mikotoの呟き

美琴の小説、日記やお知らせ置き場*^^*

◆蛟の守り神(高土)

 

 

最近学校から帰ってくると段々と体が重くなる事が多くなったと感じる。

 

今も学校から帰って来て部屋に戻ると何故かドッと酷く疲れている。気分も余り良くないしどこか体調が悪い訳でもないのに最近のこの状態が可笑しいって嫌でも気付いてしまう。

 

可笑しいのは学校にいる時には何も感じないし頗る元気なのに、学校を出て小さい頃からつるんでいた近藤さんや総悟と別れた途端に何かに乗っかられたんじゃないかという程に肩が重くなるのだ。

 

これにはまさか、と思い至る事がある。

昔からよく聞く話だ。それは俺にとっては凄く迷惑な話だし苦手なものだが。

 

よく言うだろ、憑かれると肩が重くなるって。

 

想像してしまって土方はブルブルと頭を振って下に下りた。

母から家の裏の神社にある池の蛟様へとお供え物を添えてくれと頼まれていたンだったのを思い出したのだ。

 

蛟様は水の神様で昔ここの地域を街をも呑み込もうとした洪水から守って下さったと云う。それかというもの蛟様の社はこの地域に住んでる者たちからは愛されていて毎日毎日祈りやお供え物を捧げに来る人が途切れない。

かくいう土方も信仰なんてものはないが幼い頃からの習慣から蛟様の社には1週間の内に1度は訪れてお供え物を置いていた。

 

慣れた道を歩き進むと神社の奥にある大きな池の真ん中に水に浮かんで見えて鎮座する社が目に入った。

ここの池は水が透明で綺麗なままだから水の中に泳ぐ鯉や亀などがハッキリと見える。季節によっては周りに花も咲いててよくアゲハ蝶とか見られる。蛟様は動植物にも好かれているのかな。

 

社へ続く橋を渡りながら泳ぐ魚を見下ろしてると社の前へ着いた。

 

いつも掃除されているからか埃の一つ、汚れもなくピカピカの社を見て相変わらずだな、と土方は小さく笑った。

 

手に持ってたビニール袋を持ち上げると中から日本酒を取り出す。そのまま瓶ごと日本酒を社に置いた。これがいつも蛟様に捧げるお供え物なのだ。

可笑しな話だが蛟様は日本酒が大好物らしいのだ。勿体ないから俺にくれよな、と思いつつ(高校生にして煙草だけじゃなく酒の味まで覚えてしまっているのだ)まぁ、水の神様だから水が好きなのかな?と思いながら両手を合わせて目を閉じると後ろからバシャッと水の跳ねる音が響いた。

 

「ん?」

 

何だ?と振り返ると池の中に人が居た。

人、というにはその格好は今の時代余り見掛けない蒼い着物で薄紫の被り物をしていた。

そしてよく見たら、水の中から顔を出してる竜の尻尾みたいなのがゆらりと揺れているではないか。

 

土方はいきなり現れた得体の知れないモノに目を見開き、声にならない叫びを上げた。

 

「ーーーーーっっ!!!!!」

 

こういうものが苦手な土方は今にも失神してしまいそうな程だったが池の中にいるモノが振り返ってきたのだ。

その顔を見たら今度こそ気絶する、と確信していたのだったが土方は気絶しなかった。

 

振り返ったそのモノは、想像していた怖い顔やグロい顔をしてなかったからだ。

 

 

「やっぱてめェか。今日はえらく沢山引き連れてたなァ」

 

男の低い声。

振り返ったそのもの、男の顔は言うなれば美形に入るものだった。紫紺の髪がサラリと風に揺れ、細長の碧の目が土方を真っ直ぐに射いた。

左目は黒い眼帯で隠されていてその風貌は近寄り難いものだったが綺麗な顔は誰もが目を奪われるだろう。

男なのに女用の着物を身に付け帯を前に大きく垂らす姿は女装好きか?と思ってしまうのだけど何故かその格好が男には酷く似合っていて自然な感じだった。

 

暫し茫然とその姿をまるで狐に摘ままれたかのように見つめているとその男が近付いてきた。

 

「オイ?」

 

「あ…な、何だ?」

 

声を掛けられて我に返る。

ビクビクと男を見返して返事を返すと別に捕って食いやしねェから安心しろよ、と笑われた。

それに安心しながらやはりこの男は人間じゃないのか?!!!と再度悲鳴を上げそうになった。

 

「お前、好かれやすいのか?」

「は?何が…?」

 

男の正体を聞いてもし連れられそうになったらどうしょう?!!と怖くて何も聞けずにいると男は土方を見つめながら目を細める。

独り言のような呟きだったから土方はよく聞こえなかったのでキョトンと聞き返すと男は土方の背後を指差して今度は土方に問い掛けた。

 

「だからお前、霊とかに憑かれやすいのか?いっぱい居るぜ」

 

土方は背後を振り返るが何も居ない。

前を向くと男は土方の背後を睨んでいて土方は今度は声を出して悲鳴を上げた。

 

「ぎゃぁぁぁああっ!!!!」

 

 土方は悲鳴を上げてその場に倒れた。

 

 

 

 

***

 

「ククッ…気絶する程苦手なのに好かれやすいンだもんなァ?」

「うぅ…やめろよ、風呂入れなくなる」

 

土方が倒れたあの後、驚いた男が池から社へ上がると土方の頭を膝に乗せて横たわらせると長い尾びれを守るように土方に巻き付かせた。

青冷めながらう~ん…う~ん、と魘される土方の頬を撫でてその手が冷たくて気持ちいいのか顔色の悪かった顔がスッと良くなった。

 

何とか土方が目を覚ますとこの年になって膝枕されたのに赤くなったり、男の長い尾びれを見て青くなったりと忙しなかった。

男はそんな一々反応の面白い土方を笑っていた。

 

「てか何…俺そんな憑かれてたのか…?」

 

体が重かったりしてたけどもしかして、それが理由?と恐る恐る男を見る。

男は煙管を燻らしながら妖艶に微笑んだ。

 

「ここまで連れてるのは俺も初めて見たぜ。よく今まで無事だったなァ、お前」

 

ひぃぃいっ!!!と自分の体を抱いて震える土方に一々反応が面白れェ。と男は口端を持ち上げる。

 

「笑うな!!俺にとっては死活問題なんだよ!!!」

「安心しろ、今はもう何も憑いちゃいねェよ。体軽いだろ?」

 

言われて土方は目を丸くすると、確かに…と自分の体を見下ろした。

来る前は肩が重かったが今は軽くて、逆になんかいつとより調子が良いといっていい。

何でだ?と首を傾げる土方に男はふん、と続けた。

 

「俺の領域に勝手に入って来たんだ、それ相応の対応をしてやったからな」

 

 

それはつまり退治、祓ったと…?

 

なんか普通に会話してたから忘れてて聞いてなかったがそう言えばこの男の正体って何?!!!

良く良く見れば耳がエラだし尾びれも普通の魚のようにヌルヌルしてなくて鱗の一つ一つが綺麗に磨かれたようにキラリと光を弾いていてさっき触れた時冷たくて気持ち良かった。けど

やっぱり人間じゃないし!!!!

 

「あ、アンタ一体…」

 

意を結して真顔で男に聞くと男は今更かよ、という顔をしたが口から煙管を離してニヤリと笑った。

 

「俺ァ蛟だ。ここの社の主だよ」

 

ゆらりと尾びれを揺らしながら言う男に土方は今日何度目か知れない目を大きく見開いて驚いた。ええぇええッ?!蛟様って存在してたのか…?!!

ポカーンと間抜け面を晒す土方の反応はやはり久しぶりに人と関わった男には酷く面白かった。

 

「は…?え?こんな目付きの悪い神様がいて良いのか…?」

「祟るぞ」

「ごめんなさい!」

 

失礼な子供を睨むと一瞬にして頭を下げて謝った。元々祟るつもりなんてないが男は土方の変わりようにもう苦笑いするしかない。

 

「ククッ…冗談だ」

「…え、と…蛟、様?」

「…高杉晋助だ。蛟というのは俺という存在のシンボルみてェなものだから晋助で良いぜ」

 

神様を呼び捨てにして良いのか?と躊躇う土方だが男、高杉が許すと言うから晋助と呼ぶ事を了承した。

 

晋助が異例だと思うのだけど神様ってなんか畏まった感じでこんな気軽に話せる者じゃないと思ってたのになんか想像した感じじゃなかった。

 

土方が隣に座る高杉を見下ろすと隻眼の碧の目と視線があった。

ドキッと何故か胸が高鳴るのを感じて慌てて視線を逸らすと高杉がそろそろ、と切り出した。

 

「十四郎、暗くなる前に帰りな」

 

来た時はまだ青空が広がっていたが既に日没前になっていて後数分もすれば暗くなってしまうだろう。

随分と長居してしまったから母も心配している筈だ。土方は頷いて立ち上がるとはた、と動きを止めて高杉を見返した。

 

「俺、名乗ったっけ?」

 

何で俺の名前知ってンだ?と不思議そうな顔をする土方に高杉は当たり前だろ、と返す。

 

「小せェ頃から高校生になってまでも供え物を置きに来るのはお前くらいだ。知っていて当然だろ」

 

まさか小さい頃に通っていたのを覚えていて今まで見ててくれたというのか。

神様はいつも傍で見守ってくれている、その祖母や母の言葉が迷信とか願掛けみたいな嘘ではなく本当の事で知らず土方の胸を熱くして言葉に詰まった。

 

「そ、か…」

 

土方が小さく笑うと高杉は目を見張る。

その屈託のない笑顔が最近余り元気のなかった土方の久しぶりの笑みだった。

やはり出て来て憑いてるモンを祓って良かった、と気に掛けていた子供の笑みを見て高杉も小さく笑みを浮かべた。

 

土方の頬に触れて額に唇を落とすと土方はえ、何だ?と頬を赤く染めた。

これが普通の男性だったら即効ぶん殴っていたが高杉は神様と土方の中には既にインプットされていて殴るという選択はなかった。

 

「もし明日また体が重そうだったらまたここに来な、祓ってやる」

 

忘れていたのに思い出した土方は青くなったが何かあれば此処に来たら良いと言う高杉に甘える事にして家に帰ろうと踵を帰した。

 

橋を渡って表の神社に戻る前に振り返って社を見ると高杉はさっと同じ位置に変わらず座っていて見送ってくれている。

手を振ると振り返してくれた。着物の袖が長くてその手は見えなかったが。

 

ただそれだけで変な気分でくすぐったい気持ちにムズムズしながら今度こそ土方は足を動かして家へと帰った。

 

 

END