◆煉炭
瞼が重い。体が言うことを聞かない。
まるで金縛りに遭ったかのように炭治郎の体はピクリとも動かず、意識も朦朧とし始めた。
その時、
「竈門少年」
「…煉獄、さ…ん…?」
昔に、聞いた事のある忘れたくない声音が炭治郎に降り掛かった。
重かった筈の瞼がその声に応えるかのように徐々に持ち上がって炭治郎は目を開いた。そこには、会いたくて堪らなかった、守りたくても守れなかった、年を重ねてもいつまでもその背中を追い掛け続けてた、かの人…煉獄が見下ろして居るではないか。
炭治郎は驚きに赤い目を見開き、反射のようにポロポロと目端から涙が溢れ落ちていく。
「煉獄さ、んッ…?」
未だに信じられなくて恐る恐るといった風に炭治郎が再び呼び掛けると煉獄は笑みを浮かべてしゃがみ込み炭治郎の顔に覆い被さって口を開いた。
「あぁ!久方ぶりだな、竈門少年!」
あぁ、やはり…煉獄さんだ!!!
炭治郎は動かなかった体が嘘のようにガバッと起き上がるとその勢いのまま煉獄にかじりついた。その勢いに煉獄はおぉ?と驚きながらもその口許は笑みを浮かべたままで炭治郎に押し倒されたような形で後ろに倒れた。
「煉獄さん、煉獄さん、煉獄さん」
もうどこにも行かせまいと煉獄の服をぎゅっと握り締めて首元に顔を埋め言葉を忘れたように何度も煉獄の名を口にする炭治郎の背中を撫で擦りながらも煉獄は空が広がる景色を見上げた。
「少年、俺はどこにも行かんよ。ここに居る。君は俺の腕の中に居る」
だから、もうそうなに泣くんじゃない。
煉獄は優しい声音で言いながら嗚咽を上げて体を震わせる炭治郎を抱き締めてやった。
「君を迎えに来た」