◆宇善♀
「お前、そんなに男に貢いで騙されて…懲りない訳?」
落とされた冷ややかな声に青空に良く映える黄色の髪が動くにつれて揺れた。
見下ろす深い色の目に負けじと茶色の丸い目が見上げた。
「…先生には関係ないじゃないですか」
「お前、周りになんて噂されてるのか知ってるのかよ」
そんなの、知ってるよ。
善逸はフイっと視線を逸らして屋上から見える景色をじっと見下ろした。
世界はこんなにも鮮やかで綺麗なのに、何でウチはこんなにみすぼらしいんだろう…。
周りが噂してるって、私が誰にでも足を開くビッチ、でしょ。まぁ、仕方ないよね、私ってば一言好きって言われたらそれを信じて何人の男と付き合った事か知れない。
でも仕方ないじゃないか。
私は孤児で物心ついたときから親が居ないンだ。聞いた話に寄ると何か恨まれて殺されたらしいからもしかして私まで殺されてしまうかもじゃん。そうなる前に、人並みの幸せを送りたいんだよ。だから好きって言われれば信じてお金が必要だからと有り金全部持ってかれて騙されても好きって言われると嬉しかった。
でもこの前付き合ってた彼氏がどうやらヤバい所でお金を借りてたらしくてその保証人に私の名前を書いたらしい。
何も知らなかった私は学校の帰りで引き取ってくれたお爺ちゃんの家に帰ろうとしてたら後ろから声を掛けられて黒いスーツにガタイの良い男達から彼氏の借金を返せと脅された。
でも、彼氏に有り金全部持ってかれた私がお金持ってる訳じゃないしましてやその借金の額が100万以上で到底払える訳じゃない。
払えないと言うとじゃあお前の体で払ってもらおうか、って連れ去られそうになったのを、輩先生こと美術教師の宇髄先生が助けてくれたのだ。
証人した訳でもねぇし何も知らなかった訳だからその借金をコイツが返す必要はない、とスーツの男達を追い払ってくれたのだ。
それはもう怖かったわ。
何で私がこんな目に合うの?!ただ幸せになりたいだけなのに不幸過ぎない?!!って泣き喚いて宇髄先生を困らせたのは記憶に新しい。
でもこの人いつも意味もなく意地悪してくるから好きじゃない。顔もくそイケメンで女にキャーキャー言われるのが当たり前な顔してるのも気に入らなかった。こんな私の事もただのそこら辺にいる子供と思ってるんだろうなと思ってたしそれも別にどうでもいいけど助けてくれたのは本当に感謝した。
あんな怖い思いをしたのだから彼氏と別れろと親友の炭治郎に激しく怒られたけど折角私の事を好きって言ってくれた人と別れるのは嫌だった。けど、彼氏は行方を眩ましてどっかに消えてしまった。あの男達から逃げたのだろう。
…また幸せが私から遠退いてしまった。
大事な親友達が居て、こんな私でも引き取ってくれたお爺ちゃんも居て…贅沢過ぎる程の幸せだと分かっているんだ。
だけど、こんなに私を思ってくれる人がいっぱい居ても胸のどこかにいつまでも穴がポッかり空いてる。
この穴を埋められるのは何だろうってずっと探してるんだけど見つからないんだ。彼氏が出来れば一時的にその穴の隙間は塞がったけど、しばらくするとまた穴が広がる。
いつまでも塞がらない穴はまるで役に立たず弱く汚い私みたいだ。
「…お前、泣いてんの?」
ちょっと色々と情緒不安定みたい。
いつの間にか頬に涙が流れてて目の前が霞んでいた。見られたのが恥ずかしくて慌ててゴシゴシッとセーターの袖で拭うと立ち上がる。
「な、泣いてませんっ…!」
背を向けて屋上から立ち去る。
このまま傍にいると、また泣き喚いてしまいそうだったから。
だから気付かなかった。
宇髄先生が悲しそうな顔で善逸の背中を見送ってたなんて。
**
「あ!善逸!!良かった見付かった!」
善逸が屋上から教室に戻ると後輩である親友の一人である炭治郎が少し焦った表情で善逸を見付けると慌てて駆け寄る。
善逸はそんな炭治郎の様子に首を傾げるとどうしたの?と問い掛けた。
「善逸を探してる先輩がいてさっきまで騒ぎになってたんだ!」
「えっ?私を?誰っ…?」
教室の中を覗くと炭治郎が言ってたようにさっきまで誰かが暴れてたのか机や椅子がいくつか倒れておりまだ残っていた数人の生徒が倒れてる机を立たせている。
女子は怖かったのか数名泣いており友達とかに慰められている光景があった。
一体誰が…?こんな暴れる程私を探してる人って誰?え?私なにかした??恨まれるような事はしてないのに…!ガタガタと怯えて震えて善逸は炭治郎に抱き着いた。
「えっちょっ、怖っ!!?やだやだぁ!!一体誰だよ!!炭治郎私を守ってーっ!!!」
「善逸、心当たりはないのか?」
力一杯抱き付いてくる善逸の背中を撫でながら炭治郎が問い掛けるが善逸には全く心当たりがなかった。
あるとすれば借金をした彼氏だけだがその彼氏は追われている身の筈で学校には来られない。
だから善逸には全く心当たりがなくて小さく頭を左右に振った。
「そうか…」
炭治郎が心当たりがないのならあの先輩が誰なのか知りようがないね、と途方に暮れた。
あっちは善逸の事を知ってるからどこからでも来るけどこっちは知らないから何かあった場合、対処出来ないからと炭治郎が言うと善逸は涙をぼろぼろっと流した。
「え、嘘でしょ?何、私ってば狙われてるの?!嘘過ぎない?!嘘って言って!!!」
「だって善逸、現に教室が凄い事になってるだろ…?こんなになる程探してるんだから相手はまだ諦めてないと思うぞ」
「ひぃぃーーッ!!いやぁーーッッやだぁ!炭治郎そんな怖い事言うなよぉ!!」
炭治郎の肩をガクガクと揺らしてながら泣き喚く善逸に炭治郎は慌てて制止の声を上げる。体を揺らされてちょっと酔いそうだ。
「お、落ち着け善逸!」
これが落ち着いてられる?!!!私狙われてるんだよ?!!何もしてないのに!ただ生きてるだけなのにこんなのって有りですか神さま?!!本当恨むよぉー!!!
うわーん!!と泣き出す善逸に炭治郎は体を揺らされて軽く酔いながら俺が一緒にいるから大丈夫だと善逸を宥めた。
それでも泣き止まなかった善逸だったが騒ぎを聞き付けて急いでやって来た煉獄先生と宇髄先生や冨岡先生によってなんとか泣き止んだ。
教室の片付けは冨岡先生の対応によって生徒達の手で綺麗に片付いたが怯えて泣いてた女の子たちは早々に帰された。
炭治郎も遅くなると危ないという事で妹の禰豆子と共に煉獄先生が家まで送った。そして善逸はいうと、宇髄先生と帰る事となった。
善逸は赤くなった鼻をスンと鳴らしながら隣に立つ宇髄を見上げた。
「…何で輩先生なの…」
本当見上げるにも苦労するんだけど…。
派手に文句あるのか?と宇髄が見下ろしてくるのに善逸はどうしてこうなったのか考えるのも嫌でただ地面を見つめる事しか出来なかった。
終
多分、続く…?