mikotoの呟き

美琴の小説、日記やお知らせ置き場です(*^^*)

◆ザンスク

【たまには休もう】 

 

 

 

今日のはボスは甘えん坊だ。 

スクアーロは後ろから抱えられながらのんびりと思った。 
何故仕事をサボってボスとこんなにゆったりしているのか…確か先程までは仕事をしていた筈だったのだ。 

はじまりは確か……、 

 


「ルッス、ボスがどこにいるか知っているかぁ?」 

書類を片手にスクアーロは談話室で優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいたルッスリーアに訊ねた。 
しかしルッスリーアははて?と小指を立てながら頬に手を当てて首を傾げて分からないと言った。 

「あら。スクちゃんに分からないなら私が知ってる訳がないじゃないの」 
「チッ…使えねぇ」 

今持っている書類はボスがサインしなければいけないものばかりなのに、サインして欲しい当のボスがいつもなら居るのに執務室に居なかったのだ。 
スクアーロはXANXASの気配には誰よりも敏感に反応出来る。 
だからこのVARIA本部に居ることは分かっている。 
だがいつもなら一点の所に確認出来る気配が今は本部全体にXANXUSの気配が散らばって逆に探し難くなっている。 
さっきから探しているのだが一向に見つからない。 
探している途中、下っ端で遊んでたベルや貯金の計算をしていたマーモン、パラボラの手入れをしていたレヴィに(凄く嫌な顔をされたがスルーした)堂々とサボっていたフランにも居所を聞いてみたが見事にどいつもこいつも首を左右に振って知らないと言う。 
最後の頼みとばかりルッスリーアを訪ねたというのにルッスリーアも知らないのならもうお手上げだ。 
スクアーロは舌打ちをしてルッスリーアから背を向けた。 

「まっ!スクちゃんったらヒッドイわぁ~!」 

後ろでキーッとハンカチをギリギリ噛んで湯気を立てるルッスリーアに邪魔したなと言い残してスクアーロは再びXANXUSを探すべく先を急いだ。 
サインして貰わないといけない書類があるというのもあるが、スクアーロはXANXUSに何かあったのではないか心配だつた。 
稀にXANXUSが誰に何も言わずに消えることは過去何回もあった。 
そうゆう時は何かしら嫌な事があったり塞ぎ込んでいる時が多かったから今回も何かあって姿を消しているのではないかスクアーロは考えて必死に探している。 
XANXUSは誰よりも強いし負ける事はないだろうがVARIAのボスなのだ、いつどこで命を狙われているのか分かったもんじゃない。 

強くても万が一の事があってからでは遅いのだ。スクアーロが行って何か出来る訳じゃないがただXANXUSの姿を一目見て安心したかった。 
XANXUSの強さと実力は誰もが知っている事。今更心配する必要はなく、逆に力の差も分からずに挑んできた愚かな相手を皆心から可哀想に…と同情するだろう。 
しかし分かっていながらもスクアーロは強いXANXASを心配する。 
いつもうるさく周りに気を付けろだの、出掛けるなら護衛に俺を連れてけ等とXANXASに対して昔から口を酸っぱく言うのだ。 
XANXASはそんなスクアーロに対して下らない、と切り捨てるが誰にも言わず消えてしまうとスクアーロは怒るよりも先に泣きそうな顔でホッと胸を撫で下して安心して微笑んで無事で良かった、とXANXASを抱き締める。 
誰よりも強いと言いながらスクアーロは誰よりもXANXASを過保護までに心配して身を案じる。一時でも姿が見えないとなると落ち着かずわざわざ殴られに行く程だ。 
無意識だろうがスクアーロはXANXUSが戻った今でも揺り籠の事を気にしているのだろう。それも当然だ。あれでスクアーロはXANXUSを8年という長い間失われたのだからトラウマといっていい。忘れる筈がないのだ。 
だからなのかスクアーロはXANXUSを一日に一目顔を見ない事には一日が始まらない。 
今日はまだ一回もXANXUSを見ていない。顔を見ていないだけでこんなにも心が騒めく。任務の時は平気なのに居ると分かってて姿が見えないのはスクアーロにとっては苦に等しく我慢させられている事と同じだった。 
執務室、談話室、寝室、中庭、トレーニングルーム、地下、拷問室(ドキドキしながら覗いて入ったが何故かXANXUSが居なくてガッカリしたのは秘密だ)とあの男が行きそうな所を広いアジト全体探したが何処にも姿が見当たらなかった。 

ならばXANXUSはどこにいるのか…スクアーロは段々と不安を積もらせる。 
やっぱりボスに何かあったのではないか…? 
はやる気持ちを抑えてスクアーロは頭を回転させた。 
まったく…あのクソボスは一体どこへ行きやがったんだ…気配はそこら中に感じるというのに本人が見当たらないとは遊び過ぎにも程があるだろうが…!! 

しかしスクアーロは急にハッと思い至った。 
探していなかった場所が一つだけある事に。 
考えるよりも先に体が動き書類を放り出すと走り出した。 

 

「見つけた…」 

XANXUSの寝室の奥バルコニーの下、木々に生い茂られた茂みに男は匣から出したベスターのお腹に背を預けて眠っていた。 
その僅かな木漏れ日から差す光に照らされながら心地良さそうにぐっすり眠っている所を見下ろしてスクアーロは反対に一気に疲れが出たようにぐったりした。 

「…こっちの気も知らねえですやすや呑気に寝やがって…」 

此処ならば誰も居ないしボスの寝室付近ということもあって余程の用がない限り幹部でも立ち入らない場所だ。今は春だがそろそろ夏に近付いている時期で昼間は日差しが眩しく暑かったのだろう、この場所ならひんやりとしてて成程、確かに一眠りするには良いスポットだった。しかしスクアーロはやっとXANXUSの無事をちゃんとこの目で確認出来てホッと胸を撫で下して一息付く。 
こんなにも近付いてるのにXANXUSは目を覚まさない。バルコニーに出て手摺を軽く飛び越えると重力に従って体は下へ落ち、柔らかい芝生に足が着く。 
そのままXANXUSに近付くとベスターが赤い目を開けて首を上げてスクアーロの方を見上げた。 
しゃがみ、ベスターの顔を両手で優しくそっと撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らして気持ち良さそうに目を閉じて優しい手に自ら撫でてと擦り寄る。 
もっと撫でろと催促するベスターをスクアーロはふっと小さく笑って微笑んで要望に応えてやった。充分に撫でてやってから視線をベスターから未だ目を閉じている男に向ける。 
こんなにも肩が触れるくらいに近くに居るというのにまだ無防備に眠って起きないとは…。敵だと認識されてないのか、はたまたベスターが居るから気にしてないのかどっちなのかは分からない。どのみちXANXUSが何の事件や事故に巻き込まれておらず無事ならば何でも良い。風にそよぐ黒髪に手を伸ばしそっと撫でて遊ぶ。 
やはり良いシャンプーを使ってるお陰で柔らかい髪質で触り心地が良い。 
指を髪から細いシャープを描く頬へ滑らせスクアーロは古傷が浮かぶ頬にそのまま顔を近付けて軽くキスをした。すると待っていたかのようにスクアーロの後頭部を押さえる手が。言わずもXANXUSの大きな手だった。 
手は僅かに動いて上手く誘導し、頬にキスしていたスクアーロは誘導されるがままに厚い唇とキスを交わした。 
スクアーロはXANXUSが起きた事に髪を撫でた時に気がついていた。 
だから後頭部を押さえた手に驚かず誘導されるままキスを交わして戯れた。 
僅かに開いた口の隙間を逃さず狙いXANXUSの舌がスクアーロの口内へと滑り入り奥に逃げて縮こまるスクアーロの舌を絡め捕えた。XANXUSの舌の熱さにスクアーロの肩がびくりと震えて縋る。 
強弱をつけて吸うとスクアーロは余りのその刺激に感じて体をXANXUSに押し付けて鼻に掛かった甘い声を漏らした。 


「んっ…ふ、っ…」 

一分にも満たない内にスクアーロは既にXANXUSによって翻弄され腰が抜けてしまってちゃんと座る事もままならずXANXUSに体重を掛けて寄り掛かってしまっている。 
雪のように白かった頬が薔薇のように紅く染まり息もままならぬ口付けに苦しそうに眉間に皺を寄せて快感に閉じられた目にびっしり生えた白い睫毛がふるふると震えている。 
閉じていた目を開けてXANXUSはその様をじっくりと至近距離から見つめた。痛みにはめっぽう強い癖にスクアーロは本当に快感に弱かった。 

それを教えたのは他ならないXANXUSだ。 
出会ってから一ヶ月経って直ぐに手を出したからな。8年ものブランクはあれど目覚めてからは大体腹いせに、時には持て余す体内の炎にもがいて逃げ場所に何度も抱いていて10年経った今でもスクアーロ以外を抱くつもりはなかった。 
10代の時点で既にスクアーロの身体はXANXANによって調教されてしまっている。ベットでは滅多に呼んでやらない名前を何度も耳元に囁くもんだからからかうつもりで通常時仕事をしていたスクアーロの背後から忍び寄って耳元に息を吹き掛けて名前を呼んでやったら甘い声を上げて腰を抜かすとイってしまった。 

これには流石のXANXANも紅い目を見開いて驚いたがそれ以上にスクアーロが唖然と呆気に取られた表情は相当面白かった。しかしその後スクアーロは今にも泣きそうになりながらお前なんて身体にしてくれたんだよ…!とXANXANをひどく責め立てて3日間自室に引き籠ってしまって大変だった。 
XANXANがそうなるように今まで手を抜くことなく抱いてきたのだ、感じてしまうのは当たり前だろうと言えば納得してくれて自室から出てきた。 
ヴァリアーの№2になる程の頭脳を持ち合わせていながらXANXANの事になると頭が弱くなるなんてなんという単純で可愛い奴なことか。 
二人が些細な言い合いから喧嘩をして口をきかない時にセックスをしてしまえばスクアーロはぐずぐずに蕩けて喧嘩の事など忘れてXANXUSを自ら強く求めて流されてしまうのだ。悪くもないのに悪かったと謝ってそこで二人の喧嘩は終止符を打つ。 

都合が悪かった時は無理矢理にでもセックスをしてしまえば全てが丸く収まった。だからなのか三十路になった今でも未だにXANXANは謝罪を口にした事がなかった。まず謝るという事態がない。スクアーロもXANXUSが謝る事を望まない。 
XANXUSが謝った時には明日は世界の終わりなのかぁ…?!と遠慮なく宣うのだろうから二人はそれでいいのだろう。 
長い口付けにそろそろ酸素が足りなくなってきたのかスクアーロが胸板を押し返す。 
まだ全然スクアーロの口内を味わっていたかったがひとしきり舐めつくしてからXANXUSは大人しく離れた。二人の間を銀の糸がつー…っと吊り橋が出来るのを見つめて肩で息を吐くスクアーロを見下ろすと潤んだ銀の目が怒った風を装ってXANXASを睨んだ。 

「狸寝入りなんて趣味悪いぞぉ」 
「ハッ…気付かねェてめーが悪い。オレの所為にするンじゃねーよ」 

XANXASは鼻で笑ってピンッと軽くスクアーロのおでこを指で弾いた。 
軽くといってもXANXASの軽くはけして軽くはなく痛ェ!とスクアーロは弾かれたおでこを押さえて不満たらたらで口を尖らせた。 

「ならよぉ…何でこんな所で寝てたんだよ!探そうにもそこら中にボスの気配が散ってて探すにも苦労しておかげで探し回ったぞぉ!!」 

ぶつぶつ怒りつつもXANXASにどこか怪我がないかペタペタと頬や胸、腕にお腹、脚などに所々触れて自分で確かめる。XANXASは気が済むまでスクアーロの好きにさせながらグイッと引き寄せると同じようにベスターの腹に寝そべさせた。 
抵抗もせずされるがままに寝そべるとXANXASを下から見上げて見つめた。 
その視線に仕方なさそうに、ひどく面倒くさそうに溜息をこぼして答えた。 

「別に…何かあった訳じゃねェよ。下らない書類とばかり見つめ合うのに疲れて少し寝たかっただけだ」 

本当に? 
スクアーロは男が嘘を付いていないか目を細める。そうするとまるで猫が獲物を見定めるかのようにスッと中心が細くなって心の奥を見透かされるようだ。 
疑い深い腹心の頭をわしゃわしゃと犬にするように撫でてやると傍迷惑な顔をされた。せっかく可愛がってやったのになんて可愛くない部下だ。 
他の部下みたく男の言うことに二つ返事で頷けばいいものをこのサメは何かしら気に入らなければ直ぐに逆らって刃向かって吠える。 
まったく気に入らないがSi.と大人しく言うことを聞く従順な犬など面白くないし求めていない。このサメはプライドが高く自分よりも弱い者に対してどんなに偉かろうが腐る程の金があろうが見向きもせず自分に素直で飾らない姿勢を気に入ってるのだ。 
その名に相応しく正に傲慢な鮫!! 
しかし言うことを聞かないと力ずくにでも従わせたくなるのだから一体何をしたいのか自分でも分かりやしない。従順で訓練された犬よりも主を退屈させない野良犬が余程良い。 
だが余計な事を吠える犬には躾が必要だ。何度躾ても学習しないのかこのサメは何度だって繰り返す。今更手放せる事なんて出来やしないから仕方なく諦めた。XANXASを諦めさせるなんてスクアーロはある意味凄いのだろう。 
仕方ない、こんなのを好きになってしまったのだ。今更だ、それこそ…。仕方ない。 
自分で乱した髪を手櫛しで直してやり背中に腕を回して抱き締める。 
されるがままなのを良いことにサラサラの流れる髪を掻き分けて首筋に鼻を突っ込んで埋めると僅かなシャンプーの香りと共にスクアーロ自身の匂いがする。女みたく汗を気にして香水を付け過ぎたうるさい匂いではなく自然なスクアーロの匂いは雨の香りがする。 

密着しなければ分からない程の僅かなものだ。そのままそこで落ち着いているとスクアーロが体の力を抜いてくったりとXANXASに凭れて深い息を吐いた。 
ベスターに寄り掛かりながら二人は心地良い微睡みに誘われて静かな時を過ごした。 

 

 

そうだった。 

スクアーロは何故仕事をサボってこんなにものんびりとしている理由を思い出した。 
大事な書類の事も思い出し未だに大の男を抱き締めている今は機嫌が良い主をチラッと振り返る。視線に気付いていながら主は相変わらず目を閉じたままだ。昔から惹かれてやまない紅い目が見えなくても主は本当に男の自分でも見惚れるくらいにセクシーだ。なんて良い男なんだ!思わずうっとりしてしまう。 
しかしスクアーロはこれから切り出さなければならない話に溜息を吐いてうんざりした。 

「ボスさん」 

呼ぶとうっすらと紅い目を開けて鋭い視線が見下ろしてくる。それを確認して紅い目を見つめながら重くなる口を仕方なく開いた。 

「縁談の話が来てる」 
「お前にか」 
「茶化すなぁ、ボスにだ」 
「……で?」 

特に興味もなさそうに先を促すのにいささか腹が立つが気に留めない事にした。せっかく重い口を開いたのにそれだけかよと怒りたくもあったが溜息を吐いて気持ちを落ち着かせた。 

「……だからどうすんだ?期待してる相手に返事しねーといけねェんだからよぉ」 

拗ねてそっぽを向きながら言うスクアーロを珍しいおもちゃでも見つけたように面白そうな表情で見下ろしたXANXUSがクッ…と笑った。 

「お前はどうしたい」 

憮然とXANXUSが言うのにスクアーロは唖然とした。この男は俺の答えを聞いてどうするというのだ。それともこちらの反応を見て面白がっているのか。 
こちらの答えなんて当に知れているというのに、最愛の男を殴りたくなった。 
殴りたい程好きになってしまった事を心底恨みたくもなった。けれどこの男の為なら自分の命を投げ出せる程、心底好きなのだ。なんて達の悪い男なことか!! 

「……縁談がきてるのはオレじゃなくてボスだぞぉ」 
「聞いた。だからお前にどうしたいかを聞いている」 

オレが嫉妬するのを面白がってからかいたいというのか。それともオレが縁談の話を受けろと言えば大人しく受けるというのだろうか。 
いや、それはない。男が大人しくオレの言う事を聞く訳がない。 
ならやめろと言えば良いのか。いや!それもちょっと違うような気もする。面白がってオレから主を奪い去る女に嫉妬する様を見たいが為に話を呑むかもしれない。オレが嫌がる姿を見て喜ぶ生粋のサディストなのだ、この男は。そういう男なのだ。 
だからと言って主に嘘も言いたくない。思い悩み、スクアーロは正直に言うことに決めた。 

「オレがやめてくれと言ったら断ってくれるのかよ?」 
「お前次第だ」 
「ふん、言ったな?なら断ってくれよ。アンタはオレのボスなんだから」 
「……ボスだから断るのか」 
「…いや、オレの男だから」 

その答えに満足したのか、XANXUSは小さく笑うと犬を褒めるようにスクアーロの頭を遠慮なく髪が乱れる程にぐちゃぐちゃに撫でた。スクアーロはされるがままXANXUSの好きにさせた。大好きな男の手だ、振り払う理由も拒む理由なんてない。 
上機嫌なXANXUSを見上げるとこれは縁談を吞まないという事だろう。もしやサディストな男がスクアーロをいじる為に何でもする事から縁談を呑むかと思ったが、そう言えばこの男は独占欲が酷く強かったのだ。 
束縛も酷いから同じくらいに相手からの想いを求める。幼少期の頃の扱いでXANXUSは愛というものに敏感でもっとも無償の愛を信じてない男だった。 

けれど傍にいるスクアーロが⒙年の年月を掛けて存在そのものでXANXUSに無償の愛というものを認めさせた。だからXANXUSはスクアーロの重いともいえる愛を受け止めた。だけどスクアーロはXANXUSの為なら簡単に命を投げ出す。その事を何かある度に責めるとスクアーロは耳が痛いようで大人しくなる。一番に信用してるのにXANXUSは心底信じられないでいた。 

仕事が仕事なだけにいつ死ぬか分からない。いつまでも無事に生きて帰って来られる訳ではないのだ。未だに現役だからVARIAは今も最強部隊と謳われているがずっと続くとは限らない。XANXUSは、だからスクアーロは今出来る限りお互いの為に時間を大切にしている。そう簡単にくたばる二人ではないけれど。 
それに二人は揺り籠で8年も離れてしまったのだからその時間を埋めるかのように二人は共に行動する事が多い。仕事であったら傍を離れるが何もなければ離れることを嫌がった。 
普段スクアーロ容赦なく殴って蹴って犯して口では邪険にするXANXUSだけどスクアーロの事が気に入っているし好きなのだ。じゃなかったらスクアーロは既にここにいない。剣だけの力を認めていただけなら寝室にすら近寄らせないだろう。既にスクアーロは居なくてはならない存在となってしまった。お互いに。 

「…じゃあ縁談の話は断ってもいいンだな?」 
「あぁ、断っとけ。いや、オレが直接言う。てめぇは大人しくしとけ。間違っても結婚しろとほざきやがったらかっ消す」 
「言わねぇよぉ」 

ギロッと凄むXANXUSにスクアーロは軽くキスをして宥めた。 
本当はちゃんと女と結婚して子供とか作って温かい家族というものを知って欲しかったが…男の自分を抱いた所で互いの快感以外何も生みやしない。母親から狂った愛しか与えられず9代目には偽られ、裏切りを与えられた。 
何故XANXUSがこんなにも辛い思いをしなければならないのか、スクアーロは苦しく思う。この男が闇の世界に君臨してるのは幼き頃から絶え間ない努力をしたからだ。なのに何故この男を心底愛そうという者がいない。 
なんて、なんて酷い世の中だろう!ならば自分が愛に飢えたこの男の為、喜んでその燃え盛る腕に身を焼かれよう、愛をいくらでも声枯れるまで叫ぼう。 


オレはどこの馬の骨かもしれない女にこの男を渡す気はもうない。 


この男を一番愛しているのは自分だから。 

 

 

End 

◆宇善

 

 

前に、宇髄さんと付き合う時に炭治郎や煉獄さんに報告した際に煉獄さんから言われた事がある。

 

「宇髄は優しい男だ。君を大事にしてくれるだろう。だけど、あの男は闇を抱えている、何があろうと君を絶対に逃がしはしない」

 

だからそれが嫌なら宇髄と付き合うのは止めた方が良い、君も宇髄も報われない。

 

煉獄さんからそう忠告を受けたのを思い出した。

あの時は煉獄さんは一体何を言ってるんだろう?宇髄さんが闇を抱えているのなんて、過去に自分の部屋でもある美術室を芸術は爆発だ!って叫んでダイナマイトで破壊した時から分かっているよ、って思っていた。

 

甘かった。

 

宇髄さんが抱えてる闇は目視で分かる程に浅くなかった。とんでもなく深かった。

それを何故煉獄さんが分かっていたのかは分からないけど俺は、もう逃げられない事を知っている。

今宇髄さんの闇の深さを知った所で既に遅いのだ。

 

チャラッ、と軽い音を立てて足首にまとわりつく金属の冷たさが一瞬思考を鈍らせた。

 

柔らかなベッドが起き上がるのにつれてスプリングを利かせて体重で軽く沈んだ。

顔を上げると視界は真っ白だ。カーテンを閉め忘れてしまったのか窓から日が差しているが冬の寒さで窓は曇っていて景色までは見れないが白く染まっていた。

どうやら肌寒く感じたのは雪が降っていた所為だったようだ。

 

冷たくなってしまった剥き出しの肩をさすりながら傍らにあった大きな上着を軽く肩に羽織ってベッドから足を下ろして窓際に近付いた。

 

曇ってた窓ガラスを手で軽く擦ると擦った部分だけ景色が見えるようになった。

結構降ってるみたいで少しずつ積もってるようだった。車の上や塀など軽く雪が積もっていて後少しもすれば雪を払うのに苦労してしまうだろう。

 

ぼんやり外を見ているとコツコツと足音が聞こえてきた。

 

あぁ、帰って来たんだ…。

 

ガチャッと鍵を差し込む音が聞こえると次いで鍵を回してドアが開く音が続いて聞こえてきた。

振り返ると宇髄さんが部屋に入ってきた所だった。建物の中に入るまでに雪を被ったからか所々に雪を纏わせていた。

 

「おかえりなさい」

 

コートも脱がずに近付いてきた大きな男を見上げて頭に手を伸ばす。膝を少し曲げて屈んで抱き締められるのに頭に被っていた雪を払ってやった。

 

ただいま、ゆったりした声で宇髄さんはぎゅうぎゅうに抱き締めてくる。

 

「外、雪降ってたんですね」

 

「おぅ。結構積もってるぞ」

 

雪だるまとかまくらを作ってる奴が居たよ、と楽しそうに言う宇髄さんを見上げて善逸は口を開いた。

 

「宇髄さん。外行きたい」

 

すると楽しそうに笑ってた宇髄は打って変わって表情を無くして善逸を見下ろした。

 

「善逸」

 

無機質のような声だ。宇髄のように顔が余りにも整っているとその表情を無くした時の迫力が凄いのだ。

表情を無くした宇髄は善逸の肩を痕が付くんじゃないかという程に掴むと顔を寄せた。

 

「善逸。それは許さないって言ったろ?」

 

有無を言わせないと深い闇を宿した色の瞳が善逸を見つめる。善逸はそんな宇髄にゾクリと背筋を這う冷たい汗に体を震わせたけれど気付かないフリをしてそっと目を伏せた。

 

「…はい」

 

善逸が頷くと無表情からにこりと宇髄は笑顔を見せると善逸を抱き上げてさっきまでいたベッドに向かった。

すると善逸の足に絡み付いていたもの、細い鎖が音を立てて後を追った。

 

善逸は宇髄によって監禁されていた。

 

 

 

 

END

 

◆離す訳がない(煉炭♀宇善♀)


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失敗した。

 

何であんな事を言ってしまったのか自分に怒りを覚えてしまっても気付いた時には時既に遅しとはよく言うもんで恋人が家から消えてしまった。

仕事が終わり家に帰って玄関を開けるといつもは出迎えてくれるのに今日は誰も居なかった。シーンとした静けさが耳に痛い。

テーブルの上を見ると自分の為に用意された肉じゃががラップされて置かれていた。それを見て嫌って出ていった訳ではないと少しばかり安心した。

外から部屋を見上げた時、窓から中の光が見られなかった時から嫌な予感はしていた。

案の徐誰もいなくて直ぐに上着から携帯を取り出し電話を掛けても電源を切っているのかまたは敢えて無視してるのか分からないが出てくれる気配は一向にない。舌打ちばかりが出てくる。

しかし俺が悪い。あの愛し子が愛に酷く敏感で自分の身を削ってでも与える分には問題ないのに与えられる側になると疑心暗鬼になって怯える質だというのを忘れておざなりな対応をしてしまった。


今朝の自分を殴りたくなる。


後悔で胸が張り裂けそうな思いだったけれど今は探すのが先決。この寒い季節で公園とかに居る筈はない。あいつを引き取ってくれた爺さんは遠い田舎の道場の師範をしているからそこに帰ったとは考えられない。

帰るには遠すぎる。だからあいつが居るのは親友の所だろう。


先程帰って来たばかりだがスーツの代わりにコートを着込み財布と携帯、車のキーをポケットに突っ込んでマンションを出た。


どうかあいつの所にいますように。そう祈って車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

「どうぞ」

失礼するぞ!と扉の向こうから溌剌とした声音が聞こえると同時に扉が開かれた。

そこには3つのお茶をお盆に乗せてそれを危なげもなく片手で持った煉獄だった。居間のテーブルで腰を落ち着かせていた炭治郎と、善逸は少し身体をずらして煉獄の為に席を空けた。

ありがとうとニコッと笑って煉獄は空いたスペースに腰を落ち着かせる。

 

「まだ熱い。少し冷ましてから飲むと良いぞ」


わぁありがとうございます!善逸は嬉しそうに両手を頬に当てて表情を崩して頬を綻ばせた。

さっきから目の前に置かれたキラキラ輝くように美味しそうなモンブランを食べたくてうずうずしてたが甘いモンブランとほろ苦いお茶を一緒に食べるのが一番美味しいと知ってるから涎を垂らしてお茶が来るのを待っていたのだ。

目の前のモンブランは駅前の有名店が扱ってる季節限定のものでそれはもう有名店なだけあって午前中には全て売れ切れてしまい善逸はいつも泣く泣くその店を後にしてたのだが今回は煉獄さんが近所の人から貰ったらしくておやつとして出されたのだ。

甘いものが大好物でこの季節限定のモンブランを食べたかった善逸はそれはもう嬉しさの余りに嬉し泣きで涙を溢して煉獄に抱き付いたものだった。


「いただきまーす!」


大好きなスイーツが目の前にあって我慢出来る筈もなく、善逸はスプーンをさっそく手にとってモンブランに差し込もうとした。

炭治郎と煉獄がそんな善逸を見て小さく笑った。一口分を掬って口に運ぼうとしたその時ふと、あっ…と思い出した。

 


『分かった分かった、今度俺が買って来るからそォ泣くなよ。な?』


朝早くに行ったのに後残り一人って所で前の人で売れ切れとなり間に合わずスイーツを買う事が叶わなくて泣き付いた善逸に仕方なさそうに呆れた表情をしながら今度買ってくれると約束してくれたあの人の…、宇髄の顔が頭を過って善逸はピタッと手を止めた。


約束…してくれたのに、アンタが買ってきたものじゃないのを食べちゃうよ…。


今朝の事を思い出して善逸は無性に泣きたくなった。なんて事ない、宇髄さんは急いでたから思ってた事をそのまま言っただけだ。

悪くない。ただ自分が思いの外その言葉を気にしてあの家に居るのが居たたまれなくなっただけだ。


やっと金曜日で仕事の方が今日で落ち着き週末明けからこの4日間仕事で忙しかったらしい宇髄は余り疲れが取れず多少ボンヤリしながら今日も早起きで仕事へ向かう為に準備をしていくのを善逸も一緒の時間に起きてお弁当を作ったり移動中でも食べられる朝ご飯を作ってやったりと家事全般を任されていて今日も栄養バランスを考えたお弁当を作って張り切っていた。

宇髄は無理して一緒に起きなくて良いといつも気に掛けて言ってくれているが善逸はそれを一蹴して今は家事くらいしか出来ないのだからと宇髄の気遣いを有り難く思いつつも宇髄の為に何か出来るのが嬉しくてやっているのだと伝えて毎日欠かさずお弁当を作って玄関まで見送るというセットを一緒に暮らし始めてから一日足りとも欠かせた事はない。

いつものように玄関で靴を履く宇髄の後ろで鞄とお弁当が入った袋を持って忘れ物はないか、今日は何時に帰ってくるのかと話していた。

思い出したように宇髄がそう言えば、と善逸を振り返った。


「同僚からお弁当の盛り付けとか飾りとかが上手いって褒められた」

「え、本当ですか?!」


パァァアッと善逸の表情が嬉しさで輝く。

最初の頃は飾りとか盛り付けとか気にしなかったけどテレビとかで『疲れた時にお弁当を開けると綺麗に盛り付けられているのを見ると妻の顔が頭を過って今日も自分の為に頑張ってくれたのだなぁって考えたら疲れが吹き飛ぶ』というお弁当を持参して行くサラリーマンの特集編!を見てしまって善逸も宇髄さんがお弁当を開けて少しでも疲れが取れればと女子力を頑張って高めているのだ。

それを褒められて善逸は踊り出したい程に嬉しかった。


宇髄があぁ、最初はあんなに男飯のような食べれればいいやって感じだったのに最近綺麗だよな、って言われたぜ?くすりと宇髄が笑いながら靴紐を結び終えて立ち上がると善逸に向き直った。


「へーへーそれは悪ぅございました!これでも女だから頑張ってるんです!でも宇髄さんだったら俺じゃなくても可愛い女の子がいっぱい綺麗なの作ってくれそうですもんねぇ?」


鞄とお弁当袋を宇髄に渡しながら善逸が嫌味のつもりで言った言葉に次に返って来た言葉を聞いて固まってしまった。


「そうだな、別にお前じゃなくても俺は色男だから色んな女が作ってくれるだろうな」


何気ない、悪気のない言葉だと分かっている。けれど善逸の心はサァーッと冷えて身動きが取れなかった。


ボンヤリしてた宇髄はそんな善逸に気付かず、じゃあ行ってくる。

善逸の頬に軽く口付けて宇髄はいつものように仕事へ向かって行った。善逸の固い表情に気付く事なく。


それから善逸は一通りの家事を終わらせてから家を出た。

宇髄の言葉が頭を離れず家の中に居るのが苦しくなったからだ。宇髄にお前のお弁当が良い、とか言って欲しかった訳じゃない。

じゃあ何であんな事を言ってしまったのか、あれじゃあ暗にお前のお弁当が良いって言わせようとしてたみたいじゃないかと自分の無意識の汚さに善逸が我慢出来なかった。


家を出ても特に当てがある訳でもなくて公園のベンチに腰を落ち着けて遊具で楽しそうに遊ぶ小さい子供たちを何気なく眺めていた。


何で宇髄さんは、俺なんかを選んだんだろう…。

 

宇髄さんは見た目が厳ついけどそれはもう世の女が放っておく訳がないくらいに男前だし体格も優れていて譜面を組める程に頭も良いと、誰もが認める文句なしの男だった。

街中を歩くだけで女の目を奪っていくのを何度も目にしてきたし逆ナンされるのも日常茶飯事という世の男からしたら殺したい程に憎たらしいだろうけど。

ただ自分の事を自称・神とか宣うのは頭が可哀想なんだなぁ…って会った当時は思ったが一緒にいて落ち着けるし楽しい人だ。


それなのにそんな完璧とも言える男が何故何もない自分なんかを選んでくれたのか未だに分からない。好きだ愛してると幾度なく言われてきた。

宇髄さんを疑ってその言葉を信じてない訳じゃないがどうしても宇髄さんが愛の言葉を自分に囁くのが違和感があり、不思議で堪らない。

その言葉を隣で囁かれるのはもっと宇髄さんに相応しい女の人だと常日頃から思っていた。

自分は誇れるような立派な人間じゃない。何かあると直ぐに逃げ出そうとするし自分に理不尽な事があったら泣き喚いて過去に炭治郎を困らせた事もあった。

何かに怯えて一人になってしまうのが怖くて勘違いして笑い掛けてくれた男に迫って何回も騙された事もあった。

それが切っ掛けで炭治郎にみっともない事はやめろ!と激しく怒られてもっと自分を大切にしないとダメじゃないか!!とそれはもう般若のような顔で拳骨を食らって怒られてからは男と不用意に付き合う事は止めた。あれは本当に怖かった…優しい奴を怒らすと怖いのは間違いではないらしい。あれ以来絶対に炭治郎を怒らせないようにと胸に誓った。


宇髄さんとは一緒に出掛けることがあって話していく内に宇髄さんを好きになって宇髄さんも俺を好きだと、一緒に暮らそうと手を差し伸べてくれたから幸せだった。


幸せだ。

宇髄さんに愛されて。


でも何気ない言葉で簡単に心は弱くなって本当かどうか信じられなくなる。
本当は愛されていないのではないかと、宇髄さんは優しいから可哀想な俺を仕方なく一緒にいてくれるのではないかと、直ぐに疑ってしまう。


こんな弱い自分が大嫌いだ。

 


そんな時に、


「善逸?」

 

何時間もずっと寒い中ベンチに座って動かずにいた善逸は青ざめた顔で随分と体が冷えてそうだった。

己の弱さに後ろ向きな事しか考えられなかった善逸を後ろからよく知った声が自分を呼んだのに善逸はのろのろと顔を上げて後ろを振り返った。


やはり、そこには親友の炭治郎が善逸の表情を見て目を見開いていた。

買い物の帰りだったのか隣には恋人の煉獄さんがスーパーの袋を持っている。
炭治郎が直ぐに善逸の傍まで駆け寄って冷えた善逸の頬を柔らかく温かい両手で包んで怒った顔で善逸を見下ろした。

 

「善逸!こんなに冷えて…!暖かい場所で休まないと風邪を引くだろう?」

心のそこから善逸を心配する音がした。

ごめん…それしか言えなくて善逸は俯いた。親友にも何度も心配させちゃうなんて…本当何をやってるんだろ…。


善逸の雰囲気がいつもと違う事に気付いたのか炭治郎が隣に来た煉獄を見上げた。

煉獄も炭治郎を見下ろして安心させるように小さく笑うと善逸の頭を撫でて声を掛けた。

 

「善逸、良ければだが家に来ないか?」


え…?戸惑った善逸が煉獄を見上げると煉獄は笑って実は知り合いにケーキを頂いてな!一緒に食べよう!と続けた。

何かあったのは明白なのに二人は何も聞かない。無理に聞く事ではないと、取り合えず善逸をこの寒い中に放っておく筈もなく煉獄は着けていた黒の手袋を外すと善逸に着けさせて炭治郎は巻いていた青いマフラーを寒そうな首元に巻いてあげて3人歩いて煉獄と炭治郎が住む家へと帰った。

 


スプーンを握ったまま泣きそうな表情でモンブランを見下ろす善逸に炭治郎が心配そうに見つめた。

炭治郎まで悲しい表情をしたのに煉獄が眉間にシワを寄せて険しい表情をする。


「善い…」

 

ピンポーン


炭治郎が善逸の肩に手を伸ばそうとした時、インターホンが鳴った。

炭治郎は手を伸ばしたまま動きを止め、煉獄を見上げた。煉獄は目を細めて立ち上がる。


「来たな」


煉獄のその呟きに善逸が誰が?と首を傾げる。
扉の方に向かいながら煉獄は炭治郎と善逸に俺が出てくからここにいるようにと言って玄関へと向かって行った。

善逸が炭治郎に一体誰が来たの?もしかして誰か来る予定だった?俺お邪魔かな?と不安そうに訊ねると炭治郎は大丈夫だと微笑んだ。

 

「お迎えが来たんだよ」


お迎え…?誰の?

善逸は炭治郎の言ってる事が分からなかったが炭治郎がにこりと笑うのに思い至る事があった。

いや、そんな…まさか…。

有り得ないと善逸は思ったが炭治郎が煉獄さんはここで待ってるように言ってたけど俺たちも行こうか。と戸惑う善逸の手を引いて立ち上がる。

 

「た、炭治郎…」

「善逸、大丈夫だよ」


泣きたくなる程の優しい音。

いつだって炭治郎はどこまでも優しい。
弱い俺を善逸は強いよ、って疑わずに信じてくれている。そんなことはないのに、否定しても善逸は強い、俺は知ってるよと頑なに俺に言うんだ。

逃げてばかりで卑怯になり下がろうとするのを叱咤して見捨てないで隣に居てくれる。

だからいつも炭治郎に救われてるんだよ、俺は。炭治郎が大丈夫って言うのなら、大丈夫…なんだよね。

炭治郎と善逸は居間を出て煉獄さんが居るであろう玄関へと向かい、近付くにつれて話し声が聞こえてきた。

耳の良い善逸には煉獄さんと、もう一人の声がよく聞こえる。煉獄さんの話してる相手は思っていた通り、知っている者だった。

気まずさで素直に前に出れる筈もなく炭治郎の背中に隠れてしまう。

 

「杏寿郎さん」


炭治郎が話し中の煉獄の背中に声を掛けると出てきたのか、と煉獄は振り返る。
すると煉獄と話してた相手、宇髄も炭治郎に視線を向けた。

背中に善逸がいるのを見て宇髄は煉獄の肩を押して身を乗り出した。

 

「善逸っ!」

「っ……」

びくりと善逸は体を震わせて炭治郎の背中で縮こまる。それを見て宇髄が悲しそうに目を細める。なるたけ声を押さえ付けて善逸に手を伸ばした。


「善逸、帰ろう」

差し伸べられた手を見て善逸は躊躇する。

手を取りたいけどまだ朝のわだかまりが頭を過って手を取る事が出来ない。今はこのまま気持ちが落ち着くまでそっとして欲しいという気持ちもある。

躊躇する善逸に宇髄は尚も手を伸ばして善逸を呼ぶ。玄関を上がって炭治郎の後ろから善逸を抱き上げて連れて帰るのも出来るがそれでは意味がない。

善逸自身が宇髄と帰る事を選ばなければならない。だから宇髄は今すぐ連れ去りたい気持ちを抑え込んで辛抱強く切実に善逸を待った。


「善逸、ごめん」

視線をさ迷わせる善逸に宇髄が謝った。

善逸は息を詰めて宇髄を見つめた。たったそれだけで善逸は宇髄を許せたし元々宇髄を怒ってた訳じゃない。

 

「善逸。俺と帰ろう…?」


寂しそうな音を出す宇髄が本来は冷えた水面のよう静けさを奏でるのに今はその音が鳴りを潜めてる。

寂しそうな音は似合わなくて善逸は宇髄がまだ自分を求めてくれるのであればと炭治郎の背中から躊躇いながら一歩踏み出した。

遠慮がちに手を伸ばしていつも離さず握ってくれる大きな手に掌を乗せた。すると透かさずもう離さないとばかりに強く握り締められる。

そのままグイッと腕を引かれると抱き締められる。善逸の肩に顔を埋めて宇髄は鉛でも溜めてたかのように重い息を吐いた。


「…ごめん」


何度も謝る宇髄に善逸は今にも涙が溢れそうになる。アンタが悪い訳じゃない。弱虫な俺が悪いんだよ。ぎゅうぎゅうと抱き締めてくる大きな背中に善逸も手をそろそろっと回して小さく頷いた。


「…はい」

 

 

 

十分にひとしきり抱き締め合うと宇髄が体を離した。握り締めた手はそのまま。ずっと黙って見ていた炭治郎がホッとしたように微笑む。

それに照れ臭そうに善逸が笑い返すといつの間に離れてたのか煉獄が善逸の着ていた上着を持ってきてくれた。
何も持たずに家を出たから善逸の荷物はそれだけだった。

 

「これを持って行きなさい」

上着を着ると煉獄が善逸に袋に入った紙箱を渡した。それは一口も食べてなかったケーキだった。善逸が驚いて煉獄を見上げると煉獄はいつものように眩しい笑顔で優しく微笑んだ。


「宇髄と一緒に食べるといい!」

「でも…、」

「君も知ってるだろう?俺はたくさん食べる!だから頂いたケーキは実はたくさんあるんだ、だから遠慮しなくて良い」


何から何までお世話になりっぱなしだ。
善逸はケーキが入った箱を潰れないように抱き締めて嬉しそうに煉獄にお礼を言った。
うむ!と煉獄は大きく満足気に頷くと隣に立つ宇髄を見上げた。


「宇髄!」

ハッとさせられるような強い声に無意識に背筋を伸ばし宇髄が煉獄を見下ろすと煉獄は真っ直ぐな目でキリッと宇髄を見上げて口を開いた。


「善逸は炭治郎の大切な親友だ!故に俺にとっては可愛い妹のような者!また泣かすような事は許さんぞ!」


煉獄に叱られて宇髄は分かる人にしか分からないがしゅんと落ち込んだ。分かってるよ、と気まずそうに煉獄から目を逸らして宇髄は頷いた。

昔から宇髄は何故か煉獄には強く出れず逆らえないのだ。煉獄という人となりを尊敬している事もあり、俺は神だ!お前らは塵だ!といつも人を下に見るような物言いをする宇髄だが彼の言う事は素直に聞き入れる。

叱られてそっぽを向いて落ち込む宇髄が珍しいのか善逸が目を見開いてまじまじと宇髄を見上げた。


「…なんだよ」

視線が痛いのか宇髄が善逸を不貞腐れた顔で見下ろすと善逸は意外な宇髄の一面を発見する事が出来て楽しそうに笑った。


「アンタにも逆らえない人がいるんですね?」


その一言に宇髄はムッと眉を上げると握ってた手を引いて帰る!善逸が邪魔したな!!と言い残して踵を返した。

仕方なさそうに煉獄は溜め息を吐くと小さく笑みを溢して宇髄と善逸を炭治郎と共に見送った。

 

 

 

「仲直り出来たみたいで良かったです」

 

宇髄と善逸を見送り、炭治郎と煉獄は居間に戻り、胡座をかいた膝に炭治郎を乗せて二人はTVを流しつつゆっくりしていた。

炭治郎が善逸の笑った顔を思い出しながら嬉しそうに溢す。

友達思いな恋人を後ろから抱き締めて煉獄も頷いた。


「そうだな、あんな悲しそうな顔をさせるなんて宇髄をこらしめてやろうかと思ったがふふ…そんな事せずとも宇髄が善逸を手離す訳がなかったな!」


握りこぶしを作って笑顔で物騒な事を言うのに炭治郎が苦笑いしながら宇髄さん、後ちょっと遅かったら危なかったですよ…とそっと心の中で宇髄へ向かって呟いた。


「宇髄さんが来なかったら明日行く筈の温泉旅行に善逸も連れて行こうかと思ってたのに…ちょっと残念です」

「なに、また今度四人で行けばいい!」


残念そうに言う炭治郎に煉獄は悪戯っ子のように笑みを浮かべ善逸を勝手に連れて行けば宇髄が嫉妬してしまうからな!と二人しかいないのに声を潜めて人差し指を口元に当てながら言う。

そうですね、と炭治郎も煉獄を真似て声を潜め、肩越しに煉獄を振り返ると黄金の目を見つめた。

煉獄も円らな赤い目を見つめると、二人顔を寄せてそっと口付けを交わした。


幸せそうに、二人は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

**

 

渋滞もなく進めたおかげで30分程車を走らせると宇髄と善逸が住むマンションへあっという間に辿り着いた。

二人は車を降りてエレベータを乗り込む。その間も宇髄はずっと善逸の手を握っていた。

もう逃げないのに、と思いつつ善逸は小さな自分の手を覆う程大きい宇髄の手を見下ろしてくすぐったい気持ちになった。


昔はよくケンカをした。

自分に自信がなくてどうせ男なんて美人な女の子しか興味ないんでしょ??イケメンは滅びれば良いわ!と男前な面を持つ男性に対してやっかみながら当時知り合って間もない宇髄に対しても本当に自分でも呆れる程に喧嘩腰で接していたもんだった。

宇髄も宇髄で何で俺がこんなちんちくりんに文句言われなくちゃいけないんだ?!とこっちも本物のヤクザも裸足で逃げ出すくらいの輩っぷりで善逸と会う度に喧嘩をしていた。

それがいつの頃からか気に食わない奴から気になる人、そして好きで大事な人になった。


それでも善逸は弱い自分の事が大嫌いだったからよく宇髄の手を振り払って逃げ出す事が多々あった。

その度に宇髄は手間を掛けさせるなと口では憎まれ口を叩くけど必ず善逸を探して迎いに来て、はぐれないように小さな手を大きな手で握って共に帰る。今回も同じだ。


この大きな手は決して離してくれない。

どこに隠れても見付けてくれるし迎えに来てくれる。


玄関で靴を脱ぐと宇髄は善逸の手からケーキを受け取って取り合えず冷蔵庫に入れると善逸の手をまた引いてそのまま寝室へと入った。
お互いに上着を脱ぎ、軽くシワを伸ばしてハンガーに掛けると宇髄は後ろから善逸をぎゅっと抱き締めた。


天元、さん…?」

困惑した声音で背後の宇髄を振り返ろうと身を捩る善逸だったけど宇髄は更に強く抱き締めて振り返るのを阻止する。

仕方なくそのままされるがままにすると宇髄は腕に善逸を捕らえたまま後ろに移動してベッドに腰掛けた。

すると自然と宇髄の脚の間に座る事になって190㎝以上もある大きな宇髄の腕の中に小さい善逸はすっぽりと調度よく収まった。


「…今朝は、ごめん」

あんな事言っちまったけど、俺はお前じゃなくちゃダメだから。

無防備な首筋に口付けを落として耳元に囁く。押し殺した低い声と吐息が耳元をくすぐって善逸は首を竦めて宇髄の言葉にうん、と返した。

アンタの所為じゃないしアンタは悪くないよと言っても宇髄は聞かないだろうから善逸は何も言わずに頷く。


「一緒に帰ってくれて、良かった」


だってアンタの音が酷く寂しそうだった。
そんな事は口が裂けても言えないからまたうん、と小さく返した。

慣れた匂いに包まれ安心して体の力を抜いて背中を宇髄の胸に預けてると熱い吐息と共に耳朶と甘噛みされ善逸は腰の辺りに電流のような刺激が走るのに声を上げる。


「んッ…!」

ちょっと、耳が弱いの知ってるでしょ?と善逸が耳を執拗に構う宇髄を振り向くと振り向いたのを狙ってたかのように触れるだけのキスをすると睫毛が触れ合うくらいまで、距離を縮めて金の目を真っ直ぐ見つめた。


「善逸、」


欲望を抑え込んだ押し殺した声で名前を囁かれる。
それだけで耳の良い善逸には宇髄が何を求めているのか分かってしまう。息を詰めて鼓動が激しくなる。

善逸に、宇髄を拒む理由が、今はない。

 

「……お風呂、入りたい…」

距離の近さに最早視線を逸らす事も叶わず、普段強気な表情をする宇髄が懇願するように見つめてくるのに善逸はじわじわと耳や首元を赤く染めながら小さく、溢した。

それは、受け入れるということ。

宇髄は善逸の了承の返事に笑みを浮かべるとじゃあ一緒に入ろうか、と善逸を抱き上げた。


善逸を抱き上げたまま、宇髄は寝室を後にして風呂場へと消えた。

 

 

 

 

 

END

◆高土(土方さんショタ化)

 

 

 

ウィーン、ウィーン

 

パトカーのサイレンが町に鳴り響くのを宿屋の二階の窓で眺めながら赤い女着物を身に着け、左目を白い包帯で覆う隻眼の男が傍らに座る子供に問い掛けた。

 

「・・・・・・お前を探しているみたいだが?」 「・・・・・・・・・」

 

問い掛けられた子供は何も言わず、黙ったまま強く男の裾を握りしめた。

隻眼の男はため息を吐いて再び外に目を向けると煙管をくわえて事の発端を思い出す。 事の始まりは・・・・・・

 

 

 

 

隻眼の男、高杉晋助は久しぶりに地球に訪れていた。
食料と水の補給や他のテロ活動との会合も含めて色々と2週間地球に留まることになったのだ。

 

特に当てもなく、京都から江戸に軽い散歩に来ていたのだ。
重要指名手配犯にも関わらず余り警戒もせずのんびりと気ままに歩いていたら前方の方で騒然とした騒ぎに気付く。

顔を見せないように笠を手で押さえたまま様子を伺った。

 

騒然と騒ぐ所を見ると`真選組 屯所”だった。
何かと周りを嗅ぎ回って邪魔な存在だが、特に害にもならないから何もせずほっといている。

桂は真選組を粛正すると遊んでいるが、ほっとけばいいものを律儀に追っかけられて遊んでいる。よっぽど暇なんだろう。

 

しかし、この騒然とした騒ぎは何だ。

高杉は遠巻きにしながら様子を見ると真選組の門から勢い良く10才位の子供が出てきてあろうことか高杉に向かって突進してきた。
勢いよくぶつかったけれど高杉は体を揺らしただけで逆に子供が尻餅を付いて倒れた。

 


「あっ・・・!?大丈夫ですか副長!!」

 

慌てて門から出てきた隊の人が子供が倒れたことに気付いて走り寄ろうとするがそれよりも早く子供が顔を上げて真っ直ぐに高杉を見上げた。


  青い瞳・・・


高杉が子供を見下ろしていると子供は立ち上がってまた勢い良く高杉にぶつかるようにそのまま抱き付いた。
後ろから着いてくる隊士から逃げるように顔を高杉の着物に押し付けて。

 

「副長?!」

「ちょっ、副長!?」

 

見知らぬ男に抱き付いた子供に隊の若手達が青ざめた顔をして悲鳴を上げて慌て出した。

 

「中に戻りましょうっ!」

「ほら、局長が心配してますよっ」

 

各々言いながら子供の気を引こうとするも子供は頑なに首を振って仕舞いには隊士達に向かって大きな声を張り上げた。

 

「お前らなんか知らないっ!近寄るなァ!!」

 

子供に一括された隊士達はびくりと身を縮こまらせてオロオロとどうしたもんかと考え倦ねていた。

しかし、子供に抱き付かれて巻き込まれた高杉の方が余程困っている。
幸い、今は笠のおかげでバレていないもののいつバレるか分からない状態でこのままは流石に危険だ。

 

子供を引き剥がそうとしてその腕に手を掛けると、高杉のやろうとしてることを分かってか子供は抵抗して高杉の手を振り払うとぎゅうっと音がなる位抱き付く腕に力を加えた。


流石の高杉も公衆の場で子供を無理矢理引き剥がして叩っ斬る程狂ってはいない。

高杉は子供に好かれるような容姿でもないのを自分が一番分かっている。

 

しかしこの子供は確かに高杉の顔を見たのだ、しっかりと目が合った、子供と目が合えば大泣きされ大の大人ですら怯みあがる鋭い目付きと酷薄な笑みを浮かべる口端は狂気すら感じられるのに、この子供は一切の怯えを見せずに高杉を見据えて見上げた。

 

だから、あの青い瞳を見つけたのだ。


「おいっ、あれってもしかして高杉晋助なんじゃっ・・・!?」

「なっ、まさか?!」

 

高杉はハッと顔を上げると隊士達が刀を鞘から抜いて構える所だった。

どうやら子供に気を取られすぎて笠を押さえるのを忘れて顔を見られたらしい。
迂闊にも程があるが、こんな雑魚では脅威にもならず高杉は焦るでもなく慌てるでもなくただ静かに子供を見下ろした。

 

「おい」

 

ただ一声子供に声を掛ける。

すると子供は顔を上げると高杉を真っ直ぐ見つめて小さく呟いた。


「置いて行かないで・・・」

 

小さな呟きだが高杉にはハッキリと聞こえた、それが自分に言われたことも。

 

隊士の奴らが応援を呼んでいるのをどこか遠くに聞きながら高杉は子供の脇下に手を差し入れると抱き上げて、左腕に乗せ抱えるようにすると子供は透かさず高杉の首に両腕を回して逃がさないと言わんばかりに顔を首筋に埋めた。

 

しっかり掴まっていることを確認して高杉は隊士を軽く一瞥するとそのまま身を翻して隊士に背を向けて走った。

 

「おいっ」

「副長を連れて逃げたぞっ」

「追え、逃がすなっ!!」

 

背後から幾つもの怒濤の声が聞こえるが高杉は気にせず角を曲がると隊士達を巻いて光が届かず薄暗い路地裏に足を踏み入れていつの間にかゆっくりと歩いていた。

子供はじっと高杉に掴まって揺らされるがまま。

そして、この宿屋に入ったのだ。

 


「・・・・・・・」

 

面倒なものを持ち込んだとは思っている。

どこのガキとは聞かない、先程の奴らがこの子供を`副長”と呼んでいた。
真選組の副長と云えば、土方十四郎だった筈だ、間違ってもこんな10代半ばの子供ではない。けれど、当然恨まれるのは多いのだろうし爆弾やら変な薬を送られて子供になったって可笑しくない。

 

「お前、名前は」

「・・・土方、十四郎・・・」

 

やはり。

 

高杉は自分の憶測があながち間違っていないことを確信した。
どうせ恨みを買われて変な薬でも飲まされたか何かされたのだろうけど先ほど仲間に向かって知らないと叫んでいたから体を幼くするだけでなく、記憶操作の副作用もあるとみていいだろう。

しかしそれでもやはり、知らないとはいえ一直線にこっちに手を伸ばしたのは訳が分からない。

誇れるような事じゃないが自分でも子供に好かれるようなタイプじゃないと承知している。
泣かれて脱兎の如くに逃げれた事はあっても逃がさないとばかりに抱きつかれた事はなかった高杉は少々困惑していた。

 

「・・・・・・俺を知ってるか?」

 

一応、聞いてみるとやはり知らないと首を左右に振っている。
ま、知っていたのなら手を伸ばすのではなく刀を向けられていたことだろうな、と高杉は冷静に判断する。しかし、問題はこの小さい土方であろう子供をどうするかだ。

 

記憶障害があっても真選組の方が安全だったし土方の事を知っているのもあちらだ。

長年共に過ごしたっていうのに今の土方には世間から嫌われるテロリストの高杉の方が信用出来るとでも感じたのか。

 

「お前はどうしたい」

「・・・・・・」

 

問われて土方はじっと真っ直ぐに高杉を見上げた。
見下ろして高杉は何度目かの溜息を吐いた。土方は真選組に戻る気はないみたいだ。真っ直ぐに見上げられた青い目には雄弁に”連れていけ”と物語っていた。

 

ま、土方を連れても自分に大したリスクはない。良いだろう。


「十四郎」

 

呼びかけると、土方は高杉を見上げてきょとんと首を傾げた。


そんな仕草をするとあの真選組・鬼の副長 土方十四郎とは思えないくらい可愛らしい子供に見える。


実際、子供なのだから当たり前なのか。だったら子供だと思えばそんな事はこちら側としては大した問題じゃなかった。
真選組からしたら組織の要が子供になり、しかもそれが敵の手の中にあると知っちゃかなりのダメージであろう。真選組を動かしていたのはこの傍らに座る子供だったみたいだしその子供が居ないとなると真選組の指揮は下がっていつか腐り落ちるだろう。

こっちからしたら邪魔なものが消えて万々歳な話だ。

 

「高杉 晋助だ」

 

名乗ると子供は何度か覚えるように小さくその名を呟きパッと顔を上げた。
そして、

 

「晋助!」

 

嬉しそうに、花が咲くように綻ぶように笑ったのだ。

 

 

 

◆宇善♀(仄かに煉炭♀)


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何で、こんな状況になってるんだ?

少し痛いほど手首を押さえる大きな手を横目に見て善逸は自分に覆い被さり見下ろす男を見上げた。

 

宇髄さん。

 

偶然会った時は俺の頭を笑いながらぺしぺしっとこれ以上縮むから止めてくれんない?!と言っても叩いてくるのに今の宇髄さんは俺をからかう事なく怖いくらい真剣な表情をしている。

 

何でそんな顔してるんですか、男前が泣きますよと笑おうとして失敗した。出来なかった。

言葉を発する前にまたも目から水が流れたから。水はこんなにしょっぱくないけどね。

 

ぽろぽろと頬を流れる水を何を思ったのか宇髄は舐めた。善逸は頬に湿った温かいものが触れた事にびくっとしてそれが宇髄の舌だと分かると混乱したように宇髄を見上げる。

 

何で?

 

そう善逸の目が宇髄に問い掛ける。

宇髄は目元を赤くして唇を震わせる善逸の頬を片方の手首を放した手で包み込んでおでことおでこを合わせてその目を見下ろした。

 

「善逸」

 

からかうように呼ぶ声音じゃなく、一文字一文字を噛み締めるように…大切な宝物のように言葉にする宇髄のその声に善逸は胸を締め付けられた。

 

何でそんな声で俺の名前を呼ぶんだよ…

 

「善逸」

 

やめてよ…優しい声で、いつもと違って柔らかい表情で、そんな音を出して俺を呼ばないでよ…宇髄さん。

 

 

 

 

 

 

デーパートの街中の午後15時。

広間にある時計台の下で善逸はかれこれ四時間くらい待ちぼうけを食らっていた。

待ち合わせ相手は彼氏で11時にここで待ち合わせの筈なのにいつまで経っても現れる様子もなくて連絡もなければメールもない。

もしかして事故とかにあったとか?いやいや、それは流石にないか。なら寝坊しちゃったのかな…だったら連絡した方がいいのかな、いやでも気持ちよく寝てる所を起こすのは流石に可哀想だし自然に起きるのを待っててあげよう!俺だったら正直もっと寝かせて欲しいもん。そう思ってたらあっという間に四時間という時が流れた。

 

四時間も時計台の下で待ってたら清掃スタッフの方にさっきから何時間もここに居るけど待ち合わせの人はまだ来ないのかい?寒いから早く温かい所に入りな、ってココアをくれた。なんて優しいおばぁちゃんなんだ!お礼を言って有り難くココアを貰って体を温めた。

 

やっぱり来ないのかな…。善逸はココアを口に含みながら曇った空を意味もなく見上げた。あ、あの雲ちょっと雀に似てる…。

 

そんな時、いきなり頭をぺしっと叩かれた。

 

「?!!」

 

びっくりした善逸はバッと後ろを振り返ると先ず目に入ったのが黒のVネックシャツで視線を上に向けると炭治郎の彼氏である煉獄さんの知り合いの宇髄だった。

相変わらずクッソ男前な面してやがる。

 

「よぉ」

 

「ちょ、アンタいきなり背後から頭をぺしっとするの止めてくれません?!!!」

 

これ以上縮んだらどうしてくれんの?!!!と180㎝以上もある男を睨み上げると楽しそうな笑みを浮かべて宇髄が相変わらず派手な髪だなぁと善逸の頭をぐしゃりと撫でた。

 

宇髄さんと知り合ったのは善逸の友達である炭治郎の年上の彼氏の煉獄さんが宇髄さんの友達だったからだ。

炭治郎と煉獄さんは近所に住んでいるらしくて挨拶とか近所での交流会の時に顔を合わせる度にお互いを意識的してたみたいで何度か話をする仲になった頃に煉獄さんからのアプローチで交際が始まったみたいなのだ。

もうお互いが好きというのがよく分かる程に二人の空気が甘いし二人がふと目が会うだけで嬉しそうに微笑み合う所を目撃すれば砂糖なしのブラックコーヒーが何杯も飲める程に二人は相思相愛という言葉が似合う。

 

だから炭治郎から煉獄さんを紹介されてから何度か一緒に食事をした事があり、ある日も街中のお店で夕食を食べ終わって店を出た所で偶然通り掛かった宇髄さんと会ったのだ。

その時に煉獄さんから宇髄さんを紹介されてたまに顔を合わせるようになった。癪に触る程やたらと男前で性格がかなり俺様で偉そうだけどスペックの高い人で何を気に入ったのか何かと俺に絡んでくる。

けど派手好きだから多分この黄色い頭を気に入ってるのだろうと思う。

 

「お前、こんな所で何やってんだ。竈門と待ち合わせか?」

 

手ぇこんなに冷えてるじゃねぇか。自然と手を取られて善逸はドキッとしたがぶすっと淡々と答えた。

 

「彼氏と待ち合わせですけど?」

 

 彼氏。それを聞いてピシリ、と固まり宇髄は目を見開いて善逸を驚愕の表情で見下ろした。

その顔を見て言葉にしてなくてもお前彼氏いたのか…とか思ってるのバレてますからね?!どうせ俺に彼氏がいた事が信じられなかったんでしょうね!はいはい分かってますよどうせ女に困ったことないイケメンには驚きだったんでしょうね?!と宇髄をじとりと見上げる。

 

すると何とも言えない表情をした宇髄に尚も文句を言おうとした所で聴覚が優れた耳が聞き覚えのある声を拾って善逸は宇髄の背後の先に視線を向けた。

 

 そこには見覚えのあるくすんだ茶髪とその隣には見知らぬ女の子が腕を組みながら並んでいた。

 

数時間前から待っていた彼氏だった。

 

「……」

 

いきなり黙った善逸の視線を辿り宇髄が振り返って善逸の視線の先を見ると眉間に皺を寄せた。

 

「もしや…あれが彼氏か」

 

 別の女といるじゃねぇか。射そうな程険相な表情で言う宇髄に善逸は仕方無さそうに笑みを浮かべながら言った。

 

「ん…一応、あれが待ってた彼氏ですけど…また二股掛けられてたみたい」

 

 また?宇髄が怪訝な表情で善逸に聞き返すと善逸は事も無げに答える。

 

「前にも2、3回こんな感じの同じ状況があったんですよ。その時とはまた違った女の子みたいですけど」

 

「はぁあ?何だよそれ。二股掛けられてんのに何で別れねぇんだよ。そんなにあの男が好きなのか」

 

意味分からねぇ、苛ついたように舌打ちする宇髄は今にも彼氏とその女を追い掛けて殺しそうな雰囲気を醸し出していて善逸は思わず宇髄の上着を掴んだ。

 

「好きというか……恋愛感情の好きというものがよく分かりませんけど俺が必要だって言ってくれたんです」

 

正直好きかと聞かれたらよく分からない。

けど俺は美人でもなければスタイルもそこまで良くないし頭も良いかと言われれば赤点をなんとか免れる程度の頭だし、こんな何も取り柄のない俺を必要としてくれるのがただ嬉しかった、それだけ。

だから二股掛けられてたとしてもお前が必要だから別れないでくれ、と言われたらまだ必要としてくれるんだって別れる事が出来なかった。付き合ってから半年経つけどデートらしいデートなんてした事ないし一緒に夕食を食べた事しか記憶にない。手さえも握っていないと思う。

 

炭治郎と煉獄さんを見る度に恋人同士というものはあんな風なんだろうなって少し羨ましくなった。

 

「流石にこう何回も見ると慣れてきますね。ていうか宇髄さんに見られたの恥ずかしいなぁ…」

 

へらり、善逸が宇髄を見上げて眉を下げて小さく笑うと宇髄はギリッと唇を噛み締めたと思ったら徐に善逸の手を取って歩き出した。

 

いきなり歩き出した宇髄に善逸はえ?え?ちょっと宇髄さん?!と慌てて歩を進める。

足の長い宇髄と善逸とでは歩幅が合わないから善逸は小走りで宇髄の背中を追い掛ける。

角を曲がる所で気に掛けてココアをくれた清掃スタッフのおばぁちゃんが後ろから声を上げた。

 

「彼氏がやっと来てくれて良かったねぇ!」

 

宇髄の背中を追い掛けながらおばぁちゃんを振り返って彼氏じゃないですと訂正しょうにもそうする前に角を曲がってしまい笑って手を振ってくるおばぁちゃんが見えなくなった。

 

どんどん進む宇髄さんを追い掛けると景色は人がごった返す賑わう街中から人のいない静かな公園に辿り着いた。

やっと足を止めた宇髄にずっと小走りで追い掛けていた善逸は肩で息をしながら宇髄の背中を繋がれていない方の手で軽く叩いた。

 

「っ…は、ぁ…宇髄さん、ゆっくり歩いてよ…!」

 

いきなり何なの?!!善逸が問い掛けると宇髄は振り返って善逸を見下ろした。

 

「なぁ、本当にあのクソ野郎が好きなのか。あんなのと別れる気はねぇの?」

 

二股を掛けられてるのに。本当は辛いだろ?そう言われて善逸は宇髄を見上げたまま何を言えばいいか分からなくなった。クソ野郎って一応人の彼氏なんですけど、そう言えば良かったのに言えなかった。

 

辛いと言えば辛い。だって必要だって言われたのにデートで待ち合わせると忘れてるのかはたまたわざとなのか違う女の子といるのを見つけてしまう。必要だと言ってくれたのに俺じゃなくて違う女の子を選ぶんだ?じゃあ俺は一体何…?っていつも考える。

 

やっぱり俺は何もないから可愛い女の子の方が良かったんだ。だから悪いのは彼氏じゃなくて何もない俺の方が悪いんだ。何も返せない俺では必要としてくれるだけ凄く有り難い事だった。

 

「善逸」

 

 

でも、それでも

 

やっぱり…凄く、辛い…。

 

見上げる宇髄さんの顔がボヤけて、よく見えない。無意識に涙が溢れていた。好きと言われればそうでもなかったけどやっぱりあんな場面を見てしまうとお前なんかいらない、必要ないと直接言われたようで胸が痛かった。面と向かって言われるよりも凄く痛い。

 

何も返せない俺に宇髄さんは目を細めると顔を寄せてきた。

 

 

「あんなクソな男なんて別れちまえ。いいな?」

 

何でアンタにそんな指図されなくちゃいけないんだよ、勝手な事を言うな!とか言いたい事はあったのに口から出るのは嗚咽だけで言葉にもなりやしなかった。

涙を拭う手が温かくてもしかしたら本当はあの男と別れるのに背中を押して欲しかったのかもしれない。初めて知る宇髄の優しさに善逸は胸をきゅっと締め付けられる。

 

「善逸」

 

返事のない善逸に宇髄が返答を促す。

善逸は嗚咽で途切れ途切れてながらもはい、と頷いた。もうダメだ、別れたい。

頷いた善逸に宇髄はふっと笑みを浮かべると善逸の両手首を掴まえ、涙を流す目元に唇を落としたかと思うと震える小さな唇にも口付けを落とした。

 

「……ッ、ぇ…?」

 

今、キスされた…?

 

目を見開いて直ぐ目の前にある宇髄の顔を見つめると宇髄は優しい笑みを浮かべてまた顔を寄せてきた。条件反射で目を瞑るとまた唇に柔らかい感触が触れてまたキスされたのだと分かった。

 

さっきまで二股掛けられて悲しかったのに今は初めてのキスにドキっドキと胸が痛いほど高鳴って善逸は顔を赤くした。

 

何で宇髄さんにこんなドキドキしてるの?!今まで意識してなかった宇髄さんが男の人だと意識してしまって善逸は無意識に後ずさろうとしたけど両手を宇髄に掴まれてて失敗した。

 

「あんな男より俺にしろ」

 

一瞬、何を言われてるの分からなかった。

けれど打って変わって真剣な表情な宇髄さんにこれは、告白されていると気付いた。

 

「……俺、さっき二股掛けられて…別れる決意をしたばかり…」

 

なんですけど、しかもなんで上から目線なんですか…ぐしゃぐしゃの顔で宇髄に言う善逸に宇髄は返す。

 

「俺の方がお前を甘やかしてやる。ずっと一緒にいてやる、それに…」

 

お前を泣かせたりしねぇ。

 

アンタ…なんでそんな男前な事を平然と言える訳…?俺が可哀想だからってからかって冗談言ってるんじゃないの?俺なんかよりもムカツクけど男前なアンタならもっと可愛い子がたくさんいるじゃん、善逸がそう溢すと俺は冗談なんか言わねぇ。確かに俺は色男で華やかな男前だけど俺はお前が良い。善逸が良い。と手を握り締めながら宇髄は強く返す。

なにそれ自分で色男で華やかな男前って言う?普通…アンタやっぱりどこか可笑しいんじゃないの…。可笑しくて結構だわ。だからなぁ、善逸…俺にしろ。信じようとしない善逸に言い含めるように拒否権のない命令口調なのに、その声は真逆の柔らかくて甘いものだった。

 

「…アンタってずるいよ…」

 

俺が良いなんて、そんな事を言われたらもう頷くしかないじゃないですか…。

善逸は例えこれが宇髄の嘘だとしても宇髄から聴こえる優しい音に安心出来て身を寄せた。

さっきまで曇り空しか続いてなかった空からは太陽が雲から顔を覗き始めた。

 

「俺はこれでも一途なんだよ善逸」

 

宇髄に抱き締められてその言葉の意味を善逸が知るのはまた別の話。

 

 

END

 

◆宇善

 

 

「ん……」

 

冬の肌寒さに自然と目を覚ます。

重たい瞼がすっと開き目の前に飛び込んできた景色は暗闇だった。

どうやらまだ鳥たちが眠っている真夜中に起きてしまったらしく辺りには静けさしか存在しなかった。

 

寒さに身震いをすると自分の肩を抱く。子供特有の体温の高さをもっていても寒いものは寒いのだ。

 

喉が渇いたついでにベッドから降りてキッチンの方へ向かうとリビングの明かりが付いていた。まさか…こんな時間なのにまだ起きてたというの…?

 

自然と眉間にシワが寄るのが自分でも分かった。文句の一つでも言ってやらないと気が済まなかった。

 

リビングの部屋のドアを開けると案の徐、遅くまで起きて仕事をやっているらしい年上の恋人、宇髄さんが眼鏡を掛けて難しい事ばかり書いてある紙と向き合っていた。

 

「……ちょっと。」

 

「ん?あぁ、トイレか?」

 

声を掛けると検討違いな事を言ってくるのにイラッとさせられる。

ホントにこの人は俺をイライラさせる天才だよね!?顔も良いし身長も高くて身体付きも良いし…性格にはかなりの難があるけどそれでも女が放っとかない男前なのだ俺の恋人サマは!なのにそんな男前が特に何の取り柄もない俺なんかを選んで欲情するのが信じられなくて何回も一悶着を起こしたか知らないけど、もう諦めた。

 

この人を自分のものだと思うには俺にはかなり荷が重いと何回逃げても手を離さず捕まえてくれたし抱き締めてくれたこの人をもう、信じるしかなかったからだ。

 

正直に言うと、俺だって宇髄さんが好き。

大切だ。だから無理して欲しくないしちゃんと休んで欲しい。なのにこの男と来たら何をこんな真夜中まで仕事してるんだよ?!バカなの?!!バカだろ!!!!

 

「いい加減休んで下さいよ、いくらアンタでもちゃんと休まないと」

 

「ん、これ終わったら休むからお前も早く部屋戻れ。冷えるぞ」

 

いつもは言わない心配してるって事を言ったのにしらっとあしらわれた。

ホントにもう…!!!頑固過ぎない?!!急ぎの仕事でもないだろうに何をそんなに全部終わらそうとするのか。体を壊したら元も子もないだろうに。

 

善逸は仕方なく、奥の手を使う事にした。

未だに背を向ける宇髄に近付き、袖のシャツをきゅっと引っ張った。

するとやっとこっちを向いてくれた宇髄の顔はなんだよ、と書いてあったが気にせず口を開けた。

 

「もう寝ようよ。それ急ぎじゃないでしょ?」

 

宇髄が口を開き掛けて善逸は何かを言わせる前に続けた。普段から言わないからこれを言うのは本ッッ当に恥ずかしくて嫌だけど!これを言えばこの人なら絶対に言う事聞いてくれると分かってるから。

 

「…アンタが隣にいないと…寒い…」 

 

宇髄は驚いたように目を見開いた。

善逸も普段言わない甘えるような事を言って頬が熱くなるのを自覚したが気付かなかったフリをして宇髄の袖を引っ張って立たせる。

すると案の徐、宇髄は未だに固まったままだったが大人しく立ち上がった。

 

テーブルには宇髄が持ち帰った仕事が散らばってたが片付けるのは明日でも大丈夫だろうとそのままにした。宇髄の袖から手を離し変わりに大きな手を握って部屋まで誘導する。何も言わず大人しく着いてくるので何か大きな動物を手懐けたみたいな感じだ。

 

部屋に着くと人が居なかったからか随分と中が冷えてしまっていた。

後ろを振り返りじっと自分を見つめる深い色の瞳を見上げる。仕事から離れてやっと疲れを自覚したのかその顔はくたびれている。

 

善逸は宇髄のシャツに手を伸ばしてボタンを一つ一つ外す。なされるがままの宇髄は無言で自分よりも小さな手がボタンを外すのを見下ろしている。

ボタンを外し終わると腕からシャツを抜き取って脱がして部屋着に着替えさせた。

下は流石に自分で脱がさせて着替えさせると宇髄の背中を押してベッドに入らせた。

 

奧に宇髄が横たわったのを見届けて善逸も宇髄の横に少し間を空けて横たわった。

休んで欲しくてなんか自分から恥ずかしい事を言ってしまったがやっぱり自分から寄り添う事なんて出来る筈もなくて善逸は距離を取って背中を向けていた。

 

すると項に吐息を感じてびくりと肩が震えると、ずっと黙ったままだった宇髄が善逸の項に唇を寄せて口を開いた。

 

「善逸…寒いンじゃねぇのか」

 

優しい声音で宇髄が言った。

いつものようにからかった感じで言うのではなく善逸を甘やかす時みたいな声で善逸はこの男が本当に好きで泣きそうになった。

 

「……宇髄さん…寒い…」

 

ちいさく、だけど宇髄には聞こえる声で溢すと背中を向ける善逸を振り向かせて宇髄は正面から小さな体を覆うように抱き締めた。

広い背中に手を伸ばして息を吸うと宇髄の匂いが善逸の鼻を擽った。冷えていた体が瞬時に暖まる。

 

はぁ…と息つく声が上から聞こえて善逸は背中に回してた手を上下にして背中をあやすようにさすった。お疲れ様です、と口にしなかったが善逸の言いたい事が分かってる宇髄はぎゅっとまた抱き締める事で返事をした。

 

冬は寒くて人肌が心地良い季節だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆宇善♀(R18)

 
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不毛だと分かっている。

 

こんな事が世間一般から許される事なんてない。こんな事がバレたら私だけじゃない、色んな人に迷惑が掛かるし世間の目があっという間に攻撃してくるだろう。

 

だから、この一回限りで良いんだ。この一回だけで私は前向きに生きていける。泣いてしまう時もあるだろうけど、思い出として強くなれると思うんだ。

 

だから、今回だけはどうか許して…。

 

 

 

 

 

カーテンを締め切った暗くなった部屋の中で二人分の息遣いがこだまする。

 

無意識にちいさな体が逃げようとするが寸時にたくましい腕がちいさな体を抱き締めて引き止める。

 

息が止まりそうな程に強くかき抱かれて身動き出来ない。噛みつくような口付けは奥に縮こまってる舌を捕らえてきつく吸い上げた。

 

「んっ…んんっ…!」

 

黄茶の瞳が震えて初めての快感に涙ぐむ。

息ができないほど乱暴に口腔を舐られ、くちゅくちゅと艶かしい音を立てて舌を擦り付けられ、その激しさにたちまち善逸の頭の芯がぼうっと霞んでしまう。

 

「ふぅっ、んっ……んん…ふぁ……」

 

酸欠になりそうになる寸前で口付けは解かれフラついた善逸の体は寝台の上へ沈んで倒れた。

 

「自分から誘ったくせにこんくらいでへばってンじゃーよ」

 

しゅるっと音を立ててネクタイをほどいて善逸を見下ろしてるのはキメツ学園の一人の先生である宇髄天元だ。

いつもは地味だからと薄銀髪の肩まで届く髪をターバン風に仕舞ってるのだけど先程善逸の手によって取られて端整な素顔が晒されている。

 

赤みがかった鋭い目に見下ろされて善逸はかぁっと顔が赤くなるのを自覚する。

宇髄の大きな手が密着した際にシワになった善逸のシャツに掛かった。ビクッと震える幼い体にふっと笑みを浮かべながらボタンをひとつ、またひとつ…とわざとゆっくり外す。

 

指が僅かに体に触れる度に善逸はドキドキと心臓が煩く鳴るのを感じて今にも逃げ出したくなった。こんなにもドキドキしてるのがバレるのではないかと気が気ではない。

最後のボタンが外されるとシャツの前を広げられて淡い黄色の下着に覆われた日に余り焼かれてない白い肌の胸が宇髄の前に暴かれる。

 

スッと宇髄の目が細まるのを見て善逸は羞恥の余り腕を交差して顔を隠し体を横向きにして宇髄の目から逃げようとする。

 

「~~~ッッ!そ、んな…見ないで下、さい…」

 

腕から覗く頬が赤く染まっている。

宇髄は顔を隠されたのが気に入らずその腕を外す。大した力も入れずに細い腕は素直に顔からどき、赤くなって潤んだ目が宇髄を見上げる。

その表情に宇髄は舌舐めずりする。

 

まだ高校生でガキだと侮っていたがこんなにも艶のある表情もするのか。普段は人の目も憚らず泣き喚いて醜態を曝しているガキだとは思えない表情をする。

 

1度だけで良いからと誘ってきたのはこのガキで、一体どういうつもりか知らないがガキ相手に勃つ訳ねーだろうと最初は断った。が、思いがけず体は熱くなっている。慣れない行為にモタモタし、口付けも初めてなのか震える姿はどうしてか…加虐心を擽られる。

 

徐に宇髄の手が下着を着けたままの善逸のまろやかな胸をまさぐった。

善逸はびくんと身体を震わせる。今まで誰かに胸を触れた事も弄ばれた事もなくて全身に走った未知の感覚におののいた。

 

「んぁッ…」

 

甘い声が上がるのが恥ずかしくて口を手で押さえようとすると気付いた宇髄がそうはさせず代わりに再び善逸の口腔を舐りながら、柔らかな胸を円を描くように揉みしだいた。

そうしてブラをずらし、現れた快感で固くなりつつある赤い突起を親指と人指し指で摘まんだ。

 

「んんっ…!!」

 

なにか痺れるような甘い疼きが胸の先から下肢に走って善逸は目を見開いて身震いした。

なに、何…?今の、雷に撃たれたみたいな、身体の中を走った衝撃は何…?!

 

唇を離した宇髄が訳が分からず困惑してる善逸に見上げられてにやぁと笑みを浮かべる。

 

「気持ち良いだろぉ?」

 

さっきのが気持ち良い…って事…?

初めての事だらけで善逸はさっき身体を駆け抜けたのが快感だって事を知る。そしてたったあれだけで何か可笑しくなりそうだったのにまだ行為は始まってすらいない事を恐れた。

恐れに善逸の目が揺れると宇髄は善逸の申し訳なさそうに鎮座する赤い乳首を口に含んだ。ちゅっと音を立てて、啄むようにそこを吸うと善逸の全身にずきんと痛みにも似た痺れが走って声を上げる。声を抑えようと口を閉じると空かさず宇髄がそれを止める。

 

 「声。我慢すんなよ」

 

宇髄はねっとりと舌先で善逸の乳首を舐った。いやいやと頭を左右に振り声を上げようとしない善逸を乳首を舐めながら宇髄は見つめる。白い頬が赤く染まる瞬間が幻想的な光景のようで美しかった。

ぬるりとした唾液にまみれた乳首がさっきよりも硬く凝ってくる。声を我慢しょうとするが我慢しきれない声が口の隙間から漏れる。

 

「あっ、あ…や…宇、髄せんせ…」

 

胸を弄られてる間にブラが外され、スカートやシャツも脱がされて善逸はブラと同じ淡い黄色のショーツだけの姿となった。

まだ完全に大人になりきれてない身体を晒す事に恥ずかしがるも胸を愛撫された事により善逸は意識がぼんやりしてみるみる全身が熱く火照ってきた。

 

ぞくぞく背中を駆ける快感に上がる声が甘くなっていく。宇髄の薄い唇が掠めるように乳首を擦っただけで吐息が熱く甘くなるのを善逸は自覚して頬を染める。

 

「はぁ…あッ…やだや、だ…恥ずかし、い…」

「は…まだこっからなのに今恥ずかしがってどーする」

 

宇髄の大きな手で覆われてしまう程の小振りな胸を両手で寄せ、白い肌にちゅっちゅっと音を立てて口付け、そのまま赤い痕を残す。

口を離すと白い肌に綺麗な赤い花びらが咲いて散る。そしてまた、凝って硬く立ち上がった乳首を口に含み舌を絡み付かせながら強く吸い上げた。

 

「ぃやぁっ、あぁっ…やぁっ」

 

じくんじくんと甘い疼きがそこから生まれて腰の奥がかぁっと熱くなって善逸は身体の奥がざわざわして熱くなる事に戸惑い胸元に顔を埋める宇髄の頭に手を置き髪を掴んだ。

宇髄の歯が乳首を柔らかく噛むとビリっと雷に打たれたような愉悦が走る。激しい疼きに思わず腰がびくんと跳ねる。

 

ど、どうしょう、身体が変だ。なんか、なんか奥がざわざわする…!!

 

身体の異変にもじもじしてるとふいに宇髄が善逸の片足を持ち上げると足の付け根、その奥に手を滑らせた。うわぁっ、と小さく悲鳴を上げてバッと顔を隠した善逸を横目に見つつ手元を見るとショーツが僅かに染みを作り濡れていた。

 

「はっ…濡れてるなぁ?」

 

ショーツの表面をなぞり、ぬめった粘液が指に絡み付いてくちゅり、と音を立てる。指先で伸ばしたりして遊んで宇髄は笑う。

声にならない叫びを上げて善逸は指の隙間からこの男っ…!信じらんない!!とキッと睨んだ。睨んだのだけど、その目は潤んでいて目端には今にも零れそうな涙が光っている。そして、赤く染まっている顔で睨まれても大して威力はない。

 

まだ理性が残っている事を確認して宇髄は最後の砦であるショーツを足から抜き脱がした。

誰にも見せたことない秘部を暴かれて心の準備がまだ出来てない善逸は悲鳴を上げて膝を持ち上げると宇髄の目から隠そうとした。

 

しかし僅かに太脚ですり合わせただけで完全には隠せず黄色の下生えが宇髄の目に止まる。

 

「へー…お前こっちも黄色なんだな」

「っ…や、そんなとこまじまじと見ないで下さいっ!!!」

 

善逸は羞恥の余り、耳朶まで真っ赤に染めて叫んだ。叫んだ拍子に目端に溜まってた涙がポロっと零れ落ちた。

頬に流れ落ちる涙を首筋に落ちる前に宇髄が舐めとりながら薄い黄色の毛に覆われた秘部を、宇髄の指がそろりと撫で上げた。

 

「ひっ……!」

 

ざわっとした戦慄が背中を走り、善逸は仰け反った。宇髄の指が、黄色の茂みに潜り込みつつましく閉じていた割れ目をそっとなぞったからだ。未知への恐れが善逸を襲った。

 

「や、いやだっ…」

 

身体を小さく震わして悶え、宇髄の手を遠ざけようと腕に手を掛けようとした善逸を見下ろして宇髄は口を開いた。

 

「善逸」

 

その声に善逸はピタッと腕を止める。一言、名前を呼ばれただけなのに抗えない。宇髄を見つめた。

そうだ。この行為はそもそも自分から誘って始めたことだ。怖がっている場合ではない。

 

善逸は腕を引っ込めて閉じていた膝をそろそろ…と開き宇髄が動きやすいようにした。よく出来ましたと褒めるように善逸の柔らかな頬を撫でると心地良さそうに善逸の目がとろんと緩められる。

 

善逸の気持ちが落ち着いた所で宇髄は手の動きを再開させた。くちゅり、と淫らな音を立てて指が割れ目に潜り込んだ。ひやりとした指が内部に潜り込む感触に善逸はぶるっと身を震わせて恐怖と、甘い悦楽を含んだ何かに息を弾ませる。

 

「あ、あっ…」

 

入口をぬるぬると指で掻き回され、甘い疼きが下腹部からどんどんせりあがって善逸は声をあげてしまう。なにか、とろりと熱いものが溢れて太股を濡らしてる。

 

善逸が怖がらないように顔中に唇を落として落ち着かせながら宇髄は淫らな音を響かせて指を奥へと進ませる。

 

「あっ!やぁ…宇髄、先生っ…」

「大丈夫だ、善逸…大丈夫」

 

奥に進む指に善逸が宇髄の肩に爪を立てる。宇髄は声を掛けてやりながら指を更に進める。狭い中の壁が宇髄の指に絡み付き締め付ける。

 

怖いのに、襲ってくる甘い疼きに善逸は喉を仰け反らして悶えた。胸がふるっと揺れた。

 

指っ…宇髄先生の、入ってきてる…っ!

 

 

 宇髄は善逸の白い首筋に舌を這わせた。

次第に上に上がってきた舌が善逸の小さな薄い耳朶の後ろを舐ると、ぞわっと悪寒にも似た刺激が走って嬌声が上がる。

 

「あっ!や、それっ…やだぁっ…」

 「耳が弱いのか?」

 

善逸はびくんびくんと腰を震わせて身悶えた。普段、何も感じない身体のありとあらゆる箇所がひりつくように疼いてしまう。

 

宇髄は善逸の性感帯を捉えて耳朶の後ろを熱い舌で何度もしつこく舐る。

舌がひらめく度に下肢が蕩けそうな程に感じてしまい、中がきゅうきゅうとうごめき宇髄の指に絡み付ききつく締め付ける。

 

善逸は耳がすこぶる良いのだ。動物並みに小さな音や振動でも聞こえてしまう為、直接耳朶の裏を愛撫されると音と感覚に犯されて悶えてしまう。

熱く潤む粘膜を宇髄の指がぐちゅぐちゅと掻き回す。善逸の喘ぎ声が甘いすすり泣きに変わる。

 

「あっあ…やらぁ、耳ッ…やっ…」

 

ふいに、宇髄の指先が割れ目の上に上がり頭をもたげていた小さな粒を探り当てて、つんつんと突いた。

すると途端に、びりびりと脳心まで貫くような快感が走った。

 

「っ、ひあぁっ…!!!あ、なにっ…なに…っ?!」

 

びくびくと全身をおののかせて善逸は悲鳴を上げた。新たな熱いなにかが下腹部の奥からとろとろと流れてくるのが分かった。

 

善逸は耐えきれない悦楽に身を震わせて宇髄に訴えた。

宇髄は婉然と笑うと快楽に身悶える善逸の可愛い表情を愛しげに見下ろした。

 

「善逸。もっと啼け」

 

残酷な宣告とも言えるその言葉に善逸は目を見開いて頭を左右に振って震える。

震える善逸を宥めながら、宇髄は充血した実を指の腹でくりくりと擽るように擦り上げると頭が真っ白になるような法悦に善逸は息を詰まらせる。

過ぎる快感に涙がぽろぽろと零れ落ちて善逸の頬を濡らす。

 

「善逸…もっとだ。可愛い所を見せろ」

 

低く艶めいた声音で熱い息を耳に吹き掛けられ善逸は鼓動が速まり胸の奥がきゅんと痛くなって切なくなり、違う意味で泣きそうになった。

 

そしてかりっ、と実を爪で擦られ目眩がする程の激しい愉悦に、声を上げることすら出来ず善逸らびくんと腰を突き上げて息を詰めた。 

 

「ッッ……!!!!」

 

 脳裏で悦楽の火花がぱちぱちと激しく散って足の爪先がくっと引きつった。

 

ガクガクと震える善逸の身体を見下ろす宇髄が笑みを浮かべた。あ。と善逸が声を上げる前に宇髄の指がまた、強く実を擦った。

すると善逸の最後の理性の欠片が弾け飛んだ。

 

「だ、めッ……ぁっ、あぁぁぁあッッ…!!」

 

善逸の目の前が真っ白に染まった。

一瞬、気を失ってしまい善逸は目を閉じる。しかし宇髄に頬を撫でられて瞼を震わせるとぐったりと弛緩した身体にふっと意識が戻り目を開いた。

 

シャツを脱いだ宇髄が善逸の顔の横に手を置き覆い被さる。引き締まった筋肉質の身体はイタリアとかによくある彫像の神のように美しい。

ぼんやりとしていた善逸はけれど、次の瞬間ビシっと固まって血の気が引きサァーっと顔を青ざめた。宇髄がスラックスの中から取り出した、生まれて初めて目の当たりにした昂る男の欲望…宇髄自身を見てしまったからだ。

 

は…?え、え…?ちょっ、嘘、ちょっと待って!あ、あんなの入る訳ないよね…?!!!

 

禍々しく凶暴に反り返ってるモノを見て善逸は身を起こし逃げ腰になって後ずさる。あんなのが入る訳ないじゃん!何あれ、凶器??!壊れちゃう、死んじゃうっ!!!

 

「まっ、待って、」

「コラ逃げんな」

 

静止の声を掛ける善逸だったが宇髄は逃げる善逸を許さず逃げる細い腰を掴んで引き戻すと無駄な肉のない細い脚を大きく割った。

 

いやいやと怯える善逸のまだ悦楽の余韻が残る入口にぴとっと熱い亀頭を押し付ける。びくりと震え、怖い筈なのに何故かそこがじんじんと疼く。

 

宇髄は熱い息を漏らして、ゆっくりと腰を沈めた。傘の張った欲望の先端がひりつく壁を押し広げて進むのに善逸は身体を仰け反らせた。

 

「やぁっ……!」

 

狭い中がみしみしときしみ、引き裂かれるような激痛が走って善逸は涙をぽろぽろと流しながら宇髄の腕にしがみついた。爪が肌に食い込み宇髄に傷を付ける。

 

「っ…きつ…善逸、力を抜け」

 

ゆっくり腰を進めながら宇髄が掠れた声でぎゅっと目を瞑って身体を固くする善逸に声を掛ける。

しかし善逸は力の抜き方なんて分かる筈もなくなくふるふると首を左右に振って身体を強ばらせる。

すると宇髄が顔を寄せて善逸の耳朶の後ろに舌を這わせて優しく囁いた。

 

「善逸。ゆっくり息を吐け、大丈夫だ」

 

感じる所を舐られて思わず息を吐くと善逸の身体の緊張が緩んだ。その瞬間を逃す宇髄ではなく一気にぐっと奥まで貫いた。

 

「あ、んんっ…!!」

 

自分の中に宇髄のモノがすっぽりと収まってるのを感じ善逸は目を見開いた。

 

熱、い…やっと、一つになれた…。

嬉しさに善逸の目から涙が溢れる。好きなのだ、宇髄が。例え、一生この想いが許されなくても今回の思い出だけで、幸せになれる気がする。

 

宇髄は深いため息を一つ吐くと顔に落ちる前髪をかきあげて中が馴染むまで暫しじっとする。繋がった所を見下ろすと破瓜で血が中から滴り落ちていた。

 

目を細めてそれを見つめるとそれから徐に、腰を穿ち始めた。

 

「んぁっ!ぁ、待、…先、生ッ……」

 

善逸は声を上げながらぐらぐらと揺さぶられ、引きつるような痛みに宇髄に助けを求める。

宇髄は善逸の滑らかな頬を伝う涙を唇で受け止めながら低く甘い声で言う。

 

「こっから良くなる、それまでの我慢だ」

 

突き上げるような圧迫感に声を上げると宇髄が善逸の唇を覆った。たちまち上がる声はくぐもって宇髄の口に消える。舌が絡み合うと痛みが気にならなくなり善逸は必死に宇髄の舌に応えた。

意識が甘く蕩け、次第に痛みよりもじんわりとした快感の疼きに変わる。奥になにか熱いものが生まれ、それが宇髄が奥を突く毎に次第に膨れ上がってきて善逸の身体を熱くする。

 

「は、ぁんッ…あぁ、ぁっ……」

 

中が甘く疼き、口から喘ぎ声が止まらず漏れだして身体を震える。

 

宇髄は息を荒くしながら次第に腰の動きを速めた。ひりつく壁を擦り上げられる度に熱く燃え立つような快感が生まれ全身を蕩けさせていく。さっきまで破瓜の痛みに震えていた中が今は悦びにうごめきながら宇髄自身に絡みついて離さない。

 

「やぁ…あ、ぁ…激し、ぃっ…!」

 

善逸は喉を反らし、甘い喘ぎ声を上げ続けた。既に脳裏は何度も押し寄せる快感にのまれて何も考えられない。

 

くちゅぐちゅっと淫らな音を立てて抜き差しを繰り返し、溢れた蜜が破瓜の血で薄桃色に染まって寝台のシーツを汚して濡らしていく。

 

「ひぁっ、あ…や、もう、だめっ…」

 

激しい動きに新たな愉悦が生まれて善逸は嬌声を上げるしか出来ない。未知の感覚に怯えながら、どんどん高みに追い上げられていく。

 

宇髄が力強く突き上げる度に善逸の脳裏で火花が散る。全身が淫らに燃え上がり気持ち良くて苦しくて、もうなにがなんだか分からない。

そして奥をぐりっと抉るように突かれて善逸は最後の大波に呑まれて意識が真っ白になって声を上げた。

 

「ひぁっ…あ、あぁ、や、やぁああぁぁっ!」

 

びくんびくんと身体を震わせ、大きく仰け反った善逸の身体を宇髄が力強く抱き締めた。

その瞬間、

 

「ぁ…!」

「ッ…」

 

宇髄が低い吐息を溢して腰を細かく震わせた。どうっと熱い奔流が善逸の中で弾ける。じんわりと広がる熱いものを感じながら善逸はしがみついていた宇髄の腕にすり…とすり寄るとふっ…と思考をとぎらせた…。

 

 

 

 

 

 

ふっと善逸は意識が浮上すると目を開けた。

目を擦って身を起こすとズキッと身体に痛みが走り、疲労で身体が重く怠かった。

 

自分の身体を見下ろすと綺麗になっていてバスローブを身に纏っていた。先程の行為がまるでなかったかのようだった。

けれど腰の痛みがそれが嘘ではない事を教えてくれた。

 

「起きたか」

 

ベッドの上でぼんやりしてると今までシャワーを浴びていたのか上半身を剥き出しのままで濡れた髪をタオルで拭いてこっちに歩み寄ってくる宇髄。

 

善逸は宇髄の姿をぼんやりと見つめる。

 ベッドに腰掛けて宇髄が大丈夫か、と善逸の頬を撫でると善逸は泣きそうになるのを我慢して笑顔を作った。

 

「…宇髄先生、今回はありがとうございました」

 

頬に触れる大きな手を、名残惜しく感じながらそっと外させて善逸は宇髄から顔を背けると痛む身体を無視してベッドから足を下ろして立ち上がる。

 

フラついたが踏み止まって気丈に振る舞う。この人には、大事な人がいるんだ。その前に教師と生徒の関係だ。それなのに危険を承知で自分なんかと寝てくれて…初めてを貰ってくれた。これ以上甘える訳にはいかない。

 

「私の我が儘で…初めてを貰ってくれてありがとうございます。もう、忘れて大丈夫ですから」

 

宇髄から背を向けながら素早く下着を着けてシャツを腕に通す。スカートを穿き、チャックを上げるとネクタイを結ぶ。

平常を装っているけど、声は震えてないだろうか。

 

「クソガキが…」

 

ひやりと冷たい声が後ろから聞こえてびくりとする。目を見開いて後ろを振り返ると宇髄がタオルを投げ捨てて立ち上がる所だった。

 

近付いてくるのに後ろに下がって距離を取ろうとするも歩幅が全く違うものだからあっという間に追い付かれてしまい壁に追い詰められた。

 

怖い表情で見下ろされて身体が恐怖で震えて動かなくなる。身長の高い宇髄に見下ろされると威圧感が半端なくて心の蔵が今にも止まりそうだ。

 

「お前…俺が何の責任もなく手を出したと思ってるのか。あ?」

 

ギロッと凄まれて善逸はガタガタと震える。

涙がポロっと零れそうになるのを我慢して宇髄を見上げた。

 

「せ、責任なんて…私がお願いした事なので先生が気にすることなんて……」

 

ない、と言おうとしたが宇髄の手がダンッ!と大きな音を立てて壁に手を着いた事によって最後のまで言えなかった。

人生で初めて壁ドンされたのに全然キュンと来なかった。怖い。

 

固まった善逸を睨みながら見下ろし宇髄は冷たい笑みを浮かべた。

 

「教師が生徒に手を出した、それもまだ未成年のだ。その時点で責任は取らざるを得ないんだよ。それを忘れて下さいだぁ?俺はそこまで無責任男じゃねぇ」

 

まるでお前が悪いんだろうが。と責められてるようで善逸は胸が痛くなって胸元をぎゅっと抑えた。けれど悪いのは自分なのだ。だからこそ責任なんて宇髄にはない。

お互いに今回の事を一生誰にも言わなければ済む話だから何故宇髄がこんなにも怒ってるのか善逸は分からなかった。

 

冷たい目が自分を見下ろしてるのが怖くて舌が悴むのをなんとか動かし尚更忘れた方が先生の為ですと伝えるとはぁ…と思いきり溜め息をつかれた。

顔を片手で覆ってコイツ、バカだ…と言わんばかりの宇髄の顔に次第に恐怖よりも善逸は怒りが込み上げてくる。

 

教師が生徒に手を出したのがバレたらヤバいのは良く分かっている。分かっているから先生には忘れて欲しいのに何でそこで怒る訳?意味分かんない!それにアンタ、嫁さんがいるじゃん…!!

 

「お前、俺の事好きなのに忘れられて良いのか」

 

は…?

 

善逸は目を見開いて宇髄を見上げた。赤みがかった目が見下ろしてきて宇髄の言葉を頭の中で繰り返す。好き。そうだ、自分は宇髄が好きだから誘って一生の思い出として初めてを貰ってもらったのだ。けれど、好きだなんて一言も伝えてない。

そりゃそうだろう、美人な嫁さんがいるのにこの想いを告げても私なんかが勝てる訳じゃないから。

だから今回も最後まで渋ってた宇髄先生をなんとかその気にさせて手を出すしかない状態に追い込んだ。それだけなのに何で私の気持ちがバレてる訳…?!!!!

 

固まる善逸を見下ろして宇髄がん?と首を傾げる。

 

「お前覚えてねぇの?意識落ちる前にお前好きって溢してたぜ?それに、お前が好きでもない男に処女捧げるとは思えねぇし」

 

その言葉に善逸は顔を両手で覆った。

まさか、自分から想いを告げていたなんて…!!!確かに意識が落ちる前に何か言った気がする。かぁぁっと赤くなる顔を俯く事で隠し善逸は泣きそうになって涙が今にも溢れそうになる。

 

好きなんて、伝えるつもりなんてなかったのに。 

 

黙って俯く善逸の両手を外し、宇髄は両手で善逸の頬を包み顔を上げさせた。善逸の目から一滴の涙が流れた。

 

「ま、そんな訳で?頑張って誘っただろうお前が俺はこれでも凄く気に入ってんだ。忘れろなんて言うじゃねぇ」

 

さっきまで体が冷えそうな程に冷たい目をしてたのに宇髄の表情は優しく甘い眼差しで善逸を見下ろし濡れた目元を親指で拭った。

せっかく拭ったのに、善逸は信じらんないと目を見開いて箍が外れたのか目からは止めどなく涙が溢れた。

 

「だ、って…アンタ…嫁さんいるでしょ…」

「あぁ。けど言ってねーが嫁3人いるから」

 

は…3人?!!驚愕した善逸が宇髄を見上げたまま固まった。そりゃ、こんな横暴だし自称・祭の神を宣うとんでもない派手派手とかうるさい男だけど素顔が男前だから女が放っとく訳ないと思ってたけど、嫁3人…?!!

そんなの許されるの…?!!!余りの驚きに涙が止まった善逸の頬を撫で、抱き締めた。

 

「既に3人いるし嫁が一人増えても大した事じゃねぇ。だから善逸…」

 

責任取らせて俺の嫁になれ。

 

せっかく止まった涙がまた溢れた。

こんな、事あっていい訳?これってもしかして私の都合の良い夢?まだ起きてないのかな私…だって、こんな、嬉しい事を…言われてるなんて信じらんない。

 

嗚咽が溢れ、つーんと鼻の奥が痛んだ。

いつまでも応えがないのに宇髄が善逸の頭を撫でて優しく返事は?と促すと小さな手が恐る恐ると宇髄の背中に回されて、こくっと頷いた。

行為の最中でも決して背中に回されなかった手が宇髄の背中にやっと回された。

 

ふっと笑って宇髄は小さな体を強く、世界から隠すように抱き締めた。

 

 

 

END