mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆愛される世界・その後

 

 

「はぁ…疲れた…」

 

ばふんっ、と勢いをつけてベットにダイブして土方は溜め息をついた。

うつ伏せになって枕を抱き寄せて顔を埋めると生活の一部とも言える鼻を擽る匂いに心が落ち着く。

 

あの後なんやかんやで高杉の奪い合いはヒートして治まり着かなくなっていたのだが理事長がアンタ達いつまでも喧しいわぁ!!と般若のような顔で出てきたから銀八がやっべぇ!と慌ててお前らいい加減高杉を離してやれ!!と自分の責任を問われる前に神威たちを蹴散らしてその場はそれで終わったのだ。

 

騒ぎ疲れた面々も多かったから皆が大人しく引き下がって帰り、高杉も学校に残る理由もないからと帰ろうとした所を今日は土方も一緒に帰ってきたのだ。

兄弟だと知られてしまったし堂々と隣に並んで高杉と帰る事に少なからず優越感を味わった土方だった。

 

この間は冷たい態度を取っていたが土方は兄が、高杉が大好きだった。

 

だから今回の夜兎工との抗争も出来れば全面的に協力して兄の助太刀をしたかったが兄弟と伝えてなかったし風紀委員と不良という関係から自分からは声を上げられなかった。

 

だから新八が加勢しょう!とクラスの皆に声を掛けた時は心底感謝したしただの駄メガネではないのだな、と少し見直した。少しだけだが。

 

「十四郎、怪我は」

 

安心感に浸っているとベットのスプリングが軋み、重みによってベットが沈んだ。高杉がお風呂から上がって濡れた髪をタオルで拭きながらベットへ腰掛けた。

 

ここは高杉の部屋で土方が我が物顔で高杉のベットに寝転がっていたのだ。

 

「ん、ねェよ」

 

頬を撫でる指に自らすり寄って答えれば高杉はそうか、と目を細めた。

 

うつ伏せから横向きに体勢を変えると腕を伸ばして高杉の横腹に顔を埋めた。擽ってェよ、と言いながらも高杉は土方の好きにさせてその頭を撫でた。サラサラと指の間をすり抜けて落ちていく髪が愛しかった。

 

「…兄弟だとバラして良かったのかァ?沖田に弄られるの嫌がってたじゃねェか」

 

いつもの無感動で冷たい声音しか聞いた事ない者が今の高杉の声を聞いたら固まって驚く程にその声音は優しかった。

土方はその声音を心地好く聞きながらもう良いと答えた。

 

「総悟にバレたら面倒くせェと思ってたけど普通に言った方が逆に面倒が省けると思ったし」

 

それにこれからは堂々とお前を予約せず奪えるしな、と愉しそうに悪い顔で言うものだから高杉はククッ…喉を鳴らして笑った。

 

どうもこの弟は俺が大好きみたいだ。

学校じゃあ弄られるの嫌だから他人のフリをしてくれ、と言われた時は確かに自分と兄弟だと分かれば自分を疎ましく思っている他のヤンキーが弟の事を付け狙うかも知れないと危惧して賛同して頷いた。(まぁ、でも弟はそこらの辺のヤンキーよりかは腕っぷしが強いから余り心配する事はないのだが)

けれど停学が明けて久々に学校へ赴き、何か面白い事はないかと巷を騒がすボンタン狩りやステッカーを強引に買わせる奴等を炙り出そうとすると弟は喧嘩腰に警告と言って危ない真似はするなと心配そうに睨んできた。

 

他人のフリをしろと言ったのそんな顔をするなと思わず頭を撫でたくなったのは弟が可愛いからか。

神威との抗争にも真っ先に飛び出して助太刀したかったのだろう、ペンギンのぬいぐるみから見た弟の顔はその心情を隠す為にひどく険しかった。

 

しかしそんな弟を酷く愛してる兄である自分もまた、可笑しかった。

 

兄弟という事実を知った担任やクラスの奴等の驚いた表情を思い出して傑作だったなァ…と高杉は一人笑みを溢す。

 

「…晋助?」

 

小さく笑う高杉に土方が不思議そうに呼び掛ける。高杉に引っ付いて暖かいからかその表情はとろりと微睡んでいて今にも夢へと旅立って眠りそうだ。

 

「眠いか」

 

ぽんぽん、と背中を撫でるように叩くとん、と子供にように頷いて腹に回した腕に力を込めて目を閉じた。

 

「…今日はここで寝て良いか…?」

 

目を閉じた時点で自分の部屋に戻るつもりはないだろうに、高杉に一応とばかりに聞いてくる。

今日は、と言ってるが土方はほぼ高杉の部屋で一緒に眠っている。自分の部屋に居る時は勉強をしてる時くらいだ。寝る時は高杉と一緒に眠っているから今日はという言い回しは可笑しいが高杉はそれを正すことはせず良いぜ、と優しく返した。

 

嬉しそうに頬を緩ませる土方を見下ろして高杉の表情は甘く優しい。

 

土方が腕の力を緩めて体をずらしたから高杉はそのまま体をベットに滑らせて横たわるとすり寄る土方の肩を抱いて電気のリモコンを手に取ると灯りを消した。

 

「おやすみ、十四郎」

「おやすみ、晋助」

 

愛しい温もりを感じながら、高杉と土方は眠りへと落ちた。

 

 

END