mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆蛟の守り神(高土)

 

 

最近学校から帰ってくると段々と体が重くなる事が多くなったと感じる。

 

今も学校から帰って来て部屋に戻ると何故かドッと酷く疲れている。気分も余り良くないしどこか体調が悪い訳でもないのに最近のこの状態が可笑しいって嫌でも気付いてしまう。

 

可笑しいのは学校にいる時には何も感じないし頗る元気なのに、学校を出て小さい頃からつるんでいた近藤さんや総悟と別れた途端に何かに乗っかられたんじゃないかという程に肩が重くなるのだ。

 

これにはまさか、と思い至る事がある。

昔からよく聞く話だ。それは俺にとっては凄く迷惑な話だし苦手なものだが。

 

よく言うだろ、憑かれると肩が重くなるって。

 

想像してしまって土方はブルブルと頭を振って下に下りた。

母から家の裏の神社にある池の蛟様へとお供え物を添えてくれと頼まれていたンだったのを思い出したのだ。

 

蛟様は水の神様で昔ここの地域を街をも呑み込もうとした洪水から守って下さったと云う。それかというもの蛟様の社はこの地域に住んでる者たちからは愛されていて毎日毎日祈りやお供え物を捧げに来る人が途切れない。

かくいう土方も信仰なんてものはないが幼い頃からの習慣から蛟様の社には1週間の内に1度は訪れてお供え物を置いていた。

 

慣れた道を歩き進むと神社の奥にある大きな池の真ん中に水に浮かんで見えて鎮座する社が目に入った。

ここの池は水が透明で綺麗なままだから水の中に泳ぐ鯉や亀などがハッキリと見える。季節によっては周りに花も咲いててよくアゲハ蝶とか見られる。蛟様は動植物にも好かれているのかな。

 

社へ続く橋を渡りながら泳ぐ魚を見下ろしてると社の前へ着いた。

 

いつも掃除されているからか埃の一つ、汚れもなくピカピカの社を見て相変わらずだな、と土方は小さく笑った。

 

手に持ってたビニール袋を持ち上げると中から日本酒を取り出す。そのまま瓶ごと日本酒を社に置いた。これがいつも蛟様に捧げるお供え物なのだ。

可笑しな話だが蛟様は日本酒が大好物らしいのだ。勿体ないから俺にくれよな、と思いつつ(高校生にして煙草だけじゃなく酒の味まで覚えてしまっているのだ)まぁ、水の神様だから水が好きなのかな?と思いながら両手を合わせて目を閉じると後ろからバシャッと水の跳ねる音が響いた。

 

「ん?」

 

何だ?と振り返ると池の中に人が居た。

人、というにはその格好は今の時代余り見掛けない蒼い着物で薄紫の被り物をしていた。

そしてよく見たら、水の中から顔を出してる竜の尻尾みたいなのがゆらりと揺れているではないか。

 

土方はいきなり現れた得体の知れないモノに目を見開き、声にならない叫びを上げた。

 

「ーーーーーっっ!!!!!」

 

こういうものが苦手な土方は今にも失神してしまいそうな程だったが池の中にいるモノが振り返ってきたのだ。

その顔を見たら今度こそ気絶する、と確信していたのだったが土方は気絶しなかった。

 

振り返ったそのモノは、想像していた怖い顔やグロい顔をしてなかったからだ。

 

 

「やっぱてめェか。今日はえらく沢山引き連れてたなァ」

 

男の低い声。

振り返ったそのもの、男の顔は言うなれば美形に入るものだった。紫紺の髪がサラリと風に揺れ、細長の碧の目が土方を真っ直ぐに射いた。

左目は黒い眼帯で隠されていてその風貌は近寄り難いものだったが綺麗な顔は誰もが目を奪われるだろう。

男なのに女用の着物を身に付け帯を前に大きく垂らす姿は女装好きか?と思ってしまうのだけど何故かその格好が男には酷く似合っていて自然な感じだった。

 

暫し茫然とその姿をまるで狐に摘ままれたかのように見つめているとその男が近付いてきた。

 

「オイ?」

 

「あ…な、何だ?」

 

声を掛けられて我に返る。

ビクビクと男を見返して返事を返すと別に捕って食いやしねェから安心しろよ、と笑われた。

それに安心しながらやはりこの男は人間じゃないのか?!!!と再度悲鳴を上げそうになった。

 

「お前、好かれやすいのか?」

「は?何が…?」

 

男の正体を聞いてもし連れられそうになったらどうしょう?!!と怖くて何も聞けずにいると男は土方を見つめながら目を細める。

独り言のような呟きだったから土方はよく聞こえなかったのでキョトンと聞き返すと男は土方の背後を指差して今度は土方に問い掛けた。

 

「だからお前、霊とかに憑かれやすいのか?いっぱい居るぜ」

 

土方は背後を振り返るが何も居ない。

前を向くと男は土方の背後を睨んでいて土方は今度は声を出して悲鳴を上げた。

 

「ぎゃぁぁぁああっ!!!!」

 

 土方は悲鳴を上げてその場に倒れた。

 

 

 

 

***

 

「ククッ…気絶する程苦手なのに好かれやすいンだもんなァ?」

「うぅ…やめろよ、風呂入れなくなる」

 

土方が倒れたあの後、驚いた男が池から社へ上がると土方の頭を膝に乗せて横たわらせると長い尾びれを守るように土方に巻き付かせた。

青冷めながらう~ん…う~ん、と魘される土方の頬を撫でてその手が冷たくて気持ちいいのか顔色の悪かった顔がスッと良くなった。

 

何とか土方が目を覚ますとこの年になって膝枕されたのに赤くなったり、男の長い尾びれを見て青くなったりと忙しなかった。

男はそんな一々反応の面白い土方を笑っていた。

 

「てか何…俺そんな憑かれてたのか…?」

 

体が重かったりしてたけどもしかして、それが理由?と恐る恐る男を見る。

男は煙管を燻らしながら妖艶に微笑んだ。

 

「ここまで連れてるのは俺も初めて見たぜ。よく今まで無事だったなァ、お前」

 

ひぃぃいっ!!!と自分の体を抱いて震える土方に一々反応が面白れェ。と男は口端を持ち上げる。

 

「笑うな!!俺にとっては死活問題なんだよ!!!」

「安心しろ、今はもう何も憑いちゃいねェよ。体軽いだろ?」

 

言われて土方は目を丸くすると、確かに…と自分の体を見下ろした。

来る前は肩が重かったが今は軽くて、逆になんかいつとより調子が良いといっていい。

何でだ?と首を傾げる土方に男はふん、と続けた。

 

「俺の領域に勝手に入って来たんだ、それ相応の対応をしてやったからな」

 

 

それはつまり退治、祓ったと…?

 

なんか普通に会話してたから忘れてて聞いてなかったがそう言えばこの男の正体って何?!!!

良く良く見れば耳がエラだし尾びれも普通の魚のようにヌルヌルしてなくて鱗の一つ一つが綺麗に磨かれたようにキラリと光を弾いていてさっき触れた時冷たくて気持ち良かった。けど

やっぱり人間じゃないし!!!!

 

「あ、アンタ一体…」

 

意を結して真顔で男に聞くと男は今更かよ、という顔をしたが口から煙管を離してニヤリと笑った。

 

「俺ァ蛟だ。ここの社の主だよ」

 

ゆらりと尾びれを揺らしながら言う男に土方は今日何度目か知れない目を大きく見開いて驚いた。ええぇええッ?!蛟様って存在してたのか…?!!

ポカーンと間抜け面を晒す土方の反応はやはり久しぶりに人と関わった男には酷く面白かった。

 

「は…?え?こんな目付きの悪い神様がいて良いのか…?」

「祟るぞ」

「ごめんなさい!」

 

失礼な子供を睨むと一瞬にして頭を下げて謝った。元々祟るつもりなんてないが男は土方の変わりようにもう苦笑いするしかない。

 

「ククッ…冗談だ」

「…え、と…蛟、様?」

「…高杉晋助だ。蛟というのは俺という存在のシンボルみてェなものだから晋助で良いぜ」

 

神様を呼び捨てにして良いのか?と躊躇う土方だが男、高杉が許すと言うから晋助と呼ぶ事を了承した。

 

晋助が異例だと思うのだけど神様ってなんか畏まった感じでこんな気軽に話せる者じゃないと思ってたのになんか想像した感じじゃなかった。

 

土方が隣に座る高杉を見下ろすと隻眼の碧の目と視線があった。

ドキッと何故か胸が高鳴るのを感じて慌てて視線を逸らすと高杉がそろそろ、と切り出した。

 

「十四郎、暗くなる前に帰りな」

 

来た時はまだ青空が広がっていたが既に日没前になっていて後数分もすれば暗くなってしまうだろう。

随分と長居してしまったから母も心配している筈だ。土方は頷いて立ち上がるとはた、と動きを止めて高杉を見返した。

 

「俺、名乗ったっけ?」

 

何で俺の名前知ってンだ?と不思議そうな顔をする土方に高杉は当たり前だろ、と返す。

 

「小せェ頃から高校生になってまでも供え物を置きに来るのはお前くらいだ。知っていて当然だろ」

 

まさか小さい頃に通っていたのを覚えていて今まで見ててくれたというのか。

神様はいつも傍で見守ってくれている、その祖母や母の言葉が迷信とか願掛けみたいな嘘ではなく本当の事で知らず土方の胸を熱くして言葉に詰まった。

 

「そ、か…」

 

土方が小さく笑うと高杉は目を見張る。

その屈託のない笑顔が最近余り元気のなかった土方の久しぶりの笑みだった。

やはり出て来て憑いてるモンを祓って良かった、と気に掛けていた子供の笑みを見て高杉も小さく笑みを浮かべた。

 

土方の頬に触れて額に唇を落とすと土方はえ、何だ?と頬を赤く染めた。

これが普通の男性だったら即効ぶん殴っていたが高杉は神様と土方の中には既にインプットされていて殴るという選択はなかった。

 

「もし明日また体が重そうだったらまたここに来な、祓ってやる」

 

忘れていたのに思い出した土方は青くなったが何かあれば此処に来たら良いと言う高杉に甘える事にして家に帰ろうと踵を帰した。

 

橋を渡って表の神社に戻る前に振り返って社を見ると高杉はさっと同じ位置に変わらず座っていて見送ってくれている。

手を振ると振り返してくれた。着物の袖が長くてその手は見えなかったが。

 

ただそれだけで変な気分でくすぐったい気持ちにムズムズしながら今度こそ土方は足を動かして家へと帰った。

 

 

END

 

◆逃走不可能2

 

***

 

母が夕飯の仕度をする為に下へと降りて行く後ろ姿を見送ってから土方はそうだ、と男を残して部屋を出ていった。

 

残された男は暫くすると僅かに瞼を動いたかと思えばゆっくりと、その目を開いた。

 

 

 男、高杉は鼻を擽った嗅ぎ慣れぬ甘い匂いに意識を浮上させると重かった瞼を持ち上げて目を開いた。

真っ先に飛び込んで来た白い天井は見知らぬ景色で高杉は可笑しいと体を起こした。

ズキッと体の至る所に激痛が走り顔をしかめたが騒ぐ程のものではない。

 

問題なのはここが何処なのかだ。案の徐部屋を見渡せば見覚えのない知らない部屋だ。

余り物がなくきっちり整理整頓がされていてどこか殺風景にも見えるが落ち着いたこの部屋はどうやら女の部屋であるのは分かった。

 

壁に掛けられてる服が女のものだったからだ。この部屋の持ち主は学生か…紺色のセーラー服を見て高杉は冷静に分析していた。

いくら頭を捻っても気絶した後の記憶がない。確か自分は追手を撒いてどこかの路地裏に身を潜めた筈でこんな所に来た覚えはないのだ。

 

まさか自分が人の気配にも気付かず無防備に落ちていたと…?

 

それは余りにも危機感が無さ過ぎる。

いつ寝首を掻かれても可笑しくない無防備だった己の状態に高杉は眉間にシワを寄せた。

 

 その時、高杉が硬い表情で考え込んでいるとドアが開いて土方が戻って来た。高杉はハッと我に返ってドアの方を睨んだ。

 

「あ…」

 

起き上がってる高杉を見て土方の蒼い目が大きく見開かれた。高杉は入ってきた土方を見て体に緊張が走りいつでも動けるように力を入れつつ警戒しながら土方を見つめた。

 

「起きたのか」

 

 ホッと安心したように胸を撫で下ろして土方が高杉に声を掛けた。近付いてくる土方の動向を注意深く探りながら高杉はここは何処だと低い声で問い掛ける。

 

笑みを浮かべながら土方はベットに足を乗り上げて膝を着くと両手をついて高杉を下から見上げた。

 

「俺の部屋」

 

俺…?女なのに一人称が男って…何だこの女。

至近距離から覗き込まれて居心地悪いと感じながら高杉は微塵もそんな事は表には出さず土方を真っ直ぐに見下ろした。

 

 碧の瞳…。

 

やはり想像した通り、綺麗な瞳である事は間違いなかった。

左目は怪我でもしたのかうっすらと傷痕が残っていて開かれる事はない。

それでも残った右目の視線の鋭さは損なわれていない、鋭利なその視線は土方を昂らせた。

ニヤけそうになる顔を何とか抑えつつ土方は高杉の目をうっとり見つめながら名前を訊ねる。

 

「名前は?俺は土方十四乃」

「……晋助」

 

人の指図は素直に受けない高杉だったが育ちは良かった為、名乗られたら名乗りなさいと敬愛する先生に教えられ、名字は伏せて下の名前で名乗った。

土方はそれだけで十分だったのか嬉しそうに微笑んだ。

 

その笑った表情が綺麗で高杉は一瞬呆気に取られたその瞬間、ガチャッと金属の音が鳴った。

 

ガチャッ…?

 

下を見下ろすと土方の手には細い鎖が握られている。

その鎖が伸びている先に触れると、首にチョーカーというには余りにも太く頑丈な作りの…首輪が着けられていた。

 

「っ……?!」

 

首輪を着けられて高杉は動揺した。

鋭い目が大きく見開かれて首輪を着けた張本人を見下ろす。

当の土方はくすくす笑って首輪に触れ、そのまま上に指を滑らすと高杉の頬へ触れた。

 

「晋助。お前を見付けてここまで何度も転びそうになりながら運んだのは俺だ。傷の手当ても、俺がした」

 

感謝の言葉でも望んでいるのか?と思ったが口を開く暇もなく土方は続ける。

 

「訳ありなんだろ?何も聞かないでやるから、これからは晋助は俺の所有物だ。ずっと此処に居ろ」

 

上からの物言いに高杉の目付きが鋭くなる。

しかも所有物ときた。野良猫とでも勘違いしてるのかこのキチガイ女は。

 

訳も分からないヤツに飼われて堪るかよ、と頬を撫でる土方の手を振りほどきベットから降りて出て行こうとすれば土方がおっとりとした声音で高杉の背中に声を掛ける。

 

「良いのか晋助。これをバラまかれても」

 

高杉が振り返ると笑顔の土方が持っていたのは高杉の顔が大きく乗っている迷子の広告チラシだった。

いつの間にそんな物を作ったのか、高杉が拒否すればこれをあちこちに貼ってくる、と笑顔で脅して怖い事を言う土方を高杉はどうする事も出来なかった。

 

こんなチラシを貼られてしまっては折角撒いた追手に足がバレてしまうのは時間の問題だ。

 

小さく舌打ちすれば高杉が出ていくつもりがなくなったと分かったのか土方が優艶に微笑みドアの前で立ち竦む高杉に近付いてその手を握った。

 

「安心しろよ、別に晋助をどうこうするつもりはねェんだ。ただ晋助が欲しいだけだから」

 

先ずそれが可笑しいだろ…素性の知れない男を欲しがるなんてどうかしている。

 

しかし一応助けて貰った身の上、言葉にはしてなかったが匿ってくれるみたいだからと高杉は暫く土方の世話になる事を決めた。

 

もはや諦めたと言ってもいい。

こうして高杉晋助は土方十四乃のモノとなった。

 

 

 

 

END

 

取り合えずはここまでで。

◆逃走不可能(現パロ高土♀)

※大学生の土方さんと訳有り高杉さん

※土方さんが若干ヤンデレ風で束縛酷いです。

※土方さんの母親というオリキャラが出てきます。

キャラ崩壊激しいので苦手な方は回れ右でお願いします。

 

 

 

 

 

 

冬が過ぎ、春が来て蕾が開いて桜が咲き、何日もすれば儚く散って暖かな日が続いたと思ったらあっという間に梅雨が訪れた。

忙しない季節の変わりように人々は馴れたように日々思うがままに送っている。

 

曇り空から雨が降り注ぎ、土方の紺緑色の傘を絶え間なく濡らした。

季節が梅雨に入ってから今朝見た天気予報は来週までずっと雨のマークだった。

 

雨が嫌いって訳ではないのだけどこうも毎日雨だと気分が上がらず鬱になるというものだ。

部活の剣道も3年になって引退したから暇なのだ。受験の勉強も毎日と言って良い程にしてるからこれといって焦る必要もなかった。

学校に忘れ物をして面倒だったがわざわざ取りに行った帰り道、道行く所で雨に濡れる紫陽花を目にしながら雨の飛沫で湿った冷えた肩を乾かしたくて早く帰ろうと近道を通る。

 

日の当たらない民家のほの暗い路地裏や細道を迷いもなく進んでいた土方はピタッとうごきを止めた。

ごみ箱の方から足が見えた気がしたのだ。

 

もし死体だから警察に電話しないと、とポケットから携帯電話を取り出しつつそれに近付く。

ごみ箱の陰で見えなかったそれが見える位置まで近付いてった土方は息を止めた。

 

死体ではなかった。

 

死体ではなかった事に内心ホッとしつつ土方は気絶してるのか近付いてもピクリとも反応を示さない死体と勘違いした男を、見下ろした。

紫紺の髪が雨に濡れて肌に貼り付いていた。鼻筋は高く、薄い唇が雨で何故か色っぽく見えた。目は閉じられてて何色か分からないが綺麗な瞳である事は土方には分かった。

倒れている男は、女の土方でも目を奪う程に綺麗な顔をした男だった。

 

暴力沙汰に巻き込まれたのか綺麗と思った顔に所々かすり傷があって血が滲んで痛そうだ。

 

着ている上衣もナイフがかすった後のようなものがあってボロボロだ。一目見て関わったらろくな事が起きないと分かってはいたが土方はその男の腕を引っ張った。

 

剣道で鍛えていても女の土方では成人男性を簡単に抱えられる訳ではないから持ち上げるのに苦労したが時間を掛けて何とか自分の肩に腕を回させると男の背中に腕を回して一歩踏み出す。

傘は邪魔だから畳んでしまった。あんなに早く冷えた体を温めたかったのに雨を遮るものがなくなって土方の体を遠慮なく冷やした。

いつからここで倒れていたのか男の体の方がもっと冷えていて早く手当てしてやりたくて急ぎ帰宅しょうと重い体を背負って土方は服が水分を含んで二人分の重さに何度も転びそうになりながらも足を止めなかった。

 

警察に通報すれば早かったと分かってるが通報するつもりはこれっぽちもなくなった。

 

土方は、この男が欲しくなってしまった。

 

 

 

 ***

 

「ただいま」

 

半ば男を引き摺るようにして帰宅し、玄関のドアを開けて中に入ると暖かくて冷やされた体が少し温まった気がした。

 

「十四乃おかえりなさい~」

「おかえ…り…?!!」

 

傘を一先ず傘立てに立てると奥からパタパタとスリッパの足跡が聞こえると母と兄が出迎えてくれた。

けれど母の後から来た兄の為五郎が言葉の途中でずぶ濡れの土方が背負ってるこれまた凍えてそうなずぶ濡れの男を見て言葉に詰まって驚いた。母もあら、と口元を手で押さえながら目を見開いている。

 

そんな家族を意に返さず土方はよいしょっ、とずり落ちる男の腕を抱え直しながら二人に聞いた。

 

「母さん、兄さん。お風呂沸いてる?」

 

それは見当違いな発言だったがどこかずれてる土方家は直ぐに可笑しいこの状況から立ち直って母が直ぐに沸かせるわよ~と微笑み、為五郎がお前もずぶ濡れで冷えてるだろうしその人は俺が風呂に入れてくるからお前は先ず体を拭いて着替えて来なさい、と男を受け取った。

 

土方も為五郎の言うことを素直に聞いて頷き男を為五郎に任せて2階の奥にある自分の部屋へと上がった。

 

男をお風呂に入れ終えて為五郎の服を着替えさせると素性も知れないのに女の土方の部屋へと寝かせた。

男勝りな所のある土方であったがこれでもお年頃の女であるのにも関わらず為五郎も母も、疑問に思うこともなく運んだのだ。

土方本人の希望もあったというのもあるが誰も止めなかったのである。今ここに一般常識を唱える者は、いなかった。

 

土方もお風呂を済ませてベットに眠る男の傍に座りつつ見下ろしながら母が持って来てくれたホットレモンにマヨネーズを乗せる。

 下が見えなくなるまでマヨネーズを搾ると一口飲んでホッと息を付く。

お風呂に入って体の内側からも温めるとやはり違う。

 

「綺麗な顔の人ね」

 

いつまでも男から視線を外さない娘に母がにっこり微笑む。それにやっと男から視線を外して座ったまま母を見上げて土方は切り出した。

 

「母さん。俺この男が欲しい。自分のモノにして良いか?」

 

土方は良いかと聞いているが、その目は固く決意を固めているのか拒否されても簡単に諦めそうになかった。何がなんでも男をここに置いとくと目が物語っていた。

普通の親ならどこの馬の骨かもしれない素性の知れない男を愛娘の傍に置くなんて了承しない。けれど土方の母は、

 

「良いわよ」

 

と、笑顔で迷うことなく頷いた。

土方も随分とあっさりしたその返事に呆れる訳でもなく嬉しそうに笑ってありがとう!と喜んだ。

滅多に甘えずおねだりもしない愛娘の珍しいお願いを親として断る訳がなかった。

 

後から為五郎にも一応とばかりに聞くが土方は為五郎も否とは言わないだろうと確信していて今はまだ眠っている男が自分の手元に置けるのに微笑んだ。

 

 

 

 

 続

◆杉にゃんとトシにゃんの日常!

 


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ポカポカ。

 

ひらひら。

 

キーンと肌を刺す冬の厳しい寒さが薄れて行き、太陽が降り注ぐ時間が増えてきた春の今…桜の蕾が開花して可愛らしい花びらがひらひらと風に乗って気儘に散っていく。

陽射しが暖かく、街行く人たちの姿格好は厚着から動きやすくゆったりしたものに変わっていた。子供たちも元気よく駆け足で走り回ってる。

 

そんな暖かな良い天気に高杉は、酒を片手に一人桜の大きめの枝に座って花見をしていた。

 

機嫌が良いのか紫紺の毛並みの良い長いしっぽがゆらりゆらりと左右に揺れ、頭の上の三角の可愛らしい片耳が時折ぴくっと動く。

鋭いその碧の目も柔らかく、風に揺れる桜を眺めている。

 

風流をこよなく愛する高杉は季節によって様々な花を咲かせるこの桜の樹から眺める景色が好きだった。

 

「晋助~!!」

 

酒を口に運びながら体を倒して上手くバランスを保ちながら枝に寝そべってると下の方から子供の声が呼んでくる。

見下ろすと愛しい子猫が駆け足でこっちに近付きながらその可愛らしい顔を膨れさせていた。

どうやら寝ている間に出て行ってしまった事を怒っているみたいだ。

 

爪で軽く引っ掻いて飛び上がるとその小さい体でひょいひょいと身軽に木の上を登って来る。元々猫だから枝を伝うのも流石に上手くてあっという間に高杉の所まで辿り着いた。

 

「晋助!置いてくなんて酷いぞ!」

 

寝そべる高杉の懐に入りその顔を蒼い目で睨み付けて文句を言うのは高杉と同様に元は子猫だったが坂本の持ってきた薬によって擬人化した高杉の愛し子の土方十四郎だった。

 

高杉は怒る土方に微塵も怖がる事はなかった。怒る十四郎も可愛いなァ…と頭で思いつつ登って来る時に付いたのか頭に桜の花びらが幾つか貼り付いていたのを取ってやる。

 

「オメぇが気持ち良さそうに寝てたから起こすのも悪ィと思ったンだよ、そう怒るな」

 

「でも…オレは晋助と一緒に居たかった」

 

自分を思って起こさなかったのは嬉しかったが高杉が大好きな土方はそれでも不満だった。

一緒に居たいから気にせず起こしてくれれば良かったのに、と花びらを取ってくれる指が不意に耳に触れるとぴくっと反応させつつ唇を尖らせると高杉は小さく笑みを浮かべて微笑んだ。

 

「今度は起こしてやるから」

 

高杉がそう約束すると土方はぱぁっ!と嬉しそうに表情を綻ばせると高杉に顔を近付けて小さな鼻を高杉の鼻とつん、とくっ付けて触れさせた。

猫同士の挨拶でよく見る光景だったが成人男性の姿である高杉と子供の姿の土方がやると大変ほっこりする光景だ。

 

そのままスリッ…と頬を高杉に擦り寄せて土方は高杉に甘える。黒いしっぽが嬉しそうにパタパタと揺れてる。高杉も土方の頭にちょんと立つ耳にちゅっと口を寄せたりと全力で甘やかしている。

 

「ふにゃ~」

 

耳や頬、瞼の上と顔中に唇を寄せる高杉に土方はくすぐったそうにくすくすと声を上げる。しかしその表情は大変満足気で嬉しそうだ。

 

桜花びら舞う中で高杉と土方はお互いを見つめながら幸せそうに笑っていた。

 

 

END

 

◆銀魂カフェ(高土)

 

銀魂カフェ。

先日面白いお店が欲しいと万事屋にいくつもの願望の依頼が入り、万事屋は面倒くせぇと重い腰をあげたくなかったみたいだが子供たちがこれも仕事ネ!それに稼いだ金はこっちのものだから開くヨロシ!と乗り気なものだから開く事になったお店だ。

 

ただ借りた店がかなりの大きさで3人だけじゃ回せないって事で助太刀を頼むことになった。 

真選組ならまだ分かる。何故か手伝ってくれと言ってもないのにどこから聞き付けたのか桂が真選組が居ようと変装してまで手伝ってくれたのだ。単に誘ってくれなくて寂しかったのだろうけど。構ってちゃんの桂だから。

 

あり得なかったのが宇宙にいる筈の高杉と神威も来てくれた事だった。

 

嫌がる高杉を坂本が引っ張って来たらしい。

神威はタダ飯食えるなら手伝うけど?と無償では働かないと脅したからこのお店が終わったらかなりの食費が嵩張るだろうと予想出来た。売上もその食費で消えてしまいそうな予感が僅かにした。

たくさんの知人が来てくれたおかげでお店が回せそうだと依頼者の待望でやっと開く事になった。

制服はそれぞれのイメージカラーと白の市松柄の着物で紺色の袴、そして黒のショートブーツに決まったのだがこれが中々に皆似合っていた。

 

制服も決まり、役割分担をすると裏で調理をするのが普段からも家事をする手先器用の銀時、サポートに回るのが新八と同じく調理の土方にサポートの山崎だ。

接客に回るのが神楽、真選組の近藤と沖田。桂に坂本と高杉と神威の7人だ。

 

銀時がおいおい、アイツらに接客なんて出来んのか?真選組はまだ分かるがヅラと辰馬はアホだし高杉なんかは愛想がねーだろ。務まるのかよ、と不安を覚えていた。

 

しかしそんな銀時の不安をそよに桂達は女性の客に偉く評判だった。

 

それもその筈。黙っていれば顔は良い者ばかり集まっているからだ。

天然バカと云われる桂だがやれば出来るしオーダーを取ると客はそのサラサラの黒髪ロングに見とれている。

辰馬は図体も声もデカいが人懐こいおおらかな笑顔は緊張をほぐし親近感と安心感を覚えさせられるのか客と自然と笑顔になっていく。

高杉は無愛想で笑顔らしい笑みを浮かべないし左目を包帯で隠してるという近付きがたい雰囲気なのだがやはりそこはあの顔。高杉の綺麗な顔と澄んだ碧の目に客の心をごっそり奪ってしまった。

 

お店は大評判で開店から閉店まで外に行列が出来る程の人気店になっていた。

 

 

 

「オイ、新規のオーダーだ」

 

お昼時、忙しく立ち回る店内では店員の声と客の賑わう声が響いていた。

高杉は新しくとったオーダーをキッチンで汗を軽くかきながら調理する土方に伝える為に1度裏に下がってきた。

 

「高杉。オーダーは?」

 

「同窓会プレートと団長の麻婆春雨丼」

 

「分かった。ついでにこれも三番テーブルに持ってけ」

 

フライパンを握った手元を見たまま土方が出来上がったばかりの北斗七軒のラーメンだったものを高杉の前に出した。

 

北斗七軒のラーメンだったものだ。

 

「……オイ」

 

思わず高杉はそれを凝視して低い声が出た。

土方があ?何だよ、さっさとそれ持ってけ冷めるだろうがと苛立った声を上げるのに高杉はギロッと睨んだ。

 

「てめェ何勝手にマヨネーズ乗せてんだ」

 

北斗七軒のラーメンの上には麺が見えなくなるまでにたっぷりと白い悪魔のマヨネーズが乗っていた。こんなメニューはなかった。

 

「マヨネーズあった方が美味しいだろ」

 

 悪気もなく土方はきょとんと返した。

大のマヨラーの土方だ。他の者もマヨが嫌いじゃないだろうと親切心でマヨを掛けたのだろう。けれどマヨネーズは嫌いじゃなくてもこんな量のマヨネーズは誰も好まないのを分かっていない。

 

悪気があれば殴ってやったが土方のこれは100%善意だ。高杉は小さく溜め息を吐くとラーメンを一瞥して土方に新しいのを作り直せと腕を組んだ。

 

「はぁ?せっかく作ったのに出さないのかよ」

 

「あのなァ…世の中誰しもマヨラーじゃねぇンだよ。これはオレが食べるからちゃんとしたのを作れ、十四郎」

 

せっかく作ったのに無駄にするのかと土方が顔をしかめたが高杉は声音を柔らかくして嗜めた。名前を呼ばれたのに土方が目元を柔らかくする。

お前が食うの?と土方が高杉を見ると棚から箸を取り出し、白い悪魔に埋もれた哀れな麺を掬って事も無げに食べてた。

 

「え?!高杉何食べてンの?!」

 

入ってきた注文を片っ端からかなりのスピードで調理してた銀時がズルズルッという啜る音に疑問を持ち振り返ると高杉が犬のエサになったラーメンを食べてるのを見て目を見開いて慌て出した。

サポートに回ってた新八と山崎は足りないものを補充しててこの場に居なかったから止められなかったのだ。

仕事をサボって食べている事に対してではない。体に悪そうなマヨネーズを大量に食べようとする事に対してだ。

 

「ちょっとちょっとぉ!お前、そんなモン食ったら腹壊すだろ?!!お前に何かあったらヅラと辰馬が煩いンだから今直ぐぺっしなさい!ぺっ!!」

 

神威も何を仕出かすか分かったもんじゃない!と調理器具を手放し、高杉から丼を奪う銀時だったがほぼほぼ平らげていて僅かなスープとナルトが底に残っているだけだった。

女性の為に考えられたメニューだからそんなに量もないもので平均男性ならペロリと食べられる量が仇となって高杉は犬のエサを完食してしまった。

 

銀時はガックリと項垂れた。

 

「おまっ…お前なぁ…!恋人だからって甘やかすな!平気で犬のエサを食べるンじゃありません!!?」

 

ご馳走さま、と銀時を無視して土方に言う高杉を銀時は怒り筋を浮かべながら叱るが何が犬のエサだ、てめぇの宇治銀時の方が犬のエサだろうが!!と土方が返した。

はぁ?!!何だと?!!!どっちのが美味いか勝負したろか?!と今にも殴り合いが始まりそうな険悪なムードの銀時と土方に傍らに立つ高杉が仕方なそうに肩を竦めた。

 

「いい加減にしろ。銀時、体調はこの通り何ともねェから入らぬ心配はするな。十四郎もちゃんと美味かったぜ」

 

睨み合う二人を引き剥がして、というか十四郎に不用意に近付くなと銀時を牽制して高杉は新しく作られた北斗七軒のラーメンをお盆に乗せて踵を返す。

 

新しく注文が入った事で銀時と土方は渋々と自分の仕事へと戻った。今日も銀魂カフェは大繁盛だった。

 

 

 

END

 

(所々書き直したり書き足すかもです)

◆待ちわびていた(高土)

 

重傷だと聞いていた。

刀を手に立っているのが、生きているのが不思議な程にその男はいくつもの深い傷を負っていていつ倒れても可笑しくなかったと。

 

だから土方は目の前の光景が信じられなくて目を見開いてただ呆然と立ち尽くした。

 

あれから1年が過ぎたのだ。

火乃迦具土神が地球に落ち江戸が崩壊してからいくつもの太陽が登り沈んでは暗い夜を月が照らしてきた。

 

宇宙で先陣に立ち戦った桂小太郎と坂本辰馬の安否は確認出来たが一人だけがそこから消えてずっと分からなかった。

皆は必ず生きていると口々に言ってきた。それは同じ思いだった。あの男が簡単に死ぬ訳がない。重傷だった。しかしあの火乃迦具土神にはアレが、天道衆の肉体があったようだった。それが消えたと報告を受けてまさか、と思いもした。

けれど男は自分の成すことの為ならどんな手段も選ばないだろうと分かっていた。

 

だから、どんな形であれ…生きている。

 

そう信じていた。

 

 

「…十四郎」

 

だから、男が…高杉が目の前に立って己の名前を呼ぶのは亡霊でも、どっかのロリコン変態が化けて出て来た訳じゃない。

 

…ちゃんと、生きている。

 

「…高、杉…」

 

呆然と立ち尽くしていた土方は何年も水を飲めなかったような掠れた声で無意識に男の名を呟いた。

その名を口にした瞬間まるで夢から覚めたかのようにハッと我に返った。

 

高杉は笑みを浮かべたまま土方との距離を縮めた。動けずにいる土方の体の横でぶら下がる手を取ると土方はビクッと肩を震わせたが抵抗はせず高杉はそのまま小さく、震えている手を握り締めた。

 

そしてじっと土方を見つめた。

 

「十四郎」

 

いつも自分をからかうように、諭すように、愛しむように…囁かれてきた声。待ち焦がれた声だ。

土方は目頭が熱くなるのを感じた。何で今更出て来た。何でもっと早くに出てこなかった。今までどこに居た。重傷と聞いたが傷は。鬼兵隊はどうした。聞きたい事は山程たくさんあった。

 

けれど今の土方は泣き出すのを我慢する子供のように口許を震わせて固く結んでいる。

そんな土方を愛しそうに見つめて高杉は抱き締めた。

 

自分を包む温もりに土方はとうとう我慢出来なかった。目頭から涙が溢れて落ち、体の横で手持ちぶさたな腕を持ち上げて高杉の背中に腕を回した。声を、震わせた。

 

「…晋…助ッ」

 

ずっと、会いたかった。

 

 

胸を引き裂かれるような、悲痛な声は高杉の胸に顔を埋めているせいでくぐもって消えた。

けれどその言葉を高杉は聞き逃がさなかった。土方を抱き締める腕に力が込められた。

 

「…待たせたな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆愛される世界・その後

 

 

「はぁ…疲れた…」

 

ばふんっ、と勢いをつけてベットにダイブして土方は溜め息をついた。

うつ伏せになって枕を抱き寄せて顔を埋めると生活の一部とも言える鼻を擽る匂いに心が落ち着く。

 

あの後なんやかんやで高杉の奪い合いはヒートして治まり着かなくなっていたのだが理事長がアンタ達いつまでも喧しいわぁ!!と般若のような顔で出てきたから銀八がやっべぇ!と慌ててお前らいい加減高杉を離してやれ!!と自分の責任を問われる前に神威たちを蹴散らしてその場はそれで終わったのだ。

 

騒ぎ疲れた面々も多かったから皆が大人しく引き下がって帰り、高杉も学校に残る理由もないからと帰ろうとした所を今日は土方も一緒に帰ってきたのだ。

兄弟だと知られてしまったし堂々と隣に並んで高杉と帰る事に少なからず優越感を味わった土方だった。

 

この間は冷たい態度を取っていたが土方は兄が、高杉が大好きだった。

 

だから今回の夜兎工との抗争も出来れば全面的に協力して兄の助太刀をしたかったが兄弟と伝えてなかったし風紀委員と不良という関係から自分からは声を上げられなかった。

 

だから新八が加勢しょう!とクラスの皆に声を掛けた時は心底感謝したしただの駄メガネではないのだな、と少し見直した。少しだけだが。

 

「十四郎、怪我は」

 

安心感に浸っているとベットのスプリングが軋み、重みによってベットが沈んだ。高杉がお風呂から上がって濡れた髪をタオルで拭きながらベットへ腰掛けた。

 

ここは高杉の部屋で土方が我が物顔で高杉のベットに寝転がっていたのだ。

 

「ん、ねェよ」

 

頬を撫でる指に自らすり寄って答えれば高杉はそうか、と目を細めた。

 

うつ伏せから横向きに体勢を変えると腕を伸ばして高杉の横腹に顔を埋めた。擽ってェよ、と言いながらも高杉は土方の好きにさせてその頭を撫でた。サラサラと指の間をすり抜けて落ちていく髪が愛しかった。

 

「…兄弟だとバラして良かったのかァ?沖田に弄られるの嫌がってたじゃねェか」

 

いつもの無感動で冷たい声音しか聞いた事ない者が今の高杉の声を聞いたら固まって驚く程にその声音は優しかった。

土方はその声音を心地好く聞きながらもう良いと答えた。

 

「総悟にバレたら面倒くせェと思ってたけど普通に言った方が逆に面倒が省けると思ったし」

 

それにこれからは堂々とお前を予約せず奪えるしな、と愉しそうに悪い顔で言うものだから高杉はククッ…喉を鳴らして笑った。

 

どうもこの弟は俺が大好きみたいだ。

学校じゃあ弄られるの嫌だから他人のフリをしてくれ、と言われた時は確かに自分と兄弟だと分かれば自分を疎ましく思っている他のヤンキーが弟の事を付け狙うかも知れないと危惧して賛同して頷いた。(まぁ、でも弟はそこらの辺のヤンキーよりかは腕っぷしが強いから余り心配する事はないのだが)

けれど停学が明けて久々に学校へ赴き、何か面白い事はないかと巷を騒がすボンタン狩りやステッカーを強引に買わせる奴等を炙り出そうとすると弟は喧嘩腰に警告と言って危ない真似はするなと心配そうに睨んできた。

 

他人のフリをしろと言ったのそんな顔をするなと思わず頭を撫でたくなったのは弟が可愛いからか。

神威との抗争にも真っ先に飛び出して助太刀したかったのだろう、ペンギンのぬいぐるみから見た弟の顔はその心情を隠す為にひどく険しかった。

 

しかしそんな弟を酷く愛してる兄である自分もまた、可笑しかった。

 

兄弟という事実を知った担任やクラスの奴等の驚いた表情を思い出して傑作だったなァ…と高杉は一人笑みを溢す。

 

「…晋助?」

 

小さく笑う高杉に土方が不思議そうに呼び掛ける。高杉に引っ付いて暖かいからかその表情はとろりと微睡んでいて今にも夢へと旅立って眠りそうだ。

 

「眠いか」

 

ぽんぽん、と背中を撫でるように叩くとん、と子供にように頷いて腹に回した腕に力を込めて目を閉じた。

 

「…今日はここで寝て良いか…?」

 

目を閉じた時点で自分の部屋に戻るつもりはないだろうに、高杉に一応とばかりに聞いてくる。

今日は、と言ってるが土方はほぼ高杉の部屋で一緒に眠っている。自分の部屋に居る時は勉強をしてる時くらいだ。寝る時は高杉と一緒に眠っているから今日はという言い回しは可笑しいが高杉はそれを正すことはせず良いぜ、と優しく返した。

 

嬉しそうに頬を緩ませる土方を見下ろして高杉の表情は甘く優しい。

 

土方が腕の力を緩めて体をずらしたから高杉はそのまま体をベットに滑らせて横たわるとすり寄る土方の肩を抱いて電気のリモコンを手に取ると灯りを消した。

 

「おやすみ、十四郎」

「おやすみ、晋助」

 

愛しい温もりを感じながら、高杉と土方は眠りへと落ちた。

 

 

END