◆五悠♀
煩わしいあのスポットライトの下から逃げたかった。
何もかも面倒になって、全てを投げ出してただ身一つで遠くを目指した。
子供の頃に手を伸ばし憧れていた光景は既に遠い。だけど手が届かなかった訳じゃない。
早くに手が届き過ぎて拍子抜けしてしまったのだ。
自分が憧れていた、あの光景はもう…手に入らないのだと痛感してしまい、やるせなさに項垂れたのだ。
誰も自分を知らない所で何も考えずに過ごしたかった。
*
「悟さん~!起きてる?」
ぼんやりと居間の天井に出来たシミを寝転がりながら眺めていたここの一軒家の家主である五条は廊下まで響く玄関から自分を呼ぶ幼い声に視線を動かした。
「ん~…起きてるよー」
ゴロリと寝返りながら返事を返すと途端に廊下をバタバタ走る音が聞こえてきて五条はクスリと笑う。
笑みを零したと同時にスパンッ!と居間の襖が開かれて元気いっぱい!という表現が似合う高校生になったばかりの幼い顔の女の子が仁王立ちで寝転がる五条を見下ろした。
「おはよう悟さん!!」
太陽にも負けない元気いっぱいなその声に五条は笑顔を返した。
「おはよう、悠仁」
五条が寝転んでいた体勢から身を起き上がらせると悠仁はトタトタと五条の前に座って持っていたタオルで汗を流す五条の額や首をとんとんと拭いてやる。
どっちが大人なのか分からない。悠仁は世話を焼くのが結構好きみたいで何かとダラしない五条の身の回りのお世話をするのが楽しいらしい。
28歳だが独り身の生活の方が長い五条だって自分の世話や家の事とかも一通り完璧に出来るのだが仙台に来てからは何一つやる気が起きず縁側でただぼーっと過ごしてたある日に悠仁が現れて、その日を境に何故か世話を焼いてくれている。
軽いと言われる五条だがこれでも人との付き合い方は上手くない。いや、上手い方なのだが相手の方が異様に高い五条のテンションと返されない会話のキャッチボールに疲れて五条を苦手意識し、どうも敬遠されがちなのだ。
それで困る事はないから五条は気にした事なかった。
けど、悠仁はそんな五条のテンションについていける珍しい子だった。