mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆五悠

 

※先生が獄門疆に封印されて戻ってきたという捏造された話です。

※五条先生目線

 

 

 

 

 

 

ベッタリ。

そんな擬音が着きそうなくらい、見下ろした栗色の頭はずっとそこに居る。

 

 

「……悠仁?」

 

五条はもう半日程ずぅっと己のお腹に顔を埋めて離れない悠仁の頭をつんつんとつついて声を掛けるが反応がない。

でも寝てる訳ではないのは腹に巻き付いた腕がぎゅうっと強くなるのに一応起きていると知らせてくれる。

 

まるで駄々をこねる子供のように離れない。

あぁ、そう言えばふと大人のような感情を落とした落ち着いた表情をするようになったがまだ子供だったね。

 

この行動も、一時的とは言え僕が封印されちゃった所為だし。

 

先日、獄門疆に封印されていた僕はやっと封印を解く事が出来て傑や特級呪霊と相対していた教え子たちと無事に合流出来た。

僕の封印が解けたと分かった途端に傑たちはその場を立ち去ったのは不幸中の幸いだった。最強の僕と言えど獄門疆に封印されていた間はどう封印を解くかで色々チカラを使ったから流石に疲れたからね。

 

このバカ!!何封印されちゃってんのよ!!って野薔薇とか恵に凄く非難されちゃったけどその目元は赤くなって気のせいか目も潤んでいた。

一応僕も先生として見られていたんだと実感した。

まぁ普段先生と尊敬されないのは日頃の行いのせいだろうね、改める気はないけど。

 

悠仁は嬉しそうに笑って「おかえり五条先生」と悠仁が生き返ったいつかの僕のように掌を向けて手を上げたから僕も笑って手を振り上げてハイタッチした。

 

それから高専に戻り、硝子に身体を診てもらって獄門疆の後遺症で何か影響が出るかもしれないから暫く安静と言い渡されて自室に戻ったのが昨日の夜。

少し寝て、朝起きたら悠仁が来てくれて朝ご飯とか作ってくれて美味しかった朝食を食べ終わるとまだ安静でしょ?と病人じゃないのにベッドに戻された。

 

話してる間にほんの数分眠ってしまってたらしく意識が浮上して目を開けると既に悠仁は僕の腹に抱き着いていた。

邪魔じゃないし嫌な訳ないからそのまま僕が居ない間の話を続けて聞いた。

それが11時頃の話で今もう夕方17時だ。話してる途中で最初ちゃんと僕の顔を見て話していたのに悠仁は完全に表情を隠すように俯いている。

 

「…ね、顔見せてよ悠仁

 

再会した時はもっと1番テンション高く歓迎してくれるのかと思われた悠仁はどっちかというと野薔薇や恵の一歩後ろで笑っていた。あれ?と思ったが本当に嬉しそうに笑ってたから余り気にしていなかった。

顔を伏せた悠仁の肩が小さく震えている。肩を撫でて顔を上げるように促すも悠仁は顔を見せないままフルフルと拒絶する。

 

「お願い悠仁

 

再度促せばゆっくりと顔を見せてくれた。

大きな目を歪めその目元は赤くなって泣いていた。嗚咽を漏らすまいと引き結ばれた唇が震え、抑えきれなかった嗚咽が隙間から漏れている。

背中に回されている手が痛いほど服を握りしめていた。

 

こっちが痛ましく感じる程、悠仁の顔はくしゃくしゃだった。

悠仁は僕が戻ってきて喜んでくれているが、それと同時にまた僕が居なくなるのではないか、不安なのだろう。

もう見られてしまった後だからか悠仁はもう涙を隠すこと無くぽろぽろ零して腹に回した腕に力を込められた。

 

「もぅ…いなくならないでよ、せんせ…ッ」

 

悲痛なその声に、体が震えた。

可愛い教え子にこんな悲しい顔をさせてしまった自分を殴りたい。そして僕を封印した傑の横っ面も思い切りぶん殴りたい。

ホント僕の生徒を傷付けるのが上手いヤツだよな、次会ったらもう容赦はしないから。

 

 

だけど、どうしてかな…。

 

悠仁にこんな悲しい顔をさせてしまって罪悪感で胸が痛む筈なのに…感じているのはぞくりと背を這い上がる仄暗い喜び。

博愛のように皆に分け隔てないあの悠仁が、僕をまた失う事に怯えて泣いているのを見ると胸の中に暖かいものが振り積もっているのが分かる。

僕の存在は悠仁にとってそこまで泣いてくれる程、大きかったんだと、驚く。七海との最初の任務で友達が出来た途端に守れず、死なせてしまったと嘆いたあの吉野という子供の時には涙をグッと堪えていたというのに。

 

「うん…もう悠仁の前から居なくならないよ」

 

身を屈めて隠し切れない笑みを浮かべて悠仁の額に口付けた。

悠仁は嫌がる素振りもなく、屈んで距離が近くなった僕の背中から首に腕を回しぐりぐりと首元に頭を押し付けてキツく抱き着いていた。

 

身を起こして首元にぶら下がった悠仁をそのまま膝に乗せてこっちも背中に腕を回して抱き締める。

 

もう、互いに離れられないと本能的に悟った。

それこそ僕は本望だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

END