◆宿虎(短編)
※悠仁が不死身になった話。
また今日も、同じ事の繰り返し。
何度巡ればいいのだろうか、宿儺と何度堕ちただろうか。
自分の手を握り締めてくれる同じ体が元の筈なのに大きく感じる手を見下ろして悠仁は思考に陥った。
「小僧」
「…なに、宿儺」
「飽いたか」
その問い掛けは宿儺にしては珍しくて、思わずその顔を凝視してしまう。けれど宿儺は至って真面目らしくじっと見返してきた。
ならばこっちも真剣に答えようと首を左右に振った。
「違う。ただ俺とお前の事を覚えてくれる人が居ないのがちょっと寂しいなぁって思っただけ」
悠仁と宿儺は一心同体。
悠仁は宿儺の考えていることは全ては分からないが宿儺は悠仁が何を考えているのか、裡に居るから分かる。
寂しげなその心に、だから問い掛けた。
もう、悠仁を知っている者はこの世には居ない。
みんな、悠仁よりも先に逝ってしまった。それは普通の死であり呪術師という生業にも関わらずみんな寿命を全うして逝った。正しい死だった。
だから悠仁は悲しい思いはない。
覚えている人が居なくても、傍らには大事な半身が居るから。
ただたまに、ふとした瞬間に思い出して懐かしくなって寂しくなってしまうのだ。騒がしくも愛しいあの頃が。
「…会いたいのだな」
「ん…でもお前が居るから、全然辛くないよ」
宿儺の懐に懐けば直ぐに背中に回る腕が愛おしい。
昔はあんなに散々殺しあったのに。
それが可笑しくて悠仁はくすりと笑みを零した。
訝し気に見下ろす緋色に何でもないと言って頬に口付けを一つ、捧げた。
それに、悠仁を覚えているあの頃のみんなはもう居ないけど…守りたい人達は居るのだ。
「いたどりー!!」
「オイ、ひっぱるな」
「コラコラ〜、ケンカしないのー」
公園の木の下で身を寄せ合っていた悠仁と宿儺の所へ、手を繋ぎながら駆けてくる小さな女の子と男の子。
そして、その2人の子供の後をゆったりした足取りで追い掛けるサングラスを掛けた白髪の高校生くらいの少年。
3人の姿を見つめる悠仁の顔はホントに嬉しそうに微笑んでいて宿儺はふっ…と笑みを浮かべた。
END