◆夏(高土)
高杉は人工的な風が嫌いだった。
だから今では当たり前に一般家庭に置かれているエアコンも、昔から愛用されてきたが旧いとされる扇風機も気に入らなかった。
扇風機は風が強すぎて最初は涼しくて良いと思うが少しすると強過ぎる風に髪を乱され、音を騒音と感じて鬱陶しくなる。
エアコンは送られてくる風が冷た過ぎて涼しくなるよりも冷凍庫にいるような肌寒さであっという間に風邪を引いてしまいそうになり、やはり高杉は人工的に作られたものが嫌いだった。
だから高杉の部屋にはエアコンはない。
辛うじて扇風機はあるが滅多に使われる事はなく、窓を全開にして風通しを良くしたくらいのものだった。
茹だるような暑さでも高杉は暑いと口にしてても扇風機を使わない。
うちわを片手に風を自分に送りながら、縁側に座り外の景色を眺めた。
大きく前を開いた白いシャツから覗く肌には水玉になった汗が滲んで滑る。
傍らに置いてあった水の汗が落ちる麦茶が注がれたグラスの中では大きめに作った氷が小さくなってカランッと高い音を立て泳いだ。
蝉のミーンミーンと雌を求めて求愛の鳴く声が何処かしこから聞こえるのにやっと夏が来たのだと知らせてくれる。
「高杉」
部屋の襖が開けられ、そこには土方が額や首筋に汗を滲ませながら入ってきた。
高杉は外から視線を中に入ってきた土方に移した。
土方は徐に服を掴むとパタパタと中に風を送り込むように前後させながら高杉に近付く。
「こんなクソ暑いのに扇風機すらも動かしてねぇのかよ」
「エアコンも扇風機と嫌いなんでな」
俺は暑くて死にそうなんだが?と高杉を見下ろし、その傍らに座って高杉の傍らにある麦茶を断りもなしに一気に仰いだ。
土方が一息ついたのを見届けてから高杉は考える素振りを見せると、扇風機別につけて良いぜ?と笑った。
「…あ?」
扇風機嫌いじゃなかったのかよ、と訝しげに見返してくる土方に高杉は余計に冷えた体はお前が暖めてくれンのだろォ?とグラスの冷たさが残った指に唇を落として返した。
目を見開いた土方だったがフッと笑うと捕らわれた指先に力を込めてその手を握った。
「上等だよ」
END
(嫌いなものでもお前が居れば問題ない)
ただ美琴がエアコンと扇風機が嫌いなだけの話でした…w