mikotoの呟き

小説(◆マーク)とお知らせや近況報告

◆渇望1(高土♀)

※現パロ

※高杉はとある会社の社長でにょた土方さんはとある会社の副社長

※先の話では沖神の描写が御座います

 

 

 

 

 

 

 都内のホテルで開かれたお披露目パーティー。 

きらびやかに会場ホールを照らすシャンデリアの光を受けてシャンパングラスを片手に持ち笑顔で人と話す女たちのドレスを際立たせている。男たちはそんな女たちの傍らに立ちエスコートしている。

 

一通り何十人もの役人との挨拶を済ませて高杉は一息着くために桂と坂本に一休憩してくると伝えてからホールの中を後にして人の居ないバルコニーへと赴く。その背中を万斉が追い掛ける。

 

余り人付き合いが得意ではない高杉は愛想笑いばかり浮かべていた所為か知らず知らず針積めていたのか一人になって気分が落ち着いた気がした。

 

さっきまでは仕事の事ばかりを考えていたのだが一人になって他の事を考える暇が出来るとずっと頭から離れない人が居た。

会場の広いホールの中でも一際自分の目を惹き付けて離さなかった。

仕事の対話をしてた時も時折視界に入ってきて視線が自然と寄せられた。気の所為ではないと思うが何回も目が合っていた。

近付こうにも仕事で来てる為まだ会わなくちゃいけない重要な人物が多くてそれ所ではなかった。

こんな時に何故自分が社長をやっているのかと投げ出したくなる。

 

そうこうしてる内に見失ってしまったのだ。

酷く残念な気持ちになったがあれだけ自分の視線を奪ったのだ。他の人間も奪われたに違いない筈だから誰かに聞けばどこの人間かは簡単に知れるだろうとその場は諦めた。

 

こんなにも一人の人間を気になったのは初めてなのだ。 

簡単に諦めるような高杉ではない。

 

「晋助、待て。そこだとホールから遠い。どこへ行く?」

「休憩」 

 

万斉の制止の声も気に止めずに高杉はその場を離れる。

言うことを聞かない高杉に万斉は仕方なそうにすると黙ってその背中を見送った。

共に行きたかったがまだやることがあったし高杉が一人になりたそうにしていたからそっとしておく事にしたのだ。

 

 

 

***

 

 ・side土方

 

どこもかしこも騒がしい…。

愛想笑いに頬が若干痛くなりながら土方がそう思っていた。

 

 今日このパーティに出たのは新しく立て直したS.S.K(真選組)会社の紹介、それと社長のお披露目を合わせて来たのだがその肝心の社長である近藤が挨拶を少し済ませてから以前に一目惚れしたと騒いでいた女を追い掛けている。

 

何の為にこんなパーティに出てるんだと呆れた土方だったが近藤の事になると甘くなるから好きにさせていた。

 

その代わりといって少し休んでくるといってホールから抜け出した。

 

濃い碧のドレスが歩き難くて幾度か舌打ちしながらバルコニーに向かう。

あそこなら人もいないだろうし、一服出来る筈だ。

ポーチから煙草を取り出し一本箱の底を軽く押し出して一服する準備をしながらバルコニーに足を踏み入れようとした時、既に先人が居ると気付いた土方はなんだ、先客がいたか…じゃあ別の所に行くか。と溜め息を吐きながら踵を変えそうとしたがその後ろ姿に見覚えがあり、足を止めた。

 

見間違える筈がない、その後ろ姿は挨拶回りの時に何度も目で追い掛けた男の背中だ。

 

 風に揺れて紫紺の髪が靡くその様が頭に焼き付く。まるで映画のワンシーンのように靡く髪や指に挟んだ煙草を口元に運ぶ動きがスローモーションに流れて見える。

 

綺麗な光景だった。

 

 無意識の内に足を踏み出していたのか、カツッとヒールの甲高い音が響いてしまった。

男に近付きたいと、触れたいと思ってしまった。

人の気配に気付いて男が振り返ってくる。

 

そして、僅かに目を見開いた。

 

 

何故ならそこには高杉がずっと目で追い掛けていた女が立っているからだ。

蒼の瞳が濡れたようにキラキラしており月の光を受けて滑らかな白い肌が青白く発光してるようで眩い。

 

二人は一歩も踏み出さず、お互いをじっと見つめた。互いの姿を相手の瞳で見つめながらまるで腹の探り合いでもするように相手の瞳の奥を覗こうとしている。

しかしそんな永遠とも、一瞬ともいえる時間は高杉が動いた事によって終止符を打った。

 

高杉が掌を上にして手を伸ばしたからだ。

土方はその手を見つめ、高杉を見るとその表情は笑みを浮かべていた。

土方は無意識に踏み出していた足を今度は自分の意思で動かし、高杉の手に自分の手を乗せて一つしか開かれてない碧の瞳を見上げた。

 

土方が深い蒼の瞳を持っているとすれば、高杉の碧の瞳は透き通っている。

ずっと覗き込まれたら自分を暴かれるようで土方はぞくっと快感に似た畏怖を感じた。

 

けれどそれで本望だと思っている。

二人は互いに見つめ合い、磁石と磁石が引き寄せ合うように顔を寄せてキスをした。

 

触れ合うキスを一度。

一度顔を離し、互いの顔を見つめ何かを確認するとまた顔を寄せた。
そして今度は触れるだけのキスではなく次第に激しく貪り食らうように応酬する。

 

「…んッ」

 

土方の細い腰に腕を回して引き寄せ、高杉の首に右手を回して髪の間に指を滑らし左手を背中に回して添える。

端から見たらそれは互いを逃がさないように拘束してるように見えた。

 

奪うような激しいキスを繰り広げてから数分、やっと顔を離すと二人は弾む息を整え高杉が今日泊まる筈の最上階に取ってあったスイートルームまで移動する。

 

このまま離れる、そんな選択肢は最初から二人にはなかった。 

 

 

◆嫉妬(高土)

 

 

「ッ…痛ェ…」

 

高杉は切れた口端に滲んだ血を指で拭いながら顔をしかめた。

 

天照院高校の番長である朧から受けた打撃は凄まじかったし身体のあちこちが鈍い痛みで軋んでいる。

 

あちこち喧嘩を吹っ掛けた覚えはないが何故こうも色んな奴等から狙われるのか分からない。

弱ェ奴等なんか眼中にねェし最強という称号の為に他校と殺り合うのにも興味がないしどうでも良い。

夜兎工業高校の神威にも因縁付けられてあわよくばと狙われる。(今はこっちの喧嘩を勝手に買って周りを跳び跳ねているが。)

 

全く、随分と恨まれたもんだなァ…。

 

 

「全くだ。お前は何でそう色んな奴から狙われるんだ…」

 

ソファで重い溜め息を吐く高杉の後ろからマグカップを2つ両手に持って土方が現れた。

高杉の隣に腰を掛けてコーヒーが淹れられたマグカップをテーブルに置いて拗ねたように眉間にシワを寄せている。

 

土方は何でもかんでも一人で背負おうとする高杉に腹を立てていた。

助けを乞うのが嫌い、周りからの干渉を受けるのを良しとしないのは分かっているつもりだが今回の事に関してはそうも言ってられない。天照院高校の奴らの相手は一人だけで出来る筈もないのに勝手に一人で行ってしまった高杉に土方は協力くらいさせても良いだろうが、と心の中でごちる。本当は止めるつもりだったがそれは出来ないと分かっていた。

 

朧に好き勝手殴られる高杉を見て本当に気分が悪かった。踏み出した足を銀八が止めなかったら高杉を奪うつもりだったのに。堂々と告げる気はないが自分の男をこんな傷だらけにしてくれて頭に来るというもんだ。

 

ムスッと拗ねている土方に高杉はくすりと小さく笑い、土方の肩に凭れた。

 

「好きで狙われてる訳じゃねぇンだけどな?」

 

見上げてくる高杉を横目に見下ろし今度は土方が溜め息を付いた。

朧ではなく最後に銀八が殴った僅かにまだ腫れている頬を撫でて土方は高杉にすり寄った。

 

「お前は本当…色んな奴にモテ過ぎて俺が見張ってないと駄目だな」

 

神威にも朧にも…銀八にも高杉は渡さねェ。

 

土方は頭に高杉を付け狙う3人の顔を浮かべながら固い決意を目に宿らせた。

そんな土方を見つめて高杉は目をスッと細めると顔を近付けた。

 

気付いた土方が同じように顔を寄せると二人は触れるだけのキスをして目を合わせふっと微笑んだ。

 

 

 

END

 

◆宇善♀

 

 

 

「お前、そんなに男に貢いで騙されて…懲りない訳?」

 

落とされた冷ややかな声に青空に良く映える黄色の髪が動くにつれて揺れた。

見下ろす深い色の目に負けじと茶色の丸い目が見上げた。

 

「…先生には関係ないじゃないですか」

 

「お前、周りになんて噂されてるのか知ってるのかよ」

 

そんなの、知ってるよ。

 

善逸はフイっと視線を逸らして屋上から見える景色をじっと見下ろした。

 

世界はこんなにも鮮やかで綺麗なのに、何でウチはこんなにみすぼらしいんだろう…。

周りが噂してるって、私が誰にでも足を開くビッチ、でしょ。まぁ、仕方ないよね、私ってば一言好きって言われたらそれを信じて何人の男と付き合った事か知れない。

 

でも仕方ないじゃないか。

私は孤児で物心ついたときから親が居ないンだ。聞いた話に寄ると何か恨まれて殺されたらしいからもしかして私まで殺されてしまうかもじゃん。そうなる前に、人並みの幸せを送りたいんだよ。だから好きって言われれば信じてお金が必要だからと有り金全部持ってかれて騙されても好きって言われると嬉しかった。

でもこの前付き合ってた彼氏がどうやらヤバい所でお金を借りてたらしくてその保証人に私の名前を書いたらしい。

何も知らなかった私は学校の帰りで引き取ってくれたお爺ちゃんの家に帰ろうとしてたら後ろから声を掛けられて黒いスーツにガタイの良い男達から彼氏の借金を返せと脅された。

 

でも、彼氏に有り金全部持ってかれた私がお金持ってる訳じゃないしましてやその借金の額が100万以上で到底払える訳じゃない。

 

払えないと言うとじゃあお前の体で払ってもらおうか、って連れ去られそうになったのを、輩先生こと美術教師の宇髄先生が助けてくれたのだ。

 

証人した訳でもねぇし何も知らなかった訳だからその借金をコイツが返す必要はない、とスーツの男達を追い払ってくれたのだ。

 

それはもう怖かったわ。

何で私がこんな目に合うの?!ただ幸せになりたいだけなのに不幸過ぎない?!!って泣き喚いて宇髄先生を困らせたのは記憶に新しい。

でもこの人いつも意味もなく意地悪してくるから好きじゃない。顔もくそイケメンで女にキャーキャー言われるのが当たり前な顔してるのも気に入らなかった。こんな私の事もただのそこら辺にいる子供と思ってるんだろうなと思ってたしそれも別にどうでもいいけど助けてくれたのは本当に感謝した。

 

あんな怖い思いをしたのだから彼氏と別れろと親友の炭治郎に激しく怒られたけど折角私の事を好きって言ってくれた人と別れるのは嫌だった。けど、彼氏は行方を眩ましてどっかに消えてしまった。あの男達から逃げたのだろう。

 

…また幸せが私から遠退いてしまった。

 

 

大事な親友達が居て、こんな私でも引き取ってくれたお爺ちゃんも居て…贅沢過ぎる程の幸せだと分かっているんだ。

だけど、こんなに私を思ってくれる人がいっぱい居ても胸のどこかにいつまでも穴がポッかり空いてる。

この穴を埋められるのは何だろうってずっと探してるんだけど見つからないんだ。彼氏が出来れば一時的にその穴の隙間は塞がったけど、しばらくするとまた穴が広がる。

 

いつまでも塞がらない穴はまるで役に立たず弱く汚い私みたいだ。

 

「…お前、泣いてんの?」

 

ちょっと色々と情緒不安定みたい。

いつの間にか頬に涙が流れてて目の前が霞んでいた。見られたのが恥ずかしくて慌ててゴシゴシッとセーターの袖で拭うと立ち上がる。

 

「な、泣いてませんっ…!」

 

背を向けて屋上から立ち去る。

このまま傍にいると、また泣き喚いてしまいそうだったから。

 

だから気付かなかった。

宇髄先生が悲しそうな顔で善逸の背中を見送ってたなんて。

 

 

 

 

 

**

 

「あ!善逸!!良かった見付かった!」

 

善逸が屋上から教室に戻ると後輩である親友の一人である炭治郎が少し焦った表情で善逸を見付けると慌てて駆け寄る。

善逸はそんな炭治郎の様子に首を傾げるとどうしたの?と問い掛けた。

 

「善逸を探してる先輩がいてさっきまで騒ぎになってたんだ!」

 

「えっ?私を?誰っ…?」

 

教室の中を覗くと炭治郎が言ってたようにさっきまで誰かが暴れてたのか机や椅子がいくつか倒れておりまだ残っていた数人の生徒が倒れてる机を立たせている。

女子は怖かったのか数名泣いており友達とかに慰められている光景があった。

 

一体誰が…?こんな暴れる程私を探してる人って誰?え?私なにかした??恨まれるような事はしてないのに…!ガタガタと怯えて震えて善逸は炭治郎に抱き着いた。

 

「えっちょっ、怖っ!!?やだやだぁ!!一体誰だよ!!炭治郎私を守ってーっ!!!」

「善逸、心当たりはないのか?」

 

力一杯抱き付いてくる善逸の背中を撫でながら炭治郎が問い掛けるが善逸には全く心当たりがなかった。

あるとすれば借金をした彼氏だけだがその彼氏は追われている身の筈で学校には来られない。

だから善逸には全く心当たりがなくて小さく頭を左右に振った。

 

「そうか…」

 

炭治郎が心当たりがないのならあの先輩が誰なのか知りようがないね、と途方に暮れた。

あっちは善逸の事を知ってるからどこからでも来るけどこっちは知らないから何かあった場合、対処出来ないからと炭治郎が言うと善逸は涙をぼろぼろっと流した。

 

「え、嘘でしょ?何、私ってば狙われてるの?!嘘過ぎない?!嘘って言って!!!」

「だって善逸、現に教室が凄い事になってるだろ…?こんなになる程探してるんだから相手はまだ諦めてないと思うぞ」

「ひぃぃーーッ!!いやぁーーッッやだぁ!炭治郎そんな怖い事言うなよぉ!!」

 

炭治郎の肩をガクガクと揺らしてながら泣き喚く善逸に炭治郎は慌てて制止の声を上げる。体を揺らされてちょっと酔いそうだ。

 

「お、落ち着け善逸!」

 

これが落ち着いてられる?!!!私狙われてるんだよ?!!何もしてないのに!ただ生きてるだけなのにこんなのって有りですか神さま?!!本当恨むよぉー!!!

 

うわーん!!と泣き出す善逸に炭治郎は体を揺らされて軽く酔いながら俺が一緒にいるから大丈夫だと善逸を宥めた。

 

それでも泣き止まなかった善逸だったが騒ぎを聞き付けて急いでやって来た煉獄先生と宇髄先生や冨岡先生によってなんとか泣き止んだ。

教室の片付けは冨岡先生の対応によって生徒達の手で綺麗に片付いたが怯えて泣いてた女の子たちは早々に帰された。

 

炭治郎も遅くなると危ないという事で妹の禰豆子と共に煉獄先生が家まで送った。そして善逸はいうと、宇髄先生と帰る事となった。

 

善逸は赤くなった鼻をスンと鳴らしながら隣に立つ宇髄を見上げた。

 

「…何で輩先生なの…」 

 

本当見上げるにも苦労するんだけど…。

派手に文句あるのか?と宇髄が見下ろしてくるのに善逸はどうしてこうなったのか考えるのも嫌でただ地面を見つめる事しか出来なかった。

 

 

多分、続く…?

◆忘れられない(高土)

 

 

静寂に包まれた暗闇の部屋の中…押し殺したようなくぐもった小さな声が響く。

声を出すのを我慢してるからか時折苦しそうに息を吐き、零れ落ちた声が震えている。

 

部屋の中央にあるベットは膨らんでおり人が眠っている事が伺えるのだが些かその膨らみは大きくて一人の人が入っているようなものではない。ベットに眠っていたのは一人ではなく、二人。

 

高杉と、土方の二人だった。

二人は同棲をしていて今日もいつものように共に眠っていたのだけれど眠っている途中に土方が夢から覚めて涙が溢れて止まらなくなってしまった。

 

暗闇の中では深い蒼の瞳を見る事は叶わなずけれど暗闇のおかげで涙に濡れて赤くなった目を隠してくれた。            

思い出してしまった。あの時、限られた時間の中で最期に己のやるべき事を見つけ、自分の最期を知りながら迷いもなく突き進んで逝ったあの時の高杉の姿を…土方は夢見た。

 

どうしょうもなかった。

どうにも出来なかった…無力な己を呪っても高杉は過去奇跡的に生きてきたがその奇跡の数だけ…死んでいたのだ、何回も。

悪運強くも生き延びていたが最期の時は奇跡でも何でもなかった、限られた時間の中でやるべき事をやってのけて高杉は生に背中を向けた…。

 

人をも巻き込んだ数々のテロを起こしてきた生粋の悪党だったがそれにも理由があり、その理由には胸を締め付けられる。

悪党だったけれど、江戸が大変だった時にはその身を呈して江戸を救ってくれた…それだけで充分ではないのか。今まで辛い道を一人、共に戦った仲間を置いてまで心を偽り誰にも頼る事なく歩いてきたのだからもう良いんじゃないのか。

 

笑って、日の下を歩いて良いではないのか。

 

 

土方は過去を思い出して声を押し殺す。

隣の高杉を起こさないように身を小さくして枕が涙で冷たくなって頬を濡らすがそれを止める術を土方は今は知らなかった。

 

 すると、

 

 

「ッッ……」

 

震える身体を力強い腕が抱き締めた。

びくっと肩を跳ねさせる土方が目を凝らすと高杉がしっかりと目を開けて土方を見つめていた。

土方が何か言おうと口を開くけれど何も紡げず中途半端に口を開けたままそっと閉じる。

 

何と言えばいいのか分からなかった。

高杉はそんな土方に何も言わず濡れた頬を掌で覆い涙の跡を拭うとそのまま後頭部に手を滑らせて引き寄せた。

 

コツン、と額を付けて小さく息を吐く。

声を出さないようにと血が滲むまで噛み締められた唇にそっとキスして力を抜くようにと舌でなぞった。

はっ、と力を抜いた唇に続けてキスをすると土方の手が高杉の背に回りシワになる程キツくシャツを握り締められる。

 

「…た、かすぎ…」

 

まるで迷子の幼子のような声だ。

ふっと小さく笑って高杉は土方を更に強く抱き締める。いつの間にか身体の震えは止まっていたがまだ嗚咽が止まらない。

 

背中をテンポよく撫でながら高杉は腕の中に収まる恋人の事を可愛く思う。

 

何故泣いていたかなんて、大体予想は付く。

コイツが己の死の事で泣く訳がなかった。真選組の最期は天寿を全うして潔いと聞く。ならば、コイツが他に涙する理由なんて…自分しかいない。

 

自惚れではない。

土方は間違いなく自分の事を愛していたし、自分も土方を危ない橋を渡ってしまうまでには酷く愛していた…。

 

たがらあの時の自分の最期を悔やんでいる事は分かっていた。知っていた。

それでも自分はあれで良かったのだ。最後の最期で先生を守る事が出来た。先生を殺めてしまった悲しみの呪縛を背負った銀時をやっと開放させる事が出来た。

 

10年も掛かってしまったが…思い残す事もなく逝けた。ただひとつ、土方の隣で老いる事は叶わなかったがそれ以上に愛していたから満足だった。

 

もう、良いのだ。

忘れてしまえばいいのに、と高杉は思いながら自分を思って涙する土方が愛しくて愛しくて仕方ない…。

 

「…土方」

 

俺はここに、お前の前に居るだろう…?

 

高杉が涙が溢れそうな目尻に指を這わせると土方は頷いた。高杉が言わんとしてる事が暗に理解出来た。確かにやるせない気持ちでたくさんだけど今は目の前に高杉がいる。

 

それは紛れもない事実で確かな事。

土方は小さく笑って高杉にキスをした。それだけで、もう涙は止まった。

 

END

 

 

(仕事が繁忙期に入りましたのでこれから更新が遅くなります~😭💦でも月に3個くらいは上げられるようにします…。2018/5/22)

◆つき(高土♀)

 

教室に入って早々、高杉は顔をしかめると眉間にシワを寄せた。

 

教室にいる者はそんな高杉を気にするも怖くて誰も声を掛けられずそっと様子を窺っていると高杉は奥の席で机に腕を組んで顔を伏せて蹲る土方に近付いた。

 

「土方」

 

知る声が上からきて土方はそっと顔を横にずらすと目線だけを動かして高杉を見上げた。

その顔は悪く、傍目に見ても体調が悪いって事が分かり高杉がそっとその背中を優しく撫でるとホッとしたように表情が和らぐが顔色は良くなっていない。

 

「…立てるか?」

 

土方がこんなにも具合が悪い理由には何となく検討がついていた高杉はこのまま学校に居ても授業なんか聞いてられないのだろうと思い、帰ろうと促す。

 

言わんとしてることが分かったのか土方は小さく頷くとお腹に手を当てて上半身を起き上がらせる。

土方に代わり高杉がスクールバックに教科書や筆記具を入れると自分のカバンと一緒に肩にかける。立ち上がった土方の肩に自分のカーディガンを羽織らせて冷えないようにしてから肩を抱きそのまま教室を後にした。

 

その一部始終を見ていた者はえ、一体何が…?!と困惑していたという。

 

 

 

 

「薬は飲んだのか?」

「効かなかった…」

 

土方の歩くペースを歩を合わせながら高杉が問い掛けるとふるふると弱々しく首を左右に振って土方は効果がないと溢す。

 

そうか、と仕方なさそうに返すと高杉は更に土方を引き寄せて額に口づけた。

 

「帰ったら直ぐに暖めような」

 

ん、と土方は僅かに嬉しそうに笑みを浮かべる。確かにお腹は激痛ともいえる程に痛いがこんな時高杉はそれはもう周りが呆れる程に甘やかしてくれるのだ。

 

当たり前のように尽くされる側の高杉が土方の為だけにあれこれととことん尽くしてくれる。それだけで少し痛みが和らいだ気がした。

 

 

 

END

(生理痛って薬飲んでも効かないしホントにツラい…(泣)

◆いつからか(高土)

 

開け放たれた窓から風が入り込み頬を撫でて髪を優しく揺らす。

風に乗って僅かに花の香りが鼻を擽って春に咲き誇る花たちを感じられた。

 

10階建てのマンションの8階にある高杉の部屋に土方は今日も訪れていた。

窓から入る風が白いカーテンを揺らしバルコニーに置かれた寝転べられる椅子に寝転びながら高杉は外の景色を眺めていた。

その傍らに土方が椅子の縁に腰を下ろして同じように8階という高さから眺める街並みを見下ろす。

 

二人の間に特に会話はなかった。

それでもお互いから流れる空気は針積めたものでもなく気まずくもない。

ゆったりとした空気が二人を包み言葉がなくとも落ち着いてる事が分かる。

 

土方は高杉の傍に居るのが好きだった。

だから何もない時は高杉の傍でただ同じ空間で過ごすのが日常だった。

 

高杉は寡黙な男だ。

不良だなんだと言われているが此方がアクションを起こさない限り他人に関わろうとしない。だからといって他人を見下してる訳でもなく、自分以外どうでもいいと思ってる訳でもない。

その証拠に高杉を慕う鬼兵隊と名乗る河上万斉を筆頭に来島また子、武市変平太、岡田似蔵が騒いでる所を咎める事なく端から見たら分からないが長く高杉を見つめてきた土方には微笑ましそうに眺めている事に気付く。

 

人を惹き付ける不思議なカリスマ性をもつ高杉に土方は何時しか惹かれて気付くと傍にいた。

高杉の他にも周りを惹き付けるカリスマ性をもつ男は他にもいる。

その一人に坂田銀時が入る。死んだ魚のような目をしている男だが時に心に響く言葉を向けてくる。ちゃらんぽらんに見えて実は情に厚い男だと知れば人は知れず彼の周りに集まり何かあれば手を差し伸ばさずにはいられない程に人を惹き付ける。

 

桂も同様だ。普段はまるで天然のバカだがいざという時は頼りになる頭のキレは銀時や周りが頼る程に素晴らしい。彼に着いて行けば正しいと思わせられる。だから普段バカには関わらないようにしょうと桂を放っておくが桂の周りにも人は絶えない。

 

坂本もそうだしこの四人が集まると自然と周りもこの四人がいればと心強くなるものだった。けれどやはり土方は他の3人を凄いと思うけれど何故か抗えない引力に引き寄せられ高杉に惹かれた。

 

そして土方が隣にいることを高杉は快く受け入れた。何も言わない。けれど二人には分かっていた。

 

言わずとも目の奥を覗けば何を求めているのかお互いに分かった。それはお互いに欲していたから分かることだった。

いつの時代もこの想いが変わることはない。

 

「…高杉」

 

優しい表情で見返してくれる高杉を見下ろして土方はふわりと笑った。

ただ傍に居られる事がこんなにも胸を締め付ける程に嬉しいと、素直に思えたのはもう何度目か。

武骨だけれど細くて長い指がそっと頬に添えられるのを目を細めて享受する。その手に手を添えて甘えるようにスリッと目を閉じた。

フッと柔らかな笑みが高杉から聞こえると頬に添えられた手が後頭部に回り引き寄せられるので逆らわず従えば土方は寝転ぶ高杉の上に体を倒した。

 

土方の方が幾分か身長はあるが高杉の身体は逞しく完成されていて引き締まった筋肉を感じて土方は自分で確かめるように高杉の体にに触れた。

 

まだ冷たく感じられた風が二人重なった事で別け隔すものがなくなり体温を分け合い寒さが緩和した。

触れ合って戯れる時間が土方は好きだ。離れた距離があとは服だけが隔てるだけで見下ろすと隻眼が見つめ返す。

距離をなくして唇を触れ合わせれば二人の間に笑みが溢れて空気にそっと消える。

 

飽きることなく顔中に唇を落とせば高杉の手がくしゃりと土方の髪を優しく乱す。

啄むような口付けが次第に激しくなると二人の目の奥に隠しようもない欲望の炎が灯る。

二人はフッと笑い、高杉が土方の背中に手を回すと腹筋だけで起き上がり膝裏に手を添えるとそのまま抱き上げて椅子から立ち上がった。

 

高杉の首に腕を回して二人は目を合わせると軽く口付けをして寝室へと足を踏み出した。

二人を送り出すように風が吹きカーテンが揺れた。

 

 

 

END

 

即席だからちょっと自分でも意味わかりませんがただ二人が一緒にいる事がただ幸せ。

土方さんお誕生日おめでとうございます💕

◆変われたのは貴女の為(百合高土)

 

「十四乃ちゃんって可愛いよね~!」

「使ってる化粧品なにー?」

 

教室の窓際の後ろ、土方十四乃は周りをクラスの女子に囲まれながら質問責めに合っていた。猫のようにつり上がった蒼い目が透き通って輝き、深緑の髪が三つ編みに編まれ肩に綺麗に流されている。シミ一つない滑らかな肌に目も綾な姿を女子たちが羨ましそうに見つめている。

 

今日は高校の入学式でさっき式が終わって教室に戻り、先生が来るのを待っていたのだ。

 

生徒はみな、各々好きに過ごしていてグループで集まって喋ってる者がいればわざわざジャンプを持参して読み込んでいるものもいる。

ボーッとしてる奴もいれば、遠い他校から来てまだ友達がおらず寝てるフリして馴染めないのを誤魔化してるのもいた。

 

そんな今日の様子を土方は周りを囲む女子に当たり障りのない事を返しながらただ眺めていた。

 

今日来ねーのかよ…。

 

窓から見下ろせる正面出口を見て土方はムッスリとする。待ち人を待っているのだ。

学校は午前で終るからせっかく一緒にカフェを巡ろうと約束したのに、一緒に行こうと誘ったその相手が学校に来てない。

 

土方は拗ねたように黙り込むと女子たちがどうしたの?と聞いてくるが何でもないと返そうとしたらガラッと教室のドアが開けられ口を閉じた。

 

先生が戻ってくる5分前なのに今教室に入ってきたのは誰だ?と生徒の視線がドアに向くとそこには紫紺の髪を靡かせ、漆黒の長い睫毛が鋭い碧の瞳に陰影を落として妖しげな雰囲気を漂わせ左目は医療用の眼帯で隠す高杉の姿があった。

雪も騙す程の肌が紅い唇を際立たせ男子の視線を奪っている。

 

「高杉!」

 

土方が席を立ち上がって高杉に走り寄ると高杉は小さく笑みを浮かべた。

 

土方が待っていたのは高杉だった。

 高杉が来ると土方の席を囲んでた女子たちは直ぐ様自分の席へと戻り、高杉に視線を奪われていた男子はハッと我に返ると視線が合う前に目前の机を見つめた。

それに高杉がフンと嘲笑を浮かべると丁度戻ってきた先生の号令で二人は席に着いた。

ムッスリとしていた土方の表情はさっきと打って代わって少しホッとしたように見えた。

 

土方と高杉は元々仲なんて良くなかった。

何故なら今は周りが羨む程の大和撫子のように美しいと言われる土方だが昔は成人男性を横二人に並べられる幅をも取れる程にそれはもう太っていたのだ。 

 

人というのは自分と違うものに対しあれこれと比べるものだから自分と違い醜く太っている者をまるで悪者ようにからかい罵詈雑言を吐き付ける。

土方もそうで大のマヨネーズ好きが仇となって中学の頃には体重は200㎏をゆうに越えていた。

男子からは醜い豚だと罵られ、女子からはブス等と影口を言われてきた。

同じクラスだったからその中に高杉もいた。けれど高杉は影口を言うのではなく面と向かって「デブ」とハッキリと言ってきた。

 

土方は吃驚して目を見開いたが大人しく虐められるような性格ではなかったから直ぐに言い返し、騒ぎになる程の喧嘩をしたものだった。

 

それからだった。

顔を合わせては口喧嘩をし、時折殴り合いにもなった。高杉は顔が綺麗な割りには喧嘩っ早くてその慇懃無礼な不遜な態度が気に入らないと他校の男から絡まれるも返り討ちにしてしまう程だったから不良というレッテルを貼られた。

 

だから平和な学校生活を送りたい者は関わらないようにと高杉を避ける。

 

不良だから避けられる高杉と肥満体系なだけで虐められる土方は次第に話す事が多くなった。それも高杉が土方によく突っ掛かるからだ。

口を開けばデブと言われる土方もうるせぇよチビ!と言い返すのが二人の日常となった頃、土方への虐めがエスカレートして体育の授業を終えた土方が教室に戻ると制服が見るも無惨に鋏で切られておりとてもではないが着られるようなものじゃなくなっていた。

 

絶句する土方をクラスの者がクスクスと後ろで笑みを浮かべているのをカッとなって殴りたかったがその衝動を抑えて土方は教室を飛び出して走った。

教室を出る際に遅刻してきた高杉にぶつかり高杉がよろめいたが涙を浮かべる土方を見て大きく目を見開いた。

 

声を掛ける間もなく土方は走り去って高杉が一体何だ?と訝しんで教室の中に入ると土方の机に置かれた無惨な姿の制服を見下ろして合点がいった。

 

ブスが泣いてたね、と面白がる奴らを高杉は近くにあった机を蹴り倒して睨み付ける。

その鋭い視線に教室がシーンと静まり返ると高杉はてめェら覚えてろよ?と低い声で脅し教室を後にして土方を追った。

 

 土方を探して走ってた高杉は土方の行きそうな所を片っ端から足を運んで校舎の裏庭を見てみるとそこにはしゃがみ込む土方をやっと見つけることが出来た。

 

そっと近付いて同じようにしゃがみ込むと土方は眉間にシワを寄せて怖い顔をしていてさっきは涙を浮かべてたから泣いていると思っていた高杉は内心ホッとした。どうやら悔し涙のようだ。

 

俯く土方の頭をポンと撫で、高杉はおいデブ。と切り出すのに青筋を浮かべる土方だったが構わず続けて高杉は痩せるぞ、と真顔で告げた。

 

勿論土方はキョトンと間の抜けた顔をしては?と困惑したが高杉はあんな奴らをさっさと見返せよ、てめェは今デブだけど可愛いンだから。と続けられて土方は反応に困った。

顔を合わせれば口喧嘩をしてきた高杉がここにきて可愛いって何だよ、と訳分かんなくなったのだ。 

 

戸惑う土方を構うことなくその事件があって高杉は土方が痩せる為にダイエットに付き合った。

 

クラスの者は高杉が牽制した日から恐れて土方に手を出さなくなり快適に過ごす事が出来た。

先ずは大好きなマヨネーズを目的の体重まで落とせるまでは絶えて過度にならないように食事制限を設けて毎日3時間の運動とストレッチを行った。これが肥満体系には辛くて弱音を吐く度に高杉が土方を励ました。(励ますというには辛辣な言葉ばかりだったが)

 

 体に良さそうなものと体脂肪率を下げるレシピを高杉がわざわざ調べてノートにまとめてくれたり、時間があれば休みの日でもダイエットに付き合ってくれる高杉に何度か何でこんなにまでしてくれんだよ、と問い掛けたが高杉は必ずいつもお前は可愛いよ、としか言わない。

 

答えにもなってないが土方は一人じゃここまで徹底的に出来なかったかもしれないから手伝ってくれる高杉に感謝した。

マヨネーズが食べれなくてイライラして高杉とよく衝突もしたが売り言葉に買い言葉で喧嘩腰にそのまま次のトレーニングについて考案してしまうからまともに喧嘩にもならなかった。

そのおかげで口を聞かなくなるなんて事にはならなかったから今思うと可笑しい光景だったろうなと土方は笑う。

 

そんなある日、高杉の家の脱衣室でかなり痩せてきた土方が久しぶりに体重計に乗ってみると高杉の手助けの甲斐もあってなんとか1年と半年で60㎏までに減量する事に成功していた。

 出された数字を見て土方が涙ながらに嬉しがっていると目の前にいた高杉がやっとだな…と溢し土方を抱き締めた。

 

驚く土方を抱き締めたまま脱衣室を出るとリビングのソファに腰を下ろして目を閉じる。高杉の腕から抜け出そうとしたが以前は太っていたから密着しても肩が触れるだけで高杉の腕が背中に回ってぎゅっとされるのも、頬に柔らかい双方が触れる事もなかったから初めて触れる温もりに土方は思わず大人しくなる。

暖かい…。

 

大きな腹で腕が伸ばせず高杉を抱き締めるなんて出来なかったが今はつっかえるものもないし土方はおずおずと高杉の背中に腕を回して抱き返した。

 

この瞬間に土方は高杉が好きなのだと自覚した。

 

 

 

 ***

 

 

 

 まだ続きます!

後程書き足して更新します😅

取り合えず土方さん誕生日おめでとうー!!