◆変われたのは貴女の為(百合高土)
「十四乃ちゃんって可愛いよね~!」
「使ってる化粧品なにー?」
教室の窓際の後ろ、土方十四乃は周りをクラスの女子に囲まれながら質問責めに合っていた。猫のようにつり上がった蒼い目が透き通って輝き、深緑の髪が三つ編みに編まれ肩に綺麗に流されている。シミ一つない滑らかな肌に目も綾な姿を女子たちが羨ましそうに見つめている。
今日は高校の入学式でさっき式が終わって教室に戻り、先生が来るのを待っていたのだ。
生徒はみな、各々好きに過ごしていてグループで集まって喋ってる者がいればわざわざジャンプを持参して読み込んでいるものもいる。
ボーッとしてる奴もいれば、遠い他校から来てまだ友達がおらず寝てるフリして馴染めないのを誤魔化してるのもいた。
そんな今日の様子を土方は周りを囲む女子に当たり障りのない事を返しながらただ眺めていた。
今日来ねーのかよ…。
窓から見下ろせる正面出口を見て土方はムッスリとする。待ち人を待っているのだ。
学校は午前で終るからせっかく一緒にカフェを巡ろうと約束したのに、一緒に行こうと誘ったその相手が学校に来てない。
土方は拗ねたように黙り込むと女子たちがどうしたの?と聞いてくるが何でもないと返そうとしたらガラッと教室のドアが開けられ口を閉じた。
先生が戻ってくる5分前なのに今教室に入ってきたのは誰だ?と生徒の視線がドアに向くとそこには紫紺の髪を靡かせ、漆黒の長い睫毛が鋭い碧の瞳に陰影を落として妖しげな雰囲気を漂わせ左目は医療用の眼帯で隠す高杉の姿があった。
雪も騙す程の肌が紅い唇を際立たせ男子の視線を奪っている。
「高杉!」
土方が席を立ち上がって高杉に走り寄ると高杉は小さく笑みを浮かべた。
土方が待っていたのは高杉だった。
高杉が来ると土方の席を囲んでた女子たちは直ぐ様自分の席へと戻り、高杉に視線を奪われていた男子はハッと我に返ると視線が合う前に目前の机を見つめた。
それに高杉がフンと嘲笑を浮かべると丁度戻ってきた先生の号令で二人は席に着いた。
ムッスリとしていた土方の表情はさっきと打って代わって少しホッとしたように見えた。
土方と高杉は元々仲なんて良くなかった。
何故なら今は周りが羨む程の大和撫子のように美しいと言われる土方だが昔は成人男性を横二人に並べられる幅をも取れる程にそれはもう太っていたのだ。
人というのは自分と違うものに対しあれこれと比べるものだから自分と違い醜く太っている者をまるで悪者ようにからかい罵詈雑言を吐き付ける。
土方もそうで大のマヨネーズ好きが仇となって中学の頃には体重は200㎏をゆうに越えていた。
男子からは醜い豚だと罵られ、女子からはブス等と影口を言われてきた。
同じクラスだったからその中に高杉もいた。けれど高杉は影口を言うのではなく面と向かって「デブ」とハッキリと言ってきた。
土方は吃驚して目を見開いたが大人しく虐められるような性格ではなかったから直ぐに言い返し、騒ぎになる程の喧嘩をしたものだった。
それからだった。
顔を合わせては口喧嘩をし、時折殴り合いにもなった。高杉は顔が綺麗な割りには喧嘩っ早くてその慇懃無礼な不遜な態度が気に入らないと他校の男から絡まれるも返り討ちにしてしまう程だったから不良というレッテルを貼られた。
だから平和な学校生活を送りたい者は関わらないようにと高杉を避ける。
不良だから避けられる高杉と肥満体系なだけで虐められる土方は次第に話す事が多くなった。それも高杉が土方によく突っ掛かるからだ。
口を開けばデブと言われる土方もうるせぇよチビ!と言い返すのが二人の日常となった頃、土方への虐めがエスカレートして体育の授業を終えた土方が教室に戻ると制服が見るも無惨に鋏で切られておりとてもではないが着られるようなものじゃなくなっていた。
絶句する土方をクラスの者がクスクスと後ろで笑みを浮かべているのをカッとなって殴りたかったがその衝動を抑えて土方は教室を飛び出して走った。
教室を出る際に遅刻してきた高杉にぶつかり高杉がよろめいたが涙を浮かべる土方を見て大きく目を見開いた。
声を掛ける間もなく土方は走り去って高杉が一体何だ?と訝しんで教室の中に入ると土方の机に置かれた無惨な姿の制服を見下ろして合点がいった。
ブスが泣いてたね、と面白がる奴らを高杉は近くにあった机を蹴り倒して睨み付ける。
その鋭い視線に教室がシーンと静まり返ると高杉はてめェら覚えてろよ?と低い声で脅し教室を後にして土方を追った。
土方を探して走ってた高杉は土方の行きそうな所を片っ端から足を運んで校舎の裏庭を見てみるとそこにはしゃがみ込む土方をやっと見つけることが出来た。
そっと近付いて同じようにしゃがみ込むと土方は眉間にシワを寄せて怖い顔をしていてさっきは涙を浮かべてたから泣いていると思っていた高杉は内心ホッとした。どうやら悔し涙のようだ。
俯く土方の頭をポンと撫で、高杉はおいデブ。と切り出すのに青筋を浮かべる土方だったが構わず続けて高杉は痩せるぞ、と真顔で告げた。
勿論土方はキョトンと間の抜けた顔をしては?と困惑したが高杉はあんな奴らをさっさと見返せよ、てめェは今デブだけど可愛いンだから。と続けられて土方は反応に困った。
顔を合わせれば口喧嘩をしてきた高杉がここにきて可愛いって何だよ、と訳分かんなくなったのだ。
戸惑う土方を構うことなくその事件があって高杉は土方が痩せる為にダイエットに付き合った。
クラスの者は高杉が牽制した日から恐れて土方に手を出さなくなり快適に過ごす事が出来た。
先ずは大好きなマヨネーズを目的の体重まで落とせるまでは絶えて過度にならないように食事制限を設けて毎日3時間の運動とストレッチを行った。これが肥満体系には辛くて弱音を吐く度に高杉が土方を励ました。(励ますというには辛辣な言葉ばかりだったが)
体に良さそうなものと体脂肪率を下げるレシピを高杉がわざわざ調べてノートにまとめてくれたり、時間があれば休みの日でもダイエットに付き合ってくれる高杉に何度か何でこんなにまでしてくれんだよ、と問い掛けたが高杉は必ずいつもお前は可愛いよ、としか言わない。
答えにもなってないが土方は一人じゃここまで徹底的に出来なかったかもしれないから手伝ってくれる高杉に感謝した。
マヨネーズが食べれなくてイライラして高杉とよく衝突もしたが売り言葉に買い言葉で喧嘩腰にそのまま次のトレーニングについて考案してしまうからまともに喧嘩にもならなかった。
そのおかげで口を聞かなくなるなんて事にはならなかったから今思うと可笑しい光景だったろうなと土方は笑う。
そんなある日、高杉の家の脱衣室でかなり痩せてきた土方が久しぶりに体重計に乗ってみると高杉の手助けの甲斐もあってなんとか1年と半年で60㎏までに減量する事に成功していた。
出された数字を見て土方が涙ながらに嬉しがっていると目の前にいた高杉がやっとだな…と溢し土方を抱き締めた。
驚く土方を抱き締めたまま脱衣室を出るとリビングのソファに腰を下ろして目を閉じる。高杉の腕から抜け出そうとしたが以前は太っていたから密着しても肩が触れるだけで高杉の腕が背中に回ってぎゅっとされるのも、頬に柔らかい双方が触れる事もなかったから初めて触れる温もりに土方は思わず大人しくなる。
暖かい…。
大きな腹で腕が伸ばせず高杉を抱き締めるなんて出来なかったが今はつっかえるものもないし土方はおずおずと高杉の背中に腕を回して抱き返した。
この瞬間に土方は高杉が好きなのだと自覚した。
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まだ続きます!
後程書き足して更新します😅
取り合えず土方さん誕生日おめでとうー!!