mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆キラ白(はたらく細胞)

 

 

冬の12月から3月にかけて流行る感染症、インフルエンザ。

 

体の免疫力を下げ、高熱、悪寒等を引き起こす恐るべき病気だ。咳やのどの痛みなどの呼吸器の症状だけでなく、倦怠感や食欲不振などの全身症状が強く、酷い時は頭痛や関節痛・筋肉痛など呼吸器以外の症状も伴う。
合併症として、気管支炎、肺炎、中耳炎などもある。

 

この体の外はちょうどインフルエンザが流行ってる時期なのか、この体もどこからかウイルスに感染してしまって体内の中の細胞たちはウジャウジャと現れるウイルスを長期戦で排除していた。

幸いな事はウイルスがB型であることだ。

A型だと新種のウイルスが生み出されて排除するのに些か骨が折られるがB型ならば毎年といって良い程に倒している。

殺し方なら嫌という程に知り尽くしている。

 

既に何百ものウイルスを排除しているがインフルエンザが治るのは1週間程。

前線には白血球、マクロファージ、B細胞にキラーT達が休む間もなく動いている。

 

最初のウイルスが現れてから6日は経っていた。休む間もなく闘っているから既に時間や日程の感覚は分からなくなっているけれどヘルパーT指令からのアナウンスが時折あり、どれくらい経っているのか報告してくれるから辛うじて分かっている。

 

6日も経てばウジャウジャと居たウイルスも残る数匹になっており、その残りを排除すれば長かったこの戦いも終わると確信している。

 

そしていつものように最後のウイルスを白血球が排除した途端、長かった戦いの幕は閉じられ、ずっと戦い通しだった免疫細胞たちはワッと歓声を上げた。

 

キラーTも、やっと終わった事に一息を吐いた。今年もまた仕事をやり遂げたのに笑みを浮かべる。まだ息のある部下たちを確認してこれからの処理作業の指示を出してから周りを見渡した。

瓦礫の山と血溜まり、返り血に染まる細胞たち。周りへの損害は多いが細胞はそんなに殺られてなそうで安心する。

 

気を抜くと欠伸が出てしまいそうでキラーTはぐっと口許に力を入れる。

この1週間寝ずに動いていたのだ、脳や体は睡眠と休息を今直ぐにも必要としていて立ったまま眠る事が出来そうだ。

途中から想い人である白血球U-1146番を気にする事も出来なくなっていた。それでもお互いの強さを知っているから簡単に殺られたとは思っておらず無事だと信じて疑っていない。

 

目の端に細胞たちが互いを労っているのを捉えながらキラーTは視線を動かすとウイルスがやけに束となって倒れている所に、想い人の好中球が居た。

丁度タガーナイフを収めてる所らしく掌でクルクルッと一回転させてからスッとホルスターに仕舞っている。

 

やはり無事だった。

 

信じていてもやはりどこか大きな怪我がないか心配はする訳でその後ろ姿から致命傷に至るものはないと確認して内心ホッとする。

しかし心なしかその体が微かにグラグラと傾いてるのに気付き、訝しげにキラーTが目を細める。

 

その様子に可笑しいとキラーTが白血球に近付きその背中に声を掛けようとした瞬間、赤に染まった白い体がぐらりと傾いて倒れそうになる。

 

「…危ねぇな」

 

瓦礫の山に倒れる前に腕を伸ばして体を支えてやる。意識がもうないのか体からは完全に力が抜けきっておりずしりと腕に重さが掛かったがキラーTにとってはどうって事のない重さだ。

白血球の顔を覗いてみるとすぴー…と寝息をたてて眠っていた。

 

マジかコイツ…。

 

戦場だった周りは既に後片付けだけだから気を抜くのも分かるがここで事切れるのかよ、ホノボノしてんなぁ、コイツ。と呆れたようにキラーTは溜め息を吐いたがその顔は端から見れば甘かった。

思えば最初の抗原が出現してから最後までコイツはずっと立っていたのだ。疲れが一気に出たのだろう。

 

「1146番!!」

「ちょっ、大丈夫か?!」

「生きてる!?」

 

いつも傍にいる幼馴染み3人の白血球が駆け寄ってくる。致命傷を受けて倒れたと思っているのか酷く慌てた様子にキラーTは片手を上げて制した。

1146番を支えていた腕をずらし、尻から太股に掛けて掬い上げるように1146番を抱き上げる。

まるで幼児を抱き上げるような格好に一瞬幼馴染み3人はポカーンと目を見開いた。

 

「疲れて眠っちまってるだけだ。俺が回収するからお前らも休んどけ」

 

ほれ好中球、しっかり掴まれ。と眠っている相手に聴こえる訳ないのにキラーTが腕を僅かに揺すると眠っている筈の白血球はんぅ…キラぁ…と小さく唸りながらも両腕をもぞもぞと逞しいキラーTの首元に回して掴まり頬を肩口にペタッと乗せて完全に熟睡している。

 

幼馴染み3人は寝てるだけかい~。と声に出さずにツッ込んだが安堵した表情になっていた。

キラーTと1146番が付き合っている事を承知している3人は、じゃあ1146番の事をよろしく~とアッサリ手を振る。

頷いてキラーTは片腕で1146番を抱き上げたまま、その場を離れる。

 

1週間も休む間もなく寝ずに戦い通しだったのだ、今から少し休むくらい許されるだろうよ。

眠気で目が霞むのを数回瞬きする事で誤魔化しキラーTはリンパ官の自分の部屋へと戻っていった。

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1146番をベットへ下ろす前に血塗れになっている互いの黒と白の制服を脱ぐ。

下着までは汚れてなかったから下着だけを残した姿で1146番をベットに下ろしてから洗面所に行き濡れたタオルで髪にこびりついた血を拭う。ついでに下だけを穿き替えた。

 

赤に染まった金髪がタオルで擦る事で綺麗になり、数分すればいつもの色に戻る。

一通り拭いてから新しい濡れタオルを持って白血球の所まで行くと同じように血がこびりついた白い髪を綺麗にしてやる。

眠いのは眠いのだがキラーTは赤の中から美しい白が現れるのが楽しくて夢中で手を動かし綺麗にする。

 

満足するまで綺麗にしてやってからタオルを適当な所に置いた。今度は欠伸を噛み殺さず思うまま大きく欠伸をした。

 

欠伸で生理的に出た涙を無造作に拭い、自分の黒の部屋着を着せた白血球の隣に滑り込み安心しきった顔で眠っているのを眺めてくしゃりと頭を撫でてからその体を抱き寄せキスを1つ落とすと目を閉じた。

 

腕の中に1146番が居る。

それだけでキラーTは溜まりに溜まった疲れが取れるような気がした。

 

 

 

 

 

「ん……」

 

充分な睡眠を取れたおかげか、白血球はキラーTよりも先に目を覚ました。

今は何時頃だろうか…?目を擦り目を開くと目の前には端整な男の顔が思いの外近くにあった。身動き出来ないのは逞しい腕が腰に回っていたからか。

 

見事な金髪に目をパチクリとさせて白血球は何故目の前にキラーTが?というか何故自分はキラーTと一緒に眠ってるんだ?と頭の中には疑問ばかりが生まれる。

 

周りを見渡すとどうやらここはキラーTの部屋で真っ黒な部屋は見覚えあるものばかりだ。いつの間にここまで運んでくれたのか覚えはないが抗原を殺し終わった後の記憶がないことからキラーTが回収してくれたのだろう。

 

起き上がらせてた頭をぽふりと枕に戻すと未だ規則正しく寝息をたてるキラーTを見つめる。

いつも眉間に皺を寄せて部下たちナイーブを引率してるのだが今はただの一人の男になっている。端整なその顔立ちと見事な深い色の金髪は他に見たことがない。

 

窓から射し込む光に反射してまるで発光してるように眩しく光り輝くその髪を触ってみたくて腕を伸ばしてそっと触れた。

ツンツンしてる見た目とは異なり柔らかくてふんわりしている。指の間をくすぐって絡み付くのが愛しくて思わず小さく笑みを溢していた。

それでもまだキラーTは起きない。

 

滅多に触れる機会がないから物珍しさにまじまじと見つめてしまう。頭から下に手を滑らすと自分とは違う健康的な肌色の頬を撫でた。

眠る前に綺麗にしたのか血の跡が一つもなかった。

 

頬を撫で、確かめるように太い眉の感触をなぞり高い鼻梁をスーっと指の腹で滑らせて唇に触れる。厚くてふにっとしてる…。

 

いつもこの唇が『好中球』と好きな低い声で呼んでくれて、愛してくれる…。

 

思い出したら好中球は一人で起きているのが途端に寂しくなった。

こんなにいっぱい触れているのにキラーTは未だに全く起きる気配がない。

殺し屋なのに、と思うのだけど自分だから警戒する必要がなく安心して眠ってくれるのだと分かっているからただただ愛しくて思うだけだ。

 

けれどそろそろ起きて貰おう。

 

顔を近付けて軽く唇にキスを1つ。

少しだけ顔を引いてじっと見つめると閉じられていた目がゆっくりと開いた。

まるでお伽噺の眠り姫を起こす王子になった気分だった。そしたら眠り姫はキラーTか?ドレスを着たキラーTを刹那に思い浮かべて好中球は溢れた笑みを挨拶と共に誤魔化した。

 

「おはよう、キラーT」

「…好中球」

 

やっとその目に写れた事に好中球が微笑めばぐっと腕に力を入れて引き寄せ、今度はキラーTからキスをした。

ちゅっちゅっと唇や顔中に降り注ぐ触れるだけのキスを嬉しそうに受け入れる。

 

「ふふっ」

「…おはよう、好中球」

 

うん、おはよう。とくすぐったそうに笑うのにキラーTも顔を綻ばせる。

 

なんという至福の目覚めだろうか…。

 

後頭部に手を回して白い髪をくしゃりと撫でる。

肩口に顔を埋めてグリグリと甘えれば白い手がやさしく頭を撫でてくる。

幸福過ぎて叫び出したい衝動に駆けられるのを何とか抑える。

 

好きだ。

 

どうしょうもないくらいに。

 

胸の内がムズムズし出した頃に頭を撫でていた手がポンポンっと叩く。

キラーTが顔を上げると好中球が何かを待つようにキラーTを見つめていた。

 

黒い目を見つめてキラーTはふはっ…とくしゃりと笑った。それに釣られて好中球も笑う。

どちらが先に動いたのか、二人は唇を合わせた。

さっきのように触れるだけのものではない、互いを喰らい合うかのように激しく口腔をまさぐる。

 

横向きに横たわっていたのをキラーTが身を起こして好中球に覆い被さる。

好中球が長い腕を首に回して引き寄せ、スラッとした筋肉が引き締まった足をキラーTの腰に絡ませてガシッと捕まえた。

 

1週間分の休息は取れてないけれど今更止まれる訳がない。

 

二人の目の奥には欲望の炎が熱く燃えている。止まる理由は、ない。

 

 

 

 

END