◆初ムク
場所は浅利組・離れ。
「おや…ジョット。どうしました?」
骸は学校からの帰り、自分の部屋に戻るとそこにはジョットが待っていた。
日が落ちた後ならまだしも、今はまだ夕方。
相談役として重鎮されてる彼は本家に居ると想定していたからか、日中にジョットが離れに訪れるのは珍しく思えた。
骸は不思議そうに首を傾げてスクールバックを机に置くとジョットの傍まで寄って隣に座った。
「何か急ぎのご要件が?」
「いや、急ぎの要件はないよ」
肩に凭れる骸の腰を引き寄せてジョットは骸の問い掛けに首を振り、柔らかく微笑む。
ならば一体どうしたんです?と尚も不思議そうな顔をする骸にジョットは顔を寄せて口を開いた。
「…さっき仕事を終わらせて戻る時に車の中で骸を見掛けた。隣に居たのは…羽馬組の息子か?」
問い掛けられて骸は目を見開いた。
ジョットは優しく微笑んでいる。
けれど言いようのない威圧感が漂っており骸は汗が滲むのを感じ怒らせる事は何もしていない筈…そう今日の行動を返りみて考えながら骸は頷いた。
「えぇ…羽馬組のディーノです。何度か会合で彼の父と挨拶に来てらっしゃいますが覚えてますか?」
「あぁ、覚えているよ」
ジョットは一度挨拶した者の顔は忘れない。
羽馬組とは何度も挨拶しているから既に旧知の仲なのだが、ジョットが何を聞きたいのか骸はいまいち掴めないでいた。
「…そのディーノがどうかしました?」
顔を寄せたジョットに反射で背を反らしてた骸は腰を抱き寄せられているから後ろに倒れる心配はないのだが心元なく不安定な姿勢からジョットの背中に腕を回して自分から身を寄せた。
傍から見たら抱き合ってるようにしか見えず、かなり密着しているが二人はその事には気にもとめず視線を交わして見つめ合う。
「…仲が良さそうだったな」
異なる色のオッドアイが大きく見開かれる。
それだけで聡い骸は察してしまった。察して、驚く。
まさか。
「…ディーノとはXANXUSとスクアーロを通して時折一緒に居るだけです。貴方が思っているような事はありませんよ」
嫉妬…。
愛しい男が同年代の男と居るのを見掛けただけで嫉妬してくれた。骸はそれだけで胸がキュンと締め付けられて表情が綻ぶ。
自分はジョットしか見ていないというのに、何を心配しているんです?
「ふふ、お前は俺を大人しい男だと思っているのか?好いた女が男と居れば俺だって少しは焦るさ」
先程まで滲ませていた威圧感がサッと消え、ジョットはいつものように物腰の柔らかい笑顔を浮かべた。
その表情を見て骸はジョットが少しだけ怒っていた事を知り、くすぐったい気持ちになる。
「おやおや…僕は貴方ほどの激しい男は知りませんよ?ずっと、惹かれてやまないのもジョットだけですもの」
クフフ、と笑みを零して骸はジョットの頬に指を滑らせるとそっと撫で軽く唇を触れさせた。
離れようとすればジョットが追い掛けて今度は深く唇を合わせる。
「んっ…」
「骸…」
ゾクリとするジョットの甘い声に骸は体の奥から火種が燃える錯覚が見えた。
自分からその先を求めて骸は両手を伸ばしジョットの首に回して引き寄せた。
END