mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆忘れられない(高土)

 

 

静寂に包まれた暗闇の部屋の中…押し殺したようなくぐもった小さな声が響く。

声を出すのを我慢してるからか時折苦しそうに息を吐き、零れ落ちた声が震えている。

 

部屋の中央にあるベットは膨らんでおり人が眠っている事が伺えるのだが些かその膨らみは大きくて一人の人が入っているようなものではない。ベットに眠っていたのは一人ではなく、二人。

 

高杉と、土方の二人だった。

二人は同棲をしていて今日もいつものように共に眠っていたのだけれど眠っている途中に土方が夢から覚めて涙が溢れて止まらなくなってしまった。

 

暗闇の中では深い蒼の瞳を見る事は叶わなずけれど暗闇のおかげで涙に濡れて赤くなった目を隠してくれた。            

思い出してしまった。あの時、限られた時間の中で最期に己のやるべき事を見つけ、自分の最期を知りながら迷いもなく突き進んで逝ったあの時の高杉の姿を…土方は夢見た。

 

どうしょうもなかった。

どうにも出来なかった…無力な己を呪っても高杉は過去奇跡的に生きてきたがその奇跡の数だけ…死んでいたのだ、何回も。

悪運強くも生き延びていたが最期の時は奇跡でも何でもなかった、限られた時間の中でやるべき事をやってのけて高杉は生に背中を向けた…。

 

人をも巻き込んだ数々のテロを起こしてきた生粋の悪党だったがそれにも理由があり、その理由には胸を締め付けられる。

悪党だったけれど、江戸が大変だった時にはその身を呈して江戸を救ってくれた…それだけで充分ではないのか。今まで辛い道を一人、共に戦った仲間を置いてまで心を偽り誰にも頼る事なく歩いてきたのだからもう良いんじゃないのか。

 

笑って、日の下を歩いて良いではないのか。

 

 

土方は過去を思い出して声を押し殺す。

隣の高杉を起こさないように身を小さくして枕が涙で冷たくなって頬を濡らすがそれを止める術を土方は今は知らなかった。

 

 すると、

 

 

「ッッ……」

 

震える身体を力強い腕が抱き締めた。

びくっと肩を跳ねさせる土方が目を凝らすと高杉がしっかりと目を開けて土方を見つめていた。

土方が何か言おうと口を開くけれど何も紡げず中途半端に口を開けたままそっと閉じる。

 

何と言えばいいのか分からなかった。

高杉はそんな土方に何も言わず濡れた頬を掌で覆い涙の跡を拭うとそのまま後頭部に手を滑らせて引き寄せた。

 

コツン、と額を付けて小さく息を吐く。

声を出さないようにと血が滲むまで噛み締められた唇にそっとキスして力を抜くようにと舌でなぞった。

はっ、と力を抜いた唇に続けてキスをすると土方の手が高杉の背に回りシワになる程キツくシャツを握り締められる。

 

「…た、かすぎ…」

 

まるで迷子の幼子のような声だ。

ふっと小さく笑って高杉は土方を更に強く抱き締める。いつの間にか身体の震えは止まっていたがまだ嗚咽が止まらない。

 

背中をテンポよく撫でながら高杉は腕の中に収まる恋人の事を可愛く思う。

 

何故泣いていたかなんて、大体予想は付く。

コイツが己の死の事で泣く訳がなかった。真選組の最期は天寿を全うして潔いと聞く。ならば、コイツが他に涙する理由なんて…自分しかいない。

 

自惚れではない。

土方は間違いなく自分の事を愛していたし、自分も土方を危ない橋を渡ってしまうまでには酷く愛していた…。

 

たがらあの時の自分の最期を悔やんでいる事は分かっていた。知っていた。

それでも自分はあれで良かったのだ。最後の最期で先生を守る事が出来た。先生を殺めてしまった悲しみの呪縛を背負った銀時をやっと開放させる事が出来た。

 

10年も掛かってしまったが…思い残す事もなく逝けた。ただひとつ、土方の隣で老いる事は叶わなかったがそれ以上に愛していたから満足だった。

 

もう、良いのだ。

忘れてしまえばいいのに、と高杉は思いながら自分を思って涙する土方が愛しくて愛しくて仕方ない…。

 

「…土方」

 

俺はここに、お前の前に居るだろう…?

 

高杉が涙が溢れそうな目尻に指を這わせると土方は頷いた。高杉が言わんとしてる事が暗に理解出来た。確かにやるせない気持ちでたくさんだけど今は目の前に高杉がいる。

 

それは紛れもない事実で確かな事。

土方は小さく笑って高杉にキスをした。それだけで、もう涙は止まった。

 

END

 

 

(仕事が繁忙期に入りましたのでこれから更新が遅くなります~😭💦でも月に3個くらいは上げられるようにします…。2018/5/22)