまま外をゆったり眺めている。

骸はお喋り好きではないからⅠ世が何かと聞いてこないのは有り難いが…何故離さない。と疑問に思う。

 

Ⅰ世と会ってから自分の足で歩いたのはどれくらいだ?と骸は数時間前を振り返るが歩いた記憶がなかった。

自分の足で立ったりはした。お風呂に入った時は自分の足で浴室に入ったし数歩は移動したがあれは歩いたって数えて良いのだろうか。

浴室は広かったけど、精々が浴室だ。

 

その後はやはりⅠ世に抱き上げられて移動したから骸は自分の足で歩いてなかった。

振り返ってみると骸は眉間に皺を寄せた。

これは由々しき事態で、好ましくない。

 

骸の纏う空気が変わったのに気付いたⅠ世が外に向けてた視線を骸に向ける。

 

「どうかしたか骸」

「……僕は、一人で歩けますし一人で座れます」

 

骸が不満な表情でⅠ世を振り向き見上げればⅠ世はきょとんと目を瞬かせる。

その表情に骸は何故不思議そうな顔をするんですか…と目を細める。暗にさっさと下ろしてくださいと告げればⅠ世は離す所かギュッと骸を抱き締めた。

 

「……僕の話、聞いてましたか?別に逃げやしません」

「聞いてた」

 

聞いてたなら何故下ろしてくれないんですか、とⅠ世の言動に骸は不可解です。と零す。

もしかして逃げ出すとでも思われてたから一時も離さないのか?と思う骸だったがⅠ世は骸をぎゅうぎゅうっと抱き締めて声を潜める。

 

「…骸は今何歳だ?分かるか」

「?…11歳です」

「11歳か…」

 

骸は大人びているな。と言ったⅠ世に骸はその言葉の真意が分からない。

それが何だと云うのですか、と尋ねればⅠ世はまだ甘えて良い年頃だろ?と返した。

 

「甘える…?」

 

まるで初めて聞いた言葉かのように骸は目を見開く。

確かに、子どもは親に甘えるのも仕事だとどっかの本に書いてはあったが、それは一般的な家庭においての話だろう。

それは、今まで骸には関係のない言葉だった。

そしてこれからも関係ない言葉だと、頭の隅に追いやっていた言葉だ。

 

「…俺からしたら骸はまだまだ甘えてもいい子供だ」

 

戸惑う骸に優しくⅠ世はゆっくり甘えていこう。と抱き締める。

ずっと抱えているのは甘やかしているからなのだが骸は甘える方法を知らないのでⅠ世の行動に疑問を抱いた。

だからⅠ世がこれから少しずつ教えていくつもりで抱き締めたり、抱き上げたりしてるのだ。

こうやって先ずは甘えて良いんだ、と。

 

「こうやって抱き上げられるのは嫌いか?」

「…他の人でしたら、嫌だと思います…でも貴方なら平気です」

 

Ⅰ世の手は優しく暖かい。

会って間もないというのに、理解出来ない人だと思っていたのにⅠ世の傍にいると無条件で安心してしまう。

Ⅰ世の傍なら自分は安全なのだと思ってしまうのが不思議だった。

 

「俺なら平気なのか、嬉しいな」

 

でもいずれは他の人とも慣れるようにしょう、お前に任せたい子が居るんだ。と骸の告白にⅠ世は嬉しそうに微笑み骸の白く柔らかい頬を指の背で撫でる。

Ⅰ世の腕の中にいる事にもう疑問を抱かない骸はⅠ世の任せたい子、という言葉に貴方の子供ですか、と首を傾げる。

 

「俺の孫だ」

「お孫さん、ですか…その子を僕にどうしろと?」

「何も。ただ遊び相手になって欲しい」

 

大丈夫、心優しい子だよ。と孫の綱吉を思い浮かべてるのかⅠ世の表情は優しい。

骸は遊び相手…遊ぶということ自体した事がない僕が幼い子の遊び相手になる訳ないと思うんですけど。と聞くがⅠ世はそれでも大丈夫だと答える。

 

 

『一緒に暮らそう』

 

 

そう言ったⅠ世だが、骸の気持ちを尊重して強制的にあさり組で暮らさせる事はしないという。

そうは言っても子供である骸に選択肢は殆どない。

ここで拒否した所で骸の行き着く先は保護施設になるだろう。

 

あさり組で引き取られるか、青少年保護施設で成人するまでお世話になるか…この二つの選択肢の内にどれを選ぶかなんて誰でも分かりきっているだろう。

 

だけど、骸はそれでも簡単には頷けない。

守るように優しく包んでくれるⅠ世の腕の中は心地良い。

骸は残念そうに目を伏せた。

 

「…無理、です」

「何故だ…?」

 

首を左右に振った骸にⅠ世は静かに問い掛ける。

受け入れてくれようとするⅠ世の気持ちは嬉しかった。骸はⅠ世のせっかくの気持ちを踏みにじるようで言い難そうに、しかしちゃんと話した。

 

「…人が、たくさんなのは嫌いです」

 

骸は片手の人数であれば平気だが、それ以上の人間と暮らすとなると無理だった。

今までは隔離された部屋で過ごしていたし実験の時も部屋にいるのは実験を行う者、それを補佐する者、そして実験内容を記録する者の三人しかいなかった。

だから骸はあさり組の大勢の人間の気配に始終慣れなくて疲れてしまっていた。

 

この屋敷に連れられた時は疲労で気付かなかったがふと目が覚めた時に感じた複数の人間の気配と見知らぬ場所に瞬時に警戒した。

Ⅰ世が直ぐに戻ってきたから良かったがもしあと数分で戻らなかったら骸は脱走してただろう。

人の気配に敏感な骸は、人の出入りが激しいあさり組では暮らせない。

それがⅠ世の誘いを断る理由だった。

 

理由を口にすれば骸はⅠ世から離れようと身動きした。

Ⅰ世の腕が緩めば骸はそのまま抜け出そうとしたがその瞬間、Ⅰ世の腕によってグッと引き寄せられるとまたしてもⅠ世の腕の中に逆戻りした。

 

「⁈」

「そんな事か、解決策はあるぞ」

 

驚く骸にⅠ世は安堵させるような笑みを浮かべた。

嫌われているから共に暮らせないと言われるんじゃないかと思って安心したよ、とⅠ世は吞気に言うが人間嫌いの骸がⅠ世と暮らせる解決策なんて、あると云うのだろうか。

骸はⅠ世の言う解決策が何なのか、考えもつかない。

するとⅠ世がなんの難しい事はないように、軽く言った。

 

「骸の為に離れを建てよう」

「は?」

 

思わず素っ頓狂な声が出る骸。

優しく微笑むⅠ世だけど言ってる事はかなり滅茶苦茶だ。

人と一緒に暮らせないだけで、ましてや自分の子供でも身内でもないのに骸一人の為だけに離れを建てようだなんて普通は思わない。

絶句する骸を腕にⅠ世は立ち上がって部屋を出る。

 

「そうと決まればGに頼みに行こうか」

 

既に決定事項みたいでⅠ世の足取りに迷いはない。

建てられるのは遅くても一ヶ月だが、その間は本家じゃ休まらないだろ?だからその間は俺とホテルでもガレッジにでも泊まろう。

出来たら骸に似合う服も買いたいし、綺麗な景色を見せてやりたい。

Ⅰ世は骸に楽しそうに話す。

 

「…何故、そこまで?」

 

理解出来ません、そう顔に書いてある骸にⅠ世は言う。

 

「ただ、お前に居て欲しいだけだ」

 

Ⅰ世の言葉に骸はもう、拒否する言葉を持たない。

骸自身を望む言葉に胸がキュッと痛くなって締め付けられた。

目の奥が熱くなり視界が揺らぐのに骸は自分が泣きそうになっている事に気付く。

絶望し泣いて叫んでも結局何も変わらないと知っていたから最後に泣いたのはいつだったか思い出せないのに…今、涙が零れてしまいそうでまだ涙を流せるのだと知った。

 

しかし、達観する事に慣れてしまった骸は今更泣く事に羞恥を覚える。

まだ子供だから泣いても問題はないけど骸は隠すようにⅠ世の首元に顔を埋めた。

 

そんな骸に気付きながらもⅠ世は何も言わずにゆっくり足を動かした。 

 

 

 

***

 

「G、今大丈夫か?」

「あ?どうしたⅠ世」

 

中庭で部下と話していたGの背中にⅠ世は声を掛けると部下に一言掛けて下がらせたGはⅠ世とⅠ世に抱き上げられた骸を振り返る。

Ⅰ世は骸に顔を向けるとGを紹介する。

 

「彼はGだ。骸を連れた時、傍に居たんだが覚えてるか?」

「…はい、一番最初に部屋に入ってきた人ですね」

「そうだ…ちゃんと覚えてんだな。Gだ、Ⅰ世と右腕だから今後もよく会う事になるだろ、まぁよろしくな」

 

Gにならい、骸も名を名乗って頷いた。

Ⅰ世の右腕ならこれからも顔を合わせるのだろう、自分の引き取りの手続きや離れを建てる話にも深く関わっていてⅠ世の信頼が厚いみたいだ。

 

軽く挨拶だけを交わしてGはⅠ世の要件を聞く。

Ⅰ世はニコリと、簡潔に言った。

 

「離れを建てようと思ってる。それと離れが出来るまでの間は骸とホテルに泊まろうと思ってるからそのつもりで動いてくれるか?」

「…あ"?」

 

ドスの利いた声がGから出た。

一般の人がそれを聞いたらビビって震え上がるのだろうが幼馴染であるⅠ世に慣れたもんで微笑み返すだけだった。

 

骸は先程同じ気持ちだったのでGの反応が当然の反応だと分かってるからこの二人は仲が良いのですね、と思うだけだった。

 

 

「…それまたいきなりの話だな」

「悪いな、G。仕事は電話からでも出来るしもしの場合はホテルから向かう。手配だけで良いから頼めるか?」

 

Ⅰ世が頼むとGは長い溜息を吐いた。

髪をぐしゃりとかき乱しギロッとⅠ世を睨み付ける。

 

「てめぇは一度言い出すと聞きやしねぇからな。しょうがねぇ、やってやる」

「ありがとう、G」

 

どうせソイツの為だろ?とGが骸を示すとⅠ世は微笑んだ。

了承を得ればⅠ世は、じゃあこのまま俺たちはホテルに向かうから何かあったら連絡をくれ。と身を翻す。

 

「ホテルは俺で用意する。運転手に場所を教えとくからお前らは必要なものだけ持っていけ」

「何から何まで助かるよ」

 

礼を言うⅠ世にシッシっと耳にスマホを当てながら追い払い仕草をするGにⅠ世は可笑しそうに笑う。

Ⅰ世のやる事に否を言わず多くを聞かないGに骸は不思議な感覚を覚える。

 

Ⅰ世は骸を抱えたまま自室に戻り、必要なものだけを持っていく。

必要なものと言ってもⅠ世は出先で何でも揃ってしまうから必要なのは連絡手段である携帯と財布だけだ。

骸に関しては何も所持品がないから何も持っていくものがない。

あっという間に準備を終えたからⅠ世は苦笑いする。

 

「ふふ、まるでシングルファーザーが夜逃げする気持ちだな」

「…僕は貴方の子供じゃないですけど」

 

携帯と財布を懐にしまい、Ⅰ世は準備を待っていてくれた骸をまた抱き上げる。

自分を子供に例えるⅠ世に骸は訂正するとⅠ世はニコリとこれからなるのだから何も間違っちゃいないよ、と返す。

 

「もの好きな人ですね…」

「そうか?」

 

俺は幸運だよ、骸に会えたのだから。と恥ずかし気もなく口にするⅠ世に骸はそうですか、と答えるしかなかった。

二人はそのままあさり組を出て表に止まってる車に乗り込む。

 

チラッとあさり組の屋敷を車の中から眺めると敷地が広く屋敷も大きかった。

なるほど。これなら確かに離れをひとつ建てても広さ的に何の問題もないのだろう。

骸は納得した。

 

運転席にいる部下が出します、と一言Ⅰ世に声を掛けてから車は発進した。

流れる景色を横目に見ながら骸は何故まだⅠ世に抱き上げられたままなのか考える。

後頭席は広いのにⅠ世は骸を隣に下ろす気配もなく膝に座らせてたまま外をゆったり眺めている。

骸はお喋り好きではないからⅠ世が何かと聞いてこないのは有り難いが…何故離さない。と疑問に思う。

 

Ⅰ世と会ってから自分の足で歩いたのはどれくらいだ?と骸は数時間前を振り返るが歩いた記憶がなかった。

自分の足で立ったりはした。お風呂に入った時は自分の足で浴室に入ったし数歩は移動したがあれは歩いたって数えて良いのだろうか。

浴室は広かったけど、精々が浴室だ。

 

その後はやはりⅠ世に抱き上げられて移動したから骸は自分の足で歩いてなかった。

振り返ってみると骸は眉間に皺を寄せた。

これは由々しき事態で、好ましくない。

 

骸の纏う空気が変わったのに気付いたⅠ世が外に向けてた視線を骸に向ける。

 

「どうかしたか骸」

「……僕は、一人で歩けますし一人で座れます」

 

骸が不満な表情でⅠ世を振り向き見上げればⅠ世はきょとんと目を瞬かせる。

その表情に骸は何故不思議そうな顔をするんですか…と目を細める。暗にさっさと下ろしてくださいと告げればⅠ世は離す所かギュッと骸を抱き締めた。

 

「……僕の話、聞いてましたか?別に逃げやしません」

「聞いてた」

 

聞いてたなら何故下ろしてくれないんですか、とⅠ世の言動に骸は不可解です。と零す。

もしかして逃げ出すとでも思われてたから一時も離さないのか?と思う骸だったがⅠ世は骸をぎゅうぎゅうっと抱き締めて声を潜める。

 

「…骸は今何歳だ?分かるか」

「?…11歳です」

「11歳か…」

 

骸は大人びているな。と言ったⅠ世に骸はその言葉の真意が分からない。

それが何だと云うのですか、と尋ねればⅠ世はまだ甘えて良い年頃だろ?と返した。

 

「甘える…?」

 

まるで初めて聞いた言葉かのように骸は目を見開く。

確かに、子どもは親に甘えるのも仕事だとどっかの本に書いてはあったが、それは一般的な家庭においての話だろう。

それは、今まで骸には関係のない言葉だった。

そしてこれからも関係ない言葉だと、頭の隅に追いやっていた言葉だ。

 

「…俺からしたら骸はまだまだ甘えてもいい子供だ」

 

戸惑う骸に優しくⅠ世はゆっくり甘えていこう。と抱き締める。

ずっと抱えているのは甘やかしているからなのだが骸は甘える方法を知らないのでⅠ世の行動に疑問を抱いた。

だからⅠ世がこれから少しずつ教えていくつもりで抱き締めたり、抱き上げたりしてるのだ。

こうやって先ずは甘えて良いんだ、と。

 

「こうやって抱き上げられるのは嫌いか?」

「…他の人でしたら、嫌だと思います…でも貴方なら平気です」

 

Ⅰ世の手は優しく暖かい。

会って間もないというのに、理解出来ない人だと思っていたのにⅠ世の傍にいると無条件で安心してしまう。

Ⅰ世の傍なら自分は安全なのだと思ってしまうのが不思議だった。

 

「俺なら平気なのか、嬉しいな」

 

でもいずれは他の人とも慣れるようにしょう、お前に任せたい子が居るんだ。と骸の告白にⅠ世は嬉しそうに微笑み骸の白く柔らかい頬を指の背で撫でる。

Ⅰ世の腕の中にいる事にもう疑問を抱かない骸はⅠ世の任せたい子、という言葉に貴方の子供ですか、と首を傾げる。

 

「俺の孫だ」

「お孫さん、ですか…その子を僕にどうしろと?」

「何も。ただ遊び相手になって欲しい」

 

大丈夫、心優しい子だよ。と孫の綱吉を思い浮かべてるのかⅠ世の表情は優しい。

骸は遊び相手…遊ぶということ自体した事がない僕が幼い子の遊び相手になる訳ないと思うんですけど。と聞くがⅠ世はそれでも大丈夫だと答える。

 

「綱吉に会えるのはまだ数日後だろうな。屋敷に戻るのは離れが出来る一ヶ月後だからそれまでに行ける所には骸を連れていってやろう」

 

骸は頭の回転が良さそうだし、大人が分かる知識をもってるだろうな。

だから俺はまだ知らない知識と経験、それと一緒に体験をしょう。

綱吉は寂しがりやだからもしかしたら早めに会えるかもな、とⅠ世は笑う。

 

Ⅰ世と骸を乗せる車はホテルへ向かって人が賑わう賑やかな大通りを進んで行った。

 

 

 

 

「綱吉に会えるのはまだ数日後だろうな。屋敷に戻るのは離れが出来る一ヶ月後だからそれまでに行ける所には骸を連れていってやろう」

 

骸は頭の回転が良さそうだし、大人が分かる知識をもってるだろうな。

だから俺はまだ知らない知識と経験、それと一緒に体験をしょう。

綱吉は寂しがりやだからもしかしたら早めに会えるかもな、とⅠ世は笑う。

 

Ⅰ世と骸を乗せる車はホテルへ向かって人が賑わう賑やかな大通りを進んで行った。