mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆待ちわびていた(高土)

 

重傷だと聞いていた。

刀を手に立っているのが、生きているのが不思議な程にその男はいくつもの深い傷を負っていていつ倒れても可笑しくなかったと。

 

だから土方は目の前の光景が信じられなくて目を見開いてただ呆然と立ち尽くした。

 

あれから1年が過ぎたのだ。

火乃迦具土神が地球に落ち江戸が崩壊してからいくつもの太陽が登り沈んでは暗い夜を月が照らしてきた。

 

宇宙で先陣に立ち戦った桂小太郎と坂本辰馬の安否は確認出来たが一人だけがそこから消えてずっと分からなかった。

皆は必ず生きていると口々に言ってきた。それは同じ思いだった。あの男が簡単に死ぬ訳がない。重傷だった。しかしあの火乃迦具土神にはアレが、天道衆の肉体があったようだった。それが消えたと報告を受けてまさか、と思いもした。

けれど男は自分の成すことの為ならどんな手段も選ばないだろうと分かっていた。

 

だから、どんな形であれ…生きている。

 

そう信じていた。

 

 

「…十四郎」

 

だから、男が…高杉が目の前に立って己の名前を呼ぶのは亡霊でも、どっかのロリコン変態が化けて出て来た訳じゃない。

 

…ちゃんと、生きている。

 

「…高、杉…」

 

呆然と立ち尽くしていた土方は何年も水を飲めなかったような掠れた声で無意識に男の名を呟いた。

その名を口にした瞬間まるで夢から覚めたかのようにハッと我に返った。

 

高杉は笑みを浮かべたまま土方との距離を縮めた。動けずにいる土方の体の横でぶら下がる手を取ると土方はビクッと肩を震わせたが抵抗はせず高杉はそのまま小さく、震えている手を握り締めた。

 

そしてじっと土方を見つめた。

 

「十四郎」

 

いつも自分をからかうように、諭すように、愛しむように…囁かれてきた声。待ち焦がれた声だ。

土方は目頭が熱くなるのを感じた。何で今更出て来た。何でもっと早くに出てこなかった。今までどこに居た。重傷と聞いたが傷は。鬼兵隊はどうした。聞きたい事は山程たくさんあった。

 

けれど今の土方は泣き出すのを我慢する子供のように口許を震わせて固く結んでいる。

そんな土方を愛しそうに見つめて高杉は抱き締めた。

 

自分を包む温もりに土方はとうとう我慢出来なかった。目頭から涙が溢れて落ち、体の横で手持ちぶさたな腕を持ち上げて高杉の背中に腕を回した。声を、震わせた。

 

「…晋…助ッ」

 

ずっと、会いたかった。

 

 

胸を引き裂かれるような、悲痛な声は高杉の胸に顔を埋めているせいでくぐもって消えた。

けれどその言葉を高杉は聞き逃がさなかった。土方を抱き締める腕に力が込められた。

 

「…待たせたな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆愛される世界・その後

 

 

「はぁ…疲れた…」

 

ばふんっ、と勢いをつけてベットにダイブして土方は溜め息をついた。

うつ伏せになって枕を抱き寄せて顔を埋めると生活の一部とも言える鼻を擽る匂いに心が落ち着く。

 

あの後なんやかんやで高杉の奪い合いはヒートして治まり着かなくなっていたのだが理事長がアンタ達いつまでも喧しいわぁ!!と般若のような顔で出てきたから銀八がやっべぇ!と慌ててお前らいい加減高杉を離してやれ!!と自分の責任を問われる前に神威たちを蹴散らしてその場はそれで終わったのだ。

 

騒ぎ疲れた面々も多かったから皆が大人しく引き下がって帰り、高杉も学校に残る理由もないからと帰ろうとした所を今日は土方も一緒に帰ってきたのだ。

兄弟だと知られてしまったし堂々と隣に並んで高杉と帰る事に少なからず優越感を味わった土方だった。

 

この間は冷たい態度を取っていたが土方は兄が、高杉が大好きだった。

 

だから今回の夜兎工との抗争も出来れば全面的に協力して兄の助太刀をしたかったが兄弟と伝えてなかったし風紀委員と不良という関係から自分からは声を上げられなかった。

 

だから新八が加勢しょう!とクラスの皆に声を掛けた時は心底感謝したしただの駄メガネではないのだな、と少し見直した。少しだけだが。

 

「十四郎、怪我は」

 

安心感に浸っているとベットのスプリングが軋み、重みによってベットが沈んだ。高杉がお風呂から上がって濡れた髪をタオルで拭きながらベットへ腰掛けた。

 

ここは高杉の部屋で土方が我が物顔で高杉のベットに寝転がっていたのだ。

 

「ん、ねェよ」

 

頬を撫でる指に自らすり寄って答えれば高杉はそうか、と目を細めた。

 

うつ伏せから横向きに体勢を変えると腕を伸ばして高杉の横腹に顔を埋めた。擽ってェよ、と言いながらも高杉は土方の好きにさせてその頭を撫でた。サラサラと指の間をすり抜けて落ちていく髪が愛しかった。

 

「…兄弟だとバラして良かったのかァ?沖田に弄られるの嫌がってたじゃねェか」

 

いつもの無感動で冷たい声音しか聞いた事ない者が今の高杉の声を聞いたら固まって驚く程にその声音は優しかった。

土方はその声音を心地好く聞きながらもう良いと答えた。

 

「総悟にバレたら面倒くせェと思ってたけど普通に言った方が逆に面倒が省けると思ったし」

 

それにこれからは堂々とお前を予約せず奪えるしな、と愉しそうに悪い顔で言うものだから高杉はククッ…喉を鳴らして笑った。

 

どうもこの弟は俺が大好きみたいだ。

学校じゃあ弄られるの嫌だから他人のフリをしてくれ、と言われた時は確かに自分と兄弟だと分かれば自分を疎ましく思っている他のヤンキーが弟の事を付け狙うかも知れないと危惧して賛同して頷いた。(まぁ、でも弟はそこらの辺のヤンキーよりかは腕っぷしが強いから余り心配する事はないのだが)

けれど停学が明けて久々に学校へ赴き、何か面白い事はないかと巷を騒がすボンタン狩りやステッカーを強引に買わせる奴等を炙り出そうとすると弟は喧嘩腰に警告と言って危ない真似はするなと心配そうに睨んできた。

 

他人のフリをしろと言ったのそんな顔をするなと思わず頭を撫でたくなったのは弟が可愛いからか。

神威との抗争にも真っ先に飛び出して助太刀したかったのだろう、ペンギンのぬいぐるみから見た弟の顔はその心情を隠す為にひどく険しかった。

 

しかしそんな弟を酷く愛してる兄である自分もまた、可笑しかった。

 

兄弟という事実を知った担任やクラスの奴等の驚いた表情を思い出して傑作だったなァ…と高杉は一人笑みを溢す。

 

「…晋助?」

 

小さく笑う高杉に土方が不思議そうに呼び掛ける。高杉に引っ付いて暖かいからかその表情はとろりと微睡んでいて今にも夢へと旅立って眠りそうだ。

 

「眠いか」

 

ぽんぽん、と背中を撫でるように叩くとん、と子供にように頷いて腹に回した腕に力を込めて目を閉じた。

 

「…今日はここで寝て良いか…?」

 

目を閉じた時点で自分の部屋に戻るつもりはないだろうに、高杉に一応とばかりに聞いてくる。

今日は、と言ってるが土方はほぼ高杉の部屋で一緒に眠っている。自分の部屋に居る時は勉強をしてる時くらいだ。寝る時は高杉と一緒に眠っているから今日はという言い回しは可笑しいが高杉はそれを正すことはせず良いぜ、と優しく返した。

 

嬉しそうに頬を緩ませる土方を見下ろして高杉の表情は甘く優しい。

 

土方が腕の力を緩めて体をずらしたから高杉はそのまま体をベットに滑らせて横たわるとすり寄る土方の肩を抱いて電気のリモコンを手に取ると灯りを消した。

 

「おやすみ、十四郎」

「おやすみ、晋助」

 

愛しい温もりを感じながら、高杉と土方は眠りへと落ちた。

 

 

END

◆愛される世界(高土)

 

 

 

 

いつもと変わらない1日がまた今日も始まった。何も変化は起きず、同じ事を毎日毎日繰り返すだけの日常。

 

そろそろ飽きてきた。

 

そう土方が思っていた時だったのだ。

夜兎高校の頭である神威が高杉にケリを着けて果たし状を送り銀魂高校に殴り込んできたのは。

他の不良からは忌み嫌われてる高杉たち一派は人数がたったの5人でそんな少数で何十人もいる夜兎工の奴等には太刀打ち出来ないから同じクラスで仲間の僕らが加勢をしましょう!とメガネが声を上げたのには心底よく言ったァァ!!!って褒めたくなった。

 

それ程に土方は暇を持て余していた。

そして高らかには言えないが高杉を助ける理由は他にもあった。

 

はたして夜兎工の奴等と応戦する前に高杉一派に加勢して思う存分暇を潰してやり、高杉と神威が本気で殺り合う前に銀八がその間に入り、お前らが俺を一発殴って倒れなかったら二人とも引け、という無謀な賭けに出た。

神威の重い一発にも倒れなかったら銀八は高杉が握った真剣を見てパニクって青ざめたが腹に隠していたジャンプで無傷だった。

ハラハラする場面は多かったが結果的には銀八が勝利を納めて高杉と神威の勝負は終わった。

 

神楽と神威の父である海坊主が神威たちを迎えに来てやっと3年Z組の皆は安堵の溜め息を吐いた。殆どのものが大きな傷もなく済んで良かったと思っていたのだ。

 

海坊主が神威に向かって怒り心頭で何かと怒鳴っていたが神威は面倒くさそうに笑っている。

高杉は興が冷めたのか真剣を収める為に放り出した鞘を拾うと刃を収めた。

取り合えずは海坊主の説教が終わったのか神威ははいはい、大人しく帰るから落ち着いてよ。毛がないのにこれ以上ハゲたら知らないからね、と嫌味を忘れてない。

それに海坊主が誰がハゲだぁぁ?!!!って神威を睨み付ける。

 

「まったく…こっちじゃあ好き勝手出来ないなんてつまらないなー」

 

そう言う神威は高杉に近付いて行く。

周りがまだ喧嘩をするつもりか?!と固唾をのんで見守っていると高杉は近付いて来る神威を警戒もせずただ黙って見ていた。

 

後一歩で手が触れる所で神威は立ち止まった。

高杉はただ神威を見つめる。思わずおい、と声を上げそうになったのは誰だったか、神威が両腕を上げて高杉に伸ばしたのだ。

 

誰もが神威が高杉を殴る、と思っていた。

しかしそんな事にはならなかった。その場にいる者全員が目を点にして驚いていた。

 

神威が、伸ばした腕で高杉を抱き締めたのだ。

 

「ぇ…ええぇえぇっ?!!!!」

 

一体どういう事?!!!!

誰の頭にもそう思っている筈だ。土方も固まってポカーンと間抜けな面を晒していた。

 

「シンスケ~。昔は色んな星を回って楽しかったのにこっちは喧嘩するにも色々と面倒くさいね」

 

高杉を抱き締めたまま顔を横に反らして神威は高杉を見た。高杉はされるがままにふっ…と小さく笑みを浮かべた。

 

「…の割りにはオメぇは好き勝手暴れてるみたいだがな?」

「向こうが掛かってくるから遊んであげただけだよ」

 

丸でさっきまでの喧嘩が嘘かのように高杉と神威は普通に会話をしていた。

 

密着したままで。

 

困惑していた周りは一体これをどういう気持ちで見たら良いのか分からず固まっている。

高杉は自分を抱き締める神威の腕を外そうとはしていない。好きにさせている。

 

しかし黙っていられなかった者が二人に近付いて行った。

 

「土方さん?」

 

沖田が二人に近付く土方に気付いて訝しげに声を掛けるも聞こえてないのか土方はそのまま足を進めた。

 

そして未だに高杉を抱き締める神威をベリッと外して高杉をグイッと自分の方へ引き寄せた。

そして神威をギロッと睨み付けて、

 

「…てめェェ!いつまで人の兄弟に抱き付いてンだァァ?!!!」

 

と、叫んだ。

 

 

 

 

 

「兄弟ぃぃ?!!!」

 

神威が高杉を抱き締めたのにもひどく驚いたのに土方が高杉を神威から取り返して兄弟と言ったのにはまたも驚かされてザワザワと周りがまたざわめいた。

 

そんなの聞いた事なかったのか高杉一派の面々も、風紀委員の面々も驚いた表情をしている。

 

驚く面々を気にする暇もなく土方は高杉を後ろに庇い神威から遠ざける。睨み付けるその様はまるで高杉の忠犬のようだった。

 

「えー…?シンスケ、コイツと兄弟なの?」

 

キョトンと神威が土方を指差しながら動揺もなく無表情の高杉を見ると高杉は肩を竦めて頷いた。

 

「俺の弟だ」

 

嘘でしょう?何かのドッキリ?!!と僅かに期待をしていたが高杉までも兄弟というのを否定をせず、逆に固定したので高杉と土方が兄弟だという事実に疑う余地もない。

 

どうやら腹違いの兄弟らしく今まで別々で暮らしてたらしいから苗字も住所も違うようだったのだ。最近になって高杉の母親が病気で伏せってしまい入院してるらしくて高杉は土方家で暮らしているらしい。

けれど、学校の秩序を守る風紀委員と不良の頭である高杉は犬猿の仲ではなかったのか…?ボンタン狩りの時も争っていたと聞いている。そんな二人が兄弟…?疑問に思ってるとそれを高杉が代わりに答えてくれた。

 

「十四郎、兄弟だとバレると冷やかされるだろうから秘密にするってお前言わなかったかァ?」

「言った!けどなぁ、兄が抱き締められてる所を見て黙ってられる訳ねェだろ。ざけんな、殺すぞ」

 

お前が秘密にするって言ったのには自分で暴露してどうすんだ?と土方を呆れたように見るとそうは言ってもなぁ!と土方は高杉を振り返って噛み付いた。

しかし高杉はどことなく気にしていない感じだった。

 

「あァ?あのガキは昔からあぁだぜ?」

「…はぁっ?!それじゃあ何か?!俺が汗だくで街を走り回ってる間ずっとあのガキを甘やかしてたって言うのか?!!」

「…甘やかしてねェ」

 

江戸に居た頃から神威はあんな感じだと話をすると土方は眼を見開いてにわかに信じがたいと驚愕する。

鬼兵隊と春雨が手を組んで共に行動をしていた事は分かっていたがまさか昔から神威は高杉にあんなにベッタリと甘えて密着していたのか。

 

しかし高杉は甘やかしていないと言う。

けれど先程は嫌な顔もせず好きにさせていたのを見ていた土方はそれが信じられず疑いの眼を高杉に向ける。

 

「さっきのは何だったんだよ。あ"ぁ?」 

「あー…俺が可愛いのはオメぇだけだ、十四郎」

 

今にも殴り掛かって来そうな雰囲気で睨み付けてくる土方に言い訳するのも面倒になったのか高杉は僅かに困った表情をして土方の頭をよしよし、と子供にするように撫でた。

端から見ればその光景は我儘を言う弟を宥める兄という、極普通の兄弟だった。

撫でられて土方は目を細めて表情がゆるりと柔らかく綻んだ。

 

けれど黙ってられなかったのか、神威が高杉に近付こうとしたのだがやはり土方が邪魔をする。

 

「ちょっとシンスケ?それどういう事かな?」

「そうだ!!ちょっと待て!!高杉の事をよく分かっている幼馴染みの俺の方が晋ちゃんに可愛がられている!!」 

「ヅラァァァ!!!てめェも何を張り合ってンただぁ?!!!」

 

いつもあどけない笑顔の神威が青い眼を細めて俺の事を一番可愛がってただろ?と高杉を責めるのにそこへ何故か今まで関係のなかった桂が手を上げながら土方を掻い潜り高杉の右腕を掴んでそのまま腕を絡ませた。

 

銀八がややこしい事になっているのにお前まで参加してどうする?!!!とシャウトするも桂は土方と神威とで睨み合っていた。

 

「ちょ、ちょっと待つッスよ!!!兄弟だが幼馴染みだが宿敵だが知らないスけど晋助様は私らのモンッスよ!!!渡さないっス!!」

 

「引っ込んでろ猪女!晋助は俺の兄だから必然と俺のモンなんだよ」

 

衝撃的な事実が発覚して固まってた高杉一派であるまた子が聞き捨てならない!と睨み合う土方、桂、神威の輪の中へと突進した。

その後を河上と似蔵も続いた。

 

「屁理屈言うんじゃないッスよぉ!!この間までは晋助様に因縁付けてきたクセになんスかその変わり様は!!!晋助様は渡さないもん!!!」

「晋助、晋助の真の友は俺でござろう?」

「………。」

 

何故か周りが騒然としてきて高杉は一体どうしてこうなった?と無表情のまま考えていた。

 

 

 

 

 

「え…?何これ、喧嘩の次は高杉争奪戦?何でアイツあんなモテてんの…?」

 

というか土方くんってブラコンだったの…?

 

銀八は高杉を離さない土方と黙ってされるがまま大人しくしてる高杉を眺めて一人傍観していた。

ツっ込んでたらキリがないし誰も聞いてないから諦めたのだ。

 

高杉は取っ付き難いし酷薄な笑みが怖いとか冷徹非道だとか、不良なだけで嫌われていると思っていたら実際はそうじゃなかったらしい。

高杉はかなり愛されているようだった。

 

そういう自分も先生を抜きにしても憎らしいと思っていてもやはり高杉の事が大事だから一人にはさせられないと思っている。

昔から高杉は周りが惹き付けられる何かを持っているようだ。本人にはその自覚がないようだけどな。

 

銀八はくすりと笑みを溢すと騒ぎを聞き付けたのか高らかに笑いながらわしも晋ちゃんが大好きぜよー!!と高杉争奪戦に参加する坂本と腕に引っ付く桂を気持ち悪イ、と蹴り上げる高杉。ざまぁみろ、と勝ち誇った顔で桂を見下ろす土方達を眺めた。

坂本がおまん、晋ちゃんの弟なんか?じゃあ仲良くするきに!と肩を組もうとすると高杉がその手を叩き落として冷やかな視線を向けて十四郎に触んな黒モジャ。と低い声で脅す。どうやら高杉も重度のブラコンらしい。

 

向こうでは素直に愛せなかったがこっちでは手を離すことなく皆素直に高杉を愛せるみたいだ。

 

「良かったですね、銀八先生」

 

いつの間にか隣には神楽と新八が並んでいた。同じように高杉争奪戦を眺めながらその顔は楽しそうだった。

銀八が嬉しいと思っているのを分かっているようだ。

 

だから銀八もあぁ、そうだな。と冗談を言うことなく素直に頷いた。

 

高杉が愛されている。

 

それがただ、自分の事のように嬉しかった。

 

 

 

END

 

◆ザンスク

【たまには休もう】 

 

 

 

今日のはボスは甘えん坊だ。 

スクアーロは後ろから抱えられながらのんびりと思った。 
何故仕事をサボってボスとこんなにゆったりしているのか…確か先程までは仕事をしていた筈だったのだ。 

はじまりは確か……、 

 


「ルッス、ボスがどこにいるか知っているかぁ?」 

書類を片手にスクアーロは談話室で優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいたルッスリーアに訊ねた。 
しかしルッスリーアははて?と小指を立てながら頬に手を当てて首を傾げて分からないと言った。 

「あら。スクちゃんに分からないなら私が知ってる訳がないじゃないの」 
「チッ…使えねぇ」 

今持っている書類はボスがサインしなければいけないものばかりなのに、サインして欲しい当のボスがいつもなら居るのに執務室に居なかったのだ。 
スクアーロはXANXASの気配には誰よりも敏感に反応出来る。 
だからこのVARIA本部に居ることは分かっている。 
だがいつもなら一点の所に確認出来る気配が今は本部全体にXANXUSの気配が散らばって逆に探し難くなっている。 
さっきから探しているのだが一向に見つからない。 
探している途中、下っ端で遊んでたベルや貯金の計算をしていたマーモン、パラボラの手入れをしていたレヴィに(凄く嫌な顔をされたがスルーした)堂々とサボっていたフランにも居所を聞いてみたが見事にどいつもこいつも首を左右に振って知らないと言う。 
最後の頼みとばかりルッスリーアを訪ねたというのにルッスリーアも知らないのならもうお手上げだ。 
スクアーロは舌打ちをしてルッスリーアから背を向けた。 

「まっ!スクちゃんったらヒッドイわぁ~!」 

後ろでキーッとハンカチをギリギリ噛んで湯気を立てるルッスリーアに邪魔したなと言い残してスクアーロは再びXANXUSを探すべく先を急いだ。 
サインして貰わないといけない書類があるというのもあるが、スクアーロはXANXUSに何かあったのではないか心配だつた。 
稀にXANXUSが誰に何も言わずに消えることは過去何回もあった。 
そうゆう時は何かしら嫌な事があったり塞ぎ込んでいる時が多かったから今回も何かあって姿を消しているのではないかスクアーロは考えて必死に探している。 
XANXUSは誰よりも強いし負ける事はないだろうがVARIAのボスなのだ、いつどこで命を狙われているのか分かったもんじゃない。 

強くても万が一の事があってからでは遅いのだ。スクアーロが行って何か出来る訳じゃないがただXANXUSの姿を一目見て安心したかった。 
XANXUSの強さと実力は誰もが知っている事。今更心配する必要はなく、逆に力の差も分からずに挑んできた愚かな相手を皆心から可哀想に…と同情するだろう。 
しかし分かっていながらもスクアーロは強いXANXASを心配する。 
いつもうるさく周りに気を付けろだの、出掛けるなら護衛に俺を連れてけ等とXANXASに対して昔から口を酸っぱく言うのだ。 
XANXASはそんなスクアーロに対して下らない、と切り捨てるが誰にも言わず消えてしまうとスクアーロは怒るよりも先に泣きそうな顔でホッと胸を撫で下して安心して微笑んで無事で良かった、とXANXASを抱き締める。 
誰よりも強いと言いながらスクアーロは誰よりもXANXASを過保護までに心配して身を案じる。一時でも姿が見えないとなると落ち着かずわざわざ殴られに行く程だ。 
無意識だろうがスクアーロはXANXUSが戻った今でも揺り籠の事を気にしているのだろう。それも当然だ。あれでスクアーロはXANXUSを8年という長い間失われたのだからトラウマといっていい。忘れる筈がないのだ。 
だからなのかスクアーロはXANXUSを一日に一目顔を見ない事には一日が始まらない。 
今日はまだ一回もXANXUSを見ていない。顔を見ていないだけでこんなにも心が騒めく。任務の時は平気なのに居ると分かってて姿が見えないのはスクアーロにとっては苦に等しく我慢させられている事と同じだった。 
執務室、談話室、寝室、中庭、トレーニングルーム、地下、拷問室(ドキドキしながら覗いて入ったが何故かXANXUSが居なくてガッカリしたのは秘密だ)とあの男が行きそうな所を広いアジト全体探したが何処にも姿が見当たらなかった。 

ならばXANXUSはどこにいるのか…スクアーロは段々と不安を積もらせる。 
やっぱりボスに何かあったのではないか…? 
はやる気持ちを抑えてスクアーロは頭を回転させた。 
まったく…あのクソボスは一体どこへ行きやがったんだ…気配はそこら中に感じるというのに本人が見当たらないとは遊び過ぎにも程があるだろうが…!! 

しかしスクアーロは急にハッと思い至った。 
探していなかった場所が一つだけある事に。 
考えるよりも先に体が動き書類を放り出すと走り出した。 

 

「見つけた…」 

XANXUSの寝室の奥バルコニーの下、木々に生い茂られた茂みに男は匣から出したベスターのお腹に背を預けて眠っていた。 
その僅かな木漏れ日から差す光に照らされながら心地良さそうにぐっすり眠っている所を見下ろしてスクアーロは反対に一気に疲れが出たようにぐったりした。 

「…こっちの気も知らねえですやすや呑気に寝やがって…」 

此処ならば誰も居ないしボスの寝室付近ということもあって余程の用がない限り幹部でも立ち入らない場所だ。今は春だがそろそろ夏に近付いている時期で昼間は日差しが眩しく暑かったのだろう、この場所ならひんやりとしてて成程、確かに一眠りするには良いスポットだった。しかしスクアーロはやっとXANXUSの無事をちゃんとこの目で確認出来てホッと胸を撫で下して一息付く。 
こんなにも近付いてるのにXANXUSは目を覚まさない。バルコニーに出て手摺を軽く飛び越えると重力に従って体は下へ落ち、柔らかい芝生に足が着く。 
そのままXANXUSに近付くとベスターが赤い目を開けて首を上げてスクアーロの方を見上げた。 
しゃがみ、ベスターの顔を両手で優しくそっと撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らして気持ち良さそうに目を閉じて優しい手に自ら撫でてと擦り寄る。 
もっと撫でろと催促するベスターをスクアーロはふっと小さく笑って微笑んで要望に応えてやった。充分に撫でてやってから視線をベスターから未だ目を閉じている男に向ける。 
こんなにも肩が触れるくらいに近くに居るというのにまだ無防備に眠って起きないとは…。敵だと認識されてないのか、はたまたベスターが居るから気にしてないのかどっちなのかは分からない。どのみちXANXUSが何の事件や事故に巻き込まれておらず無事ならば何でも良い。風にそよぐ黒髪に手を伸ばしそっと撫でて遊ぶ。 
やはり良いシャンプーを使ってるお陰で柔らかい髪質で触り心地が良い。 
指を髪から細いシャープを描く頬へ滑らせスクアーロは古傷が浮かぶ頬にそのまま顔を近付けて軽くキスをした。すると待っていたかのようにスクアーロの後頭部を押さえる手が。言わずもXANXUSの大きな手だった。 
手は僅かに動いて上手く誘導し、頬にキスしていたスクアーロは誘導されるがままに厚い唇とキスを交わした。 
スクアーロはXANXUSが起きた事に髪を撫でた時に気がついていた。 
だから後頭部を押さえた手に驚かず誘導されるままキスを交わして戯れた。 
僅かに開いた口の隙間を逃さず狙いXANXUSの舌がスクアーロの口内へと滑り入り奥に逃げて縮こまるスクアーロの舌を絡め捕えた。XANXUSの舌の熱さにスクアーロの肩がびくりと震えて縋る。 
強弱をつけて吸うとスクアーロは余りのその刺激に感じて体をXANXUSに押し付けて鼻に掛かった甘い声を漏らした。 


「んっ…ふ、っ…」 

一分にも満たない内にスクアーロは既にXANXUSによって翻弄され腰が抜けてしまってちゃんと座る事もままならずXANXUSに体重を掛けて寄り掛かってしまっている。 
雪のように白かった頬が薔薇のように紅く染まり息もままならぬ口付けに苦しそうに眉間に皺を寄せて快感に閉じられた目にびっしり生えた白い睫毛がふるふると震えている。 
閉じていた目を開けてXANXUSはその様をじっくりと至近距離から見つめた。痛みにはめっぽう強い癖にスクアーロは本当に快感に弱かった。 

それを教えたのは他ならないXANXUSだ。 
出会ってから一ヶ月経って直ぐに手を出したからな。8年ものブランクはあれど目覚めてからは大体腹いせに、時には持て余す体内の炎にもがいて逃げ場所に何度も抱いていて10年経った今でもスクアーロ以外を抱くつもりはなかった。 
10代の時点で既にスクアーロの身体はXANXANによって調教されてしまっている。ベットでは滅多に呼んでやらない名前を何度も耳元に囁くもんだからからかうつもりで通常時仕事をしていたスクアーロの背後から忍び寄って耳元に息を吹き掛けて名前を呼んでやったら甘い声を上げて腰を抜かすとイってしまった。 

これには流石のXANXANも紅い目を見開いて驚いたがそれ以上にスクアーロが唖然と呆気に取られた表情は相当面白かった。しかしその後スクアーロは今にも泣きそうになりながらお前なんて身体にしてくれたんだよ…!とXANXANをひどく責め立てて3日間自室に引き籠ってしまって大変だった。 
XANXANがそうなるように今まで手を抜くことなく抱いてきたのだ、感じてしまうのは当たり前だろうと言えば納得してくれて自室から出てきた。 
ヴァリアーの№2になる程の頭脳を持ち合わせていながらXANXANの事になると頭が弱くなるなんてなんという単純で可愛い奴なことか。 
二人が些細な言い合いから喧嘩をして口をきかない時にセックスをしてしまえばスクアーロはぐずぐずに蕩けて喧嘩の事など忘れてXANXUSを自ら強く求めて流されてしまうのだ。悪くもないのに悪かったと謝ってそこで二人の喧嘩は終止符を打つ。 

都合が悪かった時は無理矢理にでもセックスをしてしまえば全てが丸く収まった。だからなのか三十路になった今でも未だにXANXANは謝罪を口にした事がなかった。まず謝るという事態がない。スクアーロもXANXUSが謝る事を望まない。 
XANXUSが謝った時には明日は世界の終わりなのかぁ…?!と遠慮なく宣うのだろうから二人はそれでいいのだろう。 
長い口付けにそろそろ酸素が足りなくなってきたのかスクアーロが胸板を押し返す。 
まだ全然スクアーロの口内を味わっていたかったがひとしきり舐めつくしてからXANXUSは大人しく離れた。二人の間を銀の糸がつー…っと吊り橋が出来るのを見つめて肩で息を吐くスクアーロを見下ろすと潤んだ銀の目が怒った風を装ってXANXASを睨んだ。 

「狸寝入りなんて趣味悪いぞぉ」 
「ハッ…気付かねェてめーが悪い。オレの所為にするンじゃねーよ」 

XANXASは鼻で笑ってピンッと軽くスクアーロのおでこを指で弾いた。 
軽くといってもXANXASの軽くはけして軽くはなく痛ェ!とスクアーロは弾かれたおでこを押さえて不満たらたらで口を尖らせた。 

「ならよぉ…何でこんな所で寝てたんだよ!探そうにもそこら中にボスの気配が散ってて探すにも苦労しておかげで探し回ったぞぉ!!」 

ぶつぶつ怒りつつもXANXASにどこか怪我がないかペタペタと頬や胸、腕にお腹、脚などに所々触れて自分で確かめる。XANXASは気が済むまでスクアーロの好きにさせながらグイッと引き寄せると同じようにベスターの腹に寝そべさせた。 
抵抗もせずされるがままに寝そべるとXANXASを下から見上げて見つめた。 
その視線に仕方なさそうに、ひどく面倒くさそうに溜息をこぼして答えた。 

「別に…何かあった訳じゃねェよ。下らない書類とばかり見つめ合うのに疲れて少し寝たかっただけだ」 

本当に? 
スクアーロは男が嘘を付いていないか目を細める。そうするとまるで猫が獲物を見定めるかのようにスッと中心が細くなって心の奥を見透かされるようだ。 
疑い深い腹心の頭をわしゃわしゃと犬にするように撫でてやると傍迷惑な顔をされた。せっかく可愛がってやったのになんて可愛くない部下だ。 
他の部下みたく男の言うことに二つ返事で頷けばいいものをこのサメは何かしら気に入らなければ直ぐに逆らって刃向かって吠える。 
まったく気に入らないがSi.と大人しく言うことを聞く従順な犬など面白くないし求めていない。このサメはプライドが高く自分よりも弱い者に対してどんなに偉かろうが腐る程の金があろうが見向きもせず自分に素直で飾らない姿勢を気に入ってるのだ。 
その名に相応しく正に傲慢な鮫!! 
しかし言うことを聞かないと力ずくにでも従わせたくなるのだから一体何をしたいのか自分でも分かりやしない。従順で訓練された犬よりも主を退屈させない野良犬が余程良い。 
だが余計な事を吠える犬には躾が必要だ。何度躾ても学習しないのかこのサメは何度だって繰り返す。今更手放せる事なんて出来やしないから仕方なく諦めた。XANXASを諦めさせるなんてスクアーロはある意味凄いのだろう。 
仕方ない、こんなのを好きになってしまったのだ。今更だ、それこそ…。仕方ない。 
自分で乱した髪を手櫛しで直してやり背中に腕を回して抱き締める。 
されるがままなのを良いことにサラサラの流れる髪を掻き分けて首筋に鼻を突っ込んで埋めると僅かなシャンプーの香りと共にスクアーロ自身の匂いがする。女みたく汗を気にして香水を付け過ぎたうるさい匂いではなく自然なスクアーロの匂いは雨の香りがする。 

密着しなければ分からない程の僅かなものだ。そのままそこで落ち着いているとスクアーロが体の力を抜いてくったりとXANXASに凭れて深い息を吐いた。 
ベスターに寄り掛かりながら二人は心地良い微睡みに誘われて静かな時を過ごした。 

 

 

そうだった。 

スクアーロは何故仕事をサボってこんなにものんびりとしている理由を思い出した。 
大事な書類の事も思い出し未だに大の男を抱き締めている今は機嫌が良い主をチラッと振り返る。視線に気付いていながら主は相変わらず目を閉じたままだ。昔から惹かれてやまない紅い目が見えなくても主は本当に男の自分でも見惚れるくらいにセクシーだ。なんて良い男なんだ!思わずうっとりしてしまう。 
しかしスクアーロはこれから切り出さなければならない話に溜息を吐いてうんざりした。 

「ボスさん」 

呼ぶとうっすらと紅い目を開けて鋭い視線が見下ろしてくる。それを確認して紅い目を見つめながら重くなる口を仕方なく開いた。 

「縁談の話が来てる」 
「お前にか」 
「茶化すなぁ、ボスにだ」 
「……で?」 

特に興味もなさそうに先を促すのにいささか腹が立つが気に留めない事にした。せっかく重い口を開いたのにそれだけかよと怒りたくもあったが溜息を吐いて気持ちを落ち着かせた。 

「……だからどうすんだ?期待してる相手に返事しねーといけねェんだからよぉ」 

拗ねてそっぽを向きながら言うスクアーロを珍しいおもちゃでも見つけたように面白そうな表情で見下ろしたXANXUSがクッ…と笑った。 

「お前はどうしたい」 

憮然とXANXUSが言うのにスクアーロは唖然とした。この男は俺の答えを聞いてどうするというのだ。それともこちらの反応を見て面白がっているのか。 
こちらの答えなんて当に知れているというのに、最愛の男を殴りたくなった。 
殴りたい程好きになってしまった事を心底恨みたくもなった。けれどこの男の為なら自分の命を投げ出せる程、心底好きなのだ。なんて達の悪い男なことか!! 

「……縁談がきてるのはオレじゃなくてボスだぞぉ」 
「聞いた。だからお前にどうしたいかを聞いている」 

オレが嫉妬するのを面白がってからかいたいというのか。それともオレが縁談の話を受けろと言えば大人しく受けるというのだろうか。 
いや、それはない。男が大人しくオレの言う事を聞く訳がない。 
ならやめろと言えば良いのか。いや!それもちょっと違うような気もする。面白がってオレから主を奪い去る女に嫉妬する様を見たいが為に話を呑むかもしれない。オレが嫌がる姿を見て喜ぶ生粋のサディストなのだ、この男は。そういう男なのだ。 
だからと言って主に嘘も言いたくない。思い悩み、スクアーロは正直に言うことに決めた。 

「オレがやめてくれと言ったら断ってくれるのかよ?」 
「お前次第だ」 
「ふん、言ったな?なら断ってくれよ。アンタはオレのボスなんだから」 
「……ボスだから断るのか」 
「…いや、オレの男だから」 

その答えに満足したのか、XANXUSは小さく笑うと犬を褒めるようにスクアーロの頭を遠慮なく髪が乱れる程にぐちゃぐちゃに撫でた。スクアーロはされるがままXANXUSの好きにさせた。大好きな男の手だ、振り払う理由も拒む理由なんてない。 
上機嫌なXANXUSを見上げるとこれは縁談を吞まないという事だろう。もしやサディストな男がスクアーロをいじる為に何でもする事から縁談を呑むかと思ったが、そう言えばこの男は独占欲が酷く強かったのだ。 
束縛も酷いから同じくらいに相手からの想いを求める。幼少期の頃の扱いでXANXUSは愛というものに敏感でもっとも無償の愛を信じてない男だった。 

けれど傍にいるスクアーロが⒙年の年月を掛けて存在そのものでXANXUSに無償の愛というものを認めさせた。だからXANXUSはスクアーロの重いともいえる愛を受け止めた。だけどスクアーロはXANXUSの為なら簡単に命を投げ出す。その事を何かある度に責めるとスクアーロは耳が痛いようで大人しくなる。一番に信用してるのにXANXUSは心底信じられないでいた。 

仕事が仕事なだけにいつ死ぬか分からない。いつまでも無事に生きて帰って来られる訳ではないのだ。未だに現役だからVARIAは今も最強部隊と謳われているがずっと続くとは限らない。XANXUSは、だからスクアーロは今出来る限りお互いの為に時間を大切にしている。そう簡単にくたばる二人ではないけれど。 
それに二人は揺り籠で8年も離れてしまったのだからその時間を埋めるかのように二人は共に行動する事が多い。仕事であったら傍を離れるが何もなければ離れることを嫌がった。 
普段スクアーロ容赦なく殴って蹴って犯して口では邪険にするXANXUSだけどスクアーロの事が気に入っているし好きなのだ。じゃなかったらスクアーロは既にここにいない。剣だけの力を認めていただけなら寝室にすら近寄らせないだろう。既にスクアーロは居なくてはならない存在となってしまった。お互いに。 

「…じゃあ縁談の話は断ってもいいンだな?」 
「あぁ、断っとけ。いや、オレが直接言う。てめぇは大人しくしとけ。間違っても結婚しろとほざきやがったらかっ消す」 
「言わねぇよぉ」 

ギロッと凄むXANXUSにスクアーロは軽くキスをして宥めた。 
本当はちゃんと女と結婚して子供とか作って温かい家族というものを知って欲しかったが…男の自分を抱いた所で互いの快感以外何も生みやしない。母親から狂った愛しか与えられず9代目には偽られ、裏切りを与えられた。 
何故XANXUSがこんなにも辛い思いをしなければならないのか、スクアーロは苦しく思う。この男が闇の世界に君臨してるのは幼き頃から絶え間ない努力をしたからだ。なのに何故この男を心底愛そうという者がいない。 
なんて、なんて酷い世の中だろう!ならば自分が愛に飢えたこの男の為、喜んでその燃え盛る腕に身を焼かれよう、愛をいくらでも声枯れるまで叫ぼう。 


オレはどこの馬の骨かもしれない女にこの男を渡す気はもうない。 


この男を一番愛しているのは自分だから。 

 

 

End 

◆宇善

 

 

前に、宇髄さんと付き合う時に炭治郎や煉獄さんに報告した際に煉獄さんから言われた事がある。

 

「宇髄は優しい男だ。君を大事にしてくれるだろう。だけど、あの男は闇を抱えている、何があろうと君を絶対に逃がしはしない」

 

だからそれが嫌なら宇髄と付き合うのは止めた方が良い、君も宇髄も報われない。

 

煉獄さんからそう忠告を受けたのを思い出した。

あの時は煉獄さんは一体何を言ってるんだろう?宇髄さんが闇を抱えているのなんて、過去に自分の部屋でもある美術室を芸術は爆発だ!って叫んでダイナマイトで破壊した時から分かっているよ、って思っていた。

 

甘かった。

 

宇髄さんが抱えてる闇は目視で分かる程に浅くなかった。とんでもなく深かった。

それを何故煉獄さんが分かっていたのかは分からないけど俺は、もう逃げられない事を知っている。

今宇髄さんの闇の深さを知った所で既に遅いのだ。

 

チャラッ、と軽い音を立てて足首にまとわりつく金属の冷たさが一瞬思考を鈍らせた。

 

柔らかなベッドが起き上がるのにつれてスプリングを利かせて体重で軽く沈んだ。

顔を上げると視界は真っ白だ。カーテンを閉め忘れてしまったのか窓から日が差しているが冬の寒さで窓は曇っていて景色までは見れないが白く染まっていた。

どうやら肌寒く感じたのは雪が降っていた所為だったようだ。

 

冷たくなってしまった剥き出しの肩をさすりながら傍らにあった大きな上着を軽く肩に羽織ってベッドから足を下ろして窓際に近付いた。

 

曇ってた窓ガラスを手で軽く擦ると擦った部分だけ景色が見えるようになった。

結構降ってるみたいで少しずつ積もってるようだった。車の上や塀など軽く雪が積もっていて後少しもすれば雪を払うのに苦労してしまうだろう。

 

ぼんやり外を見ているとコツコツと足音が聞こえてきた。

 

あぁ、帰って来たんだ…。

 

ガチャッと鍵を差し込む音が聞こえると次いで鍵を回してドアが開く音が続いて聞こえてきた。

振り返ると宇髄さんが部屋に入ってきた所だった。建物の中に入るまでに雪を被ったからか所々に雪を纏わせていた。

 

「おかえりなさい」

 

コートも脱がずに近付いてきた大きな男を見上げて頭に手を伸ばす。膝を少し曲げて屈んで抱き締められるのに頭に被っていた雪を払ってやった。

 

ただいま、ゆったりした声で宇髄さんはぎゅうぎゅうに抱き締めてくる。

 

「外、雪降ってたんですね」

 

「おぅ。結構積もってるぞ」

 

雪だるまとかまくらを作ってる奴が居たよ、と楽しそうに言う宇髄さんを見上げて善逸は口を開いた。

 

「宇髄さん。外行きたい」

 

すると楽しそうに笑ってた宇髄は打って変わって表情を無くして善逸を見下ろした。

 

「善逸」

 

無機質のような声だ。宇髄のように顔が余りにも整っているとその表情を無くした時の迫力が凄いのだ。

表情を無くした宇髄は善逸の肩を痕が付くんじゃないかという程に掴むと顔を寄せた。

 

「善逸。それは許さないって言ったろ?」

 

有無を言わせないと深い闇を宿した色の瞳が善逸を見つめる。善逸はそんな宇髄にゾクリと背筋を這う冷たい汗に体を震わせたけれど気付かないフリをしてそっと目を伏せた。

 

「…はい」

 

善逸が頷くと無表情からにこりと宇髄は笑顔を見せると善逸を抱き上げてさっきまでいたベッドに向かった。

すると善逸の足に絡み付いていたもの、細い鎖が音を立てて後を追った。

 

善逸は宇髄によって監禁されていた。

 

 

 

 

END

 

◆離す訳がない(煉炭♀宇善♀)


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失敗した。

 

何であんな事を言ってしまったのか自分に怒りを覚えてしまっても気付いた時には時既に遅しとはよく言うもんで恋人が家から消えてしまった。

仕事が終わり家に帰って玄関を開けるといつもは出迎えてくれるのに今日は誰も居なかった。シーンとした静けさが耳に痛い。

テーブルの上を見ると自分の為に用意された肉じゃががラップされて置かれていた。それを見て嫌って出ていった訳ではないと少しばかり安心した。

外から部屋を見上げた時、窓から中の光が見られなかった時から嫌な予感はしていた。

案の徐誰もいなくて直ぐに上着から携帯を取り出し電話を掛けても電源を切っているのかまたは敢えて無視してるのか分からないが出てくれる気配は一向にない。舌打ちばかりが出てくる。

しかし俺が悪い。あの愛し子が愛に酷く敏感で自分の身を削ってでも与える分には問題ないのに与えられる側になると疑心暗鬼になって怯える質だというのを忘れておざなりな対応をしてしまった。


今朝の自分を殴りたくなる。


後悔で胸が張り裂けそうな思いだったけれど今は探すのが先決。この寒い季節で公園とかに居る筈はない。あいつを引き取ってくれた爺さんは遠い田舎の道場の師範をしているからそこに帰ったとは考えられない。

帰るには遠すぎる。だからあいつが居るのは親友の所だろう。


先程帰って来たばかりだがスーツの代わりにコートを着込み財布と携帯、車のキーをポケットに突っ込んでマンションを出た。


どうかあいつの所にいますように。そう祈って車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

「どうぞ」

失礼するぞ!と扉の向こうから溌剌とした声音が聞こえると同時に扉が開かれた。

そこには3つのお茶をお盆に乗せてそれを危なげもなく片手で持った煉獄だった。居間のテーブルで腰を落ち着かせていた炭治郎と、善逸は少し身体をずらして煉獄の為に席を空けた。

ありがとうとニコッと笑って煉獄は空いたスペースに腰を落ち着かせる。

 

「まだ熱い。少し冷ましてから飲むと良いぞ」


わぁありがとうございます!善逸は嬉しそうに両手を頬に当てて表情を崩して頬を綻ばせた。

さっきから目の前に置かれたキラキラ輝くように美味しそうなモンブランを食べたくてうずうずしてたが甘いモンブランとほろ苦いお茶を一緒に食べるのが一番美味しいと知ってるから涎を垂らしてお茶が来るのを待っていたのだ。

目の前のモンブランは駅前の有名店が扱ってる季節限定のものでそれはもう有名店なだけあって午前中には全て売れ切れてしまい善逸はいつも泣く泣くその店を後にしてたのだが今回は煉獄さんが近所の人から貰ったらしくておやつとして出されたのだ。

甘いものが大好物でこの季節限定のモンブランを食べたかった善逸はそれはもう嬉しさの余りに嬉し泣きで涙を溢して煉獄に抱き付いたものだった。


「いただきまーす!」


大好きなスイーツが目の前にあって我慢出来る筈もなく、善逸はスプーンをさっそく手にとってモンブランに差し込もうとした。

炭治郎と煉獄がそんな善逸を見て小さく笑った。一口分を掬って口に運ぼうとしたその時ふと、あっ…と思い出した。

 


『分かった分かった、今度俺が買って来るからそォ泣くなよ。な?』


朝早くに行ったのに後残り一人って所で前の人で売れ切れとなり間に合わずスイーツを買う事が叶わなくて泣き付いた善逸に仕方なさそうに呆れた表情をしながら今度買ってくれると約束してくれたあの人の…、宇髄の顔が頭を過って善逸はピタッと手を止めた。


約束…してくれたのに、アンタが買ってきたものじゃないのを食べちゃうよ…。


今朝の事を思い出して善逸は無性に泣きたくなった。なんて事ない、宇髄さんは急いでたから思ってた事をそのまま言っただけだ。

悪くない。ただ自分が思いの外その言葉を気にしてあの家に居るのが居たたまれなくなっただけだ。


やっと金曜日で仕事の方が今日で落ち着き週末明けからこの4日間仕事で忙しかったらしい宇髄は余り疲れが取れず多少ボンヤリしながら今日も早起きで仕事へ向かう為に準備をしていくのを善逸も一緒の時間に起きてお弁当を作ったり移動中でも食べられる朝ご飯を作ってやったりと家事全般を任されていて今日も栄養バランスを考えたお弁当を作って張り切っていた。

宇髄は無理して一緒に起きなくて良いといつも気に掛けて言ってくれているが善逸はそれを一蹴して今は家事くらいしか出来ないのだからと宇髄の気遣いを有り難く思いつつも宇髄の為に何か出来るのが嬉しくてやっているのだと伝えて毎日欠かさずお弁当を作って玄関まで見送るというセットを一緒に暮らし始めてから一日足りとも欠かせた事はない。

いつものように玄関で靴を履く宇髄の後ろで鞄とお弁当が入った袋を持って忘れ物はないか、今日は何時に帰ってくるのかと話していた。

思い出したように宇髄がそう言えば、と善逸を振り返った。


「同僚からお弁当の盛り付けとか飾りとかが上手いって褒められた」

「え、本当ですか?!」


パァァアッと善逸の表情が嬉しさで輝く。

最初の頃は飾りとか盛り付けとか気にしなかったけどテレビとかで『疲れた時にお弁当を開けると綺麗に盛り付けられているのを見ると妻の顔が頭を過って今日も自分の為に頑張ってくれたのだなぁって考えたら疲れが吹き飛ぶ』というお弁当を持参して行くサラリーマンの特集編!を見てしまって善逸も宇髄さんがお弁当を開けて少しでも疲れが取れればと女子力を頑張って高めているのだ。

それを褒められて善逸は踊り出したい程に嬉しかった。


宇髄があぁ、最初はあんなに男飯のような食べれればいいやって感じだったのに最近綺麗だよな、って言われたぜ?くすりと宇髄が笑いながら靴紐を結び終えて立ち上がると善逸に向き直った。


「へーへーそれは悪ぅございました!これでも女だから頑張ってるんです!でも宇髄さんだったら俺じゃなくても可愛い女の子がいっぱい綺麗なの作ってくれそうですもんねぇ?」


鞄とお弁当袋を宇髄に渡しながら善逸が嫌味のつもりで言った言葉に次に返って来た言葉を聞いて固まってしまった。


「そうだな、別にお前じゃなくても俺は色男だから色んな女が作ってくれるだろうな」


何気ない、悪気のない言葉だと分かっている。けれど善逸の心はサァーッと冷えて身動きが取れなかった。


ボンヤリしてた宇髄はそんな善逸に気付かず、じゃあ行ってくる。

善逸の頬に軽く口付けて宇髄はいつものように仕事へ向かって行った。善逸の固い表情に気付く事なく。


それから善逸は一通りの家事を終わらせてから家を出た。

宇髄の言葉が頭を離れず家の中に居るのが苦しくなったからだ。宇髄にお前のお弁当が良い、とか言って欲しかった訳じゃない。

じゃあ何であんな事を言ってしまったのか、あれじゃあ暗にお前のお弁当が良いって言わせようとしてたみたいじゃないかと自分の無意識の汚さに善逸が我慢出来なかった。


家を出ても特に当てがある訳でもなくて公園のベンチに腰を落ち着けて遊具で楽しそうに遊ぶ小さい子供たちを何気なく眺めていた。


何で宇髄さんは、俺なんかを選んだんだろう…。

 

宇髄さんは見た目が厳ついけどそれはもう世の女が放っておく訳がないくらいに男前だし体格も優れていて譜面を組める程に頭も良いと、誰もが認める文句なしの男だった。

街中を歩くだけで女の目を奪っていくのを何度も目にしてきたし逆ナンされるのも日常茶飯事という世の男からしたら殺したい程に憎たらしいだろうけど。

ただ自分の事を自称・神とか宣うのは頭が可哀想なんだなぁ…って会った当時は思ったが一緒にいて落ち着けるし楽しい人だ。


それなのにそんな完璧とも言える男が何故何もない自分なんかを選んでくれたのか未だに分からない。好きだ愛してると幾度なく言われてきた。

宇髄さんを疑ってその言葉を信じてない訳じゃないがどうしても宇髄さんが愛の言葉を自分に囁くのが違和感があり、不思議で堪らない。

その言葉を隣で囁かれるのはもっと宇髄さんに相応しい女の人だと常日頃から思っていた。

自分は誇れるような立派な人間じゃない。何かあると直ぐに逃げ出そうとするし自分に理不尽な事があったら泣き喚いて過去に炭治郎を困らせた事もあった。

何かに怯えて一人になってしまうのが怖くて勘違いして笑い掛けてくれた男に迫って何回も騙された事もあった。

それが切っ掛けで炭治郎にみっともない事はやめろ!と激しく怒られてもっと自分を大切にしないとダメじゃないか!!とそれはもう般若のような顔で拳骨を食らって怒られてからは男と不用意に付き合う事は止めた。あれは本当に怖かった…優しい奴を怒らすと怖いのは間違いではないらしい。あれ以来絶対に炭治郎を怒らせないようにと胸に誓った。


宇髄さんとは一緒に出掛けることがあって話していく内に宇髄さんを好きになって宇髄さんも俺を好きだと、一緒に暮らそうと手を差し伸べてくれたから幸せだった。


幸せだ。

宇髄さんに愛されて。


でも何気ない言葉で簡単に心は弱くなって本当かどうか信じられなくなる。
本当は愛されていないのではないかと、宇髄さんは優しいから可哀想な俺を仕方なく一緒にいてくれるのではないかと、直ぐに疑ってしまう。


こんな弱い自分が大嫌いだ。

 


そんな時に、


「善逸?」

 

何時間もずっと寒い中ベンチに座って動かずにいた善逸は青ざめた顔で随分と体が冷えてそうだった。

己の弱さに後ろ向きな事しか考えられなかった善逸を後ろからよく知った声が自分を呼んだのに善逸はのろのろと顔を上げて後ろを振り返った。


やはり、そこには親友の炭治郎が善逸の表情を見て目を見開いていた。

買い物の帰りだったのか隣には恋人の煉獄さんがスーパーの袋を持っている。
炭治郎が直ぐに善逸の傍まで駆け寄って冷えた善逸の頬を柔らかく温かい両手で包んで怒った顔で善逸を見下ろした。

 

「善逸!こんなに冷えて…!暖かい場所で休まないと風邪を引くだろう?」

心のそこから善逸を心配する音がした。

ごめん…それしか言えなくて善逸は俯いた。親友にも何度も心配させちゃうなんて…本当何をやってるんだろ…。


善逸の雰囲気がいつもと違う事に気付いたのか炭治郎が隣に来た煉獄を見上げた。

煉獄も炭治郎を見下ろして安心させるように小さく笑うと善逸の頭を撫でて声を掛けた。

 

「善逸、良ければだが家に来ないか?」


え…?戸惑った善逸が煉獄を見上げると煉獄は笑って実は知り合いにケーキを頂いてな!一緒に食べよう!と続けた。

何かあったのは明白なのに二人は何も聞かない。無理に聞く事ではないと、取り合えず善逸をこの寒い中に放っておく筈もなく煉獄は着けていた黒の手袋を外すと善逸に着けさせて炭治郎は巻いていた青いマフラーを寒そうな首元に巻いてあげて3人歩いて煉獄と炭治郎が住む家へと帰った。

 


スプーンを握ったまま泣きそうな表情でモンブランを見下ろす善逸に炭治郎が心配そうに見つめた。

炭治郎まで悲しい表情をしたのに煉獄が眉間にシワを寄せて険しい表情をする。


「善い…」

 

ピンポーン


炭治郎が善逸の肩に手を伸ばそうとした時、インターホンが鳴った。

炭治郎は手を伸ばしたまま動きを止め、煉獄を見上げた。煉獄は目を細めて立ち上がる。


「来たな」


煉獄のその呟きに善逸が誰が?と首を傾げる。
扉の方に向かいながら煉獄は炭治郎と善逸に俺が出てくからここにいるようにと言って玄関へと向かって行った。

善逸が炭治郎に一体誰が来たの?もしかして誰か来る予定だった?俺お邪魔かな?と不安そうに訊ねると炭治郎は大丈夫だと微笑んだ。

 

「お迎えが来たんだよ」


お迎え…?誰の?

善逸は炭治郎の言ってる事が分からなかったが炭治郎がにこりと笑うのに思い至る事があった。

いや、そんな…まさか…。

有り得ないと善逸は思ったが炭治郎が煉獄さんはここで待ってるように言ってたけど俺たちも行こうか。と戸惑う善逸の手を引いて立ち上がる。

 

「た、炭治郎…」

「善逸、大丈夫だよ」


泣きたくなる程の優しい音。

いつだって炭治郎はどこまでも優しい。
弱い俺を善逸は強いよ、って疑わずに信じてくれている。そんなことはないのに、否定しても善逸は強い、俺は知ってるよと頑なに俺に言うんだ。

逃げてばかりで卑怯になり下がろうとするのを叱咤して見捨てないで隣に居てくれる。

だからいつも炭治郎に救われてるんだよ、俺は。炭治郎が大丈夫って言うのなら、大丈夫…なんだよね。

炭治郎と善逸は居間を出て煉獄さんが居るであろう玄関へと向かい、近付くにつれて話し声が聞こえてきた。

耳の良い善逸には煉獄さんと、もう一人の声がよく聞こえる。煉獄さんの話してる相手は思っていた通り、知っている者だった。

気まずさで素直に前に出れる筈もなく炭治郎の背中に隠れてしまう。

 

「杏寿郎さん」


炭治郎が話し中の煉獄の背中に声を掛けると出てきたのか、と煉獄は振り返る。
すると煉獄と話してた相手、宇髄も炭治郎に視線を向けた。

背中に善逸がいるのを見て宇髄は煉獄の肩を押して身を乗り出した。

 

「善逸っ!」

「っ……」

びくりと善逸は体を震わせて炭治郎の背中で縮こまる。それを見て宇髄が悲しそうに目を細める。なるたけ声を押さえ付けて善逸に手を伸ばした。


「善逸、帰ろう」

差し伸べられた手を見て善逸は躊躇する。

手を取りたいけどまだ朝のわだかまりが頭を過って手を取る事が出来ない。今はこのまま気持ちが落ち着くまでそっとして欲しいという気持ちもある。

躊躇する善逸に宇髄は尚も手を伸ばして善逸を呼ぶ。玄関を上がって炭治郎の後ろから善逸を抱き上げて連れて帰るのも出来るがそれでは意味がない。

善逸自身が宇髄と帰る事を選ばなければならない。だから宇髄は今すぐ連れ去りたい気持ちを抑え込んで辛抱強く切実に善逸を待った。


「善逸、ごめん」

視線をさ迷わせる善逸に宇髄が謝った。

善逸は息を詰めて宇髄を見つめた。たったそれだけで善逸は宇髄を許せたし元々宇髄を怒ってた訳じゃない。

 

「善逸。俺と帰ろう…?」


寂しそうな音を出す宇髄が本来は冷えた水面のよう静けさを奏でるのに今はその音が鳴りを潜めてる。

寂しそうな音は似合わなくて善逸は宇髄がまだ自分を求めてくれるのであればと炭治郎の背中から躊躇いながら一歩踏み出した。

遠慮がちに手を伸ばしていつも離さず握ってくれる大きな手に掌を乗せた。すると透かさずもう離さないとばかりに強く握り締められる。

そのままグイッと腕を引かれると抱き締められる。善逸の肩に顔を埋めて宇髄は鉛でも溜めてたかのように重い息を吐いた。


「…ごめん」


何度も謝る宇髄に善逸は今にも涙が溢れそうになる。アンタが悪い訳じゃない。弱虫な俺が悪いんだよ。ぎゅうぎゅうと抱き締めてくる大きな背中に善逸も手をそろそろっと回して小さく頷いた。


「…はい」

 

 

 

十分にひとしきり抱き締め合うと宇髄が体を離した。握り締めた手はそのまま。ずっと黙って見ていた炭治郎がホッとしたように微笑む。

それに照れ臭そうに善逸が笑い返すといつの間に離れてたのか煉獄が善逸の着ていた上着を持ってきてくれた。
何も持たずに家を出たから善逸の荷物はそれだけだった。

 

「これを持って行きなさい」

上着を着ると煉獄が善逸に袋に入った紙箱を渡した。それは一口も食べてなかったケーキだった。善逸が驚いて煉獄を見上げると煉獄はいつものように眩しい笑顔で優しく微笑んだ。


「宇髄と一緒に食べるといい!」

「でも…、」

「君も知ってるだろう?俺はたくさん食べる!だから頂いたケーキは実はたくさんあるんだ、だから遠慮しなくて良い」


何から何までお世話になりっぱなしだ。
善逸はケーキが入った箱を潰れないように抱き締めて嬉しそうに煉獄にお礼を言った。
うむ!と煉獄は大きく満足気に頷くと隣に立つ宇髄を見上げた。


「宇髄!」

ハッとさせられるような強い声に無意識に背筋を伸ばし宇髄が煉獄を見下ろすと煉獄は真っ直ぐな目でキリッと宇髄を見上げて口を開いた。


「善逸は炭治郎の大切な親友だ!故に俺にとっては可愛い妹のような者!また泣かすような事は許さんぞ!」


煉獄に叱られて宇髄は分かる人にしか分からないがしゅんと落ち込んだ。分かってるよ、と気まずそうに煉獄から目を逸らして宇髄は頷いた。

昔から宇髄は何故か煉獄には強く出れず逆らえないのだ。煉獄という人となりを尊敬している事もあり、俺は神だ!お前らは塵だ!といつも人を下に見るような物言いをする宇髄だが彼の言う事は素直に聞き入れる。

叱られてそっぽを向いて落ち込む宇髄が珍しいのか善逸が目を見開いてまじまじと宇髄を見上げた。


「…なんだよ」

視線が痛いのか宇髄が善逸を不貞腐れた顔で見下ろすと善逸は意外な宇髄の一面を発見する事が出来て楽しそうに笑った。


「アンタにも逆らえない人がいるんですね?」


その一言に宇髄はムッと眉を上げると握ってた手を引いて帰る!善逸が邪魔したな!!と言い残して踵を返した。

仕方なさそうに煉獄は溜め息を吐くと小さく笑みを溢して宇髄と善逸を炭治郎と共に見送った。

 

 

 

「仲直り出来たみたいで良かったです」

 

宇髄と善逸を見送り、炭治郎と煉獄は居間に戻り、胡座をかいた膝に炭治郎を乗せて二人はTVを流しつつゆっくりしていた。

炭治郎が善逸の笑った顔を思い出しながら嬉しそうに溢す。

友達思いな恋人を後ろから抱き締めて煉獄も頷いた。


「そうだな、あんな悲しそうな顔をさせるなんて宇髄をこらしめてやろうかと思ったがふふ…そんな事せずとも宇髄が善逸を手離す訳がなかったな!」


握りこぶしを作って笑顔で物騒な事を言うのに炭治郎が苦笑いしながら宇髄さん、後ちょっと遅かったら危なかったですよ…とそっと心の中で宇髄へ向かって呟いた。


「宇髄さんが来なかったら明日行く筈の温泉旅行に善逸も連れて行こうかと思ってたのに…ちょっと残念です」

「なに、また今度四人で行けばいい!」


残念そうに言う炭治郎に煉獄は悪戯っ子のように笑みを浮かべ善逸を勝手に連れて行けば宇髄が嫉妬してしまうからな!と二人しかいないのに声を潜めて人差し指を口元に当てながら言う。

そうですね、と炭治郎も煉獄を真似て声を潜め、肩越しに煉獄を振り返ると黄金の目を見つめた。

煉獄も円らな赤い目を見つめると、二人顔を寄せてそっと口付けを交わした。


幸せそうに、二人は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

**

 

渋滞もなく進めたおかげで30分程車を走らせると宇髄と善逸が住むマンションへあっという間に辿り着いた。

二人は車を降りてエレベータを乗り込む。その間も宇髄はずっと善逸の手を握っていた。

もう逃げないのに、と思いつつ善逸は小さな自分の手を覆う程大きい宇髄の手を見下ろしてくすぐったい気持ちになった。


昔はよくケンカをした。

自分に自信がなくてどうせ男なんて美人な女の子しか興味ないんでしょ??イケメンは滅びれば良いわ!と男前な面を持つ男性に対してやっかみながら当時知り合って間もない宇髄に対しても本当に自分でも呆れる程に喧嘩腰で接していたもんだった。

宇髄も宇髄で何で俺がこんなちんちくりんに文句言われなくちゃいけないんだ?!とこっちも本物のヤクザも裸足で逃げ出すくらいの輩っぷりで善逸と会う度に喧嘩をしていた。

それがいつの頃からか気に食わない奴から気になる人、そして好きで大事な人になった。


それでも善逸は弱い自分の事が大嫌いだったからよく宇髄の手を振り払って逃げ出す事が多々あった。

その度に宇髄は手間を掛けさせるなと口では憎まれ口を叩くけど必ず善逸を探して迎いに来て、はぐれないように小さな手を大きな手で握って共に帰る。今回も同じだ。


この大きな手は決して離してくれない。

どこに隠れても見付けてくれるし迎えに来てくれる。


玄関で靴を脱ぐと宇髄は善逸の手からケーキを受け取って取り合えず冷蔵庫に入れると善逸の手をまた引いてそのまま寝室へと入った。
お互いに上着を脱ぎ、軽くシワを伸ばしてハンガーに掛けると宇髄は後ろから善逸をぎゅっと抱き締めた。


天元、さん…?」

困惑した声音で背後の宇髄を振り返ろうと身を捩る善逸だったけど宇髄は更に強く抱き締めて振り返るのを阻止する。

仕方なくそのままされるがままにすると宇髄は腕に善逸を捕らえたまま後ろに移動してベッドに腰掛けた。

すると自然と宇髄の脚の間に座る事になって190㎝以上もある大きな宇髄の腕の中に小さい善逸はすっぽりと調度よく収まった。


「…今朝は、ごめん」

あんな事言っちまったけど、俺はお前じゃなくちゃダメだから。

無防備な首筋に口付けを落として耳元に囁く。押し殺した低い声と吐息が耳元をくすぐって善逸は首を竦めて宇髄の言葉にうん、と返した。

アンタの所為じゃないしアンタは悪くないよと言っても宇髄は聞かないだろうから善逸は何も言わずに頷く。


「一緒に帰ってくれて、良かった」


だってアンタの音が酷く寂しそうだった。
そんな事は口が裂けても言えないからまたうん、と小さく返した。

慣れた匂いに包まれ安心して体の力を抜いて背中を宇髄の胸に預けてると熱い吐息と共に耳朶と甘噛みされ善逸は腰の辺りに電流のような刺激が走るのに声を上げる。


「んッ…!」

ちょっと、耳が弱いの知ってるでしょ?と善逸が耳を執拗に構う宇髄を振り向くと振り向いたのを狙ってたかのように触れるだけのキスをすると睫毛が触れ合うくらいまで、距離を縮めて金の目を真っ直ぐ見つめた。


「善逸、」


欲望を抑え込んだ押し殺した声で名前を囁かれる。
それだけで耳の良い善逸には宇髄が何を求めているのか分かってしまう。息を詰めて鼓動が激しくなる。

善逸に、宇髄を拒む理由が、今はない。

 

「……お風呂、入りたい…」

距離の近さに最早視線を逸らす事も叶わず、普段強気な表情をする宇髄が懇願するように見つめてくるのに善逸はじわじわと耳や首元を赤く染めながら小さく、溢した。

それは、受け入れるということ。

宇髄は善逸の了承の返事に笑みを浮かべるとじゃあ一緒に入ろうか、と善逸を抱き上げた。


善逸を抱き上げたまま、宇髄は寝室を後にして風呂場へと消えた。

 

 

 

 

 

END

◆高土(土方さんショタ化)

 

 

 

ウィーン、ウィーン

 

パトカーのサイレンが町に鳴り響くのを宿屋の二階の窓で眺めながら赤い女着物を身に着け、左目を白い包帯で覆う隻眼の男が傍らに座る子供に問い掛けた。

 

「・・・・・・お前を探しているみたいだが?」 「・・・・・・・・・」

 

問い掛けられた子供は何も言わず、黙ったまま強く男の裾を握りしめた。

隻眼の男はため息を吐いて再び外に目を向けると煙管をくわえて事の発端を思い出す。 事の始まりは・・・・・・

 

 

 

 

隻眼の男、高杉晋助は久しぶりに地球に訪れていた。
食料と水の補給や他のテロ活動との会合も含めて色々と2週間地球に留まることになったのだ。

 

特に当てもなく、京都から江戸に軽い散歩に来ていたのだ。
重要指名手配犯にも関わらず余り警戒もせずのんびりと気ままに歩いていたら前方の方で騒然とした騒ぎに気付く。

顔を見せないように笠を手で押さえたまま様子を伺った。

 

騒然と騒ぐ所を見ると`真選組 屯所”だった。
何かと周りを嗅ぎ回って邪魔な存在だが、特に害にもならないから何もせずほっといている。

桂は真選組を粛正すると遊んでいるが、ほっとけばいいものを律儀に追っかけられて遊んでいる。よっぽど暇なんだろう。

 

しかし、この騒然とした騒ぎは何だ。

高杉は遠巻きにしながら様子を見ると真選組の門から勢い良く10才位の子供が出てきてあろうことか高杉に向かって突進してきた。
勢いよくぶつかったけれど高杉は体を揺らしただけで逆に子供が尻餅を付いて倒れた。

 


「あっ・・・!?大丈夫ですか副長!!」

 

慌てて門から出てきた隊の人が子供が倒れたことに気付いて走り寄ろうとするがそれよりも早く子供が顔を上げて真っ直ぐに高杉を見上げた。


  青い瞳・・・


高杉が子供を見下ろしていると子供は立ち上がってまた勢い良く高杉にぶつかるようにそのまま抱き付いた。
後ろから着いてくる隊士から逃げるように顔を高杉の着物に押し付けて。

 

「副長?!」

「ちょっ、副長!?」

 

見知らぬ男に抱き付いた子供に隊の若手達が青ざめた顔をして悲鳴を上げて慌て出した。

 

「中に戻りましょうっ!」

「ほら、局長が心配してますよっ」

 

各々言いながら子供の気を引こうとするも子供は頑なに首を振って仕舞いには隊士達に向かって大きな声を張り上げた。

 

「お前らなんか知らないっ!近寄るなァ!!」

 

子供に一括された隊士達はびくりと身を縮こまらせてオロオロとどうしたもんかと考え倦ねていた。

しかし、子供に抱き付かれて巻き込まれた高杉の方が余程困っている。
幸い、今は笠のおかげでバレていないもののいつバレるか分からない状態でこのままは流石に危険だ。

 

子供を引き剥がそうとしてその腕に手を掛けると、高杉のやろうとしてることを分かってか子供は抵抗して高杉の手を振り払うとぎゅうっと音がなる位抱き付く腕に力を加えた。


流石の高杉も公衆の場で子供を無理矢理引き剥がして叩っ斬る程狂ってはいない。

高杉は子供に好かれるような容姿でもないのを自分が一番分かっている。

 

しかしこの子供は確かに高杉の顔を見たのだ、しっかりと目が合った、子供と目が合えば大泣きされ大の大人ですら怯みあがる鋭い目付きと酷薄な笑みを浮かべる口端は狂気すら感じられるのに、この子供は一切の怯えを見せずに高杉を見据えて見上げた。

 

だから、あの青い瞳を見つけたのだ。


「おいっ、あれってもしかして高杉晋助なんじゃっ・・・!?」

「なっ、まさか?!」

 

高杉はハッと顔を上げると隊士達が刀を鞘から抜いて構える所だった。

どうやら子供に気を取られすぎて笠を押さえるのを忘れて顔を見られたらしい。
迂闊にも程があるが、こんな雑魚では脅威にもならず高杉は焦るでもなく慌てるでもなくただ静かに子供を見下ろした。

 

「おい」

 

ただ一声子供に声を掛ける。

すると子供は顔を上げると高杉を真っ直ぐ見つめて小さく呟いた。


「置いて行かないで・・・」

 

小さな呟きだが高杉にはハッキリと聞こえた、それが自分に言われたことも。

 

隊士の奴らが応援を呼んでいるのをどこか遠くに聞きながら高杉は子供の脇下に手を差し入れると抱き上げて、左腕に乗せ抱えるようにすると子供は透かさず高杉の首に両腕を回して逃がさないと言わんばかりに顔を首筋に埋めた。

 

しっかり掴まっていることを確認して高杉は隊士を軽く一瞥するとそのまま身を翻して隊士に背を向けて走った。

 

「おいっ」

「副長を連れて逃げたぞっ」

「追え、逃がすなっ!!」

 

背後から幾つもの怒濤の声が聞こえるが高杉は気にせず角を曲がると隊士達を巻いて光が届かず薄暗い路地裏に足を踏み入れていつの間にかゆっくりと歩いていた。

子供はじっと高杉に掴まって揺らされるがまま。

そして、この宿屋に入ったのだ。

 


「・・・・・・・」

 

面倒なものを持ち込んだとは思っている。

どこのガキとは聞かない、先程の奴らがこの子供を`副長”と呼んでいた。
真選組の副長と云えば、土方十四郎だった筈だ、間違ってもこんな10代半ばの子供ではない。けれど、当然恨まれるのは多いのだろうし爆弾やら変な薬を送られて子供になったって可笑しくない。

 

「お前、名前は」

「・・・土方、十四郎・・・」

 

やはり。

 

高杉は自分の憶測があながち間違っていないことを確信した。
どうせ恨みを買われて変な薬でも飲まされたか何かされたのだろうけど先ほど仲間に向かって知らないと叫んでいたから体を幼くするだけでなく、記憶操作の副作用もあるとみていいだろう。

しかしそれでもやはり、知らないとはいえ一直線にこっちに手を伸ばしたのは訳が分からない。

誇れるような事じゃないが自分でも子供に好かれるようなタイプじゃないと承知している。
泣かれて脱兎の如くに逃げれた事はあっても逃がさないとばかりに抱きつかれた事はなかった高杉は少々困惑していた。

 

「・・・・・・俺を知ってるか?」

 

一応、聞いてみるとやはり知らないと首を左右に振っている。
ま、知っていたのなら手を伸ばすのではなく刀を向けられていたことだろうな、と高杉は冷静に判断する。しかし、問題はこの小さい土方であろう子供をどうするかだ。

 

記憶障害があっても真選組の方が安全だったし土方の事を知っているのもあちらだ。

長年共に過ごしたっていうのに今の土方には世間から嫌われるテロリストの高杉の方が信用出来るとでも感じたのか。

 

「お前はどうしたい」

「・・・・・・」

 

問われて土方はじっと真っ直ぐに高杉を見上げた。
見下ろして高杉は何度目かの溜息を吐いた。土方は真選組に戻る気はないみたいだ。真っ直ぐに見上げられた青い目には雄弁に”連れていけ”と物語っていた。

 

ま、土方を連れても自分に大したリスクはない。良いだろう。


「十四郎」

 

呼びかけると、土方は高杉を見上げてきょとんと首を傾げた。


そんな仕草をするとあの真選組・鬼の副長 土方十四郎とは思えないくらい可愛らしい子供に見える。


実際、子供なのだから当たり前なのか。だったら子供だと思えばそんな事はこちら側としては大した問題じゃなかった。
真選組からしたら組織の要が子供になり、しかもそれが敵の手の中にあると知っちゃかなりのダメージであろう。真選組を動かしていたのはこの傍らに座る子供だったみたいだしその子供が居ないとなると真選組の指揮は下がっていつか腐り落ちるだろう。

こっちからしたら邪魔なものが消えて万々歳な話だ。

 

「高杉 晋助だ」

 

名乗ると子供は何度か覚えるように小さくその名を呟きパッと顔を上げた。
そして、

 

「晋助!」

 

嬉しそうに、花が咲くように綻ぶように笑ったのだ。