mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆宿虎

 

 

 

五条は肌を刺すような大きな禍々しい気配に後ろを振り返った。

後ろを振り返っても誰かがいる訳ではなかったが五条の後方の方角から今まで祓った呪物の中で遥かに上回る程の大きな呪力の気配が辺りを漂い覆っていた。

 

この大きい気配はもしや…、と一番思い当たって欲しくない予想を頭が過り五条は面倒な事になるなぁとこれから出張先で購入したご当地土産を食べようと楽しみにしていたのに、と食べ損なう事に酷くガッカリした。

 

小さく溜め息を吐いて五条は仕方なく気配を感じたその場所まで"トんだ"。

 

 

 

 

 

「………」

 

随分とまぁ…、若いな。

 

それが五条の第一印象だった。

トんだ先は何年も使われていないだろう廃病院だった。夜遅い事もあってがらんどうとしてる院内はあちこち朽ちていて割れた窓ガラスからすき間風が吹き、どこか不気味な空気を醸し出している。

 

そんな院内の空気をモノともせず、割れた硝子や汚れた包帯などで散乱している待合室の真ん中にそれは立っていた。

 

短髪の少年だ。まだ年若い、10代の。

赤いパーカーにその上から黒の上着を羽織り、黒いスラックスとパーカー同様赤いスニーカー。どこにでも居る普通の男子高校生に見えるのだけどそれを少年と呼ぶには纏う気配は大きくこの世の全てを見てきたような熟年者のような威厳のある顔付きをしていた。

それは五条を振り返ったが何の反応も示さなかった。

 

まるで最初から居ないかのように無視し周りを見回している。

それには五条も呆れたような気持ちになる。

 

 

「両面宿儺、だよね?」

 

何かを探してるような素振りのその少年の背中に五条は問い掛けた。

少年の顔には血塗りのような赤い模様が浮かんでいて、それが何を示しているモノなのか、五条はよく知っている。

両面宿儺。五条のような呪術師が何人も挑み、打ち勝てなかった呪いの最強、そして呪いの王に君臨する特級呪物。

まだ封印されている、筈だったンだけどなぁ…?と腕を上げて構える五条にやっと存在を認識させた宿儺は鬱陶しそうな表情で振り返り、ぞんざいに言った。

 

「オマエに用はない」

 

まるで犬を払うかのような仕草でシッと手首を振る宿儺に五条は目を僅かに見開く。

黒い目隠しでその目元は見えないのだけどえー…?と拍子抜けして僅かに口を開けてしまう。

 

両面宿儺って人間を、況してや己を封印した呪術師という者に対して殺戮を繰り返した呪いだよね?呪術師が目の前に居るのにまるで犬を払うかのようなこの態度…一体何だろう。

 

取り合えず宿儺は合間見える気はないと感じた五条は腕を降ろし両手をポケットに突っ込むといつものように怠そうな姿勢になり僅かに首を傾げる。

 

「んー?確かに両面宿儺のようだけど、なんか思ってたのと違うかな」

 

いつの間に受肉してたのか、預かり知らぬ所だったし。呪いの王ならば自分の存在をアピールするかのようにありったけの呪力を撒き散らし、大量殺戮を繰り返して世界中の呪術師達が応戦している筈なんだけどなぁ…1000年前の宿儺だったら。

 

じろじろと無遠慮に宿儺を眺めてもその視線を気にもせず周りを見回していた宿儺はここには何もなかったのか用は済んだとばかりに歩き出し移動しょうとしていた。

 

「どこ行く気?」

「…俺の大事なモノを探している、邪魔するでない呪術師が」

 

2度目はないぞ。

低い声でギロリと睨み付けらる五条だったけど呪術師最強の五条が怯える筈もなくあっけらかんと「だけど特級呪物の君を放っとく訳にもいかないじゃん?」と言い放つ。

 

自分が呪いの王だって分かってるよね?呪術師も呪いも君を見付けたら最後、どこまでも追い掛けて来るよ。と五条が言うのに己の存在の大きさを理解してるから面倒くさいという表情を隠しもせず宿儺はフンと鼻で嗤った。

 

「ならばお前も着いて来るが良い。今回だけ特別に許してやろう」

 

今まで対峙した呪術師の中でも一際強いであろう暁に特別にな。

厭らしい笑みを浮かべて五条を肩越しに見返した宿儺はそのままフッと消えた。

 

宿儺が消えると五条は顎に指を添え考える素振りを見せると宿儺の出方を考える。

罠、って訳じゃなさそうだね…。

 

ここで考えてもしょうがないか、とわざと五条が辿れるようにか隠されていない気配を辿り五条はまたトんだ。

 

瞬く間に先程まで居た廃病院から五条は間違えることなく宿儺がいる場所まで着いた。

フワリと浮かんだ体を地面に下ろすと踏み締めたのは芝生だった。周りを見渡すと今度はどこかの森の中だった。

 

樹木が覆い茂る森は月の光りさえも届かないのか真っ暗闇だ。

 

暗闇など慣れている五条はどうって事はないが些か不憫に感じる。

こんな所に宿儺は一体何を探しているというのか。五条が着いてきた事を確認した宿儺は何も言わずそのまま歩を進めた。

 

五条も歩き出し宿儺の後を着いていく。

暗い森の奥を少し進んだ先、やっと視界が開けたと思うと目の前には既に信仰の薄れて何十年にもなろう小さな神社が建っていた。

鳥居がなかったから分からなかったけど、どうやら先程まで歩いていた道は神門の参道だったようだ。

昔は綺麗だったであろう拝殿の壁があちこちボロボロに腐っていて今にも崩れそうだ。

しかし構わず拝殿の中に入り、奥にある本殿の中へと迷わず宿儺は入っていく。

 

それに続いた五条はしかし本殿の扉の前で直ぐに立ち止まることとなった。

宿儺が足を止めたのだ。何?と五条が宿儺を上からの見下ろすと宿儺は暗闇が続く奥の部屋を凝視してポツリと溢した。

 

「…ここに居ったか」

 

居た?五条が聞き返す前に宿儺が再び足を進めてみれば、摩訶不思議な事に宿儺が進む度に月の光が差すように真っ暗で見えなかった奥が見えてきた。

 

五条が宿儺の歩む先に視線を向け、目を凝らせば奥の部屋の壁際に朽ちた神社にはある筈もない汚れやシミ一つもない綺麗な色とりどりの着物のベッドの上に、そこに白いパーカーの上から赤い着物を身に纏った少年が横たわっていた。

 

こんな森の奥の廃れた神社の中に少年が居た事にも驚いたが五条が一番に驚いたのはその少年の姿形が宿儺とそっくりだったからだ。

 

「宿儺の器…」

 

あどけない寝顔を晒すその少年の傍らに宿儺が腰を下ろすと花を愛でるかのような優しい手付きで目を閉じたままの少年の頬に指の背を這わせた。

それだけでも驚きものだがまだ驚くには少し早かった。

 

「小僧」

 

うっとりするような声音だった。

下手するとそれは愛を囁いているようにも聞こえた。唖然とする五条を目にも掛けず宿儺は頬を撫でていた手を滑らせて寝息を溢す唇にそっと触れてまた甘く呼び掛ける。

宿儺が探していた大事なものは、少年だった。

 

すると宿儺の呼び掛けに応えるかのように少年が小さく身動きして小さく声を漏らす。

 

「ん…」

 

宿儺と五条が見つめる中で少年はゆっくりと、花開くようにその瞳を開かせた。

ゆらりと視線が揺らめいていたがパチリ、とパズルが合わさったように宿儺と目が合い少年は宿儺を認識すると目元を柔らかくさせて笑みを浮かべた。

 

「す、くな…」

 

目覚めたばかりでまだ頭がボンヤリしてるのだろう、幼子のような舌っ足らずなその口調に宿儺はスッと目を細めた。

 

「小僧」

 

のろりと伸ばされる腕を許し、首に回され引き寄せられるがままに宿儺は少年に抱き締められて、そしてもう離さないように強く抱き返した。

 

嬉しそうに笑う少年とその少年を強く抱き締めている呪いの王というその光景に五条は何と思えば良いのか分からなかった。

 

簡単に言うなれば離れ離れになった恋人同士が再び逢えた喜びを分かち合っている光景なのだが、如何せん…少年も宿儺も男だ。

そして同じ姿形だから二卵性の双子の兄弟のようにも見えるがやはり二人の空気がそれだと認めさせない。

少年の腰に手を回す宿儺の腕は、恋人に対する触れ方だ。少年が宿儺に向ける眼差しは、親しみや親愛じゃなく熱が籠っていた。

 

呪いの王がまさか受肉した少年に心を許していたとは思わなかったし思う筈もなかった。

何故なら宿儺にとって人間とはただの玩具としか思ってなかった筈なのだ。それに先ず驚くべき事は少年が宿儺の指を取り入れたにも関わらず生きていて自我を保っていられている事にだ。

幾つの指を取り込んだのかはまだ正確には分からないがこの少年は1000年生まれてこなかった宿儺の器として一級の逸材だ。

 

だから今目の前に繰り広げられているこの光景に五条はただ立ち尽くすしかなかった。

少年の体を完全に乗っ取り自由に動き回るようだったら五条は何も思うこともなく宿儺と相対して祓うつもりだったが、宿儺は完全に復活した訳ではなく少年がいるから動いて居られる。

なら少年を殺せば簡単な話だが少年は自分の意思をちゃんと持っている、ただの器ではない。宿儺を難なく抑え込められるのだ、人間のままで。

 

だからこそ人間のまま殺せる訳がない。

それにここで殺した所で宿儺の指はまだ幾つも存在している。余程の事がない限り一般の人間があれを手にすることも自分の中に取り入れるような事はないだろうけど万が一にもその人間の体で宿儺が受肉したとしたら今度はそう簡単には行かないだろう。

 

普通の人間が宿儺を取り入れたら先ずもってその精神は跡形もなく確実に死ぬ。そして宿儺に体を乗っ取られて破壊の限りを尽くす。見る限り今の宿儺は少年がいるから表だって動いてないようだけどここで少年を殺してしまえば宿儺を抑えられる者が居なくなる。

 

五条は瞬時に結論を出した。

少年はここで殺さないと。

 

宿儺に強く抱き締められて甘えていた少年はそこでやっと、ずっと沈黙していた五条に気付いた。

 

「誰?」

 

はっきりとしたその声音に五条は意識を少年に向けると少年は穢れを知らない真っ直ぐな目で五条を見返していた。

今どき、珍しいと思いながら笑みを向けると少年もニコッと笑みを返してくれた。

 

根の素直な少年のようだ。

表裏のない無邪気なその笑みは暖かく何故か胸の奥に温もりを与えてくれる、そんな笑顔だった。

この子が、宿儺の器。

 

少年を抱き締めていた宿儺が五条と腕の中の少年が何やら見つめ合っているという状況に眉間に皺を寄せた。

 

「…小僧、」

 

あんな者に構うな、と言わんばかりに宿儺が少年の肩をグイッと掴み五条から隠すように己に引き寄せると少年は五条から宿儺へと視線を移し再度問い掛けた。

 

「あの人は?宿儺の友達?」

 

何の一切の疑いもなく、そう言った少年に五条は堪らず思いきり吹き出した。

 

「ぶはッwww」

 

肩を震わせて堪えきれない笑みを溢す五条とは対称的に宿儺はこれまでかっていうくらいに顔をしかめ苦虫を噛み潰したような表情で少年を見下ろしンな訳があるかと低く凄んでみせた。

 

治まらない笑いを堪えもせず肩を震わす五条と気分が害されたとムッツリと口元をへの字にひん曲げた宿儺を見合わせて少年は困ったように首を傾げた。

 

「王である俺と忌々しい呪術師が友などと…オマエの頭の中は本当にお目出度いな」

 

言葉は辛辣なクセに少年に触れるその手は優しく言動がちぐはぐだ。少年は宿儺のその言葉に目を見開き五条に視線を向けた。

 

「あんた、呪術師なんだ!あ、宿儺祓いに来たの…?」

 

初めて呪術師という者に会ったのだろう、キラキラと目を輝かせて宿儺の肩から身を少し乗り出した少年はしかし次の瞬間には呪術師は呪いを祓う者だと思い出してぎゅっと宿儺の頭を抱えて悲しそうな表情をした。

 

大事なモノを取り上げられると危惧するような子供の仕草に心が動かない訳がない。

五条は違うよ、と首を振り軽い口調で少年に笑いかけた。

 

 

「僕は五条悟。呪術高専っていう学校の1年の担当をしてる教師で宿儺から許されてここに居るんだよ。今は祓うつもりないから安心して」

「五条、先生…?俺は虎杖悠仁、よろしく!」

 

キョトンと目を丸くさせて先生…と呟いていた少年、基虎杖悠仁は自分も名乗った。

祓うつもりはないと聞くや否や良かったー!と宿儺の頭から腕を離し安堵の笑みを浮かべる。

 

どうやら宿儺と虎杖は互いに気を許しているように見える。

恐れる事なく呪いの王に触れる虎杖に五条はまたも驚かされる。宿儺もされるがままに触れさせている、その事がただ信じられなかった。

初対面の五条に対してもまるで長年の付き合いがあるかのような砕けた話し方は気に障ることなく、逆にそれが虎杖の人付き合いの良さが窺い知れる。

全身黒ずくめのの190㎝以上の目元を隠した端から見ても遠くから見ても怪しさしかない五条の言うことを信用し疑う事もしない子供にちょっと心配になってしまったが。

 

「うん、よろしくね。一つ聞きたいんだけど良いかな?」

「いいよ!何?」

 

元気よく手を上げながら何でも聞いて!好みの女の子はジェニファー・ローレンスだよ!と聞いてもいない好みのタイプを言う虎杖に笑いながら五条は口を開いた。

 

「君は宿儺の器で間違いないよね?」

 

答えなど分かってはいるが一応とばかりに五条が聞くと虎杖は大きな目をスッと細めて五条を見返した。

一瞬ピリッとした空気が周りを包んだがそれは瞬く間の事で直ぐに消え、答えの代わりに虎杖はニコッと微笑んだ。

 

それが答えだった。

虎杖悠仁は両面宿儺の器で間違いはないようだ。

 

 

 

 

 

**

 

色とりどりの着物のベッドから起き上がり虎杖は不思議そうに周りをキョロキョロと見渡した。

 

「そう言えば俺、何でここにいるの?」

 

この着物も身に覚えがないんだけど。

着物の袖をフリフリ揺らしながら宿儺に似合う?と首を傾げる虎杖に危機感のない奴め、と呆れたように宿儺が息を吐く。

 

「…俺が次の塒を探し傍に居ない時に低級にでも拐かされたのだろう」

「え?!マジ?!あー…でも確かに宿儺の気配を感じたと思ったらなんか意識無くなったかも」

 

そっかー、俺拐われたのか。道理でこんな所知らないわ。と苦笑いを浮かべるのに呆れてモノも言えないのはこの事か、と宿儺は痛くなる頭を片手で抑えた。

 

「フン…度胸のある痴れ者がいたものだ。それに容易く拐かされるオマエも大馬鹿だな小僧」

 

鼻で嗤い虎杖を見返せば虎杖は、あぁ?!と異論の声を上げた。

 

「ひっでぇ言い様!宿儺が俺一人でも大丈夫だって言ったじゃんかよ!」

 

宿儺自分の言った事も忘れたの?と不満な顔を隠さない虎杖は次の瞬間には表情をコロッと変えて、でもさ俺が拐われても宿儺は絶対見付けてくれるんだろ?と疑いもなくニコッと笑う虎杖に宿儺ははぁ~あ、と重く長い溜め息を吐いた。

呆れた表情だったけれど宿儺は虎杖の言うように必ず虎杖を見付けるのだろう。

それを裏付けるようにニコニコと見つめてくる虎杖に否定の言葉を返す事もなく癪だと言うように渋い顔をしつつ宿儺は虎杖の頬を飽く事なく撫でている。

 

五条はそんな宿儺と虎杖のやり取りを眺めて宿儺がどうやら天然記念物の虎杖に振り回されているのを見てとれて心の中で大変だね~と笑っていた。

 

そんな時、パキッと何かを踏み締める音が夜の静寂に大きく響いた。

 

バッと三者が振り返ると入り口の前に大きな黒い塊がうごうごと蠢きながら立っていた。

何かの合体霊なのだろう、複数のハッキリ聞き取れないような声がブツブツ呟いていて塊が動く度に激痛を感じているのか悲鳴に変わっている。

それを頭に認識した途端に異臭が鼻を擽って虎杖は鼻を押さえ顔をしかめた。

 

「何あれ」

 

ズルッズルッと体を引き摺りながら鈍い動きで近付いて来る呪物に宿儺は嫌悪感を隠しもせずに醜いな、と溢す。

 

「俺からオマエを拐かした低級だな」

「へー」

 

全然宿儺の気配しないじゃんか、何で俺あれに気付かず拐われたんだろ?と頻りに怪訝な表情で首を傾げる虎杖をチラリと見やり宿儺は鼻で嗤った。

 

「小僧」

「ん?」

 

呼び掛ける宿儺に顔を向ければ宿儺はクイっと顎を動かして呪物を示した。

 

「動きを止めて来い」

「おう」

 

呪術師、オマエは手を出すなよ。

宿儺がどう動くのか知りたかったから元から動くつもりのない五条に一応釘を刺して宿儺は孟スピードで走り出す虎杖の背中を見た。

 

虎杖が駆けて来るのに先程まで鈍い動きだった呪物が素早く動き出して虎杖の前に迫る。

腕は存在しないのか迫り来る勢いのままに体当たりでもしょうというのか止まらないのに対し、虎杖は脚に力を入れると飛躍して呪物の背後に回る。

 

ひらりと袖が舞い、踊ってるかのように見える程危なげもなく軽やかに着地した虎杖はしかし、美しく見えた動きと打って変わって振り返り様に裏拳で重い打撃を与えた。

虎杖の拳はコンクリートをも破壊出来る打撃だったのだけど呪物の体はグニャリと柔らかくまるで泥のようで手応えがなかった。

 

手応えがないと判断するや否や虎杖は直ぐ様に体を捻って回し蹴りを繰り出せば呪物の体はグラリと傾いて倒れる。

バタンッ!と大きな音を響かせて倒れた途端に呪物の体からブシュッ!と液状の物が吹き出しそれを避けて虎杖は仰け反って勢いよく床に両手を着くとバク転しながら距離を取った。

 

十分な距離を取れば虎杖は身を低くしていつでも駆け出せるように拳を構える。

 

虎杖の身体能力の高さに五条はへー、あの子の動き完璧だね。身体能力が素晴らしくずば抜けてるし僕が受け持つ生徒の中でもピカ一だよ。と溢せばそれを聞いていた宿儺は笑みを浮かべてみせた。

 

それも当然だ、虎杖は呪いの王である宿儺の器だ。そこら辺にいる人間と一緒にして貰っちゃ困る。

 

隣の空気が変わったのを気取り、五条が横を向くと俺の小僧は可愛いだろ?と言わんばかりのドヤ顔した宿儺がいて五条は思わず孫が可愛くて自慢するお爺ちゃんかよ、とツッ込んでしまった。

 

まぁ、生きた年月を数えれば俺は老い耄れだろうがな、小僧のそんなモンに収まる俺ではないわ。と返し宿儺はスッと前に出る。

宿儺と五条が話していた数分の間でいつの間に虎杖は呪物の動き封じていたのか、うごうごともがく呪物の上に乗っかって足止めしていた。

 

前に歩み出た宿儺に視線を向け、虎杖は呪物の上から飛び去った。

 

「フン…わざわざ俺が手を下した事を誇るが良いぞ低級が」 

 

よろりと起き出そうとする呪物の前に立ち、俺のモノを勝手に拐かした罪は重いぞ。

地を這うような重い声音で暗い中でもぞくりと底冷えする紅く光る鋭い眼光が呪物を見下ろす。

虎杖と同じ顔でも宿儺が浮かべる表情は酷薄で冷徹だ。

その身に纏う呪力はまだ全ての指を揃えていないにも関わらず余りにも大き過ぎて呪物はブルブルと震え上がる。

身の程も知らずに持ち去ったモノがどれだけ宿儺にとって大切なものなのか、分かっていなかったが呪物の最後だったのだ。

 

宿儺が無造作に右手の人差し指と中指をクイっと振り払う仕草をすれば震えながらもやっと起き上がった呪物だったのに、何をされたのかも理解する事なく3枚に下ろされ、辺りを血飛沫が派手に舞った。

 

それとコレは返して貰うぞ。

 

肉片が床に落ちる前に呪物の心臓部辺りだったろう肉片を掴み肉を掻き分けて中から真っ黒な血にまみれたモノを取り出した。

用のなくなった肉片を落とすとビチャッと叩き付けられた音と共に床が赤黒く染まり、肉片となった呪物には当に興味が失せていて取り出したモノに視線を下ろせばそれは宿儺の指だった。

 

宿儺の指を取り込んでいながら呪物が弱く呆気なく死滅したのはこの指は気配を消すのに長けていてどちらかというと隠れるのを得意としてるからだ。

だから虎杖は気付く事もなく拐われたのだろう。ただ何本かの指を取り込んでいる虎杖だから僅かに宿儺の気配を感じてはいたみたいだったが防ぐ事までは出来なかったようだ。

 

血にまみれた指をグイグイと服で擦って綺麗にすれば宿儺は顔を上げる。

 

「さて…小僧」

「ん」

 

呪いを死滅させた時と同様に指をクイクイッと曲げて虎杖を呼び寄せた宿儺だったが虎杖が3枚になる事はなかった。

それは愛し子を呼び寄せるだけの合図で心得ている虎杖はトタトタと宿儺の傍へ戻り、口元に寄せられた低級の呪物が取り込んでいた宿儺の指をパクっと躊躇いなく口に入れゴックンと飲み込んで見せた。

 

そのまま宿儺の指に甘く噛み付くと笑いながら宿儺がほれ、それは違うぞ。俺の指はもう食ろうただろ、と嗜める。

 

甘く叱るそれは本気で怒ってる訳じゃないと分かっている虎杖は嬉しそうに、でもこっちの方が温かくて美味しいよ?と紅い目を見つめた。

じゃれ合いの延長戦で二人はくすくす笑いながら身を寄せ合う。

 

 

足元には呪物の肉片が散らばっている状況でそれは端からみれば悲惨な現状なのだが宿儺と虎杖はそんな中で顔を寄せ合って甘い雰囲気を醸し出しているというのはどこか異質に見える五条だ。

宿儺が平気なのは当然の事だろうが普通ならば人間として嫌悪感を抱きそうなものなのに平然としている虎杖は、イカれているのだろう。

だから宿儺の指を、視覚的にも拒絶する人間の指を躊躇なく口に入れられるのだろう。

 

 

一連の流れを傍観してた五条はその場から動かずに二人に声を掛けた。

 

「ね、じゃれ合ってる所で悪いンだけど指を集めて何をする気なの?」

 

つい流れで黙って見ちゃってたけど、本当なら指は僕が回収しないといけないんだよね?

と軽い調子で言う五条は本当に呪術師なのだろうか、厳重保管に値する特級呪物を一ミリも回収しょうとする動きはなかった。

 

問い掛けられた二人は身を寄せ合ったまま五条を振り返る。

同じ顔の異なる四つの目が自分に注がれるのにちょっと面白いね、と思っていれば宿儺の肩にコトリ、と頭を凭れさせて虎杖が口を開いた。

 

「二人で消えること」

 

それは一体どういう意味で?

五条は一瞬静止して2秒の間に色々頭の中に巡らせて考えてみたが結果が分からず結局訊ねる事にした。

 

「消える…もしかして死ぬ気?」

 

指を集めて呪いに寄る世界降伏を企んでるかと思ってたが虎杖の人の良さを思えばそんな事を許す筈もなかった。

 

「ん?んーまぁ、そうなのかな?宿儺の指を全部集めて宿儺の力が戻ったら二人だけの場所に行くんだ。宿儺ならそれが出来るから」

 

消えるという事は存在自体を消す、すなわち死と同じだ。

虎杖はまぁ、死ぬって感じなのかな?と死に対しての恐れも抵抗もなく笑って見せた。

 

でも今は宿儺の力は散り散りになってるから今は出来ない、だから指を集めてるの。

 

「そっか。宿儺はそれで納得したんだ?」 

 

どういう経緯で虎杖が宿儺の器となり、宿儺から愛される事となったかは知らないけれど虎杖は誰の協力も得ずに人知れず宿儺の指を集めて、人知れずに宿儺と心中して死ぬつもりだったのだろう。

 

それはまだ10代の虎杖には余りにも寂しい最期だ。

人一倍正義感の強い虎杖が特級呪物の宿儺が消えれば無惨に殺される人が少しでもなくなればと、思ったのだろうが呪いの王は本当にそれで納得出来たのか、五条は不思議に思えた。

 

「俺は長く生きた。今更この世を血の海に変えた所で面白くも何ともない、当に飽きた」

 

ならば後生は小僧と二人で隠居暮らしでもするさ、なればこそ生前のような力が居る、だから指を集める。

 

己の肩に凭れる虎杖の頭をゆるりと撫でて憮然と宿儺は五条の問い掛けに答えた。

強過ぎる力は時に面倒な物で、敵う者も居なくなればつまらないものだぞ、と呪術師最強の五条にも痛い程身に覚えのある経験を宿儺は口にした。

昔の呪術師や人達からすれば飽きたの一言で済まされるなんて堪ったものじゃないが今の世には逆に飽きてくれてありがとう、って喜ぶしかない。

 

 

 

***

 

宿儺と虎杖が指を集めていた理由は理解した。

虎杖が傍にいる限り、宿儺が世に混乱を招く事もないだろう事も知った。

ならば五条がやるべき事は一つだけだ、と五条は二人に微笑み掛けながら持ち掛けた。

 

「ね、呪術高専に来る気はない?基礎から呪力の使い方を教えてあげる」

「え?」

「…呪術師…」

 

険しい顔を向ける宿儺に五条はまぁまぁ、聞いてよと宿儺に笑いかける。

 

「そう睨むなよ宿儺。だってその子、素の力は大抵の人間よりかは強いけど呪い相手では弱いでしょ」

 

さっきの動きだけで直ぐに見抜いたらしい五条に宿儺は口を閉じる。

虎杖は人間離れした素晴らしい身体能力を持っているけど、それは人間相手だった場合の話だ。

元々呪力のない人間だったから宿儺の指を取り込んで体に宿儺の呪力が僅かに流れているが呪力の使い方を理解していないから扱えておらず呪いを祓えない。

だから宿儺が止めを刺した。

 

「………」

「何もその子を囲って宿儺を祓おうとしてる訳じゃないよ?僕にもその子の夢を叶える手伝いをさせて欲しいだけ。それに今回のように宿儺の力に惹かれて連れ去られてしまうかもしれないじゃない、その時の対応とかも教えたいし」

「…して、そんな面倒事を抱え込んでオマエに何の得があるのだ呪術師」

 

此方に得があれどそちらには損しかないのでは?力を貸すつもりは一つもないぞと訝しげに五条を睨み付ける宿儺に顎に指を当てながら答える。

 

「んー、強いて言えば可愛い教え子が増える事と、その子と宿儺が居る事でこれからは簡単に指が見つけられて呪いに寄る被害が多少は収まる、事かな。どー?」

 

大丈夫安心して、屋根付きベッド付きの3食ありのちゃんとした所に部屋も用意するしやってくれるのであれば呪いを祓う任務にはちゃんと給料も支給されるよ。と前半の条件以外は虎杖と宿儺にとってはとても高条件を付け足した。

 

「宿儺…」

「…好きにすると良い」

 

どうしょう、と宿儺に顔を向けた虎杖に宿儺は己は平気でも確かに生身の虎杖に何時までも野宿はさせられんし食べるに移動するにも金はいると分かっていたから強く拒否はしないが己じゃなく虎杖に選ばせる為にそっけなく返した。

そっけない返しだったが虎杖にはそれが五条に着いて行くのに悪い事はないと暗に含まれていると心得て決心する。

本当に駄目だった場合は宿儺は虎杖に選ばせる事もしないのだ。

 

「え、と…うん、五条先生に着いてく。ぶっちゃけ言うとこれから寒くなる時期に宿無しは辛かったからちゃんとした所で眠りたい!」

 

宿儺がいるから余り寒くはなかったけど二人で柔らかいベッドに眠りたいもんね、と横にいる宿儺に顔を向けると五条はえ?と声を溢した。

今とんでもない衝撃的な事を聞いた気がする。

 

「…宿儺と一緒に寝てるの?」

「うん?俺体温高いから凄く温かいんだって!」

 

首を傾げて宿儺が言うには子供体温だって!だから二人でくっ付けば全然寒くないんだぜ?と男二人が一緒に寝てる事自体に疑問に思ってなく誇らしそうに胸を張る虎杖に五条はふーん。と短く相槌を返すと両手を広げた。

 

「僕も試してみていい?」

 

ここ暗いからちょっと僕寒いんだよね?とへらりと宣う五条に虎杖はへっ?とすっとんきょうな声を上げる傍ら、宿儺は青筋を浮かべて虎杖を五条から避けるように背に庇った。

瞳孔を開きゴミを見るような視線で五条を睨み付ける。

 

「オイ呪術師。殺されたいか」

 

今にも喉元を噛み千切られそうな重々しい宿儺の雰囲気にも五条はケロッと平然としており、加えてブーブーと口を尖らせてみせた。

可愛い子と毎晩添い寝だなんて、羨ましくズルいではないか!と異議を唱える。

 

「良いじゃん、減るもんじゃないでしょ」

「…忌々しい呪術師がそんなに死にたいなら今ここで息の根を止めてやろう」

「宿儺ってケチだね」

 

狭量な男は嫌われるよー?とからかえば宿儺はハッ!と鼻で嗤った。

 

「喧しい。これは俺だけのモノだ」

 

バチバチと宿儺と五条の間に火花が散り、端から見ても重苦しい空気なのだが仲良しだねー!って二人を見て笑う虎杖。

二人は揃って仲良くはないよ?仲良くない!!とハモりながら虎杖を振り返るものだから、虎杖はケラケラと楽しそうに笑うのだった。

 

いがみ合っていた宿儺と五条は虎杖のその笑顔に険悪な雰囲気を持続出来ず仕方なさそうに溜め息を吐いたり、肩を竦めてみせた。

 

「ま、取り合えず呪術高専に歓迎するよ!」

 

 

END

 

 

 

 

書きたい所だけを書いたから色々補足か必要な所があるかもですけど、何となく読んで頂ければ幸いです^^;

 

後日、挿絵が多分入ります。

◆五悠♀

 

 

 

 

辺りが夜の暗闇に、静寂に包まれた6階建ての廃ビルの屋上に黒いスカートがヒラリと翻った。

辺りは静寂ばかりで風の音もなく暗いまま。しかしその中をただ、一人の少女が降り立っていた。

真っ黒な制服の中で紅いフードが一際目立っていた。

 

下の階に繋がる扉へ進もうとスカートから覗く白く健康的な足を動かすとそれに伴ってヒラリゆらりスカートが揺らめく。

扉に手を掛けようとした次の瞬間、少女はバッと後方に飛んで少し身を屈め足腰に力を入れると攻撃の体勢に入った。

 

言葉にすらなってない声を発しながら屋上の扉から出てきたのはこの世のモノとは思えない異形の異物の存在。

腕が不揃いに5つ、眼が体の至る所にギョロギョロと不確定に視線をさ迷わせていて普通の人間ならばこんな"モノ"を視たら恐怖の余り気絶するか逃げ叫ぶのだろう。化け物と。

けれど少女の仕事はこれを祓う事だ。だからその異形・呪いが動き出す前に目を大きく開き一瞬の動きすら見逃さないと顔を上げ、ググッと足に力を籠め走り出すと助走の助けもあって高く飛び上がる。

 

呪いの5つの腕がグニャリと伸び上がり細い棒状になって少女を捕らえらんとするが逆にその腕をグッと掴み取り1つに纏めると動きを封じた。

封じた腕を捕まえたままに呪いの真上から重力に従ってその巨体を踏み潰し、パッと封じた腕を離すと少女の細い掌がぐっと握り拳を作りボウッと透明なオーラのようなものが浮かぶとその拳で呪いを殴り飛ばした。

 

少女のパンチとは思えない程凄まじい威力で呪いは水上タンクの壁に勢いよくぶつかり、破裂音と共に血を撒き散らしながらピクリとも動かなくなって、息絶えた。

 

暫く起き上がらない事を確認してから少女は呪いを一瞥して背を向けると扉に向かい、ドアノブを捻って階段に足を下ろすと降ってそのまま二度と振り返らなかった。

 

階段を降りながら制服のポケットから携帯端末を取り出し何回かスクロールすると目的の人の番号を見つけ、タップして耳に当てる。

数回コールが鳴り続くと直ぐに繋がった。

 

「もしもし、伊地知さん?うん、終わったよー!うん、怪我どこもない。はーい、了解!うん、ありがと。じゃね、伊地知さんもお疲れさん!」

 

簡単に任務の報告をすれば少女…虎杖悠仁は携帯の向こうで無事で良かった、とホッとしてるであろう補助監督の伊地知に笑みを浮かべると労りの言葉を投げて通話を切り携帯を仕舞った。

 

廃ビルから出ると本来ならばこのまま近場で待機してるであろう伊地知の所まで行って呪術高専まで送ってもらうのが常なのだが今日は任務後の一時の休息を許されたのだ。

宿儺の器の身でありながら監視も付けずに一人で出歩くのは滅多にないがここは高専からそう遠くもないから今回限りで許された。

 

帳の結界が解けて静寂な夜から白昼賑やかな日常に戻っていくのを背後にしながら悠仁は軽い足取りで街へと足を向けた。

 

日曜日なのもあって周りには人でごった返している。見渡す限り人ばかりで高専の人の少なさに慣れてつつあった悠仁にはこんなにもたくさんの人が集まっているのを見るのは久しい事だった。

自分と同じように制服で集まってる女子グループが各々手に持っているタピオカジュースを美味しそう、俺も買おうかな、とワクワクしながらよくTVにも紹介されてる歓楽街通りを歩く。

先程見掛けた女子グループが持ってたタピオカジュースの売店を見付けると丁度空いてる時なのか余り人は並んでなくてラッキー!と思いながら愛想の良いお姉さんに出迎えられてミルクティーを頼んだ。

 

代金を払いジュースが出来上がるのを待ってる間、次は何を見ようかとリサーチして周りを見るとやはり流行りの店が多いからか女の子が多い。あとは外国人がたくさん居る。

 

外国の人は皆何で背の高い人が多いンだろ…?と頭1つ分高くてどこから見ても目立つ外国人を感心しながら見送ってると出来上がったのか、お待たせしました!ミルクティーのタピオカジュースになります!と笑顔を渡され同じく笑顔で礼を言いながら受け取った。

大して疲れてはいなかったのだけれど冷たいものを口に含んでサッパリとした感覚を味わった。

うん、美味しい。

 

文句なしの大変満足出来る味で悠仁はニコニコと次の所へ歩いた。特に目的もなく訪れたから宛はなく、ぶらりとするだけだ。気になった店を覗いて一通り見てからまた次へと、その繰り返しを何度かして悠仁は一時の一人の休息を楽しむ。

これと云ってパーカーが凄く好きって訳じゃないけど気が付いたらいつもパーカーばかり着てるからパーカーを見掛けると手に取っておぉ、格好いい…!!とつい欲しくなったが任務になると汚れたり、破られたりしてしまうからと悠仁は直ぐ諦めた。

 

あのジャージとか、釘崎カワイイって言いそう~。あ、あれ伏黒の玉犬に絶対似合うじゃん!買ってって着けて貰えないかなぁ?いや、伏黒怒りそう…。

 

同級生の事を思い浮かべながら色々物色した悠仁はお土産を各々に買って店を出た。

途中で小腹が空いて肉とキャベツたっぷりのケバブを買い食いしてソースが染み込んだ肉に目をキラキラさせてこれ美味しいねおじさん!と無邪気な笑顔を向けられてお店のおじさんは嬉しそうに返した。

 

粗方気になるお店は見て満足した悠仁は夕方になったしそろそろ帰ろう、と包み紙をごみ箱に捨てて踵を返そうとしたその時、ドンッと腰元に衝撃を感じて動きを止めた。

 

「うぉっ…?!」

 

慌てて下を見ると小さな男の子が尻餅を着いていた。どうやら走ってる所をぶつかったらしい。涙ぐんで今にも泣きそうな男の子の前にしゃがみ脇下に手を差し入れ持ち上げて立たせる。

 

「坊主気付いてあげられなくてごめんな~。怪我はない?大丈夫?」

 

短パンのお尻に付いてしまった汚れをパンパンッと払って悠仁が笑い掛けると男の子は涙ぐんでいた目元を擦りうん、と頷いた。

 

「…オレの方こそごめんなさい、余所見してた」

「うん、えらい!」

 

恥ずかしそうに謝る子供に悠仁はちゃんと謝れた事にニッと笑うとその頭をえらいえらい!と撫でた。

すると男の子も楽しそうに笑うのに悠仁はやっぱり子供って素直だよなぁと思う。

しゃがみ込んでいた体勢から立ち上がると丁度向こう側から子供の母親であろう女性が慌てたように名前を呼びながら此方に向かっていた。

子供が気付くとパッと嬉しそうに駆け出す。

しかし数歩駆け出した所で立ち止まって悠仁の方を振り返るのに悠仁はん?と首を傾げる。

 

「男のお姉ちゃんバイバイー!!」

 

大きく手を降り身を翻して駆けていくのに一瞬固まり目を見開いたが悠仁はその小さな背中に「もう余所見するンじゃねーぞ!」と声を掛けた。

 

何事もなく無事お母さんの所まで辿り着いたのを見届けて子供が悠仁の方を指差しながら何事か話すとお母さんが小さく会釈をしたので悠仁も軽く会釈を返した。

人の間に消えていくのを見送り手を振る子供に手を振り返して悠仁も背を向けた。

 

「男のお姉ちゃん…ってどっちだ??」

 

それは男なのか?女なのか?たまに子供はよく分からない事を言うな。てかそんなに女に見えないかなー?と悠仁は子供の言葉を思い返していた。

信号待ちをしてる間に自分の体を見下ろすがまぁ…顔から下を見れば女か。巨乳とまではいかないが普通よりも大きい胸だ。動きやすいようにゆったりとした制服の上からでもくびれているのが分かり、足はスラリとしてるけど鍛えてあるからがっしりしている。身長も高い悠仁は良い身体をしている。

問題はこの髪型かな…でも髪を長くすると呪いと戦う時に邪魔くさいンだよなぁ…。

 

長髪になった己が戦う姿を思い画いてうん、邪魔だな、長髪なんてナシだわ。と思っていた所に下の方から声が掛かる。

 

「オイ、小娘」

 

悠仁は下を方…自分の左手の掌を見下ろすとそこには口が浮かび上がっていた。

 

両面宿儺。

 

悠仁の体の中に封じられている宿儺が言の葉を交わすのに悠仁の体の一部を借りて現れるのだ。悠仁は周りに不自然に思われない程度に髪をかき上げるフリをして掌を耳元に持っていく。

 

「こんな人の多い所で声を掛けるなよ。どうしたの宿儺」

 

聞こえないぐらいの声量で出てきた理由を問い掛けると宿儺は馬鹿が、気付け。と毒付いた。ああん?と喧嘩腰になる悠仁だったが宿儺が口を開き続けたので黙った。

 

「オマエ、付けられてるぞ」

「姉ちゃん一人?」

 

宿儺の言葉にえ?と溢すのと声を掛けられたのに果たしてどっちが早かったか今や知る術もない。

悠仁は後ろを振り返るとそこにはまるで絵に描いたようなチンピラが3人。

何回も髪を染めたからか傷んでくすんだ金髪と至る所にピアスを開けたのとこれ見よがしに腕に入れ墨を彫った奴。

宿儺はいつの間にか消えていたが裡でジッと男たちの動向を探っている気配が伝わった。

 

「うん、一人だけど何か用?」

 

チンピラ3人の目的は分かっている。

同級生には馬鹿だの鈍いだのと言われてる悠仁だけど男たちの目の奥にある下卑た思いにはこれでも気付いてるし分かっている。

ニヤニヤと品定めするかのように下から上を見られて悠仁は体を向き変えた。無感情に男たちに用件は?と返す。

 

「一人ならこれから俺達と楽しい所に行こうぜ、絶対に損させないよ?」

 

ピアスだらけの男がニコリと人の良さそうな笑みを浮かべるが見るからして胡散臭いのが分かる。援護するように他の二人も勿論金の心配はいらねぇ、女に金出させるなんて男じゃねーからな!姉ちゃんは楽しめば良いと宣うのに悠仁は顔には出さず内心呆れていた。

こんなあからさまな誘い方に今まで乗ってきた子がいるのだろうか、分かりやす過ぎて魂胆が見え見えだ。

 

勿論、悠仁は断る。

だけれどこの雰囲気からしてしつこそうだし、宿儺も"付けていた"と言っていた。これは人の居ない所を狙ってあわよくばと思って絶対に着いてきそうだ。

腕っぷしなら悠仁が優位に立っている。男が3人掛かろうが悠仁の敵ではないのだ。過信で言ってる訳でもなく事実そうなのだからしょうがない。コンクリートの壁を素手で割れる悠仁に普通並みの人が敵う訳もない。

ここで断ってあしらっても良いけれど周りには人の目があり騒ぎになるような事は避けたかった。

秘匿処刑される身でありながら自由に動き回れるのも呪術高専に身を置いているおかげなのに騒ぎなんか起こして迷惑を掛けるのは悠仁の得策ではない。

 

悠仁は男達が返答を待つ数秒でもっとも迅速で最善な策を考えて人気のない所で軽くさくっと眠らせれば良いかな、宿儺もそれで問題ないよね?と裡に居る宿儺に問い掛けると好きにしろ、と面倒くさそうに返答が返り悠仁はくすりと笑った。

 

事案してたような表情から笑顔に変わった悠仁の表情にこれは良い返事を貰えそうだと男たちがニコリと厭らしい笑みを笑顔の下に隠す。

それに気付きながら知らないフリして悠仁も男たちに笑みを返した。

 

良いよ、と悠仁が口を開き掛けたその時…ぬっと悠仁の背後から腕が伸び出て来て悠仁の動きを止めた。

腕を認識するまで全く気配に気付かなかった悠仁は臨戦体勢に入ろうと身を固くしたが首に掛かる腕と背中が凭れたであろう人物の甘い香りがふわっと鼻を擽って、それがよく知っていた…慣れ親しんだ者のもので意識するよりも先に体が無意識に力を抜いていた。

 

「僕の彼女に何か用かな?」

 

悠仁の背後から気配もなく現れたのは白髪以外全身真っ黒な身長190㎝以上もあるであろう大男。悠仁を大事そうに腕の中に囲って男たちを見下ろして薄い唇に笑みを浮かべるが目元を黒いマスクで隠してるからその表情は窺い知れずそれが反って男の得体の知れない恐ろしさを際立たせていた。

急に現れた黒い大男に見下ろされて余りの迫力に悠仁に声を掛けた3人は蛇に睨まれた蛙のように固まり口までも動かないようでピクリとも身動き出来ていない。

 

ん?と促すように男が首を傾げるとやっと金縛りから解けたように男達は青ざめた顔で勢いよく首を左右に振り何でもないです僕達はこれで!と角度45°お辞儀すると脱兎の如く背中を見せて逃げ去っていく。

車並みに足の速い悠仁はその逃げ足の速さにおぉ、意外と速いじゃんと場違いにも感心すらしていた。

 

小さくなった男達の背中を既に興味は失せたとばかりに男は視線をフイと逸らし腕の中に大人しくされるがままの悠仁を見下ろした。

視線に気付いて悠仁は顔を上げるとニッと笑い掛けた。

 

「五条先生!」

 

男、五条はたった先程まで危機が迫っていたとは思えない程明るく笑い掛けてくる悠仁に苦笑して囲っていた腕をほどいて頭をポンポンと撫でてやる。

 

「ん。悠仁今着いて行こうとしたでしょ?」

 

頭を撫でた手をそのまま下ろし体の横に大人しくしている手を握り締めて足を動かした。

悠仁は繋がれた手が指と指を絡めた所見恋人繋ぎという事に気付いたが特に何も指摘せずに自分からも手を握り返すと五条の後に続いた。

歓楽街通りに戻り賑わう中をゆったり歩いてるともっとくっつきたくて悠仁は体を五条にピタリと寄せて腕にぎゅっとしがみつく。

すると自然と悠仁の発達途中の豊満な胸がむぎゅっっと五条の腕に押し当てられてて内心五条はニヤニヤが止まらない。

けれどそれを表に出す程思春期真っ只中の子供じゃないからなに知らぬを貫き通している。

 

「うん、だってあの人達しつこそうだったし人が居ない所で撒いとけば良いかなって」

 

それに五条ははぁ~あ…と額に手を置いて溜め息を吐いた。

確かに悠仁は強いしあの男たちにも劣らないだろうけどもしその連れてかれた場所に呪いが潜んでたら?優しい悠仁は自分をどうにかしょうと企んでいた男たちでも助けようとするのだろう。刺激しないように動けない悠仁は好き勝手されるかもしれない。

想像なんてしたくないから思うだけで留めた五条はしかしそれでも怒りで周りを破壊させてしまうかもしれない。

 

「だからって着いて行っちゃダメでしょ?知らない人には着いて行かない、小学生でも分かる事だよ。僕を余り心配させないで」

 

五条は分かった?と横に並ぶ悠仁を見下ろして返事を求めたが悠仁は眉根を下げて口をモゴモゴさせでも、と五条を見上げる。

 

「…あそこで断ってたら騒ぎになると思ったんだ。俺が騒ぎ起こしたら一番に先生に迷惑掛かるじゃん…」

 

しゅん…と悠仁に犬の耳が生えてたらぺちゃんこに伏せっていた事だろう。

その可愛さにぐっと奥歯を噛み締めて五条は僕の恋人可愛いーッッ!!!と叫び出したくなったのを堪えた。

繋いでる手にぐっと力を入れて着いて行っちゃダメ、でも騒ぎも起こしたくない。じゃあどうすれば…?とぐるぐる考え込んで落ち込む悠仁に五条は軽い口調で切り出した。

 

「じゃあね、また今回のようにナンパされたら僕を呼びなさい」

「…え?」

 

キョトンと悠仁は目を見開いた。

逃げられないけど電話を操作出来ない訳じゃないでしょ?直ぐに僕を呼んで。と言うが五条は気軽に呼べるような人じゃない。

五条にしか対処できない任務は多く、今だって任務から帰って来たばかりなのだろう。僅かに血の匂いを漂わせている忙しい五条にそんな事で呼べる筈もない。

悠仁が困った顔で逡巡していると五条が更に続けた。

 

「躊躇する事ない。僕は悠仁の恋人でもあり保護者だよ?仕事の事を気にしてるのならそんなの僕にとっては朝飯前の事だからさっさと片付けて悠仁の元にトぶよ」

 

だから迷わずに僕を呼ぶこと。

再度分かった?と念を押し返事を促すと今度はおずおずとだが悠仁は頷き小さく笑って分かった、と返事を返した。

それに満足して五条も微笑む。

 

「ねぇ先生」

「うん?」

「どこ向かってるの?」

 

五条が歩いた時から方向が呪術高専じゃない事は分かっていた。体を前のめりにして五条を横から見上げると五条は悠仁はどこに行きたい?と行き先を悠仁に委ねた。

んー?と楽しそうに事案する悠仁を横目に見つつ五条は目に入った可愛らしい名前のお店を指差した。

 

悠仁、あそこ入る?確かあそこのカフェ前に悠仁がTVで見て入ってみたいって言ってたでしょ」

 

どれどれ?とお店を見た悠仁は瞬時に目を輝かせた。どうやら気になっていたお店で間違いないらしくて繋がれた手とは反対の手で袖を掴まれた。

 

「良いの先生?!」

「勿論良いよ」

 

可愛い恋人のお願いならいくらでも聞いちゃうよ、と目隠しで見えないがパチンッとウィンクしたであろう五条に悠仁は嬉しさをそのままに五条に抱き着いた。

 

「わーい!先生大好きっ!」

「僕も悠仁が好きだよ~!」

 

ウフフ、アハハと二人の間をハートと花が飛び交った。先生早く!早く入ろ!と悠仁に手を引かれながら五条は嬉しそうにはしゃぐ悠仁に早めに仕事終わらせてきて良かった、と満足そうに愛し子を見つめ、後に続いて店の中に入った。

 

 

 

**

 

「ただいまー!!」

 

呪術高専の寮に帰り付いた悠仁は元気いっぱいに休憩スペースに入った。

あの後、お店入った五条と悠仁は二人席のテーブルに向い合わせで腰を落ち着け、TVで特集されていた可愛いと評判の苺のパンケーキとボリュームたっぷりの抹茶パフェを頼んだ。

 

可愛いと評判なだけあって悠仁は楽しそうに写真を1枚ずつ撮ってからナイフとフォークを手に取り美味しそうにパンケーキを頬張った。口に入れた瞬間に口の中にメープルシロップと苺の酸味と甘味が効いたパンケーキの生地の甘さが広がってもの凄く美味しい!とまだ咀嚼しているから目線で五条に報告していた。

 

それに五条は片手で頬杖をしながらもう片方で抹茶アイスをスプーンで掬い取って口に入れ良かったねーと微笑み掛ける。

半分食べた所で徐に悠仁が一口サイズを切り取りフォークに乗せると五条の口元に差し出す。

 

はい、先生!あーん?と笑顔のオマケ付きときた。オマケではないな、メインだった。

と五条は目まぐるしく頭と体を駆け巡る欲望と奮闘しながら差し出されたパンケーキをパクっと食べた。

 

なるほど、悠仁が笑顔になるのも分かるね、美味しい。と甘党の五条もパンケーキにご満悦だ。美味しい?と首を傾げて問い掛けてくる悠仁にうん、美味しいよ。と返すとえへへ良かった!とまるで自分の事のように笑うものだから五条はもう堪らない。

お返しにと五条の抹茶パフェも一口掬って悠仁に差し出すと悠仁は躊躇いなくパクっ!と口に入れた。そしてまた美味しい!!と目を輝かせるのだ。それだけで五条は世界一幸せな気持ちになる。

 

恥ずかしがる事もなく女性向けのカフェでカップルで訪れ女の子にとっては憧れでも男にとっては周りの目線もあって試練だろうと云える"はい、あーん"と食べさせ合いっこする強者の二人は周りの視線を奪っていたのだけれど他人の目線を気にしない二人は何事もなく何回かあーん、と楽しそうにイチャつき食べ終えると勘定を済ませて店を出て行った。

二人が消えたお店の中では店員も含め客達がざわめいていたが五条と悠仁がそれを知る由もなかった。

 

お店を出た二人は既に暗いこともあって高専に帰宅したがカフェでデザートを食べただけというちょっとしたデートでも悠仁は嬉しそうに五条先生ありがとう、と見上げてくるので五条はまた出掛けよう、と固く決意する。

そして高専に帰って来た頃には時計の針は9時を指していて同級生たちも夕飯を済ませていた頃だった。

 

皆で使う寮の休憩スペースに入るとソファには伏黒と釘崎が寛いでいた。

寛いでいたといっても伏黒は勉強をしていたのか教科書とノートを広げていて釘崎はそれにたまにちょっかいを出してるらしかった。

ヨッ!と手を上げる悠仁に二人も手を上げて挨拶を返す。

その後ろで五条も居るが二人はいつもの冷たい態度であ、今日はこっち居るんですね?と返し五条はもー仕方ないな、と肩をくすめただけだった。

 

 

「アンタ買い物に出掛けてたの?」

「…任務じゃなかったのか」

 

釘崎が悠仁が両手に持ってる複数の紙袋を見て首を傾げるのに伏黒が確か任務だった筈だと返すのに悠仁は紙袋の中をあさり出した。

探してる目当ての物を見付けると袋から取り出しジャジャーン!とセルフで効果音を言いながら不思議そうに眺めていた二人に差し出した。

 

「はい!二人にお土産っ!」

 

伏黒と釘崎が悠仁が差し出した両手に視線を落とすと伏黒の前には玉犬を思い浮かべたのだろう、1つのチェーンに繋がったデフォルメデザインの白と黒の犬の小さいぬいぐるみのキーホルダー。

そして釘崎の前には赤とピンク色のグラデーションがかかっている大きめのハートのピアスだった。可愛いものと目立つものが好きな釘崎に似合うだろうと一目見て直ぐに買うと決めていた。

 

二人は黙って悠仁の手から各々のお土産を受け取り示し合わせたかのように視線を合わせた。

 

「ありがとう虎杖、このピアス可愛いわ」

「…サンキュな」

 

悠仁の頭を褒めるようにわしゃわしゃと撫でる二人に悠仁はわわ、二人ともくすぐったいって!と楽しそうに笑っている。

悠仁に甘いと自覚してる二人は手に持っているものをずっと大切にするだろう。

 

釘崎が耳に当てて悠仁にどー?似合う?と聞くと悠仁は頷き、うん!思った通り凄く似合ってるよ!と眩しいくらいの笑顔で返すのに釘崎も嬉しそうに笑った。

伏黒は貰ったキーホルダーを大切にポケットに入れたが部屋に戻ったら携帯に着けようと考えていた。

 

3人のその様子を後ろの壁で眺めていた五条はうん、青春だね!先生は大変満足です!と微笑ましく眺めていた。

お土産を渡した後は少しの間だけ五条も交えて四人は今日の出来事の報告に課題の成果、明日の議題にちょくちょく世間話を交ぜながら談話して遅くなった事もあり各自部屋に戻って休むこととなった。

 

「おやすみ、虎杖、伏黒」

「おぅ」

「おやすみー!また明日な!」

 

欠伸を噛み殺して先に戻っていく釘崎の背中を見送って悠仁も立ち上がった。

伏黒も教科書やノートをまとめると立ち上がり戻っていく。手を振って見送りお土産が入ってた空の紙袋を手に片付けようと悠仁は踵を返す。

 

悠仁

 

ごみ箱に紙袋を小さくまとめて捨てた所でずっと黙って悠仁の様子を見ていた五条が悠仁を呼び寄せた。

首を傾げながら先生なぁに?とトタトタ近付くと五条が身を屈めて悠仁の耳元に口を寄せた。

ふっと耳に吐息が掛かってピクリと肩をくすめた悠仁に笑みを浮かべて五条は秘め事を紡ぐように囁いた。

 

「部屋に戻ったらお風呂に入ってから僕の部屋に来な」

 

その言葉の意味を理解して悠仁は僅かに頬を赤らめた。屈めた身を戻して五条がニコッと見下ろすと悠仁は何も言わずに小さく頷いた。

悠仁の頬をするりと撫でてから五条は悠仁の横を通り抜け休憩スペースを出て行った。

残された悠仁は暫し五条が出て行った後をボーっと見つめていたが赤くなって熱くなった頬を両手で挟み込み、ヤバい…五条先生やっぱりカッコイイ…と照れくさそうにポツリと溢すのであった。

 

 

部屋に戻った悠仁は荷物を机の上に置いてから制服の上着を脱いだ。

今日の任務は三級程で悠仁には難なく終わらせる事が出来、服も破れてないし大して汚れてもいなかった。燃えるゴミに出さずに済みそうだと安心して悠仁はタンクトップだけの姿になると制服の埃を軽く払ってハンガーに掛けてからお風呂場に向かった。

 

タンクトップとスカート、下着を脱ぎ篭に入れると浴室に入りコックを捻り水の温度を調整して一日の汚れを熱いシャワーで洗い流す。

頭を洗って体を隅々まで念入りに洗う。この後先生の所に行くのだし…綺麗にしとかないと…と頭を掠めた所で後で訪れるであろう甘い夜にボッ!と赤くなり声にならない叫び声を上げて壁に額を押し付けた。

 

既に先生とは何回も夜を共に過ごしてきた。

目隠しを下ろした顔だって、無機質な淡い瞳の奥が感情に寄って色んな色に変わるのも知っている。幼く見える顔が夜伽になると顔に影を落とし雄の顔になっていく様も知った。

それなのに胸をキュッと締め付けるトキメキはいつまで経っても止められないし慣れる気がしない。普段は表に出さないようにしてるけど一人になってしまえば五条への好きが溢れて止まらなくなる。

本当は今日も声を掛けられた時だって男達を見下ろしただけで追っ払ったのには凄くキュンと来たしカッコ良かった。

だけどそれを口にしてしまえば公共の場でありながら頬を染めて我慢出来ず五条をずっと見つめていただろう。

 

「小娘、感情が乱れおって五月蝿いぞ」

 

はぁ…熱い吐息を吐くとシャワーに打たれていた悠仁の掌にまたしても突如、宿儺が現れた。

 

「…すくなぁ…」

 

苛ついたような宿儺の声音にも悠仁は怖がる訳もなく甘ったれた声で名前を呼ぶ。

すっかり甘えきった悠仁の声にはぁああ…と重く長い溜め息を吐いた宿儺は落ち着け、と感情が高ぶった悠仁を宥める。

 

あの唯我独尊の呪いの王が、宥める。

己以外どうでもよく女や子供であろうと鏖殺だと豪語するあの宿儺がだ。その様子を他の呪術師が見たら仰天する事だろう。

初めて宿儺と対話した時だって押し殺されて身体を乗っ取られたかもしれない緊迫した中だったし心臓は抉られ、生得領域で面と向かって会話出来たと思えばあっさり敗けて"縛り"の賭けで殺された事もあった。

悠仁は既に何回も宿儺によって殺されていた。

 

それなのに宿儺は悠仁に甘くなった。

悠仁も宿儺にどうでも良いことでも話し掛けているし最初の頃のように二人の間には殺伐とした空気は最早ない。

 

「宿儺ぁ…どうしょ…心臓が凄くドキドキしてて…死にそうだよぉ…」

 

壁に凭れて掌に頬を寄せる。

その頬は赤く染まっていて色付いた唇から吐き出さられる吐息は熱を孕んでいて甘い。潤んだ目を伏せるとまつ毛が健気にふるふると震えていて宿儺の他に誰かその場に居たとしたら艶のある悠仁のその姿にゴクリと生唾を飲み込んだ事だろう。

色気も何もないこの小娘にオンナの顔をさせるとは…あの呪術師やるな、と少なからず五条に感心しながら裡から悠仁のその様子を眺める。

 

「何回もまぐわっておる癖に何を今更…」

 

呆れた、と震えて小さくなる悠仁にいい加減慣れろ、感情が高ぶる度に五月蝿くて落ち着いて眠れも出来なんだ、と続けるのに悠仁は唇を尖らせてそこに宿儺は居ないのに視線を逸らした。

 

「うぅっ、だって…好きなんだもん…何回ヤっても慣れないし恥ずかしい…」

「だからと云って何時までそうしているつもりだ。あの呪術師が待っているのであろう?」

 

此処でのんびりして居って良いのか、と宿儺が完全に座り込んで立てた膝に顔を埋める悠仁を諭すように声を掛けるとハッと我に返って悠仁が勢いよく顔を上げた。

 

「あっ!そうだった!どれくらい経った?!!」

 

慌てたように立ち上がる悠仁に先程まで愁いを漂わせ色香を放っていたというのにこの変わり身の早さ…ほんに飽きん奴だ。ヤレヤレ…と肩をくすめる宿儺はバタバタと動き回る悠仁を再度落ち着かせようと口を開く。

 

「慌てるな慌てるな。そう騒々しいと滑って転ぶぞ。鼻っ柱が赤くなってるのを見られたいか」

 

宿儺の言葉に悠仁はうっ…と呻き動きを緩めて言われた通り慌てずゆっくりとコックを捻ってシャワーを止めた。

こういう時は素直に言う事を聞くのだから愛くるしいものよ。

クツリと嗤う宿儺に悠仁は失敗を見られて照れくさそうに笑い徐に掌を額にすり寄せるとホッと安堵して息を吐く。

 

「…ありがと、宿儺」

 

宿儺が居るから俺、落ち着いて先生の所に向かえるよ…と小さく溢す悠仁に宿儺は一瞬沈黙したが間を置いてもう落ち着いたのか?と静かに問い掛けた。

 

「うん」

「ならばオレはもう眠る」

「…うん、おやすみ宿儺」

 

額に軽く触れるような感覚を感じ、掌を下ろすとスゥ…と消えていく宿儺に悠仁は優しい笑みを返した。

そして目を閉じ、ゆっくり深呼吸をしてから悠仁は目を開くと両頬をバシッと叩いて気合いを入れ浴室を後にした。

 

黒のキャミソールと短パンに着替え、その上にフード付きのパーカーを羽織ると悠仁はその身だけで部屋を出て五条の部屋に向かった。

廊下を進む足取りは軽く宿儺と話してる内に気持ちが落ち着いたお陰だ。寝静まった辺りはシーンとしてて呪いとかと相対して生活していない一般の人だったら不気味に思っていただろう。

五条の部屋の前に辿り着くと控えめにノックをする。すると間を置かずに五条の入っておいで、という少しくぐもった声が返ってきて悠仁はドアノブを回して中に身を滑らせた。

 

五条も既に風呂に入り終わったのか黒いのは変わらないがラフな格好と目隠しを外してサングラスをかけてベッドに腰を掛けていた。

いつもの格好もカッコイイがこのラフな格好も凄く好きで悠仁はドキッ…と胸が高鳴る。

 

「少し遅いと思ってたから寝ちゃったかと思ったよ」

 

悠仁を見つめながら腕を広げるのに迷うことなくその腕に飛び込んで悠仁は自分を抱き締める五条の首元にすり…と頬を擦り付けた。

口元に弧を描きながら五条は今にもゴロゴロと鳴きそうな悠仁の喉元を指の腹で擽り撫で上げると悠仁は治まった筈の胸の動悸がまた高鳴り始まるのを感じながら口を開く。

 

「眠ってないよ…先生の事考えてたらドキドキが止まらなくて…時間忘れちゃってた」

 

気持ち良さそうに五条を見上げるのに五条はへぇ…?と一層笑みを浮かべる。可愛いことを言われて喜ばない男はどこにも居ないでしょ。

どれどれ、と下着の着けてないキャミソールの中に手を突っ込んで柔らかい胸に腕を挟まれながら心臓の辺りに手を押し当てると確かに心臓がいつもよりも早く運動していた。

 

「っ、先生ぇ…」

 

いきなり手を突っ込まれて悠仁はきゅっと身を震わせ目を強く瞑り心臓がドキドキしてるのを本人に知られて羞恥にぶわっと耳や項まで赤く染め上げた。

 

まるで初めてヤるみたいな初々しいその反応に五条が堪らず舌舐めずりをする。

好きな子は大切にしたい、と常日頃から思ってるのだけれどふとした瞬間にもっと啼かせたくなるという思いが頭を過っていく。

それも悠仁が涙を浮かべた目で無垢に見上げてくるものだからひどく嗜虐心を煽られてその感情を押さえ付けるのが大変な程だ。

 

心臓に押し当てていた手を動かし五条の大きな手をもってしても持て余る程の立派な胸を下から掬うように持ち上げる。そのまま強弱をつけて揉むと悠仁は小さく声を上げて顔を背けた。

 

「ゆーじ」

 

ふるふる震えながらも体の力を抜いて完全に五条に全てを預けきってる悠仁に己でも自覚する程の甘い声で呼び掛けた。

するとゆっくりと目を開けた悠仁が五条を見上げ、手を伸ばしてサングラスを外すと顔を寄せてくる。五条も悠仁の方に顔を寄せて美味しそうに色付いた唇に口付けた。最初は悠仁が好きな触れるだけの口付けを繰り返し次いで唇の割れ目を舌でゆっくりなぞると心得たとばかりにおずおずと口が開らかれた。

うっそりと五条は笑みを浮かべると慎ましいキスから凶暴そのものの勢いで喰らい尽くさんばかりに噛みついた。

 

「んぅっ!」

 

肩を跳ね上がらせた悠仁の体を拘束し逃げられないように後頭部に手を回して口腔に舌を滑らせ奥で縮こまる舌を誘い出す。

腰に甘い痺れが走り、その手が首筋から耳へと近づけば、身体が勝手に跳ね上がり悠仁はきゅっと五条にしがみついた。

 

誘い出されるがままに恐る恐る舌を差し出せば絡め捕られ甘噛みされてはぢゅうっと吸われる。ゾクゾクと快感が背中を走り抜け頭が朦朧として悠仁は五条から与えられ食われるがままになっていた。

思う存分悠仁の口腔を舐め回した五条はやっと離れると肩で息をして目元を赤く染め飲み切れなかった唾液を溢しながら見上げてくる悠仁の口周りを舐めて綺麗にしてあげて目尻の下の傷に口付けた。

 

「ごじょ…せんせ…」

「ふふ、悠仁可愛い…」

 

普段の悠仁は可愛いと言われてもキョトンと首を傾げてそぉ?と返すのだけれど五条とヤる時に可愛いと言うと打って変わって恥ずかしそうに目を伏せ顔を隠すように俯く。

それがまた可愛くて五条は再度可愛い、と耳元で囁くとびくっと震えて悠仁は泣きそうな顔でダメ、と五条を睨む。

 

そんな迫力の欠けた顔で睨まれても怖くもなく痛くも痒くもないし余計に酷く虐めたくなるだけなんだけどな?と五条は悠仁の唇の淵を親指でなぞる。

 

「何がダメなの?」

「…可愛いって言っちゃダメ」

 

可笑しい事を言う。事実可愛いのに言っては駄目だというのに五条は片眉を上げると禁止!と赤く染まった顔で未だに睨み付けてくる悠仁に訊いた。

 

「可愛いのに言っちゃダメなんだ?」

「…先生に言われると、恥ずかしいの」

 

また可愛いと言った!ムッとしながら恥ずかしそうに目を逸らす悠仁に五条は辛坊堪らず抱き締めるとそのままベッドに押し倒した。驚いたように目を見開く悠仁のパーカーと短パンを脱がせ、自分も上着を脱ぐ。

悠仁の上に乗り上げ覆い被さると期待に満ちた目が見上げてきて伸ばされた手が五条の頬を優しく包んだ。

その暖かい手に心地良さそうにすり寄り掌にキスを落とすとふわり、と悠仁が柔らかく微笑んだ。

 

「…悠仁

 

いい?と言葉なく隠しもしない熱く欲望の孕んだ目に見つめられて悠仁は求められる喜びに身を震わせた。

 

「いいよ…」

 

そっと、秘密を教えるような掠れた声音で悠仁はどうぞと自らを五条に差し出した。

許可が下りた途端に五条は悠仁の唇に噛み付いて先程とは比べ物にならない程に息を吸わせる間も与えずに情熱的に蹂躙した。

歯列をなぞりくちゅくちゅっと艶かしい音を立てて舌を擦られる。そして舌を絡めきゅーっと痛い程強く吸い上げられて全身に痺れが走り体に力が抜けて魂まで持っていかれそうな激しい口付けに悠仁は頭の芯まで蕩けそうになる。

 

数えきれないくらい、たくさんキスをしてきたのに五条から与えられる口付けは体に力が入らなくなってしまう程に気持ち良い。

況してや今まで恋愛とは無縁の生活を送っていた悠仁には軽く触れるだけのキスですら未経験のものだったから直ぐにふにゃけてしまう。

キャミソールを大きくたくしあげるとぷるんっと五条の目下で乳房が揺れた。

 

「あっ、先生…」

 

声を上げる悠仁を見下ろしながら両手をまろやかな乳房に伸ばしてまさぐって揉みしだくと悠仁はびくんと震え、声を出すのが恥ずかしかったのか口を手で押さえた。

それを今は許す、と五条はそのまま構って欲しそうに佇むピンク色の突起を指で摘まんだ。

 

「あぁっ、ん、んっ」

 

痺れるような甘い疼きに声を我慢出来なかった悠仁は身悶えて指の隙間から声を上げた。仰け反って身動ぎすると胸が目の前に迫ってそれがまるで自ら食べて欲しいと言ってるようで五条は身を屈めて刺激されすっかり立ち上がったピンク色の乳首を口に含んだ。

ちゅっと啄むようにそこを吸うとひっ、と悠仁は矯声を上げて胸に埋まる五条の頭を抱えた。

ぎゅっと頭を抱き締められて頬を柔らかい乳房が包んだが五条は構わずねっとりと舌先で悠仁の乳首を舐め、時折甘噛みして引っ張ったりすると堪らないと悠仁は声を上げて身体を震わす。

びくびく震える悠仁の乳首から口を離すとそこは赤く熟れていて唾液に濡れて美味しそうだ。たわわな左右の乳房を両手で寄せると五条は白い肌にちゅっちゅっと音を立てて口付けを落とし点々と紅い花弁を散らす。

 

「はぁっ…せんせ…痕そんなに付けちゃ…」

 

紅い痕が散らばった胸の間から五条を見下ろすと五条は楽しそうに含んだ笑みを浮かべて悠仁の目を見上げる。

 

「誰も見ないんだから別に良いでしょ」

 

それとも誰かにこの身体を見せるつもりなの?と乳首を柔らかく噛むとびりっと雷に打たれたような愉悦が走り喘いで悠仁はびくんと腰を跳ねさせた。

 

「ひぅ…み、見せないよ…先生以外、誰にもっ…」

「うん、誰かに見せたら……分かるよね?」

 

艶かしい笑みを浮かべた五条だったけれどその醸し出す空気が一瞬で変わり、ピリッと殺気が肌を刺してその先を言わなかった事でその誰かを五条が本気で殺りかねない、と悠仁は確信してそのような事は絶対に起きないと首を左右に振った。

 

「僕から離れないでね悠仁

 

じゃないと僕何を仕出かすか分からないから、にこりと笑って五条は悠仁の唇に軽く口付けた。

揶揄ではなくそれが本気の言葉である事に気付いてる悠仁はうん、と頷き五条の首に腕を回して自分から口付けを求めた。

応えてやりながら五条は悠仁のたくしあげられたままだったキャミソールを脱がすのに一瞬だけ口を離したが直ぐさま脱がし再度唇を触れ合わせる。

ショーツのみとなった悠仁のくびれのラインを触れるか触れないかの瀬戸際で指先を掠めると甘い声が上がる。

 

そのまま手を下に這わせるとショーツに触れて指を滑らせ布越しにくちゅり、と粘着質な音と共に五条の指を湿らせた。

あ、と悲鳴を上げた悠仁が条件反射で太ももをぎゅうっと閉じるのだけど五条の手を挟み込んで余計敏感なそこに押し付ける形となって羞恥のあまり耳朶まで真っ赤に染めて声にならない叫びを上げた。

 

自ら墓穴を掘る悠仁にクツクツ笑うと五条は手を挟まれたままそこをそろりと撫で上げた。

 

「やぁ、あっ!」  

 

ざわっと戦慄が背中を走って悠仁は仰け反る。ぐっと体に力が入り次いで力が抜けて太ももの拘束が弛むと五条はショーツの隙間から指を潜り込ませて直に濡れそぼった秘部を撫でた。

敏感な所に直に与えられた快感に悠仁は悶えて生理的な涙を浮かべて五条に縋る。

 

「あ、あっ、あ…ごじょう、せんせぇ…っ」

悠仁のここ、もうこんなにトロトロ…」

 

嬉しそうに五条の指がくちゅりと淫らな音を立てて悠仁の中へと潜り込せる。

この音聴こえる?とわざと悠仁に聴かせるようにくちゅぐちゅっ、と大きく音を響かせながら指を3本に増やし掻き回して奥へと進ませると快感と羞恥が折り重なってぽろぽろと涙を流して悠仁は喘ぎ身体を震わす。

 

「やぁっ!やだ、音ッ…や、あぁ、んんッ」

 

頭を左右に振って悶える悠仁のその様子にうっとりと熱い視線で見つめながら五条は息を吐く。その額には汗が滲んでいて汗が頬を伝い、顎先で留まるとポタッと悠仁の頬に落ちた。

悦楽で目の前が霞む中、頬に落ちた水滴に悠仁が視線を上げて五条を見つめると愉しそうに淫らな音をまるで言葉責めのように悠仁に聴かせていたのにその顔に笑みはなく、影を落としたその表情に悠仁はドキッと胸を衝かれて息を呑む。

 

目を大きく見開いて五条のその顔に目が離せなかった。薄い色素の瞳の奥が濃く色付き、色を変えて悠仁を捕らえて離さない。

そして目を細めて悠仁を見つめながら、微笑んだ。

悠仁は泣きそうになった。何故か分からなかったけど胸が切なくなって痛い程に締め付けられて顔が泣きそうに歪んだ。

 

五条がそんな悠仁にどうしたの?と優しい声音で囁くのにもう我慢出来ず悠仁は強く目を瞑ると震える口を開いた。

 

「……ぃ、」

「え?」

 

余りにも小さ過ぎて聞き取れなかった五条が聞き返すと顔を赤く染めて悠仁が目を開け切なさを滲ませた潤んだ瞳で真っ直ぐ五条をみつめながら今度はハッキリと声を出した。

 

「…今すぐ、先生がほしい…」

 

五条は軽く目を見開いて悠仁を見下ろした。

思い詰めたように愁いを帯びたその表情にどうしたのだと問い掛けるよりも早く来て、と両手を伸ばした悠仁の方が早かった。

 

「ーーー…」

 

何も言わず五条は秘部から指を抜き、その刺激だけで身体を震わす悠仁を一瞥してからぐっしょり濡れて既に役に立っていないショーツをくたりと力の抜けた足から抜き去り己もスエットを脱ぐと充分に勃ち上がり濡れそぼった自身を足を開かせた悠仁のそこに当てがった。

 

熱く固いものが押し当てられて期待に震える悠仁が五条の背中に腕を回し五条は悠仁の唇に噛み付いた。そして口付けしたままぐい、と花びらを押し開き突き上げながら悠仁の中に捩じ込まれる熱杭。

 

「ん、んっ、んぅ…っ」

 

口付けされたまま五条の太く固くて熱いものが中を進むのに悠仁はくぐもった矯声を上げながら背中に回していた手に力を入れた。

トロリと密が溢れて固い屹立をもっと奥へと呑み込もうと襞が蠢き五条を包む。

 

「ひぁ、あ…っ…あっ」

「…悠仁

「ご、じょう…せんせ」

 

唇を離し至近距離で見つめ合い、掠れた声で五条が悠仁を呼ぶと点滅する視界で悠仁はきゅっと五条の背中に爪を立てて同じように呼んだ。

熱く熟した内壁を、熱杭が抉る。まだ挿入しただけなのに既に悠仁の四肢はガクガク震えていて、それでも五条を離すまいとギリギリで理性を保っていた。

けれどそれもここまででこりっ、と奥にある部分を擦り上げられ、目を見開いてその刺激に指先にまで痺れを生み全身が痙攣すると固く強張った。

 

「あ、あ、あっ…!!」

 

五条がそれに気付いてチカチカと点滅する視界の中で悠仁が五条の口元が弧を描くを見て待ってと口を開く前に大きく内壁を擦り上げられてその先端が先程の突起に当たる。

 

「やぁぁああっ!あ!や、っ!」

 

悠仁の悲鳴が五条の部屋に響いた。

一気に引き抜かれ、じゅくっと音を立てて思いきり穿たれ、擦り立てられて突き刺され何度も感じる所を激しく抉り潰される。

その度に悠仁は恥ずかしいと思う間もなく無我夢中で五条に縋り付きながら声を張り上げた。

 

「好きだよ、悠仁…」

 

身悶える悠仁をキツい程に抱き締め攻め立てながら耳朶をかじり愛を囁くと悠仁の中がキュンッと締まり五条自身を締め付ける。

くっ…とキツい締め付けに耐え五条は小さく声を溢して笑うとまた好きだよ、と今度は首筋に唇を押し付けながら言えばまたキュンと締め付けられる。

 

悠仁ッ、好きだよ?」

 

抱き締めたまま額同士をくっつけ飽きる事なく好意を伝えると悠仁は止めどなく生理的に流れる涙をはらはらと溢しながらおれもすき、ごじょうせんせいすき、と舌っ足らずに好きと必死に返した。

 

それに嬉しそうに五条は微笑むと悠仁の体を強く抱き締め、ギリギリまで引き抜くと勢いよく中を突き上げた。

悠仁は背を仰け反らせたが強く抱き締められて身動き出来ず襲い来る快感を逃せずその身に受け止めて痙攣するが五条は止まらず二、三度、激しく突き立てた。

 

「せ、…せぇ…!っあ、も、…イっ…あ、ぁんっ…」

「うん」

 

激しく敏感な奥の突起を何度も何度も抉り擦られて蓄積された愉悦が爆発して絶頂に押し上げられた悠仁はびくびくっと体を跳ね上がらせてきゅうっと足の指先を丸めた。

今度は我慢せず身震いした五条は悠仁の最奥に熱を吐き出した。

 

「ーーーあ、っ…あ!!!!!」

 

それは火傷しそうな程に熱く、悠仁は確かに内側から五条に焼かれた。

けれどそれは蕩けそうな甘い愉悦を孕んでいて悠仁は頭から爪先まで感じる幸福に目をゆっくり閉じた。

 

 

 

 

***

 

「ぅ、ん…」

 

悠仁は鼻を擽る美味しそうな匂いにもぞもぞ身を動かすと毛布の中から這い出て目を開けた。

パシパシする目を手で軽く擦ってから完全とまではいかないが覚醒すると隣に五条の姿はなく、美味しそうな匂いの正体はどうやら五条が朝食を作ってくれているらしい。

 

美味しそうな匂いで目が覚めるのって凄く幸せだなぁ…とボウヤリとベッドにぺたりと座り込んだまま惚けてると扉が開いて五条が入ってきた。

 

悠仁起きた?」

「ん…おはよ、せんせ」

 

未だ毛布にくるまったまま座り込んでボウヤリしながらもちゃんと朝の挨拶をする悠仁に五条は笑みを溢すと近付いて身を屈め悠仁の額にキスをした。

 

「おはよう悠仁

 

くすぐったそうに、ふにゃりと笑顔を見せる悠仁が可愛くてしょうがない五条はぎゅうと自分よりも細い体を抱き締めた。嬉しそうに笑うその表情がもう堪らない、とばかりに体を震わす。

せんせ?と不思議そうに見上げてくるのに五条は何でもないと首を振ると朝から下半身が元気にならないように身を離した。

 

「おいで、朝食にしょう」

「うん」

 

掌を差し伸べる五条の手に掌を乗せて悠仁はやっとベッドから降りて離れた。毛布を肩から落とし昨夜着ていたキャミソールを着てる事から昨夜落ちた後に五条が着替えさせてくれたのだろう。

しかしキャミソールから覗く胸の谷間や首筋、悠仁から見えない背中には紅い痕が散らばっていて五条の悠仁に対する愛情と独占欲が相見える

これ、ジャージに着替える時絶対に見えるよなぁ…とちょっと気にしてる悠仁を見て五条はニヤニヤしているから完全な確信犯だがそれに悠仁が気付く事はない。

 

テーブルに着くとその上には立派な和食が並んでいた。美味しそう!と目をキラキラさせた悠仁が早速席に着くと五条も席に着く。

そして二人揃って手を合わせ、いただきます!と声を合わせる。それだけで二人はふふ、と微笑み合い箸を持って食べ始めた。

 

食べ盛りの悠仁はパッと美味しい!と勢いよくご飯を掻き込む。昨日激しく動いた事もあって気付かなかっただけでお腹は空腹を訴えていたようだった。

幸せそうに五条の手料理を食べる悠仁に向かい側に座る五条がサングラス越しに愛しそうに悠仁を見つめる。

 

朝食を終えると悠仁が今日も美味しいご飯を作ってくれたからお皿は俺が洗うね!と天真爛漫な眩しい笑顔で言うので五条はお礼を言って悠仁の横でカフェオレとココアを作りTVの前にあるソフィアに座ってテーブルに置いた。

水の流れる音が止まるとニュースを流し見してた五条の後ろから悠仁が手を伸ばして首元に抱き付く。

 

「先生、終わったよ!」

「ありがと、悠仁

 

どういたしまして!と微笑む悠仁に五条は僕の天使可愛いな、と思いながら隣をぽんぽんっと叩き隣に座るよう悠仁を促した。

行儀は悪いけどこのまま背凭れを越えちゃおうかな、とふと悠仁が思ったその時、あ!と思い出したのだ。

 

悠仁?」

「五条先生!ちょっと待ってて!」

 

急に大声を出す悠仁に五条が不思議そうに肩越しに振り返るとその悠仁は直ぐに戻るから!と身を翻して寝室の方に走っていく。

首を傾げる五条だったが悠仁は言葉通り直ぐに戻ってきた。しかしその手には掌ぐらいの大きさの茶色い紙袋があった。

昨夜は身一つで来ていたのでどうやらそれはパーカーのポケットに入れていたらしい。悠仁は五条の隣に座るとテープで留められた所を剥がし紙袋を開けて手を突っ込み中のものを取り出した。

何なんだ?と思っている五条に実は…と悠仁が口を開いた。

 

「昨日のお土産ね、伏黒や釘崎のだけじゃなく先生の分も買ってたんだよね」

 

はいこれ!と手渡され五条は受け取って見た。それはドッグタグみたいな細長くて平べったい一見シンプルなキーホルダーだったけど裏返し見てみると下の部分に、そこには"虎"の一文字が彫られ器用にも小さな虎の絵が描かれていた。

 

悠仁を見返すと照れくさそうに笑い紙袋にまだ入ってたのかそれを取り出し摘まんで見せた。五条に手渡したものと同じものだけど悠仁が裏返し五条に見せるように近付けると五条の方にある"虎"の文字とは違い、悠仁の方には"五"と彫られてあった。

文字違いのペアルックのキーホルダーだ。

 

何も知らない人が見たら何も思うことはないのだろうが二人を知っている者はその文字がお互いを示すものであると直ぐに分かるだろう。柄にもなく女子高生っぽい事をしちゃった、と悠仁は溢す。

 

「五条先生…付けてくれる?」

 

黙ったままなのが子供っぽいと思われたと悠仁が不安そうに上目遣いで五条を見つめると五条は掌にある宝物を壊さないように気を付けながらぐっと握り締め、ズイッと悠仁の方に顔を近付けた。

急に迫られて背中を仰け反らせた悠仁は片手で体を支えてぱちくり、と目を瞬かせて五条を見上げる。

 

悠仁

「う、うん?」

 

真顔な五条にどしたの?先生、と戸惑う声を上げる悠仁に五条は頭を過った言葉をそのまま口にした。

 

「結婚しょう」

「…へっ?」

 

突拍子もない五条の言葉に悠仁は目を開いた。しかし待てど暮らせど冗談だよ、と五条はからかわず返事を待って何も言わない事からえ、本気なんだ?と固まった。

 

いつになく真剣な五条のその様子に次第に頬を赤くさせながら悠仁はきゅっと唇を引き結び五条を見つめ…花が綻ぶように笑った。

 

 

 

END

 


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◆五悠(呪術廻戦)

 

 

悠仁は素直だ。

どこまでも真っ直ぐで物怖じしないその性格は人を惹き付けて止まない。コロッと相手の懐に入りいつの間にか気を許している。

 

そんな場面を幾つも眺めてきた五条は最初は感心こそしたけれど、今はモヤモヤとしてしまっていた。

 

理由は分かっている。

仔犬のように可愛い悠仁を独り占めしていたかったのだ。ここまで心を奪われるとは、恐れ入った。

 

泣かせて、自分だけを見て欲しくなる。

薄暗い思考が頭の中を駆け巡っては啼き喚いてすがってくる様を想像し背中からゾクゾクっと優越が走って震えた。

 

あの子は慕っている担任がこんな事を考えていると知ったらどんな顔をするだろうか。

軽蔑か、幻滅か…それとも困惑しながらも好意を受け入れるだろうか。あり得る。

 

悠仁は人を疎まないし恨まない。

分け隔てなく接して均等に笑顔を向ける。そこには特別視してる所や毛嫌いしてる所はなく、皆が同じ土俵にいた。

苦手とする者はいるだろうがだからって嫌な顔をすることなく、あぁ俺はこの人が少し苦手なんだな、と割り切りいつものように人懐こい笑顔をするのだ。

 

自分が割りとスキンシップ過多だと自覚してるが悠仁もかなりスキンシップが多い。

恵と七海を見掛けると背中にダイブして抱き付く光景は何度もあった。野薔薇は女の子だから流石に抱き着きはしてない。

80㎏もある悠仁に後ろからダイブされて恵は青筋を浮かべるが急にダイブするな!と諫めるだけだ。

七海も背中に武器があるから悠仁がナナミンー!!と駆け出す頃には振り向くと見せ掛けて体を横に向けた一瞬の隙に武器を背中から抜いて悠仁に当たらないようにしている。

まだ出会ってそんなに経ってないのに神経質なあの二人に気を許されるなんて凄い事だ。悠仁の人懐こい性格には参ってしまう。

 

だから五条もその中の一人でしかないのが心をざわつかせる。

 

あの呪いの王でさえ、最初は疎んでいたのに今では相棒とまで云えるのではないか?と思う程に悠仁に絆されている。

 

悠仁の部屋に行くと左手に口だけ実現した宿儺と仲良くあーだこーだと楽しそうに会話してるのを見るとあぁ、この子は皆から愛される子なのだと実感した。

 

実感こそすれど、宿儺と仲が良いのは少々妬けてしまったけれど。

 

 

 

 

「ひぐっ、ぅあ…ッ!や、ぁ…あぁっ」

 

ばちゅんっ、と肌とぶつかる音と粘着質な音が響く中で甘い声が啜り泣いている。

 

部屋のベッドに力なく横たわり好き勝手にされるがままガクガクと震えているのは教え子の虎杖悠仁でそれを好き勝手に蹂躙しているのがその担任の五条悟だ。

 

「せ、んせぇッ…あぅ、んっ…も、だめ…ぇッ…!」

 

「うん」

 

もう嫌だと、イきたくないと涙をぽろぽろと流しながら弱々しく首を振るのにそうだね、と無視して腰をもっと奥まで進める。

すると引きつった嬌声が上がり下肢がびくりと跳ねて震えた。

 

数えるのも億劫になるくらいに悠仁は何回も既にイっている。イき過ぎて悠仁のモノからは何も出ず健気に震えるばかりだ。

五条も悠仁の半分くらいはイっているがそれでもまだ止める気にはならなかった。

中に全てを注がれて僅かに膨らんだ薄い腹を撫でて人指し指で軽く押すと中にある未だに大きく怒張したモノを締め付けられて快感が背を走る。

 

「ふふ、悠仁…のここ、ぽっこりしてて可愛ーい」

 

「あ、あっ!やっ、押しちゃ、だめ、だめぇッ…!!」

 

つんつん、とお腹を押すと悠仁が麻痺したかのようにガクガク震えてまたイった。

次いでまたも中をぎゅぅうっと搾り取られるのではないかと思う程に締め付けられて五条は眉間に皺が寄せて中に出した。

 

抜かずにずっと奥に中出ししてるから悠仁のお腹は五条の精液でタプタプになっている。

入りきらず挿入の際に溢れ落ちて悠仁の尻と太ももを白く汚すのだけれどそれがまた視覚を煽って五条を興奮させる。

 

「ひっ、ひくっ…うぅッ…も、もぉやらぁ…い、イけないよぉ…せ、んせぇ…」

 

目元と鼻の頭を赤くさせながら止まらない快楽を与える五条を見上げながら悠仁は泣き付く。可哀想に、その快楽を与えているのが目の前の人なのにその五条本人に助けを求めるしかないのだ。

 

蹂躙してるのは自分なのに悠仁はそれでも助けてと手を伸ばすのだ。可愛くてしょうがない。五条はニコリと微笑んだ。

 

悠仁

 

その笑みに悠仁はもう終わりにしてくれるのか、と口を開けたが続いた言葉に固まった。

 

「もう少し頑張ろうね?」

 

目の端に溜まっていた涙が頬を伝って流れる。それを指で拭って五条が腰を動かすと悠仁は快感に声を上げる。

もうイけないと言ってるのに、と泣くのだけれど聞き入れてくない五条の背中に腕を回してぎゅうっと力を入れて抱き着いた。

 

そうしてないと戻れないと思ったから。

 

 

 

 

END

(うん、分からん)

◆キラ白(はたらく細胞)

 

 

冬の12月から3月にかけて流行る感染症、インフルエンザ。

 

体の免疫力を下げ、高熱、悪寒等を引き起こす恐るべき病気だ。咳やのどの痛みなどの呼吸器の症状だけでなく、倦怠感や食欲不振などの全身症状が強く、酷い時は頭痛や関節痛・筋肉痛など呼吸器以外の症状も伴う。
合併症として、気管支炎、肺炎、中耳炎などもある。

 

この体の外はちょうどインフルエンザが流行ってる時期なのか、この体もどこからかウイルスに感染してしまって体内の中の細胞たちはウジャウジャと現れるウイルスを長期戦で排除していた。

幸いな事はウイルスがB型であることだ。

A型だと新種のウイルスが生み出されて排除するのに些か骨が折られるがB型ならば毎年といって良い程に倒している。

殺し方なら嫌という程に知り尽くしている。

 

既に何百ものウイルスを排除しているがインフルエンザが治るのは1週間程。

前線には白血球、マクロファージ、B細胞にキラーT達が休む間もなく動いている。

 

最初のウイルスが現れてから6日は経っていた。休む間もなく闘っているから既に時間や日程の感覚は分からなくなっているけれどヘルパーT指令からのアナウンスが時折あり、どれくらい経っているのか報告してくれるから辛うじて分かっている。

 

6日も経てばウジャウジャと居たウイルスも残る数匹になっており、その残りを排除すれば長かったこの戦いも終わると確信している。

 

そしていつものように最後のウイルスを白血球が排除した途端、長かった戦いの幕は閉じられ、ずっと戦い通しだった免疫細胞たちはワッと歓声を上げた。

 

キラーTも、やっと終わった事に一息を吐いた。今年もまた仕事をやり遂げたのに笑みを浮かべる。まだ息のある部下たちを確認してこれからの処理作業の指示を出してから周りを見渡した。

瓦礫の山と血溜まり、返り血に染まる細胞たち。周りへの損害は多いが細胞はそんなに殺られてなそうで安心する。

 

気を抜くと欠伸が出てしまいそうでキラーTはぐっと口許に力を入れる。

この1週間寝ずに動いていたのだ、脳や体は睡眠と休息を今直ぐにも必要としていて立ったまま眠る事が出来そうだ。

途中から想い人である白血球U-1146番を気にする事も出来なくなっていた。それでもお互いの強さを知っているから簡単に殺られたとは思っておらず無事だと信じて疑っていない。

 

目の端に細胞たちが互いを労っているのを捉えながらキラーTは視線を動かすとウイルスがやけに束となって倒れている所に、想い人の好中球が居た。

丁度タガーナイフを収めてる所らしく掌でクルクルッと一回転させてからスッとホルスターに仕舞っている。

 

やはり無事だった。

 

信じていてもやはりどこか大きな怪我がないか心配はする訳でその後ろ姿から致命傷に至るものはないと確認して内心ホッとする。

しかし心なしかその体が微かにグラグラと傾いてるのに気付き、訝しげにキラーTが目を細める。

 

その様子に可笑しいとキラーTが白血球に近付きその背中に声を掛けようとした瞬間、赤に染まった白い体がぐらりと傾いて倒れそうになる。

 

「…危ねぇな」

 

瓦礫の山に倒れる前に腕を伸ばして体を支えてやる。意識がもうないのか体からは完全に力が抜けきっておりずしりと腕に重さが掛かったがキラーTにとってはどうって事のない重さだ。

白血球の顔を覗いてみるとすぴー…と寝息をたてて眠っていた。

 

マジかコイツ…。

 

戦場だった周りは既に後片付けだけだから気を抜くのも分かるがここで事切れるのかよ、ホノボノしてんなぁ、コイツ。と呆れたようにキラーTは溜め息を吐いたがその顔は端から見れば甘かった。

思えば最初の抗原が出現してから最後までコイツはずっと立っていたのだ。疲れが一気に出たのだろう。

 

「1146番!!」

「ちょっ、大丈夫か?!」

「生きてる!?」

 

いつも傍にいる幼馴染み3人の白血球が駆け寄ってくる。致命傷を受けて倒れたと思っているのか酷く慌てた様子にキラーTは片手を上げて制した。

1146番を支えていた腕をずらし、尻から太股に掛けて掬い上げるように1146番を抱き上げる。

まるで幼児を抱き上げるような格好に一瞬幼馴染み3人はポカーンと目を見開いた。

 

「疲れて眠っちまってるだけだ。俺が回収するからお前らも休んどけ」

 

ほれ好中球、しっかり掴まれ。と眠っている相手に聴こえる訳ないのにキラーTが腕を僅かに揺すると眠っている筈の白血球はんぅ…キラぁ…と小さく唸りながらも両腕をもぞもぞと逞しいキラーTの首元に回して掴まり頬を肩口にペタッと乗せて完全に熟睡している。

 

幼馴染み3人は寝てるだけかい~。と声に出さずにツッ込んだが安堵した表情になっていた。

キラーTと1146番が付き合っている事を承知している3人は、じゃあ1146番の事をよろしく~とアッサリ手を振る。

頷いてキラーTは片腕で1146番を抱き上げたまま、その場を離れる。

 

1週間も休む間もなく寝ずに戦い通しだったのだ、今から少し休むくらい許されるだろうよ。

眠気で目が霞むのを数回瞬きする事で誤魔化しキラーTはリンパ官の自分の部屋へと戻っていった。

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1146番をベットへ下ろす前に血塗れになっている互いの黒と白の制服を脱ぐ。

下着までは汚れてなかったから下着だけを残した姿で1146番をベットに下ろしてから洗面所に行き濡れたタオルで髪にこびりついた血を拭う。ついでに下だけを穿き替えた。

 

赤に染まった金髪がタオルで擦る事で綺麗になり、数分すればいつもの色に戻る。

一通り拭いてから新しい濡れタオルを持って白血球の所まで行くと同じように血がこびりついた白い髪を綺麗にしてやる。

眠いのは眠いのだがキラーTは赤の中から美しい白が現れるのが楽しくて夢中で手を動かし綺麗にする。

 

満足するまで綺麗にしてやってからタオルを適当な所に置いた。今度は欠伸を噛み殺さず思うまま大きく欠伸をした。

 

欠伸で生理的に出た涙を無造作に拭い、自分の黒の部屋着を着せた白血球の隣に滑り込み安心しきった顔で眠っているのを眺めてくしゃりと頭を撫でてからその体を抱き寄せキスを1つ落とすと目を閉じた。

 

腕の中に1146番が居る。

それだけでキラーTは溜まりに溜まった疲れが取れるような気がした。

 

 

 

 

 

「ん……」

 

充分な睡眠を取れたおかげか、白血球はキラーTよりも先に目を覚ました。

今は何時頃だろうか…?目を擦り目を開くと目の前には端整な男の顔が思いの外近くにあった。身動き出来ないのは逞しい腕が腰に回っていたからか。

 

見事な金髪に目をパチクリとさせて白血球は何故目の前にキラーTが?というか何故自分はキラーTと一緒に眠ってるんだ?と頭の中には疑問ばかりが生まれる。

 

周りを見渡すとどうやらここはキラーTの部屋で真っ黒な部屋は見覚えあるものばかりだ。いつの間にここまで運んでくれたのか覚えはないが抗原を殺し終わった後の記憶がないことからキラーTが回収してくれたのだろう。

 

起き上がらせてた頭をぽふりと枕に戻すと未だ規則正しく寝息をたてるキラーTを見つめる。

いつも眉間に皺を寄せて部下たちナイーブを引率してるのだが今はただの一人の男になっている。端整なその顔立ちと見事な深い色の金髪は他に見たことがない。

 

窓から射し込む光に反射してまるで発光してるように眩しく光り輝くその髪を触ってみたくて腕を伸ばしてそっと触れた。

ツンツンしてる見た目とは異なり柔らかくてふんわりしている。指の間をくすぐって絡み付くのが愛しくて思わず小さく笑みを溢していた。

それでもまだキラーTは起きない。

 

滅多に触れる機会がないから物珍しさにまじまじと見つめてしまう。頭から下に手を滑らすと自分とは違う健康的な肌色の頬を撫でた。

眠る前に綺麗にしたのか血の跡が一つもなかった。

 

頬を撫で、確かめるように太い眉の感触をなぞり高い鼻梁をスーっと指の腹で滑らせて唇に触れる。厚くてふにっとしてる…。

 

いつもこの唇が『好中球』と好きな低い声で呼んでくれて、愛してくれる…。

 

思い出したら好中球は一人で起きているのが途端に寂しくなった。

こんなにいっぱい触れているのにキラーTは未だに全く起きる気配がない。

殺し屋なのに、と思うのだけど自分だから警戒する必要がなく安心して眠ってくれるのだと分かっているからただただ愛しくて思うだけだ。

 

けれどそろそろ起きて貰おう。

 

顔を近付けて軽く唇にキスを1つ。

少しだけ顔を引いてじっと見つめると閉じられていた目がゆっくりと開いた。

まるでお伽噺の眠り姫を起こす王子になった気分だった。そしたら眠り姫はキラーTか?ドレスを着たキラーTを刹那に思い浮かべて好中球は溢れた笑みを挨拶と共に誤魔化した。

 

「おはよう、キラーT」

「…好中球」

 

やっとその目に写れた事に好中球が微笑めばぐっと腕に力を入れて引き寄せ、今度はキラーTからキスをした。

ちゅっちゅっと唇や顔中に降り注ぐ触れるだけのキスを嬉しそうに受け入れる。

 

「ふふっ」

「…おはよう、好中球」

 

うん、おはよう。とくすぐったそうに笑うのにキラーTも顔を綻ばせる。

 

なんという至福の目覚めだろうか…。

 

後頭部に手を回して白い髪をくしゃりと撫でる。

肩口に顔を埋めてグリグリと甘えれば白い手がやさしく頭を撫でてくる。

幸福過ぎて叫び出したい衝動に駆けられるのを何とか抑える。

 

好きだ。

 

どうしょうもないくらいに。

 

胸の内がムズムズし出した頃に頭を撫でていた手がポンポンっと叩く。

キラーTが顔を上げると好中球が何かを待つようにキラーTを見つめていた。

 

黒い目を見つめてキラーTはふはっ…とくしゃりと笑った。それに釣られて好中球も笑う。

どちらが先に動いたのか、二人は唇を合わせた。

さっきのように触れるだけのものではない、互いを喰らい合うかのように激しく口腔をまさぐる。

 

横向きに横たわっていたのをキラーTが身を起こして好中球に覆い被さる。

好中球が長い腕を首に回して引き寄せ、スラッとした筋肉が引き締まった足をキラーTの腰に絡ませてガシッと捕まえた。

 

1週間分の休息は取れてないけれど今更止まれる訳がない。

 

二人の目の奥には欲望の炎が熱く燃えている。止まる理由は、ない。

 

 

 

 

END

 

◆本能(高土)と近況報告

※高土♀がライオンです

※この話は2話ぐらいです、ほんでちょっと?いや、かなり土方さんが乙女ww

※1話はファイルのどこかにあるのですけど行方不明なので公開は気長にお待ち下さい←

※土方さん高杉が大好き過ぎるので注意!

 

 

 

 

 


土方が高杉に着いて来て高杉の岩山にある塒に住み着いてから随分と時が経った。

土方は塒の掃除をしながら時折ベットでのんびり寝転がる高杉を見ては、嬉しそうにまた掃除を再開する。

 

二人で共に時間を過ごすのも慣れてきた。

鼻歌を歌えそうなほど土方の周りに花が咲いていると寝床でのんびり寝転がっていた高杉の耳がピクリと僅かに動いたと思うとピンと立ち上がってその双眸が鋭く光った。

土方が首を傾げると地鳴りが鳴り始めて物が小刻みに震えだし、足元から崩れそうな感覚に襲われる。

何事かと土方が周りを見渡すと高杉はその異変に瞬時に身を起こした 。

 

「あっ…!?」

 

いきなり体を揺らす程の強い揺れに驚いた土方が小さな悲鳴を上げてガクッとバランスを崩した。

しかし地面に叩き付けられる前に高杉が倒れそうになった土方の身体を支えて腕の中に落ち着かせる。

 

「ぁ……」

 

力強い腕と暖かい高杉の胸板に触れて土方は赤く頬を染めた。

地震は未だ止まず、 一定の揺れを保ったまま止む気配はないがこれ以上大きく揺れる気配もない。

しばらく土方を腕の中に閉じ込めて耳を立たせながら信心深く周りの様子を見る高杉。


「…治まったか」

 

長い間揺れていたが、 揺れ一つしなくなって高杉はポツリと呟いた。

もう大丈夫だろうと思い、 高杉が土方を見下ろすと土方は赤く頬を染めて熱の籠った目で高杉を見上げていた。

いつの間にか地震の事など忘れていた土方は高杉の事しか頭になかった。

 

「…高杉」

 

高杉は離れようとするが、 土方が更にくっついて離れようとしなかった。

見上げてくる視線は強く熱く、 高杉は何かを諦めたように土方の腰に腕を回すと引き寄せてそっと唇を重ねた。

 

「ん…」

 

この塒に来てから、初めての口付けだ。

拒絶されたことも冷たくあしらわれたことも、 出ていけとも言われたことがない。

ちゃんと存在を認めてくれて狩りの時に負った傷にも、 気付いてくれて手当てをしてくれた。

寡黙過ぎて言葉数は足りないけどちゃんと気にかけてくれた…。

 

そんな高杉に土方は更に惹かれてた。

けれど、高杉は触れてはこない。
野生のライオンの雄雌が一つの塒に一緒に居るなら、 交わることがあっても可笑しくない

土方も高杉と交わることもちゃんと想定して着いて来たものの、 当の高杉は指一つ触れてこない。

寝る時は寒さを凌ぐために寄り添って眠るのだが、 それだけでそれ以上はない。

 

別に土方は交尾をしたいのではない。
雄雌のライオンが一つの塒にいて、 何もないということは自分を雌として意識していない証拠なのだ。

それを気にして時折高杉に問い掛けようと口を開くがいざ聞こうとすると、答えを聞くのが怖くて聞き出せずにいたのだ。

 

しかし今触れる腕の力強さと支えてくれた高杉に土方は胸のトキメキを抑えられない。
いつの間にか体温が上昇して高揚する気持ちを抑えられず高杉が離れようとすると離したくない思いでその胸に頬を擦り寄せてくっついていた。

 

初めて交わす高杉との口付けは情熱的だ。


「ん、ふぅ…っ…」

 

ちろりと唇を舐められて反射的に微かに口を開くとその僅かな隙間を高杉の舌が滑り込み、奥に隠れてる舌を捕らえる。

 

「んんっ…」

 

ざらついた熱い高杉の舌に土方はびくりと震え、 高杉の背中に腕を回してしがみつく。

 

「あ、ん…っ」

 

奥に縮こまって逃げる土方の舌を高杉がつついて尚も逃げようとすると素早く絡めとられ、強弱をつけながら甘噛みされ肩が跳ねた。

 

「あぁ、っ…んんっ」

 

跳ねた肩をあやすように撫でられきゅーっと痛いほど強く舌を吸い上げられると、 土方の体全身にゾクゾクと甘い痺れが走りかくんと下肢の力が抜けて高杉によってゆっくりと寝所に下ろされた。

余りの気持ち良さに喉がグルル…と甘く鳴る。

 

「ぁあ……はぁ…ぁん…ッッ」

 

土方は呼吸が止まりそうな激しい口付けに頭の芯まで蕩けてしまう 。

ようやく高杉が口付けをやめて唇を離す時には土方は肩で息をして呼吸を乱していた。

 

「…止めるなら、今だぜ?」

 

高杉は土方を見下ろして言う。

目の奥に揺らめく欲望を隠しもしない高杉だが逃げるのなら今の内だと、土方に逃げ道を作ってくれている。

 

もしここで土方がやっぱり怖いからと逃げ出しても高杉は追って来ないだろう。

落ち着いた頃に戻ってきてもいつものように無条件に受け入れてくれて追い出しもせず、いつものように寝床でのんびり眠そうにするのだろう。

 

けれど、そんなの土方が許さない。

こうなるのを土方は望んでいた。高杉が欲しかったから。なのにこんなに昂らされて逃げて良いぞ、なんて言うのは狡くないだろうか。

 

こんなにも欲しいのに、なんて狡い男だ。

 

土方はまだ痺れる腕をゆっくり持ち上げると鋭い爪を剥き出しにして高杉の胸元に爪を立てて下に滑らした。

ピクッと体を揺らした高杉だけど土方の好きなのようにさせている。

 

すると高杉の鍛えられた胸元からお腹に掛けて4本の紅い線が浮かび上がり遅れて血がじわじわと滲んでくる。

それの様をうっとり…と眺めてから土方は優艶に微笑んだ。

 

「もう…待てない」

 

鋭い翡翠の目がスッと細められると、その口許が弧を描いた。

 

 

 

END

 

 

 

 

◇近況報告◇

こんにちは!最近原稿が忙しくて全然更新出来ておらずすみませんでした…(泣)

スパコミに高土を持っていくのでその原稿を急いで終わらせようとしてるのですけど如何せん仕事しながらの原稿は思いの外キツくて小説なんて書いてる余裕はありませんでした…!!

なのにそんな切羽詰まった感じなのに今月の頭くらいから最近旬の【はたらく細胞】にハマってしまいまして…キラーT細胞に見事に堕ちましたとも!はい😂💦

なので好きが勢い余ってキラーT×白血球の本も出すことにしました。スパコミで。

スパコミ10月7日ですよ?〆切もあるから入稿予定日から一月も切ってるのよ?高土の原稿もやりながら今からキラ白の原稿って自殺行為ですよね!?でもキラ白楽しくてノリに乗ってるので余裕だと思います✌✨

人気なのに支部に行くとキラ白のイラスト54件の小説116件と少な過ぎません??え?キラ白クラスタどこ…?!!ってなりながら日々仕事しながらの原稿をやっている感じで御座います。

 

キラ白楽しいし可愛い。

鬼滅も蜜璃ちゃんが可愛いし尊い

 

でも…!!!!!

 

一番の衝撃は銀魂がとうとう終わってしまう事ですよーーーー!!!!!!😭😭😭💦💦

一昨年?のJFから最終章に入るってあった時から「まだ終わらないやん(笑笑)終わる終わる詐欺?(笑)」って友達と笑ってたのにホントに終わってしまうなんて……悲しいけれど空知先生も長い間頑張って来たんだしそろそろ休んで下さいって気持ちなんですけど、出来れば高杉と土方さんが出会ってからというか絡んでから終わって欲しいー!!!😢💦💦

 

高土…!!アニメグッズのラバストで高土は出たし、小説でも高土絡んだけど原作!!原作では全然絡んでないから…!!!

絡んで欲しかったよぉ…だって残り3話で高土絡むとは思えないもの…絡まずに終わるのでしょ…??高土クラスタとしてはツラい…そして高杉は生きるのか死ぬのかも知りたいよ…お願いだから生きてね…😢

 

なんか長くなりましたけど私は元気です。

高土とキラ白の原稿を頑張ってます。小説の更新は乏しいですけれど、これからも高土書いていきます(*^^*)

本に興味のある方はもし良ければ2018年10月7日の東京ビックサイト銀魂スペまで遊びに来て下さいませ~🙌

 

 

2018.8.31

◆いつだってその手は(高土)

※3年Z組兄弟パロ

いつもの如く土方さんが高杉を大好き過ぎる

 

 

 

銀魂高等学校の3年Z組ーー…

教室の中はいつもと変わらぬ賑やかな光景が広がっていた。

 

グループを作って喋ってる子達もいればリコーダーを利用してチャンバラごっこしてる生徒もいる。高校生にもなってチャンバラごっことかって言う奴もいるがこの3年Z組の生徒達の頭の中は緩いから年は関係ないといっていい。

そんな騒がしくも比較的いつもよりも平和な教室の中を風紀員副委員長の土方は騒々しい周りを意にも返さず後ろの席でそろばんの教科書を開いて読み込んでる兄である高杉の所へ向かった。

 

「晋助、」

 

声を掛けると高杉は教科書から目を離すと弟の土方へ視線を向ける。

視線が交わると土方は僅かに笑みを溢し高杉に今夜は遅くなるのかと問い掛けた。

以前に神威が襲来した時から兄弟だと周りに知られてしまった時から土方は周りの目を気にする事なく遠慮せず高杉に声を掛け、共に帰るがあった。

 

しかし土方は剣道部に身を置いてる為、放課後になると体育館に居るのが殆どのため帰宅部の高杉とは毎日帰る事は敵わない。

だから高杉と帰れるのは剣道部が休みの時だけだが今日がその剣道部の休みだったのだ。高杉は気紛れな性分だからいつの間にか消えて先に帰ったクセに何をしてたのか、帰ってくるのが深夜遅くだ。

 

こうして聞いておかないとのらりくらりとされてしまうので教室に居る今がチャンスとばかりに土方は聞いたのだ。

帰る場所は同じだから別に一緒に帰る必要はないのだけれど1週間の内5日間は学校で顔を合わせるもお互い周りに仲間がいるから大して話せないし…長く一緒に居たいのが土方の気持ちだった。

 

まさか自分でも自覚する程のブラコンだったとは夢にも思わなかった土方だ。

 

「部活休みなのか」

 

土方が問い掛けた真意を瞬時に理解した高杉が返すと土方は頷いた。

すると高杉は目を細めて和らげるとそうか、一緒に帰るぞ、と口許に笑みを浮かべた。

 

いつも酷薄な笑みを浮かべてる高杉だが家族である土方には親愛の証といえば良いのか、向けてくる笑みが柔らかく暖かい。

 

見つめられたら隻眼の翡翠の目の前では嘘等通用せず全てを暴かれたような心地になる程に清みきってる高杉の目を含めその相貌は綺麗だ。

目付きの鋭さや酷薄な笑みを浮かべる薄い口許は畏怖を覚えさせられるけれどよくよく見ると高杉は美人と言われても可笑しくない程に目を奪われる。

 

それは土方も例外ではなく兄でもあるがその柔らかい顔に目を奪われるしドキリッと胸が高鳴り心臓がきゅーっとなり切なくなる。

改めて自分は兄が酷く大好きなのだと改めさせられる。

 

ほわほわっと高杉と土方の周りに花や蝶が舞う勢いで和んでいたらそんな二人をいつから見ていたのか、沖田が疑問を口にした。

 

「二人は最初からそんなに仲が気持ち悪ィ程だったんですかィ?」

 

気持ち悪いってなんだ、と土方が沖田を睨むけど二人があれこれと下らない言い合いをする事はいつもの事だから険悪な雰囲気はない。

 

しかし周りも鬼と恐れられるが優等生とも言える土方と銀魂高校最凶の不良というレッテルを貼られてる高杉が仲睦まじくしてる所を見てると沖田と同じ事を思っていたのか遠目にこちらを眺めていた。

 

その視線が煩わしくてチッと舌打ちする土方だっが律儀な性分の土方は違うと否定した。

それに沖田が不思議そうに目を瞬かせた。

 

そう、土方は最初から高杉が大好きだった訳ではない。高杉と土方は腹違いの兄弟だった訳だから産まれた時から一緒だった訳じゃなく、一緒に暮らし始めたのも高校上がって直ぐの頃だ。

 

初めて顔を合わせたのもその時だ。

まだ思春期の時期を抜け切れてなかった土方はいきなり『はい、お前のお兄ちゃんだよ』と言われても両手を上げて満面の笑みでわーい!お兄ちゃん!!ってなつく筈もないだろう。

 

自分のテリトリーに無遠慮に他人が入り込もうとするのが一番苦手な土方は急に現れた『兄』という存在をそれはもう訝しんだし無意識の内に拒否をしていただろう。

 

土方は朝練や放課後の部活で朝早いし帰りも遅い。高杉はいつも遅刻してるのか土方が朝起きる時はまだ眠っていたし帰りは土方がぐっすり眠っている深夜遅くで同じ家に居ても顔を合わせる事もなかったし付かず離れずな距離だった。

土方は自分が高杉を『兄』と認めず苦手としてるように高杉も自分を『弟』として認めてないだろうとずっと思っていたがある日を境にそれは違うと考えるようになった。

 

ある日、いつものように高杉と顔を合わせる事もなく1日を終えようとしてたが今日の部活に力を入れすぎて激しい疲労が反って土方の目を冴えさせた。

丁度明日は日曜日で部活は休みだから夜更かししても問題ないのだが規則正しい習慣が乱れる事を許せない土方は早く眠りたいとベッドに横たわり頑張って意識を沈めようと奮闘していた。

そんな時に下の階からガチャっと玄関の開く音が聞こえ土方はびくり、と肩を揺らした。

高杉が帰って来たようだった。時計の針は深夜の2時を指していて土方はこんな遅くまで遊び歩いてる高杉に顔をしかめた。

両親が共働きで家に居ないからって好き勝手し過ぎではないのか?と憤りを感じたが関わるのを良しとしない土方は心の中で高杉に文句を浮かべる。

階段を上がる音が聞こえるとその音が近くで聞こえてくるのを土方は不思議に思った。

高杉の部屋は階段を上がって左に行った奥の部屋で土方の部屋は階段を上がって右の奥で何故高杉が土方の部屋の方へ来るのか、分からなかった。

 

もしかして寝惚けて部屋を間違えてるのか?と土方が思うのと同時に部屋の扉が開けられて土方は思わず寝たフリをした。

何で部屋に入ってくるんだよ、早く自分の部屋に戻れ!と心の中で叫んでみても寝惚けていると思った割に聞こえてくる足音はしっかりとしている。

 

足音がベッドの横で止まると知らず知らず土方は息を止めていたのか丸で耳の横に心臓があるかのようにドクンッドクンッと心拍音が大きく聞こえた。

一体何だ、と土方が思ったその時、頭に温もりを感じて思わず僅かに身動きをしてしまう。

 

え?と何事かと驚く土方を余所に高杉のものであろう手が土方の頭を優しく起こさないようにしながら撫でて、そっと離れた。

そしてそのまま踵を返して土方の部屋を出て行くと自分の左の奥の部屋に行ってしまった。

 

目を見開いて土方は撫でられた頭をなぞるように触れると、高杉…?と更に眠れなくなり困惑した一夜を過ごした。

 

それから相変わらず二人は話す事も顔を会わす事もなかったが次の日部活が休みの時、土方は遅くまで起きて高杉が帰って来ると寝たフリをするようになった。

前に高杉が部屋に入ってきて頭を撫でられた時、土方は困惑した一夜を過ごしあれは高杉が寝惚けていたのだと納得しょうとしたが確信に迫らないと気が済まない性格だったから夜更かしして高杉が帰ってきたら寝たフリをしてどうなるかを、試したのだ。

 

すると試した結果高杉は別段寝惚けていた訳ではなく、確たる意思を持って帰宅した時に土方の頭を撫でてから部屋に戻ってくのだ。

もしかして今までずっと知らなかっただけで高杉はずっと眠っていた土方の頭を撫でていたのか?と知った土方は何を思ってそうしてるのか高杉に聞きたくてしょうがなかった。

 

この時から既に土方の中で高杉は苦手としたものじゃなくなっていた。

まだ『兄』という認識はないが自分を嫌っている訳ではないと分かった。わざわざ土方が眠っている時に頭を撫でていくのは土方が高杉を認めてないと分かっているからなのだろうか、高杉は最初から土方を受け入れていたのではないか、と色んな事が頭を過っては消えていく。

 

高杉のいつも手は優しかった。

高校生の割に掌が大きくて噂でいつも喧嘩ばかりで人を殴っている手だと知っているのにその手はいつも眠っていると思っている土方を起こさないようにそっと土方を黒髪をすいて撫でて離れていく。

 

それが幾度か目になるといつしか眠っている時ではなく起きてる時でも撫でて欲しいと土方は思うようになっていった。

だからそう思った日にまたも寝たフリしていつものように高杉が部屋に入り、頭を撫でてくれた時にさも今起きたかのように寝返りをうつと目を開けて高杉を見上げたのだ。

 

晋助…?と恐る恐る声を掛けると頭を撫でる手が一瞬動きを止めたがそれも一瞬で直ぐにまた頭を撫でてまだ遅い時間だから眠っていろ、と微笑んだのだ。

 

頭を撫でる手に添え、何で?と尋ねた。

高杉は添えられた手を握って土方が何故撫でるのかを知りたがっているのを理解して誤魔化す事も弁解もする事もなくただ、お前は俺の弟だから、と溢した。

 

それだけで十分だった。

土方はそれだけで高杉を『兄』と認めた。

自分の中に入る事を許した。この時にやっと二人は本当の家族で『兄弟』となった。

 

 

 

「土方さん?」

 

高杉を兄と認めた時を思い出して黙る土方に沖田が声を掛けるとハッと正気に戻ると何でないと返す。

 

「何でもねぇよ、てか俺と晋助の事は良いだろ別に」

 

高杉との事は二人だけが知っていれば良いし周りが知った所でからかわれるのが目に見えている。

好奇心の目から逃げるように土方は高杉の手を引っ張り取りながら沖田たちに向かってまた明日と返すと教室を後にした。

 

「十四郎」

 

引っ張られるがままに高杉が土方を呼ぶ。

振り返ると高杉が笑っている。

 

土方の頭を優しく撫でる手は、土方の手の中にあった。

 

 

 

END

(なんかよく分からなくなった…)

◆夏(高土)

 

 

高杉は人工的な風が嫌いだった。

だから今では当たり前に一般家庭に置かれているエアコンも、昔から愛用されてきたが旧いとされる扇風機も気に入らなかった。

 

扇風機は風が強すぎて最初は涼しくて良いと思うが少しすると強過ぎる風に髪を乱され、音を騒音と感じて鬱陶しくなる。

エアコンは送られてくる風が冷た過ぎて涼しくなるよりも冷凍庫にいるような肌寒さであっという間に風邪を引いてしまいそうになり、やはり高杉は人工的に作られたものが嫌いだった。

 

だから高杉の部屋にはエアコンはない。

辛うじて扇風機はあるが滅多に使われる事はなく、窓を全開にして風通しを良くしたくらいのものだった。

 

茹だるような暑さでも高杉は暑いと口にしてても扇風機を使わない。

 

うちわを片手に風を自分に送りながら、縁側に座り外の景色を眺めた。

大きく前を開いた白いシャツから覗く肌には水玉になった汗が滲んで滑る。

傍らに置いてあった水の汗が落ちる麦茶が注がれたグラスの中では大きめに作った氷が小さくなってカランッと高い音を立て泳いだ。

 

蝉のミーンミーンと雌を求めて求愛の鳴く声が何処かしこから聞こえるのにやっと夏が来たのだと知らせてくれる。

 

 

「高杉」

 

部屋の襖が開けられ、そこには土方が額や首筋に汗を滲ませながら入ってきた。

高杉は外から視線を中に入ってきた土方に移した。

 

土方は徐に服を掴むとパタパタと中に風を送り込むように前後させながら高杉に近付く。

 

「こんなクソ暑いのに扇風機すらも動かしてねぇのかよ」

 

「エアコンも扇風機と嫌いなんでな」

 

俺は暑くて死にそうなんだが?と高杉を見下ろし、その傍らに座って高杉の傍らにある麦茶を断りもなしに一気に仰いだ。

土方が一息ついたのを見届けてから高杉は考える素振りを見せると、扇風機別につけて良いぜ?と笑った。

 

「…あ?」

 

扇風機嫌いじゃなかったのかよ、と訝しげに見返してくる土方に高杉は余計に冷えた体はお前が暖めてくれンのだろォ?とグラスの冷たさが残った指に唇を落として返した。

 

目を見開いた土方だったがフッと笑うと捕らわれた指先に力を込めてその手を握った。

 

「上等だよ」

 

 

 

END

(嫌いなものでもお前が居れば問題ない)

ただ美琴がエアコンと扇風機が嫌いなだけの話でした…w