mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆夏(高土)

 

 

高杉は人工的な風が嫌いだった。

だから今では当たり前に一般家庭に置かれているエアコンも、昔から愛用されてきたが旧いとされる扇風機も気に入らなかった。

 

扇風機は風が強すぎて最初は涼しくて良いと思うが少しすると強過ぎる風に髪を乱され、音を騒音と感じて鬱陶しくなる。

エアコンは送られてくる風が冷た過ぎて涼しくなるよりも冷凍庫にいるような肌寒さであっという間に風邪を引いてしまいそうになり、やはり高杉は人工的に作られたものが嫌いだった。

 

だから高杉の部屋にはエアコンはない。

辛うじて扇風機はあるが滅多に使われる事はなく、窓を全開にして風通しを良くしたくらいのものだった。

 

茹だるような暑さでも高杉は暑いと口にしてても扇風機を使わない。

 

うちわを片手に風を自分に送りながら、縁側に座り外の景色を眺めた。

大きく前を開いた白いシャツから覗く肌には水玉になった汗が滲んで滑る。

傍らに置いてあった水の汗が落ちる麦茶が注がれたグラスの中では大きめに作った氷が小さくなってカランッと高い音を立て泳いだ。

 

蝉のミーンミーンと雌を求めて求愛の鳴く声が何処かしこから聞こえるのにやっと夏が来たのだと知らせてくれる。

 

 

「高杉」

 

部屋の襖が開けられ、そこには土方が額や首筋に汗を滲ませながら入ってきた。

高杉は外から視線を中に入ってきた土方に移した。

 

土方は徐に服を掴むとパタパタと中に風を送り込むように前後させながら高杉に近付く。

 

「こんなクソ暑いのに扇風機すらも動かしてねぇのかよ」

 

「エアコンも扇風機と嫌いなんでな」

 

俺は暑くて死にそうなんだが?と高杉を見下ろし、その傍らに座って高杉の傍らにある麦茶を断りもなしに一気に仰いだ。

土方が一息ついたのを見届けてから高杉は考える素振りを見せると、扇風機別につけて良いぜ?と笑った。

 

「…あ?」

 

扇風機嫌いじゃなかったのかよ、と訝しげに見返してくる土方に高杉は余計に冷えた体はお前が暖めてくれンのだろォ?とグラスの冷たさが残った指に唇を落として返した。

 

目を見開いた土方だったがフッと笑うと捕らわれた指先に力を込めてその手を握った。

 

「上等だよ」

 

 

 

END

(嫌いなものでもお前が居れば問題ない)

ただ美琴がエアコンと扇風機が嫌いなだけの話でした…w

◆高土(ショタ方さんの続き)

 

 

「……晋助、これは一体…」

 

高杉はあの宿で一晩だけ寝泊まりして朝一に起きると幼くなった土方を連れて鬼兵隊のアジトである船に戻ってきた。

船に戻って自室に戻ろうとした時に丁度通り掛かった万斉と鉢会い、昨日と同様に片腕で土方を抱えている首領を見て万斉は部屋で作詞をしつつ楽しもうと持っていた熱燗を落として固まった。

 

その後にガラスの割れる音に反応してまた子もやってきて子供を抱えている高杉を見て悲鳴を上げてわなわなと震え出すのに我に返った万斉が押さえつけて高杉の部屋にお邪魔して冒頭の台詞に繋がる。

 

万斉は気が付くとふらっといつの間にか消える高杉に頭を悩ませて困っていたが、まさか子供を連れて帰って来るなんて、普通は思わないだろう。

一体何が、と頭を抱える万斉だったが当のその首領は知らぬフリで煙管を吹かしている。

 

 

「し、晋助様ぁ~!!!その子供どこの女に孕ませたっスかぁ!!」

 

また子が涙ぐんで高杉の傍らに駆け寄り眠いのか胡座をかいた高杉の足の間に陣取って欠伸を一つ溢して目を擦る子供を指差して声を張り上げた。

万斉とまた子とは初めて会うだろうに土方は怖がる素振りも警戒する素振りも見せてない。真選組の連中には逃げ出す程に警戒していたのに、高杉が傍に居るからだろうか、今にも目を閉じて眠りそうだ。

 

「勘違いするな。これは土方十四郎だ」

 

目を擦る手を止めさせて向かい合わせになるように小さな体を抱き上げて体勢を変えて凭れさせると眠気のせいか体温の高い背中をゆっくり撫でてやる。

すると眠りを誘う高杉のその手に土方はうとうとと目を閉じた。

 

その一連を眺めていた万斉とまた子は子供の正体がまさか真選組土方十四郎だった事よりも高杉が子供をあやした事によっぽど驚いて目を見開いている。

 

「……え?」

「……は、?」

 

また子と万斉は余りの驚きに開いた口が塞がらなかった。

そんな二人を高杉は放っておき、眠ってしまった土方をあやしていた手を離すと今気付いたとばかりに吹かしていた煙管を懐に仕舞う。

気にする必要はないだろうけど一応腕の中にいるのは子供なのだし、何かしら影響を受けてしまったら面倒くさい。

 

「……その子供が土方十四郎だとして、それが何故お主と一緒に居るのだ」

「そうっスよ!土方と言えば真選組副長、アタシらの敵じゃないっスか!!」

「もし真選組土方十四郎がここに居ると知れば総攻撃を受ける事になるでござる。どうするつもりだ、晋助」

 

万斉が神妙な顔持ちで切り出すのにまた子も事の重大さと総攻撃を受けるアジトを想像して表情が強張って固くなる。

しかしそんな緊張を走らす二人をいざ知らず高杉はあぁ、そんな事か。とあっさりとした返事を返す。

 

真選組には既に知れている。コイツを持ち帰ったのは真選組の前だったからな」

 

今度こそ万斉とまた子は動きを止めて息も忘れたかのように固まった。

 

その後、お腹が空いたのかぐきゅ~と可愛らしい音を立てて起きた土方が高杉を見上げるのに気付き、小一時間くらい固まっていた万斉を蹴飛ばして飯を持ってくるように命じる高杉。

万斉は何十年分も老けたかのように疲れた顔で部屋を後にするのだけど高杉はそんな万斉も苦労も気にしていない。

 

また子と言えば万斉が蹴飛ばされたのに巻き込まれて床に転がったがそのおかけで我に返り意識が戻ったが高杉の命令が第一なまた子には高杉が殺さず土方を連れて帰って来たということは面倒を見るという事で間違いないだろうと一人納得した。

 

だったらまた子は晋助様に従うのみっス!!

 

羨ましい限りで高杉の膝で寛ぐ土方を見下ろしてまた子は意気込む。

そんなまた子を土方がじぃっと見上げていた事を膝に乗せている高杉しか分からなかった。

 

数分もすれば万斉が土方の為に子供用の軽い朝ご飯と高杉の為に一つ酒を持ってきた。

土方を膝から降ろし、台の前に座らせると高杉はまた子がお猪口に注いだ酒を口に運ぶ。

けれど土方は箸を持つこともなく目の前の料理をじっと見つめている事に気付いた高杉が声を掛ける。

 

「どうした。きらいなもんでも入ってたか?」

 

土方は高杉を振り返って見上げると首を横に振り、今度は万斉を見上げてぼそっとマヨネーズ…と溢した。

万斉はマヨネーズ?と首を傾げたが土方が望む通りにマヨネーズを厨房から持ってくると土方に手渡した。

すると土方は嬉しそうに、あろうことかマヨネーズを丸々一本をぶっちゅ~っと何の迷いもなく目の前の料理に見えなくなるまで掛けたのである。

 

万斉とまた子はピシッと固まった。

流石の高杉も多少驚いたのか口に運ぼうとしていたお猪口を持つ手が止まる。

 

「ギャァアアア!!ちょっ、アンタ何やってるっスかぁ?!!何の嫌がらせっスか!!」

「そんなにマヨネーズを掛けると体に悪いでござるよ」

「万斉先輩それズレてますっス!!」

 

万斉とまた子が土方の傍で騒いでるのに対し、高杉は可哀想になァ…真選組での仕事で頭がやられて味覚までも可笑しくなっちまったンだなァ、と土方に対し全力で哀れんでいた。

攘夷時代の時は戦火が激しくてまともに食事にもありつけず豚の餌でも平気で食べれる高杉であったが流石にマヨネーズの海は未知の世界だったようだ。

 

「良い。好きに食べさせてやれ」

 

高杉に言われて万斉とまた子はぴたりと夫婦漫才のようなコントを止め、大人しくなる。

土方は高杉を見上げてこてっと首を傾げる。

 

「好きなんだろ。構わずに食べろ」

 

土方は高杉に言われるがままに嬉しそうにマヨネーズの海になってしまった目の前の料理にありつけた。

にこにことマヨネーズの味だけであろう物を頬張る土方を見下ろして高杉は小さく笑みを浮かべた。こんな可笑しなものを食べていてよくもまぁ真選組の副長に治まっているのだからひどく可笑しい。

 

万斉は顔に出さないものの、それは美味しいんでござるか?とありありと顔に書いており、また子は気持ち悪いのか明後日の方向に顔を向けて鼻を押さえている。マヨネーズの酸っぱい匂いだけでダメみたいだ。

 

止めていた手を動かし酒を再び呑み始めると不意に土方が高杉を振り返る。

ん?と見下ろすと土方は小さい腕を伸ばして高杉に向けてマヨネーズだらけになってしまった哀れな卵焼きだったものを差し出したのだ。

 

「……あ?」

 

片眉を上げて高杉が怪訝な顔をしていると土方が尚も腕を突っ張って高杉の口に目掛けて手を伸ばすものだから土方の意図に気付き困惑した。

別に食べたい訳ではなかったのだが。

 

「それはおめェのだろ?俺ァ良いから食えよ」

 

首を振ってやんわり断る高杉に土方は真っ直ぐな目で返した。

 

「何で?食べないと動けなくて死ぬ」

 

きょとり、と何の躊躇いもなく死を口にする子供に高杉や万斉たちは目を見開く。

 

幼くなったからと云って純粋無垢な子供とまでは戻ってないらしい。この子供はちゃんと自分の置かれている状況、居る場所の危険性が死との隣り合わせで立っている事を理解している。

だから食べないと体力を失い、動けなくなり弱った隙に斬られるという事を分かっている。

 

「ククッ……そうだなァ…動けねェと困るもんなァ」

 

え?!晋助様食べるんスか?!!!と身を屈めた高杉を見てまた子が悲鳴を上げる。

土方が持つスプーンいっぱいのマヨネーズを口に入れて高杉は甘酸っぱい酸味のそれを咀嚼した。

やはりほぼマヨネーズだったが食べれない事はない。

 

迷うことなく咀嚼した高杉に万斉とまた子はもう何も言えなかった。

今日は驚かされる事ばかりで一々リアクションを起こすのも疲れてしまった。

土方は食べた高杉を確認して嬉しそうに笑って子供らしく頬を赤く染めて微笑んだ。

 

自分の口に運んで食べると今度は高杉の口許に運ぶ、その一連の流れを繰り返して土方は自分の食事をしながら高杉にも食べさせていた。

高杉は特に拒否せず黙って土方が口許に運ぶものをぱくっと素直に口を開けて咀嚼する。

 

あぁ…晋助様が犬の餌を食べている…!!とまた子は青褪めた顔でオロオロと止めさせようか、でも黙っている晋助様を止めて良いのか分からず途方に暮れた。

 

図らずも土方に翻弄される高杉の部下たちであった。

 

 

「それで晋助、土方をどうするつもりで此処に?」

「どうもしねェよ。コイツに聞け」

 

食べ終わって満足したのか土方は高杉の首に腕を回して抱き付きながら頬を緩めている。

それは丸で親の傍で安心仕切った子供だ。

好きにさせながら高杉は万斉の問い掛けに淡々と応えつつも、その頭の中には懐に仕舞った煙管を吸いたいと別の事を考えていた。

 

万斉が高杉から視線を外して土方を見ると土方は高杉と引き離されるとでも思ったのか首に腕を回したまま高杉の背中に隠れて顔を半分だけ覗かせると万斉を吊り目な円らな蒼い目でジトッと見つめる。

それに苦笑いするしかなかった。

 

「いや、拙者何もせぬよ…」

 

悪の総代将とも言える高杉がまさかここまで子供に好かれるとは思わなかった。

まぁこの子供に限ってだと思うのだが…。

 

しかしこのままこの子供を此処に置いて良いのか万斉は些か困った。

この子供がただのそこら辺に居る子供だったら別に何の問題もないのだけれどこの子供は敵対組織の副長。真選組の頭とも言える立場のこの子供を奪還しょうと真選組は躍起になって此処を探すだろう。

 

簡単に見つかるつもりはないがこれまで以上に慎重に動かざるを得ないだろう。

縛られるのが嫌いな高杉の気儘な散歩も止めさせないといけないのだろうが…それを聞くような高杉ならこっちも苦労はしない。

 

何者にも捕らわれない高杉だからこそ、今まで着いてきたのだ。それは今の危機的状況でも揺るぎはしない。

 

まぁ、何とかなるのでござろう。

万斉はあっさりと考えるのを放棄して携帯カメラで高杉が崩れ落ちそうな土方を片手で支えてやる姿を写メって鍵付きフォルダに保存し待受にしてから冷えないように高杉の肩に羽織を掛けた。

 

 

 

END

◆高杉の独白。 (短い)

 

 


土方の肩を掴み、高杉はその顔を見上げた。
こんな時は自分が少々背が低い事に感謝した。
顔を隠そうとしても直ぐに阻止してその顔を拝めるから。

 

泣きそうな顔をしている。

 

そう気付いたときには高杉は土方を抱き締めていた。
土方が目を見開いて驚いているがそんなの気にしていられる訳がない。

想い人が涙している。
ただ突っ立って黙ってるなんて腰抜けのすることだろ。

相容れないからこそ、高杉はひどくこの男が愛しい。
手に入らないと言われたら何があっても手にしたいと思うのが道理。

 

あぁ…連れ去ってしまいてェな…。


なァ、お前が泣いていた理由が俺だと自惚れていいか…?

 

 

END

◆渇望1(高土♀)

※現パロ

※高杉はとある会社の社長でにょた土方さんはとある会社の副社長

※先の話では沖神の描写が御座います

 

 

 

 

 

 

 都内のホテルで開かれたお披露目パーティー。 

きらびやかに会場ホールを照らすシャンデリアの光を受けてシャンパングラスを片手に持ち笑顔で人と話す女たちのドレスを際立たせている。男たちはそんな女たちの傍らに立ちエスコートしている。

 

一通り何十人もの役人との挨拶を済ませて高杉は一息着くために桂と坂本に一休憩してくると伝えてからホールの中を後にして人の居ないバルコニーへと赴く。その背中を万斉が追い掛ける。

 

余り人付き合いが得意ではない高杉は愛想笑いばかり浮かべていた所為か知らず知らず針積めていたのか一人になって気分が落ち着いた気がした。

 

さっきまでは仕事の事ばかりを考えていたのだが一人になって他の事を考える暇が出来るとずっと頭から離れない人が居た。

会場の広いホールの中でも一際自分の目を惹き付けて離さなかった。

仕事の対話をしてた時も時折視界に入ってきて視線が自然と寄せられた。気の所為ではないと思うが何回も目が合っていた。

近付こうにも仕事で来てる為まだ会わなくちゃいけない重要な人物が多くてそれ所ではなかった。

こんな時に何故自分が社長をやっているのかと投げ出したくなる。

 

そうこうしてる内に見失ってしまったのだ。

酷く残念な気持ちになったがあれだけ自分の視線を奪ったのだ。他の人間も奪われたに違いない筈だから誰かに聞けばどこの人間かは簡単に知れるだろうとその場は諦めた。

 

こんなにも一人の人間を気になったのは初めてなのだ。 

簡単に諦めるような高杉ではない。

 

「晋助、待て。そこだとホールから遠い。どこへ行く?」

「休憩」 

 

万斉の制止の声も気に止めずに高杉はその場を離れる。

言うことを聞かない高杉に万斉は仕方なそうにすると黙ってその背中を見送った。

共に行きたかったがまだやることがあったし高杉が一人になりたそうにしていたからそっとしておく事にしたのだ。

 

 

 

***

 

 ・side土方

 

どこもかしこも騒がしい…。

愛想笑いに頬が若干痛くなりながら土方がそう思っていた。

 

 今日このパーティに出たのは新しく立て直したS.S.K(真選組)会社の紹介、それと社長のお披露目を合わせて来たのだがその肝心の社長である近藤が挨拶を少し済ませてから以前に一目惚れしたと騒いでいた女を追い掛けている。

 

何の為にこんなパーティに出てるんだと呆れた土方だったが近藤の事になると甘くなるから好きにさせていた。

 

その代わりといって少し休んでくるといってホールから抜け出した。

 

濃い碧のドレスが歩き難くて幾度か舌打ちしながらバルコニーに向かう。

あそこなら人もいないだろうし、一服出来る筈だ。

ポーチから煙草を取り出し一本箱の底を軽く押し出して一服する準備をしながらバルコニーに足を踏み入れようとした時、既に先人が居ると気付いた土方はなんだ、先客がいたか…じゃあ別の所に行くか。と溜め息を吐きながら踵を変えそうとしたがその後ろ姿に見覚えがあり、足を止めた。

 

見間違える筈がない、その後ろ姿は挨拶回りの時に何度も目で追い掛けた男の背中だ。

 

 風に揺れて紫紺の髪が靡くその様が頭に焼き付く。まるで映画のワンシーンのように靡く髪や指に挟んだ煙草を口元に運ぶ動きがスローモーションに流れて見える。

 

綺麗な光景だった。

 

 無意識の内に足を踏み出していたのか、カツッとヒールの甲高い音が響いてしまった。

男に近付きたいと、触れたいと思ってしまった。

人の気配に気付いて男が振り返ってくる。

 

そして、僅かに目を見開いた。

 

 

何故ならそこには高杉がずっと目で追い掛けていた女が立っているからだ。

蒼の瞳が濡れたようにキラキラしており月の光を受けて滑らかな白い肌が青白く発光してるようで眩い。

 

二人は一歩も踏み出さず、お互いをじっと見つめた。互いの姿を相手の瞳で見つめながらまるで腹の探り合いでもするように相手の瞳の奥を覗こうとしている。

しかしそんな永遠とも、一瞬ともいえる時間は高杉が動いた事によって終止符を打った。

 

高杉が掌を上にして手を伸ばしたからだ。

土方はその手を見つめ、高杉を見るとその表情は笑みを浮かべていた。

土方は無意識に踏み出していた足を今度は自分の意思で動かし、高杉の手に自分の手を乗せて一つしか開かれてない碧の瞳を見上げた。

 

土方が深い蒼の瞳を持っているとすれば、高杉の碧の瞳は透き通っている。

ずっと覗き込まれたら自分を暴かれるようで土方はぞくっと快感に似た畏怖を感じた。

 

けれどそれで本望だと思っている。

二人は互いに見つめ合い、磁石と磁石が引き寄せ合うように顔を寄せてキスをした。

 

触れ合うキスを一度。

一度顔を離し、互いの顔を見つめ何かを確認するとまた顔を寄せた。
そして今度は触れるだけのキスではなく次第に激しく貪り食らうように応酬する。

 

「…んッ」

 

土方の細い腰に腕を回して引き寄せ、高杉の首に右手を回して髪の間に指を滑らし左手を背中に回して添える。

端から見たらそれは互いを逃がさないように拘束してるように見えた。

 

奪うような激しいキスを繰り広げてから数分、やっと顔を離すと二人は弾む息を整え高杉が今日泊まる筈の最上階に取ってあったスイートルームまで移動する。

 

このまま離れる、そんな選択肢は最初から二人にはなかった。 

 

 

◆嫉妬(高土)

 

 

「ッ…痛ェ…」

 

高杉は切れた口端に滲んだ血を指で拭いながら顔をしかめた。

 

天照院高校の番長である朧から受けた打撃は凄まじかったし身体のあちこちが鈍い痛みで軋んでいる。

 

あちこち喧嘩を吹っ掛けた覚えはないが何故こうも色んな奴等から狙われるのか分からない。

弱ェ奴等なんか眼中にねェし最強という称号の為に他校と殺り合うのにも興味がないしどうでも良い。

夜兎工業高校の神威にも因縁付けられてあわよくばと狙われる。(今はこっちの喧嘩を勝手に買って周りを跳び跳ねているが。)

 

全く、随分と恨まれたもんだなァ…。

 

 

「全くだ。お前は何でそう色んな奴から狙われるんだ…」

 

ソファで重い溜め息を吐く高杉の後ろからマグカップを2つ両手に持って土方が現れた。

高杉の隣に腰を掛けてコーヒーが淹れられたマグカップをテーブルに置いて拗ねたように眉間にシワを寄せている。

 

土方は何でもかんでも一人で背負おうとする高杉に腹を立てていた。

助けを乞うのが嫌い、周りからの干渉を受けるのを良しとしないのは分かっているつもりだが今回の事に関してはそうも言ってられない。天照院高校の奴らの相手は一人だけで出来る筈もないのに勝手に一人で行ってしまった高杉に土方は協力くらいさせても良いだろうが、と心の中でごちる。本当は止めるつもりだったがそれは出来ないと分かっていた。

 

朧に好き勝手殴られる高杉を見て本当に気分が悪かった。踏み出した足を銀八が止めなかったら高杉を奪うつもりだったのに。堂々と告げる気はないが自分の男をこんな傷だらけにしてくれて頭に来るというもんだ。

 

ムスッと拗ねている土方に高杉はくすりと小さく笑い、土方の肩に凭れた。

 

「好きで狙われてる訳じゃねぇンだけどな?」

 

見上げてくる高杉を横目に見下ろし今度は土方が溜め息を付いた。

朧ではなく最後に銀八が殴った僅かにまだ腫れている頬を撫でて土方は高杉にすり寄った。

 

「お前は本当…色んな奴にモテ過ぎて俺が見張ってないと駄目だな」

 

神威にも朧にも…銀八にも高杉は渡さねェ。

 

土方は頭に高杉を付け狙う3人の顔を浮かべながら固い決意を目に宿らせた。

そんな土方を見つめて高杉は目をスッと細めると顔を近付けた。

 

気付いた土方が同じように顔を寄せると二人は触れるだけのキスをして目を合わせふっと微笑んだ。

 

 

 

END

 

◆宇善♀

 

 

 

「お前、そんなに男に貢いで騙されて…懲りない訳?」

 

落とされた冷ややかな声に青空に良く映える黄色の髪が動くにつれて揺れた。

見下ろす深い色の目に負けじと茶色の丸い目が見上げた。

 

「…先生には関係ないじゃないですか」

 

「お前、周りになんて噂されてるのか知ってるのかよ」

 

そんなの、知ってるよ。

 

善逸はフイっと視線を逸らして屋上から見える景色をじっと見下ろした。

 

世界はこんなにも鮮やかで綺麗なのに、何でウチはこんなにみすぼらしいんだろう…。

周りが噂してるって、私が誰にでも足を開くビッチ、でしょ。まぁ、仕方ないよね、私ってば一言好きって言われたらそれを信じて何人の男と付き合った事か知れない。

 

でも仕方ないじゃないか。

私は孤児で物心ついたときから親が居ないンだ。聞いた話に寄ると何か恨まれて殺されたらしいからもしかして私まで殺されてしまうかもじゃん。そうなる前に、人並みの幸せを送りたいんだよ。だから好きって言われれば信じてお金が必要だからと有り金全部持ってかれて騙されても好きって言われると嬉しかった。

でもこの前付き合ってた彼氏がどうやらヤバい所でお金を借りてたらしくてその保証人に私の名前を書いたらしい。

何も知らなかった私は学校の帰りで引き取ってくれたお爺ちゃんの家に帰ろうとしてたら後ろから声を掛けられて黒いスーツにガタイの良い男達から彼氏の借金を返せと脅された。

 

でも、彼氏に有り金全部持ってかれた私がお金持ってる訳じゃないしましてやその借金の額が100万以上で到底払える訳じゃない。

 

払えないと言うとじゃあお前の体で払ってもらおうか、って連れ去られそうになったのを、輩先生こと美術教師の宇髄先生が助けてくれたのだ。

 

証人した訳でもねぇし何も知らなかった訳だからその借金をコイツが返す必要はない、とスーツの男達を追い払ってくれたのだ。

 

それはもう怖かったわ。

何で私がこんな目に合うの?!ただ幸せになりたいだけなのに不幸過ぎない?!!って泣き喚いて宇髄先生を困らせたのは記憶に新しい。

でもこの人いつも意味もなく意地悪してくるから好きじゃない。顔もくそイケメンで女にキャーキャー言われるのが当たり前な顔してるのも気に入らなかった。こんな私の事もただのそこら辺にいる子供と思ってるんだろうなと思ってたしそれも別にどうでもいいけど助けてくれたのは本当に感謝した。

 

あんな怖い思いをしたのだから彼氏と別れろと親友の炭治郎に激しく怒られたけど折角私の事を好きって言ってくれた人と別れるのは嫌だった。けど、彼氏は行方を眩ましてどっかに消えてしまった。あの男達から逃げたのだろう。

 

…また幸せが私から遠退いてしまった。

 

 

大事な親友達が居て、こんな私でも引き取ってくれたお爺ちゃんも居て…贅沢過ぎる程の幸せだと分かっているんだ。

だけど、こんなに私を思ってくれる人がいっぱい居ても胸のどこかにいつまでも穴がポッかり空いてる。

この穴を埋められるのは何だろうってずっと探してるんだけど見つからないんだ。彼氏が出来れば一時的にその穴の隙間は塞がったけど、しばらくするとまた穴が広がる。

 

いつまでも塞がらない穴はまるで役に立たず弱く汚い私みたいだ。

 

「…お前、泣いてんの?」

 

ちょっと色々と情緒不安定みたい。

いつの間にか頬に涙が流れてて目の前が霞んでいた。見られたのが恥ずかしくて慌ててゴシゴシッとセーターの袖で拭うと立ち上がる。

 

「な、泣いてませんっ…!」

 

背を向けて屋上から立ち去る。

このまま傍にいると、また泣き喚いてしまいそうだったから。

 

だから気付かなかった。

宇髄先生が悲しそうな顔で善逸の背中を見送ってたなんて。

 

 

 

 

 

**

 

「あ!善逸!!良かった見付かった!」

 

善逸が屋上から教室に戻ると後輩である親友の一人である炭治郎が少し焦った表情で善逸を見付けると慌てて駆け寄る。

善逸はそんな炭治郎の様子に首を傾げるとどうしたの?と問い掛けた。

 

「善逸を探してる先輩がいてさっきまで騒ぎになってたんだ!」

 

「えっ?私を?誰っ…?」

 

教室の中を覗くと炭治郎が言ってたようにさっきまで誰かが暴れてたのか机や椅子がいくつか倒れておりまだ残っていた数人の生徒が倒れてる机を立たせている。

女子は怖かったのか数名泣いており友達とかに慰められている光景があった。

 

一体誰が…?こんな暴れる程私を探してる人って誰?え?私なにかした??恨まれるような事はしてないのに…!ガタガタと怯えて震えて善逸は炭治郎に抱き着いた。

 

「えっちょっ、怖っ!!?やだやだぁ!!一体誰だよ!!炭治郎私を守ってーっ!!!」

「善逸、心当たりはないのか?」

 

力一杯抱き付いてくる善逸の背中を撫でながら炭治郎が問い掛けるが善逸には全く心当たりがなかった。

あるとすれば借金をした彼氏だけだがその彼氏は追われている身の筈で学校には来られない。

だから善逸には全く心当たりがなくて小さく頭を左右に振った。

 

「そうか…」

 

炭治郎が心当たりがないのならあの先輩が誰なのか知りようがないね、と途方に暮れた。

あっちは善逸の事を知ってるからどこからでも来るけどこっちは知らないから何かあった場合、対処出来ないからと炭治郎が言うと善逸は涙をぼろぼろっと流した。

 

「え、嘘でしょ?何、私ってば狙われてるの?!嘘過ぎない?!嘘って言って!!!」

「だって善逸、現に教室が凄い事になってるだろ…?こんなになる程探してるんだから相手はまだ諦めてないと思うぞ」

「ひぃぃーーッ!!いやぁーーッッやだぁ!炭治郎そんな怖い事言うなよぉ!!」

 

炭治郎の肩をガクガクと揺らしてながら泣き喚く善逸に炭治郎は慌てて制止の声を上げる。体を揺らされてちょっと酔いそうだ。

 

「お、落ち着け善逸!」

 

これが落ち着いてられる?!!!私狙われてるんだよ?!!何もしてないのに!ただ生きてるだけなのにこんなのって有りですか神さま?!!本当恨むよぉー!!!

 

うわーん!!と泣き出す善逸に炭治郎は体を揺らされて軽く酔いながら俺が一緒にいるから大丈夫だと善逸を宥めた。

 

それでも泣き止まなかった善逸だったが騒ぎを聞き付けて急いでやって来た煉獄先生と宇髄先生や冨岡先生によってなんとか泣き止んだ。

教室の片付けは冨岡先生の対応によって生徒達の手で綺麗に片付いたが怯えて泣いてた女の子たちは早々に帰された。

 

炭治郎も遅くなると危ないという事で妹の禰豆子と共に煉獄先生が家まで送った。そして善逸はいうと、宇髄先生と帰る事となった。

 

善逸は赤くなった鼻をスンと鳴らしながら隣に立つ宇髄を見上げた。

 

「…何で輩先生なの…」 

 

本当見上げるにも苦労するんだけど…。

派手に文句あるのか?と宇髄が見下ろしてくるのに善逸はどうしてこうなったのか考えるのも嫌でただ地面を見つめる事しか出来なかった。

 

 

多分、続く…?

◆忘れられない(高土)

 

 

静寂に包まれた暗闇の部屋の中…押し殺したようなくぐもった小さな声が響く。

声を出すのを我慢してるからか時折苦しそうに息を吐き、零れ落ちた声が震えている。

 

部屋の中央にあるベットは膨らんでおり人が眠っている事が伺えるのだが些かその膨らみは大きくて一人の人が入っているようなものではない。ベットに眠っていたのは一人ではなく、二人。

 

高杉と、土方の二人だった。

二人は同棲をしていて今日もいつものように共に眠っていたのだけれど眠っている途中に土方が夢から覚めて涙が溢れて止まらなくなってしまった。

 

暗闇の中では深い蒼の瞳を見る事は叶わなずけれど暗闇のおかげで涙に濡れて赤くなった目を隠してくれた。            

思い出してしまった。あの時、限られた時間の中で最期に己のやるべき事を見つけ、自分の最期を知りながら迷いもなく突き進んで逝ったあの時の高杉の姿を…土方は夢見た。

 

どうしょうもなかった。

どうにも出来なかった…無力な己を呪っても高杉は過去奇跡的に生きてきたがその奇跡の数だけ…死んでいたのだ、何回も。

悪運強くも生き延びていたが最期の時は奇跡でも何でもなかった、限られた時間の中でやるべき事をやってのけて高杉は生に背中を向けた…。

 

人をも巻き込んだ数々のテロを起こしてきた生粋の悪党だったがそれにも理由があり、その理由には胸を締め付けられる。

悪党だったけれど、江戸が大変だった時にはその身を呈して江戸を救ってくれた…それだけで充分ではないのか。今まで辛い道を一人、共に戦った仲間を置いてまで心を偽り誰にも頼る事なく歩いてきたのだからもう良いんじゃないのか。

 

笑って、日の下を歩いて良いではないのか。

 

 

土方は過去を思い出して声を押し殺す。

隣の高杉を起こさないように身を小さくして枕が涙で冷たくなって頬を濡らすがそれを止める術を土方は今は知らなかった。

 

 すると、

 

 

「ッッ……」

 

震える身体を力強い腕が抱き締めた。

びくっと肩を跳ねさせる土方が目を凝らすと高杉がしっかりと目を開けて土方を見つめていた。

土方が何か言おうと口を開くけれど何も紡げず中途半端に口を開けたままそっと閉じる。

 

何と言えばいいのか分からなかった。

高杉はそんな土方に何も言わず濡れた頬を掌で覆い涙の跡を拭うとそのまま後頭部に手を滑らせて引き寄せた。

 

コツン、と額を付けて小さく息を吐く。

声を出さないようにと血が滲むまで噛み締められた唇にそっとキスして力を抜くようにと舌でなぞった。

はっ、と力を抜いた唇に続けてキスをすると土方の手が高杉の背に回りシワになる程キツくシャツを握り締められる。

 

「…た、かすぎ…」

 

まるで迷子の幼子のような声だ。

ふっと小さく笑って高杉は土方を更に強く抱き締める。いつの間にか身体の震えは止まっていたがまだ嗚咽が止まらない。

 

背中をテンポよく撫でながら高杉は腕の中に収まる恋人の事を可愛く思う。

 

何故泣いていたかなんて、大体予想は付く。

コイツが己の死の事で泣く訳がなかった。真選組の最期は天寿を全うして潔いと聞く。ならば、コイツが他に涙する理由なんて…自分しかいない。

 

自惚れではない。

土方は間違いなく自分の事を愛していたし、自分も土方を危ない橋を渡ってしまうまでには酷く愛していた…。

 

たがらあの時の自分の最期を悔やんでいる事は分かっていた。知っていた。

それでも自分はあれで良かったのだ。最後の最期で先生を守る事が出来た。先生を殺めてしまった悲しみの呪縛を背負った銀時をやっと開放させる事が出来た。

 

10年も掛かってしまったが…思い残す事もなく逝けた。ただひとつ、土方の隣で老いる事は叶わなかったがそれ以上に愛していたから満足だった。

 

もう、良いのだ。

忘れてしまえばいいのに、と高杉は思いながら自分を思って涙する土方が愛しくて愛しくて仕方ない…。

 

「…土方」

 

俺はここに、お前の前に居るだろう…?

 

高杉が涙が溢れそうな目尻に指を這わせると土方は頷いた。高杉が言わんとしてる事が暗に理解出来た。確かにやるせない気持ちでたくさんだけど今は目の前に高杉がいる。

 

それは紛れもない事実で確かな事。

土方は小さく笑って高杉にキスをした。それだけで、もう涙は止まった。

 

END

 

 

(仕事が繁忙期に入りましたのでこれから更新が遅くなります~😭💦でも月に3個くらいは上げられるようにします…。2018/5/22)