mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆五悠

 

※先生が獄門疆に封印されて戻ってきたという捏造された話です。

※五条先生目線

 

 

 

 

 

 

ベッタリ。

そんな擬音が着きそうなくらい、見下ろした栗色の頭はずっとそこに居る。

 

 

「……悠仁?」

 

五条はもう半日程ずぅっと己のお腹に顔を埋めて離れない悠仁の頭をつんつんとつついて声を掛けるが反応がない。

でも寝てる訳ではないのは腹に巻き付いた腕がぎゅうっと強くなるのに一応起きていると知らせてくれる。

 

まるで駄々をこねる子供のように離れない。

あぁ、そう言えばふと大人のような感情を落とした落ち着いた表情をするようになったがまだ子供だったね。

 

この行動も、一時的とは言え僕が封印されちゃった所為だし。

 

先日、獄門疆に封印されていた僕はやっと封印を解く事が出来て傑や特級呪霊と相対していた教え子たちと無事に合流出来た。

僕の封印が解けたと分かった途端に傑たちはその場を立ち去ったのは不幸中の幸いだった。最強の僕と言えど獄門疆に封印されていた間はどう封印を解くかで色々チカラを使ったから流石に疲れたからね。

 

このバカ!!何封印されちゃってんのよ!!って野薔薇とか恵に凄く非難されちゃったけどその目元は赤くなって気のせいか目も潤んでいた。

一応僕も先生として見られていたんだと実感した。

まぁ普段先生と尊敬されないのは日頃の行いのせいだろうね、改める気はないけど。

 

悠仁は嬉しそうに笑って「おかえり五条先生」と悠仁が生き返ったいつかの僕のように掌を向けて手を上げたから僕も笑って手を振り上げてハイタッチした。

 

それから高専に戻り、硝子に身体を診てもらって獄門疆の後遺症で何か影響が出るかもしれないから暫く安静と言い渡されて自室に戻ったのが昨日の夜。

少し寝て、朝起きたら悠仁が来てくれて朝ご飯とか作ってくれて美味しかった朝食を食べ終わるとまだ安静でしょ?と病人じゃないのにベッドに戻された。

 

話してる間にほんの数分眠ってしまってたらしく意識が浮上して目を開けると既に悠仁は僕の腹に抱き着いていた。

邪魔じゃないし嫌な訳ないからそのまま僕が居ない間の話を続けて聞いた。

それが11時頃の話で今もう夕方17時だ。話してる途中で最初ちゃんと僕の顔を見て話していたのに悠仁は完全に表情を隠すように俯いている。

 

「…ね、顔見せてよ悠仁

 

再会した時はもっと1番テンション高く歓迎してくれるのかと思われた悠仁はどっちかというと野薔薇や恵の一歩後ろで笑っていた。あれ?と思ったが本当に嬉しそうに笑ってたから余り気にしていなかった。

顔を伏せた悠仁の肩が小さく震えている。肩を撫でて顔を上げるように促すも悠仁は顔を見せないままフルフルと拒絶する。

 

「お願い悠仁

 

再度促せばゆっくりと顔を見せてくれた。

大きな目を歪めその目元は赤くなって泣いていた。嗚咽を漏らすまいと引き結ばれた唇が震え、抑えきれなかった嗚咽が隙間から漏れている。

背中に回されている手が痛いほど服を握りしめていた。

 

こっちが痛ましく感じる程、悠仁の顔はくしゃくしゃだった。

悠仁は僕が戻ってきて喜んでくれているが、それと同時にまた僕が居なくなるのではないか、不安なのだろう。

もう見られてしまった後だからか悠仁はもう涙を隠すこと無くぽろぽろ零して腹に回した腕に力を込められた。

 

「もぅ…いなくならないでよ、せんせ…ッ」

 

悲痛なその声に、体が震えた。

可愛い教え子にこんな悲しい顔をさせてしまった自分を殴りたい。そして僕を封印した傑の横っ面も思い切りぶん殴りたい。

ホント僕の生徒を傷付けるのが上手いヤツだよな、次会ったらもう容赦はしないから。

 

 

だけど、どうしてかな…。

 

悠仁にこんな悲しい顔をさせてしまって罪悪感で胸が痛む筈なのに…感じているのはぞくりと背を這い上がる仄暗い喜び。

博愛のように皆に分け隔てないあの悠仁が、僕をまた失う事に怯えて泣いているのを見ると胸の中に暖かいものが振り積もっているのが分かる。

僕の存在は悠仁にとってそこまで泣いてくれる程、大きかったんだと、驚く。七海との最初の任務で友達が出来た途端に守れず、死なせてしまったと嘆いたあの吉野という子供の時には涙をグッと堪えていたというのに。

 

「うん…もう悠仁の前から居なくならないよ」

 

身を屈めて隠し切れない笑みを浮かべて悠仁の額に口付けた。

悠仁は嫌がる素振りもなく、屈んで距離が近くなった僕の背中から首に腕を回しぐりぐりと首元に頭を押し付けてキツく抱き着いていた。

 

身を起こして首元にぶら下がった悠仁をそのまま膝に乗せてこっちも背中に腕を回して抱き締める。

 

もう、互いに離れられないと本能的に悟った。

それこそ僕は本望だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

◆五悠‐吸血鬼パロ‐設定

設定とか人物紹介。

 

 

◆五条先生【純血の吸血鬼】
悠仁【元人間。後にハーフ】のラブストーリー(笑)

 

 

この話では呪いに関する話はないです。
呪いの篭った物は存在するけど呪いと戦ったり祓ったりはしません、呪術師は存在するけど悠仁たちには関係のない話です。
完全なファンタジーなストーリーとなってます。


呪術師側を「吸血鬼」や「魔女」とし、敵対する呪いや未登録の呪霊特級たちをここでは「狼」としてます。

狼大好きだから完全な悪役だけじゃ嫌なので悪い狼もいれば良い狼も居ます…!(力差で身分とか決まる。身分が高い狼ほど知性と理性があります)ご都合主義w

狼は手当たり次第人間を食べてしまう人食の集まり。
吸血鬼は人間から少し血を分けて頂いてるのでそんな事されてしまったら人間が過剰に怖がって警戒されてしまえば自分たちの食事が出来ないと、見境のない狼を退治してるってことにしてます。

他にも魔女や妖精等、色んな種族も存在。
そして普通に太陽の下を歩けます。ただ長時間浴び続けると貧血になって具合は悪くなる。十字架とかニンニクは効かないよ。何それ?ウケる(笑)って五条先生に笑われてしまいます←


【純血の吸血鬼】
何も混じってない純血の両親から生まれた者。大体みんな純血種。身分が高いのは大体年寄り。(ここでの場合は呪術界の上層部になります)

【直属の吸血鬼】
訳あって純血の吸血鬼から血を分けて貰い、人間から吸血鬼になった者。血を貰った者の配下になる。吸血鬼になった者の理由は様々。(人間を吸血鬼に変えられるのは純血種だけ)

【ハーフ】
吸血鬼と人間の親から産まれたり、血が混じっている者。
純血よりかは力は劣るけど環境による適応能力は純血種よりも勝っています。

【禁忌】

吸血鬼同士の吸血行為は禁忌とされています。

皆何かしら異能を持っているのでその血を口にすると身体が麻痺してしまうからです。あとは単純に同族の血は不味いから。だから人間から血を貰っています。

 

 


*人物紹介*

虎杖悠仁(10)
元々は人間。祖父はもう他界。ひょんなことから宿儺の指を食べて取り込んでしまい、半分人間やめて狼になった。宿儺の指は狼の地位じゃ比べ物にならないし宿儺の指は狼じゃなくてもう魔物レベルだけど1本しか食べてないので半分狼です。
指全部食べたらどうなってしまうかは分からん←
半分人間やめても人間な訳だから人間をただの食事としか見てない狼が許せず、狼を一掃していた。幼いながらも人間離れした腕力や身体能力を持っていた悠仁は狼にも劣らなかった。半分は宿儺の指のおかげで倒せてる。
狼を退治している時に五条と出会う。(幼くに祖父亡くさせてゴメンね!!!!)

 

五条悟(23)
最強の吸血鬼。吸血鬼の世界ではまだ若い方になるが特別な眼により色々と最強。何でも出来ちゃうから周りの羨望や妬み嫉みの目に嫌気が差し適当にやってたらちゃらんぽらんな感じになった。
最強であるが故に一族や同族(一応人間側も)を狼から守るという仕事を一任されています。
腐った上層部をどう片付けようか、日々考えながら子供たちに力の使い方を教えている。けど最強なので忙しくて余り教えられず、いつしか子供たちから冷めた視線を感じるようになって若干凹んでる。
仕事の帰りに狼たちを一掃していた悠仁を見つける。

 

伏黒恵(10)
純血の吸血鬼。名家なので有名。
若いのでまだ発展途上中。実は悠仁と最初に出会っていたのは伏黒。昔悠仁の小学校に狼が出ると仕事で潜入した時に太陽の陽射しでグッたりしてた時に通り掛かった悠仁が介抱してくれて悠仁の事をずっと覚えていた。
だから五条が悠仁を連れて来た時に半分狼になってしまっていたのにショックを受けたのと同時に狼に気付かず退治出来なかった自分のせいだと責任を感じている。
恋愛感情は全くないけど悠仁に手を出す奴は誰だろうと許さないマン。

 

釘崎野薔薇(10)
魔女と吸血鬼のハーフ。
大切な親友を一族に追い出されてムカついて家出。ヒロインの筈なのに1番男前でヒーローじゃないのか?って思われガチ。人種とか名家だとか気にしないので悠仁をイモ臭いと思った初対面の時とは違い、一緒に過ごして悠仁の人柄に絆されて伏黒と手を組んで悠仁守ります。物理的だと悠仁が強いけどネ。

 

 

 

多分まだ追加されます…!

 

◆五悠

※書きたい所だけ書いてるので物語としてはかなり不足してます。

※封印されていた先生という設定

※原作軸ではないです多分←

 

 

 

 

 

 

 

「せ、んせ…っ」

 

ポタっ

少年を強く抱き締めるその腕は、寂しくて凍えていた少年に温もりを与えてくれた。

 

 

 


夜の静寂に包まれた寂れた教会を月明かりが照らす。
辺りには獣の気配もなくまるで世界から切り離されたかのような異質な空気がそこにはあった。

いつから此処にあったのか、小さな教会は既に崩れていて辛うじて十字架があることで此処が嘗ては人々が訪れ神に祈りを捧げていたのだと伺える。

 

入口の扉はなく、勝手に中に入ることが出来る。
中に進めば朽ち果てた外見とは違い、中はそこまで壊れていなかった。不思議と椅子やオルガンは綺麗なままで磨けばまだ使えそうな感じだった。

ステンドグラスを通して月の光が中を虹色に明るく照らし、神秘的な光景へと魅せていた。

 

奥の聖卓の上には大きな黒い木箱があった。
近付くとそれはただの木箱ではなく、棺桶だ。

つい最近置いたかのように棺桶は汚れも埃を被っておらずツルりと輝いている。


やっと、見付けた……。


表面を撫でて頬を寄せる。
それは冷たくて温もりはなく暖かくもなかったが構わなかった。

顔を上げて今にも涙が溢れそうになったがグッと堪えて蓋に手を掛けてずらすように開けた。
ズズズッと引き摺るような音を立てながら蓋を開けると棺桶の中には、青年が横たわっていた。

 

黒の衣服を身に纏い、雪をも騙す白い肌と白髪が一層目を引く。青年の顔は幼くみえ、しかし目を奪われる程…とても美しかった。


ポタ…

 

堪えていた涙が我慢出来ず頬を伝って零れ、青年の頬に落ちた。
少年はずっと捜していたのだ。

 

何十年も前から。ずっと。

やっと、やっと見付けた。

 

触れた頬は冷たく、あの頃のように温もりを分けてはくれなかったが少年はそれでも頬を合わせて自分の温もりを分け与えてるようにその体を抱き締めた。

涙が止まらず己と青年の顔を濡らす。
その涙が青年の頬を伝って僅かに薄い唇を濡らした。

青年を抱き締める少年の肩は震え、嗚咽を上げる。

 

少年は顔を伏せていたから気付かなかった。
涙が青年の唇を濡らしたその時、閉じていた青年の瞼がピクリと僅かに動いた事を。

 

そして、震える肩を誰も居ない筈なのに労わるように、撫でられた…。


少年は目を大きく見開いてバッと顔を上げると、目前にはうっすらと冬空を閉じ込めた双眸が開き、少年を見上げていた。


「ゆ……じ…」


何年も出されなかった声は掠れて聞き取りずらかったけれど、それでも充分だった。

その目に写してくれた、それだけで嬉しかった。

 


「五、条先生ぇ…!!!」


顔をくしゃくしゃにして少年…悠仁は五条の首に齧り付いてうわぁーんと声を上げて泣いた。

 

 

 

 

 

(君の涙で目覚めた)

◆五悠♀

 

「先生…?」

「ん…どうしたの、悠仁

五条の背中に張り付いていた悠仁がおずおずと控えめに五条を呼ぶ。
溜まりに溜まっていた報告書を放置し過ぎて学長からお叱りを受けた五条は渋々と嫌々しながら報告書を書き上げていた最中だったのだ。

部屋で1人で黙々と仕上げるのが退屈で滅入りそうだと思った五条が悠仁を呼んで傍に侍らせていた。可愛い恋人が居るのだから報告書なんてさっさと終わらせて2人でイチャイチャしょう!と五条の欲にまみれた作戦だ。

彼これ2時間くらい、報告書を書き上げていたのだがその間悠仁は大人しく五条の傍にちょこんと座り、時折邪魔にならない程度に頭を肩に凭れさせたり、じぃーっと五条の横顔を見つめて嬉しそうに微笑んだりとそれはもう1つ1つの行動が五条を悶えさせていたがそれを表に出さないように必死に耐えていたから悠仁はその事を知る由もない。

五条の部屋には何もないがリビングに行けば恋愛、バトル、ファンタジー、ホラー、韓流、と色んなジャンルのDVDがあり悠仁の退屈凌ぎにはなるから好きに観てて良いよ?と連れてきた時に言っておいたが悠仁は可愛らしい笑顔で先生の傍に居る!と言ってくれたのだ。
悠仁マジで天使過ぎるだろ…。思わず天を仰ぐのに五条にせんせ?と首を傾げた悠仁に何でもない、と返したのはつい数時間前だ。

やっぱり退屈だったかな?


「暇疲れしちゃった?」

ペンを置いて悠仁に体を向ければ悠仁は顔を左右に振って退屈ではないのだと否定した。


「えーとね…?先生の横顔見てたら構って欲しくなっちゃって…」

お仕事、まだ終わらない?と遠慮がちに上目遣いに構って欲しいと強請る悠仁に五条の中で何かが弾けた。

報告書なんてクソ喰らえ。天使に可愛くお強請りされたらそりゃもう大事な恋人を優先するに決まってるでしょ!!?


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「うん、今終わった」

バサッと報告書を後ろに放り投げれば床にまだ白いままの紙がそこかしこに散らばるのに目を点とさせてえ?と驚く悠仁に五条は両手を広げておいで?と誘った。

床に散らばる紙と五条をオロオロと交互に見つめた悠仁だったけれど、大好きな人が両手を広げて待ってくれている。その腕の中には幸福感と安心感を悠仁にいっぱい与えてくれると知っている悠仁は一瞬躊躇して視線を彷徨わせたがええい!と直ぐに腕の中へ飛び込んだ。

腕の中の悠仁をギューっと強く抱き締める五条の表情は柔らかく仄かに太陽の香りがする髪に鼻を埋めさせて幸せそうに笑みを浮かべている。
仕事を途中で止めさせてしまった事に罪悪感を感じていた悠仁も五条の力強い腕に抱かれて次第に罪悪感よりも幸せ、それだけが頭を埋め尽くしていた。

2人は幸福に満ちていた。

 

END

 

◆高土

 

 

※本誌のネタバレあり

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッピッ

 

と無機質な機械音が白しかない視界に大きく響く。

そこには他の音はなく、ただ水が打ったような静けさばかりが続いていた。

 

その白い世界に、髪も服も真っ黒な男と白いシーツの海の中で一際目立つ紫紺の髪を持つ男が存在していた。

 

紫紺の髪を持つ男は眼を閉じて微塵とも動かない。

その傍らに真っ黒な男はただその横顔を見つめて憂いた表情をしていた。横たわる男、高杉は先の戦いで3度目と…鳩尾を刺された。

一回目は朧により、致命所となって深い昏睡状態に陥り万斉の危機に目覚めた。

 

二回目では天ノ鳥船で天人共に何本もの槍や剣で串刺しにされ、本当に危なかったのだが朧の遺骨で何とか傷は防げたもののその命の灯火は余りにも儚く短いとされていた。

 

そして、今回の三度目だ。

虚により高杉はまたも、致命所を負った。これ以上、コイツを苦しめるな、とどんなに叫んでも信じてもいない神はやはり聞き入れてはくれないのだ。どれだけ苦しめば良い。どれだけ痛い思いをしながらコイツは諦めず立ち上がったと思ってる。

 

コイツが居なれければ、救くえなかった命がどれだけ救われたと思っている。

 

いい加減…落ち着かせてやってくれよ…。

 

そう願っても、どれだけ歯痒く思っていても、どうにもならない事もあるのだ。

 

土方は高杉を見つめて、苦渋に満ちた顔で碧の瞳から涙を零した。どうか、高杉を奪わないでくれ……。

 

 

 

 

END

 

 

高杉ーーーーーッッ!!!!!

お願いだから、生きて…!!血反吐を吐いてでも生きて…!!空○先生へのクレームの電話を掛けさせないで…!!!(泣)

◆五悠♀

 

 

朝から悠仁の元気がない。

 

五条はとぼとぼ恵と野薔薇の後ろを歩く悠仁の背中を見つめて首を傾げた。

夜分に終わらせた任務を片付けてたった今呪術高専に戻って来た五条は昨日までは元気に手合わせして貰っていいー?!って飛び跳ねていた悠仁がしょんぼりしているのに疑問に思う。

一体何があったのだろうか。

 

可愛い生徒が、況してやそれが恋人ならば気にならない訳がない。

五条は悠仁の背後に近付きポンっと肩に手を置いて声を掛けた。

 

悠仁

「ッ…?!!」

 

手を置いた瞬間こっちが驚くくらいに悠仁は肩を飛び跳ねさせてバッと振り返った。いつもだったら『うわっ!五条先生かー!!』って眩しい笑顔を見せるのに怯えた表情を見せたのはこれまでにない反応だった。

 

五条が驚いていると悠仁は五条だと気付き目を見開いてあからさまにホッと安堵の息を吐くと泣きそうな顔であ、五条先生か…とポツリと零したのだ。

 

一体誰だと思ったというのか。

 

「おはよう、悠仁

 

これは只事ではないな、と確信した五条は安心させるようにニコりと笑って柔らかい頬を撫でる。

先を歩いていた伏黒と野薔薇がどうした?とこっちを見ているのに五条が先に教室行ってて!そんで僕が行くまで自習ねと伝えれば五条と悠仁の仲を知ってる二人は悠仁が落ち込んでるのを気付いていてずっと気に掛けていたから冷めた視線を寄越したものの仕方なさそうに背を向けた。

 

その間、悠仁は何も言わず五条の腕に抱かれていた。

 

 

 

 

 

廊下で突っ立ってたら落ち着いて話も出来ないからと二人は移動して以前、悠仁を匿うのに使用されていた地下部屋に来ていた。

悠仁が過ごしていた時のままの状態の部屋に着くなり五条は後ろから悠仁を抱き締めてソファーに座った。

顔が見えないのが嫌だったのか五条の膝に横向きに座って安定した姿勢を取るとそのまま五条の胸元に表情を隠してしまった。

 

悠仁?」

 

ぽんぽん…と背中をリズムよくあやすように撫でながら元気ないね、どうしたの?と聞けばキュッと指が白くなる程に服を握り締められる。

宿儺に何かされたか…?と悠仁の裡に居る宿儺に疑いを掛けたが裡の宿儺は濡れ衣だ、と顔を顰めているだろう。

 

五条がどうやって宿儺を懲らしめようか、とまだ宿儺が原因だと決まっていないにも関わらず頭の中で色々と泣かす方法を張り巡らさせていると口を閉ざしていた悠仁がやっと重い口を開いた。

 

 

「……にあった、」

「ん?」

 

服に声が吸い取られくぐもって聞き取れなかった五条はもう一度言って?と今度は聞き漏らすまいと悠仁に顔を近付けて耳を済ませれば耳に入ったその言葉に次の瞬間にはピシリッ!と固まった。

 

 

「電車で、痴漢にあった…」

 

何ですって??

思わず五条は険しい表情を浮かべて殺気を滲ませてしまった。

ビクリと身体を震わす悠仁にゴメンね、と安心させて殺気を抑えると僕の悠仁を穢した不届き者は一体誰だ、どう殺してやろうか?七海と協力してソイツを急いで特定して抹消してやる、と五条は憤る。

 

「…そっか、怖かったね」

 

守ってあげられなくてゴメンね悠仁

ギュッと抱き締めて謝れば悠仁は力無く頭を左右に振った。いつもそうだ、悠仁に危険が迫っている肝心な時に僕はそこに居なくて守れず後々から聞かされるんだ。

 

大切なのに、守れず何が教師だ。何が恋人だ。

 

「…せんせ、は何も悪くないよ。人いっぱいでぎゅうぎゅうだったから俺も何も出来なかったのが悪いし…」

 

いつもだったら速攻捕まえたンだけど、満員電車の状況じゃ出来なかったし駅に着いて扉が開いたら人に押し流されて誰だが判定出来なかった…。とポツリポツリと話すのを五条は背中を撫でながら黙って聞いていた。

 

「…別に触られた訳じゃないし、股間を押し付けられただけなんだけどさ…」

 

五条先生が好きな今、先生じゃない事が凄く気持ち悪かった。

 

落ち込んだその声音に五条は心を痛めると同時に己を求めた悠仁歓喜の余り体が底からゾクリと震えた。

 

「……僕が、嫌な記憶を上書きしてあげる」

 

一刻も可愛い恋人に嫌な思いをさせた愚か者を抹消したかったけれど今は頭の隅に追いやり五条は抱き締めていた悠仁の柔らかい太股に手を滑らせて内側に向かってつぅー…っとスカートの中にへ指を這わせた。

 

ひくり、と震えた悠仁は潤んだ瞳で五条を見上げたが抵抗することなく、逆に求めるように身を寄せた。

 

その無言の合意に五条は知らず知らず口許に笑みを浮かべさせる。

五条が顔を寄せれば悠仁も顔を上げる、そして、触れるだけのキスをした。

 

 

 

END

 

◆宿虎

 

 

 

五条は肌を刺すような大きな禍々しい気配に後ろを振り返った。

後ろを振り返っても誰かがいる訳ではなかったが五条の後方の方角から今まで祓った呪物の中で遥かに上回る程の大きな呪力の気配が辺りを漂い覆っていた。

 

この大きい気配はもしや…、と一番思い当たって欲しくない予想を頭が過り五条は面倒な事になるなぁとこれから出張先で購入したご当地土産を食べようと楽しみにしていたのに、と食べ損なう事に酷くガッカリした。

 

小さく溜め息を吐いて五条は仕方なく気配を感じたその場所まで"トんだ"。

 

 

 

 

 

「………」

 

随分とまぁ…、若いな。

 

それが五条の第一印象だった。

トんだ先は何年も使われていないだろう廃病院だった。夜遅い事もあってがらんどうとしてる院内はあちこち朽ちていて割れた窓ガラスからすき間風が吹き、どこか不気味な空気を醸し出している。

 

そんな院内の空気をモノともせず、割れた硝子や汚れた包帯などで散乱している待合室の真ん中にそれは立っていた。

 

短髪の少年だ。まだ年若い、10代の。

赤いパーカーにその上から黒の上着を羽織り、黒いスラックスとパーカー同様赤いスニーカー。どこにでも居る普通の男子高校生に見えるのだけどそれを少年と呼ぶには纏う気配は大きくこの世の全てを見てきたような熟年者のような威厳のある顔付きをしていた。

それは五条を振り返ったが何の反応も示さなかった。

 

まるで最初から居ないかのように無視し周りを見回している。

それには五条も呆れたような気持ちになる。

 

 

「両面宿儺、だよね?」

 

何かを探してるような素振りのその少年の背中に五条は問い掛けた。

少年の顔には血塗りのような赤い模様が浮かんでいて、それが何を示しているモノなのか、五条はよく知っている。

両面宿儺。五条のような呪術師が何人も挑み、打ち勝てなかった呪いの最強、そして呪いの王に君臨する特級呪物。

まだ封印されている、筈だったンだけどなぁ…?と腕を上げて構える五条にやっと存在を認識させた宿儺は鬱陶しそうな表情で振り返り、ぞんざいに言った。

 

「オマエに用はない」

 

まるで犬を払うかのような仕草でシッと手首を振る宿儺に五条は目を僅かに見開く。

黒い目隠しでその目元は見えないのだけどえー…?と拍子抜けして僅かに口を開けてしまう。

 

両面宿儺って人間を、況してや己を封印した呪術師という者に対して殺戮を繰り返した呪いだよね?呪術師が目の前に居るのにまるで犬を払うかのようなこの態度…一体何だろう。

 

取り合えず宿儺は合間見える気はないと感じた五条は腕を降ろし両手をポケットに突っ込むといつものように怠そうな姿勢になり僅かに首を傾げる。

 

「んー?確かに両面宿儺のようだけど、なんか思ってたのと違うかな」

 

いつの間に受肉してたのか、預かり知らぬ所だったし。呪いの王ならば自分の存在をアピールするかのようにありったけの呪力を撒き散らし、大量殺戮を繰り返して世界中の呪術師達が応戦している筈なんだけどなぁ…1000年前の宿儺だったら。

 

じろじろと無遠慮に宿儺を眺めてもその視線を気にもせず周りを見回していた宿儺はここには何もなかったのか用は済んだとばかりに歩き出し移動しょうとしていた。

 

「どこ行く気?」

「…俺の大事なモノを探している、邪魔するでない呪術師が」

 

2度目はないぞ。

低い声でギロリと睨み付けらる五条だったけど呪術師最強の五条が怯える筈もなくあっけらかんと「だけど特級呪物の君を放っとく訳にもいかないじゃん?」と言い放つ。

 

自分が呪いの王だって分かってるよね?呪術師も呪いも君を見付けたら最後、どこまでも追い掛けて来るよ。と五条が言うのに己の存在の大きさを理解してるから面倒くさいという表情を隠しもせず宿儺はフンと鼻で嗤った。

 

「ならばお前も着いて来るが良い。今回だけ特別に許してやろう」

 

今まで対峙した呪術師の中でも一際強いであろう暁に特別にな。

厭らしい笑みを浮かべて五条を肩越しに見返した宿儺はそのままフッと消えた。

 

宿儺が消えると五条は顎に指を添え考える素振りを見せると宿儺の出方を考える。

罠、って訳じゃなさそうだね…。

 

ここで考えてもしょうがないか、とわざと五条が辿れるようにか隠されていない気配を辿り五条はまたトんだ。

 

瞬く間に先程まで居た廃病院から五条は間違えることなく宿儺がいる場所まで着いた。

フワリと浮かんだ体を地面に下ろすと踏み締めたのは芝生だった。周りを見渡すと今度はどこかの森の中だった。

 

樹木が覆い茂る森は月の光りさえも届かないのか真っ暗闇だ。

 

暗闇など慣れている五条はどうって事はないが些か不憫に感じる。

こんな所に宿儺は一体何を探しているというのか。五条が着いてきた事を確認した宿儺は何も言わずそのまま歩を進めた。

 

五条も歩き出し宿儺の後を着いていく。

暗い森の奥を少し進んだ先、やっと視界が開けたと思うと目の前には既に信仰の薄れて何十年にもなろう小さな神社が建っていた。

鳥居がなかったから分からなかったけど、どうやら先程まで歩いていた道は神門の参道だったようだ。

昔は綺麗だったであろう拝殿の壁があちこちボロボロに腐っていて今にも崩れそうだ。

しかし構わず拝殿の中に入り、奥にある本殿の中へと迷わず宿儺は入っていく。

 

それに続いた五条はしかし本殿の扉の前で直ぐに立ち止まることとなった。

宿儺が足を止めたのだ。何?と五条が宿儺を上からの見下ろすと宿儺は暗闇が続く奥の部屋を凝視してポツリと溢した。

 

「…ここに居ったか」

 

居た?五条が聞き返す前に宿儺が再び足を進めてみれば、摩訶不思議な事に宿儺が進む度に月の光が差すように真っ暗で見えなかった奥が見えてきた。

 

五条が宿儺の歩む先に視線を向け、目を凝らせば奥の部屋の壁際に朽ちた神社にはある筈もない汚れやシミ一つもない綺麗な色とりどりの着物のベッドの上に、そこに白いパーカーの上から赤い着物を身に纏った少年が横たわっていた。

 

こんな森の奥の廃れた神社の中に少年が居た事にも驚いたが五条が一番に驚いたのはその少年の姿形が宿儺とそっくりだったからだ。

 

「宿儺の器…」

 

あどけない寝顔を晒すその少年の傍らに宿儺が腰を下ろすと花を愛でるかのような優しい手付きで目を閉じたままの少年の頬に指の背を這わせた。

それだけでも驚きものだがまだ驚くには少し早かった。

 

「小僧」

 

うっとりするような声音だった。

下手するとそれは愛を囁いているようにも聞こえた。唖然とする五条を目にも掛けず宿儺は頬を撫でていた手を滑らせて寝息を溢す唇にそっと触れてまた甘く呼び掛ける。

宿儺が探していた大事なものは、少年だった。

 

すると宿儺の呼び掛けに応えるかのように少年が小さく身動きして小さく声を漏らす。

 

「ん…」

 

宿儺と五条が見つめる中で少年はゆっくりと、花開くようにその瞳を開かせた。

ゆらりと視線が揺らめいていたがパチリ、とパズルが合わさったように宿儺と目が合い少年は宿儺を認識すると目元を柔らかくさせて笑みを浮かべた。

 

「す、くな…」

 

目覚めたばかりでまだ頭がボンヤリしてるのだろう、幼子のような舌っ足らずなその口調に宿儺はスッと目を細めた。

 

「小僧」

 

のろりと伸ばされる腕を許し、首に回され引き寄せられるがままに宿儺は少年に抱き締められて、そしてもう離さないように強く抱き返した。

 

嬉しそうに笑う少年とその少年を強く抱き締めている呪いの王というその光景に五条は何と思えば良いのか分からなかった。

 

簡単に言うなれば離れ離れになった恋人同士が再び逢えた喜びを分かち合っている光景なのだが、如何せん…少年も宿儺も男だ。

そして同じ姿形だから二卵性の双子の兄弟のようにも見えるがやはり二人の空気がそれだと認めさせない。

少年の腰に手を回す宿儺の腕は、恋人に対する触れ方だ。少年が宿儺に向ける眼差しは、親しみや親愛じゃなく熱が籠っていた。

 

呪いの王がまさか受肉した少年に心を許していたとは思わなかったし思う筈もなかった。

何故なら宿儺にとって人間とはただの玩具としか思ってなかった筈なのだ。それに先ず驚くべき事は少年が宿儺の指を取り入れたにも関わらず生きていて自我を保っていられている事にだ。

幾つの指を取り込んだのかはまだ正確には分からないがこの少年は1000年生まれてこなかった宿儺の器として一級の逸材だ。

 

だから今目の前に繰り広げられているこの光景に五条はただ立ち尽くすしかなかった。

少年の体を完全に乗っ取り自由に動き回るようだったら五条は何も思うこともなく宿儺と相対して祓うつもりだったが、宿儺は完全に復活した訳ではなく少年がいるから動いて居られる。

なら少年を殺せば簡単な話だが少年は自分の意思をちゃんと持っている、ただの器ではない。宿儺を難なく抑え込められるのだ、人間のままで。

 

だからこそ人間のまま殺せる訳がない。

それにここで殺した所で宿儺の指はまだ幾つも存在している。余程の事がない限り一般の人間があれを手にすることも自分の中に取り入れるような事はないだろうけど万が一にもその人間の体で宿儺が受肉したとしたら今度はそう簡単には行かないだろう。

 

普通の人間が宿儺を取り入れたら先ずもってその精神は跡形もなく確実に死ぬ。そして宿儺に体を乗っ取られて破壊の限りを尽くす。見る限り今の宿儺は少年がいるから表だって動いてないようだけどここで少年を殺してしまえば宿儺を抑えられる者が居なくなる。

 

五条は瞬時に結論を出した。

少年はここで殺さないと。

 

宿儺に強く抱き締められて甘えていた少年はそこでやっと、ずっと沈黙していた五条に気付いた。

 

「誰?」

 

はっきりとしたその声音に五条は意識を少年に向けると少年は穢れを知らない真っ直ぐな目で五条を見返していた。

今どき、珍しいと思いながら笑みを向けると少年もニコッと笑みを返してくれた。

 

根の素直な少年のようだ。

表裏のない無邪気なその笑みは暖かく何故か胸の奥に温もりを与えてくれる、そんな笑顔だった。

この子が、宿儺の器。

 

少年を抱き締めていた宿儺が五条と腕の中の少年が何やら見つめ合っているという状況に眉間に皺を寄せた。

 

「…小僧、」

 

あんな者に構うな、と言わんばかりに宿儺が少年の肩をグイッと掴み五条から隠すように己に引き寄せると少年は五条から宿儺へと視線を移し再度問い掛けた。

 

「あの人は?宿儺の友達?」

 

何の一切の疑いもなく、そう言った少年に五条は堪らず思いきり吹き出した。

 

「ぶはッwww」

 

肩を震わせて堪えきれない笑みを溢す五条とは対称的に宿儺はこれまでかっていうくらいに顔をしかめ苦虫を噛み潰したような表情で少年を見下ろしンな訳があるかと低く凄んでみせた。

 

治まらない笑いを堪えもせず肩を震わす五条と気分が害されたとムッツリと口元をへの字にひん曲げた宿儺を見合わせて少年は困ったように首を傾げた。

 

「王である俺と忌々しい呪術師が友などと…オマエの頭の中は本当にお目出度いな」

 

言葉は辛辣なクセに少年に触れるその手は優しく言動がちぐはぐだ。少年は宿儺のその言葉に目を見開き五条に視線を向けた。

 

「あんた、呪術師なんだ!あ、宿儺祓いに来たの…?」

 

初めて呪術師という者に会ったのだろう、キラキラと目を輝かせて宿儺の肩から身を少し乗り出した少年はしかし次の瞬間には呪術師は呪いを祓う者だと思い出してぎゅっと宿儺の頭を抱えて悲しそうな表情をした。

 

大事なモノを取り上げられると危惧するような子供の仕草に心が動かない訳がない。

五条は違うよ、と首を振り軽い口調で少年に笑いかけた。

 

 

「僕は五条悟。呪術高専っていう学校の1年の担当をしてる教師で宿儺から許されてここに居るんだよ。今は祓うつもりないから安心して」

「五条、先生…?俺は虎杖悠仁、よろしく!」

 

キョトンと目を丸くさせて先生…と呟いていた少年、基虎杖悠仁は自分も名乗った。

祓うつもりはないと聞くや否や良かったー!と宿儺の頭から腕を離し安堵の笑みを浮かべる。

 

どうやら宿儺と虎杖は互いに気を許しているように見える。

恐れる事なく呪いの王に触れる虎杖に五条はまたも驚かされる。宿儺もされるがままに触れさせている、その事がただ信じられなかった。

初対面の五条に対してもまるで長年の付き合いがあるかのような砕けた話し方は気に障ることなく、逆にそれが虎杖の人付き合いの良さが窺い知れる。

全身黒ずくめのの190㎝以上の目元を隠した端から見ても遠くから見ても怪しさしかない五条の言うことを信用し疑う事もしない子供にちょっと心配になってしまったが。

 

「うん、よろしくね。一つ聞きたいんだけど良いかな?」

「いいよ!何?」

 

元気よく手を上げながら何でも聞いて!好みの女の子はジェニファー・ローレンスだよ!と聞いてもいない好みのタイプを言う虎杖に笑いながら五条は口を開いた。

 

「君は宿儺の器で間違いないよね?」

 

答えなど分かってはいるが一応とばかりに五条が聞くと虎杖は大きな目をスッと細めて五条を見返した。

一瞬ピリッとした空気が周りを包んだがそれは瞬く間の事で直ぐに消え、答えの代わりに虎杖はニコッと微笑んだ。

 

それが答えだった。

虎杖悠仁は両面宿儺の器で間違いはないようだ。

 

 

 

 

 

**

 

色とりどりの着物のベッドから起き上がり虎杖は不思議そうに周りをキョロキョロと見渡した。

 

「そう言えば俺、何でここにいるの?」

 

この着物も身に覚えがないんだけど。

着物の袖をフリフリ揺らしながら宿儺に似合う?と首を傾げる虎杖に危機感のない奴め、と呆れたように宿儺が息を吐く。

 

「…俺が次の塒を探し傍に居ない時に低級にでも拐かされたのだろう」

「え?!マジ?!あー…でも確かに宿儺の気配を感じたと思ったらなんか意識無くなったかも」

 

そっかー、俺拐われたのか。道理でこんな所知らないわ。と苦笑いを浮かべるのに呆れてモノも言えないのはこの事か、と宿儺は痛くなる頭を片手で抑えた。

 

「フン…度胸のある痴れ者がいたものだ。それに容易く拐かされるオマエも大馬鹿だな小僧」

 

鼻で嗤い虎杖を見返せば虎杖は、あぁ?!と異論の声を上げた。

 

「ひっでぇ言い様!宿儺が俺一人でも大丈夫だって言ったじゃんかよ!」

 

宿儺自分の言った事も忘れたの?と不満な顔を隠さない虎杖は次の瞬間には表情をコロッと変えて、でもさ俺が拐われても宿儺は絶対見付けてくれるんだろ?と疑いもなくニコッと笑う虎杖に宿儺ははぁ~あ、と重く長い溜め息を吐いた。

呆れた表情だったけれど宿儺は虎杖の言うように必ず虎杖を見付けるのだろう。

それを裏付けるようにニコニコと見つめてくる虎杖に否定の言葉を返す事もなく癪だと言うように渋い顔をしつつ宿儺は虎杖の頬を飽く事なく撫でている。

 

五条はそんな宿儺と虎杖のやり取りを眺めて宿儺がどうやら天然記念物の虎杖に振り回されているのを見てとれて心の中で大変だね~と笑っていた。

 

そんな時、パキッと何かを踏み締める音が夜の静寂に大きく響いた。

 

バッと三者が振り返ると入り口の前に大きな黒い塊がうごうごと蠢きながら立っていた。

何かの合体霊なのだろう、複数のハッキリ聞き取れないような声がブツブツ呟いていて塊が動く度に激痛を感じているのか悲鳴に変わっている。

それを頭に認識した途端に異臭が鼻を擽って虎杖は鼻を押さえ顔をしかめた。

 

「何あれ」

 

ズルッズルッと体を引き摺りながら鈍い動きで近付いて来る呪物に宿儺は嫌悪感を隠しもせずに醜いな、と溢す。

 

「俺からオマエを拐かした低級だな」

「へー」

 

全然宿儺の気配しないじゃんか、何で俺あれに気付かず拐われたんだろ?と頻りに怪訝な表情で首を傾げる虎杖をチラリと見やり宿儺は鼻で嗤った。

 

「小僧」

「ん?」

 

呼び掛ける宿儺に顔を向ければ宿儺はクイっと顎を動かして呪物を示した。

 

「動きを止めて来い」

「おう」

 

呪術師、オマエは手を出すなよ。

宿儺がどう動くのか知りたかったから元から動くつもりのない五条に一応釘を刺して宿儺は孟スピードで走り出す虎杖の背中を見た。

 

虎杖が駆けて来るのに先程まで鈍い動きだった呪物が素早く動き出して虎杖の前に迫る。

腕は存在しないのか迫り来る勢いのままに体当たりでもしょうというのか止まらないのに対し、虎杖は脚に力を入れると飛躍して呪物の背後に回る。

 

ひらりと袖が舞い、踊ってるかのように見える程危なげもなく軽やかに着地した虎杖はしかし、美しく見えた動きと打って変わって振り返り様に裏拳で重い打撃を与えた。

虎杖の拳はコンクリートをも破壊出来る打撃だったのだけど呪物の体はグニャリと柔らかくまるで泥のようで手応えがなかった。

 

手応えがないと判断するや否や虎杖は直ぐ様に体を捻って回し蹴りを繰り出せば呪物の体はグラリと傾いて倒れる。

バタンッ!と大きな音を響かせて倒れた途端に呪物の体からブシュッ!と液状の物が吹き出しそれを避けて虎杖は仰け反って勢いよく床に両手を着くとバク転しながら距離を取った。

 

十分な距離を取れば虎杖は身を低くしていつでも駆け出せるように拳を構える。

 

虎杖の身体能力の高さに五条はへー、あの子の動き完璧だね。身体能力が素晴らしくずば抜けてるし僕が受け持つ生徒の中でもピカ一だよ。と溢せばそれを聞いていた宿儺は笑みを浮かべてみせた。

 

それも当然だ、虎杖は呪いの王である宿儺の器だ。そこら辺にいる人間と一緒にして貰っちゃ困る。

 

隣の空気が変わったのを気取り、五条が横を向くと俺の小僧は可愛いだろ?と言わんばかりのドヤ顔した宿儺がいて五条は思わず孫が可愛くて自慢するお爺ちゃんかよ、とツッ込んでしまった。

 

まぁ、生きた年月を数えれば俺は老い耄れだろうがな、小僧のそんなモンに収まる俺ではないわ。と返し宿儺はスッと前に出る。

宿儺と五条が話していた数分の間でいつの間に虎杖は呪物の動き封じていたのか、うごうごともがく呪物の上に乗っかって足止めしていた。

 

前に歩み出た宿儺に視線を向け、虎杖は呪物の上から飛び去った。

 

「フン…わざわざ俺が手を下した事を誇るが良いぞ低級が」 

 

よろりと起き出そうとする呪物の前に立ち、俺のモノを勝手に拐かした罪は重いぞ。

地を這うような重い声音で暗い中でもぞくりと底冷えする紅く光る鋭い眼光が呪物を見下ろす。

虎杖と同じ顔でも宿儺が浮かべる表情は酷薄で冷徹だ。

その身に纏う呪力はまだ全ての指を揃えていないにも関わらず余りにも大き過ぎて呪物はブルブルと震え上がる。

身の程も知らずに持ち去ったモノがどれだけ宿儺にとって大切なものなのか、分かっていなかったが呪物の最後だったのだ。

 

宿儺が無造作に右手の人差し指と中指をクイっと振り払う仕草をすれば震えながらもやっと起き上がった呪物だったのに、何をされたのかも理解する事なく3枚に下ろされ、辺りを血飛沫が派手に舞った。

 

それとコレは返して貰うぞ。

 

肉片が床に落ちる前に呪物の心臓部辺りだったろう肉片を掴み肉を掻き分けて中から真っ黒な血にまみれたモノを取り出した。

用のなくなった肉片を落とすとビチャッと叩き付けられた音と共に床が赤黒く染まり、肉片となった呪物には当に興味が失せていて取り出したモノに視線を下ろせばそれは宿儺の指だった。

 

宿儺の指を取り込んでいながら呪物が弱く呆気なく死滅したのはこの指は気配を消すのに長けていてどちらかというと隠れるのを得意としてるからだ。

だから虎杖は気付く事もなく拐われたのだろう。ただ何本かの指を取り込んでいる虎杖だから僅かに宿儺の気配を感じてはいたみたいだったが防ぐ事までは出来なかったようだ。

 

血にまみれた指をグイグイと服で擦って綺麗にすれば宿儺は顔を上げる。

 

「さて…小僧」

「ん」

 

呪いを死滅させた時と同様に指をクイクイッと曲げて虎杖を呼び寄せた宿儺だったが虎杖が3枚になる事はなかった。

それは愛し子を呼び寄せるだけの合図で心得ている虎杖はトタトタと宿儺の傍へ戻り、口元に寄せられた低級の呪物が取り込んでいた宿儺の指をパクっと躊躇いなく口に入れゴックンと飲み込んで見せた。

 

そのまま宿儺の指に甘く噛み付くと笑いながら宿儺がほれ、それは違うぞ。俺の指はもう食ろうただろ、と嗜める。

 

甘く叱るそれは本気で怒ってる訳じゃないと分かっている虎杖は嬉しそうに、でもこっちの方が温かくて美味しいよ?と紅い目を見つめた。

じゃれ合いの延長戦で二人はくすくす笑いながら身を寄せ合う。

 

 

足元には呪物の肉片が散らばっている状況でそれは端からみれば悲惨な現状なのだが宿儺と虎杖はそんな中で顔を寄せ合って甘い雰囲気を醸し出しているというのはどこか異質に見える五条だ。

宿儺が平気なのは当然の事だろうが普通ならば人間として嫌悪感を抱きそうなものなのに平然としている虎杖は、イカれているのだろう。

だから宿儺の指を、視覚的にも拒絶する人間の指を躊躇なく口に入れられるのだろう。

 

 

一連の流れを傍観してた五条はその場から動かずに二人に声を掛けた。

 

「ね、じゃれ合ってる所で悪いンだけど指を集めて何をする気なの?」

 

つい流れで黙って見ちゃってたけど、本当なら指は僕が回収しないといけないんだよね?

と軽い調子で言う五条は本当に呪術師なのだろうか、厳重保管に値する特級呪物を一ミリも回収しょうとする動きはなかった。

 

問い掛けられた二人は身を寄せ合ったまま五条を振り返る。

同じ顔の異なる四つの目が自分に注がれるのにちょっと面白いね、と思っていれば宿儺の肩にコトリ、と頭を凭れさせて虎杖が口を開いた。

 

「二人で消えること」

 

それは一体どういう意味で?

五条は一瞬静止して2秒の間に色々頭の中に巡らせて考えてみたが結果が分からず結局訊ねる事にした。

 

「消える…もしかして死ぬ気?」

 

指を集めて呪いに寄る世界降伏を企んでるかと思ってたが虎杖の人の良さを思えばそんな事を許す筈もなかった。

 

「ん?んーまぁ、そうなのかな?宿儺の指を全部集めて宿儺の力が戻ったら二人だけの場所に行くんだ。宿儺ならそれが出来るから」

 

消えるという事は存在自体を消す、すなわち死と同じだ。

虎杖はまぁ、死ぬって感じなのかな?と死に対しての恐れも抵抗もなく笑って見せた。

 

でも今は宿儺の力は散り散りになってるから今は出来ない、だから指を集めてるの。

 

「そっか。宿儺はそれで納得したんだ?」 

 

どういう経緯で虎杖が宿儺の器となり、宿儺から愛される事となったかは知らないけれど虎杖は誰の協力も得ずに人知れず宿儺の指を集めて、人知れずに宿儺と心中して死ぬつもりだったのだろう。

 

それはまだ10代の虎杖には余りにも寂しい最期だ。

人一倍正義感の強い虎杖が特級呪物の宿儺が消えれば無惨に殺される人が少しでもなくなればと、思ったのだろうが呪いの王は本当にそれで納得出来たのか、五条は不思議に思えた。

 

「俺は長く生きた。今更この世を血の海に変えた所で面白くも何ともない、当に飽きた」

 

ならば後生は小僧と二人で隠居暮らしでもするさ、なればこそ生前のような力が居る、だから指を集める。

 

己の肩に凭れる虎杖の頭をゆるりと撫でて憮然と宿儺は五条の問い掛けに答えた。

強過ぎる力は時に面倒な物で、敵う者も居なくなればつまらないものだぞ、と呪術師最強の五条にも痛い程身に覚えのある経験を宿儺は口にした。

昔の呪術師や人達からすれば飽きたの一言で済まされるなんて堪ったものじゃないが今の世には逆に飽きてくれてありがとう、って喜ぶしかない。

 

 

 

***

 

宿儺と虎杖が指を集めていた理由は理解した。

虎杖が傍にいる限り、宿儺が世に混乱を招く事もないだろう事も知った。

ならば五条がやるべき事は一つだけだ、と五条は二人に微笑み掛けながら持ち掛けた。

 

「ね、呪術高専に来る気はない?基礎から呪力の使い方を教えてあげる」

「え?」

「…呪術師…」

 

険しい顔を向ける宿儺に五条はまぁまぁ、聞いてよと宿儺に笑いかける。

 

「そう睨むなよ宿儺。だってその子、素の力は大抵の人間よりかは強いけど呪い相手では弱いでしょ」

 

さっきの動きだけで直ぐに見抜いたらしい五条に宿儺は口を閉じる。

虎杖は人間離れした素晴らしい身体能力を持っているけど、それは人間相手だった場合の話だ。

元々呪力のない人間だったから宿儺の指を取り込んで体に宿儺の呪力が僅かに流れているが呪力の使い方を理解していないから扱えておらず呪いを祓えない。

だから宿儺が止めを刺した。

 

「………」

「何もその子を囲って宿儺を祓おうとしてる訳じゃないよ?僕にもその子の夢を叶える手伝いをさせて欲しいだけ。それに今回のように宿儺の力に惹かれて連れ去られてしまうかもしれないじゃない、その時の対応とかも教えたいし」

「…して、そんな面倒事を抱え込んでオマエに何の得があるのだ呪術師」

 

此方に得があれどそちらには損しかないのでは?力を貸すつもりは一つもないぞと訝しげに五条を睨み付ける宿儺に顎に指を当てながら答える。

 

「んー、強いて言えば可愛い教え子が増える事と、その子と宿儺が居る事でこれからは簡単に指が見つけられて呪いに寄る被害が多少は収まる、事かな。どー?」

 

大丈夫安心して、屋根付きベッド付きの3食ありのちゃんとした所に部屋も用意するしやってくれるのであれば呪いを祓う任務にはちゃんと給料も支給されるよ。と前半の条件以外は虎杖と宿儺にとってはとても高条件を付け足した。

 

「宿儺…」

「…好きにすると良い」

 

どうしょう、と宿儺に顔を向けた虎杖に宿儺は己は平気でも確かに生身の虎杖に何時までも野宿はさせられんし食べるに移動するにも金はいると分かっていたから強く拒否はしないが己じゃなく虎杖に選ばせる為にそっけなく返した。

そっけない返しだったが虎杖にはそれが五条に着いて行くのに悪い事はないと暗に含まれていると心得て決心する。

本当に駄目だった場合は宿儺は虎杖に選ばせる事もしないのだ。

 

「え、と…うん、五条先生に着いてく。ぶっちゃけ言うとこれから寒くなる時期に宿無しは辛かったからちゃんとした所で眠りたい!」

 

宿儺がいるから余り寒くはなかったけど二人で柔らかいベッドに眠りたいもんね、と横にいる宿儺に顔を向けると五条はえ?と声を溢した。

今とんでもない衝撃的な事を聞いた気がする。

 

「…宿儺と一緒に寝てるの?」

「うん?俺体温高いから凄く温かいんだって!」

 

首を傾げて宿儺が言うには子供体温だって!だから二人でくっ付けば全然寒くないんだぜ?と男二人が一緒に寝てる事自体に疑問に思ってなく誇らしそうに胸を張る虎杖に五条はふーん。と短く相槌を返すと両手を広げた。

 

「僕も試してみていい?」

 

ここ暗いからちょっと僕寒いんだよね?とへらりと宣う五条に虎杖はへっ?とすっとんきょうな声を上げる傍ら、宿儺は青筋を浮かべて虎杖を五条から避けるように背に庇った。

瞳孔を開きゴミを見るような視線で五条を睨み付ける。

 

「オイ呪術師。殺されたいか」

 

今にも喉元を噛み千切られそうな重々しい宿儺の雰囲気にも五条はケロッと平然としており、加えてブーブーと口を尖らせてみせた。

可愛い子と毎晩添い寝だなんて、羨ましくズルいではないか!と異議を唱える。

 

「良いじゃん、減るもんじゃないでしょ」

「…忌々しい呪術師がそんなに死にたいなら今ここで息の根を止めてやろう」

「宿儺ってケチだね」

 

狭量な男は嫌われるよー?とからかえば宿儺はハッ!と鼻で嗤った。

 

「喧しい。これは俺だけのモノだ」

 

バチバチと宿儺と五条の間に火花が散り、端から見ても重苦しい空気なのだが仲良しだねー!って二人を見て笑う虎杖。

二人は揃って仲良くはないよ?仲良くない!!とハモりながら虎杖を振り返るものだから、虎杖はケラケラと楽しそうに笑うのだった。

 

いがみ合っていた宿儺と五条は虎杖のその笑顔に険悪な雰囲気を持続出来ず仕方なさそうに溜め息を吐いたり、肩を竦めてみせた。

 

「ま、取り合えず呪術高専に歓迎するよ!」

 

 

END

 

 

 

 

書きたい所だけを書いたから色々補足か必要な所があるかもですけど、何となく読んで頂ければ幸いです^^;

 

後日、挿絵が多分入ります。