mikotoの呟き

美琴の小説、日記やお知らせ置き場*^^*

◆猫(高土)

 

 

 

ゴロゴロ


頭、喉元、背中、至るところを優しい手つきが撫でる。

気持ちいいと勝手に喉がゴロゴロと鳴る。

 

 

「ふっ…気持ちいいかァ?」


上から優しい声音で声を掛けられ、 見上げると隻眼の男が柔らかく微笑んでいた。

 

高杉 晋助だ。

 
先日、 総悟から贈られたマヨネーズに何らかの薬が入っていたらしく猫に変わってしまった。

今思い出してもあの憎たらしい笑顔がムカツク…。

不機嫌を表すかのように黒猫となった土方はバシッバシッと畳を尻尾で叩き、爪を立てる。

 

「ん?どうした、ご機嫌斜めだな」

 

高杉が笑いながら土方の顎下を撫でる。 
すると先程までイラついていた気持ちがなくなりゴロゴロと機嫌が 良くなった。なんとも単純な体だ。

それに高杉は微笑み、 土方の体を持ち上げて膝に乗せて背中をまた撫でる。

 


しかし、あの高杉晋助が…ね。

 

土方は微笑む高杉を見上げて呆気にとられてた。

攘夷志士の中でももっとも凶悪で過激派のトップに君臨する程の大物の高杉晋助が目の前にいる。

情報に聞いたものとは違い目の前の高杉は恐ろしくはなかった。というのも高杉は妙に獣に優しかったからだ。


土方は総悟の所為で猫に変えられたあの日、 街でさ迷っている所を高杉に拾われた。

元々人間な為、猫の勝手が分からなかった。
歩いてはよろけて転び、走っては電柱等にぶつかって体のあちこちを傷付けた。

 

そしてそのまま走っていた所を高杉にぶつかってしまった。
見上げた時は驚きで毛が逆立ったが体の至るところを傷付けた土方を見て高杉はしゃがみ込み小さな頭を撫でられた。

この体になってから初めて触れられたため、
高杉の手が妙に心地良くて大人しくなってしまった。

 


「傷だらけだな…来い」

 

高杉はそう言って猫の土方を抱き上げる。
いきなりのことに土方は手足をバタつかせて驚き、シャーッ!と高い声を上げ高杉の腕に必死にしがみついた 。


「シャーッ?!」

「大丈夫だ、怖くねェよ」

 

高杉は優しく土方の頭を撫で着物の懐へと入れてそのまま歩いた。土方は懐から顔だけを出して高杉を見上げた。

たまにすれ違う猫達に食べ物を置いたり、撫でたり… とにかく高杉は獣に優しかった。

そこで着いた先がこの高杉の隠れ家で土方は傷だらけの体を手当てして貰い冒頭にいたった。

 


「野良猫とは思えねェぐれぇの滑らかな毛だな…飼い猫か?」

 

高杉が柔らかな手触りの毛並みを撫でながら問い掛ける。
猫に話し掛けても返事が返ってくる訳ねェだろと思いながらも土方は一応答えた。

 

‐多分、飼い猫?‐

 

「…にゃ?」

 

首を傾げて答えると高杉は何を言ったか分か
ったかのように笑った。


「そうかい、分からないのか」

 

ふっと笑う高杉を見て胸のところが暖かくなる。
何故か分からないが高杉が笑うと自分のことのように嬉しい。敵の裏の顔を見たからだろうか。

高杉の手を猫手でちょいちょいとつつき、弄ぶと手で転がされた。体がくるりと転がりそれが楽しくてまた高杉の手にじゃれつく。


そこで、土方はふと高杉にじーっと見つめられている事に気付いた。
真剣な顔で見つめるもんだから、 バレたのかと首を傾げて高杉を見上げた。


「…にゃ…?」

「あぁ、いや、ちょっとな」

 

高杉はふっと笑って柔らかな眼差しで見下ろしてきて、お前は気に入っている奴に似ていると思ってな。綺麗な眼だ、と撫でながら相手を想い浮かべているのかその表情は優しく、そう溢した。

 

こんな優しい表情をするとは…。土方はその相手が気になった。

あの凶悪テロリストに想われているなんて、
羨ましいと敵同士でありながら思ってしまう
のは何故か。


「にゃー」

「相手が気になるか?」

「にゃん」

 

教えろと応えると高杉はふっと笑った。


「相容れることが出来ねェ奴だよ、」

「…にゃ、」

「あいつにとって俺はしょっぴくべき相手だからな」


しょっぴく?

 

相手は警察か?首を傾げて考えるがしょっぴくとなると警察か役人しかそんな仕事はしねェし…。
役人となると過激派攘夷志士の相手は仕事上任されてない、 任されてれているとすれば、
俺達武装警察・真選組だけだ。対テロリスト組織だしな。

 

けどれそうすると分からない。
だって真選組に女なんざ居ない、いるのは男だけだ。そこまで考えて土方は高杉はもしかして男を想っているのか?という結論に辿り着いた。

 

その事実に衝撃を受ける。

だが尚更誰なのか知りたくなった。真選組に高杉の想い人がいる、 こんな柔らかな表情をさせている相手が羨ましい。

捕まえるべき対象であるのは理解しているがかの攘夷戦争の英雄である高杉晋助個人には恨みはないしどっちかというとずっと気になっていた。

 

攘夷戦争の時は高杉はまだ10代半ばだったと知った時は衝撃を受けたものだ。そんな齢から軍隊の総督として指揮をとり、戦場の前線を鬼のような強さで駆け抜けたというのを聞いてからはその強さに憧れていた。

どんな猛者なのか、ずっと気になっていたのだ。

だからそんな高杉の気になるという人間がどんな強いヤツなのか気になるというものだ。真選組にいる奴らの顔を思い出しながら続きを促す。


しかし、次の言葉に耳を疑った。

 


「気の強いその眼が土方に似ている」


…………、俺?

 

土方という苗字はそうそう珍しくない。
けれど警官の仕事をしている中では俺ただ一人だけだと思う。

 

ならば自分なのだろう。

そう納得した瞬間、 猫でありながらも土方は顔に火が付いたかのように頬が熱くなった。

じ、じゃあこんな柔らかな表情をさせていたのは俺だったのか…?!


「鬼の副長と言われているからどんなゴツい奴かと遠目に見に行った事があるが…ありゃかなりの別嬪だったなァ」

 

べ、別嬪……?!!

二枚目と言われたことは多数あるが別嬪と言われたのは初めてだ。
驚きで高杉を見上げるが当の高杉は俺を見下して顎下を撫でて続けた。


「黒を纏っている男に、 まさか俺が惚れるとは思ってもいなかったが…こんな気持ちにな
ったのはあいつで二人目だ」

 

どこか哀しそうなその表情に、 思わず体を伸ばして頬をペロッと舐めていた。

高杉は一瞬目を見開いて驚いていたが、 土方の体を持ち上げて抱き締めてうっとりするくらいに微笑んだ。


「俺は敵対するつもりはねェんだが俺ァお尋ね者だからなァ…会うことも面と向かって話すことも叶わねェ…遠目に眺めることで我慢しているんだよ」

 

そう言われて土方はふと思い出す。

見回り中、 微かに視線を感じたことがごく隅にあったが殺気を感じられない為、余り気にしていなかったがあれは高杉だったのか。

 

しかし、高杉がそんなことを思って俺を見ていたなんて驚きだ。

 

「…話、聞いてくれてありがとよ」

 

少し話してスッキリしたのか、 満足そうな表情で高杉は猫である土方の唇にキスをした。

この男は獣に対してもタラシ込むというのか。


そっと口付けられた瞬間、

 

「!……なんだ?」

 

土方の体に異変が起きてパァァアッと眩い光に包まれた。

高杉は目を細めて警戒しているが土方自身何が起きているのか見当も付かず高杉の着物に爪を立てた。

何が起きるのか二人して身構えてると光が一段と強く輝き、 高杉は目を瞑ってしまう。

 

暫くすると光が収まってしまうと土方は人間に戻っていた、高杉の膝に座りながら……。

 

 

………このタイミングでェェェ?!! 


高杉は妙に膝が重いと目を開くと固まった。

土方も土方でどうすればいいのか分からず、
高杉から目を逸らしてただ押し黙る。


「………………、」

「………………、」

「………………、」

「………………、」

「………………、」

「……………ッ…、」

「………………、」

「……こ、こばんは、」

 

長い沈黙に耐えきれず、土方は口を開いた。

それで漸く高杉はピクリと動くと目を細めて膝に座っている土方の 腰に手を回した。


「…土方、だな」

「……あぁ」

「あの黒猫はお前だったのかい」

 

気まずくて土方は目を逸らす。

それを固定と受けとめたのか高杉はふっと笑
った、それで漸く土方は高杉の方を向く。

 

「猫がお前に似ているのも頷ける、 猫はお前自身だったんだからなァ…?」


何故か楽しそうな高杉に眉間にシワが寄る。
こちとら大変だったんだぞ、 総悟に変な薬を盛られ体のあちこちを傷つけて。

なのに高杉は笑った。


「しかし…話を聞いていたのは土方とは…」

 

溜め息混じりに言った高杉にハッと我に返る
、そうだ…高杉の自分への想いを聞いていたんだった。

 

今更ながら顔が赤くなる。


「…まぁ、人間に戻れたことだしよ、真選組に戻りな」

「……えっ?」

「戻らねェのか?」

「あ…いや、」


何かしら言われると思っていたから、驚いた
。告白されても困るが逆に何も言われないとなると何故かモヤモヤしてしまう。

取り合えずと高杉の膝から下りて立ち上がろうとしたが、


「うわっ…!」

 

立ち上がるが猫になって四足方向になっていたから感覚が鈍ってバランスを崩してしまった。

 

「危ねェよ」

 

視界が急に変わり、崩れて倒れそうになった所を高杉が支えてくれた。

 

「す、済まねぇ…」

 

慌てて支えとして咄嗟に掴んだ高杉の着物を離しながら支えてくれたお礼を口にして高杉を見返すとその真剣な熱い眼差しに気付く。

 

ハッとして何かを言う前に高杉は踵を返して土方から背を向けた。

 

「気を付けな」

 

そのまま宿を出て行こうとする高杉に土方は歯痒い思いをする。

高杉の想いを聞いておきながら自分の立っている立場からその想いに応える事は出来ないと思ってた。真選組を裏切る訳にはいかない。況してや男同士なんて考えられる筈もない。自分は憧れを抱いてるだけなのだと言えた。

 

なのに高杉が何事もなかったかのように、土方を想っていたなんて微塵も出さずに背を向けたのに置いてかれたような…そっぽを向かれたようで哀しくなった。

 

応えられないから何も言われない方が土方にとっては有り難い話なのに。

 

土方はきゅっと唇を引き結ぶと翻る高杉の派手な着物の袖をガッシリ捕まえる。

 

「待てよ」

 

高杉が振り返ると土方は恥ずかしそうに顔を染めながらも高杉を強く睨み付けていた。

その表情に高杉は目を見開く。

 

「あんな事を聞いておきながら…大人しく帰す訳ねぇだろ」

 

土方は自ら暗い闇に飛び込んだ。

このまま帰した方がお互いに良かった筈なのに、テロリストと警察というこの関係が最期に辿り着く場所は血濡れた茨の道にも関わらず土方はその道を進むことを自ら決めた。

 

覚悟を目に高杉を睨み付ける土方を高杉は愛しさの余り殺してしまいそうになる。

まるでライオンが自分よりも小さいものを可愛さの余り可愛がって誤って殺してしまうように。

高杉は手を伸ばして土方の頬に触れた。照れたように目線を逸らすが土方は高杉の武骨な手を受け入れた。

 

それが応えだった。

高杉はふっと笑って土方を抱き締めた。

 

 

 

 END

 

(猫になった土方さんと高杉との出会いというifでした)