◆高土
「晋助、起きろ」
「…ん…」
肩に凭れる高杉の体を軽く揺すって起こせば小さな声を溢して隻眼の碧の目が開いた。
まだ意識がハッキリとしないのか眠そうに右目を擦るのに土方が笑みを溢して乱れた髪を直してやった。
「…十四郎、」
髪に触れる土方の手にすり寄り気持ち良さそうに目を細めるのにまるで猫だと思った。
いつも飄々とした高杉が寝起きの時は幼子のように甘える姿にギャップを感じて土方は好きだった。
可愛い。
そう土方の表情が語っていた。
街を歩けばすれ違う老若男女問わず高杉の容姿に惹かれて誰もが振り返る。
滲み出る色気もそうだが今は主流となっている煙草ではなく、江戸の頃に遊女等が使用してた煙管を燻らす姿がこれまた粋で人の目を惹き付けるのだ。
切れ長の澄んだ碧の瞳に見つめられたら足の爪先に頭を垂れて服従してしまう程に高杉のカリスマ性には逆らえない。
高杉は周りを惹き付ける人間だった。
「高杉起きた?」
土方と高杉が居たのは街中にあるカフェテリア。
奥の席に座ってたのは土方と高杉だけではなく、腐れ縁とでも云うのか昔から顔を合わせては口喧嘩をしてきた銀時の他に桂、坂本、ついでに土方の犬である山崎も居た。
週末は時間があったら何となく集まるのが習慣となっていてこの日も集まっていたのだ。
大学の事や世間話をしてたら昨夜遅かったのか隣に座ってた土方の肩に凭れ高杉が眠ってしまった。
高杉を甘やかしてる皆は笑みを浮かべて少し休ませてあげてたが店に入って隣の席に座った女子グループが此方を見て色めき立つのに土方がこれ以上高杉の寝顔を無料で見せる訳にはいかないと起こしたのだ。
銀時がまだ眠そうにしてる高杉に声を掛けるとあぁ、と頷いた。
「晋助何か頼むか?」
テーブルの横にあるメニューを取りながら土方が聞くとエスプレッソと返ってきて土方は頷き、店員を呼びエスプレッソとついでとばかりにパンとセットのスクランブルエッグと銀時が苺が盛り沢山のパフェを頼んだ。
店員が下がるのを見届けて銀時はそれにしても、と溢す。
「高杉と土方っていつから一緒に居るっけ?」
「さァな、俺も覚えちゃいねーよ」
「高校の時にはもう一緒ではなかったか?俺と銀時と高杉は幼馴染みだからな、よく覚えている」
お茶を啜りながら桂が思い出すように明後日の方向を見上げるのに銀時がそうだっけ?と首を傾げた。
ワシはお前らとは中学の時に会ったからのぅ!高校上がった時には1年間海外に行ってたし戻ってきたら高杉と土方が一緒にいるの普通だっだぜよ、と坂本が笑いながら言う。
話題になっている二人もいつからなんて思い出せないのか頭を捻っていた。
思い出せない程に高杉と土方はいつの間にか、自然と一緒にいるのが当たり前になっていたのだ。
確かに桂の言う通り、高校に上がってからそこで高杉と土方は初めて出会ったのだがいつから一緒にいるかは分からなかった。
あの頃は高杉もヤンチャばかりをしてて銀魂高校の頭を張る程に喧嘩三昧だったし風紀を乱す者を粛清するのが仕事だった土方とは相容れない立場に立っていた筈だった。
相容れない筈の二人がいつの間にか一緒にいて、幼い頃から熟知してる高杉の人間への無頓着さを知ってるだけに大学に入っても今もずっと共に過ごしているのに銀時が疑問に思うのも不思議ではない。
一緒にいるだけなら親友と云えるがそんな軽いものではない。
共に過ごす内に二人の間に何か芽生えたのか高杉と土方は付き合い、唇を合わせるようになり、自然と身体も重ねるようになってお互いしか見えなくなった。
しかもそれを隠す気もないのだから高校と大学で二人の噂は直ぐに広まった。
それで影口を言われてたみたいだが他人に無頓着な高杉と利にならないことに興味がない土方には堪える事はなく時間が経つに連れて二人の仲は公認となっていった。
周りの偏見を無視してまで付き合う二人が当時は分からなくて周りは何回も問い掛けたものだ。
その度に二人はアイツだけだから。と答えにもなってない答えが返ってきた。
「てめェもしつけェな銀時。何で一緒にいるかなんて俺ァ十四郎しかいらねェからに決まってっからだろォ?」
何回も繰り返された疑問に呆れはしたが高杉は律儀に今まで言った事を繰り返した。
だから何でそうなったかを聞いてるんだけど、と銀時が溜め息を吐くと土方が前世から俺と高杉は恋い焦がれてたからで良いんじゃねーの?と笑った。
良いなァ、それ。
ニヤリと目を細めて酷薄に笑った高杉にだろ?と土方が同意し目を合わせた。
「はいはい、お二人さんはお熱いって事でファイナルアンサー?」
ファイナルアンサー、と高杉と土方以外が頷いた。これから先も高杉と土方はずっと一緒に居るのだろう。
二人が一緒にいるのが自然なように。
END