◆名前
本人は聞かれるとそぉか?と首を傾げるだろうが、誰が見ても皆が頷くだろう。
自覚してないのは本人だけだ。
今日も今日とてスクアーロは執務室の来客用のソファーに腰を掛けその膝にXANXUSが頭を置いて横になって目を閉じているがどうやら眠っているようではなかった。
スクアーロはXANXUSの黒髪を右手で滑らせ、先程からずっと飽きもせず頻りにサラサラとすいている。
その表情は端から見ればとにかく甘い。
ヴァリアー随一と謳われる剣士と言われても誰もが目を疑って信じはしないだろう。
今なら隙だらけで刺客が来るには絶好のチャンスだろう。(しかし腐ってもボスとその副官は強いのだ、ボスとの時間を邪魔されたとスクアーロに返り討ちに遭うだろう)
それほどスクアーロの表情は柔らかく頬が今にも垂れ下がらんばかりに弛められている。
空気がやたら甘い。
いつもは不機嫌にシワを寄せている筈のXANXUSですら眉間のシワが寄せられておらず心なしか逆に機嫌が良いと見える。
「XANXUS…」
小さく、しかしハッキリとした声で見下ろす男を呼び掛ける。
すると目を閉じていた男がゆっくりと瞼を開き紅い目を覗かせると見下ろしてくる白銀の男を見つめた。
その紅い目が声もなくスクアーロを呼んだ。
紅い目が見つめてくるのにスクアーロは嬉しそうに小さく笑う。
特に用もないのだが名前を呼びたくなった。
それに応える男にもスクアーロはだらしなく笑ってしまう。
呼んだくせに用もないのにいつまで見つめてくるのにXANXUSは仕方無さそうに小さく息を吐く。
しかし怒りはせず、肩から流れる白銀の髪を束で掴み指を絡ませながら口許に持ち運ぶとそっと大切な宝物のように口付ける。
XANXUSは口に出して言わないもののスクアーロのこの触り心地の良い髪を大変いたく気に入っている。
日常でスクアーロが書類と向き合っている時、仕事で向かい合って打ち合わせをしている時、外でデートをして飲み物をテイクアウトをして待っている時など、XANXUSは気が付けば触られる距離にスクアーロがいる限りいつまでもスクアーロの髪をずっと触って愛でてる程、好んでいた。
スクアーロもその事に気が付いていてXANXUSが髪に触れる度に胸の内がきゅんっ…と、締め付けられて嬉しくて苦しくなるのだ。
昔は切りたくてしょうがなかったのに、今では切ることなんて出来やしない。
昔は壊して殴るしか出来なかった傷だらけの大きな手は今では優しく壊れ物に触れているかのようにスクアーロにそっと触れてくる。
月日とは恐ろしいものだ。この男がひどく愛しい。
「XANXUS」
また呼んだ。
二人の視線が絡まる。
するとスクアーロはこうするのが当然のように、誘われるように身を屈めるとXANXUSの厚みのある唇へと口付けた。
触れるだけのキスだ。
しかし触れるだけのそのキスでスクアーロは好きという気持ちが溢れて出して泣きそうになる。
堪らないとばかりにXANXUSに何度もキスをした。XANXUSは髪から手を離し、後頭部に手をやると口付けを更に深くさせていった。
…甘い。
スクアーロの呼ぶXANXUSの名も、
XANXUSのスクアーロを見つめる紅い目も、
なにもかもが……甘い。
end
何これ()