mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆逃走不可能3

 

路地裏で倒れている所を持ち帰られて土方家に居付いてから一週間が経った。

 

十四乃と名乗った頭が可笑しいと思った女は思っていた程に異常ではなくてどちらかと云うと極普通だった。

何をされるかと警戒したが特にこれといって何もない。ただ共に過ごしているだけだし監禁されている訳でもない。

警戒してるこっちが馬鹿らしくなる程に十四乃は、その家族はまるで此方を以前から過ごした家族のように扱ってくれる。

 

一見普通に見えるが紛れもなく異常だ。

普通の人間ならば得体の知れない者を家族のように扱ったりしない。友人ならばまだ分かるが丸きり初対面の人間によくまぁ、ここまで良くしてくれるモンだと気味悪く思ったものだ。人間は平気で嘘を吐き自分の可愛さ故に他人を蹴落として嘲笑う所業は人間の浅はかだ。

幼い頃からそんな浅はかな人間を見てきた高杉には土方家の人間は何かしら裏があると思っているが今の見当たらなかった。

よく出来た人と言えば聞こえは良いがそんな出来た人間がいつか痛い目に遭うのはよくある話だ。

 

勘繰ってもしょうがないと高杉は使えるものは遠慮なく使う主義の男だから匿って貰えるのであればと大人しく土方家に腰を落ち着けた。

拾った十四乃も容易く高杉を手放すとは思わなかったから何かを仕出かすような事が起こらないように見張っているとも言える。

 

高杉を欲しがった十四乃が匿う代わりに高杉に求めたのは二つ。

 

一つ、十四乃とその家族以外とは許可なく話さないこと。

二つ、何があっても必ず十四乃と傍を離れないこと。

 

十四乃が高杉に求めたこの二つの条件を受け入れるのなら何をしてもいいと、十四乃は告げた。

 

こんな条件を出された高杉は勿論渋い顔をしたが守れない訳でもなかったし一人で過ごすのが好きである高杉は土方家を出てまで誰かとお喋りしたい訳でもなかったから一つめの条件は難なく受け入れた。

何故ここの人間以外はダメなんだと聞けば他の人と話してる所を見るのが嫌だと唇を尖らせて言う。嫉妬かよ…と呆れるとだから晋助は俺のだって言っただろ?と十四乃は高杉の腕に抱き付きながら笑った。

 

ただ二つめの条件は簡単に受け入れる訳にはいなかった。

 

 何があっても傍を離れない。

それは訳ありな高杉にとっては容易に約束出来るものではなかった。今は匿って貰っているがいつ何が起きるか分かったもんじゃないのだ。

高杉が難しい顔でそう告げたが土方がそれでも構わない、何があっても最後に晋助の帰る場所が俺の所だと覚えていれば良いから。と真っ直ぐな目で告げられ高杉は思案の末頷いた。

 

それから高杉は十四乃からアプローチを掛けられ軽くかわしながら共に過ごしていた。

ここの生活は思ったよりも快適でビックリした程だ。特にあれこれと過去や何をしていたか詮索されないのは助かったし好きに過ごしても何も言われない。

 

夜に勝手に拝借した日本酒を片手に縁側で庭を眺め、月見をして快適に過ごしてるくらいだ。十四乃が隣にいて膝を枕代わりされたが嬉しそうに何も言わず寝ているだけだから好きにさせている。

 

一体何がそんなに気に入ったのか聞きたいが今更聞いても十四乃が手を離す事はないのだろうと諦めている。

体を少し動かすと動きに伴って首輪に繋がれた細い鎖が金属音を鳴らすのを見て思う。

 

 

 

 

**

 

 「出掛けよ、晋助」

 

台所で十四乃の母、葉子の手伝いでお昼の食事を作ってた高杉を十四乃は外へ誘った。

 

ここに来てから随分経つが日がなボーッとするのも飽きた高杉が暇潰しに葉子が料理してた所を何か手伝うか?と申し出たのを切っ掛けに高杉は家事をするようになった。

 今も肉じゃがを作っている最中で黒のエプロンをかけてる姿を知己が見たらあの高杉が?!と戦くだろう。

高杉は昔から家事をやった事はなく他の人に任せっきりだったから何も出来ないというか労力を使わないのだが器用なものだから教えられたらあっという間に料理までこなせるようになった。

 

十四乃はこの家に馴染んでいる高杉の姿を見ると嬉しそうに表情を綻ばせる。

 

白のカットソーに黒の短パンに身を包む十四乃をチラリと見、高杉は前菜の用意をしてた葉子を見ると葉子は快く頷いた。

 

「後は私がやっとくから晋助くんは十四乃ちゃんと出掛けてらっしゃい」

 

前菜は後はトッピングするだけだし、主菜の肉じゃがは余分な水分を飛ばす為に数分煮込むだけだから問題だろう、味噌汁は最初に作ってあったからもうやることはない。

大丈夫だろうと高杉はエプロンを脱いで壁に掛けた。待っている十四乃の所まで行くと寸時に腕を絡め取られて玄関へと向かった。

 

「どこ行くンだ」

 

サンダルを履いてる十四乃を玄関の扉を開けて見下ろしながら問い掛けると服を買うのだと返ってきた。

服?オシャレには無頓着だと思っていたがそんな事でもなかったのだな、と感心していたがどうやら十四乃の服ではなかったらしい。 

 

「晋助の服を一緒に買おうと思ってな」

 

腕に抱き付く十四乃はどんな服が似合うかと楽しそうにしている。

服なんてどれも一緒だろ、と思いつつ近くのデパートまで歩くと腕を絡ませるように掴んでた小さな手が指を絡めてきた。

どうした、と見下ろすと十四乃は勝ち誇ったように笑みを浮かべながら高杉を見上げた。

 

「ふふ、晋助って本当イイ男だよな?周りの女たちの視線が凄ぇ」

 

言われて周りをチラリと見渡すと確かに女の視線が集まっていた。

確かに自分の容姿は人目を惹くと少なからず自覚しているが、一番人目を引くのはこの首にある首輪の所為じゃないのかと思う。

首輪だけならチョーカーで済まされるが鎖があると何かしらのプレイだと勘違いされているだろうなと他人事のように思った。

 

てめェだって男の視線を惹き付けてるぞ、と返すと事も無げに俺は晋助しか興味ないからどうでもいいと返される始末だ。

 

羨望の視線を跳ね退けて自分の男を自慢するように女たちに視線を寄せる十四乃は誇らし気だ。

独占欲が強過ぎるのも考えものだな、と苦笑いしてしまうが最近では頑張って口説き落とそうと躍起になる十四乃が可愛く見えてきた高杉は空いてる手で頭を撫でた。

 

すると強気な笑みを浮かべていた十四乃がキョトンと目を見開くと次第に頬を染めて高杉から視線を逸らした。

あんなに積極的に口説いてきたり密着したりするくせに高杉から触れてくると十四乃は途端に大人しくなって照れるのだ。

 

その変わりように高杉は笑った。

飼われるつもりはないが十四乃と居ると退屈せずに済む。十四乃は照れて顔を俯かせるが繋いだ手はそのままに、二人はデパートの中へと入っていった。

 

服を選んでる所に高杉の事を知っている者が現れて十四乃と揉めたのはまた別の話。

 

 

END

◆九狐の来訪(高土)

(※【蛟の守り神】の続きです)

 

 

やっぱりか。

土方は重い体を引き摺って帰宅を急いだ。

 

 

銀魂高校に通う普通の高校3年生である土方十四郎はやたらと憑かれやすかった。

 

以前、あり得ない数のモノに憑かれてしまい家の裏の神社で蛟の神様を祀っている昔から通っていた社に寄った所をそこの主である高杉が余りにも引き連れていた土方に乗っかっているモノを祓ってやった時から土方は頻繁にその神社に通うようになった。

 

普通の高校生は憑かれないのだがそこを除けば土方は本当にただマヨネーズが好きな男子高生なのだ。

 

今日も学校からの帰り道にどっしりと肩が重くなり憑かれてしまったと確信して震えた。

 

一体どんなモノが肩に乗っているのか想像するのも恐ろしくて後ろを振り返れないでいる土方だ。

何故こんなにも憑かれやすいのか疑問になるのだが高杉曰く、そういう体質で土方に心の拠り所を求めているのだと。

 

だからって視える訳じゃないから拠り所を求められても困るンだが…。というのが土方の意見だ。

 

憑かれて困るのは肩が重くなる事だけだが好かれやすい体質だからどこを歩くにしても引き連れてしまう。

それが巡りめぐっていつか悪いモノも連れてしまえば体調が更に悪くなり、周りにまで悪影響を及ぼしかねないと高杉に説明されてそういうモノが恐いものなのだと改めさせられて視えなくて良かったと心底思ったものだ。

 

高杉は神様だから自分の意思で姿を視せる事も出来るみたいだから神様というものは本当に万能だなと感心したのは記憶に真新しい。

 

肩に憑いているであろうモノを高杉に祓って貰おうと家に帰る前に神社の裏に赴くといつもなら社の方の階段辺りに座っている高杉が見当たらなくて土方はあれ?と首を傾げた。

 

「…寝てンのか?」

 

橋を渡って社に近付くがどこにも高杉の姿がない。

まだ社の中なのかな、と社の中に向かって呼び掛けようとした所で社の裏手からバシャッと水の跳ねる音がしたと思ったら高杉の呼ぶ声がした。

 

「ここだ、十四郎」

 

声のする方へ足を動かして移動するとそよ風に紫紺の髪を靡かせながら高杉が尾びれを池に下ろして座っていた。

 

膝に白い毛玉を乗せて。

 

 

 

「?……晋助、何だその毛玉…」

 

モフモフとした白い毛玉が気になって土方の視線は下に向く。

高杉の元へ近付き、隣に腰を下ろすとその白い毛玉がもぞりと動いた。

 

「え、生きてンのかそれ?!」

 

毛布かやたらとモフモフした毛糸玉と思っていた土方が動いた毛玉を見て高杉にひしっと抱き付いた。

それに高杉が笑いながらこんなモン危険でもなんでもねェから大丈夫だと背中を撫でる。

撫でるついでに肩に憑いていた残りカスを祓ってやった。(高杉の社は神聖な結界で守られてる為、高杉の領域に入った瞬間に憑いていたモノは五体満足で無事では済まされないので高杉に近寄った時点で既に半分消えているのだ。)

 

「こんなモンってお前失礼な奴…」

 

もぞりと動き、高杉の膝に乗っていた毛玉の中から顔らしきものが出て来て高杉と土方の方を向き紅い眼が覗いた。

さっきは丸まっていたから毛玉に見えたが体を伸ばして全体図が現れるとその姿は狐の獣だった。尻尾が九尾もあるのだけれど。

 

てか…喋ったぁぁぁあ!!!!!?

 

「こ、コイツ喋ったぞ?!!!」

「あのね、生きてるンだからそら喋るだろーが」

 

いや獣は普通喋らねぇから。

もっともな事を言いながら毛玉を警戒してるとその毛玉は呆れたような溜め息を吐くと高杉の膝から降りた。

 

「ったく…ギャーギャーうるせぇなぁ…発情期かよ」

 

大きな口を開けながら欠伸をする毛玉はそのまま跳び跳ねて空中で一回転する。

え?と土方が驚いてるとドロン!と周り一帯が煙で見えなくなるとその中から一人の男が立っていた。

 

白の着物と中に黒のインナーを身に纏ったあちこち跳ねてる銀色の髪色の持つ男の頭の横には銀と書かれた狐のお面があり、その後ろには大きな九本の尾が揺らめいていた。

 

いきなり現れた死んだような魚の目をしている男を見上げて土方は声もなく驚く。

そんな土方を怠そうに頭をポリポリ掻きながら見下ろすと何かに気付きパチクリと目を見開いた。

 

「あれ?この子って高杉、噂のお前の愛し子じゃん」

 

…愛し子?

 

キョトンと噂って?と首を傾げる土方だったが高杉はそれがどうした、と否定しなかった。

高杉にとって土方はこの世で一番大切にしたい唯一の人間だから愛し子で間違いない。 

 

「ははーん…道理でここ最近ひどく付き合い悪ィ筈だわ。愛し子が変なモンに好かれやすかったら気軽に留守に出来ねーわな?」

 

ニヤニヤ笑いながら銀色の尻尾で高杉の頬をうりうりとつつく男の尻尾を高杉は邪魔そうにべしっと叩いた。

 

「るせェよ銀時。理由なら分かったろ、ヅラ達にはてめェから言っとけ」

 

狐のお面の男、銀時を睨み付けて高杉はフイ、と顔を反らした。

 

 ツンケンとした態度の高杉だけど二人は仲が良さそうだ。高杉はいつも一人でいるから自分と会話してる時の雰囲気しか知らなかった。

けれど銀時という男と話す高杉は年相応というか親しい間柄なのか落ち着いていた。いつもと違った雰囲気の高杉を見て土方は新鮮な気持ちになる。

 

高杉と銀時の顔を交互に見てたら高杉があぁ、そう言えば…と土方の頬を撫でた。

 

「十四郎。コイツは九狐の銀時だ」

「九狐…?コイツ神様じゃなくて妖怪なのか」

 

中国の妖怪だって聞いた事がある。と高杉に言うと銀時が確かに妖怪だけど本当なら高杉も蛟という毒を撒き散らす妖怪なんだぜ?なのに人間に崇められて神の枠に進出しやがって。と続けた。

 

「ふ、好きで神に進出した訳じゃねェよ」

 

ぼやく銀時の言葉に高杉は目を閉じて小さく笑った。

知ってるよ。面倒くさそうに銀時は溜め息を吐き、急に空気が重々しくなって高杉にくっついたままどうしたら良いか分かんなくて固まる土方を見下ろしこの空気を壊すかのようにやる気のない声で自己紹介をした。

 

「どうも~。九狐の坂田銀時でーす。そこの眼帯野郎とは昔からの腐れ縁です~」

「…土方十四郎だ」

「え?大串くん?瞳孔開き過ぎじゃない?その年でもうニコ中とか将来苦労するよ?」

「生まれつきだわ!死ねこのクソ天パ!!」

 

名乗ったにも関わらず間違えてるし初対面でいきなりなんて失礼な奴なんだ!と土方は声を張り上げた。

 

銀時も髪の事を若干気にしてたのか天パと言われてはぁぁぁ?!サラサラヘアーだからって調子乗ってンじゃねェぞコノヤロー!!!と二人はバチバチと火花を散らして睨み合った。

 

小学生並みのレベルの低い喧嘩に高杉は呆れて落ち着けやてめェら、と煙管から口を離し火花を散らす二人の間にフゥー…と紫煙を吹き掛けて注意を反らした。

 

「くだらねェ喧嘩してンじゃねェよ」

 

天パのどこがくだらないんだ?!!お前ボンボンでサラサラヘアーで調子乗ってるかもだけど低杉くんなのは変わらないからなっ?!!と矛先を高杉に変えるが高杉ははいはい、と適当にあしらう。

 

もう何度目かも知れないこのやり取りに頭に来たのはもう昔の話だ。慣れたもんで高杉は天パを気にする銀時をスルーする。

 

「はぁ…まぁいいや。取り合えずヅラや辰馬は兎も角、神威の所にはたまに行ってやれよ」

 

土方の肩を抱いてさっきからその頭を撫でてる高杉が聞いてないと気付くと銀時はガックリと項垂れて諦めた。

それと、 と続いて出た名前に高杉は片眉を上げて銀時を見る。

 

「あのガキがどうした」

「お前に会えなくて暇だって暴れるンだよ。神楽も兄貴が構ってくれないって拗ねるしで大変なんだから早めに何とかしろ」

 

 何だその理由は。ガキじゃあるまいし。

高杉は呆れてものも言えないようだった。土方もそう思っているのか呆れた顔で銀時を見ている。

 

しかしどうやら孤独を好んでいると思っていた高杉は、かなり好かれているみたいだと土方は分かった。

何の用でここに来たのかは分からないが銀時は高杉に他の仲間の元へ顔を見せに来て欲しいと先程言っていた。それもその他の仲間が高杉が元気にやっているのか気になっているらしいと察する。

 

それに銀時も憎まれ口を叩いてるように見えたが土方が来る前から高杉の膝に眠っていたから言わずとも高杉の事を好いているのだろう。

素っ気ない態度だけれど高杉も銀時を蔑ろにしてはいなかったし膝に眠る獣姿の銀時を見下ろす表情は柔らかかった気がする。

 

土方は高杉の膝に眠る銀時を思い出して急に胸の辺りがモヤモヤして気持ち悪くなった。

眉間にシワを寄せると目付きが鋭くなって高杉を心配させた。

 

「あ~…そろそろ俺行くわ。恋路の邪魔して馬に蹴られたかねーし、邪魔者はさっさと退散しますよ~っと」

 

 寸時に土方の抱いてるものに気付いた銀時は気を使い踵を返す。

 

その背中に高杉はただ一言アイツらによろしく言っとけ、と掛けると銀時は背を向けたままひらりと手を振り、獣の姿になって空を駆ける。

 

高杉が入れ込んでるだけかと思ったら向こうの方も相当じゃねェか…。

 

小さく笑って銀時はそのまま遠くへ消えた。

 

 

 

 

 

***

 

「何だったんだアイツ…」

 

いきなり意味不明な事を言って帰って行った銀時を変な奴だと思いながら高杉を見返ると高杉は土方をじぃ~っと見つめていた。

 

碧の目に見つめられてドキリと胸が大きく高鳴るのに土方が頬を染めて不思議がっていると高杉が土方の頭を撫でいた手を滑らせて頬に指先を添え輪郭に沿って撫でる。

 

くすぐったくて身を捩りながらも逃げ出さずクスクス楽しそうに笑う土方に高杉の口元にも笑みが浮かぶ。

 

「…お前って奴ァ本当可愛いよなァ」

「晋助って目ェ悪いンじゃねぇの?」

 

こんな目付きの悪い男が可愛いってそらねぇよ、と高杉を可笑しそうに見返す土方だが高杉は甘い眼差しで何言ってやがる。俺にとって十四郎、お前が一番可愛いンだよ。と頬を撫でていた手を引き寄せて顔を寄せるとそのまま土方の目元に唇を落とした。

 

いつだったか、具合が悪くなって新鮮な空気と生気を与える為に高杉が土方の顔中に唇を落とした時から高杉はよく土方の頬や額に唇を落とした。

抱き締められたりスキンシップも多いが土方は嫌な気持ちになった事はなく、照れたりする事はあるが高杉と触れ合う事に抵抗はなかったから高杉から頬にキスされたりするのに直ぐに慣れた。

 

今日も高杉が触れてくると心がポカポカして何故か心地が良い。自分から高杉の手にすり寄ると高杉の目がスッと細まる。

その表情が好きで土方の表情は嬉しそうに綻ぶのを高杉は今直ぐにでも喰らい付きたくなるのを我慢するのに苦労した。

 

十四郎が愛しくて仕方ない。

 

愛しいこの気持ちが余りにも甘く切なくて高杉の表情は優艶になる。 ふわりと柔らかい風が二人を包み、髪を揺らして顔に影を作る。

 

土方が笑みを浮かべて高杉を見つめると高杉は土方の肩を抱き羽織の中へと誘って体が冷えないように抱き締める。

されるがままに土方は身を委ねて幸せそうに目を閉じた。

 

 まだ土方は己の想いに気付いてないのだけれど、それもまた時間の問題だろう。

 

 

 

 

 

END

 

◆猫(高土)

 

 

 

ゴロゴロ


頭、喉元、背中、至るところを優しい手つきが撫でる。

気持ちいいと勝手に喉がゴロゴロと鳴る。

 

 

「ふっ…気持ちいいかァ?」


上から優しい声音で声を掛けられ、 見上げると隻眼の男が柔らかく微笑んでいた。

 

高杉 晋助だ。

 
先日、 総悟から贈られたマヨネーズに何らかの薬が入っていたらしく猫に変わってしまった。

今思い出してもあの憎たらしい笑顔がムカツク…。

不機嫌を表すかのように黒猫となった土方はバシッバシッと畳を尻尾で叩き、爪を立てる。

 

「ん?どうした、ご機嫌斜めだな」

 

高杉が笑いながら土方の顎下を撫でる。 
すると先程までイラついていた気持ちがなくなりゴロゴロと機嫌が 良くなった。なんとも単純な体だ。

それに高杉は微笑み、 土方の体を持ち上げて膝に乗せて背中をまた撫でる。

 


しかし、あの高杉晋助が…ね。

 

土方は微笑む高杉を見上げて呆気にとられてた。

攘夷志士の中でももっとも凶悪で過激派のトップに君臨する程の大物の高杉晋助が目の前にいる。

情報に聞いたものとは違い目の前の高杉は恐ろしくはなかった。というのも高杉は妙に獣に優しかったからだ。


土方は総悟の所為で猫に変えられたあの日、 街でさ迷っている所を高杉に拾われた。

元々人間な為、猫の勝手が分からなかった。
歩いてはよろけて転び、走っては電柱等にぶつかって体のあちこちを傷付けた。

 

そしてそのまま走っていた所を高杉にぶつかってしまった。
見上げた時は驚きで毛が逆立ったが体の至るところを傷付けた土方を見て高杉はしゃがみ込み小さな頭を撫でられた。

この体になってから初めて触れられたため、
高杉の手が妙に心地良くて大人しくなってしまった。

 


「傷だらけだな…来い」

 

高杉はそう言って猫の土方を抱き上げる。
いきなりのことに土方は手足をバタつかせて驚き、シャーッ!と高い声を上げ高杉の腕に必死にしがみついた 。


「シャーッ?!」

「大丈夫だ、怖くねェよ」

 

高杉は優しく土方の頭を撫で着物の懐へと入れてそのまま歩いた。土方は懐から顔だけを出して高杉を見上げた。

たまにすれ違う猫達に食べ物を置いたり、撫でたり… とにかく高杉は獣に優しかった。

そこで着いた先がこの高杉の隠れ家で土方は傷だらけの体を手当てして貰い冒頭にいたった。

 


「野良猫とは思えねェぐれぇの滑らかな毛だな…飼い猫か?」

 

高杉が柔らかな手触りの毛並みを撫でながら問い掛ける。
猫に話し掛けても返事が返ってくる訳ねェだろと思いながらも土方は一応答えた。

 

‐多分、飼い猫?‐

 

「…にゃ?」

 

首を傾げて答えると高杉は何を言ったか分か
ったかのように笑った。


「そうかい、分からないのか」

 

ふっと笑う高杉を見て胸のところが暖かくなる。
何故か分からないが高杉が笑うと自分のことのように嬉しい。敵の裏の顔を見たからだろうか。

高杉の手を猫手でちょいちょいとつつき、弄ぶと手で転がされた。体がくるりと転がりそれが楽しくてまた高杉の手にじゃれつく。


そこで、土方はふと高杉にじーっと見つめられている事に気付いた。
真剣な顔で見つめるもんだから、 バレたのかと首を傾げて高杉を見上げた。


「…にゃ…?」

「あぁ、いや、ちょっとな」

 

高杉はふっと笑って柔らかな眼差しで見下ろしてきて、お前は気に入っている奴に似ていると思ってな。綺麗な眼だ、と撫でながら相手を想い浮かべているのかその表情は優しく、そう溢した。

 

こんな優しい表情をするとは…。土方はその相手が気になった。

あの凶悪テロリストに想われているなんて、
羨ましいと敵同士でありながら思ってしまう
のは何故か。


「にゃー」

「相手が気になるか?」

「にゃん」

 

教えろと応えると高杉はふっと笑った。


「相容れることが出来ねェ奴だよ、」

「…にゃ、」

「あいつにとって俺はしょっぴくべき相手だからな」


しょっぴく?

 

相手は警察か?首を傾げて考えるがしょっぴくとなると警察か役人しかそんな仕事はしねェし…。
役人となると過激派攘夷志士の相手は仕事上任されてない、 任されてれているとすれば、
俺達武装警察・真選組だけだ。対テロリスト組織だしな。

 

けどれそうすると分からない。
だって真選組に女なんざ居ない、いるのは男だけだ。そこまで考えて土方は高杉はもしかして男を想っているのか?という結論に辿り着いた。

 

その事実に衝撃を受ける。

だが尚更誰なのか知りたくなった。真選組に高杉の想い人がいる、 こんな柔らかな表情をさせている相手が羨ましい。

捕まえるべき対象であるのは理解しているがかの攘夷戦争の英雄である高杉晋助個人には恨みはないしどっちかというとずっと気になっていた。

 

攘夷戦争の時は高杉はまだ10代半ばだったと知った時は衝撃を受けたものだ。そんな齢から軍隊の総督として指揮をとり、戦場の前線を鬼のような強さで駆け抜けたというのを聞いてからはその強さに憧れていた。

どんな猛者なのか、ずっと気になっていたのだ。

だからそんな高杉の気になるという人間がどんな強いヤツなのか気になるというものだ。真選組にいる奴らの顔を思い出しながら続きを促す。


しかし、次の言葉に耳を疑った。

 


「気の強いその眼が土方に似ている」


…………、俺?

 

土方という苗字はそうそう珍しくない。
けれど警官の仕事をしている中では俺ただ一人だけだと思う。

 

ならば自分なのだろう。

そう納得した瞬間、 猫でありながらも土方は顔に火が付いたかのように頬が熱くなった。

じ、じゃあこんな柔らかな表情をさせていたのは俺だったのか…?!


「鬼の副長と言われているからどんなゴツい奴かと遠目に見に行った事があるが…ありゃかなりの別嬪だったなァ」

 

べ、別嬪……?!!

二枚目と言われたことは多数あるが別嬪と言われたのは初めてだ。
驚きで高杉を見上げるが当の高杉は俺を見下して顎下を撫でて続けた。


「黒を纏っている男に、 まさか俺が惚れるとは思ってもいなかったが…こんな気持ちにな
ったのはあいつで二人目だ」

 

どこか哀しそうなその表情に、 思わず体を伸ばして頬をペロッと舐めていた。

高杉は一瞬目を見開いて驚いていたが、 土方の体を持ち上げて抱き締めてうっとりするくらいに微笑んだ。


「俺は敵対するつもりはねェんだが俺ァお尋ね者だからなァ…会うことも面と向かって話すことも叶わねェ…遠目に眺めることで我慢しているんだよ」

 

そう言われて土方はふと思い出す。

見回り中、 微かに視線を感じたことがごく隅にあったが殺気を感じられない為、余り気にしていなかったがあれは高杉だったのか。

 

しかし、高杉がそんなことを思って俺を見ていたなんて驚きだ。

 

「…話、聞いてくれてありがとよ」

 

少し話してスッキリしたのか、 満足そうな表情で高杉は猫である土方の唇にキスをした。

この男は獣に対してもタラシ込むというのか。


そっと口付けられた瞬間、

 

「!……なんだ?」

 

土方の体に異変が起きてパァァアッと眩い光に包まれた。

高杉は目を細めて警戒しているが土方自身何が起きているのか見当も付かず高杉の着物に爪を立てた。

何が起きるのか二人して身構えてると光が一段と強く輝き、 高杉は目を瞑ってしまう。

 

暫くすると光が収まってしまうと土方は人間に戻っていた、高杉の膝に座りながら……。

 

 

………このタイミングでェェェ?!! 


高杉は妙に膝が重いと目を開くと固まった。

土方も土方でどうすればいいのか分からず、
高杉から目を逸らしてただ押し黙る。


「………………、」

「………………、」

「………………、」

「………………、」

「………………、」

「……………ッ…、」

「………………、」

「……こ、こばんは、」

 

長い沈黙に耐えきれず、土方は口を開いた。

それで漸く高杉はピクリと動くと目を細めて膝に座っている土方の 腰に手を回した。


「…土方、だな」

「……あぁ」

「あの黒猫はお前だったのかい」

 

気まずくて土方は目を逸らす。

それを固定と受けとめたのか高杉はふっと笑
った、それで漸く土方は高杉の方を向く。

 

「猫がお前に似ているのも頷ける、 猫はお前自身だったんだからなァ…?」


何故か楽しそうな高杉に眉間にシワが寄る。
こちとら大変だったんだぞ、 総悟に変な薬を盛られ体のあちこちを傷つけて。

なのに高杉は笑った。


「しかし…話を聞いていたのは土方とは…」

 

溜め息混じりに言った高杉にハッと我に返る
、そうだ…高杉の自分への想いを聞いていたんだった。

 

今更ながら顔が赤くなる。


「…まぁ、人間に戻れたことだしよ、真選組に戻りな」

「……えっ?」

「戻らねェのか?」

「あ…いや、」


何かしら言われると思っていたから、驚いた
。告白されても困るが逆に何も言われないとなると何故かモヤモヤしてしまう。

取り合えずと高杉の膝から下りて立ち上がろうとしたが、


「うわっ…!」

 

立ち上がるが猫になって四足方向になっていたから感覚が鈍ってバランスを崩してしまった。

 

「危ねェよ」

 

視界が急に変わり、崩れて倒れそうになった所を高杉が支えてくれた。

 

「す、済まねぇ…」

 

慌てて支えとして咄嗟に掴んだ高杉の着物を離しながら支えてくれたお礼を口にして高杉を見返すとその真剣な熱い眼差しに気付く。

 

ハッとして何かを言う前に高杉は踵を返して土方から背を向けた。

 

「気を付けな」

 

そのまま宿を出て行こうとする高杉に土方は歯痒い思いをする。

高杉の想いを聞いておきながら自分の立っている立場からその想いに応える事は出来ないと思ってた。真選組を裏切る訳にはいかない。況してや男同士なんて考えられる筈もない。自分は憧れを抱いてるだけなのだと言えた。

 

なのに高杉が何事もなかったかのように、土方を想っていたなんて微塵も出さずに背を向けたのに置いてかれたような…そっぽを向かれたようで哀しくなった。

 

応えられないから何も言われない方が土方にとっては有り難い話なのに。

 

土方はきゅっと唇を引き結ぶと翻る高杉の派手な着物の袖をガッシリ捕まえる。

 

「待てよ」

 

高杉が振り返ると土方は恥ずかしそうに顔を染めながらも高杉を強く睨み付けていた。

その表情に高杉は目を見開く。

 

「あんな事を聞いておきながら…大人しく帰す訳ねぇだろ」

 

土方は自ら暗い闇に飛び込んだ。

このまま帰した方がお互いに良かった筈なのに、テロリストと警察というこの関係が最期に辿り着く場所は血濡れた茨の道にも関わらず土方はその道を進むことを自ら決めた。

 

覚悟を目に高杉を睨み付ける土方を高杉は愛しさの余り殺してしまいそうになる。

まるでライオンが自分よりも小さいものを可愛さの余り可愛がって誤って殺してしまうように。

高杉は手を伸ばして土方の頬に触れた。照れたように目線を逸らすが土方は高杉の武骨な手を受け入れた。

 

それが応えだった。

高杉はふっと笑って土方を抱き締めた。

 

 

 

 END

 

(猫になった土方さんと高杉との出会いというifでした) 

◆高杉と万事屋

※紅桜から数ヶ月後の設定です。

 

 

 

 

神楽は定治の散歩から日が傾いた頃に万事屋に帰り着き、 習慣となったただいまという呼び掛けをして中に入るとソファに座っている人物に驚いて立ち尽くす。

 

「………」

「………」

「……何で、お前がここ…」

「………」

 

万事屋のソファに座っていたのは今世間を騒がす過激攘夷志士のテ ロリスト高杉晋助だ。

神楽は以前、 紅桜の時単独で鬼兵隊の船に乗り込み高杉の背後に番傘の銃を突き 付けて振り返った高杉に対して恐れを抱いた記憶がある。

その時の恐れが今も身体に染み付いているのか、 神楽は知らず知らず震えていた。けれど気丈にも高杉を睨み付けた。

 

高杉はそうな神楽をチラッと見ただけで何も反応することなくただ 煙管を燻らす。


「…くしっ」

 

二人はお互いにじっとしたまま、 その状態でいると寒かったのか高杉が小さくくしゃみをした。

勝手に緊張して神経を磨ぎすましていた神楽は小さなくしゃみだけ でビクッと反応した。
部屋は暖房も着いていなくて、 何故か窓も開いてる為か物凄くキーンと冷えていた。

 

神楽はしばし考えてからその場を離れて台所に向かった。

定治はそんな神楽の背を見送ってリビングに入って高杉の座ってい るソファの後ろを通ると巨大な犬にも関わらず器用に窓を閉めた。
高杉はそんな定治を見て、表情は変わらぬもののあれは犬なのか…。と思っていた。

 

「……ほらヨ」

 

高杉は定治から目を逸らして台所から戻って来た神楽を見てからテ ーブルに視線を移すとお茶だった。

 

「……」

 

恐れていたクセに、茶を出すのか…。

高杉は神楽が淹れたであろうお茶を手に持って一口啜って、 一息つく。余り淹れたことがないのだろう、 少し苦かったがお陰で体が温まった。

 

「…お陰で体が温まった…茶、美味しかったぜ」

 

客でも何でもない己にもてなす義理はないだろうに自分の為にお茶を淹れてくれたんだ。 高杉は神楽を見上げて小さく微笑むとお礼を言う。

神楽は銀時達に苦いと言われてきた自分のお茶が美味いと言われ一瞬にしてほだされた。さっきまで高杉に対して感じていた恐れが現金にも消えた。

 

「ねぇねぇ、何でここにいるアルか?」

 

高杉の隣にぴょん!と飛び座って神楽は笑顔で問い掛ける。
もう恐れも震えも消えた神楽は高杉に対してテロリストとか危険とか忘れて良いお兄ちゃんと再認識する。銀時と似てると思ったのは気のせいか。

 

急に馴れ馴れしくなった神楽に高杉は疑問に思ったが問い掛けに答えた。

 

「…散歩していたが、さっき下で銀時と会ってな。 斬り合いになるかと思いきや急にお使い!と叫びだして俺をここに押して留守番頼むぜ、 と言い捨てて走って行った。あのバカがお使いたァ笑えるな」

「…銀ちゃんがお使いなんていつものことネ!それで大人しくお留守番してるアルかお前? 」

「丁度ソファがあったからな、一服してた」

「ふーん…ふぁ~」

「眠いのか」

「ん…もうお眠の時間ネ…」

「俺の事は気にしなくていいぜ。一服したら出ていく」

「うん…膝貸してヨ」

 

返事を聞く前に既に神楽は高杉の膝に頭を置いて直ぐ様寝息が聞こえてくる。

一服したら出ていくと言ったのを聞こえなかったのかこのガキは。

 

「………」

 

高杉は神楽を見下ろし羽織を肩から落として神楽の体に掛けてあげると少し温くなったお茶を啜った。やはり渋い。

 

「くぅん」

「…寝かせてやれ」

 

まだ遊び足りなかったのか定治が神楽を見下ろして鳴いたが高杉は止めた。

 

「…くぅ」

「窓閉めてくれて助かった。散歩して疲れたろ。オメぇも寝な」

 

定治の顎下を撫でながら言うと定治は小さく鳴いて高杉の手にすり寄ってその傍に丸まって寝転がり目を瞑った。

その頭を良い子だとポンポンと撫でて高杉は静かになった部屋で煙管を加えた。

 

 

 

 

 

*** 

 

お使いを終えて銀時は途中で合流した新八と家に戻ってきた。


「銀さん、お登勢さんのお使いは済みましたか?」

「おぉ、終わったぜ。ったく、あのババァもお使いとか… 俺は小学生かっつうの」

「いいじゃないですか。それで先月の家賃負けてくれるし」

「まぁな。ただいまー」

 

玄関の扉を開けながらぼやく銀時を苦笑いしながら宥めて新八も銀時の後に続いて家の中へと入る。

 

「神楽ちゃん、定治ーただいま」

「うわっ」

 

いつもなら神楽が面倒くさそうに奥からおかえり~って言ってくれるのにまだ散歩中なのかな?と思っていた新八は先に入っていた銀時の声に慌てた。

 

「銀さん?どうかした…えぇぇっ?!」

 

ドタバタしながら駆け付けると新八は目を見張って声を張り上げた。

銀時も驚きながら高杉を指差している。

 

「高杉、お前まだ居たのか?!」

「…うるせェ、ガキが起きる」

「あれ…神楽寝てんの?」

「定治まで寝てますよ…」

 

自分でここに押しておきながら失礼なヤツだ。高杉はやはりコイツなんか嫌いだ、と思い直しながら騒ぐ銀時に神楽が起きると睨み付ける。

神楽に気付いた銀時が緊張感もなくすやすや眠る神楽に驚いた。

新八がその隣に寝転がる定治を見てどういう事だ?と混乱したように目を回した。

 

「お前…いつの間にうちのガキを手懐けたんだよ」

「知るかよ」

「いやいや、神楽が簡単になつくガキだと思ってンのか? こいつは俺に対してもボロクソ言う生意気なガキだぞ?」

「本当のことだろクソ天パ」

「何だとぉ?!」

 

ソファーに座る高杉の裏に回り、後ろから覗き込むようにして高杉に神楽はそう簡単にほだされないと言うがそんな事は高杉にとってどうでもいい事だ。

 絡む銀時をウザそうにあしらって高杉はそっぽを向いた。それに銀時が目くじらを立ててつい大きな声を出してしまう。 

 

「んぅ…っ」

「銀さんっ!静かに!」

「あ、やべ…」

「もぉ…うるさいヨ、ボンクラ共…落ち着いて眠れも出来ないネ」

 

煩くしてしまって神楽は起きてしまった。

高杉の膝から起き上がってまだ重い瞼を擦って銀時達を睨むとバツが悪そうに銀時は頬を掻いた。

 

「ごめんね、神楽ちゃん」

「…もういいヨ。銀ちゃん、お腹空いたヨ何か作るヨロシ」

「起きて早々それかよ…」

 

申し訳なさそうに新八が謝ると神楽は仕方なさそうに呆れた顔をしてもう気にしてないと告げた。

そして起床早々に腹の虫が大きく鳴って銀時に食事を作る事を要求するのに今度は銀時が呆れる番だった。

 

「………」

「どこ行くアルか?」

 

保護者が帰宅して子供も起きた事だしさっさと帰るかと高杉が煙管を懐に仕舞い、立ち上がって玄関の方へ向かおうとしたら神楽が直ぐに気付いて袖を掴む。

 

「帰る」

「待ってヨ!大事な用でもあるのか?」

「あァ…?」

 

引き留めようとする神楽を高杉は訝しげに見下ろした。

 

「今日はこのまま泊まるネ!」

 

怪訝な顔で自分を見下ろす高杉の顔を神楽はニッと笑いながらこのまま泊まれと言う。

高杉は微かに目を見開きあどけない笑顔の神楽をまじまじと見つめてしまった。

 

何故泊まることになる。こうして一緒の空間に居るのが不可解なくらいには何ヵ月前にドンパチ殺り合った銀時の家に泊まるなんて意味が分からないだろう。呆れてものも言えない。

 

「神楽?!」

「何言ってんの神楽ちゃんっ?!」

「ねェ、いいでしょー?」

「くぅん!」

 

やはり銀時と新八ははぁぁ?!!!と声を張り上げた。

神楽が高杉の袖をガッシリと掴んでて離そうとしない。定治も高杉の前に回ってその体を顔でグイグイ玄関から遠ざけようとしているのを見て銀時は驚いた。

 

「定治まで何やってんだ!」

「ねェ、いいでしょー」 

「……はぁ、分かったから離せ。着物が伸びる…」

 

まるで小さな子供が親を上目遣いで見上げながらあれが欲しいとねだるようなその光景に新八は自分は夢を見てるのかな…。何故過激派攘夷志士のテロリストに身内がねだってるのだろう…。と現実逃避をしてしまう。

 

紅桜の時はエリザベスを遠慮なく一刀両断したのに高杉がいつその腰の獲物に手を掛けるのかハラハラとしてたがいつまで経っても獲物に手を伸ばすことはなかった。

あまつさえ神楽のしつこさに白旗を上げて泊まると言ったのだ。

 

「やったー!!」

「わん!!」

「えぇー…」

「銀さん、どうすんですか…」

「俺が聞きたいよ…」

 

喜ぶ神楽だが銀時と新八は冷や汗が止まらない。新八は単純に高杉が怖いからという理由だが銀時は違った。

今は道が違ったが10年前は共に過ごした仲間だ。けれどそれは10年も前の話で何ヵ月前には完全に袂を別った筈なのだ。

 

どう高杉と接したら良いのか分からなかった。神楽がこんなになついてなければ即悪態をつけられるのに神楽も定治がこんなにも嬉しそうにしてるとどうしたら良いのか分からなくなってしまった。

 

ここに高杉を押したのは自分だったがまさか一つ屋根の下でまた過ごすとは思わなかった。

 

 

「寝床は私と一緒に寝るがいいネ!」

「それはダメ!?」

「 年頃の女の子が大人の男性と寝るなんて何考えてんの神楽ちゃん? !」

 

年頃の娘が男と襖の中で寝るという問題発言にここではお父さんの銀時と新八が即それを却下するが神楽は聞かない。

 

「うるさいヨ、ダメ男共。エロいことなんか考えてンじゃねーヨ」

「エロいことなんか考えていません!!」

「考えてるだろ。別に疚しいことはないから大丈夫アル」

「なんでうちの子は聞き分けがないんだ…」

 

最近めっきり言う事を聞かなくなった子供に銀時は項垂れた。

高杉は会話に参加するのも面倒なのかさっきからずっと定治を撫でている。心なしか楽しそうに見えるのはお互いをよく知っているからか。

 

果たして高杉と神楽が一緒に寝たのかは、万事屋しか知らない。

 

 

 

 

END

 

(万事屋に泊まった事を万斉が土方にチクって拗ねられるのはまた別の話で)

 

◆蛟の守り神(高土)

 

 

最近学校から帰ってくると段々と体が重くなる事が多くなったと感じる。

 

今も学校から帰って来て部屋に戻ると何故かドッと酷く疲れている。気分も余り良くないしどこか体調が悪い訳でもないのに最近のこの状態が可笑しいって嫌でも気付いてしまう。

 

可笑しいのは学校にいる時には何も感じないし頗る元気なのに、学校を出て小さい頃からつるんでいた近藤さんや総悟と別れた途端に何かに乗っかられたんじゃないかという程に肩が重くなるのだ。

 

これにはまさか、と思い至る事がある。

昔からよく聞く話だ。それは俺にとっては凄く迷惑な話だし苦手なものだが。

 

よく言うだろ、憑かれると肩が重くなるって。

 

想像してしまって土方はブルブルと頭を振って下に下りた。

母から家の裏の神社にある池の蛟様へとお供え物を添えてくれと頼まれていたンだったのを思い出したのだ。

 

蛟様は水の神様で昔ここの地域を街をも呑み込もうとした洪水から守って下さったと云う。それかというもの蛟様の社はこの地域に住んでる者たちからは愛されていて毎日毎日祈りやお供え物を捧げに来る人が途切れない。

かくいう土方も信仰なんてものはないが幼い頃からの習慣から蛟様の社には1週間の内に1度は訪れてお供え物を置いていた。

 

慣れた道を歩き進むと神社の奥にある大きな池の真ん中に水に浮かんで見えて鎮座する社が目に入った。

ここの池は水が透明で綺麗なままだから水の中に泳ぐ鯉や亀などがハッキリと見える。季節によっては周りに花も咲いててよくアゲハ蝶とか見られる。蛟様は動植物にも好かれているのかな。

 

社へ続く橋を渡りながら泳ぐ魚を見下ろしてると社の前へ着いた。

 

いつも掃除されているからか埃の一つ、汚れもなくピカピカの社を見て相変わらずだな、と土方は小さく笑った。

 

手に持ってたビニール袋を持ち上げると中から日本酒を取り出す。そのまま瓶ごと日本酒を社に置いた。これがいつも蛟様に捧げるお供え物なのだ。

可笑しな話だが蛟様は日本酒が大好物らしいのだ。勿体ないから俺にくれよな、と思いつつ(高校生にして煙草だけじゃなく酒の味まで覚えてしまっているのだ)まぁ、水の神様だから水が好きなのかな?と思いながら両手を合わせて目を閉じると後ろからバシャッと水の跳ねる音が響いた。

 

「ん?」

 

何だ?と振り返ると池の中に人が居た。

人、というにはその格好は今の時代余り見掛けない蒼い着物で薄紫の被り物をしていた。

そしてよく見たら、水の中から顔を出してる竜の尻尾みたいなのがゆらりと揺れているではないか。

 

土方はいきなり現れた得体の知れないモノに目を見開き、声にならない叫びを上げた。

 

「ーーーーーっっ!!!!!」

 

こういうものが苦手な土方は今にも失神してしまいそうな程だったが池の中にいるモノが振り返ってきたのだ。

その顔を見たら今度こそ気絶する、と確信していたのだったが土方は気絶しなかった。

 

振り返ったそのモノは、想像していた怖い顔やグロい顔をしてなかったからだ。

 

 

「やっぱてめェか。今日はえらく沢山引き連れてたなァ」

 

男の低い声。

振り返ったそのもの、男の顔は言うなれば美形に入るものだった。紫紺の髪がサラリと風に揺れ、細長の碧の目が土方を真っ直ぐに射いた。

左目は黒い眼帯で隠されていてその風貌は近寄り難いものだったが綺麗な顔は誰もが目を奪われるだろう。

男なのに女用の着物を身に付け帯を前に大きく垂らす姿は女装好きか?と思ってしまうのだけど何故かその格好が男には酷く似合っていて自然な感じだった。

 

暫し茫然とその姿をまるで狐に摘ままれたかのように見つめているとその男が近付いてきた。

 

「オイ?」

 

「あ…な、何だ?」

 

声を掛けられて我に返る。

ビクビクと男を見返して返事を返すと別に捕って食いやしねェから安心しろよ、と笑われた。

それに安心しながらやはりこの男は人間じゃないのか?!!!と再度悲鳴を上げそうになった。

 

「お前、好かれやすいのか?」

「は?何が…?」

 

男の正体を聞いてもし連れられそうになったらどうしょう?!!と怖くて何も聞けずにいると男は土方を見つめながら目を細める。

独り言のような呟きだったから土方はよく聞こえなかったのでキョトンと聞き返すと男は土方の背後を指差して今度は土方に問い掛けた。

 

「だからお前、霊とかに憑かれやすいのか?いっぱい居るぜ」

 

土方は背後を振り返るが何も居ない。

前を向くと男は土方の背後を睨んでいて土方は今度は声を出して悲鳴を上げた。

 

「ぎゃぁぁぁああっ!!!!」

 

 土方は悲鳴を上げてその場に倒れた。

 

 

 

 

***

 

「ククッ…気絶する程苦手なのに好かれやすいンだもんなァ?」

「うぅ…やめろよ、風呂入れなくなる」

 

土方が倒れたあの後、驚いた男が池から社へ上がると土方の頭を膝に乗せて横たわらせると長い尾びれを守るように土方に巻き付かせた。

青冷めながらう~ん…う~ん、と魘される土方の頬を撫でてその手が冷たくて気持ちいいのか顔色の悪かった顔がスッと良くなった。

 

何とか土方が目を覚ますとこの年になって膝枕されたのに赤くなったり、男の長い尾びれを見て青くなったりと忙しなかった。

男はそんな一々反応の面白い土方を笑っていた。

 

「てか何…俺そんな憑かれてたのか…?」

 

体が重かったりしてたけどもしかして、それが理由?と恐る恐る男を見る。

男は煙管を燻らしながら妖艶に微笑んだ。

 

「ここまで連れてるのは俺も初めて見たぜ。よく今まで無事だったなァ、お前」

 

ひぃぃいっ!!!と自分の体を抱いて震える土方に一々反応が面白れェ。と男は口端を持ち上げる。

 

「笑うな!!俺にとっては死活問題なんだよ!!!」

「安心しろ、今はもう何も憑いちゃいねェよ。体軽いだろ?」

 

言われて土方は目を丸くすると、確かに…と自分の体を見下ろした。

来る前は肩が重かったが今は軽くて、逆になんかいつとより調子が良いといっていい。

何でだ?と首を傾げる土方に男はふん、と続けた。

 

「俺の領域に勝手に入って来たんだ、それ相応の対応をしてやったからな」

 

 

それはつまり退治、祓ったと…?

 

なんか普通に会話してたから忘れてて聞いてなかったがそう言えばこの男の正体って何?!!!

良く良く見れば耳がエラだし尾びれも普通の魚のようにヌルヌルしてなくて鱗の一つ一つが綺麗に磨かれたようにキラリと光を弾いていてさっき触れた時冷たくて気持ち良かった。けど

やっぱり人間じゃないし!!!!

 

「あ、アンタ一体…」

 

意を結して真顔で男に聞くと男は今更かよ、という顔をしたが口から煙管を離してニヤリと笑った。

 

「俺ァ蛟だ。ここの社の主だよ」

 

ゆらりと尾びれを揺らしながら言う男に土方は今日何度目か知れない目を大きく見開いて驚いた。ええぇええッ?!蛟様って存在してたのか…?!!

ポカーンと間抜け面を晒す土方の反応はやはり久しぶりに人と関わった男には酷く面白かった。

 

「は…?え?こんな目付きの悪い神様がいて良いのか…?」

「祟るぞ」

「ごめんなさい!」

 

失礼な子供を睨むと一瞬にして頭を下げて謝った。元々祟るつもりなんてないが男は土方の変わりようにもう苦笑いするしかない。

 

「ククッ…冗談だ」

「…え、と…蛟、様?」

「…高杉晋助だ。蛟というのは俺という存在のシンボルみてェなものだから晋助で良いぜ」

 

神様を呼び捨てにして良いのか?と躊躇う土方だが男、高杉が許すと言うから晋助と呼ぶ事を了承した。

 

晋助が異例だと思うのだけど神様ってなんか畏まった感じでこんな気軽に話せる者じゃないと思ってたのになんか想像した感じじゃなかった。

 

土方が隣に座る高杉を見下ろすと隻眼の碧の目と視線があった。

ドキッと何故か胸が高鳴るのを感じて慌てて視線を逸らすと高杉がそろそろ、と切り出した。

 

「十四郎、暗くなる前に帰りな」

 

来た時はまだ青空が広がっていたが既に日没前になっていて後数分もすれば暗くなってしまうだろう。

随分と長居してしまったから母も心配している筈だ。土方は頷いて立ち上がるとはた、と動きを止めて高杉を見返した。

 

「俺、名乗ったっけ?」

 

何で俺の名前知ってンだ?と不思議そうな顔をする土方に高杉は当たり前だろ、と返す。

 

「小せェ頃から高校生になってまでも供え物を置きに来るのはお前くらいだ。知っていて当然だろ」

 

まさか小さい頃に通っていたのを覚えていて今まで見ててくれたというのか。

神様はいつも傍で見守ってくれている、その祖母や母の言葉が迷信とか願掛けみたいな嘘ではなく本当の事で知らず土方の胸を熱くして言葉に詰まった。

 

「そ、か…」

 

土方が小さく笑うと高杉は目を見張る。

その屈託のない笑顔が最近余り元気のなかった土方の久しぶりの笑みだった。

やはり出て来て憑いてるモンを祓って良かった、と気に掛けていた子供の笑みを見て高杉も小さく笑みを浮かべた。

 

土方の頬に触れて額に唇を落とすと土方はえ、何だ?と頬を赤く染めた。

これが普通の男性だったら即効ぶん殴っていたが高杉は神様と土方の中には既にインプットされていて殴るという選択はなかった。

 

「もし明日また体が重そうだったらまたここに来な、祓ってやる」

 

忘れていたのに思い出した土方は青くなったが何かあれば此処に来たら良いと言う高杉に甘える事にして家に帰ろうと踵を帰した。

 

橋を渡って表の神社に戻る前に振り返って社を見ると高杉はさっと同じ位置に変わらず座っていて見送ってくれている。

手を振ると振り返してくれた。着物の袖が長くてその手は見えなかったが。

 

ただそれだけで変な気分でくすぐったい気持ちにムズムズしながら今度こそ土方は足を動かして家へと帰った。

 

 

END

 

◆逃走不可能2

 

***

 

母が夕飯の仕度をする為に下へと降りて行く後ろ姿を見送ってから土方はそうだ、と男を残して部屋を出ていった。

 

残された男は暫くすると僅かに瞼を動いたかと思えばゆっくりと、その目を開いた。

 

 

 男、高杉は鼻を擽った嗅ぎ慣れぬ甘い匂いに意識を浮上させると重かった瞼を持ち上げて目を開いた。

真っ先に飛び込んで来た白い天井は見知らぬ景色で高杉は可笑しいと体を起こした。

ズキッと体の至る所に激痛が走り顔をしかめたが騒ぐ程のものではない。

 

問題なのはここが何処なのかだ。案の徐部屋を見渡せば見覚えのない知らない部屋だ。

余り物がなくきっちり整理整頓がされていてどこか殺風景にも見えるが落ち着いたこの部屋はどうやら女の部屋であるのは分かった。

 

壁に掛けられてる服が女のものだったからだ。この部屋の持ち主は学生か…紺色のセーラー服を見て高杉は冷静に分析していた。

いくら頭を捻っても気絶した後の記憶がない。確か自分は追手を撒いてどこかの路地裏に身を潜めた筈でこんな所に来た覚えはないのだ。

 

まさか自分が人の気配にも気付かず無防備に落ちていたと…?

 

それは余りにも危機感が無さ過ぎる。

いつ寝首を掻かれても可笑しくない無防備だった己の状態に高杉は眉間にシワを寄せた。

 

 その時、高杉が硬い表情で考え込んでいるとドアが開いて土方が戻って来た。高杉はハッと我に返ってドアの方を睨んだ。

 

「あ…」

 

起き上がってる高杉を見て土方の蒼い目が大きく見開かれた。高杉は入ってきた土方を見て体に緊張が走りいつでも動けるように力を入れつつ警戒しながら土方を見つめた。

 

「起きたのか」

 

 ホッと安心したように胸を撫で下ろして土方が高杉に声を掛けた。近付いてくる土方の動向を注意深く探りながら高杉はここは何処だと低い声で問い掛ける。

 

笑みを浮かべながら土方はベットに足を乗り上げて膝を着くと両手をついて高杉を下から見上げた。

 

「俺の部屋」

 

俺…?女なのに一人称が男って…何だこの女。

至近距離から覗き込まれて居心地悪いと感じながら高杉は微塵もそんな事は表には出さず土方を真っ直ぐに見下ろした。

 

 碧の瞳…。

 

やはり想像した通り、綺麗な瞳である事は間違いなかった。

左目は怪我でもしたのかうっすらと傷痕が残っていて開かれる事はない。

それでも残った右目の視線の鋭さは損なわれていない、鋭利なその視線は土方を昂らせた。

ニヤけそうになる顔を何とか抑えつつ土方は高杉の目をうっとり見つめながら名前を訊ねる。

 

「名前は?俺は土方十四乃」

「……晋助」

 

人の指図は素直に受けない高杉だったが育ちは良かった為、名乗られたら名乗りなさいと敬愛する先生に教えられ、名字は伏せて下の名前で名乗った。

土方はそれだけで十分だったのか嬉しそうに微笑んだ。

 

その笑った表情が綺麗で高杉は一瞬呆気に取られたその瞬間、ガチャッと金属の音が鳴った。

 

ガチャッ…?

 

下を見下ろすと土方の手には細い鎖が握られている。

その鎖が伸びている先に触れると、首にチョーカーというには余りにも太く頑丈な作りの…首輪が着けられていた。

 

「っ……?!」

 

首輪を着けられて高杉は動揺した。

鋭い目が大きく見開かれて首輪を着けた張本人を見下ろす。

当の土方はくすくす笑って首輪に触れ、そのまま上に指を滑らすと高杉の頬へ触れた。

 

「晋助。お前を見付けてここまで何度も転びそうになりながら運んだのは俺だ。傷の手当ても、俺がした」

 

感謝の言葉でも望んでいるのか?と思ったが口を開く暇もなく土方は続ける。

 

「訳ありなんだろ?何も聞かないでやるから、これからは晋助は俺の所有物だ。ずっと此処に居ろ」

 

上からの物言いに高杉の目付きが鋭くなる。

しかも所有物ときた。野良猫とでも勘違いしてるのかこのキチガイ女は。

 

訳も分からないヤツに飼われて堪るかよ、と頬を撫でる土方の手を振りほどきベットから降りて出て行こうとすれば土方がおっとりとした声音で高杉の背中に声を掛ける。

 

「良いのか晋助。これをバラまかれても」

 

高杉が振り返ると笑顔の土方が持っていたのは高杉の顔が大きく乗っている迷子の広告チラシだった。

いつの間にそんな物を作ったのか、高杉が拒否すればこれをあちこちに貼ってくる、と笑顔で脅して怖い事を言う土方を高杉はどうする事も出来なかった。

 

こんなチラシを貼られてしまっては折角撒いた追手に足がバレてしまうのは時間の問題だ。

 

小さく舌打ちすれば高杉が出ていくつもりがなくなったと分かったのか土方が優艶に微笑みドアの前で立ち竦む高杉に近付いてその手を握った。

 

「安心しろよ、別に晋助をどうこうするつもりはねェんだ。ただ晋助が欲しいだけだから」

 

先ずそれが可笑しいだろ…素性の知れない男を欲しがるなんてどうかしている。

 

しかし一応助けて貰った身の上、言葉にはしてなかったが匿ってくれるみたいだからと高杉は暫く土方の世話になる事を決めた。

 

もはや諦めたと言ってもいい。

こうして高杉晋助は土方十四乃のモノとなった。

 

 

 

 

END

 

取り合えずはここまでで。

◆逃走不可能(現パロ高土♀)

※大学生の土方さんと訳有り高杉さん

※土方さんが若干ヤンデレ風で束縛酷いです。

※土方さんの母親というオリキャラが出てきます。

キャラ崩壊激しいので苦手な方は回れ右でお願いします。

 

 

 

 

 

 

冬が過ぎ、春が来て蕾が開いて桜が咲き、何日もすれば儚く散って暖かな日が続いたと思ったらあっという間に梅雨が訪れた。

忙しない季節の変わりように人々は馴れたように日々思うがままに送っている。

 

曇り空から雨が降り注ぎ、土方の紺緑色の傘を絶え間なく濡らした。

季節が梅雨に入ってから今朝見た天気予報は来週までずっと雨のマークだった。

 

雨が嫌いって訳ではないのだけどこうも毎日雨だと気分が上がらず鬱になるというものだ。

部活の剣道も3年になって引退したから暇なのだ。受験の勉強も毎日と言って良い程にしてるからこれといって焦る必要もなかった。

学校に忘れ物をして面倒だったがわざわざ取りに行った帰り道、道行く所で雨に濡れる紫陽花を目にしながら雨の飛沫で湿った冷えた肩を乾かしたくて早く帰ろうと近道を通る。

 

日の当たらない民家のほの暗い路地裏や細道を迷いもなく進んでいた土方はピタッとうごきを止めた。

ごみ箱の方から足が見えた気がしたのだ。

 

もし死体だから警察に電話しないと、とポケットから携帯電話を取り出しつつそれに近付く。

ごみ箱の陰で見えなかったそれが見える位置まで近付いてった土方は息を止めた。

 

死体ではなかった。

 

死体ではなかった事に内心ホッとしつつ土方は気絶してるのか近付いてもピクリとも反応を示さない死体と勘違いした男を、見下ろした。

紫紺の髪が雨に濡れて肌に貼り付いていた。鼻筋は高く、薄い唇が雨で何故か色っぽく見えた。目は閉じられてて何色か分からないが綺麗な瞳である事は土方には分かった。

倒れている男は、女の土方でも目を奪う程に綺麗な顔をした男だった。

 

暴力沙汰に巻き込まれたのか綺麗と思った顔に所々かすり傷があって血が滲んで痛そうだ。

 

着ている上衣もナイフがかすった後のようなものがあってボロボロだ。一目見て関わったらろくな事が起きないと分かってはいたが土方はその男の腕を引っ張った。

 

剣道で鍛えていても女の土方では成人男性を簡単に抱えられる訳ではないから持ち上げるのに苦労したが時間を掛けて何とか自分の肩に腕を回させると男の背中に腕を回して一歩踏み出す。

傘は邪魔だから畳んでしまった。あんなに早く冷えた体を温めたかったのに雨を遮るものがなくなって土方の体を遠慮なく冷やした。

いつからここで倒れていたのか男の体の方がもっと冷えていて早く手当てしてやりたくて急ぎ帰宅しょうと重い体を背負って土方は服が水分を含んで二人分の重さに何度も転びそうになりながらも足を止めなかった。

 

警察に通報すれば早かったと分かってるが通報するつもりはこれっぽちもなくなった。

 

土方は、この男が欲しくなってしまった。

 

 

 

 ***

 

「ただいま」

 

半ば男を引き摺るようにして帰宅し、玄関のドアを開けて中に入ると暖かくて冷やされた体が少し温まった気がした。

 

「十四乃おかえりなさい~」

「おかえ…り…?!!」

 

傘を一先ず傘立てに立てると奥からパタパタとスリッパの足跡が聞こえると母と兄が出迎えてくれた。

けれど母の後から来た兄の為五郎が言葉の途中でずぶ濡れの土方が背負ってるこれまた凍えてそうなずぶ濡れの男を見て言葉に詰まって驚いた。母もあら、と口元を手で押さえながら目を見開いている。

 

そんな家族を意に返さず土方はよいしょっ、とずり落ちる男の腕を抱え直しながら二人に聞いた。

 

「母さん、兄さん。お風呂沸いてる?」

 

それは見当違いな発言だったがどこかずれてる土方家は直ぐに可笑しいこの状況から立ち直って母が直ぐに沸かせるわよ~と微笑み、為五郎がお前もずぶ濡れで冷えてるだろうしその人は俺が風呂に入れてくるからお前は先ず体を拭いて着替えて来なさい、と男を受け取った。

 

土方も為五郎の言うことを素直に聞いて頷き男を為五郎に任せて2階の奥にある自分の部屋へと上がった。

 

男をお風呂に入れ終えて為五郎の服を着替えさせると素性も知れないのに女の土方の部屋へと寝かせた。

男勝りな所のある土方であったがこれでもお年頃の女であるのにも関わらず為五郎も母も、疑問に思うこともなく運んだのだ。

土方本人の希望もあったというのもあるが誰も止めなかったのである。今ここに一般常識を唱える者は、いなかった。

 

土方もお風呂を済ませてベットに眠る男の傍に座りつつ見下ろしながら母が持って来てくれたホットレモンにマヨネーズを乗せる。

 下が見えなくなるまでマヨネーズを搾ると一口飲んでホッと息を付く。

お風呂に入って体の内側からも温めるとやはり違う。

 

「綺麗な顔の人ね」

 

いつまでも男から視線を外さない娘に母がにっこり微笑む。それにやっと男から視線を外して座ったまま母を見上げて土方は切り出した。

 

「母さん。俺この男が欲しい。自分のモノにして良いか?」

 

土方は良いかと聞いているが、その目は固く決意を固めているのか拒否されても簡単に諦めそうになかった。何がなんでも男をここに置いとくと目が物語っていた。

普通の親ならどこの馬の骨かもしれない素性の知れない男を愛娘の傍に置くなんて了承しない。けれど土方の母は、

 

「良いわよ」

 

と、笑顔で迷うことなく頷いた。

土方も随分とあっさりしたその返事に呆れる訳でもなく嬉しそうに笑ってありがとう!と喜んだ。

滅多に甘えずおねだりもしない愛娘の珍しいお願いを親として断る訳がなかった。

 

後から為五郎にも一応とばかりに聞くが土方は為五郎も否とは言わないだろうと確信していて今はまだ眠っている男が自分の手元に置けるのに微笑んだ。

 

 

 

 

 続