◆宇善
前に、宇髄さんと付き合う時に炭治郎や煉獄さんに報告した際に煉獄さんから言われた事がある。
「宇髄は優しい男だ。君を大事にしてくれるだろう。だけど、あの男は闇を抱えている、何があろうと君を絶対に逃がしはしない」
だからそれが嫌なら宇髄と付き合うのは止めた方が良い、君も宇髄も報われない。
煉獄さんからそう忠告を受けたのを思い出した。
あの時は煉獄さんは一体何を言ってるんだろう?宇髄さんが闇を抱えているのなんて、過去に自分の部屋でもある美術室を芸術は爆発だ!って叫んでダイナマイトで破壊した時から分かっているよ、って思っていた。
甘かった。
宇髄さんが抱えてる闇は目視で分かる程に浅くなかった。とんでもなく深かった。
それを何故煉獄さんが分かっていたのかは分からないけど俺は、もう逃げられない事を知っている。
今宇髄さんの闇の深さを知った所で既に遅いのだ。
チャラッ、と軽い音を立てて足首にまとわりつく金属の冷たさが一瞬思考を鈍らせた。
柔らかなベッドが起き上がるのにつれてスプリングを利かせて体重で軽く沈んだ。
顔を上げると視界は真っ白だ。カーテンを閉め忘れてしまったのか窓から日が差しているが冬の寒さで窓は曇っていて景色までは見れないが白く染まっていた。
どうやら肌寒く感じたのは雪が降っていた所為だったようだ。
冷たくなってしまった剥き出しの肩をさすりながら傍らにあった大きな上着を軽く肩に羽織ってベッドから足を下ろして窓際に近付いた。
曇ってた窓ガラスを手で軽く擦ると擦った部分だけ景色が見えるようになった。
結構降ってるみたいで少しずつ積もってるようだった。車の上や塀など軽く雪が積もっていて後少しもすれば雪を払うのに苦労してしまうだろう。
ぼんやり外を見ているとコツコツと足音が聞こえてきた。
あぁ、帰って来たんだ…。
ガチャッと鍵を差し込む音が聞こえると次いで鍵を回してドアが開く音が続いて聞こえてきた。
振り返ると宇髄さんが部屋に入ってきた所だった。建物の中に入るまでに雪を被ったからか所々に雪を纏わせていた。
「おかえりなさい」
コートも脱がずに近付いてきた大きな男を見上げて頭に手を伸ばす。膝を少し曲げて屈んで抱き締められるのに頭に被っていた雪を払ってやった。
ただいま、ゆったりした声で宇髄さんはぎゅうぎゅうに抱き締めてくる。
「外、雪降ってたんですね」
「おぅ。結構積もってるぞ」
雪だるまとかまくらを作ってる奴が居たよ、と楽しそうに言う宇髄さんを見上げて善逸は口を開いた。
「宇髄さん。外行きたい」
すると楽しそうに笑ってた宇髄は打って変わって表情を無くして善逸を見下ろした。
「善逸」
無機質のような声だ。宇髄のように顔が余りにも整っているとその表情を無くした時の迫力が凄いのだ。
表情を無くした宇髄は善逸の肩を痕が付くんじゃないかという程に掴むと顔を寄せた。
「善逸。それは許さないって言ったろ?」
有無を言わせないと深い闇を宿した色の瞳が善逸を見つめる。善逸はそんな宇髄にゾクリと背筋を這う冷たい汗に体を震わせたけれど気付かないフリをしてそっと目を伏せた。
「…はい」
善逸が頷くと無表情からにこりと宇髄は笑顔を見せると善逸を抱き上げてさっきまでいたベッドに向かった。
すると善逸の足に絡み付いていたもの、細い鎖が音を立てて後を追った。
善逸は宇髄によって監禁されていた。
END