◆待ちわびていた(高土)
重傷だと聞いていた。
刀を手に立っているのが、生きているのが不思議な程にその男はいくつもの深い傷を負っていていつ倒れても可笑しくなかったと。
だから土方は目の前の光景が信じられなくて目を見開いてただ呆然と立ち尽くした。
あれから1年が過ぎたのだ。
火乃迦具土神が地球に落ち江戸が崩壊してからいくつもの太陽が登り沈んでは暗い夜を月が照らしてきた。
宇宙で先陣に立ち戦った桂小太郎と坂本辰馬の安否は確認出来たが一人だけがそこから消えてずっと分からなかった。
皆は必ず生きていると口々に言ってきた。それは同じ思いだった。あの男が簡単に死ぬ訳がない。重傷だった。しかしあの火乃迦具土神にはアレが、天道衆の肉体があったようだった。それが消えたと報告を受けてまさか、と思いもした。
けれど男は自分の成すことの為ならどんな手段も選ばないだろうと分かっていた。
だから、どんな形であれ…生きている。
そう信じていた。
「…十四郎」
だから、男が…高杉が目の前に立って己の名前を呼ぶのは亡霊でも、どっかのロリコン変態が化けて出て来た訳じゃない。
…ちゃんと、生きている。
「…高、杉…」
呆然と立ち尽くしていた土方は何年も水を飲めなかったような掠れた声で無意識に男の名を呟いた。
その名を口にした瞬間まるで夢から覚めたかのようにハッと我に返った。
高杉は笑みを浮かべたまま土方との距離を縮めた。動けずにいる土方の体の横でぶら下がる手を取ると土方はビクッと肩を震わせたが抵抗はせず高杉はそのまま小さく、震えている手を握り締めた。
そしてじっと土方を見つめた。
「十四郎」
いつも自分をからかうように、諭すように、愛しむように…囁かれてきた声。待ち焦がれた声だ。
土方は目頭が熱くなるのを感じた。何で今更出て来た。何でもっと早くに出てこなかった。今までどこに居た。重傷と聞いたが傷は。鬼兵隊はどうした。聞きたい事は山程たくさんあった。
けれど今の土方は泣き出すのを我慢する子供のように口許を震わせて固く結んでいる。
そんな土方を愛しそうに見つめて高杉は抱き締めた。
自分を包む温もりに土方はとうとう我慢出来なかった。目頭から涙が溢れて落ち、体の横で手持ちぶさたな腕を持ち上げて高杉の背中に腕を回した。声を、震わせた。
「…晋…助ッ」
ずっと、会いたかった。
胸を引き裂かれるような、悲痛な声は高杉の胸に顔を埋めているせいでくぐもって消えた。
けれどその言葉を高杉は聞き逃がさなかった。土方を抱き締める腕に力が込められた。
「…待たせたな」