mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆逃走不可能3

 

路地裏で倒れている所を持ち帰られて土方家に居付いてから一週間が経った。

 

十四乃と名乗った頭が可笑しいと思った女は思っていた程に異常ではなくてどちらかと云うと極普通だった。

何をされるかと警戒したが特にこれといって何もない。ただ共に過ごしているだけだし監禁されている訳でもない。

警戒してるこっちが馬鹿らしくなる程に十四乃は、その家族はまるで此方を以前から過ごした家族のように扱ってくれる。

 

一見普通に見えるが紛れもなく異常だ。

普通の人間ならば得体の知れない者を家族のように扱ったりしない。友人ならばまだ分かるが丸きり初対面の人間によくまぁ、ここまで良くしてくれるモンだと気味悪く思ったものだ。人間は平気で嘘を吐き自分の可愛さ故に他人を蹴落として嘲笑う所業は人間の浅はかだ。

幼い頃からそんな浅はかな人間を見てきた高杉には土方家の人間は何かしら裏があると思っているが今の見当たらなかった。

よく出来た人と言えば聞こえは良いがそんな出来た人間がいつか痛い目に遭うのはよくある話だ。

 

勘繰ってもしょうがないと高杉は使えるものは遠慮なく使う主義の男だから匿って貰えるのであればと大人しく土方家に腰を落ち着けた。

拾った十四乃も容易く高杉を手放すとは思わなかったから何かを仕出かすような事が起こらないように見張っているとも言える。

 

高杉を欲しがった十四乃が匿う代わりに高杉に求めたのは二つ。

 

一つ、十四乃とその家族以外とは許可なく話さないこと。

二つ、何があっても必ず十四乃と傍を離れないこと。

 

十四乃が高杉に求めたこの二つの条件を受け入れるのなら何をしてもいいと、十四乃は告げた。

 

こんな条件を出された高杉は勿論渋い顔をしたが守れない訳でもなかったし一人で過ごすのが好きである高杉は土方家を出てまで誰かとお喋りしたい訳でもなかったから一つめの条件は難なく受け入れた。

何故ここの人間以外はダメなんだと聞けば他の人と話してる所を見るのが嫌だと唇を尖らせて言う。嫉妬かよ…と呆れるとだから晋助は俺のだって言っただろ?と十四乃は高杉の腕に抱き付きながら笑った。

 

ただ二つめの条件は簡単に受け入れる訳にはいなかった。

 

 何があっても傍を離れない。

それは訳ありな高杉にとっては容易に約束出来るものではなかった。今は匿って貰っているがいつ何が起きるか分かったもんじゃないのだ。

高杉が難しい顔でそう告げたが土方がそれでも構わない、何があっても最後に晋助の帰る場所が俺の所だと覚えていれば良いから。と真っ直ぐな目で告げられ高杉は思案の末頷いた。

 

それから高杉は十四乃からアプローチを掛けられ軽くかわしながら共に過ごしていた。

ここの生活は思ったよりも快適でビックリした程だ。特にあれこれと過去や何をしていたか詮索されないのは助かったし好きに過ごしても何も言われない。

 

夜に勝手に拝借した日本酒を片手に縁側で庭を眺め、月見をして快適に過ごしてるくらいだ。十四乃が隣にいて膝を枕代わりされたが嬉しそうに何も言わず寝ているだけだから好きにさせている。

 

一体何がそんなに気に入ったのか聞きたいが今更聞いても十四乃が手を離す事はないのだろうと諦めている。

体を少し動かすと動きに伴って首輪に繋がれた細い鎖が金属音を鳴らすのを見て思う。

 

 

 

 

**

 

 「出掛けよ、晋助」

 

台所で十四乃の母、葉子の手伝いでお昼の食事を作ってた高杉を十四乃は外へ誘った。

 

ここに来てから随分経つが日がなボーッとするのも飽きた高杉が暇潰しに葉子が料理してた所を何か手伝うか?と申し出たのを切っ掛けに高杉は家事をするようになった。

 今も肉じゃがを作っている最中で黒のエプロンをかけてる姿を知己が見たらあの高杉が?!と戦くだろう。

高杉は昔から家事をやった事はなく他の人に任せっきりだったから何も出来ないというか労力を使わないのだが器用なものだから教えられたらあっという間に料理までこなせるようになった。

 

十四乃はこの家に馴染んでいる高杉の姿を見ると嬉しそうに表情を綻ばせる。

 

白のカットソーに黒の短パンに身を包む十四乃をチラリと見、高杉は前菜の用意をしてた葉子を見ると葉子は快く頷いた。

 

「後は私がやっとくから晋助くんは十四乃ちゃんと出掛けてらっしゃい」

 

前菜は後はトッピングするだけだし、主菜の肉じゃがは余分な水分を飛ばす為に数分煮込むだけだから問題だろう、味噌汁は最初に作ってあったからもうやることはない。

大丈夫だろうと高杉はエプロンを脱いで壁に掛けた。待っている十四乃の所まで行くと寸時に腕を絡め取られて玄関へと向かった。

 

「どこ行くンだ」

 

サンダルを履いてる十四乃を玄関の扉を開けて見下ろしながら問い掛けると服を買うのだと返ってきた。

服?オシャレには無頓着だと思っていたがそんな事でもなかったのだな、と感心していたがどうやら十四乃の服ではなかったらしい。 

 

「晋助の服を一緒に買おうと思ってな」

 

腕に抱き付く十四乃はどんな服が似合うかと楽しそうにしている。

服なんてどれも一緒だろ、と思いつつ近くのデパートまで歩くと腕を絡ませるように掴んでた小さな手が指を絡めてきた。

どうした、と見下ろすと十四乃は勝ち誇ったように笑みを浮かべながら高杉を見上げた。

 

「ふふ、晋助って本当イイ男だよな?周りの女たちの視線が凄ぇ」

 

言われて周りをチラリと見渡すと確かに女の視線が集まっていた。

確かに自分の容姿は人目を惹くと少なからず自覚しているが、一番人目を引くのはこの首にある首輪の所為じゃないのかと思う。

首輪だけならチョーカーで済まされるが鎖があると何かしらのプレイだと勘違いされているだろうなと他人事のように思った。

 

てめェだって男の視線を惹き付けてるぞ、と返すと事も無げに俺は晋助しか興味ないからどうでもいいと返される始末だ。

 

羨望の視線を跳ね退けて自分の男を自慢するように女たちに視線を寄せる十四乃は誇らし気だ。

独占欲が強過ぎるのも考えものだな、と苦笑いしてしまうが最近では頑張って口説き落とそうと躍起になる十四乃が可愛く見えてきた高杉は空いてる手で頭を撫でた。

 

すると強気な笑みを浮かべていた十四乃がキョトンと目を見開くと次第に頬を染めて高杉から視線を逸らした。

あんなに積極的に口説いてきたり密着したりするくせに高杉から触れてくると十四乃は途端に大人しくなって照れるのだ。

 

その変わりように高杉は笑った。

飼われるつもりはないが十四乃と居ると退屈せずに済む。十四乃は照れて顔を俯かせるが繋いだ手はそのままに、二人はデパートの中へと入っていった。

 

服を選んでる所に高杉の事を知っている者が現れて十四乃と揉めたのはまた別の話。

 

 

END