mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆逃走不可能(現パロ高土♀)

※大学生の土方さんと訳有り高杉さん

※土方さんが若干ヤンデレ風で束縛酷いです。

※土方さんの母親というオリキャラが出てきます。

キャラ崩壊激しいので苦手な方は回れ右でお願いします。

 

 

 

 

 

 

冬が過ぎ、春が来て蕾が開いて桜が咲き、何日もすれば儚く散って暖かな日が続いたと思ったらあっという間に梅雨が訪れた。

忙しない季節の変わりように人々は馴れたように日々思うがままに送っている。

 

曇り空から雨が降り注ぎ、土方の紺緑色の傘を絶え間なく濡らした。

季節が梅雨に入ってから今朝見た天気予報は来週までずっと雨のマークだった。

 

雨が嫌いって訳ではないのだけどこうも毎日雨だと気分が上がらず鬱になるというものだ。

部活の剣道も3年になって引退したから暇なのだ。受験の勉強も毎日と言って良い程にしてるからこれといって焦る必要もなかった。

学校に忘れ物をして面倒だったがわざわざ取りに行った帰り道、道行く所で雨に濡れる紫陽花を目にしながら雨の飛沫で湿った冷えた肩を乾かしたくて早く帰ろうと近道を通る。

 

日の当たらない民家のほの暗い路地裏や細道を迷いもなく進んでいた土方はピタッとうごきを止めた。

ごみ箱の方から足が見えた気がしたのだ。

 

もし死体だから警察に電話しないと、とポケットから携帯電話を取り出しつつそれに近付く。

ごみ箱の陰で見えなかったそれが見える位置まで近付いてった土方は息を止めた。

 

死体ではなかった。

 

死体ではなかった事に内心ホッとしつつ土方は気絶してるのか近付いてもピクリとも反応を示さない死体と勘違いした男を、見下ろした。

紫紺の髪が雨に濡れて肌に貼り付いていた。鼻筋は高く、薄い唇が雨で何故か色っぽく見えた。目は閉じられてて何色か分からないが綺麗な瞳である事は土方には分かった。

倒れている男は、女の土方でも目を奪う程に綺麗な顔をした男だった。

 

暴力沙汰に巻き込まれたのか綺麗と思った顔に所々かすり傷があって血が滲んで痛そうだ。

 

着ている上衣もナイフがかすった後のようなものがあってボロボロだ。一目見て関わったらろくな事が起きないと分かってはいたが土方はその男の腕を引っ張った。

 

剣道で鍛えていても女の土方では成人男性を簡単に抱えられる訳ではないから持ち上げるのに苦労したが時間を掛けて何とか自分の肩に腕を回させると男の背中に腕を回して一歩踏み出す。

傘は邪魔だから畳んでしまった。あんなに早く冷えた体を温めたかったのに雨を遮るものがなくなって土方の体を遠慮なく冷やした。

いつからここで倒れていたのか男の体の方がもっと冷えていて早く手当てしてやりたくて急ぎ帰宅しょうと重い体を背負って土方は服が水分を含んで二人分の重さに何度も転びそうになりながらも足を止めなかった。

 

警察に通報すれば早かったと分かってるが通報するつもりはこれっぽちもなくなった。

 

土方は、この男が欲しくなってしまった。

 

 

 

 ***

 

「ただいま」

 

半ば男を引き摺るようにして帰宅し、玄関のドアを開けて中に入ると暖かくて冷やされた体が少し温まった気がした。

 

「十四乃おかえりなさい~」

「おかえ…り…?!!」

 

傘を一先ず傘立てに立てると奥からパタパタとスリッパの足跡が聞こえると母と兄が出迎えてくれた。

けれど母の後から来た兄の為五郎が言葉の途中でずぶ濡れの土方が背負ってるこれまた凍えてそうなずぶ濡れの男を見て言葉に詰まって驚いた。母もあら、と口元を手で押さえながら目を見開いている。

 

そんな家族を意に返さず土方はよいしょっ、とずり落ちる男の腕を抱え直しながら二人に聞いた。

 

「母さん、兄さん。お風呂沸いてる?」

 

それは見当違いな発言だったがどこかずれてる土方家は直ぐに可笑しいこの状況から立ち直って母が直ぐに沸かせるわよ~と微笑み、為五郎がお前もずぶ濡れで冷えてるだろうしその人は俺が風呂に入れてくるからお前は先ず体を拭いて着替えて来なさい、と男を受け取った。

 

土方も為五郎の言うことを素直に聞いて頷き男を為五郎に任せて2階の奥にある自分の部屋へと上がった。

 

男をお風呂に入れ終えて為五郎の服を着替えさせると素性も知れないのに女の土方の部屋へと寝かせた。

男勝りな所のある土方であったがこれでもお年頃の女であるのにも関わらず為五郎も母も、疑問に思うこともなく運んだのだ。

土方本人の希望もあったというのもあるが誰も止めなかったのである。今ここに一般常識を唱える者は、いなかった。

 

土方もお風呂を済ませてベットに眠る男の傍に座りつつ見下ろしながら母が持って来てくれたホットレモンにマヨネーズを乗せる。

 下が見えなくなるまでマヨネーズを搾ると一口飲んでホッと息を付く。

お風呂に入って体の内側からも温めるとやはり違う。

 

「綺麗な顔の人ね」

 

いつまでも男から視線を外さない娘に母がにっこり微笑む。それにやっと男から視線を外して座ったまま母を見上げて土方は切り出した。

 

「母さん。俺この男が欲しい。自分のモノにして良いか?」

 

土方は良いかと聞いているが、その目は固く決意を固めているのか拒否されても簡単に諦めそうになかった。何がなんでも男をここに置いとくと目が物語っていた。

普通の親ならどこの馬の骨かもしれない素性の知れない男を愛娘の傍に置くなんて了承しない。けれど土方の母は、

 

「良いわよ」

 

と、笑顔で迷うことなく頷いた。

土方も随分とあっさりしたその返事に呆れる訳でもなく嬉しそうに笑ってありがとう!と喜んだ。

滅多に甘えずおねだりもしない愛娘の珍しいお願いを親として断る訳がなかった。

 

後から為五郎にも一応とばかりに聞くが土方は為五郎も否とは言わないだろうと確信していて今はまだ眠っている男が自分の手元に置けるのに微笑んだ。

 

 

 

 

 続

◆杉にゃんとトシにゃんの日常!

 


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ポカポカ。

 

ひらひら。

 

キーンと肌を刺す冬の厳しい寒さが薄れて行き、太陽が降り注ぐ時間が増えてきた春の今…桜の蕾が開花して可愛らしい花びらがひらひらと風に乗って気儘に散っていく。

陽射しが暖かく、街行く人たちの姿格好は厚着から動きやすくゆったりしたものに変わっていた。子供たちも元気よく駆け足で走り回ってる。

 

そんな暖かな良い天気に高杉は、酒を片手に一人桜の大きめの枝に座って花見をしていた。

 

機嫌が良いのか紫紺の毛並みの良い長いしっぽがゆらりゆらりと左右に揺れ、頭の上の三角の可愛らしい片耳が時折ぴくっと動く。

鋭いその碧の目も柔らかく、風に揺れる桜を眺めている。

 

風流をこよなく愛する高杉は季節によって様々な花を咲かせるこの桜の樹から眺める景色が好きだった。

 

「晋助~!!」

 

酒を口に運びながら体を倒して上手くバランスを保ちながら枝に寝そべってると下の方から子供の声が呼んでくる。

見下ろすと愛しい子猫が駆け足でこっちに近付きながらその可愛らしい顔を膨れさせていた。

どうやら寝ている間に出て行ってしまった事を怒っているみたいだ。

 

爪で軽く引っ掻いて飛び上がるとその小さい体でひょいひょいと身軽に木の上を登って来る。元々猫だから枝を伝うのも流石に上手くてあっという間に高杉の所まで辿り着いた。

 

「晋助!置いてくなんて酷いぞ!」

 

寝そべる高杉の懐に入りその顔を蒼い目で睨み付けて文句を言うのは高杉と同様に元は子猫だったが坂本の持ってきた薬によって擬人化した高杉の愛し子の土方十四郎だった。

 

高杉は怒る土方に微塵も怖がる事はなかった。怒る十四郎も可愛いなァ…と頭で思いつつ登って来る時に付いたのか頭に桜の花びらが幾つか貼り付いていたのを取ってやる。

 

「オメぇが気持ち良さそうに寝てたから起こすのも悪ィと思ったンだよ、そう怒るな」

 

「でも…オレは晋助と一緒に居たかった」

 

自分を思って起こさなかったのは嬉しかったが高杉が大好きな土方はそれでも不満だった。

一緒に居たいから気にせず起こしてくれれば良かったのに、と花びらを取ってくれる指が不意に耳に触れるとぴくっと反応させつつ唇を尖らせると高杉は小さく笑みを浮かべて微笑んだ。

 

「今度は起こしてやるから」

 

高杉がそう約束すると土方はぱぁっ!と嬉しそうに表情を綻ばせると高杉に顔を近付けて小さな鼻を高杉の鼻とつん、とくっ付けて触れさせた。

猫同士の挨拶でよく見る光景だったが成人男性の姿である高杉と子供の姿の土方がやると大変ほっこりする光景だ。

 

そのままスリッ…と頬を高杉に擦り寄せて土方は高杉に甘える。黒いしっぽが嬉しそうにパタパタと揺れてる。高杉も土方の頭にちょんと立つ耳にちゅっと口を寄せたりと全力で甘やかしている。

 

「ふにゃ~」

 

耳や頬、瞼の上と顔中に唇を寄せる高杉に土方はくすぐったそうにくすくすと声を上げる。しかしその表情は大変満足気で嬉しそうだ。

 

桜花びら舞う中で高杉と土方はお互いを見つめながら幸せそうに笑っていた。

 

 

END

 

◆銀魂カフェ(高土)

 

銀魂カフェ。

先日面白いお店が欲しいと万事屋にいくつもの願望の依頼が入り、万事屋は面倒くせぇと重い腰をあげたくなかったみたいだが子供たちがこれも仕事ネ!それに稼いだ金はこっちのものだから開くヨロシ!と乗り気なものだから開く事になったお店だ。

 

ただ借りた店がかなりの大きさで3人だけじゃ回せないって事で助太刀を頼むことになった。 

真選組ならまだ分かる。何故か手伝ってくれと言ってもないのにどこから聞き付けたのか桂が真選組が居ようと変装してまで手伝ってくれたのだ。単に誘ってくれなくて寂しかったのだろうけど。構ってちゃんの桂だから。

 

あり得なかったのが宇宙にいる筈の高杉と神威も来てくれた事だった。

 

嫌がる高杉を坂本が引っ張って来たらしい。

神威はタダ飯食えるなら手伝うけど?と無償では働かないと脅したからこのお店が終わったらかなりの食費が嵩張るだろうと予想出来た。売上もその食費で消えてしまいそうな予感が僅かにした。

たくさんの知人が来てくれたおかげでお店が回せそうだと依頼者の待望でやっと開く事になった。

制服はそれぞれのイメージカラーと白の市松柄の着物で紺色の袴、そして黒のショートブーツに決まったのだがこれが中々に皆似合っていた。

 

制服も決まり、役割分担をすると裏で調理をするのが普段からも家事をする手先器用の銀時、サポートに回るのが新八と同じく調理の土方にサポートの山崎だ。

接客に回るのが神楽、真選組の近藤と沖田。桂に坂本と高杉と神威の7人だ。

 

銀時がおいおい、アイツらに接客なんて出来んのか?真選組はまだ分かるがヅラと辰馬はアホだし高杉なんかは愛想がねーだろ。務まるのかよ、と不安を覚えていた。

 

しかしそんな銀時の不安をそよに桂達は女性の客に偉く評判だった。

 

それもその筈。黙っていれば顔は良い者ばかり集まっているからだ。

天然バカと云われる桂だがやれば出来るしオーダーを取ると客はそのサラサラの黒髪ロングに見とれている。

辰馬は図体も声もデカいが人懐こいおおらかな笑顔は緊張をほぐし親近感と安心感を覚えさせられるのか客と自然と笑顔になっていく。

高杉は無愛想で笑顔らしい笑みを浮かべないし左目を包帯で隠してるという近付きがたい雰囲気なのだがやはりそこはあの顔。高杉の綺麗な顔と澄んだ碧の目に客の心をごっそり奪ってしまった。

 

お店は大評判で開店から閉店まで外に行列が出来る程の人気店になっていた。

 

 

 

「オイ、新規のオーダーだ」

 

お昼時、忙しく立ち回る店内では店員の声と客の賑わう声が響いていた。

高杉は新しくとったオーダーをキッチンで汗を軽くかきながら調理する土方に伝える為に1度裏に下がってきた。

 

「高杉。オーダーは?」

 

「同窓会プレートと団長の麻婆春雨丼」

 

「分かった。ついでにこれも三番テーブルに持ってけ」

 

フライパンを握った手元を見たまま土方が出来上がったばかりの北斗七軒のラーメンだったものを高杉の前に出した。

 

北斗七軒のラーメンだったものだ。

 

「……オイ」

 

思わず高杉はそれを凝視して低い声が出た。

土方があ?何だよ、さっさとそれ持ってけ冷めるだろうがと苛立った声を上げるのに高杉はギロッと睨んだ。

 

「てめェ何勝手にマヨネーズ乗せてんだ」

 

北斗七軒のラーメンの上には麺が見えなくなるまでにたっぷりと白い悪魔のマヨネーズが乗っていた。こんなメニューはなかった。

 

「マヨネーズあった方が美味しいだろ」

 

 悪気もなく土方はきょとんと返した。

大のマヨラーの土方だ。他の者もマヨが嫌いじゃないだろうと親切心でマヨを掛けたのだろう。けれどマヨネーズは嫌いじゃなくてもこんな量のマヨネーズは誰も好まないのを分かっていない。

 

悪気があれば殴ってやったが土方のこれは100%善意だ。高杉は小さく溜め息を吐くとラーメンを一瞥して土方に新しいのを作り直せと腕を組んだ。

 

「はぁ?せっかく作ったのに出さないのかよ」

 

「あのなァ…世の中誰しもマヨラーじゃねぇンだよ。これはオレが食べるからちゃんとしたのを作れ、十四郎」

 

せっかく作ったのに無駄にするのかと土方が顔をしかめたが高杉は声音を柔らかくして嗜めた。名前を呼ばれたのに土方が目元を柔らかくする。

お前が食うの?と土方が高杉を見ると棚から箸を取り出し、白い悪魔に埋もれた哀れな麺を掬って事も無げに食べてた。

 

「え?!高杉何食べてンの?!」

 

入ってきた注文を片っ端からかなりのスピードで調理してた銀時がズルズルッという啜る音に疑問を持ち振り返ると高杉が犬のエサになったラーメンを食べてるのを見て目を見開いて慌て出した。

サポートに回ってた新八と山崎は足りないものを補充しててこの場に居なかったから止められなかったのだ。

仕事をサボって食べている事に対してではない。体に悪そうなマヨネーズを大量に食べようとする事に対してだ。

 

「ちょっとちょっとぉ!お前、そんなモン食ったら腹壊すだろ?!!お前に何かあったらヅラと辰馬が煩いンだから今直ぐぺっしなさい!ぺっ!!」

 

神威も何を仕出かすか分かったもんじゃない!と調理器具を手放し、高杉から丼を奪う銀時だったがほぼほぼ平らげていて僅かなスープとナルトが底に残っているだけだった。

女性の為に考えられたメニューだからそんなに量もないもので平均男性ならペロリと食べられる量が仇となって高杉は犬のエサを完食してしまった。

 

銀時はガックリと項垂れた。

 

「おまっ…お前なぁ…!恋人だからって甘やかすな!平気で犬のエサを食べるンじゃありません!!?」

 

ご馳走さま、と銀時を無視して土方に言う高杉を銀時は怒り筋を浮かべながら叱るが何が犬のエサだ、てめぇの宇治銀時の方が犬のエサだろうが!!と土方が返した。

はぁ?!!何だと?!!!どっちのが美味いか勝負したろか?!と今にも殴り合いが始まりそうな険悪なムードの銀時と土方に傍らに立つ高杉が仕方なそうに肩を竦めた。

 

「いい加減にしろ。銀時、体調はこの通り何ともねェから入らぬ心配はするな。十四郎もちゃんと美味かったぜ」

 

睨み合う二人を引き剥がして、というか十四郎に不用意に近付くなと銀時を牽制して高杉は新しく作られた北斗七軒のラーメンをお盆に乗せて踵を返す。

 

新しく注文が入った事で銀時と土方は渋々と自分の仕事へと戻った。今日も銀魂カフェは大繁盛だった。

 

 

 

END

 

(所々書き直したり書き足すかもです)

◆待ちわびていた(高土)

 

重傷だと聞いていた。

刀を手に立っているのが、生きているのが不思議な程にその男はいくつもの深い傷を負っていていつ倒れても可笑しくなかったと。

 

だから土方は目の前の光景が信じられなくて目を見開いてただ呆然と立ち尽くした。

 

あれから1年が過ぎたのだ。

火乃迦具土神が地球に落ち江戸が崩壊してからいくつもの太陽が登り沈んでは暗い夜を月が照らしてきた。

 

宇宙で先陣に立ち戦った桂小太郎と坂本辰馬の安否は確認出来たが一人だけがそこから消えてずっと分からなかった。

皆は必ず生きていると口々に言ってきた。それは同じ思いだった。あの男が簡単に死ぬ訳がない。重傷だった。しかしあの火乃迦具土神にはアレが、天道衆の肉体があったようだった。それが消えたと報告を受けてまさか、と思いもした。

けれど男は自分の成すことの為ならどんな手段も選ばないだろうと分かっていた。

 

だから、どんな形であれ…生きている。

 

そう信じていた。

 

 

「…十四郎」

 

だから、男が…高杉が目の前に立って己の名前を呼ぶのは亡霊でも、どっかのロリコン変態が化けて出て来た訳じゃない。

 

…ちゃんと、生きている。

 

「…高、杉…」

 

呆然と立ち尽くしていた土方は何年も水を飲めなかったような掠れた声で無意識に男の名を呟いた。

その名を口にした瞬間まるで夢から覚めたかのようにハッと我に返った。

 

高杉は笑みを浮かべたまま土方との距離を縮めた。動けずにいる土方の体の横でぶら下がる手を取ると土方はビクッと肩を震わせたが抵抗はせず高杉はそのまま小さく、震えている手を握り締めた。

 

そしてじっと土方を見つめた。

 

「十四郎」

 

いつも自分をからかうように、諭すように、愛しむように…囁かれてきた声。待ち焦がれた声だ。

土方は目頭が熱くなるのを感じた。何で今更出て来た。何でもっと早くに出てこなかった。今までどこに居た。重傷と聞いたが傷は。鬼兵隊はどうした。聞きたい事は山程たくさんあった。

 

けれど今の土方は泣き出すのを我慢する子供のように口許を震わせて固く結んでいる。

そんな土方を愛しそうに見つめて高杉は抱き締めた。

 

自分を包む温もりに土方はとうとう我慢出来なかった。目頭から涙が溢れて落ち、体の横で手持ちぶさたな腕を持ち上げて高杉の背中に腕を回した。声を、震わせた。

 

「…晋…助ッ」

 

ずっと、会いたかった。

 

 

胸を引き裂かれるような、悲痛な声は高杉の胸に顔を埋めているせいでくぐもって消えた。

けれどその言葉を高杉は聞き逃がさなかった。土方を抱き締める腕に力が込められた。

 

「…待たせたな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆愛される世界・その後

 

 

「はぁ…疲れた…」

 

ばふんっ、と勢いをつけてベットにダイブして土方は溜め息をついた。

うつ伏せになって枕を抱き寄せて顔を埋めると生活の一部とも言える鼻を擽る匂いに心が落ち着く。

 

あの後なんやかんやで高杉の奪い合いはヒートして治まり着かなくなっていたのだが理事長がアンタ達いつまでも喧しいわぁ!!と般若のような顔で出てきたから銀八がやっべぇ!と慌ててお前らいい加減高杉を離してやれ!!と自分の責任を問われる前に神威たちを蹴散らしてその場はそれで終わったのだ。

 

騒ぎ疲れた面々も多かったから皆が大人しく引き下がって帰り、高杉も学校に残る理由もないからと帰ろうとした所を今日は土方も一緒に帰ってきたのだ。

兄弟だと知られてしまったし堂々と隣に並んで高杉と帰る事に少なからず優越感を味わった土方だった。

 

この間は冷たい態度を取っていたが土方は兄が、高杉が大好きだった。

 

だから今回の夜兎工との抗争も出来れば全面的に協力して兄の助太刀をしたかったが兄弟と伝えてなかったし風紀委員と不良という関係から自分からは声を上げられなかった。

 

だから新八が加勢しょう!とクラスの皆に声を掛けた時は心底感謝したしただの駄メガネではないのだな、と少し見直した。少しだけだが。

 

「十四郎、怪我は」

 

安心感に浸っているとベットのスプリングが軋み、重みによってベットが沈んだ。高杉がお風呂から上がって濡れた髪をタオルで拭きながらベットへ腰掛けた。

 

ここは高杉の部屋で土方が我が物顔で高杉のベットに寝転がっていたのだ。

 

「ん、ねェよ」

 

頬を撫でる指に自らすり寄って答えれば高杉はそうか、と目を細めた。

 

うつ伏せから横向きに体勢を変えると腕を伸ばして高杉の横腹に顔を埋めた。擽ってェよ、と言いながらも高杉は土方の好きにさせてその頭を撫でた。サラサラと指の間をすり抜けて落ちていく髪が愛しかった。

 

「…兄弟だとバラして良かったのかァ?沖田に弄られるの嫌がってたじゃねェか」

 

いつもの無感動で冷たい声音しか聞いた事ない者が今の高杉の声を聞いたら固まって驚く程にその声音は優しかった。

土方はその声音を心地好く聞きながらもう良いと答えた。

 

「総悟にバレたら面倒くせェと思ってたけど普通に言った方が逆に面倒が省けると思ったし」

 

それにこれからは堂々とお前を予約せず奪えるしな、と愉しそうに悪い顔で言うものだから高杉はククッ…喉を鳴らして笑った。

 

どうもこの弟は俺が大好きみたいだ。

学校じゃあ弄られるの嫌だから他人のフリをしてくれ、と言われた時は確かに自分と兄弟だと分かれば自分を疎ましく思っている他のヤンキーが弟の事を付け狙うかも知れないと危惧して賛同して頷いた。(まぁ、でも弟はそこらの辺のヤンキーよりかは腕っぷしが強いから余り心配する事はないのだが)

けれど停学が明けて久々に学校へ赴き、何か面白い事はないかと巷を騒がすボンタン狩りやステッカーを強引に買わせる奴等を炙り出そうとすると弟は喧嘩腰に警告と言って危ない真似はするなと心配そうに睨んできた。

 

他人のフリをしろと言ったのそんな顔をするなと思わず頭を撫でたくなったのは弟が可愛いからか。

神威との抗争にも真っ先に飛び出して助太刀したかったのだろう、ペンギンのぬいぐるみから見た弟の顔はその心情を隠す為にひどく険しかった。

 

しかしそんな弟を酷く愛してる兄である自分もまた、可笑しかった。

 

兄弟という事実を知った担任やクラスの奴等の驚いた表情を思い出して傑作だったなァ…と高杉は一人笑みを溢す。

 

「…晋助?」

 

小さく笑う高杉に土方が不思議そうに呼び掛ける。高杉に引っ付いて暖かいからかその表情はとろりと微睡んでいて今にも夢へと旅立って眠りそうだ。

 

「眠いか」

 

ぽんぽん、と背中を撫でるように叩くとん、と子供にように頷いて腹に回した腕に力を込めて目を閉じた。

 

「…今日はここで寝て良いか…?」

 

目を閉じた時点で自分の部屋に戻るつもりはないだろうに、高杉に一応とばかりに聞いてくる。

今日は、と言ってるが土方はほぼ高杉の部屋で一緒に眠っている。自分の部屋に居る時は勉強をしてる時くらいだ。寝る時は高杉と一緒に眠っているから今日はという言い回しは可笑しいが高杉はそれを正すことはせず良いぜ、と優しく返した。

 

嬉しそうに頬を緩ませる土方を見下ろして高杉の表情は甘く優しい。

 

土方が腕の力を緩めて体をずらしたから高杉はそのまま体をベットに滑らせて横たわるとすり寄る土方の肩を抱いて電気のリモコンを手に取ると灯りを消した。

 

「おやすみ、十四郎」

「おやすみ、晋助」

 

愛しい温もりを感じながら、高杉と土方は眠りへと落ちた。

 

 

END

◆愛される世界(高土)

 

 

 

 

いつもと変わらない1日がまた今日も始まった。何も変化は起きず、同じ事を毎日毎日繰り返すだけの日常。

 

そろそろ飽きてきた。

 

そう土方が思っていた時だったのだ。

夜兎高校の頭である神威が高杉にケリを着けて果たし状を送り銀魂高校に殴り込んできたのは。

他の不良からは忌み嫌われてる高杉たち一派は人数がたったの5人でそんな少数で何十人もいる夜兎工の奴等には太刀打ち出来ないから同じクラスで仲間の僕らが加勢をしましょう!とメガネが声を上げたのには心底よく言ったァァ!!!って褒めたくなった。

 

それ程に土方は暇を持て余していた。

そして高らかには言えないが高杉を助ける理由は他にもあった。

 

はたして夜兎工の奴等と応戦する前に高杉一派に加勢して思う存分暇を潰してやり、高杉と神威が本気で殺り合う前に銀八がその間に入り、お前らが俺を一発殴って倒れなかったら二人とも引け、という無謀な賭けに出た。

神威の重い一発にも倒れなかったら銀八は高杉が握った真剣を見てパニクって青ざめたが腹に隠していたジャンプで無傷だった。

ハラハラする場面は多かったが結果的には銀八が勝利を納めて高杉と神威の勝負は終わった。

 

神楽と神威の父である海坊主が神威たちを迎えに来てやっと3年Z組の皆は安堵の溜め息を吐いた。殆どのものが大きな傷もなく済んで良かったと思っていたのだ。

 

海坊主が神威に向かって怒り心頭で何かと怒鳴っていたが神威は面倒くさそうに笑っている。

高杉は興が冷めたのか真剣を収める為に放り出した鞘を拾うと刃を収めた。

取り合えずは海坊主の説教が終わったのか神威ははいはい、大人しく帰るから落ち着いてよ。毛がないのにこれ以上ハゲたら知らないからね、と嫌味を忘れてない。

それに海坊主が誰がハゲだぁぁ?!!!って神威を睨み付ける。

 

「まったく…こっちじゃあ好き勝手出来ないなんてつまらないなー」

 

そう言う神威は高杉に近付いて行く。

周りがまだ喧嘩をするつもりか?!と固唾をのんで見守っていると高杉は近付いて来る神威を警戒もせずただ黙って見ていた。

 

後一歩で手が触れる所で神威は立ち止まった。

高杉はただ神威を見つめる。思わずおい、と声を上げそうになったのは誰だったか、神威が両腕を上げて高杉に伸ばしたのだ。

 

誰もが神威が高杉を殴る、と思っていた。

しかしそんな事にはならなかった。その場にいる者全員が目を点にして驚いていた。

 

神威が、伸ばした腕で高杉を抱き締めたのだ。

 

「ぇ…ええぇえぇっ?!!!!」

 

一体どういう事?!!!!

誰の頭にもそう思っている筈だ。土方も固まってポカーンと間抜けな面を晒していた。

 

「シンスケ~。昔は色んな星を回って楽しかったのにこっちは喧嘩するにも色々と面倒くさいね」

 

高杉を抱き締めたまま顔を横に反らして神威は高杉を見た。高杉はされるがままにふっ…と小さく笑みを浮かべた。

 

「…の割りにはオメぇは好き勝手暴れてるみたいだがな?」

「向こうが掛かってくるから遊んであげただけだよ」

 

丸でさっきまでの喧嘩が嘘かのように高杉と神威は普通に会話をしていた。

 

密着したままで。

 

困惑していた周りは一体これをどういう気持ちで見たら良いのか分からず固まっている。

高杉は自分を抱き締める神威の腕を外そうとはしていない。好きにさせている。

 

しかし黙っていられなかった者が二人に近付いて行った。

 

「土方さん?」

 

沖田が二人に近付く土方に気付いて訝しげに声を掛けるも聞こえてないのか土方はそのまま足を進めた。

 

そして未だに高杉を抱き締める神威をベリッと外して高杉をグイッと自分の方へ引き寄せた。

そして神威をギロッと睨み付けて、

 

「…てめェェ!いつまで人の兄弟に抱き付いてンだァァ?!!!」

 

と、叫んだ。

 

 

 

 

 

「兄弟ぃぃ?!!!」

 

神威が高杉を抱き締めたのにもひどく驚いたのに土方が高杉を神威から取り返して兄弟と言ったのにはまたも驚かされてザワザワと周りがまたざわめいた。

 

そんなの聞いた事なかったのか高杉一派の面々も、風紀委員の面々も驚いた表情をしている。

 

驚く面々を気にする暇もなく土方は高杉を後ろに庇い神威から遠ざける。睨み付けるその様はまるで高杉の忠犬のようだった。

 

「えー…?シンスケ、コイツと兄弟なの?」

 

キョトンと神威が土方を指差しながら動揺もなく無表情の高杉を見ると高杉は肩を竦めて頷いた。

 

「俺の弟だ」

 

嘘でしょう?何かのドッキリ?!!と僅かに期待をしていたが高杉までも兄弟というのを否定をせず、逆に固定したので高杉と土方が兄弟だという事実に疑う余地もない。

 

どうやら腹違いの兄弟らしく今まで別々で暮らしてたらしいから苗字も住所も違うようだったのだ。最近になって高杉の母親が病気で伏せってしまい入院してるらしくて高杉は土方家で暮らしているらしい。

けれど、学校の秩序を守る風紀委員と不良の頭である高杉は犬猿の仲ではなかったのか…?ボンタン狩りの時も争っていたと聞いている。そんな二人が兄弟…?疑問に思ってるとそれを高杉が代わりに答えてくれた。

 

「十四郎、兄弟だとバレると冷やかされるだろうから秘密にするってお前言わなかったかァ?」

「言った!けどなぁ、兄が抱き締められてる所を見て黙ってられる訳ねェだろ。ざけんな、殺すぞ」

 

お前が秘密にするって言ったのには自分で暴露してどうすんだ?と土方を呆れたように見るとそうは言ってもなぁ!と土方は高杉を振り返って噛み付いた。

しかし高杉はどことなく気にしていない感じだった。

 

「あァ?あのガキは昔からあぁだぜ?」

「…はぁっ?!それじゃあ何か?!俺が汗だくで街を走り回ってる間ずっとあのガキを甘やかしてたって言うのか?!!」

「…甘やかしてねェ」

 

江戸に居た頃から神威はあんな感じだと話をすると土方は眼を見開いてにわかに信じがたいと驚愕する。

鬼兵隊と春雨が手を組んで共に行動をしていた事は分かっていたがまさか昔から神威は高杉にあんなにベッタリと甘えて密着していたのか。

 

しかし高杉は甘やかしていないと言う。

けれど先程は嫌な顔もせず好きにさせていたのを見ていた土方はそれが信じられず疑いの眼を高杉に向ける。

 

「さっきのは何だったんだよ。あ"ぁ?」 

「あー…俺が可愛いのはオメぇだけだ、十四郎」

 

今にも殴り掛かって来そうな雰囲気で睨み付けてくる土方に言い訳するのも面倒になったのか高杉は僅かに困った表情をして土方の頭をよしよし、と子供にするように撫でた。

端から見ればその光景は我儘を言う弟を宥める兄という、極普通の兄弟だった。

撫でられて土方は目を細めて表情がゆるりと柔らかく綻んだ。

 

けれど黙ってられなかったのか、神威が高杉に近付こうとしたのだがやはり土方が邪魔をする。

 

「ちょっとシンスケ?それどういう事かな?」

「そうだ!!ちょっと待て!!高杉の事をよく分かっている幼馴染みの俺の方が晋ちゃんに可愛がられている!!」 

「ヅラァァァ!!!てめェも何を張り合ってンただぁ?!!!」

 

いつもあどけない笑顔の神威が青い眼を細めて俺の事を一番可愛がってただろ?と高杉を責めるのにそこへ何故か今まで関係のなかった桂が手を上げながら土方を掻い潜り高杉の右腕を掴んでそのまま腕を絡ませた。

 

銀八がややこしい事になっているのにお前まで参加してどうする?!!!とシャウトするも桂は土方と神威とで睨み合っていた。

 

「ちょ、ちょっと待つッスよ!!!兄弟だが幼馴染みだが宿敵だが知らないスけど晋助様は私らのモンッスよ!!!渡さないっス!!」

 

「引っ込んでろ猪女!晋助は俺の兄だから必然と俺のモンなんだよ」

 

衝撃的な事実が発覚して固まってた高杉一派であるまた子が聞き捨てならない!と睨み合う土方、桂、神威の輪の中へと突進した。

その後を河上と似蔵も続いた。

 

「屁理屈言うんじゃないッスよぉ!!この間までは晋助様に因縁付けてきたクセになんスかその変わり様は!!!晋助様は渡さないもん!!!」

「晋助、晋助の真の友は俺でござろう?」

「………。」

 

何故か周りが騒然としてきて高杉は一体どうしてこうなった?と無表情のまま考えていた。

 

 

 

 

 

「え…?何これ、喧嘩の次は高杉争奪戦?何でアイツあんなモテてんの…?」

 

というか土方くんってブラコンだったの…?

 

銀八は高杉を離さない土方と黙ってされるがまま大人しくしてる高杉を眺めて一人傍観していた。

ツっ込んでたらキリがないし誰も聞いてないから諦めたのだ。

 

高杉は取っ付き難いし酷薄な笑みが怖いとか冷徹非道だとか、不良なだけで嫌われていると思っていたら実際はそうじゃなかったらしい。

高杉はかなり愛されているようだった。

 

そういう自分も先生を抜きにしても憎らしいと思っていてもやはり高杉の事が大事だから一人にはさせられないと思っている。

昔から高杉は周りが惹き付けられる何かを持っているようだ。本人にはその自覚がないようだけどな。

 

銀八はくすりと笑みを溢すと騒ぎを聞き付けたのか高らかに笑いながらわしも晋ちゃんが大好きぜよー!!と高杉争奪戦に参加する坂本と腕に引っ付く桂を気持ち悪イ、と蹴り上げる高杉。ざまぁみろ、と勝ち誇った顔で桂を見下ろす土方達を眺めた。

坂本がおまん、晋ちゃんの弟なんか?じゃあ仲良くするきに!と肩を組もうとすると高杉がその手を叩き落として冷やかな視線を向けて十四郎に触んな黒モジャ。と低い声で脅す。どうやら高杉も重度のブラコンらしい。

 

向こうでは素直に愛せなかったがこっちでは手を離すことなく皆素直に高杉を愛せるみたいだ。

 

「良かったですね、銀八先生」

 

いつの間にか隣には神楽と新八が並んでいた。同じように高杉争奪戦を眺めながらその顔は楽しそうだった。

銀八が嬉しいと思っているのを分かっているようだ。

 

だから銀八もあぁ、そうだな。と冗談を言うことなく素直に頷いた。

 

高杉が愛されている。

 

それがただ、自分の事のように嬉しかった。

 

 

 

END

 

◆ザンスク

【たまには休もう】 

 

 

 

今日のはボスは甘えん坊だ。 

スクアーロは後ろから抱えられながらのんびりと思った。 
何故仕事をサボってボスとこんなにゆったりしているのか…確か先程までは仕事をしていた筈だったのだ。 

はじまりは確か……、 

 


「ルッス、ボスがどこにいるか知っているかぁ?」 

書類を片手にスクアーロは談話室で優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいたルッスリーアに訊ねた。 
しかしルッスリーアははて?と小指を立てながら頬に手を当てて首を傾げて分からないと言った。 

「あら。スクちゃんに分からないなら私が知ってる訳がないじゃないの」 
「チッ…使えねぇ」 

今持っている書類はボスがサインしなければいけないものばかりなのに、サインして欲しい当のボスがいつもなら居るのに執務室に居なかったのだ。 
スクアーロはXANXASの気配には誰よりも敏感に反応出来る。 
だからこのVARIA本部に居ることは分かっている。 
だがいつもなら一点の所に確認出来る気配が今は本部全体にXANXUSの気配が散らばって逆に探し難くなっている。 
さっきから探しているのだが一向に見つからない。 
探している途中、下っ端で遊んでたベルや貯金の計算をしていたマーモン、パラボラの手入れをしていたレヴィに(凄く嫌な顔をされたがスルーした)堂々とサボっていたフランにも居所を聞いてみたが見事にどいつもこいつも首を左右に振って知らないと言う。 
最後の頼みとばかりルッスリーアを訪ねたというのにルッスリーアも知らないのならもうお手上げだ。 
スクアーロは舌打ちをしてルッスリーアから背を向けた。 

「まっ!スクちゃんったらヒッドイわぁ~!」 

後ろでキーッとハンカチをギリギリ噛んで湯気を立てるルッスリーアに邪魔したなと言い残してスクアーロは再びXANXUSを探すべく先を急いだ。 
サインして貰わないといけない書類があるというのもあるが、スクアーロはXANXUSに何かあったのではないか心配だつた。 
稀にXANXUSが誰に何も言わずに消えることは過去何回もあった。 
そうゆう時は何かしら嫌な事があったり塞ぎ込んでいる時が多かったから今回も何かあって姿を消しているのではないかスクアーロは考えて必死に探している。 
XANXUSは誰よりも強いし負ける事はないだろうがVARIAのボスなのだ、いつどこで命を狙われているのか分かったもんじゃない。 

強くても万が一の事があってからでは遅いのだ。スクアーロが行って何か出来る訳じゃないがただXANXUSの姿を一目見て安心したかった。 
XANXUSの強さと実力は誰もが知っている事。今更心配する必要はなく、逆に力の差も分からずに挑んできた愚かな相手を皆心から可哀想に…と同情するだろう。 
しかし分かっていながらもスクアーロは強いXANXASを心配する。 
いつもうるさく周りに気を付けろだの、出掛けるなら護衛に俺を連れてけ等とXANXASに対して昔から口を酸っぱく言うのだ。 
XANXASはそんなスクアーロに対して下らない、と切り捨てるが誰にも言わず消えてしまうとスクアーロは怒るよりも先に泣きそうな顔でホッと胸を撫で下して安心して微笑んで無事で良かった、とXANXASを抱き締める。 
誰よりも強いと言いながらスクアーロは誰よりもXANXASを過保護までに心配して身を案じる。一時でも姿が見えないとなると落ち着かずわざわざ殴られに行く程だ。 
無意識だろうがスクアーロはXANXUSが戻った今でも揺り籠の事を気にしているのだろう。それも当然だ。あれでスクアーロはXANXUSを8年という長い間失われたのだからトラウマといっていい。忘れる筈がないのだ。 
だからなのかスクアーロはXANXUSを一日に一目顔を見ない事には一日が始まらない。 
今日はまだ一回もXANXUSを見ていない。顔を見ていないだけでこんなにも心が騒めく。任務の時は平気なのに居ると分かってて姿が見えないのはスクアーロにとっては苦に等しく我慢させられている事と同じだった。 
執務室、談話室、寝室、中庭、トレーニングルーム、地下、拷問室(ドキドキしながら覗いて入ったが何故かXANXUSが居なくてガッカリしたのは秘密だ)とあの男が行きそうな所を広いアジト全体探したが何処にも姿が見当たらなかった。 

ならばXANXUSはどこにいるのか…スクアーロは段々と不安を積もらせる。 
やっぱりボスに何かあったのではないか…? 
はやる気持ちを抑えてスクアーロは頭を回転させた。 
まったく…あのクソボスは一体どこへ行きやがったんだ…気配はそこら中に感じるというのに本人が見当たらないとは遊び過ぎにも程があるだろうが…!! 

しかしスクアーロは急にハッと思い至った。 
探していなかった場所が一つだけある事に。 
考えるよりも先に体が動き書類を放り出すと走り出した。 

 

「見つけた…」 

XANXUSの寝室の奥バルコニーの下、木々に生い茂られた茂みに男は匣から出したベスターのお腹に背を預けて眠っていた。 
その僅かな木漏れ日から差す光に照らされながら心地良さそうにぐっすり眠っている所を見下ろしてスクアーロは反対に一気に疲れが出たようにぐったりした。 

「…こっちの気も知らねえですやすや呑気に寝やがって…」 

此処ならば誰も居ないしボスの寝室付近ということもあって余程の用がない限り幹部でも立ち入らない場所だ。今は春だがそろそろ夏に近付いている時期で昼間は日差しが眩しく暑かったのだろう、この場所ならひんやりとしてて成程、確かに一眠りするには良いスポットだった。しかしスクアーロはやっとXANXUSの無事をちゃんとこの目で確認出来てホッと胸を撫で下して一息付く。 
こんなにも近付いてるのにXANXUSは目を覚まさない。バルコニーに出て手摺を軽く飛び越えると重力に従って体は下へ落ち、柔らかい芝生に足が着く。 
そのままXANXUSに近付くとベスターが赤い目を開けて首を上げてスクアーロの方を見上げた。 
しゃがみ、ベスターの顔を両手で優しくそっと撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らして気持ち良さそうに目を閉じて優しい手に自ら撫でてと擦り寄る。 
もっと撫でろと催促するベスターをスクアーロはふっと小さく笑って微笑んで要望に応えてやった。充分に撫でてやってから視線をベスターから未だ目を閉じている男に向ける。 
こんなにも肩が触れるくらいに近くに居るというのにまだ無防備に眠って起きないとは…。敵だと認識されてないのか、はたまたベスターが居るから気にしてないのかどっちなのかは分からない。どのみちXANXUSが何の事件や事故に巻き込まれておらず無事ならば何でも良い。風にそよぐ黒髪に手を伸ばしそっと撫でて遊ぶ。 
やはり良いシャンプーを使ってるお陰で柔らかい髪質で触り心地が良い。 
指を髪から細いシャープを描く頬へ滑らせスクアーロは古傷が浮かぶ頬にそのまま顔を近付けて軽くキスをした。すると待っていたかのようにスクアーロの後頭部を押さえる手が。言わずもXANXUSの大きな手だった。 
手は僅かに動いて上手く誘導し、頬にキスしていたスクアーロは誘導されるがままに厚い唇とキスを交わした。 
スクアーロはXANXUSが起きた事に髪を撫でた時に気がついていた。 
だから後頭部を押さえた手に驚かず誘導されるままキスを交わして戯れた。 
僅かに開いた口の隙間を逃さず狙いXANXUSの舌がスクアーロの口内へと滑り入り奥に逃げて縮こまるスクアーロの舌を絡め捕えた。XANXUSの舌の熱さにスクアーロの肩がびくりと震えて縋る。 
強弱をつけて吸うとスクアーロは余りのその刺激に感じて体をXANXUSに押し付けて鼻に掛かった甘い声を漏らした。 


「んっ…ふ、っ…」 

一分にも満たない内にスクアーロは既にXANXUSによって翻弄され腰が抜けてしまってちゃんと座る事もままならずXANXUSに体重を掛けて寄り掛かってしまっている。 
雪のように白かった頬が薔薇のように紅く染まり息もままならぬ口付けに苦しそうに眉間に皺を寄せて快感に閉じられた目にびっしり生えた白い睫毛がふるふると震えている。 
閉じていた目を開けてXANXUSはその様をじっくりと至近距離から見つめた。痛みにはめっぽう強い癖にスクアーロは本当に快感に弱かった。 

それを教えたのは他ならないXANXUSだ。 
出会ってから一ヶ月経って直ぐに手を出したからな。8年ものブランクはあれど目覚めてからは大体腹いせに、時には持て余す体内の炎にもがいて逃げ場所に何度も抱いていて10年経った今でもスクアーロ以外を抱くつもりはなかった。 
10代の時点で既にスクアーロの身体はXANXANによって調教されてしまっている。ベットでは滅多に呼んでやらない名前を何度も耳元に囁くもんだからからかうつもりで通常時仕事をしていたスクアーロの背後から忍び寄って耳元に息を吹き掛けて名前を呼んでやったら甘い声を上げて腰を抜かすとイってしまった。 

これには流石のXANXANも紅い目を見開いて驚いたがそれ以上にスクアーロが唖然と呆気に取られた表情は相当面白かった。しかしその後スクアーロは今にも泣きそうになりながらお前なんて身体にしてくれたんだよ…!とXANXANをひどく責め立てて3日間自室に引き籠ってしまって大変だった。 
XANXANがそうなるように今まで手を抜くことなく抱いてきたのだ、感じてしまうのは当たり前だろうと言えば納得してくれて自室から出てきた。 
ヴァリアーの№2になる程の頭脳を持ち合わせていながらXANXANの事になると頭が弱くなるなんてなんという単純で可愛い奴なことか。 
二人が些細な言い合いから喧嘩をして口をきかない時にセックスをしてしまえばスクアーロはぐずぐずに蕩けて喧嘩の事など忘れてXANXUSを自ら強く求めて流されてしまうのだ。悪くもないのに悪かったと謝ってそこで二人の喧嘩は終止符を打つ。 

都合が悪かった時は無理矢理にでもセックスをしてしまえば全てが丸く収まった。だからなのか三十路になった今でも未だにXANXANは謝罪を口にした事がなかった。まず謝るという事態がない。スクアーロもXANXUSが謝る事を望まない。 
XANXUSが謝った時には明日は世界の終わりなのかぁ…?!と遠慮なく宣うのだろうから二人はそれでいいのだろう。 
長い口付けにそろそろ酸素が足りなくなってきたのかスクアーロが胸板を押し返す。 
まだ全然スクアーロの口内を味わっていたかったがひとしきり舐めつくしてからXANXUSは大人しく離れた。二人の間を銀の糸がつー…っと吊り橋が出来るのを見つめて肩で息を吐くスクアーロを見下ろすと潤んだ銀の目が怒った風を装ってXANXASを睨んだ。 

「狸寝入りなんて趣味悪いぞぉ」 
「ハッ…気付かねェてめーが悪い。オレの所為にするンじゃねーよ」 

XANXASは鼻で笑ってピンッと軽くスクアーロのおでこを指で弾いた。 
軽くといってもXANXASの軽くはけして軽くはなく痛ェ!とスクアーロは弾かれたおでこを押さえて不満たらたらで口を尖らせた。 

「ならよぉ…何でこんな所で寝てたんだよ!探そうにもそこら中にボスの気配が散ってて探すにも苦労しておかげで探し回ったぞぉ!!」 

ぶつぶつ怒りつつもXANXASにどこか怪我がないかペタペタと頬や胸、腕にお腹、脚などに所々触れて自分で確かめる。XANXASは気が済むまでスクアーロの好きにさせながらグイッと引き寄せると同じようにベスターの腹に寝そべさせた。 
抵抗もせずされるがままに寝そべるとXANXASを下から見上げて見つめた。 
その視線に仕方なさそうに、ひどく面倒くさそうに溜息をこぼして答えた。 

「別に…何かあった訳じゃねェよ。下らない書類とばかり見つめ合うのに疲れて少し寝たかっただけだ」 

本当に? 
スクアーロは男が嘘を付いていないか目を細める。そうするとまるで猫が獲物を見定めるかのようにスッと中心が細くなって心の奥を見透かされるようだ。 
疑い深い腹心の頭をわしゃわしゃと犬にするように撫でてやると傍迷惑な顔をされた。せっかく可愛がってやったのになんて可愛くない部下だ。 
他の部下みたく男の言うことに二つ返事で頷けばいいものをこのサメは何かしら気に入らなければ直ぐに逆らって刃向かって吠える。 
まったく気に入らないがSi.と大人しく言うことを聞く従順な犬など面白くないし求めていない。このサメはプライドが高く自分よりも弱い者に対してどんなに偉かろうが腐る程の金があろうが見向きもせず自分に素直で飾らない姿勢を気に入ってるのだ。 
その名に相応しく正に傲慢な鮫!! 
しかし言うことを聞かないと力ずくにでも従わせたくなるのだから一体何をしたいのか自分でも分かりやしない。従順で訓練された犬よりも主を退屈させない野良犬が余程良い。 
だが余計な事を吠える犬には躾が必要だ。何度躾ても学習しないのかこのサメは何度だって繰り返す。今更手放せる事なんて出来やしないから仕方なく諦めた。XANXASを諦めさせるなんてスクアーロはある意味凄いのだろう。 
仕方ない、こんなのを好きになってしまったのだ。今更だ、それこそ…。仕方ない。 
自分で乱した髪を手櫛しで直してやり背中に腕を回して抱き締める。 
されるがままなのを良いことにサラサラの流れる髪を掻き分けて首筋に鼻を突っ込んで埋めると僅かなシャンプーの香りと共にスクアーロ自身の匂いがする。女みたく汗を気にして香水を付け過ぎたうるさい匂いではなく自然なスクアーロの匂いは雨の香りがする。 

密着しなければ分からない程の僅かなものだ。そのままそこで落ち着いているとスクアーロが体の力を抜いてくったりとXANXASに凭れて深い息を吐いた。 
ベスターに寄り掛かりながら二人は心地良い微睡みに誘われて静かな時を過ごした。 

 

 

そうだった。 

スクアーロは何故仕事をサボってこんなにものんびりとしている理由を思い出した。 
大事な書類の事も思い出し未だに大の男を抱き締めている今は機嫌が良い主をチラッと振り返る。視線に気付いていながら主は相変わらず目を閉じたままだ。昔から惹かれてやまない紅い目が見えなくても主は本当に男の自分でも見惚れるくらいにセクシーだ。なんて良い男なんだ!思わずうっとりしてしまう。 
しかしスクアーロはこれから切り出さなければならない話に溜息を吐いてうんざりした。 

「ボスさん」 

呼ぶとうっすらと紅い目を開けて鋭い視線が見下ろしてくる。それを確認して紅い目を見つめながら重くなる口を仕方なく開いた。 

「縁談の話が来てる」 
「お前にか」 
「茶化すなぁ、ボスにだ」 
「……で?」 

特に興味もなさそうに先を促すのにいささか腹が立つが気に留めない事にした。せっかく重い口を開いたのにそれだけかよと怒りたくもあったが溜息を吐いて気持ちを落ち着かせた。 

「……だからどうすんだ?期待してる相手に返事しねーといけねェんだからよぉ」 

拗ねてそっぽを向きながら言うスクアーロを珍しいおもちゃでも見つけたように面白そうな表情で見下ろしたXANXUSがクッ…と笑った。 

「お前はどうしたい」 

憮然とXANXUSが言うのにスクアーロは唖然とした。この男は俺の答えを聞いてどうするというのだ。それともこちらの反応を見て面白がっているのか。 
こちらの答えなんて当に知れているというのに、最愛の男を殴りたくなった。 
殴りたい程好きになってしまった事を心底恨みたくもなった。けれどこの男の為なら自分の命を投げ出せる程、心底好きなのだ。なんて達の悪い男なことか!! 

「……縁談がきてるのはオレじゃなくてボスだぞぉ」 
「聞いた。だからお前にどうしたいかを聞いている」 

オレが嫉妬するのを面白がってからかいたいというのか。それともオレが縁談の話を受けろと言えば大人しく受けるというのだろうか。 
いや、それはない。男が大人しくオレの言う事を聞く訳がない。 
ならやめろと言えば良いのか。いや!それもちょっと違うような気もする。面白がってオレから主を奪い去る女に嫉妬する様を見たいが為に話を呑むかもしれない。オレが嫌がる姿を見て喜ぶ生粋のサディストなのだ、この男は。そういう男なのだ。 
だからと言って主に嘘も言いたくない。思い悩み、スクアーロは正直に言うことに決めた。 

「オレがやめてくれと言ったら断ってくれるのかよ?」 
「お前次第だ」 
「ふん、言ったな?なら断ってくれよ。アンタはオレのボスなんだから」 
「……ボスだから断るのか」 
「…いや、オレの男だから」 

その答えに満足したのか、XANXUSは小さく笑うと犬を褒めるようにスクアーロの頭を遠慮なく髪が乱れる程にぐちゃぐちゃに撫でた。スクアーロはされるがままXANXUSの好きにさせた。大好きな男の手だ、振り払う理由も拒む理由なんてない。 
上機嫌なXANXUSを見上げるとこれは縁談を吞まないという事だろう。もしやサディストな男がスクアーロをいじる為に何でもする事から縁談を呑むかと思ったが、そう言えばこの男は独占欲が酷く強かったのだ。 
束縛も酷いから同じくらいに相手からの想いを求める。幼少期の頃の扱いでXANXUSは愛というものに敏感でもっとも無償の愛を信じてない男だった。 

けれど傍にいるスクアーロが⒙年の年月を掛けて存在そのものでXANXUSに無償の愛というものを認めさせた。だからXANXUSはスクアーロの重いともいえる愛を受け止めた。だけどスクアーロはXANXUSの為なら簡単に命を投げ出す。その事を何かある度に責めるとスクアーロは耳が痛いようで大人しくなる。一番に信用してるのにXANXUSは心底信じられないでいた。 

仕事が仕事なだけにいつ死ぬか分からない。いつまでも無事に生きて帰って来られる訳ではないのだ。未だに現役だからVARIAは今も最強部隊と謳われているがずっと続くとは限らない。XANXUSは、だからスクアーロは今出来る限りお互いの為に時間を大切にしている。そう簡単にくたばる二人ではないけれど。 
それに二人は揺り籠で8年も離れてしまったのだからその時間を埋めるかのように二人は共に行動する事が多い。仕事であったら傍を離れるが何もなければ離れることを嫌がった。 
普段スクアーロ容赦なく殴って蹴って犯して口では邪険にするXANXUSだけどスクアーロの事が気に入っているし好きなのだ。じゃなかったらスクアーロは既にここにいない。剣だけの力を認めていただけなら寝室にすら近寄らせないだろう。既にスクアーロは居なくてはならない存在となってしまった。お互いに。 

「…じゃあ縁談の話は断ってもいいンだな?」 
「あぁ、断っとけ。いや、オレが直接言う。てめぇは大人しくしとけ。間違っても結婚しろとほざきやがったらかっ消す」 
「言わねぇよぉ」 

ギロッと凄むXANXUSにスクアーロは軽くキスをして宥めた。 
本当はちゃんと女と結婚して子供とか作って温かい家族というものを知って欲しかったが…男の自分を抱いた所で互いの快感以外何も生みやしない。母親から狂った愛しか与えられず9代目には偽られ、裏切りを与えられた。 
何故XANXUSがこんなにも辛い思いをしなければならないのか、スクアーロは苦しく思う。この男が闇の世界に君臨してるのは幼き頃から絶え間ない努力をしたからだ。なのに何故この男を心底愛そうという者がいない。 
なんて、なんて酷い世の中だろう!ならば自分が愛に飢えたこの男の為、喜んでその燃え盛る腕に身を焼かれよう、愛をいくらでも声枯れるまで叫ぼう。 


オレはどこの馬の骨かもしれない女にこの男を渡す気はもうない。 


この男を一番愛しているのは自分だから。 

 

 

End