◆杉にゃんとトシにゃんの日常!
ポカポカ。
ひらひら。
キーンと肌を刺す冬の厳しい寒さが薄れて行き、太陽が降り注ぐ時間が増えてきた春の今…桜の蕾が開花して可愛らしい花びらがひらひらと風に乗って気儘に散っていく。
陽射しが暖かく、街行く人たちの姿格好は厚着から動きやすくゆったりしたものに変わっていた。子供たちも元気よく駆け足で走り回ってる。
そんな暖かな良い天気に高杉は、酒を片手に一人桜の大きめの枝に座って花見をしていた。
機嫌が良いのか紫紺の毛並みの良い長いしっぽがゆらりゆらりと左右に揺れ、頭の上の三角の可愛らしい片耳が時折ぴくっと動く。
鋭いその碧の目も柔らかく、風に揺れる桜を眺めている。
風流をこよなく愛する高杉は季節によって様々な花を咲かせるこの桜の樹から眺める景色が好きだった。
「晋助~!!」
酒を口に運びながら体を倒して上手くバランスを保ちながら枝に寝そべってると下の方から子供の声が呼んでくる。
見下ろすと愛しい子猫が駆け足でこっちに近付きながらその可愛らしい顔を膨れさせていた。
どうやら寝ている間に出て行ってしまった事を怒っているみたいだ。
爪で軽く引っ掻いて飛び上がるとその小さい体でひょいひょいと身軽に木の上を登って来る。元々猫だから枝を伝うのも流石に上手くてあっという間に高杉の所まで辿り着いた。
「晋助!置いてくなんて酷いぞ!」
寝そべる高杉の懐に入りその顔を蒼い目で睨み付けて文句を言うのは高杉と同様に元は子猫だったが坂本の持ってきた薬によって擬人化した高杉の愛し子の土方十四郎だった。
高杉は怒る土方に微塵も怖がる事はなかった。怒る十四郎も可愛いなァ…と頭で思いつつ登って来る時に付いたのか頭に桜の花びらが幾つか貼り付いていたのを取ってやる。
「オメぇが気持ち良さそうに寝てたから起こすのも悪ィと思ったンだよ、そう怒るな」
「でも…オレは晋助と一緒に居たかった」
自分を思って起こさなかったのは嬉しかったが高杉が大好きな土方はそれでも不満だった。
一緒に居たいから気にせず起こしてくれれば良かったのに、と花びらを取ってくれる指が不意に耳に触れるとぴくっと反応させつつ唇を尖らせると高杉は小さく笑みを浮かべて微笑んだ。
「今度は起こしてやるから」
高杉がそう約束すると土方はぱぁっ!と嬉しそうに表情を綻ばせると高杉に顔を近付けて小さな鼻を高杉の鼻とつん、とくっ付けて触れさせた。
猫同士の挨拶でよく見る光景だったが成人男性の姿である高杉と子供の姿の土方がやると大変ほっこりする光景だ。
そのままスリッ…と頬を高杉に擦り寄せて土方は高杉に甘える。黒いしっぽが嬉しそうにパタパタと揺れてる。高杉も土方の頭にちょんと立つ耳にちゅっと口を寄せたりと全力で甘やかしている。
「ふにゃ~」
耳や頬、瞼の上と顔中に唇を寄せる高杉に土方はくすぐったそうにくすくすと声を上げる。しかしその表情は大変満足気で嬉しそうだ。
桜花びら舞う中で高杉と土方はお互いを見つめながら幸せそうに笑っていた。
END