mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆高杉と万事屋

※紅桜から数ヶ月後の設定です。

 

 

 

 

神楽は定治の散歩から日が傾いた頃に万事屋に帰り着き、 習慣となったただいまという呼び掛けをして中に入るとソファに座っている人物に驚いて立ち尽くす。

 

「………」

「………」

「……何で、お前がここ…」

「………」

 

万事屋のソファに座っていたのは今世間を騒がす過激攘夷志士のテ ロリスト高杉晋助だ。

神楽は以前、 紅桜の時単独で鬼兵隊の船に乗り込み高杉の背後に番傘の銃を突き 付けて振り返った高杉に対して恐れを抱いた記憶がある。

その時の恐れが今も身体に染み付いているのか、 神楽は知らず知らず震えていた。けれど気丈にも高杉を睨み付けた。

 

高杉はそうな神楽をチラッと見ただけで何も反応することなくただ 煙管を燻らす。


「…くしっ」

 

二人はお互いにじっとしたまま、 その状態でいると寒かったのか高杉が小さくくしゃみをした。

勝手に緊張して神経を磨ぎすましていた神楽は小さなくしゃみだけ でビクッと反応した。
部屋は暖房も着いていなくて、 何故か窓も開いてる為か物凄くキーンと冷えていた。

 

神楽はしばし考えてからその場を離れて台所に向かった。

定治はそんな神楽の背を見送ってリビングに入って高杉の座ってい るソファの後ろを通ると巨大な犬にも関わらず器用に窓を閉めた。
高杉はそんな定治を見て、表情は変わらぬもののあれは犬なのか…。と思っていた。

 

「……ほらヨ」

 

高杉は定治から目を逸らして台所から戻って来た神楽を見てからテ ーブルに視線を移すとお茶だった。

 

「……」

 

恐れていたクセに、茶を出すのか…。

高杉は神楽が淹れたであろうお茶を手に持って一口啜って、 一息つく。余り淹れたことがないのだろう、 少し苦かったがお陰で体が温まった。

 

「…お陰で体が温まった…茶、美味しかったぜ」

 

客でも何でもない己にもてなす義理はないだろうに自分の為にお茶を淹れてくれたんだ。 高杉は神楽を見上げて小さく微笑むとお礼を言う。

神楽は銀時達に苦いと言われてきた自分のお茶が美味いと言われ一瞬にしてほだされた。さっきまで高杉に対して感じていた恐れが現金にも消えた。

 

「ねぇねぇ、何でここにいるアルか?」

 

高杉の隣にぴょん!と飛び座って神楽は笑顔で問い掛ける。
もう恐れも震えも消えた神楽は高杉に対してテロリストとか危険とか忘れて良いお兄ちゃんと再認識する。銀時と似てると思ったのは気のせいか。

 

急に馴れ馴れしくなった神楽に高杉は疑問に思ったが問い掛けに答えた。

 

「…散歩していたが、さっき下で銀時と会ってな。 斬り合いになるかと思いきや急にお使い!と叫びだして俺をここに押して留守番頼むぜ、 と言い捨てて走って行った。あのバカがお使いたァ笑えるな」

「…銀ちゃんがお使いなんていつものことネ!それで大人しくお留守番してるアルかお前? 」

「丁度ソファがあったからな、一服してた」

「ふーん…ふぁ~」

「眠いのか」

「ん…もうお眠の時間ネ…」

「俺の事は気にしなくていいぜ。一服したら出ていく」

「うん…膝貸してヨ」

 

返事を聞く前に既に神楽は高杉の膝に頭を置いて直ぐ様寝息が聞こえてくる。

一服したら出ていくと言ったのを聞こえなかったのかこのガキは。

 

「………」

 

高杉は神楽を見下ろし羽織を肩から落として神楽の体に掛けてあげると少し温くなったお茶を啜った。やはり渋い。

 

「くぅん」

「…寝かせてやれ」

 

まだ遊び足りなかったのか定治が神楽を見下ろして鳴いたが高杉は止めた。

 

「…くぅ」

「窓閉めてくれて助かった。散歩して疲れたろ。オメぇも寝な」

 

定治の顎下を撫でながら言うと定治は小さく鳴いて高杉の手にすり寄ってその傍に丸まって寝転がり目を瞑った。

その頭を良い子だとポンポンと撫でて高杉は静かになった部屋で煙管を加えた。

 

 

 

 

 

*** 

 

お使いを終えて銀時は途中で合流した新八と家に戻ってきた。


「銀さん、お登勢さんのお使いは済みましたか?」

「おぉ、終わったぜ。ったく、あのババァもお使いとか… 俺は小学生かっつうの」

「いいじゃないですか。それで先月の家賃負けてくれるし」

「まぁな。ただいまー」

 

玄関の扉を開けながらぼやく銀時を苦笑いしながら宥めて新八も銀時の後に続いて家の中へと入る。

 

「神楽ちゃん、定治ーただいま」

「うわっ」

 

いつもなら神楽が面倒くさそうに奥からおかえり~って言ってくれるのにまだ散歩中なのかな?と思っていた新八は先に入っていた銀時の声に慌てた。

 

「銀さん?どうかした…えぇぇっ?!」

 

ドタバタしながら駆け付けると新八は目を見張って声を張り上げた。

銀時も驚きながら高杉を指差している。

 

「高杉、お前まだ居たのか?!」

「…うるせェ、ガキが起きる」

「あれ…神楽寝てんの?」

「定治まで寝てますよ…」

 

自分でここに押しておきながら失礼なヤツだ。高杉はやはりコイツなんか嫌いだ、と思い直しながら騒ぐ銀時に神楽が起きると睨み付ける。

神楽に気付いた銀時が緊張感もなくすやすや眠る神楽に驚いた。

新八がその隣に寝転がる定治を見てどういう事だ?と混乱したように目を回した。

 

「お前…いつの間にうちのガキを手懐けたんだよ」

「知るかよ」

「いやいや、神楽が簡単になつくガキだと思ってンのか? こいつは俺に対してもボロクソ言う生意気なガキだぞ?」

「本当のことだろクソ天パ」

「何だとぉ?!」

 

ソファーに座る高杉の裏に回り、後ろから覗き込むようにして高杉に神楽はそう簡単にほだされないと言うがそんな事は高杉にとってどうでもいい事だ。

 絡む銀時をウザそうにあしらって高杉はそっぽを向いた。それに銀時が目くじらを立ててつい大きな声を出してしまう。 

 

「んぅ…っ」

「銀さんっ!静かに!」

「あ、やべ…」

「もぉ…うるさいヨ、ボンクラ共…落ち着いて眠れも出来ないネ」

 

煩くしてしまって神楽は起きてしまった。

高杉の膝から起き上がってまだ重い瞼を擦って銀時達を睨むとバツが悪そうに銀時は頬を掻いた。

 

「ごめんね、神楽ちゃん」

「…もういいヨ。銀ちゃん、お腹空いたヨ何か作るヨロシ」

「起きて早々それかよ…」

 

申し訳なさそうに新八が謝ると神楽は仕方なさそうに呆れた顔をしてもう気にしてないと告げた。

そして起床早々に腹の虫が大きく鳴って銀時に食事を作る事を要求するのに今度は銀時が呆れる番だった。

 

「………」

「どこ行くアルか?」

 

保護者が帰宅して子供も起きた事だしさっさと帰るかと高杉が煙管を懐に仕舞い、立ち上がって玄関の方へ向かおうとしたら神楽が直ぐに気付いて袖を掴む。

 

「帰る」

「待ってヨ!大事な用でもあるのか?」

「あァ…?」

 

引き留めようとする神楽を高杉は訝しげに見下ろした。

 

「今日はこのまま泊まるネ!」

 

怪訝な顔で自分を見下ろす高杉の顔を神楽はニッと笑いながらこのまま泊まれと言う。

高杉は微かに目を見開きあどけない笑顔の神楽をまじまじと見つめてしまった。

 

何故泊まることになる。こうして一緒の空間に居るのが不可解なくらいには何ヵ月前にドンパチ殺り合った銀時の家に泊まるなんて意味が分からないだろう。呆れてものも言えない。

 

「神楽?!」

「何言ってんの神楽ちゃんっ?!」

「ねェ、いいでしょー?」

「くぅん!」

 

やはり銀時と新八ははぁぁ?!!!と声を張り上げた。

神楽が高杉の袖をガッシリと掴んでて離そうとしない。定治も高杉の前に回ってその体を顔でグイグイ玄関から遠ざけようとしているのを見て銀時は驚いた。

 

「定治まで何やってんだ!」

「ねェ、いいでしょー」 

「……はぁ、分かったから離せ。着物が伸びる…」

 

まるで小さな子供が親を上目遣いで見上げながらあれが欲しいとねだるようなその光景に新八は自分は夢を見てるのかな…。何故過激派攘夷志士のテロリストに身内がねだってるのだろう…。と現実逃避をしてしまう。

 

紅桜の時はエリザベスを遠慮なく一刀両断したのに高杉がいつその腰の獲物に手を掛けるのかハラハラとしてたがいつまで経っても獲物に手を伸ばすことはなかった。

あまつさえ神楽のしつこさに白旗を上げて泊まると言ったのだ。

 

「やったー!!」

「わん!!」

「えぇー…」

「銀さん、どうすんですか…」

「俺が聞きたいよ…」

 

喜ぶ神楽だが銀時と新八は冷や汗が止まらない。新八は単純に高杉が怖いからという理由だが銀時は違った。

今は道が違ったが10年前は共に過ごした仲間だ。けれどそれは10年も前の話で何ヵ月前には完全に袂を別った筈なのだ。

 

どう高杉と接したら良いのか分からなかった。神楽がこんなになついてなければ即悪態をつけられるのに神楽も定治がこんなにも嬉しそうにしてるとどうしたら良いのか分からなくなってしまった。

 

ここに高杉を押したのは自分だったがまさか一つ屋根の下でまた過ごすとは思わなかった。

 

 

「寝床は私と一緒に寝るがいいネ!」

「それはダメ!?」

「 年頃の女の子が大人の男性と寝るなんて何考えてんの神楽ちゃん? !」

 

年頃の娘が男と襖の中で寝るという問題発言にここではお父さんの銀時と新八が即それを却下するが神楽は聞かない。

 

「うるさいヨ、ダメ男共。エロいことなんか考えてンじゃねーヨ」

「エロいことなんか考えていません!!」

「考えてるだろ。別に疚しいことはないから大丈夫アル」

「なんでうちの子は聞き分けがないんだ…」

 

最近めっきり言う事を聞かなくなった子供に銀時は項垂れた。

高杉は会話に参加するのも面倒なのかさっきからずっと定治を撫でている。心なしか楽しそうに見えるのはお互いをよく知っているからか。

 

果たして高杉と神楽が一緒に寝たのかは、万事屋しか知らない。

 

 

 

 

END

 

(万事屋に泊まった事を万斉が土方にチクって拗ねられるのはまた別の話で)