mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆宇善

 

 

「ん……」

 

冬の肌寒さに自然と目を覚ます。

重たい瞼がすっと開き目の前に飛び込んできた景色は暗闇だった。

どうやらまだ鳥たちが眠っている真夜中に起きてしまったらしく辺りには静けさしか存在しなかった。

 

寒さに身震いをすると自分の肩を抱く。子供特有の体温の高さをもっていても寒いものは寒いのだ。

 

喉が渇いたついでにベッドから降りてキッチンの方へ向かうとリビングの明かりが付いていた。まさか…こんな時間なのにまだ起きてたというの…?

 

自然と眉間にシワが寄るのが自分でも分かった。文句の一つでも言ってやらないと気が済まなかった。

 

リビングの部屋のドアを開けると案の徐、遅くまで起きて仕事をやっているらしい年上の恋人、宇髄さんが眼鏡を掛けて難しい事ばかり書いてある紙と向き合っていた。

 

「……ちょっと。」

 

「ん?あぁ、トイレか?」

 

声を掛けると検討違いな事を言ってくるのにイラッとさせられる。

ホントにこの人は俺をイライラさせる天才だよね!?顔も良いし身長も高くて身体付きも良いし…性格にはかなりの難があるけどそれでも女が放っとかない男前なのだ俺の恋人サマは!なのにそんな男前が特に何の取り柄もない俺なんかを選んで欲情するのが信じられなくて何回も一悶着を起こしたか知らないけど、もう諦めた。

 

この人を自分のものだと思うには俺にはかなり荷が重いと何回逃げても手を離さず捕まえてくれたし抱き締めてくれたこの人をもう、信じるしかなかったからだ。

 

正直に言うと、俺だって宇髄さんが好き。

大切だ。だから無理して欲しくないしちゃんと休んで欲しい。なのにこの男と来たら何をこんな真夜中まで仕事してるんだよ?!バカなの?!!バカだろ!!!!

 

「いい加減休んで下さいよ、いくらアンタでもちゃんと休まないと」

 

「ん、これ終わったら休むからお前も早く部屋戻れ。冷えるぞ」

 

いつもは言わない心配してるって事を言ったのにしらっとあしらわれた。

ホントにもう…!!!頑固過ぎない?!!急ぎの仕事でもないだろうに何をそんなに全部終わらそうとするのか。体を壊したら元も子もないだろうに。

 

善逸は仕方なく、奥の手を使う事にした。

未だに背を向ける宇髄に近付き、袖のシャツをきゅっと引っ張った。

するとやっとこっちを向いてくれた宇髄の顔はなんだよ、と書いてあったが気にせず口を開けた。

 

「もう寝ようよ。それ急ぎじゃないでしょ?」

 

宇髄が口を開き掛けて善逸は何かを言わせる前に続けた。普段から言わないからこれを言うのは本ッッ当に恥ずかしくて嫌だけど!これを言えばこの人なら絶対に言う事聞いてくれると分かってるから。

 

「…アンタが隣にいないと…寒い…」 

 

宇髄は驚いたように目を見開いた。

善逸も普段言わない甘えるような事を言って頬が熱くなるのを自覚したが気付かなかったフリをして宇髄の袖を引っ張って立たせる。

すると案の徐、宇髄は未だに固まったままだったが大人しく立ち上がった。

 

テーブルには宇髄が持ち帰った仕事が散らばってたが片付けるのは明日でも大丈夫だろうとそのままにした。宇髄の袖から手を離し変わりに大きな手を握って部屋まで誘導する。何も言わず大人しく着いてくるので何か大きな動物を手懐けたみたいな感じだ。

 

部屋に着くと人が居なかったからか随分と中が冷えてしまっていた。

後ろを振り返りじっと自分を見つめる深い色の瞳を見上げる。仕事から離れてやっと疲れを自覚したのかその顔はくたびれている。

 

善逸は宇髄のシャツに手を伸ばしてボタンを一つ一つ外す。なされるがままの宇髄は無言で自分よりも小さな手がボタンを外すのを見下ろしている。

ボタンを外し終わると腕からシャツを抜き取って脱がして部屋着に着替えさせた。

下は流石に自分で脱がさせて着替えさせると宇髄の背中を押してベッドに入らせた。

 

奧に宇髄が横たわったのを見届けて善逸も宇髄の横に少し間を空けて横たわった。

休んで欲しくてなんか自分から恥ずかしい事を言ってしまったがやっぱり自分から寄り添う事なんて出来る筈もなくて善逸は距離を取って背中を向けていた。

 

すると項に吐息を感じてびくりと肩が震えると、ずっと黙ったままだった宇髄が善逸の項に唇を寄せて口を開いた。

 

「善逸…寒いンじゃねぇのか」

 

優しい声音で宇髄が言った。

いつものようにからかった感じで言うのではなく善逸を甘やかす時みたいな声で善逸はこの男が本当に好きで泣きそうになった。

 

「……宇髄さん…寒い…」

 

ちいさく、だけど宇髄には聞こえる声で溢すと背中を向ける善逸を振り向かせて宇髄は正面から小さな体を覆うように抱き締めた。

広い背中に手を伸ばして息を吸うと宇髄の匂いが善逸の鼻を擽った。冷えていた体が瞬時に暖まる。

 

はぁ…と息つく声が上から聞こえて善逸は背中に回してた手を上下にして背中をあやすようにさすった。お疲れ様です、と口にしなかったが善逸の言いたい事が分かってる宇髄はぎゅっとまた抱き締める事で返事をした。

 

冬は寒くて人肌が心地良い季節だ。