mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆愛される世界(高土)

 

 

 

 

いつもと変わらない1日がまた今日も始まった。何も変化は起きず、同じ事を毎日毎日繰り返すだけの日常。

 

そろそろ飽きてきた。

 

そう土方が思っていた時だったのだ。

夜兎高校の頭である神威が高杉にケリを着けて果たし状を送り銀魂高校に殴り込んできたのは。

他の不良からは忌み嫌われてる高杉たち一派は人数がたったの5人でそんな少数で何十人もいる夜兎工の奴等には太刀打ち出来ないから同じクラスで仲間の僕らが加勢をしましょう!とメガネが声を上げたのには心底よく言ったァァ!!!って褒めたくなった。

 

それ程に土方は暇を持て余していた。

そして高らかには言えないが高杉を助ける理由は他にもあった。

 

はたして夜兎工の奴等と応戦する前に高杉一派に加勢して思う存分暇を潰してやり、高杉と神威が本気で殺り合う前に銀八がその間に入り、お前らが俺を一発殴って倒れなかったら二人とも引け、という無謀な賭けに出た。

神威の重い一発にも倒れなかったら銀八は高杉が握った真剣を見てパニクって青ざめたが腹に隠していたジャンプで無傷だった。

ハラハラする場面は多かったが結果的には銀八が勝利を納めて高杉と神威の勝負は終わった。

 

神楽と神威の父である海坊主が神威たちを迎えに来てやっと3年Z組の皆は安堵の溜め息を吐いた。殆どのものが大きな傷もなく済んで良かったと思っていたのだ。

 

海坊主が神威に向かって怒り心頭で何かと怒鳴っていたが神威は面倒くさそうに笑っている。

高杉は興が冷めたのか真剣を収める為に放り出した鞘を拾うと刃を収めた。

取り合えずは海坊主の説教が終わったのか神威ははいはい、大人しく帰るから落ち着いてよ。毛がないのにこれ以上ハゲたら知らないからね、と嫌味を忘れてない。

それに海坊主が誰がハゲだぁぁ?!!!って神威を睨み付ける。

 

「まったく…こっちじゃあ好き勝手出来ないなんてつまらないなー」

 

そう言う神威は高杉に近付いて行く。

周りがまだ喧嘩をするつもりか?!と固唾をのんで見守っていると高杉は近付いて来る神威を警戒もせずただ黙って見ていた。

 

後一歩で手が触れる所で神威は立ち止まった。

高杉はただ神威を見つめる。思わずおい、と声を上げそうになったのは誰だったか、神威が両腕を上げて高杉に伸ばしたのだ。

 

誰もが神威が高杉を殴る、と思っていた。

しかしそんな事にはならなかった。その場にいる者全員が目を点にして驚いていた。

 

神威が、伸ばした腕で高杉を抱き締めたのだ。

 

「ぇ…ええぇえぇっ?!!!!」

 

一体どういう事?!!!!

誰の頭にもそう思っている筈だ。土方も固まってポカーンと間抜けな面を晒していた。

 

「シンスケ~。昔は色んな星を回って楽しかったのにこっちは喧嘩するにも色々と面倒くさいね」

 

高杉を抱き締めたまま顔を横に反らして神威は高杉を見た。高杉はされるがままにふっ…と小さく笑みを浮かべた。

 

「…の割りにはオメぇは好き勝手暴れてるみたいだがな?」

「向こうが掛かってくるから遊んであげただけだよ」

 

丸でさっきまでの喧嘩が嘘かのように高杉と神威は普通に会話をしていた。

 

密着したままで。

 

困惑していた周りは一体これをどういう気持ちで見たら良いのか分からず固まっている。

高杉は自分を抱き締める神威の腕を外そうとはしていない。好きにさせている。

 

しかし黙っていられなかった者が二人に近付いて行った。

 

「土方さん?」

 

沖田が二人に近付く土方に気付いて訝しげに声を掛けるも聞こえてないのか土方はそのまま足を進めた。

 

そして未だに高杉を抱き締める神威をベリッと外して高杉をグイッと自分の方へ引き寄せた。

そして神威をギロッと睨み付けて、

 

「…てめェェ!いつまで人の兄弟に抱き付いてンだァァ?!!!」

 

と、叫んだ。

 

 

 

 

 

「兄弟ぃぃ?!!!」

 

神威が高杉を抱き締めたのにもひどく驚いたのに土方が高杉を神威から取り返して兄弟と言ったのにはまたも驚かされてザワザワと周りがまたざわめいた。

 

そんなの聞いた事なかったのか高杉一派の面々も、風紀委員の面々も驚いた表情をしている。

 

驚く面々を気にする暇もなく土方は高杉を後ろに庇い神威から遠ざける。睨み付けるその様はまるで高杉の忠犬のようだった。

 

「えー…?シンスケ、コイツと兄弟なの?」

 

キョトンと神威が土方を指差しながら動揺もなく無表情の高杉を見ると高杉は肩を竦めて頷いた。

 

「俺の弟だ」

 

嘘でしょう?何かのドッキリ?!!と僅かに期待をしていたが高杉までも兄弟というのを否定をせず、逆に固定したので高杉と土方が兄弟だという事実に疑う余地もない。

 

どうやら腹違いの兄弟らしく今まで別々で暮らしてたらしいから苗字も住所も違うようだったのだ。最近になって高杉の母親が病気で伏せってしまい入院してるらしくて高杉は土方家で暮らしているらしい。

けれど、学校の秩序を守る風紀委員と不良の頭である高杉は犬猿の仲ではなかったのか…?ボンタン狩りの時も争っていたと聞いている。そんな二人が兄弟…?疑問に思ってるとそれを高杉が代わりに答えてくれた。

 

「十四郎、兄弟だとバレると冷やかされるだろうから秘密にするってお前言わなかったかァ?」

「言った!けどなぁ、兄が抱き締められてる所を見て黙ってられる訳ねェだろ。ざけんな、殺すぞ」

 

お前が秘密にするって言ったのには自分で暴露してどうすんだ?と土方を呆れたように見るとそうは言ってもなぁ!と土方は高杉を振り返って噛み付いた。

しかし高杉はどことなく気にしていない感じだった。

 

「あァ?あのガキは昔からあぁだぜ?」

「…はぁっ?!それじゃあ何か?!俺が汗だくで街を走り回ってる間ずっとあのガキを甘やかしてたって言うのか?!!」

「…甘やかしてねェ」

 

江戸に居た頃から神威はあんな感じだと話をすると土方は眼を見開いてにわかに信じがたいと驚愕する。

鬼兵隊と春雨が手を組んで共に行動をしていた事は分かっていたがまさか昔から神威は高杉にあんなにベッタリと甘えて密着していたのか。

 

しかし高杉は甘やかしていないと言う。

けれど先程は嫌な顔もせず好きにさせていたのを見ていた土方はそれが信じられず疑いの眼を高杉に向ける。

 

「さっきのは何だったんだよ。あ"ぁ?」 

「あー…俺が可愛いのはオメぇだけだ、十四郎」

 

今にも殴り掛かって来そうな雰囲気で睨み付けてくる土方に言い訳するのも面倒になったのか高杉は僅かに困った表情をして土方の頭をよしよし、と子供にするように撫でた。

端から見ればその光景は我儘を言う弟を宥める兄という、極普通の兄弟だった。

撫でられて土方は目を細めて表情がゆるりと柔らかく綻んだ。

 

けれど黙ってられなかったのか、神威が高杉に近付こうとしたのだがやはり土方が邪魔をする。

 

「ちょっとシンスケ?それどういう事かな?」

「そうだ!!ちょっと待て!!高杉の事をよく分かっている幼馴染みの俺の方が晋ちゃんに可愛がられている!!」 

「ヅラァァァ!!!てめェも何を張り合ってンただぁ?!!!」

 

いつもあどけない笑顔の神威が青い眼を細めて俺の事を一番可愛がってただろ?と高杉を責めるのにそこへ何故か今まで関係のなかった桂が手を上げながら土方を掻い潜り高杉の右腕を掴んでそのまま腕を絡ませた。

 

銀八がややこしい事になっているのにお前まで参加してどうする?!!!とシャウトするも桂は土方と神威とで睨み合っていた。

 

「ちょ、ちょっと待つッスよ!!!兄弟だが幼馴染みだが宿敵だが知らないスけど晋助様は私らのモンッスよ!!!渡さないっス!!」

 

「引っ込んでろ猪女!晋助は俺の兄だから必然と俺のモンなんだよ」

 

衝撃的な事実が発覚して固まってた高杉一派であるまた子が聞き捨てならない!と睨み合う土方、桂、神威の輪の中へと突進した。

その後を河上と似蔵も続いた。

 

「屁理屈言うんじゃないッスよぉ!!この間までは晋助様に因縁付けてきたクセになんスかその変わり様は!!!晋助様は渡さないもん!!!」

「晋助、晋助の真の友は俺でござろう?」

「………。」

 

何故か周りが騒然としてきて高杉は一体どうしてこうなった?と無表情のまま考えていた。

 

 

 

 

 

「え…?何これ、喧嘩の次は高杉争奪戦?何でアイツあんなモテてんの…?」

 

というか土方くんってブラコンだったの…?

 

銀八は高杉を離さない土方と黙ってされるがまま大人しくしてる高杉を眺めて一人傍観していた。

ツっ込んでたらキリがないし誰も聞いてないから諦めたのだ。

 

高杉は取っ付き難いし酷薄な笑みが怖いとか冷徹非道だとか、不良なだけで嫌われていると思っていたら実際はそうじゃなかったらしい。

高杉はかなり愛されているようだった。

 

そういう自分も先生を抜きにしても憎らしいと思っていてもやはり高杉の事が大事だから一人にはさせられないと思っている。

昔から高杉は周りが惹き付けられる何かを持っているようだ。本人にはその自覚がないようだけどな。

 

銀八はくすりと笑みを溢すと騒ぎを聞き付けたのか高らかに笑いながらわしも晋ちゃんが大好きぜよー!!と高杉争奪戦に参加する坂本と腕に引っ付く桂を気持ち悪イ、と蹴り上げる高杉。ざまぁみろ、と勝ち誇った顔で桂を見下ろす土方達を眺めた。

坂本がおまん、晋ちゃんの弟なんか?じゃあ仲良くするきに!と肩を組もうとすると高杉がその手を叩き落として冷やかな視線を向けて十四郎に触んな黒モジャ。と低い声で脅す。どうやら高杉も重度のブラコンらしい。

 

向こうでは素直に愛せなかったがこっちでは手を離すことなく皆素直に高杉を愛せるみたいだ。

 

「良かったですね、銀八先生」

 

いつの間にか隣には神楽と新八が並んでいた。同じように高杉争奪戦を眺めながらその顔は楽しそうだった。

銀八が嬉しいと思っているのを分かっているようだ。

 

だから銀八もあぁ、そうだな。と冗談を言うことなく素直に頷いた。

 

高杉が愛されている。

 

それがただ、自分の事のように嬉しかった。

 

 

 

END